EURO 2004 SPECIAL #03. やがて哀しきフェルナンド


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2004.06.29.Tue. 13: 15 p.m.
BGM : PFM "CHOCOLATE KINGS"

 ようやく午前中にサッカーを観る必要がない日が訪れたので、近所のクリニックで区民健診というやつを受けた。40歳になると、役所からそういうものを受けるようにとのお達しが来るのである。フリーになってから受けた記憶がないので、たぶん14年ぶりの健康診断だ。いや、これは「健康診査」というのか。「審査」なら知っているが「診査」という言葉はあまり見かけないような気がする。ちなみにATOKは「しんさ」を「診査」と変換してくれたが、岩波国語辞典(第四版)にもgoo辞書にも「診査」は載っていない。どうして「診断」ではなく、わざわざこんな見慣れない言葉を使わなければいけないんだろう。「診断」だと「断定」するようなニュアンスがあって、何事も白黒はっきりさせたくない役所の無責任体質にそぐわないのだろうか。そこで試しに「健康診査と健康診断の違い」でぐぐってみたら2件ヒットしたのだが、どちらも『新・小児保健』という本の目次にそういう項目があるだけで、健康診査と健康診断の違いについては書かれていなかった。残念。ならばと思って順番を逆にしてみたのだが、「健康診断と健康診査の違い」だと該当するページが見つかりません。いずれこのページが引っかかることになるのか。それで来た人のために言っておくと、悪いが私もわからないのだ。なので、あなたが『新・小児保健』を読んで私に教えてください。

 ともあれ健診だ。検尿用の放尿を済ませてから診察室に入ると、先生が何やら私の腕に巻き付けようとするので、「いやいや私にはリーダーシップってものが皆無ですから」と固辞しようと思ったのだが、それはキャプテンマークではなく血圧を測る道具なのだった。しゅぽしゅぽと空気を入れると、その腕に巻かれたモノが膨らんで私の腕を圧迫する。そんなことをしたら血圧がふだんより上がってしまうではないかと心配になった。なにしろ近頃の医者はちょっと血圧が高いだけで薬をバンバン出すらしいから油断は禁物だ。煙草もやめろと言われるに決まっている。しかし診査の結果、「血圧はまったく問題ありませんね」とのことだった。おお! まったく問題がない! まったく問題がない! すばらしいじゃないか! ああ、なんて健やかな私の血圧! 私は血圧に問題のない男なのだ!

 次に血を採られた。注射器でだ。何年ぶりの注射だろうか。怖かった。だが40歳の男が注射を厭がる素振りを見せてはいけない。あくまでも慣れた様子で、さりげなく、たとえば宅配便の伝票に受け取りのサインをするような風情で注射されるのが大人というものだ。でも、ダメだった。消毒液か何かで腕を拭かれ、「手をグーにして握ってください」と言われたところで全身が守備的に固まってしまう。針が刺さった瞬間、「くっ」と声を漏らしてしまった。受診態度や精神力は診査の対象にならないだろうとは思うが、そこはかとない敗北感があった。

 続いて胸部のレントゲン撮影が行われ、最後は健診のハイライトとも言える心電図だ。靴下を脱ぎ、上半身裸になってベッドに仰向けになると、両手首と両足首に何やらクリップのようなモノが取り付けられる。あまり穏やかな扱われ方とは言えない。外見上は明らかに「囚われの身」である。『ルパン3世』の、あれは最初のアニメシリーズだったか、その第1回でカラダをこちょこちょされていた峰不二子の姿を思い出し、そこはかとない屈辱感が芽生えた。胸にベタベタと白いモノが塗られ、数個の吸盤がつけられると、いよいよ心電図のスタートだ。ちょっとワクワクした。これから私の心臓の動きがじっくりと観察されるのである。ピッ……ピッ……っという規則的な発信音だけが響く静かな部屋の中で淡々と記録される私の心臓の動き。何やら詩的な光景ではないか。こういうときは何か瞑想でもしながら時を過ごすってもんだよな、ポルトガル×イングランドのことなんか思い出してると心拍が乱れるから気をつけたほうがいいよ、うんうん、しかし何を瞑想すればいいかな……などと考え始めたら「はい、結構です」って言うんだからあっけないじゃないか。ほんの1分ぐらいだっただろうか。準備が大袈裟なわりにデータ取る時間が短すぎないか心電図。そんなことで私の心臓の何がわかるというのだ。

