カトリック大阪大司教区国際協力委員会
  

プレスリリース
アフガン難民申請者に不認定相次ぐ
〜洞察を欠いた処分〜

カトリック難民移住移動者委員会(旧・カトリック国際協力委員会)



 
  

 アフガニスタン難民のマノチェー氏、モハマド・バキル氏、スルタン・アリ氏、ボスタン・アリ氏、アジム氏の4氏に対し、4月10日、17日に相次いで難民不認定処分が下された。彼らはいずれもアフガニスタンの少数民族ハザラ人シーア派に属し、民族的、宗教的理由による迫害の恐怖を訴えていた。
 大阪入管が示した、この5氏について共通するアフガニスタンに関する認識は次の4点である。入管は、「タリバンは、2001年11月10日にマザリシャリフから、11月11日にバミヤンから、11月12日にヘラートから、11月13日にカブールから、11月26日にクンドゥスから、12月7日にカンダハルからそれぞれ撤退し、現在は実質的にタリバンは崩壊しており、迫害主体とは認められない」ともっぱら軍事的な事象を取上げて、申請を斥けた。
 しかし、タリバンによる迫害は、スンニ派のシーア派に対する宗教的な差別意識と歴史的な少数民族ハザラ人に対するパシュトン人の支配者意識を動員することによって遂行されたものであり、上記のハザラ人難民申請者が抱く恐怖は、タリバンの軍事的、政治的消長にとどまらない。

シーア派3人を殺せば天国に行ける−ファトワの標的とされたハザラ人 

 例えば、タリバンは「シーア派を3人殺せば天国に行ける」と宣伝したが、タリバンを支持する人々はそのように信じており、そうした宗教的確信が米国によるタリバンの放逐によって覆るだろうか。こうした、シーア派とスンニ派を対立させ、シーア派の殺害を正当化、扇動する「ファトワ」とよばれる宗教的権威にもとづく殺害指示は、歴史上2回出されている。1回目は、1892年にアブドラ・ラーマン・カーン王がハザラ人の領土を侵略するために出したもので、「改宗を促しても聞き入れない場合は、絶対に殺害せよ」と命じた。それにより当時のハザラ人の半分ちかくが殺害されたという。そして2回目は、1998年に北部の都市マザリシャリフでタリバン指導者ニアジが発し、6000人とも8000人とも言われハザラ人が虐殺された。

青年ハザラ人の40人に1人が殺害された

アフガニスタンのハザラ人社会はタリバンにより1万5000人が殺害されたと主張している。この数字と、米国CIAが発表しているアフガニスタン人口、人口構成、年齢構成をもとに試算すると、20歳前後から30歳代半ばまでのハザラ人男性のうち約40人に1人がタリバンによって殺害されている。20世紀末のアフガニスタンでこの数字が大きくならなかったのは一重にハザラ人が国外に脱出することができたからに他ならない。
 我々は調査官に問いたい。例えば「入管職員であること」が理由で職員40人のうち1人が殺された地域があったとして、その地域にあなたは「Immigration」とプリントされたあのネクタイとバッジをつけて帰ることができるだろうか。調査官はまずこの自問から始め、ハザラ人の難民性を審査するべきである。
 4月17日、カルザイ議長はザヒルシャー元国王を迎えにローマを訪れたが、この元国王は、上記アブドラ・ラーマン王に連なる人物であり、王の帰還は、ハザラ人にとってソ連侵攻がもたらした社会的進歩を逆戻りさせる象徴的行為である。アフガニスタンの復興は、安定した基盤を、支配民族の伝統的な部族意識に求めようとしている。そしてそれが、民族の構成単位である部族間、軍閥間の対立を煽るいわば燃料となり、アフガニスタン各地での散発的な戦闘に招いている。
 こうしたアフガニスタンの民族差別、軍閥支配(warlordism)についての洞察を欠き、表層的な軍事的事象を口実とした不認定処分を、申請者たちは、死刑宣告のように聞き、自らの死刑宣告に署名した。

「まず不認定ありき」の難民認定制度の操作に抗議する

法務省入国管理局「難民認定事務取扱要領」は、「申請受理後3か月以内に処理(進達)するように努めなければならない」と定めている。「進達」とは担当難民調査官が本省に「調査報告書」、「事案概要書」に送付する手続きを指す。上記4名の申請者のうち最も早期に申請したアジム氏は2001年1月に申請し、同年4月に調査官の調査は終了している。今回の告知はそれから1年も経過している。
 もっとも端的な例は、先般異議申出を却下され、収容されたホダダット氏である。氏は2000年2月に異議申出を行い、再三の要請したにもかかわらず2年近く放置された挙句に異議を却下された。タリバン支配下では意図的な不作為により申請を放置し、タリバンが崩壊すれば手のひらを返したように次々に不認定処分を畳み掛けてくる入管の難民認定制度の操作に対し改めて怒りを禁じえない。と同時に独立した、透明性の高い難民認定制度の確立をわれわれは今後も要望していく。

以上。 

 



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