シェイダさんを救え!ニュースアップデイト No.21〜No.30


2001年7月21日〜2001年12月16日

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第21号 2001年7月11日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)サンフランシスコ訪問記
 〜シェイダさんサポートの輪を広げて〜
(2)論点はでそろいつつある
 〜シェイダさん裁判「第5回口頭弁論」おわる〜
(3)難民認定手続は「われわれ式」で?
 〜あきれはてた法務省の主張「準備書面(2)」〜
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(1)サンフランシスコ訪問記
 〜シェイダさんサポートの輪を広げて〜
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1.国際的な支援の輪

 みなさん、シェイダさんの支援活動は海外からも寄せられているのをご存じでしょうか。シェイダさん自身が会員であるイラン人レズビアン・ゲイのための団体ホーマンや、アムネスティーインターナショナルからも、多大な支援をいただいていますが、国際レズビアン・ゲイ人権委員会(以下、「IGLHRC」といいます。)からは、シェイダさんの在留権裁判の証拠資料の提供を中心に積極的な支援をいただいています。
 私、沢崎は、5月下旬から一ヶ月間、語学研修として、IGLHRCの本部のあるサンフランシスコに行って来たのですが、その際に、日頃からお世話になっているIGLHRCの本部に表敬訪問してきました。

2.IGLHRCアサイラム・プログラムの活動

 IGLHRCは、レズビアン・ゲイに関する様々な活動を行っている国際的な組織ですが、その中に、「アサイラム・プログラム」(アサイラム=「亡命」)といって、シェイダさんのようなゲイ・レズビアンの難民の支援を中心的に行っている部門があります。
 悲しいことではありますが、世界的に見て、レズビアン・ゲイに対し迫害を加える国はまだまだ沢山あるため、そのような国から逃れて米国に亡命してくるレズビアン・ゲイの数は多く、しかもレズビアン・ゲイの亡命者は、自分の性的指向について、受け入れ国の政府担当者に告げるのが難しいという特有の事情があるため、IGLHRCのアサイラム・プログラムのように組織的にレズビアン・ゲイの亡命者を支援していく体制が不可欠なのです。
 IGLHRCのアサイラム・プログラムは、長年、レズビアン・ゲイの亡命者を組織的に支援してきた実績があるため、各国のレズビアン・ゲイの亡命受け入れ状況、行政・裁判所の決定や各国のレズビアン・ゲイに対する迫害の情報といった膨大な情報を資料として持っているほか、世界のレズビアン・ゲイの亡命申請に携わった弁護士などとのネットワークを持っています。
 私たちは、IGLHRCのアサイラム・プログラムの持っているイラン人のレズビアン・ゲイに関する情報(イラン・パケット Iran Packet と呼ばれています)から、資料を提供してもらっています。
 ところで、IGLHRCのアサイラム・プログラムはこのように世界各国の膨大な情報を持っているのですが、日本におけるレズビアン・ゲイの難民に関する情報は、全く持っていませんでした。これは、日本政府がこれまで、全くレズビアン・ゲイ難民の問題を認識してこれに取り組んでこなかったことに原因があります。そういう意味で、シェイダさんの在留権裁判は、日本初のゲイ難民の事例として、IGLHRCのアサイラム・プログラムも大いに注目しているのです。

3.ダスティー・アラウーホさん

 私が、IGLHRCの事務所を訪ねてお会いしたのは、アサイラム・プログラムのコーディーネーターを努めていらっしゃるダスティー・アラウーホさんです。
 ダスティーさんとお会いしたのは、これが初めてだったのですが、「チームS」の方から、私の訪問についてダスティーさんに話をとおしてあったので、お忙しいのにも関わらず、時間を割いてくださった上、私の訪問を大変歓迎してくださいました。
 ダスティーさんは、日に焼けた柔和な顔に、口ひげのにあうナイスミドルという感じの方です。ダスティーさんはパートナーの方と、お子さんを2人、養子として育てられています(サンフランシスコでは、同性のカップルが子供を養子として育てることができるのです)。私はあわせて3回、ダスティーさんを訪問したのですが、精力的にコーディネーターとしての仕事をこなされる一方で、お子さんの写真と、お子さんの世話の話になると途端に顔がほころんばせるダスティーさんに、自分の母親の顔を見たという感じを受けました。
 もちろん、ダスティーさんとはシェイダさんの件についてもいろいろ話をしました。今、シェイダさんの裁判がどこまで行っているのか、どのような結論がでそうか、IGLHRCがどのような形でシェイダさんに協力できるかというようなことです。その中で、ここにご報告しておくべきことは、ダスティーさんが、もし日本の裁判所で証人として証言台にたつことが必要であれば、協力したいと申し出てくださったことです。ダスティーさんが実際にシェイダさんの裁判で証人として証言台にたつことになるかどうかは、裁判所との協議によって決めなければならない事項なので、今のところ、実現するかどうか分からないのですが、このような申し出を受けることができたことは大変喜ばしいことです。

4.AL-FATIHA(アル・ファーティハ)の難民ワークショップ

 ダスティーさんのご協力により、IGLHRCアサイラム・プログラムがAl-Fatiha(アル・ファーティハ:原語はイスラム教徒が祈りの際に唱える章句のこと)というムスリム(イスラム教徒)のレズビアン・ゲイの団体(フェイゼルさんという方が呼びかけ人となって設立されました)と共催することになっていた難民ワークショップで、シェイダさんのことを報告する機会を私に与えてくださったことについても、ここで報告しておかねばならないでしょう。
 シェイダさんの事件には、シェイダさんがゲイであるということのほかに、シェイダさんの出身国であるイランがイスラム教の国であるという特徴があります(ちなみに、シェイダさんはムスリムではありません)。イランはイスラム教の中でもシーア派という異端派が多数派をしめており、現在の体制はシーア派の法学によって国を治めようという原理主義の立場をとっています。そのため、イスラム教の地域にある他の国と比べても、特殊な立場にある国なのですが、一般的にイスラム教国でレズビアン・ゲイがどのような状況に置かれているのか、イスラム教徒のレズビアン・ゲイがどのように問題に対処しようとしているのかを知ることは、シェイダさんの事件をより深く理解することにつながりますし、イスラム教徒のレズビアン・ゲイとの連携は、シェイダさんの裁判を進める大いなる力にもなります。
 私がシェイダさんの件について報告することができたのは、ほんの10分程度で、私の英語もつたなかったため、どの程度、伝えることができたのかおぼつかない点もありますが、ワークショップが終わった後、カナダに帰ったらこの話を皆に伝えるとか、是非頑張ってくれなどいろいろ励ましの言葉をもらいました。

5.日本に帰ってきて

 強力な国際的な援助を得て帰ってきたという気持ちに浸りながら、7月3日のシェイダさんの裁判傍聴へ足を運びました。ところが、そこに待ち受けていたのは、国際的な動向は全く無視するという法務大臣のかたくなな態度でした。私は、あんなに海外でもシェイダさんの事件を気にかけて、支援をしてくださる方々がいるのに、法務大臣がこうかたくなでは、その支援を生かすのもなかなか大変だ、どうしたものかと頭を抱えたくなりました。しかし、ただ、法務大臣のかたくな態度の前に立ちすくんでいては事態は改善しません。一歩一歩、歩いていくしかないな。そのために頭をひねらねばと気を取りなおして、今原稿を書いています。(澤崎 敦一)

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(2)論点はでそろいつつある
 〜シェイダさん裁判「第5回口頭弁論」おわる〜
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 7月3日(火)11時より、東京地方裁判所第606号法廷で、シェイダさん在留権裁判第5回口頭弁論が行われました。
 2000年7月にシェイダさんの難民認定が却下されてから1周年を迎える今回の法廷ですが、前回のニュース・アップデイト第20号で報じたとおり、シェイダさんは4月に提出した仮放免申請が不許可となり、今回も残念ながら原告であるシェイダさんという「主役」不在の法廷となりました。酷暑にもかかわらず、約20名の方が傍聴に参加してくれました。
 今回の法廷では、(1)前回(5月8日)提出のシェイダさん側書面に対する反論を法務省側が提出する、(2)前回の法廷でシェイダさん側が裁判所から「宿題」として出されていた件(強制送還の命令についての細かい法律的な議論です)についてシェイダさん側が書面を提出する、の二つのことが行われました。
 今回の法廷は、これまでと違って他の裁判と抱き合わせでなく、シェイダさんの事件のみについて行われました。ですから、これまでの法廷と違い、シェイダさんの事件がいつ始まり、いつ終わったのかもわかりにくい、という状況ではありませんでした。しかし、具体的に何が行われたのかについては、初めて傍聴する方にはわかりにくかったことは事実です。
 裁判長からは、「そろそろ論点も出そろいつつありますね。次回の法廷では、人証(原告や証人が法廷で証言する)なども含めて、今後どのようにやっていくか考えましょう」という言葉があり、シェイダさん在留権裁判も、書面のやりとりの段階を終え、証人による証言などの段階にさしかかっていることがわかりました。
 法廷は全体で10分程度。次回期日を8月28日(火)10時〜と決め、終了しました。法廷終了後、弁護士会館502号室にて報告集会を開催。参加者の皆さんからは活発な質問が交わされました。
 次回法廷では、今後のシェイダさん側・法務省側の立証計画が示され、いよいよ証人尋問の段階にさしかかることになります。ぜひとも傍聴のほどお願い申しあげます。
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■ <シェイダさん在留権裁判 第6回口頭弁論>           ■
■ 日時 2001年8月28日(火)10時〜10時30分          ■
■ 場所 東京地方裁判所 第606号法廷(営団地下鉄霞ヶ関駅下車3分)■
■ <第6回口頭弁論報告集会>                   ■
■ 日時:2001年8月28日(火)10時30分〜12時          ■
■ 場所 弁護士会館5Fを予定                   ■
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(3)難民認定手続は「われわれ式」で?
 〜あきれはてた法務省の主張「準備書面(2)」〜
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 法務省側は第5回口頭弁論において、前回シェイダさん側が提出した準備書面(2)に反論する法務省側準備書面(2)を提出しました。
 法務省の立場を全面的・包括的に反論したシェイダさん側準備書面(2)は、全体50ページほどにわたる大部のものでした。今回法務省が提出した準備書面は、これに対して大きく二点について部分的な反論を加えるにとどまっていますが、その中には見過ごすことのできない問題点が含まれています。

(1)法務省と日本の司法は「モラル・ハザード」?

