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第51回
井上堯之
推薦盤「WATER MIND」

 もちろん最初に驚きと興奮の目で見たテレビ番組は、「ウルトラQ」の『SOS富士山』(昭和41年2月13日放映)で、私が6才のことである。同じくTBSキー局の「丹下左膳」を毎週の楽しみに見ていた私が、その放映前にテレビを早めにつけていたら飛び込んできたのが怪獣ゴルゴスの映像だったわけで、それからは片目片腕のニヒルな丹下左膳よりも、怪獣のほうに夢中になってしまった。その後のウルトラシリーズはたいがいオンタイムで見たが、昭和43年から44年にかけて放映された「怪奇大作戦」に決定的にハマってからは、どこか悲しい結末のストーリーに惹かれることになる。以前にも書いたが、GS狂の姉を持った都合上、沢田研二や萩原健一出演のテレビドラマや映画は、家にテレビが1台しかない以上、絶対的に視聴するわけで、1974年から放映された「傷だらけの天使」はこっちも中学生になっていた以上、元GSという冠を捨てて、生々しいショーケンや水谷豊、岸田森の姿をテレビ画面で見ながら、フィクション以上にリアルな存在として受け止めていたのは間違いない。
 

 どこかで映像に関するコラムを執筆するつもりなので、この時代を疾走したテレビ作品の内容については今回はふれないが、この「傷だらけの天使」最終回の挿入歌に使用された「I STAND ALONE(一人)」は、そのあまりにも哀しい映像にマッチして、15才の青いガキの脳髄に堪えたのは間違いない。ふと気がつけば、この作品は、やはり姉が愛してやまなかったザ・タイガースの岸部修三作詞、ザ・スパイダースやPYGでギターを弾いていた井上堯之作曲のものでではないか。
 

 そういえば、と姉のレコード棚を勝手にのぞいてみると、そこにあったのは、鼻を押しすぎてもうブーブーと音が出なくなったPYGのファーストアルバム。そこにこの「I STAND ALONE(一人)」はなかったが、同じく岸部/井上の作である「花・太陽・雨」を再発見。これまた小学生の時に見たテレビ番組「帰ってきたウルトラマン」の『許されざる命』というもの悲しいストーリーに挿入されていたことに気づくのである。あまりのGS狂ぶりに、むしろ醒めた態度で接していた60年代末から70年代初頭の日本のロックが、実は身近なテレビ番組に、巧みに埋め込まれていた事実。そしてその作品が岸部/井上の作であり、その挿入された作品が、極めて哀しいストーリーであることに、なんだか心打たれた気持ちで「PYG/ファーストアルバム」を聞き直したことを覚えている。
 

 しかし自分の家には、この「I STAND ALONE(一人)」のシングル盤や、この曲を収録したアルバムはなかったと記憶している。なぜ購入しないのかと姉にねだったとは思うが、彼女の興味は沢田研二のソロ作品や、やがて流行するニューミュージックに移行しており、いわゆる裏方であったギタリストの井上堯之の作品を購入する余裕はなかったのだろう。また、この井上堯之の初のアルバム作品である「WATER MIND」は1976年発表の作品であり、プログレだジャーマンロックだパンクだと、偏った洋楽に没頭していた自分の購入リストからもこの「WATER MIND」はもれていたように思う。だから実際にこのアルバムを聞いたのはさらに数年後だったはずである。
 

 それだけに、久しぶりに耳にした「I STAND ALONE(一人)」は、キいた。フラッシュバックとはこの事かと思うほど、1970年代前半の思い出が、あらゆる反省と羞恥とが入り交じって脳裏に、鮮明に甦る。そして音楽を大切に演奏すること、そして思いを記録することの意味と価値を、この曲によって初めて認知させられたのではないかと思う。オマエなんかジャマだからデテイケ。そう告知されてペントハウスから追い出されたショーケンと水谷豊の姿。このシチュエーションは、どんなに自分が成長してオトナになったとしても、お前なんか世の中からは常に価値がないのだということを忘れないための、まるで記憶の刻印のように、自分の深層に必ず存在しているのである。この「I STAND ALONE(一人)」は、耳にした瞬間に絶望的な気持ちにさせるのは、そういうことなのである。
 

 秀逸なアルバムだが中古盤もあまり見かけないこの「WATER MIND」は、たぶんこのコラムの読者のCD(レコード)棚にはあまり収まっていないかもしれない。しかしどこかで見つけられたら、必ず購入されることをお勧めする。私の経営するCDショップでも常備したいと思っているが、廃盤ではいたしかたない。「花・太陽・雨」を収録したPYGのアルバムは幸い廃盤ではなく、常備させていただいており、ロングセラーを続けている。しかしここに収録された「花・太陽・雨」はアルバムバージョンであり、シングル盤とは若干異なることも記しておく。
 

「PYG/花・太陽・雨」
 

JOJO広重 2002.12.5.



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