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第50回
ディープ・パープル
推薦盤「MADE IN EUROPE」

 ディープ・パープルというと、私は「野性の驚異」というニックネームを持っていた、78年から82年くらいまで友人だった、チャーミングな女性を思い出す。やはり1970年代末頃に京都のどらっぐすとうあで知り合った、強烈に個性的な同世代の女の子だったこの娘は、プログレからフリージャズまで聞きこなすオールラウンドな耳の持ち主で、やはり個性派ぞろいのどらっぐすとうあでも際立った存在だった。第五列でも常連で、非常階段初期のメンバーと連んでは酒を飲み、男どもと同じように、いやそれ以上に暴れまくってていたのを覚えている。野性の驚異という別名はウソではなかったのである。私は彼女と第五列の中で『ディープ・パープリン』というバカな名前のユニットを結成して、けっこうな量の音源を残しているはずだが、さてそんな録音テープは何処にいったんだろう。いや、このまま紛失したままのほうが良いものであったに違いない。
 

 さて、このユニット命名の由来は、この野性の驚異さんがディープ・パープルの熱心なリスナーであったことが原因である。70年代ハードロックシーンにその名を轟かしたこの英国のロックバンドの音を、まるで聞いていないロック好きなんていうのは、当時存在しなかった。結成は1967年であるから、ロック黎明期からのベテランであったわけで、好む好まぬ関係なしに、日本のリスナーの耳に入って当然のことだったのだろう。私が最初に聞いたディープ・パープルの音源は、たぶん姉が買ってきた「ブラックナイト」のEPか、五屋くんという友人が持っていた「イン・ロック」というアルバムだったと思う。当然何度も聞いているうちに飽きてきて、ボーカリストがイアン・ギランからデビッド・カヴァーディールに代わってからは熱心に聞かなかった。興味はプログレッシブロックに移っていたからである。
 

 しかし発売してすぐには聞かないものの、ラジオとかロック喫茶に行った時などには、ディープ・パープルの新しい作品を耳にした。この「メイド・イン・ヨーロッパ」も最初は「ライブ・イン・パリ」という邦題で、河原町今出川の近くにあったロック喫茶・ニコニコ亭で聞いたのが最初だと思う。
 

 そして、この作品が凄くヘンなアルバムであることに気がついた。まず、ジャケットがヘンである。ディープ・パープルのアルバムのジャケットはどれもこれもセンスが悲惨であるが、このアルバムもなんだかよくわからない。銀メタリックなジャケットの銀の部分がやたら広くて、どうしてバンドのライブ写真をもっと大きく使用しないのか不思議だった。さらに写真がまたヘンである。客席が映っているのだが、最前列からして全員が普通に座っている。ロックコンサートのノリなどまるで無関係のように、まるで平凡な映画を見ている客席のように冷静な雰囲気である。しかしステージは燃え上がるようなライティングとスモークで異常にエキサイティングである。それでいて、ベーシスト以外はすべて後ろ姿しか映っていない。つまりいったい何をとろうとしていたのか、それがまるでわからない写真なのだ!そう、なにか銀色のテレビ画面に、地獄の炎と、順番を待つ亡者の群が描かれているような、そしてそれを自分が覗いているような、ヘンなヘンな気持ちになってくる。こんなジャケットは、このアルバムしか、世界に二つとないだろう。
 

 サウンドは、リッチー・ブラックモアが脱退寸前の欧州ツアーの録音のようだが、正確にどのテイクがどこの録音であるのかは掲載されていない。リッチーの演奏もまるでやる気のないような気怠い部分と、鬼神のように弾きまくる場面もあって、これまた不可思議である。1曲目の「BURN」からして、ギャーン!と盛り上げておきながら、いきなりリッチーのギターが拍子抜けのような演奏を始めるのだ。2曲目の「MISTREATED」はこのアルバムの白眉で、ほかの「MISTREATED」のスタジオ録音・ライブ録音・レインボーでのライブ録音と比較しても、このアルバムでの録音テイクが最も気怠くて、聞いていて気持ちがハマっていく。LPだと、B面にはなんと2曲しか収録されておらず、その1曲の「YOU FOOL NO ONE」は17分近くもあるのであるが、その冗長な感じがまたなんとも言えず、気怠い。アルバム最後の「STORMBRINGER」がまたダサいフレージングだけに締まらず、聞き終えた後になんとも虚しい気持ちが残る。この空虚感はいったい何なんだ。
 

 ディープ・パープルでどのアルバムが好きか訊ねらると、私はこの「MADE IN EUROPE」と、リッチーが抜けたあとにトミー・ボーリンが加入したスタジオ盤の「COME TASTE THE BAND」の2枚を上げる。そう言うとたいがいの質問者は「広重さんは変わってますね」と言う。そう言われると「お前は誰に何を訊いておるのだ」という気持ちになるのである。最近、トミー・ボーリンでの来日公演盤「ラスト・コンサート・イン・ジャパン」の完全版である2枚組CD「THIS TIME AROUND」を入手してご満悦なのに。このアルバムがまた、そこはかとなく、気怠くて気怠くて.....。
 

JOJO広重 2002.11.15.



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