 前回の書面でシェイダさん側は、国際人権条約の一つである難民条約については、誰を難民として認定するか、その手続などについて締約国が勝手に解釈するのでなく、国際に統一された解釈基準が用いられるべきであると主張しました。その上で、その解釈基準として用いられるべきものとして、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の「ハンドブック」やUNHCR執行委員会の「結論」、諸外国における判例などがあることを挙げ、日本の難民認定が、これらの文書で示されている難民条約の解釈基準から著しく逸脱する形で行われてはならないことを指摘しました。
 今回、法務省側が最も力を入れて反論してきたのはこの点です。法務省側の反論の趣旨は、おおむね次のようなものです。

ア.難民条約は、難民の認定手続について何も定めていないのだから、どのような難民認定手続を定めようと各国の勝手である。
イ.また、これらの文書は条約加盟国に対して法的拘束力をもっているわけでもないので、日本は難民条約の解釈にあたってこれらを参照する必要はない。
ウ.東京高等裁判所は、難民認定に当たってこれらの文書を参照する必要はないという判決を出している。

 すなわち法務省の主張とは、「わが国は、UNHCRや諸外国において国際的に積み重ねられてきた難民条約の統一的解釈を無視して、『われわれ式』で難民認定をやればいいのだ、裁判所からもそういうお墨付きをもらっている」というものです。
 法律上の正当性うんぬん以前に、その暴論ぶりに目を疑います。この主張からは、国際社会の一員として、国際条約を責任を持って遂行する者がもつべき理念や責任感といったものがまったく感じられないのです。
 欧米やオーストラリア・ニュージーランドなどの先進国は、様々な紆余曲折はあれ、難民申請者の増大に応じて適切な制度改革を行い、年間数百〜数千人の難民を受け入れ、難民条約の誠実な遂行につとめることで国際社会への責任を果たしてきました。このような国際社会の現状に照らして、上の法務省の主張は、国際社会に対する国家の責任を恥も外聞もなく放り出す、権力の「モラル・ハザード」としかいいようがありません。このような暴論を、さも当然であるかのように展開する法務省の破廉恥さには、まさに赤面を禁じ得ません。
 この点については裁判所も同じです。この判決は、中国の民主化運動の活動家に対して出されたものですが、裁判所はこれによって、日本が難民認定においてUNHCRなどのつくっている国際的基準を無視してよいという法務省の主張にお墨付きを与えたのです。行政に追随する日本の司法の最悪の側面があらわになっています。

(2)イランの同性愛者迫害については「つまみ食い」に終始

 一方、シェイダさん側が準備書面(2)の前半で述べた、イランにおける同性愛者迫害の実態については、法務省は今回の書面では、根底的な批判を加えていません。
 前回シェイダさん側は、イランでの同性愛者の処刑状況について整理し、83年のゲイ・パートナーと思われる二名の男性が銃殺刑に処された事例、90年に「同性愛に固執する者は処刑する」との政府コメントとともに斬首刑に処された3名のゲイと2名のレズビアンの事例など、豊富な事例を提出して、イラン政府が実際に数多くの同性愛者を処刑しており、カミングアウトした同性愛者であるシェイダさんもその対象にされかねないことを立証しました。
 法務省はそれに対して、「イランにおいて同性愛的性行為を理由とした処刑が全く存在しない旨主張しているわけではない」などと譲歩のポーズを取りつつ、二点についてだけ、なんくせを付けています。ひとつは、1992年に同性間性行為を理由の一つとして処刑されたイスラム教スンナ派の指導者アリー・モザファリアン氏のケース。法務省は「これは宗教弾圧であるから、同性愛者の事情とは関係がない」といいます。
 たしかに、モザファリアン氏が同性愛者であった可能性は低いと思われますが、モザファリアン氏は拷問によって、おそらく行っていないと思われる同性間性行為を4回にわたって無理矢理自白させられた挙げ句、殺害されたのです。法務省は「イラン刑法のソドミー条項は4名の目撃か4回の告白を要件とし、立証要件が厳しいので運用されていない」と主張していたのですが、シェイダさん側は、イランで同性愛者の処刑について「立証要件の厳格さ」など現実的に問題になっていないということを立証する趣旨をもって、この証拠を提出しているのであって、法務省側の「モザファリアン氏への弾圧は同性愛者の状況と関係ない」という主張は反論になっていません。
 もう一点は、イランの警察から迫害を受けてスウェーデンに逃亡したイラン人ゲイのケース。スウェーデン政府は、当初はこの人物の難民認定を拒否しますが、彼が新聞紙上で実名でカミングアウトしたため、カミングアウトした同性愛者がイランで迫害を加えられる危険性は否定できないとして当初の決定を翻意、1999年になって、永住権を与えたのです。
 法務省はこれについて、「これは新聞記事によって個別的に判断したということなのであって、同性愛者であるから永住権が与えられたわけではない」などと反論してきました。しかし、スウェーデン政府は実際には、カミングアウトした同性愛者への迫害の危険性を考慮して永住権を与えたということなのであって、法務省の主張は強弁に過ぎません。
 このように、イランでの同性愛者弾圧の実態についての法務省の反論はつまみ食いの域を出ず、あまり積極的なものではありません。

(3)無責任な開き直りで逃げ切りをはかる法務省

 イランの同性愛者弾圧の現実には目をつむりつつ、「難民認定は『われわれ式』で構わない」という判決に開き直って、裁判所を言いくるめて逃げ切りを図る……今回の書面を見るに、現状の法務省の法廷戦術は、概ねこのように推測されます。
 もし、この推測が的中しているとするなら、問題は裁判所ということになります。今回も行政に追随して、法務省の開き直りに「お墨付き」を与えるのか、それとも、日本の難民行政のあり方をただすべく、画期的な判決を下すのか。それは、一つには、裁判官に、こんな判決を出したら世論がだまっていないのではないか、後世の歴史を汚すのではないか、という「背面の恐怖」(中坊公平)を感じさせていけるかどうかにかかっています。
 これまでにもまして、裁判傍聴が重要になっています。法廷を凝視する多くの人々の目……裁判官にとって、これ以上に恐いものはありません。多くの皆さんの傍聴参加をお待ちしています。(大塚 重蔵)

******ニュースアップデイト第22号は近日中発行の予定です******

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第22号 2001年7月31日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)エイズ文化フォーラムin横浜に集まろう
 ワークショップ企画「イラン人ゲイ難民・シェイダさんを救え!」実施
(2)シェイダさんに仮放免を!
 〜8月の牛久入国者収容所との交渉に向けて〜
(3)イラン人レズビアン・ゲイ難民受け入れに関する諸外国の状況
 〜シェイダさん裁判の証拠から〜
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(1)エイズ文化フォーラムin横浜に集まろう
 ワークショップ企画「イラン人ゲイ難民・シェイダさんを救え!」実施
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 「エイズ文化フォーラム」は、1994年に開催された横浜国際エイズ会議と並行して市民側のイベントとして開催されて以来、エイズや、それと関連したNGO/NPOや個人の活動の発表の場として、毎年8月に開催されています。チームSは、昨年「イラン人同性愛者S君の人生」という企画を行いましたが、今年は「イラン人ゲイ難民・シェイダさんを救え!〜ワークショップの手法を通して見えてくる日本・イラン・難民」と題して企画を行うことになりました。
 裁判の法廷の後に開く報告集会では、どうしても「説明型」が中心になってしまいますが、今回の企画は、いくつかのワークショップを通じて、体を動かしながらシェイダさんの直面する問題を理解しよう、というものです。
 企画は8月4日の午後4時から6時までの二時間。まずはウォーミング・アップとして、シェイダさんの足跡をクイズでたどる「ウォーミングアップ・クイズ」を行います。次に、すごろく「シェイダさん物語」。兵庫県の高校の先生が開発教育の教材として開発した「難民すごろく」にヒントを得ながら、単身で渡日するマイノリティの難民を主人公にして、チームSで新しく作ったゲームです。
 最後に、「あなたが難民になったら」というセッションでしめくくります。
 難民の問題に関しては、いろいろな疑問があります。「なぜ、シェイダさんは入国してすぐに難民申請しなかったのだろう?」「9年間も『不法に』滞在していたんじゃないの?」そういった疑問を持っている皆さんに、ぜひとも参加してもらいたい企画です。
 場所は、横浜駅西口をおりて三越の手前を右に折れたところにある「かながわ県民センター」。404会議室で皆様をお待ちしております。
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 〜エイズ文化フォーラムin横浜2001企画〜
イラン人ゲイ難民シェイダさんを救え
 〜ワークショップの手法を通して見えてくる日本・イラン・難民〜
 日時 2001年8月4日(土)午後4時〜6時
 場所 かながわ県民センター4階404会議室
       (JR横浜駅西口下車徒歩5分)
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(2)8月31日、シェイダさんの仮放免を求める交渉を行います!
   〜シェイダさん面会・牛久収容所交渉ツアーにご参加を!〜
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 4月に申請されたシェイダさんの仮放免申請が、6月20日、牛久入国者収容所(東日本入国管理センター)所長によって不許可とされたことについては、「ニュースアップデイト」20号で触れました。
 その後、多くの皆様の努力により(お友達と一緒に百通以上集めていただいた方もいらっしゃいました。感謝!)、現在約200通程度の嘆願書が集まっています。
 また、ヨーロッパに拠点を持つイラン人ゲイ・レズビアンの人権確立を求める団体「ホーマン」も、独自にシェイダさん救援のためのキャンペーンを準備中です。
 チームSでは、ヨーロッパの動きとも連動しながら、牛久入国者収容所側に嘆願書を手渡し、シェイダさんの仮放免を強く要求する交渉を8月31日に牛久現地で持つ予定となっています。
 
 さて、牛久入国者収容所との交渉、私たちは、仮放免の決定権を法律上持っている収容所長の出席を期待していたのですが、収容所側に連絡を取ったところ、担当者の方は「所長は出席できない」とにべもない返事。理由を聞いたところ、「そういう方針でやっているから」と、堂々めぐりが始まりました。
 当方としては、「そこを何とか、嘆願書を渡すだけでもいいから」と食いついたのですが、結局無理で、収容所側で今回交渉に出席するのは、総務課の課長補佐と、仮放免を統括している係長の二人。「皆さんの意向は、所長に正確に伝えますから」ということでした。収容所の閉鎖的な体質が、ここでもあらわになっています。
 チームSでは、この交渉に向けて、皆様に以下のことを呼びかけます。ぜひともご参加・ご協力・ご支援お願いいたします。

【1】嘆願書をよろしくお願いします!
 現在までに、それなりの数の嘆願書が集まっていますが、「血も涙もない」法務省を動かすにはまだまだ、数として足りるところではありません。
 まだ嘆願書を書いていない方、ぜひとも嘆願書にサインの上、お送り下さい!
 また、嘆願書をすでに書いたという方も、お知り合いの方で興味のありそうな方がいらっしゃいましたら、ぜひともお誘い合わせの上、嘆願書にサインをして、お送り下さい!お願いします。

【2】8月31日当日のシェイダさん面会・交渉ツアーにご参加を!
 8月31日当日は、8時50分にJR日暮里駅常磐線ホーム(立ち食いそば屋の前)に集合、11時前に牛久入国者収容所を訪問し、午前中にシェイダさんに面会、午後1時から収容所側との交渉を行います。
 31日は金曜日、平日で都合の着かない方も多いとは思いますが、ぜひともこの機会に牛久収容所を訪問し、シェイダさんと会ってみてはいかがでしょうか。
 ご参加いただける方は、チームSの以下の連絡先までご連絡下さい。
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 〜8月31日(金)シェイダさん面会・牛久収容所交渉ツアー〜   
(日時)8月31日(金)
(スケジュール)
 ・8時50分  JR日暮里駅常磐線ホーム立ち食いそば屋前集合
 ・11時頃   常磐線および関東鉄道バスで牛久収容所着
 ・午前中    シェイダさん面会
 ・午後1時〜  収容所側と交渉(1時間程度)
 ・午後2時〜  牛久収容所出発 →午後5時頃 日暮里着
(連絡先)
 電話:070ー6183ー5165
 電子メール:shayda@da3.so-net.ne.jp(チームS電子オフィス)
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(3)諸外国におけるイラン人レズビアン・ゲイ難民受け入れの状況
 〜シェイダさん裁判の証拠から〜
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 イラン人ゲイであるシェイダさんの難民認定を認めず、強制退去の命令まで下した法務省。その処分の是非が問われているのが、「シェイダさん在留権裁判」です。
 この訴訟で最も大きな問題が「シェイダさんを難民と認めなかった法務省の処分が妥当かどうか」ということです。
 人が難民として認められるためには、(1)国外にあること、(2)十分に理由のある迫害の恐怖を抱いていること、(3)迫害が「人種」「民族」「宗教」「特定の社会的集団の構成員であること」「政治的意見」のどれかを理由としたものであること、の3点が必要です。諸外国では、イラン人レズビアン・ゲイを難民として受け入れたケースが数多くありますし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)もイラン人ゲイ・レズビアンに対してUNHCRの難民資格(マンデイト)を付与したことがあります。シェイダさん側は、これら諸外国や国連の判例や判断基準などを翻訳し、裁判の証拠として提出し、シェイダさんを難民不認定とした法務省の判断が誤っていることを主張しています。
 では、諸外国ではイラン人レズビアン・ゲイの難民申請について、どのような扱いがなされてきたのでしょうか。いくつかの国の例を見てみましょう。