 靴下を履き、シャツを着て、検便用の容器をもらっておしまい。なんだ、それ持ってまた行かなきゃいけないのか。診査結果が出るのはそれからまた数日後とのことで、面倒臭いものである。ところで、この注射した部位に貼られた絆創膏をいつ剥がせばいいのか訊くのを忘れた。そういうどうでもいいことが気になる性格。




2004.06.28.Mon. 12: 50 p.m.
BGM : ERIC CLAPTON "MONEY AND CIGARETTES"

●スウェーデン×オランダ(準々決勝)
 なんとなく、こんなゲームになりそうな予感がなかったわけではない。チェコの2軍にさえ勝てないドイツに負けそうだったオランダがスウェーデン守備陣を圧倒できるとは思えなかったし、スウェーデンはラーションに尻すぼみ感がある上に左SB(エドマンだったっけ?)の欠場がかなり痛いように思われた。それに、イブラヒモビッチよりスタムのほうが強そうだ。というわけで、観ていて不完全燃焼な0-0。とっても欲求不満。あとでTBSの振り返り番組を見たら、同局の中継では実況アナが「この0-0は面白い!」と絶叫していたようだが、そうかなぁ。シュートがクロスバーやポストを叩くシーンは多かったし、紙一重の勝負だったのはたしかだと思うけれど、なんだか興奮できなかった。すべてがPK戦に向けて進んでいるように思えて仕方なかったのである。「ヤだヤだPK戦だけはヤだ」というオランダの思いが、逆に反復強迫のような症状を招いてしまったのではないか。とくにダビッツを引っ込めて以降のオランダは何がしたいんだかさっぱりわからず、「おまえらそんなにPKが蹴りたいか」と罵りたくなるような有り様だった。何にしろ私は、ダビッツを使い切らずクライファートを使わないオランダに対しては冷淡な気持ちにならざるを得ない。嗚呼、クライファート。ビエリはフィールドで伸びきっていたが、クライファートはベンチで伸びきっていた。そんなに背筋伸ばして座ってるんじゃないっ。少しは前のめりになったらどうだ。

 私はオランダが、実はPKの秘密練習を積んできたのではないかと疑っている。というか、過去にあれだけPK戦で苦杯をなめているのだから、練習しないほうがどうかしているというものだろう。だから、本当は自信があった。自信があったから、無理に攻めなかった。「PK戦だけはヤだ」は、敵を油断させるための(きわめて稚拙な)ブラフだったのかもしれない。そんなふうに思いたくなるぐらい、オランダのキッカーは妙に落ち着いていた。だいたい、あんなにデカいGKがいるのに今までPK戦で勝てなかったことのほうがおかしい。なにしろファン・デルサールという人は、中央に立って左右にバタンと倒れるだけでゴールマウスの85%をカバーできるという、クルマのワイパーみたいなGKなのだ。イブラヒモビッチの失敗も、そのデカさに圧倒されたせいだろう。私は自分がわりと背の高いほうなのでわかるのだが、デカい人間というのは自分よりデカい人間を前にするとうろたえるものだ。目線を上げて人の顔を見ることに慣れていないからである。野球でも、長身投手を相手にすると打者のアゴが上がってスイングが乱れるという。イブラヒモビッチもそうだったに違いない。アドフォカートが「延長後半にヴェスタフェルト投入」という秘策を実行していたら、むしろ裏目に出ていたことだろう。

 それにしても、こんなオランダ(まだラトビアから一勝を挙げただけのオランダ&ある意味イタリアみたいなオランダ)が優勝するようなことがあってよいのだろうか。一昨日「どこが優勝しても悔しくない」などと書いたが、ちょっとなぁ。準決勝では、ポルトガルのファイティング・スピリットがオランダ本来の美しさを引き出して激闘が繰り広げられることを期待したい。コウトとクライファートの一騎打ちも見たい。本気で言ってるのかどうか、われながらよくわからない。


