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第75回
EMERSON LAKE AND PALMER
推薦盤「LOVE BEACH」

  『とんでもないアルバム』。そういったものは時々リリースされる。それは内容がもの凄く良いとか、人間が創作したとは思えないとか、非常に高度な技術、とかいうものでもなく、よくこんなものが発売になったなあという手の俗悪なものでもなく、いやいや、『とんでもないアルバム』としか言いようのない作品。そして誰もが評価に困り、まっとうな価値を見いだせないレコード。エマーソン・レイク・アンド・パーマー(以下ELP)の1978年作品、第一回目のバンド解散のアルバムとなる「ラヴ・ビーチ」は、まるで『とんでもないアルバム』である。
 

  "渚にて"の柴山氏は、"渚にて"結成前に「ラヴ・ビーチ」というバンドを演っていた。もちろん語源はこのELPのアルバムタイトルからとったものであったそうで、その後のバンド名の"渚にて"にも、その印象は引き継がれていると言ってもいいだろう。つまりは、プログレッシブロックを70年代前半から、ある程度順番に聞いてきたロックファンにとっては、このELPの「ラヴ・ビーチ」は、ある意味でプログレにトドメを刺されたアルバムなのである。柴山氏も私も同じようにロックを聞いてきたし、そして同じようにこの「ラヴ・ビーチ」に出会っている。それだけに、当時どう思ったかは容易に想像できる。
 

  プログレッシブ・ロックが、時代の変化にあわせてポップなサウンドに変化していくのは、くやしくてもまだ理解できた。しかし、なにより、このジャケットである。ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの雄であるELPのお三方が、なぜバハマの椰子の木の下で、胸毛をさらしながら、満面の笑顔の写真をジャケットに使わなくてはならなかったのか、どうがんばっても、おそらくは99.9999999999パーセントのELPファンは理解できなかったのではないか。そして、このアルバムが、いったい何のためのアルバムで、何のためにリリースされたのかは、未だに解明されていない気すらするのである。
 

  キース・エマーソンのインタビュー集に、この「ラヴ・ビーチ」に関するコメントの記録がある。引用すると
『(アルバムの)A面は3分程度の曲だから僕にとってはどうでもよかったんだけれど...』
『リリースされた時にはそれほどいいとは思わなかったけど、僕たちではない別の僕たちになろうとしてたんじゃないかと思ったね。』
  そしてバハマで録音した理由は、当時英国のミュージシャンに対する税金があまりにも高かったため、たまたまキースが滞在していたバハマで録音したということである。
 

  まあそういうことだろう。まあそういうことかもしれない。「ああ、そんな馬鹿げたタイトルの、脳天気なジャケットのアルバムもあったね。聞いてないけど、内容もたいしたことないんでしょ?」と訊かれれば否定はできない。
  ただ、このアルバムが残した意味は、またプログレッシブ・ロックというジャンルの音楽の歴史にとっては、音楽を純粋に聞いていた70年代のリスナーにとっては、どうしようもない存在のアルバムなのである。そして、音楽とはなんなのだ、という根源的なことを見つめ直さざるを得ない、重要な1枚の作品になっている。そのことを知っているか、知っていないかでは、何かが違う。そういうアルバムである。もし音楽評論家になろうとしている人で、このコラムを読んでいる人がいるならば、肝に銘じて欲しい。
 

  で、内容はどうかって?ELPの全てのアルバムを各50回以上聞かないと、文章で説明したところで、わからないよ。
 

JOJO広重 2005.1.3.



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