<ドイツ>
 1979年のイラン革命は、もともとパフレヴィ朝皇帝の独裁体制を打倒する一種の民主革命としての位置づけを持っていましたが、にもかかわらず、革命当初から同性愛者に対する処刑や虐殺行為がなされたことが、ロイター通信などの報道から明らかになっています。こうした状況の中で、イラン人ゲイの亡命を最も早く認めたのは、ドイツ(当時、西ドイツ)です。
 難民申請したイラン人ゲイに対して、まず行政機関であるドイツ連邦難民事務所は「同性愛者であることを隠していれば、イランで平穏な生活を送れるはずだ」と主張、申請は認められませんでした。この事件は司法に持ち込まれましたが、ヴィースバーデン行政裁判所 Wiesbaden Administrative Court は1983年、「行政裁判所は、同性愛者の難民申請者に対して『注意深く、隠れて、目立たぬ生活をすることによって、あなたは迫害を避けることができますよ』などと告げることは、宗教的心情を否認せよとか、皮膚の色を変えるために努力せよ、などと指示することと同程度に受け入れがたいことであると考える」と決定しました。「性的指向を隠していれば大丈夫」という主張は、明確に否定されたことになります。
 ドイツではその後、1988年にもイラン人ゲイがドイツ憲法の難民規定に基づいて難民認定されています。

<ニュージーランド>
 ニュージーランドは80年代まで、難民の受け入れには必ずしも積極的でなく、難民認定制度も整備されていませんでした。しかし1987年の記念すべき「ベニパル判決」(インド人難民申請者の難民不認定処分を違法とし、難民認定手続についても制度改革を命じた判決)以降、政府から独立した難民認定機関「難民控訴委員会」の設置を始め、大きな制度改革がなされ、毎年数百人の難民を受け入れるようになりました。
 ニュージーランドでイラン人ゲイの難民認定が認められたのは1995年のことです。このイラン人ゲイは、もともとはトゥーデ党(親ソ連派の「イラン共産党」)の活動家であったことのみを理由として難民申請しており、「難民控訴委員会」での審議を受けるまで、同性愛者であることを明らかにしていませんでした。また、自分が同性愛者であることを自覚していたものの、イランでは刑法で禁止されている同性間性行為は行わなかったと述べています。このような不利な状況にも関わらず、「難民控訴委員会」は、この人がイランに帰国すれば迫害される危険があると認め、難民として認定したのです。
 「難民控訴委員会」のこの決定は、全体で50ページ以上にもわたる厖大なもので、各国に於ける同性愛者の難民認定の状況が詳細に述べられている、非常に資料的価値の高いものでもあります。

<カナダ>
 カナダはアメリカ合州国とともに、非常に多くのイラン人レズビアン・ゲイ難民を受け入れている国であり、1994年から98年までの5年間に8名のイラン人レズビアン・ゲイの難民を受け入れています。
 一方、イラン人レズビアン・ゲイの置かれた状況について、カナダのオタワ移民・難民委員会調査部 Immigration and Refugee Board Research Directorate は、各国のイランに関する社会学者に対するインタビューや、スウェーデンの駐テヘラン大使館が作成した秘密報告書をもとに、「イランでは同性愛者は事実上容認されている」という、きわめて特殊な立場からの報告書をまとめています。これは国連難民高等弁務官事務所 UNHCR の各国資料にも収録され、シェイダさんを含め、各国で難民申請を求めるイラン人レズビアン・ゲイを不利な立場に追い込んでいます。にもかかわらず、カナダ政府や移民難民委員会自体は、「仮に、同性愛者が死刑になったり、告訴され刑罰を受けたりしたという証拠が少なかったとしても、同性愛者であるということが、誰かを勾留したり、尋問したりする理由として使われることがありうるという証拠はある」などとして、イラン人レズビアン・ゲイを難民として認定し続けてきました。また、「申請者がキリスト教徒であって、キリスト教徒であることを隠して生活していれば穏当に生活できる、という国情だった場合、『キリスト教徒であることを隠して生きて行け』とは言わないだろう。性的指向についても、これと同じである」(1998年の判断)として、「性的指向を隠していれば大丈夫」という主張を明確に否定しています。

<アメリカ合州国>
 アメリカ合州国は、これまで最も多くのイラン人レズビアン・ゲイを難民として受け入れており、1995年から98年までの4年間で14名が受け入れられています。
 同性愛者の難民認定については、(1)同性愛者が「特定の社会的集団」と認められるかどうか、(2)同性愛者への迫害が「十分に理由のある恐怖」とみなしうるレベルに達しているかどうか、という二点が主要な問題となります。日本と違い、アメリカ合州国では、(2)よりも(1)の点について、かなり綿密な議論がなされ、何をもって「特定の社会的集団」とするかについて、複数の一般的な基準が出されています。一方(2)については、「虐待についての多数の具体的な事件について示せればよい」「迫害が実際に起こる可能性が10%であっても、迫害の合理的な可能性が示せれば、難民と認定される」としています。アメリカ合州国の、難民認定に関するこの態度は、難民認定の判断をなるべく一般的かつ公平なものにしていこうという態度のあらわれです。その態度は、「難民申請は個別に検討する」といいながら、そのプロセスや判断の理由を一切明らかにせず、法務大臣や官僚による恣意的な判断でごまかしている日本のやり方とは大きく異なっています。
 以上4ヶ国は、イラン人レズビアン・ゲイを難民として積極的に受け入れている国々です。一方、イギリスやスウェーデン、オランダなどは必ずしも積極的な受け入れを行っているとは言いにくいのですが、それでも複数の難民認定を行ったり、あるいは永住権を与えて実質上難民として受け入れるなどの努力をしています。
 これらの実例に照らせば、日本の法務省の主張が、その内容や道義性の面でこれらの国々の判断に著しく劣っていることは明らかです。日本国憲法では、「日本国民は(略)専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとつとめている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」と述べています。この憲法の文面に恥じない難民政策が、今こそ必要とされていると思います。

******ニュースアップデイト第23号は近日中に発行します******


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第23号 2001年8月16日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん在留権裁判 第六回口頭弁論は8月28日(火)
(2)シェイダさん激励&牛久収容所交渉ツアーのお知らせ
(3)シェイダさんが書く入管収容所の実態レポート(上)
(4)牛久収容所への嘆願書(別便でお送りします)
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(1)シェイダさん在留権裁判 第六回口頭弁論は8月28日(火)
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 すでに提訴以来1年を越えたシェイダさん在留権裁判ですが、第六回口頭弁論は8月28日(火)午前10時から、東京地方裁判所606号法廷で開催されます。
 ニュースアップデイト第21号でもお伝えしましたが、7月3日に開催された第5回口頭弁論では、法務省側がシェイダさん側への反論の書面(準備書面2)を提出してきました。その主な論点は以下の通りです。
 難民条約は、難民の認定手続について何も定めていないのだから、どのような難民認定手続を定めようと各国の勝手であり、難民条約の解釈に当たって、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の示しているガイドラインや各国の判例などを参考にする必要はない。すでにそのような判決も出ている。
 今回の法廷では、シェイダさん側がこの書面への反論の書面を提出します。
 反論の趣旨は、すでにできあがっています。この論点は法務省の「切り札」の一つともいえるものですが、そもそも難民条約の趣旨に反しています。難民条約では、手続のあり方はどうあれ、結果として、「a)国外にあり、b)人種・民族・宗教・特定の社会的集団の構成員であること・政治的意見を理由として、c)十分に理由のある迫害の恐怖を有する者」を難民と認定して、保護を与えなければなりません。手続は違っても、結果は同じでなければならないのです。
 同じ結果を出すためには、難民条約で抽象的に表現されている「特定の社会的集団」とか「十分に理由のある迫害の恐怖」といった用語の解釈について、国連のガイドラインや各国の判例などを常に参照する必要があり、「わが国の勝手」などとうそぶくことは許されないのです。
 また、法務省は前回の書面で、シェイダさんが証拠として提出したイランにおける同性愛者の処刑ケースや、スウェーデン政府がイラン人ゲイに永住権を与えたという事例についても、なんくせをつけています。これらについても、シェイダさん側はすでに法務省を論破できる具体的事実を十二分に収集しています。
 一方、前回の口頭弁論で市村陽典裁判長は、「そろそろお互いの主張がまとまった段階に来たので、証人尋問などについても考えてほしい」と述べました。証人尋問というのは、お互いが承認を申請し、法廷で証言させるというもので、書面による主張がほぼつくされた段階で行われるものです。今回の法廷では、シェイダさん側はまだ証人尋問の申請はしませんが、現状で、亡命したイラン人同性愛者でつくる人権擁護団体「ホーマン」の活動家に、イランにおける同性愛者の弾圧の実態について証言してもらう方向で人選を進めています。
 書面のやりとりがほぼ終わり、第二段階にさしかかりつつあるシェイダさん在留権訴訟。8月28日には、ぜひとも法廷に足を運びましょう。終了後の報告集会も充実したものにしていくつもりです。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第六回口頭弁論>>      ┃
┃●日時:2001年8月28日(火)午前10時〜(9時30分集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<第六回口頭弁論 報告集会>>             ┃
┃●日時:2001年8月28日(火)午前10時45分〜12時    ┃
┃●場所:弁護士会館5F 502C会議室(東京地裁裏手)    ┃
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(2)夏休み最終日は牛久で〜8月31日 シェイダさん激励&収容所交渉ツアー〜
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 シェイダさんが東京都北区の入国管理局収容場に収容されたのは昨年の5月、茨城県牛久市の「東日本入国管理センター」(牛久収容所)に移ったのが昨年の8月。シェイダさんは、これまで三回仮放免の申請をしましたが、未だに認められていません。とくに、最近では収容後1年で仮放免するケースが増えていただけに、本年4月に行った仮放免申請が6月に不許可となったのは、大きなショックでした。
 収容が長期化する中で、シェイダさんは、以前からかかえていた歯痛、耳の痛み、睾丸から足の付け根にかけての痛みなど体の不調をよく訴えるようになりました。しかし、牛久収容所の医療設備は貧弱であり、シェイダさんの体の不調に十分対応することが出来ません。外部治療も、申し訳のように数回ほど行われるだけで、すぐに収容所での内部治療に切り替えられてしまうのが現実です。しかも、入管の医師は、治療内容にちょっとでも意見をさしはさむと「文句があるなら、帰国して治療しろ」などと暴言を吐くしまつです。
 シェイダさんはこの7月、入管の収容を告発する手記を書きました。その中でシェイダさんは次のように述べています。
 「私は、いつまで収容所にいなければならないのでしょうか。明日がどうなるかも分からないのは、一番つらい精神的な拷問です。日本の入国管理局の体制をみていると、はっきりいって人間に生まれてこなかったら良かった、と思います。感情がなかったら良かった、と思います。人間に生まれてきたことを後悔するとともに、明日をも知れぬ将来のことを考えると、焦燥感にかられます。」
 シェイダさんは、「同性愛者は死刑」というイランから、迫害を逃れて日本に来た、れっきとした難民です。そのシェイダさんを難民として受け入れるどころか、長期間にわたって収容所に閉じこめる日本の入管体制。私たちは、是が非でもシェイダさんの仮放免を獲得し、自由な環境での生活と適切な医療が享受できるように求めていきたいと考えています。
 シェイダさんの仮放免については、法律上、牛久収容所の所長に決定権があります。私たちは、8月31日に、牛久収容所の担当者と交渉を行い、シェイダさんの仮放免を強く求めるとともに、シェイダさんの仮放免について多くの方々が寄せてくれた嘆願書を提出する予定です。また、同日午前中には、シェイダさんと面会し、激励を行う予定です。
 当日は、8時50分にJR日暮里駅常磐線ホーム(立ち食いそば屋の前)に集合、11時前に牛久入国者収容所を訪問し、午前中にシェイダさんに面会、午後1時から収容所側との交渉を行います。
 31日は金曜日、平日で都合の着かない方も多いとは思いますが、ぜひともこの機会に牛久収容所を訪問し、シェイダさんと会ってみてはいかがでしょうか。
 ご参加いただける方は、チームSの以下の連絡先までご連絡下さい。「チームS電子オフィス」にその旨ご返事いただければ幸いです。
 また、本ニュースアップデイト別便で「嘆願書」をお送りいたします。まだお送りいただいていない方、是非ともこの機会に「嘆願書」に署名の上、ご返送頂ければ幸いです。
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●8月31日(金)シェイダさん面会・牛久収容所交渉ツアー●
(日時)8月31日(金)
(スケジュール)
 ・8時50分  JR日暮里駅常磐線ホーム立ち食いそば屋前集合
 ・11時頃   常磐線および関東鉄道バスで牛久収容所着
 ・午前中    シェイダさん面会
 ・午後1時〜  収容所側と交渉(1時間程度)
 ・午後2時〜  牛久収容所出発 →午後5時頃 日暮里着
(連絡先)
 ・電話:070-6183-5165(田中)
 ・電子メール:shayda@da3.so-net.ne.jp(チームS電子オフィス)
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(3)シェイダさんが書く入管収容所の実態レポート(上)
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 (2)にも書きましたが、シェイダさんが牛久収容所の現場から、「入管収容による苦痛に関するレポート」を寄せてくれました。
 長文ですが、収容所での外国人の処遇のおどろくべき実態が手に取るように分かる内容となっており、思わず引き込まれます。今回と次回に分けて連載でお届けしますので、是非お読み下さい。