●チェコ×デンマーク(準々決勝)
 前半はデンマーク。「春はあけぼの」と同じタイプのウナギ文ですね。やうやう赤くなりゆく中盤少し明りて、1〜2タッチたるパスの細かくたなびきたるもいとをかし。あまり出来の良いパロディになりそうもないのでもうやめるが、デンマークはイタリア戦と同等かそれ以上に見栄えの良いサッカーができていたように思う。しかし考えてみると、そのイタリア戦でもゴールは奪えてなかったんだった。おまけにトマソンの1トップでは、ゴール前の仕上げが淡泊になるのもしょうがない。あるいは、逆転大好きなチェコを相手に早めに先制するのが怖かったか。しかしチェコのほうは、ハーフタイムに監督が「ぼちぼち行こか」と言ったかどうかは知らないが、後半になるとPL学園から天理高校に変身していた。常にスコアリング・ポジションにランナーを背負いながら悪戦苦闘していた前半がウソのような集中打。大砲コレルの一発を皮切りに、バロシュとポボルスキーの機動力を生かしながら、打者一巡の猛攻で65分ぐらいまでに3-0である。びっくりしたなぁもう。あとはダラダラ。たしかW杯のイングランド戦も同じスコアだったと記憶しているが、デンマーク人はわりかし粘りがない。グループCのスペクトラムな2チームが敗退してしまってガッカリだ。枠連馬券を買わなくてよかった。

 それより、準々決勝が進むごとに大会のテンションが下がっていくように感じるのは私だけだろうか。こっちが観戦に疲れてきたせいでしょうかね。準決勝の前に小休止があるのはありがたい。気持ちを立て直して残り3試合に臨むことにしよう。というか、六本木で頼まれた仕事をしないといけない。来月の仕事の準備もしないといけない。幻想的な日々には必ず終わりが訪れ、現実は間違いなくやって来る。祭りって寂しい。




2004.06.26.Sat. 24: 10 a.m.
BGM : ERIC CLAPTON "UNPLUGGED"

●フランス×ギリシャ(準々決勝)
 グループリーグの三試合、どちらも私が(動機は正反対だが)「負けろ負けろ」と思いながら見ていたチーム同士の対戦である。しかし基本的にニュートラルな態度ではサッカーを観ない(というか観られない)のが私のスタイルなのであって、そうであれば当然この試合で肩入れするのはギリシャである。やってみろギリシャ。王者をぐずぐずにしてみやがれってんだ。

 そういう態度で見てみると、これまでとくに興味の湧かなかったギリシャのサッカーがとても魅力的に感じられるから不思議である。過去三試合も、彼らはあんなに丁寧なサッカーをしていたのだろうか。すみません、よく見てませんでした。熱心に担当する顧客に張り付き、ひとたびボールを奪えば報・連・相を欠かさずに一つ一つ指さし確認をしながら素早く前線に送り届けるその姿からは、職務へのひたむきな忠誠心といったようなものが伝わってきた。しかも全員が球際に強い。11人の高木守道軍団、とでも言えばいいだろうか。W杯の準決勝ブラジル戦におけるトルコがそうだったが、肩入れしているチームが球際の強さを見せてくれるのはとても気分のいいものだ。

 だが、そんなギリシャが一瞬だけ油断した場面があった。たしか後半5分から6分頃だったと思う。前半の45分間を0-0でしのいだ彼らは、ほんの少しだけフランスをナメてかかりそうになったのかもしれない。大きくクリアすれば済む場面で、ディフェンダーが5メートルほど前にいた味方の選手にパスをつなごうとしたのである。ところが、これがマケレレさんに奪われて一転ピンチに。結果論に聞こえるだろうとは思うが、私はここが勝負の分かれ目になるような気がしてならなかった。眠っていたフランスが「ナメてんじゃねえぞゴルァ」とばかりに獰猛さを炸裂させてゴールすればギリシャの大敗、逆にここを耐えればアップセットへの道が大きく開ける、と感じたのだ。

 しかしフランスは、その程度のきっかけではセルフイメージを立て直せないほど自らを過小評価していたように見えた。そしてギリシャはそれ以降、丁寧さを忘れることがなかったのである。

