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第25回
ワイルドマン・フィッシャー
推薦盤「An Evening With Wild Man Fischer」

 フランク・ザッパという人は、語られている以上にとんでもない奇才であるし、実は彼の存在なくしては現在のロックだとかポピュラーミュージックなんて存在しないほどである。極端な話、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもカンも、悪く言えばザッパのパクリでしかない。新しいことなんかは、何十年も前にザッパがとっくにやっていることでしかなかったりする。凄すぎて一部の人にしか理解されていないというのが正しいかもしれない。私は別にザッパ狂でもなければ、ザッパ崇拝者でもないが、「オレたちは金のためにロックをやっている」と語ったフィルムをテレビのドキュメンタリー番組で見た時、心底かっこいいと思った。ま、その程度である。ちなみに自分ではザッパのLPもCDも1枚も持っていない。
 

 そんなザッパが60年代末に自らプロデュースし、自身のレーベル・ビザーレから2枚組LPでデビューさせたのが、LAのストリート・シンガー/ワイルドマン・フィッシャーである。このLPは今ではレアな珍盤として扱われることが多く、ザッパ死去後は未亡人をして「これはザッパのpoor workである」として、再発はまず望めない作品。つまりは、まあ、このラリー"ワイルドマン"フィッシャーは、偏執狂躁病のうた歌いでしかないということだ。サンセット・ブルーバードでクオーターとかダイムとかで1曲歌っていたという、本当のストリートシンガー。そしてアカペラ。曲は全てオリジナル。言葉は稚拙だから、中学生程度の英語力があれば日本人でも何を言っているのかすぐわかる。そして、その歌も内容も、1回聞けば一生忘れないことは請け合いの、そして聞けば絶対に笑い出すこと必至の、超強力・壮絶・悶絶の絶唱が、延々と続く。
 

 このアルバムは入手が難しいが、70年代から90年代にかけてライノ・レコードから「ワイルドマニア」「プロナウンスド・ノーマル(オレは正常だ)」「ナッシング・スケアリー(なんにもこわくないよ)」という3枚のLPを発表、海賊版だがスメグマとのセッションLPなども発売されており、このあたりはそんなにプレミアがついていないので熱心にさがせば見つかるかもしれない。ライノの3作品とEPや未発表を加えた2枚組CDも限定盤ながら発売されている。
 

 そう、言うならば「ひとり・ほぶらきん」か。その豪快な馬鹿っぽさ、明るいや笑いが度を超すと狂気に至る凄まじさ、マシンガンのように連発される歌・歌・歌。かつて、病気風、狂気風、いかにも暗いです、なんていう、意味ありげなやつらやヘタウマ、ヘタウマ以下、狂っていることをかっこいいと思っているマヌケか沢山いたし、今でも沢山いるが、そんな連中はワイルドマン・フィッシャーの足下にも及ばない。
 

 弊社発売の第五列のCDや、古くはアルケミーの最初期作品「オリジナル・ウルトラビデ」にも、ワイルドマン・フィッシャーのカヴァーが収録されている。いや、ワイルドマン・フィッシャーの影響下に自分がいるとは思いたくないが、そう言えば私も小学校の時はわけのわからんマンガを大量に描いてクラスの連中に読ませまくってヒンシュクをうけ、学生になっても購読料もとらずに自作のミニコミを地方の趣味誌マニアにガンガン送りつけていたり、演劇だ小説だ音楽だと、とにもかくにもヤリまくっていたことを思い出す。あのパワーはどこにいったんだ。ん?アルケミーで今現在やっていることもたいしてかわりないか?いやいや、オレもワイルドマン・フィッシャーの足下にも及ばない。ねえ、キンノさん!?
 

JOJO広重 2001.9.27.



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