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<<<入管収容による苦痛に関するレポート(上)>>>

●●「人権先進国・日本」は仮面●●

 最近、日本に来る前に日本についてどう考えていたかを思い出してみました。当時私は、日本では人間の存在が大事にされており、少なくとも日本の政府から非人道的なことをされるなどということはないと思っていました。しかし今、私は痛みを全身で感じています。私は、日本はただ人権を宣伝という目的で使ってマスコミや世界の人をだましているのだということに気付きました。
 さて、牛久入国者収容所(東日本入国管理センター)の一週間のスケジュールを見てみましょう。
 一日三食、お風呂は一週間に三回。病気になったときは月曜日、火曜日、木曜日、金曜日は医師の診察を要求できます。
 また、週に二回渡されたメニューから買い物をすることはできます。
 週に三回、毎回30分程度、緑や植物などがなにもなく、屋根は網で出来ていて、まるで鳥かごのような所に「外出」することはできます。
 また、もし何か問題があったとき、それを収容所の管理責任者に伝えるために、廊下に置いてある意見箱(opinionbox)に入れることができます。管理者たちは、自分の好きなときに返事をします。実際には、今までこの箱に出して返事をもらったためしがありません。
 食事については、この15ヵ月間、ほぼ毎週、メニューの変わらない、同じ様なものばかり食べなければなりませんでした。この期間まったく料理が変わっていません。刑務所などでも、正月のような特別の日には、受刑者たちに特別な食事が与えられると聞いています。しかし、ここではそのようなことはありません。今は、弁当箱を見るだけで吐き気を憶えるようになりました。
 そんなわけで、食事を全く食べなかったり、または半分しか食べないことが多いです。売店から買うことが出来る食べ物、例えばカップラーメン、チョコレート、ビスケットなどについても、この15ヵ月間でまったく変わっていませんから、毎日のお弁当のと同じく、見るだけでも吐きそうになります。今はただ生きるために食事を取っているだけなのです。

●●まともな医療が受けられない収容所●●

 一日三食食べる理由はもう一つあります。胃を悪くしないためです。ここでは決められた日に入管の医師のところに行くことは、形式的には自由です。しかし、実際に行ってみると、きちんとした検査も、まともな薬もありません。あるときは、赤いプラスチックに入っている、似たような4種類の薬を見せて、この中から好きな薬を選んでくれ、といわれました。
 2001年4月11日には、右の耳の検査のために、牛久市の病院に連れて行かれました。なぜなら、右の耳がとても痛くて、耳鳴りがして、さらにその影響で顔面の右側が何も感じないようになったからです。その病院の医師は、何かの薬をわたし、毎晩寝る前に飲むように言いました。さらに、その薬を長期間、耳がよくなるまで飲むように言いました。
 そのうち、薬がなくなったので、入管センターの入国警備官に対して、その薬をもう一度出してくれと言いました。すると、次の日に入国警備官が、「入管の医師の検査を受けるように申請して下さい」といいました。私は「どうして」と尋ねました。すると警備官は、「病院の出している薬は、ここで出せる薬の中に入っていないので、もう一度出すことは出来ません」と言うのです。そこで入管の医師の所に行ったところ、医師は私に四種類の薬を見せ、「どれがほしいか選んでくれ」と言いました。私は医師の言うことがとっさに理解できず、「私の薬は病院の医師が決めているはずです」と言いました。すると医師は、そこにあった薬の一つを指さしながら、「これを一日三回飲んで下さい」と言いました。私は、病院の医師に「毎晩寝る前に一回」と指示されていたので、「病院に行ったときは、一日一回といわれました」と行ったところ、医師は「じゃあ、一日一回飲んで」と言うのです。
 全く本当におかしな話です。まるでお菓子を買うために菓子屋に行って、「好きなお菓子を選んで下さい、包みますから」と店員にいわれているみたいです。
 そこで、入管の医師に「ちゃんと検査してほしいんですが」と頼んだのですが、入管の医師は「母国に帰って、そこで診てもらいなさい。ここで検査したら日本政府がそのお金を支払わなきゃいけない。国のお金を外人のために使うのは、正しいことではありません」と言うのです。忘れてはいけません、日本は人権の尊重をかかげている国なのです。(次号に続く)
***第24号は近日中発行の予定です***


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第24号 2001年9月4日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)裁判は第二段階へ 〜第六回口頭弁論行われる〜
(2)収容所の厚い壁 〜牛久収容所交渉ツアーの報告〜
(3)イランでソドミー罪による死刑判決が下される
(4)シェイダさんが書く入管収容所の実態レポート(中)
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(1)裁判は第二段階へ 〜第六回口頭弁論行われる〜
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 東京では、今年の夏はどうも曇りがち、8月に入ってからは夏を感じさせる豪快な日というのはあまりありませんでしたが、皆様どうお過ごしになりましたか。
 さて、かわりばえのしない曇り空の8月28日、シェイダさん在留権裁判の第六回口頭弁論が行われました。
 シェイダさん在留権裁判は、提訴からすでに1年を経過しており、主要な論点はほぼ出尽くしています。今回の法廷は、これらの主要な論点以外の細かい論点についての議論の整理が中心となりました。
 今回問題になった論点は、以下の通りです。

(1)「退去強制令書」の違法性について

 この裁判は、シェイダさんを強制送還するという法務省の決定が違法かどうかを争っている裁判です。難民条約には、難民を迫害が行われる可能性のある国に送還してはならないという原則(ノン・ルフールマン原則)があり、日本の入管法にも、この原則に従う規定があります。法務省は昨年、シェイダさんを難民と認めない決定を行い、シェイダさんを強制送還する命令書(退去強制令書という)を発付したのですが、シェイダさんが難民に該当するなら、この処分は「ノン・ルフールマン原則」違反となり、退去強制令書の発付は違法だから取り消さなければならないということになります。
 ところが、「シェイダさん在留権裁判」の中で、裁判所はちょっと不思議なことを言い始めました。もしシェイダさんが難民だとした場合に、退去強制令書全体が違法で取り消されるべきなのか、それとも、退去強制令書に書かれた「送還先」(どこの国に送還するか)だけが違法で、そこだけを取り消せばいいのか、それについてシェイダさん側と法務省の主張を聞きたい、と言い始めたのです。
 これについてシェイダさん側は、送還先というのは退去強制令書の本質をなす部分だから、送還先が違法なら退去強制令書全体が違法となる、と主張する書面(原告準備書面3)を前回(7月3日)提出しました。法務省の主張が待たれていましたが、今回法務省が出した書面(被告準備書面3)には、次のような旨の主張が書かれていました。
 「そもそもシェイダさんは難民ではないのだから、質問自体ナンセンスである。」

(2)拷問と迫害の違いについて

 難民条約には、上に述べたような「ノン・ルフールマン原則」がありますが、拷問等禁止条約にも、「拷問を受ける可能性のある国に送還してはならない」という規定があります。今回、市村陽典裁判長はこの点について、拷問と迫害の違い、およびシェイダさんの場合この「拷問」がどのように問題になるのかについて主張してほしいと注文を付けました。

(3)シェイダさんが難民である理由について

 難民条約では、難民とみなしうる迫害の理由について「人種、民族、宗教、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見」の5つに限定しています。シェイダさんは同性愛という「特定の社会的集団の構成員であること」を理由に難民としての資格を主張していましたが、彼はそれ以外に、イランのソドミー法撤廃を政治的意見として掲げており、これも難民となるべき理由に当たります。
 裁判所はこれについて、シェイダさんが難民となるべき理由として「特定の社会的集団の構成員であること」以外に「政治的意見」も含まれるのかどうかを整理するようにシェイダさん側に注文を付けるとともに、法務省側にも、「特定の社会的集団の構成員であること」について何らかの主張があるなら主張するように示唆しました。
 裁判所は今回の法廷について、これらの論点について交通整理をするとともに、論点はほぼ尽くされたとして、次回までに証人申請を行うようにシェイダさん側に要請しました。次回の法廷は10月16日(火)午後1時30分からとなりました。
 現在、シェイダさんの弁護団では、欧米に拠点をおくイラン人ゲイの人権活動家を証人として立てることを含め、次回の法廷で証人申請をするための準備を行っています。次回の法廷で証人申請がなされれば、裁判はいよいよ、第二段階に入ることになります。これまで、書面の提出と調整だけで数分で終わっていた退屈な法廷も、いよいよ中身のある、面白いものになってくると思います。皆さん、傍聴のほどよろしくお願いします。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第七回口頭弁論>>      ┃
┃●日時:2001年10月16日(火)午後1時30分〜(1時集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<第七回口頭弁論 報告集会>>             ┃
┃●日時:2001年10月16日(火)午後2時〜         ┃
┃●場所:未定(弁護士会館5F会議室を予定)         ┃
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(2)収容所の厚い壁 〜牛久収容所交渉ツアーの報告〜
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 シェイダさんが逮捕されてから1年4ヶ月、牛久収容所に身柄を移されてから1年と1ヶ月がたとうとしています。シェイダさんは以前から、歯痛、耳痛、足の付け根部分の痛みなど、持病を抱えていましたが、長い収容生活と不十分な医療によってこれらの症状が悪化しています。
 シェイダさんは収容所に対して、何度も仮放免(仮の釈放)を申請しています。また、難民申請などの関係で裁判を行っている被収容者については、1年ぐらいの収容で仮放免されるのが普通となってきています。ところが、シェイダさんが4月27日におこなった3度目の仮放免申請について、牛久収容所は6月20日、異例の不許可決定を行いました。
 これに対してシェイダさんは6月28日、四度目の仮放免申請を行い、私たちチームSも、不許可決定に抗議し仮放免を求める嘆願書を集める行動を行い、8月31日までに326通の嘆願書を集めることが出来ました。ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。
 さて、私たちは8月31日、収容所のシェイダさんを激励するとともに、牛久収容所に対して嘆願書を提出し、シェイダさんの仮放免を求める交渉を行いました。