 そのギリシャとくらべて、フランス守備陣の仕事はいかにも杜撰だった。リザラズの軽率、シルベストルの怠慢。キャプテンを務めるギリシャのフィーゴ(どうして私は名前が覚えられないんだろう)はやすやすとリザラズを後方へ置き去りにし、ドリブルにしくじってボールを長めに転がしてしまったにもかかわらず距離を詰めてこないシルベストルの圧力をいっさい受けずに、完璧なクロスを放り込んだ。どんな弱小国の選手であれ、プロのサイドアタッカーにあれだけの時間と空間を与えれば決定的なクロスは入る。あんなに遠くで四股を踏んでいたシルベストルはパンカロ以下だと断言してしまおう。

 選手を入れ替えて以降のフランスはさすがの獰猛さを見せてはいたが、この日のアンリはどこかチューニングが狂っていたのかもしれない。体内方位磁石のネジがほんの少し緩んでいたような感じでしょうか。驚くべき体力と集中力を見せたギリシャが0-1でベスト4進出。負けてみれば「今回のフランスはこんなもの」と言いたくもなるものの、何だかんだ言いながら「終わってみればフランス連覇かよオイ」という予感が振り払えずにいたので、フランスのファンにはたいへん申し訳ないが私はすごく嬉しい。もう、どこが優勝しても悔しくないような気がする。




2004.06.25.Fri. 15: 05 p.m.
BGM : ERIC CLAPTON "PILGRIM"

●ポルトガル×イングランド(準々決勝)
 朝8時半からビデオ観戦。GKリカルドのPKを見てから小一時間が経ったが、三時間リキみっぱなしだったせいか、まだ放心状態から抜け出せない。くたびれました。なんという試合だろうか。

 キックオフからわずか三分後、GKジェイムズのロングフィード一発でイングランド先制。コスティーニャが頭で後方にすらしたボールをかっさらったオーウェンの、魔法使いのようなシュートだった。ラミパスラミパスルルルルル。くるりと反転した体のまわりに、キラキラとお星様が飛んでいるように見えた。しかしポルトガルにとってラッキーだったのは、失点が早い時間帯だったことと、ルーニーの故障である。エリクソンにとっても、これほど早い先制はある意味で誤算だったのではないか。フランス戦の失敗を考えると守ってばかりもいられないわけだが、頼みのルーニーがアウトしてしまったとなると攻め手に欠ける。結果、そこから始まったのはポルトガルのシュート乱射ショウであった。

 それはまさに「乱射」だったのであって、撃っても撃っても枠の外。遠目から放つシュートはいちいち抑えが効いていない。ゴール前を固めて、ペナルティエリア内では決して相手に前を向かせないイングランドの守りもしぶとかった。何より鬱陶しかったのはアシュリー・コールだ。一度でいいからクリスチャーノ・ロナウドがコールの股を抜き、「オレ〜」とホザくことができれば流れは一変するに違いないと思っていたが、アーセナルの左SBはユナイテッドの若僧を見事にシャットアウトしていた。頭に来る男だ。

 流れを変えたのはフェリペだった。うろ覚えなので間違っているかもしれないが、コスティーニャに替えてシモン、フィーゴに替えてポスティガを投入。このゲームでフィーゴを引っ込めるのは蛮勇と言ってよかろう。これで負けたら何を言われるかわからない。外国人監督ならではの決断とも言えるかもしれないが、ギリシャ戦後のメンバーチェンジといい、この試合の選手起用といい、とてつもない勝負師だと思う。中継では「激情家」と紹介されていたが、違うと思う。たしかにアクションは派手だが、フェリペの目はいつだってクールだ。面白いのは、フィーゴを下げてしばらく経ってから、ルイ・コスタを投入したことである。キャプテンシーの重みを考えると、どうせルイ・コスタを使うなら、「フィーゴ→ルイ・コスタ」の交換にする手もあったはずだ。しかし私はフェリペが、あえて「黄金世代不在の時間帯」を作ったように思えてならない。そこには「おまえらがやるんだ」という若いモンへのメッセージが込められていたのではないかと見るのは、浪花節にすぎるだろうか。

 ともあれこのあたりが、どうしても最後はビエリを使って自滅してしまうトラパットーニみたいなブランド信奉者と実学者フェリペの違うところである。しかも途中で投入した三人で2ゴールを奪うのだから驚く。83分、シモンのクロスをポスティガが頭で決めて1-1。興奮した。そんなFWがいるならもっと早く使わんか、とも思った。さらに延長後半、鮮やかなステップで敵をかわしたルイ・コスタが(イングランドを除く)全世界を感動の渦に巻き込む。どう形容していいかわからないが、とりあえず、炎のミドルシュートとでも言っておこう。震えた。信じる者は救われる、とも思った。最高の技術と最高の精神力が最高のレベルで融合した瞬間だった。