●○●ちょっとさびしそうなシェイダさん●○●

 午前中大雨に見舞われたこの日、牛久収容所を訪れたチームSのメンバーは全部で6名。3名ずつの面会となりました。
 入国警備官に引率されて面会室に入ってきたシェイダさんは、いつもの通りひょうひょうとした感じで、元気そうでしたが、どうも少しやせたような感じです。話し方もどことなく寂しそう。
 体の調子について聞いたところ、歯の痛み、耳の痛み、足の付け根の痛みとも、前と変わらない状況で、医者にもかかっていないということでした。これには背景があります。シェイダさんは7月、足の付け根の痛みの件で収容所の医療室をたずねたとき、医師に「イランに帰って、そこで治せ」と暴言を吐かれ、抗議したところ入国警備官に制止された挙げ句、医師に左手をたたかれるという暴力まで受けたのです。それ以降、シェイダさんは、収容所の医療室に行くのをやめました。
 シェイダさんは痛みに悩まされながらも、イランや欧米で発行されているペルシア語の新聞などを取り寄せ、同性愛者や女性に対する弾圧や処刑、民主化運動の活動家に対する弾圧などのニュースを集めています。今回の面会でも、シェイダさんはイランの反体制派がロンドンで発行している新聞「ケイハン・ロンドン」で先日報道されたソドミー罪による処刑のニュース(本ニュースアップデイト(4)参照)の裏をとるために、イラン国内で発行された新聞を取り寄せる努力をしている、と言っていました。

●○●収容所の厚い壁:お役人の答弁は「のれんに腕押し」●○●

 収容所の食堂で食事をした後、午後1時から、シェイダさんの主任弁護人である大橋毅弁護士を始めとする三名の代表団が、シェイダさんの仮放免について収容所当局と交渉を持ちました。
 収容所側の出席者は、鈴木正信・総務課長補佐と平川祐治・総務課係長(法務事務官)、および統括入国警備官の板垣氏(下の名前は分かりません)。
 私たちは最初に、要求書と、326名分の嘆願書を手渡した上で、要求書に従って、まずシェイダさんをただちに仮放免するよう要求しました。
 収容所側の答えは「現在、総合的に検討しているところです」。四回目の仮放免の申請は6月28日になされています。もう2ヶ月もたつわけですが、現在どの段階に達していますか、という質問には、「お答えできません」。
 次に私たちは、6月20日の不許可決定の理由について問いただしました。収容所の答えは「総合的に勘案して、仮放免をする理由がなかったからです」。ここで押し問答に突入。「では、どんな理由があれば仮放免されるのか示して下さい」。収容所側「あくまで個別に総合的に判断してということです」。
 法務省の内部規定である「仮放免取扱要領」では、仮放免の申請が出された際には、担当法務事務官、総務課長、主席入国警備官、警備監理官、次長、所長が意見および保証金の金額を表明し、東京入国管理局の主任審査官にお伺いを立てた上で所長がその可否を判断するということになっています。私たちは、これらの役職にある人物がどのような意見をつけたのかについても質問しましたが、収容所側は「個別のことについては言えません」。
 収容所側の主張は、およそ次のようなものです。「退去強制令書がおりた外国人は、帰国まで収容するのが原則」→「仮放免は例外で、特別の理由があるときにのみ認める」→「シェイダさんには、特別の理由が認められない」→「シェイダさんの仮放免は認めない」。この論理からすれば、「特別の理由」とは何か、また、「特別の理由がある」と判断する基準とは何か、ということになりますが、法務省はあくまで「個別に総合的に判断するということで、理由とか基準とかいうものはない。法律にもそれでよいと書いてある」の一点張りです。結局、押し問答の決着は付かず、話は収容所における医療の問題に移りました。
 私たちは、シェイダさんの書いた報告書(ニュースアップデイト前号および今号の記事参照)をもとに、入管の医療対応のちぐはぐさについてただしました。また、7月に収容所の医師がシェイダさんに対して行った暴言・暴力について、事実調査と謝罪を行うよう要求しました。収容所側は、少しは神妙な調子で聞いていましたが、それでも課長補佐からは「どうしてこの人が言っていることが全部本当だと言えるんですか」などという暴言がありました。

●○●問題の根源は入管法にあり●○●

 今回の交渉では、仮放免の判断については結局押し問答となり、具体的な前進をかち取ることは出来ませんでした。収容所側の態度はもちろん不当ですが、その態度の根源は、現行の入管法が、仮放免の判断について、収容所側の裁量権にその全てを委ねていることにあります。
 外国人に無期限の収容を強いている現行の制度については、国連人権委員会が強い懸念を示す見解を出すなど、国際的にも大きな問題となっています。しかし法務省には、この規定を改正する意思は全くないようです。
 仮放免に関するこの規定を始め、現行の入管法の規定の多くは、外国人に対する処分について明確な基準を定めず、何もかも行政の恣意的な判断で行えるようにしてあります。「何もかもお上のお心次第」……このような入管法のあり方が、入管官僚による専横や暴力を許すことにつながっていることは明らかです。
 シェイダさんの4回目の仮放の免申請に対する回答は、おそらく9月中に出ることと思います。私たちは、今回の決定がよいものであることを心から望んでいますが、それとともに、問題の本質である入管法が、一刻も早く、収容されている外国人の人権を尊重する内容に改正されることを望んでやみません。

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(3)イランでソドミー罪による死刑判決が下される
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 ロンドンで発行されている反体制派の週刊紙「ケイハン・ロンドン」第867号によると、イラン東部アルダビール州 Ardabil のメシュギーン・シャフル市 Meshgin Shahr で7月、一人の男性が少年とソドミー行為を行ったとして死刑判決を受けました。この事件の第一報は、現地の新聞シアサト・ルズ Siasat Ruz 紙によって報道されたもので、男性の身元は明らかになっておらず、死刑は絞首刑によって執行されるということです。
 ちなみに、アルダビール州はトルコ系アーザルバーイジャーン人が多く住む山岳地域で、メシュギーン・シャフルは温泉地として有名なところです。
 ハータミー師の大統領再選以降、イランでは、保守派の主導により風紀の取締りが強化されており、飲酒を伴うパーティや宴会に対する弾圧や、姦通罪による女性への石打ち刑などが頻発しています。また、日本でも報道されましたが、イランの家父長制社会でほんろうされる女性の運命を描いた映画「二人の女」 The two women で国際的な評価を受けた女性映画監督タハミネー・ミラニ Tahmineh Mirani 氏が、イスラム革命体制を侮辱したとして革命裁判所によって拘束されるなどの事件も起こるなど、保守派による弾圧は激しさを増しています。
 同じイスラム圏のエジプトで、5月にナイル川でパーティーを楽しんでいたエジプト人ゲイ52名が逮捕され、裁判にかけられているという事例もあり、イランでもその影響で同性愛者への弾圧が強まりそうな気配があります。イラン情勢に注目が必要です。

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(4)シェイダさんが書く入管収容所の実態レポート(中)
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 前号に掲載した「シェイダさんが書く入管収容所の実態レポート」の続きを掲載します。

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<<<入管収容による苦痛に関するレポート(中)>>>

●●入管の医師が難民申請者に「イランに帰って治療しろ」と恫喝●●

 2001年の7月5日には、こうがんに激しい痛みがあったので、入管センターの医師の所に行きました。この痛みは以前からありましたが、最近はとても激しくなってきて、小便をするときも力が入らないほどいたいのです。その影響で腰もいたくなってきて、足を伸ばすととてもしびれます。入管の医師が診察をするときは、いつも入国警備官がそばにいます。
 入管の医師は、検査もせずに「これは病気ではありません」と言い、こうがんの痛みに効くなどといってインテバン軟膏を出しました。しかし、私は知っています。この病気は身体の内部から来るものであり、これまでこの病気について受診したどの医師も、血液検査や尿検査をせずに薬を出すようなことはしなかったのです。そこで私は、もっと注意して検査してほしいと頼んだのですが、入管の医師は「なぜお前に、もっと注意しなければならないということがわかるのだ」と聞き返しました。私はそれに対して、「私がイランにいたころ、二年間病院で働いたことがあり、その経験から言っているのです」と言ったのですが、それに対して入管の医師は「じゃあ、イランに帰ってそこで薬をもらえばいいじゃないか」というので、私は不快に思い、「ここは医務室なのか、それとも強制送還のための役所なのか」と質問しました。すると入国警備官が、大声で私を叱りつけました。
 私は、このようなことを言われるのは初めてではありません。そこに立っていた看護婦にも、同じ様なことを言われました。驚くべきことに、医師は私の左手をたたいたのです。私は、「医師には私をたたく権利がないのに、なぜたたくのか」と抗議すると、警備官は医師には何も言わず、私に対して大声を出して、私を部屋から外に出したのです。
 面白いことに、看護婦は、「ここは日本であり、治療も日本人のためなのだ」と言っていました。しかし、看護婦に聞いてみたいのですが、今まで日本人が一人でも、入管センターの医務室に治療に来たことがあるのでしょうか? 

●●入管収容所の医療は官僚主義の典型例●●

 さて、私は耳を悪くしていますが、それに一番いけないのが大きな音です。私は6畳の部屋で3名と一緒に生活しています。朝の8時30分から夜の10時まで、テレビがつけっぱなしになっており、とてもうるさいのです。また、他の部屋からも同じ様な音が聞こえてきます。 
 これらの音は、私にとって拷問されることと同じように感じられます。そのせいで、私の耳はいつも激しい痛みがあり、耳鳴りもします。しかし、入管の医師は、それはあなたの部屋の問題なのであって、私には何もできません、我慢するしかないですね、と言っています。
 歯の痛みも昔からの問題です。昨年の8月から、国の費用で治療すると言われ続け、病院に受診させてくれませんでしたが、今年の5月になると、自費で治してくれといわれました。その後、2001年6月27日、牛久市の歯科医に行った際に、歯が金めっきされてるから一週間から二週間ぐらい、歯の痛みが続きますといわれました。もし2週間たっても歯の痛みが直らなかったら、歯の問題が解決されなかったということです、といわれました。しかし、2001年7月12日になっても歯の痛みが続いたので、金めっきをつけた歯科医のところに連れて行くようにと要求しました。しかし、要求してから8日目になって、つまり7月19日に、入管当局から、今度は私たちが治療するので、もう一度入管の医師の検査を受けるように申請してくれと言われたのです。
 外国人をバカにしているとしか思えません。5万円払って外部で治療したのに、その後はここで自分たちが治すなどと言い出すのです。19日に入管の歯科医の治療を受けるために申請を出しても、歯科医の診察は23日にならないと受けられません。また、ここで歯の痛みの原因が分かるなら、それはそれでいいのかも知れませんが、もしかしたら歯科医の診察が31日になるかも知れません。さらに、歯科医が入管での治療は無理と判断した場合には、もう一度自腹で外部の病院で医師の検査を受けなければならないのです。無駄に数週間が費やされてしまうわけですが、この間に私の歯はどうなってしまうのでしょう。また、私は歯の痛みに耐えながら一日二回、痛み止めを飲まなければならないのです。もし、私に医療を受けさせないなどの嫌がらせをするつもりがないのなら、なぜ私が要求を出した次の日の13日ではなく、8日後になってはじめて回答を出したのでしょうか。
 また、さきのこうがんの治療の話ですが、正直言って、先日の入管の医師や入国警備官の非人道的な態度以来、もうそこにはいきたくありません。入管の非人道的な態度を我慢することは出来ません。あの医師に会うくらいなら、痛みと死を選択します。一週間前から風邪を引き、のどが痛いのですが、医師の所には行っていません。
(次号に続く)
***第25号は近日中に発行の予定です***


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第25号 2001年9月26日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん在留権訴訟、折り返し点に
 〜第七回口頭弁論は10月16日(火)午後1時30分〜
(2)国連、ついに動き出す
 〜シェイダさんを難民認定するよう、法務省に働きかけ開始〜
(3)シェイダさん関連ニュース短信
 ・米国の戦争政策で緊迫するイスラム世界の情勢
 ・アフガニスタン・ハザラ人難民認定の状況
 ・日本政府が今国会で入管法改悪を検討
(4)シェイダさんが書く入管収容所の実態レポート(下)
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●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)シェイダさん在留権訴訟、折り返し点に
 〜第七回口頭弁論は10月16日(火)午後1時30分〜
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 10月16日、「シェイダさん在留権訴訟」は第7回口頭弁論を迎えます。
 今回の法廷は、書面の提出による主張の出し合いの段階から、証人尋問など、次のステップにうつる、ちょうど「折り返し点」となる法廷です。シェイダさん側は、今回の法廷で次のことを行う予定です。

(1)証人申請:イランの同性愛者のおかれた事情について米国から証人申請

 シェイダさん側は、イランにおいて同性愛者がおかれている生の現実を語ることのできるイラン人の証人を申請しようと、欧米を拠点に活動するイラン人同性愛者の団体やイラン人の人権擁護団体などに働きかけを行ってきました。その結果、米国オレゴン州在住のイラン人、グダーズ・エグテダーリ Goudarz Eghtedari 氏が、シェイダさんの法廷に証人としてたつことを快諾してくれました。
 エグテダーリ氏は、米国ポートランド大学でシステム工学の研究に従事する傍ら、「イラン人権グループ米国支部」Iranian Human Rights Group USA の議長を務め、イランの人権状況について監視を行っている「イラン人権ワーキンググループ」 Iranian Human Rights Working Group の執行委員に就任しています。イランにおける同性愛者に対する迫害状況については、「イラン・イスラム共和国と姦通・同性愛に関する死刑の執行」という論文を執筆しているほか、シェイダさんの裁判のために、イランの同性愛者の死刑執行状況について専門家としての意見書を執筆、証拠資料として提出しています。
 シェイダさん側としては、このエグテダーリ氏と、シェイダさん本人を証人として申請し、イランの同性愛者がおかれている迫害の現状についての証言を得て、シェイダさんを難民として受け入れる必要性を立証して行くつもりです。

(2)書面提出:シェイダさんが難民である理由を再整理

 シェイダさん側はこれまで、様々な形でシェイダさんが難民である根拠を主張してきましたが、法務省は「これまでに述べられてきたことの繰り返しに過ぎない」などと切り捨ての姿勢を崩していません。
 そこで、シェイダさん側としては、シェイダさんがイランで生活していたころにおかれていた状況から、来日してカミングアウトし、現在に至るまでのプロセスをもう一度まとめ直し、シェイダさんにはどのような迫害の危険性があり、なぜ難民認定しなければならないのかということについて、再度、懇切丁寧に説明する書面を作成し、提出する予定です。
 この書面では、シェイダさんの迫害の可能性として、同性愛者であること(=「特定の社会的集団の構成員」)、および、自己の性的指向に関わる「政治的意見」(=刑法の反ソドミー条項の撤廃や同性愛者への迫害の停止など)の二点を挙げ、さらに、シェイダさんのこれらの主張が、すでにイランの治安当局などに知られている可能性を強く指摘して、強制的に帰国させられた場合に迫害にさらされる危険性が高いことを説明しています。
 さらに、米国、ドイツ、ニュージーランドの難民認定の判例を紹介して、そもそも同性愛者への迫害がきびしいイランに同性愛者を強制送還すること自体が社会的迫害に当たるとの主張を展開しています。
 
 今後、裁判はとくに証人尋問に向けて大きく動き出していくことになると思います。エグテダーリ氏が証人として採用された場合には、その証人尋問は大きな山場になると思います。皆様、ぜひ傍聴のほどお願いします。また、招へいにあたっては、約30万円程度の費用がかかります。その際には、カンパ等のご協力をお願いすることになるかもしれませんが、ぜひともよろしくご支援のほどお願い申しあげます。
 10月半ばといえば、秋も深まるころですが、ぜひとも法廷に足をお運び下さい。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第七回口頭弁論>>      ┃
┃●日時:2001年10月16日(火)午後1時30分〜(1時集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<第七回口頭弁論 報告集会>>             ┃
┃●日時:2001年10月16日(火)午後2時〜         ┃
┃●場所:未定(弁護士会館5F会議室を予定)         ┃
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(2)国連、ついに動き出す
 〜シェイダさんを難民認定するよう、法務省に働きかけ開始〜
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 シェイダさんは2000年4月に逮捕された直後から、日本政府に対して難民認定を求めるとともに、難民の保護のために国際的に活動している国連の組織「国連難民高等弁務官事務所」(UNHCR)に対して、シェイダさんを難民として認め保護することを求めてきました。また、欧米に拠点をおく亡命イラン人同性愛者の人権運動グループ「ホーマン」も、UNHCRがシェイダさんを難民と認めるよう、度重なるキャンペーンを行ってきました。
 申請から1年半たった9月、UNHCRはついに腰を上げました。UNHCRが今回行った決定は、およそ次のようなものだということです。

(1)シェイダさんに対して難民認定を行うよう、日本政府・法務省に要求する。(仮放免など待遇改善に関しても)
(2)シェイダさんに対して財政的支援を行う。

 UNHCRが上のような決定を行った背景としては、日本政府が難民の受け入れに極めて消極的で、UNHCRとしても日本の消極的な難民受け入れ政策を変えたいと考えているということがあります。そこで、UNHCRが自ら公式に難民認定の指示(マンデイト)を出して、シェイダさんを第三国に受け入れるという方向性をとる前に、まず本来難民を受け入れるべき国に対して、難民認定と保護を行うよう説得を続けるという方針をとっているようです。
 その上で、最終的に日本政府が説得に応じず、難民認定をしなかった場合には、最終的な解決方法としてUNHCRのマンデイトを出すというのが普通です。
 現段階では、法務省は未だにシェイダさんの難民認定を拒んでおり、シェイダさんは牛久収容所に収容されたままです。しかし、近年においては、UNHCRが要難民認定・要保護と認定した人について、日本政府が退去強制に及んだ例はありません。難民認定をめぐる法務省との闘いはまだまだ続きますが、今後日本政府がシェイダさんをイランに強制送還する可能性はほぼなくなったとみていいでしょう。
 牛久収容所のシェイダさんは、UNHCRの決定の通告を受けて、とても安心したようで、ちょっと気持ちに余裕ができたようでした。私たちも、今回のUNHCRの決定を歓迎し、UNHCRとともに法務省にシェイダさんの難民認定を迫っていこうと考えています。

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(3)シェイダさん関連ニュース短信
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○●○米国テロ事件に対する「国際イラン人難民連合」の声明●○●

 9月11日、米国ニューヨークの世界貿易センタービルと国防総省を、史上空前のテロが襲ったことはご存じの通りと思います。3機の飛行機がハイジャックされた挙げ句、乗客もろとも世界貿易センタービルおよび国防総省に突入、6000人あまりが行方不明となっています。
 米国政府はその後、このテロ事件について、イランの隣国アフガニスタンの9割を支配するパシュトゥーン人中心のイスラーム原理主義勢力、タリバーン政権にかくまわれているといわれるウサマ・ビン=ラーデン Usama Bin-Laden 氏につらなるテロリスト・ネットワークによるものであるとの憶測を強めています。
 現在のところ、米国政府の憶測には、必ずしも説得力ある裏付けはありません。米国政府は、アラブ人ばかり19名で構成される「乗っ取り犯」リストを公表しましたが、その後このリストに掲載されていた人のうち少なくとも5名が、犯行に全く関わりなく別の場所に生存していることが明らかになるなど、性急にことを進めようとする米国政府の、事実調査に関するずさんな実態が明らかになりつつあります。
 しかし米国政府は、そんなことにはお構いなしに、アフガニスタンを中心とした中東地域への戦争の準備を着実に実行しつつあります。米国の戦争政策は、それがまだ発動されていない現在の段階から、アフガニスタンを中心とした中東の人々の社会生活に極めて大きな影響を与えつつあります。
 この中で、欧州に拠点をおくイラン人難民の権利擁護団体「国際イラン人難民連合」Hambastegi, International Federation of Iranian Refugees は9月24日、機関誌「ハンバステギ」第108号において、「テロリストたちはテロを終わらせることはできない、できるのは民衆のみ」(Terrorists Cannot End Terrorism, Only We Can)という表題の声明を発表しました。
 声明の要旨はおよそ以下の通りです。

●アメリカの人民を襲った9月11日のテロ事件は、人道に反する犯罪であり、ジェノサイド行為である。IFIRは犠牲者とその家族・友人たちに最大の哀悼の意を表する。またIFIRは、この犯罪に責任ある者を拒絶する。我々はそれが何者かを知っている。

●反動的な政治的イスラーム運動 The reactionary political Islamic movement は、米国におけるテロリズムに最大の責任を負っている。また、米国だけでなくイラン、アフガニスタン、イラク、サウディ・アラビア、パレスティナ、スーダン、アルジェリアにおいても、これらの勢力は非人道的なジェノサイド行為を行い、人々に不寛容を強いている。アフガニスタンでは、タリバーン政権が女性を学校や職場から追放している。イラクでは、セックスワーカーが斬首に処せられている。21世紀になるというのに、自発的な性交渉に関して石打ち刑が適用され、公開処刑が当然のごとく行われている。

●しかし、これらの運動は、テロリストとして拒絶されるべき勢力の一方に過ぎない。これらの政治的イスラム運動を育成し、冷戦時代にこれを社会主義勢力に対抗する勢力として利用してきた西側諸国の政府も、同様の責任を負わなければならない。例えばイランにおいて、ホメイニー師を中心とする宗教主義勢力は、1979年の革命で勢力を拡大した左翼への対抗物として押し出された。アフガニスタンの宗教主義勢力は、ソ連に支えられた政府に対抗するために育成された。

●私たちは、すでに誰がテロリストかを知っている。米国はこの危機を、超大国たる地位を没落から救うために利用している。彼らが行う戦争によって、テロリズムを終わらせることはできない。

●テロリズムを終わらせることができるかどうかは、私たちの闘いにかかっている。パレスティナ問題の解決、非宗教的 secular 運動の支援など、多くのことが成し遂げられなければならない。また、アフガニスタンやイランなどにおける政治的イスラーム運動の迫害から逃れてきた難民に対して国境を開放し、難民としての保護を与えることが必要である。