 だが試合は終わらない。終わってほしくないときにはあっさり終わり、終わってほしいときには終わらないのがサッカーの辛いところだ。スコールズとジェラードを引っ込めたエリクソンは、明らかにしくじっていた。事実、ポスティガの同点ゴールの後には、あからさまに取り乱して「しまった」という表情を見せていた。あんなエリクソンの姿はこれまで見たことがない。しかし、そんなこととは無関係にゴールが決まることもあるのがサッカーだ。決めたのがチェルシーの選手だったのが私にとってはせめてもの救いだったが、CKからランパードが見事な反転シュートで2-2。PK戦である。嗚呼。

 どこから湧いて出てきたのか、ポルトガルのPK戦はなぜかエウゼビオさんが仕切っているように見えた。GKリカルドに何やら耳打ちをし、ベンチにどっかり腰を下ろす。自分で蹴りに行くんじゃないかと思ったほどだ。エウゼビオさんって、かなり面白い。しかしもっと面白かったのは、イングランドの一人目として登場したベッカムである。この緊迫した局面でそんなに笑わせないでほしい。あれほど人を茫然とさせるPK失敗がかつてあっただろうか。ゴールの上にもう一つゴールがあっても入らなかったであろう。しかしポルトガルのほうも、炎のゴールで燃え尽きていたルイ・コスタが失敗して4-4。サドンデスに突入。

 7人目のバッセルを素手で(!)止め、直後に自らPKを決めたGKリカルドは、もちろんえらい。ものすごく、えらい。だが私がもっと感心したのは、ポルトガルの6人目ポスティガだった。外せば敗退の場面で、超ゆるゆるキック。誰にでもできることではない。ゆるキックを得意にしている(つまり人をコケにするのが大好きな)トッティだって、あの場面では強く蹴るだろう。ボールがゴールラインの手前で止まってしまうのではないかと冷や冷やするぐらいのキックだった。あるいはGKジェームズが諦めずに戻ったら止められたかもしれない。しかし、あそこでポスティガが見せた余裕が味方をリラックスさせ、敵にプレッシャーをもたらしたのではないか。笑顔でポスティガに拍手を送るデコの表情を見て、そんなふうに思った。

 準決勝進出を決めるキックをゴール左隅に流し込み、興奮して走り出したリカルドの姿が印象的だった。たぶん、ゴールパフォーマンスなんてやったことがないのだろう。どうしていいかわからない様子で振り返り、仲間が後ろから押し寄せてくるのを待っていた。おめでとう。おめでとう。次はコウトに出番があるといいな。


●チェコ×ドイツ(グループD)
 話は前後するし、もはやどうでもいい試合なので今さら書くのは面倒臭いのだが、PLチェコ学園が3戦連続逆転勝利である。どうなってんだ、あいつら。ドイツはものすごくつまらなかった。今まで私はドイツのサッカーが世間でとやかく言われるほどつまらないとは思っていなかったが、今回のドイツは本当につまらなかったのである。ヤンカーみたいなドイツドイツした面構えの奴でもいないと、物足りなくていけない。だいたい、カーンの覇気のなさと言ったらどうだ。レーマンでも使ったほうがまだマシな結果になったのではないかと思うぐらいである。

 ところで、グループリーグで姿を消した強豪国(スペイン・イタリア・ドイツ)の共通点は何かと考えるに、一つは選手がほぼ全員自国リーグでプレイしていること、もう一つは監督が自国人であること、だ。それだけで敗退の原因を語れるほど簡単なものではないと思うけれど、三カ国とも、なんかこう、引きこもり的な煮詰まり感が漂っていたことは否めない。ギリシャやポルトガルの成功(ベスト4まで行きゃ最低限の成功と言ってよかろう)を見るにつけ、とりわけ「外国人監督」というのはナショナルチームの変革に有効な「爆牌」になるのだと思わざるを得ないのだった。でも、あの三カ国を外国人監督が率いている風景って、ちょっと想像しにくい。


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