●テロリストたちはテロを終わらせることはできない。それができるのは民衆のみである。

○●○緊迫するアフガニスタンの難民情勢●○●

 米国はウサマ・ビン=ラーデン氏とタリバーン政権を標的に、アフガニスタンに対する戦争政策を性急に進めていますが、その影響でアフガニスタンでは大きな混乱が生じています。
 折しも、アフガニスタンでは20年間もの内戦に加え、この30年で最悪といわれる干ばつに見舞われ、北部を中心に60万人もの難民が新たに発生し、米国のテロ事件が起こる前の段階で既に極めて厳しい状況にあるといわれていました。国連の緊急援助コーディネイターである大島賢三氏はこの二月、パキスタンとアフガニスタンを訪問して、現在のところ百万人が飢餓に瀕しており、適切な援助が行われなければ破局を導く可能性があると述べています。
 9月11日に発生した米国のテロ事件とその後の米国の戦争政策の展開により、情勢はさらに厳しい状況となっています。爆撃を予期するアフガニスタンの人々は難民としてパキスタン国境に押し寄せていますが、パキスタンは国境を閉鎖し、有効なビザを持つ人しか受け入れないという体制をとっています。イランも同様に国境を閉鎖している状態です。国際イラン人難民連合は9月24日、パキスタンとイランは国境を開放すべきであり、西欧諸国もアフガニスタンの難民を保護すべきであるとの声明を発表しました。

●○●日本政府はハザラ人難民を受け入れよ○●○

 アフガニスタンのタリバーン政権は、米国がテロの首謀者と憶測しているウサマ・ビン=ラーデン氏をかくまっているということで、にわかに注目されてきましたが、そもそも1996年のカブール入城以降、女性や同性愛者の虐待、ハザラ人やウズベク人、タジク人など少数民族の虐殺政策などで、その統治は悪名を馳せてきました。
 とくに、1998年の北部の都市マザリシャリフ制圧以降、ハザラ人を徹底的に虐殺しており、ハザラ人たちはイランやパキスタンに難民として流出しています。これらの国を経由して、日本にもハザラ人が難民申請を求めてきています。
 日本政府は、そのうち若干名の人々を難民認定しましたが、不認定とされた人々も相当数います。とくにグラム・フセインさんら4名は、1999年7月に来日し10月に難民申請しましたが不認定処分とされ、大阪府茨木市にある収容所に収容された挙げ句、仮放免に際しては300万円もの保釈金を要求されました。現在も裁判が続いています。
 タリバーン政権によってハザラ人が虐殺を含む迫害を受けていることは明白であり、日本政府はハザラ人難民に広く門戸を開くべきです。

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(4)シェイダさんが書く入管収容所の実態レポート(下)
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 これまで二回にわたって掲載してきたシェイダさんの入管レポート、今回が完結編です。日本の入管収容所のこの状況を変えるために、私たちは何をすればよいのか。日本人に課せられた課題だと思います。
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<<<入管収容による苦痛に関するレポート(下)>>>

○●○外国人の権利を度外視する入管収容所職員たち●○●

 人権を尊重すると形だけは言っている入管の、収容者に対する非人道的な扱いを、私は我慢できません。夜寝るとき、他の部屋から、自分の子どもに会いたいという男性のうめき声が聞こえてきます。入管はその男性に、「子どもをおいて帰れ」と言います。逮捕された後、就労していたときの給料をもらうために収容所で待っている人たちもいます。経営者は彼らの給料を払わないのです。その痛みも聞こえてきます。このようなこともあって、責任感のある人々は、精神的な痛みを感じざるを得ません。入管の職員は、「君たちが自分の権利を獲得できるかどうかは私たちには関係ない、私たちの仕事は、君たちを逮捕して国に強制送還することだ」と言います。人の気持ちを少しでも考えれば、こんなことを言えるものではありません。
 また、国際人権法では、精神病患者を収容してはならないことになっているはずです。患者が治療を受けるためには、精神病院に入院させるのが適切です。しかし、私は精神病の患者と同じ部屋にいるのです。
 2001年6月22日、私の歯の治療についてこれまで入管側がとってきた不適切な態度について、手紙を書いて提出しました。しかし、まだ返事をもらっていません。この手紙を本書簡と同時に提出しました。
 私は、ここに収容される前の自分と同じではないと感じています。24時間耳が痛く、集中力も続きません。本の同じページを何回も読まないと頭に入りません。私は、ここに収容される前は、暇なときは本を読んでいました。しかし、今は簡単なお話を読むこともかないません。もちろん、むずかしい本を読むのは無理な状態です。相手の話をきちんと聞けず、集中力もないので返事をするのもむずかしい状態です。相手には、何をぼうっとしているのか、訳の分からない返事をしているのはなぜかと言われます。いつも、疲労しています。
 7月19日には、7〜8人の人が、収容所を視察するために、私服姿で来ていました。その中の一人が、廊下においてある意見箱の前に立ち止まったので、私は単純に、収容外国人の抱えている問題を聞くためにここに来たのかな、と考え、その人の前に行って、この箱に意見を出しても、返事をもらったためしがない、といいました。しかしその人は、バカにするような笑いを浮かべて、何の返事もせずに出ていったのです。この態度に、私は自分の死を願うより他ありませんでした。このような軽蔑をうけ、頭から冷たい水をかけられたような気分でした。収容所の中にいた一人の外国人は、彼らに向かって、君たちはここにふざけるためにきたのか、と言いました。彼らは外国人を人間扱いしていないのです。彼らのこの態度は、彼らが外国人を動物よりも低い存在であると思っていることを示しています。

●○●非人道的な「無期限収容」○●○

 もしいつか、この収容所から釈放されても、前の自分に、つまり、収容される前の状態に戻るには数年かかるでしょう。ときどき突然、寝ていてふと目が覚めてみると、全身が冷や汗でびっしょり濡れていることがあります。また、体が彫像のようにかたくなって動けなくなることもあります。これは、この収容の15か月間で心身に受けた苦痛、そして入管の職員からのウソや偽りの話によって、このような状態に追い込まれているのです。ここでの一ヶ月の生活は、まるで一年のように感じます。
 このおそろしい夢はいつか終わるのでしょうか。受刑者は罪を犯し、そのために収容されたのであって、釈放されるのがいつかも分かっています。しかし、私の罪は何でしょうか。私は同性愛者であり、そのために、祖国に帰ることが出来ないのです。イランでの同性愛者の処罰は死刑です。家族さえも、自分たちの子どもを受け入れず、同性愛者の存在を社会の恥と考えているのです。
 イランには、私には何の選択肢もなく、自由かつ平穏に暮らす方法は何もないのです。私は、イランでゲイに対する迫害や差別、死刑の執行が行われていないなどという主張があることに、驚きを感じます。
 私は、いつまで収容所にいなければならないのでしょうか。明日がどうなるかも分からないのは、一番つらい精神的な拷問です。日本の入国管理局の体制をみていると、はっきりいって人間に生まれてこなかったら良かった、と思います。感情がなかったら良かった、と思います。人間に生まれてきたことを後悔するとともに、明日をも知れぬ将来のことを考えると、焦燥感にかられます。
読んで頂いたことに感謝します。
シェイダ
2001年7月23日

***第26号は近日中に発行の予定です***


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第26号 2001年10月13日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん在留権裁判 第7回口頭弁論に是非ご参加を!
(2)大阪のアフガン人少数民族の難民申請者が上京、法務省と交渉へ
   〜10月15日(月)、記者会見、集会も予定〜
(3)アフガン人少数民族の難民申請者を有無を言わせず強制収容
   〜東京入管がテロ対策の名の下に異例の難民申請者弾圧〜
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(1)シェイダさん在留権裁判 第7回口頭弁論に是非ご参加を!
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 昨年7月の提訴以来1年3ヶ月にわたって続いている「シェイダさん在留権裁判」。第7回口頭弁論が、来週の火曜日、10月16日(午後1時30分)に迫ってきました。
 「ニュースアップデイト」前号(25号)で、今回の法廷がシェイダさん在留権裁判の一つの折り返し点となることをお伝えしました。今回の法廷の意味と、シェイダさんのおかれた状況の変化について、簡単に整理してみたいと思います。

<1.国連難民高等弁務官事務所がシェイダさんへのサポートを決定>

 まず重要なのは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がシェイダさんのサポートをついに決定したということです。
 UNHCRは、シェイダさんの難民としての受け入れと仮放免を法務省に要請します。最終的に受け入れが不可能になった場合には、UNHCRは第三国への出国の道を開く努力をすることになります。シェイダさんがイランに強制送還されるという最悪の事態は、ほぼ回避されたとみてよいでしょう。
 UNHCRがサポートを決定した背景には、シェイダさんが収容所で、「ケイハン・ロンドン」などペルシア語の新聞を外国から取り寄せ、チェックして、ここ1年のイランでの同性愛者の死刑や弾圧に関わる記事を収集し、証拠化したことがあります。改革派のハータミー政権のもとで、国際社会においても、ともすればイランにおける人権問題が見過ごされる傾向があり、同性愛者への弾圧についても、必ずしも国際的に報道されない状況になっている中で、ここ1年のイランでの同性愛者弾圧を証拠化できたのは、シェイダさん自身の丹念な努力、そしてボランティアで翻訳に携わってくれている翻訳者のかたの努力によるものです。

<2.今回の裁判の意味>

 今回の裁判では、シェイダさん本人、そしてイランの人権問題についての情報収集や研究に携わっている在米イラン人人権活動家グダーズ・エグテダーリさんの二人を証人申請します。
 エグテダーリさんは、アメリカ合州国オレゴン州ポートランド市の在住で、ポートランド州立大学でシステム工学などの研究に当たるかたわら、イランの人権問題についての調査と活動を行っています。彼には、同性間性行為を禁止するイランの刑法の変遷や現状についての著作がある
(URL: http://www.ihrwg.org/CP/cirapapr1.htm)
ほか、シェイダさんの裁判のために、イランでの同性愛者の処刑の実態についての意見書を執筆してくれました。これは国外で報道されているイランでの同性愛を理由とした処刑ケースをいくつかのタイプに分類し、実際に数多くの同性愛者がイランで処刑されているという事実を明確に示したものであり、「同性愛はイランで一般的な現象」などという法務省側の主張を完全に論破しています。
 エグテダーリさんが証人として採用されるかどうかは、今回の法廷か、もしくは次回の法廷で決まります。もし本決まりになった場合には、エグテダーリさん招聘に向けて本格的な作業が始まることになります。なお、エグテダーリさん招聘には、最低でも30万円程度の資金がかかり、チームSとしても資金捻出が重要な課題となります。
 このように、今回の法廷は、シェイダさん在留権裁判のターニング・ポイントとして、今後のシェイダさん裁判の行方を大きく左右するものとなるでしょう。
 裁判所がエグテダーリさんを採用するかどうかについては、予断を許しません。多くの人がこの裁判に注目していると裁判官が認識すれば、おそらく裁判官は、慎重に決断を下すためにエグテダーリさんの採用に傾くでしょう。一方、裁判官が「こんな裁判、適当にやればいいや」という考えであれば、エグテダーリさんは採用されないかも知れません。裁判官が、本気で裁判に取り組むかどうかは、裁判の注目度に大きくかかっています。多くの方が傍聴すれば、それだけ裁判官は本気で法廷にならざるをえません。ぜひとも、多くの方に傍聴への参加をお願いします。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第七回口頭弁論>>      ┃
┃●日時:2001年10月16日(火)午後1時30分〜(1時集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<第七回口頭弁論 報告集会>>             ┃
┃●日時:2001年10月16日(火)午後2時〜         ┃
┃●場所:弁護士会館502会議室                ┃
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(2)アフガニスタン難民と「チームS」
 〜法務省の苛烈な難民政策の犠牲となっているアフガン難民に連帯を〜
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 9月11日の米国同時多発テロ事件以降、米国はこのテロ事件の首謀者をウサマ・ビン=ラーデン Usama bin Laden 氏と断定、ビン=ラーデン氏が拠点を持つアフガニスタンを報復戦争の主要なターゲットとしてきました。10月8日からは米英軍による空爆まで開始され、アフガニスタンを中心とする中央〜南アジア地域は緊張に包まれています。
 しかし、アフガニスタンの人々の苦難は、今に始まったことではありません。アフガニスタンの国土の9割を支配するタリバーン政権は、少数民族や同性愛者などの社会的少数派に対して、残虐な処刑や虐殺など、イランと比較してもはるかに苛烈な弾圧を行ってきました。また、女性に対しても、激しい抑圧を加えています。1998〜99年にタリバーン政権が北部マザリシャリフ周辺を制圧したことにより、モンゴル系のハザラ人など少数民族が虐殺の対象となり、ハザラ人の多くは迫害を逃れてイランやパキスタンなどに逃亡、難民となりました。これらハザラ人の中には、欧米や日本に逃れた人もいます。しかし、日本政府はハザラ人に対して、適切な処遇を行ってきませんでした。虐殺を逃れて日本にきたハザラ人の多くは、今度は難民不認定になって強制収容所に収容されたり、何年もの間、難民申請を放置されて不安定な身分のままにおかれるなど、日本政府の苛烈な入管政策の犠牲になってきました。
 さらに、法務省・東京入国管理局はこの事態を受けて、今年になってから日本に逃れ、難民申請を行ったハザラ人らに対して、認定・不認定の決定を出す前に収容令書を発付、強制収容所に収容して、あろうことかタリバーン政権やビン=ラーデン氏との関係について事情聴取するといった、これまでの難民認定実務に照らしても異常な処分を行い始めています。
 私たちチームSは、イラン人ゲイ難民シェイダさんの救援活動を中心に行っていますが、難民申請者全体の法的地位を揺るがすこのような事態に直面して、アフガニスタン難民申請者の権利を回復するための運動に積極的に協力していこうと考えています。こうした運動は、引いてはシェイダさんや日本の難民申請者全体のおかれた状況を守り、その地位を底上げしていくことに結びつくと考えるからです。

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(3)大阪のアフガン人少数民族の難民申請者が上京、法務省と交渉へ
   〜10月15日(月)、記者会見、集会も予定〜
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 1998年から99年にかけて来日し、難民申請を行ったものの不認定とされ、裁判で闘っている大阪在住のアフガン少数民族難民申請者たちが、10月15日(月)上京し、法務省に申し入れをを行います。
 申し入れの後には、法務省記者クラブにおいて記者会見(午後3時30分〜)、集会「今こそアフガニスタン難民に難民認定を!市民集会」(午後4時30分、衆議院第二議員会館第三会議室)を開催します。関心を持つ多くの人のご参加をお願いします。

●○●タリバーン政権の虐殺にさらされたアフガニスタン少数民族●○●

 行動を主催するのは、カトリック大阪大司教区国際協力委員会。1999年末よりアフガニスタン人難民認定申請者の支援に取り組んできました。彼らは同国で少数民族であるハザラ人とケゼルバッシュ人に属し、宗教はシーア派の人々です。
 ハザラ人の人々はアフガニスタン社会で伝統的に差別されてきた人々であり、ソ連撤退後の混沌とした状況によって煽られた民族対立の犠牲になり、さらにタリバンによる国土制圧の過程で、ハザラ人にとって歴史上かつてない迫害に直面しました。「血の3日間」とでもいうべき1998年8月のマザリシャリフの虐殺では、4000人とも6000人とも言われる市民が虐殺されましたが、犠牲者の大半はハザラ人であったと言われています。
 2001年9月11日の米国における「テロ」は、「忘れられた内戦」の地であるアフガニスタンに人々の関心を集めることとなりましたが、タリバンによるシーア派の人々、特にハザラの人々の拷問、虐殺、略奪の数々こそ、アフガニスタンの内戦のもう1つの真実です。そして私たちが支援するアフガン難民認定申請者こそ、その真実を証する歴史の証人です。

●○●日本政府はアフガン人少数民族に難民認定を!●○●

 日本にも、昨年から今年にかけて、タリバーンの迫害の激化に伴い、数十名から百名にのぼるハザラ人が来日し、難民認定を申請しています。しかし日本政府は、そのうち数人を難民認定しただけで、中には難民不認定の上アフガニスタンへの強制送還命令を出して強制収容所に閉じこめ、仮放免の保証金として300万円を支払わされた挙げ句、現在裁判を闘っている人もいます。
 日本政府は、米国がアフガニスタンに軍事侵攻するという現下の状況で、「難民支援」を打ち出していますが、それが真に苦しむ難民に対して向けられた言葉であるなら、まず国内にいる、タリバンによる迫害から逃れて庇護を求めている人々を受け入れ、安定した地位を与えるべきです。彼らが経験してきた苦しみと恐怖、そして家族への思いに誠実に向き合うことこそ、今後必要になる長期的な視野に立った、包括的、多元的な取り組みの出発点であり、試金石ではないでしょうか。
 主催団体では、今回、早期の難民認定を求めて、申請者本人らとともに行う法務省への申し入れに合わせて、日本にいるアフガニスタン難民認定申請者の現状を知っていただくための集会を下記の要領で呼びかけたいと思います。ぜひとも多くの方々のご参加をお願い申し上げます。

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   今こそアフガニスタン難民に難民認定を!市民集会
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○日時:10月15日 午後4時30分〜6時
 (午後2時〜法務省交渉、午後3時30分〜記者会見)
○場所:衆議院第二議員会館第三会議室
 (営団地下鉄国会議事堂前駅下車)
○内容:アフガン人少数民族の難民申請者からの発言、
 東京におけるアフガン人難民申請者弾圧についての報告など
○主催:カトリック大阪大司教区国際協力委員会(担当:松浦)
 ・大阪市中央区玉造2−24−22
 ・電話:06-6941-4999/Fax:06-6920-2203
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(4)アフガン人少数民族の難民申請者を有無を言わせず強制収容
   〜東京入管がテロ対策の名の下に異例の難民申請者弾圧〜
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 次に、東京のアフガン人少数民族の難民申請者たちが、法務省・東京入管の厳しい弾圧にさらされているというニュースです。
 10月3日、新聞各紙でアフガン人ら12名が不法入国などの容疑で東京入国管理局に拘束され、北区十条の強制収容所(入国管理局収容場)に収容されたとの報道がなされました。その後の弁護士の調査により、これらのアフガン人たちのほとんどが、アフガニスタンの9割を支配するタリバーン政権(パシュトゥーン人主体)による民族虐殺に直面してアフガンを逃れ、今年になってから日本に入ってきたハザラ人らアフガン少数民族であり、弁護士などによって確認された人全員が、本年8月頃までにすでに難民申請を行っていたことが明らかになりました。

●○●タリバーンの迫害にさらされたアフガン人少数民族を出しにテロ対策?●○●

 そもそも、ハザラ人などアフガン人少数民族は、タリバーン政権やウサマ・ビン=ラーデンのグループなどとは敵対関係にあり、テロと関連があるわけがないことは初めから明らかで、東京入管のこの措置は、まさに失態とさえ言えます。
 東京入管によるこの措置の背景に、実は米国のテロ事件に関連して、アフガニスタン人の難民申請者などをテロとの関連で調査せよとの政府首脳の指示があることが、弁護士等の調査で明らかになってきました。東京入管は米国テロ事件発生後10月頭にかけて、タリバーン政権による迫害から逃れて来日したアフガン人少数民族の難民申請者を一斉に呼び出し、テロ事件との関係について情報提供を迫ったとのことです。

●○●難民調査中の収容や強制送還は絶対に許されない!●○●

 これらの難民申請者は、まだ難民認定・不認定の決定が出ていない段階で収容令書により収容されました。難民調査中の収容は、難民条約に明白に違反しています。また、ここ3〜4年間、難民申請者が、難民とするかどうかの決定がおりる前の段階で拘束・強制収容された事例はなく、この拘束・収容は極めて異例の事態であると言えます。
 ある情報によると、政府首脳がテロ事件を受けて法務省・東京入管に対してアフガニスタン人の拘束・収容及びテロ事件との関連の調査を指示しており、東京入管のこの措置は、この指示に基づくものであるとのことです。この措置は、アフガニスタン少数民族の難民申請者に対するあからさまな弾圧であると言えます。
 また、10月3日の共同通信の報道によると、東京入管は彼らをアフガニスタンへ強制送還する方針とのことですが、アフガニスタンはタリバーン政権と北部同盟との戦争が激化しており、多くの難民が発生しています。この地域への強制送還は断じて許されることではありません。
 政府は、「難民支援」と称して、パキスタンへの自衛隊機派遣の推進に励んでいますが、その一方で、国内では、これまで十分に虐待にさらされてきたアフガン人少数民族の難民申請者に、さらなる圧迫、迫害を加えようとしています。これが欺瞞でなくて何でしょうか。

●○●アフガニスタン難民弁護団の結成など、取り組み進む●○●

 法務省・東京入管によるアフガン少数民族への無法な拘束・収容の問題については、「全国難民弁護団連絡会議」(全難連)所属の弁護士などによる面会と事実解明が極めて迅速に進み、東京入管の驚くべき弾圧の実態がすぐさま明らかになりました。これは、今回の事態において特筆すべきことと言っていいでしょう。
 弁護士たちは10月10日、さっそく「アフガニスタン難民弁護団」を結成、これらの難民申請者が解放されるように、法的・社会的に可能な様々な手段で取り組んでいくことを表明しています。チームSでは、今後の推移を見守るとともに、アフガン難民申請者たちや、彼らを支援する弁護士たちに積極的に協力していきたいと考えています。今後の状況の変化に応じて、続報は随時お伝えします。
***ニュースアップデイト第27号は近日中に発行の予定です***


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第27号 2001年10月25日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)米国在住のイラン人権活動家を証人申請
 〜10月16日、シェイダさん在留権裁判第7回口頭弁論開かれる〜
(2)のれんに腕押し:「東日本入国管理センター」の実態
 〜シェイダさんへの医師の暴言にも謝罪なし、歯科治療も放置〜
(3)難民問題情報短信:在日アフガン難民問題に注目!他
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●バックナンバーが必要な方は電子オフィスまでお知らせ下さい。
●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)米国在住のイラン人権活動家を証人申請
 〜10月16日、シェイダさん在留権裁判第7回口頭弁論開かれる〜
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 2001年10月16日午後1時30分より、シェイダさん在留権裁判の第7回口頭弁論が開かれました。法廷はいつもと変わらず東京地方裁判所の606号法廷でした。今回の口頭弁論は、書面のやりとりを中心とするこれまでの口頭弁論から、証人尋問の段階に入る区切り、折り返し点となるものです。
 シェイダさん側は、シェイダさんのイラン時代からの歩みをまとめ、シェイダさんがなぜ難民といえるのかを再整理した「原告準備書面(5)」を提出しました。また、裁判の証人候補として、シェイダさん本人と、アメリカ合州国在住のイラン人人権活動家、ゴウダルズ・エグテダーリ Goudarz Eghtedari 氏を申請しました。ちょっと詳しく見ていきたいと思います。

○●○「準備書面(5)」でシェイダさんの難民たる理由を再整理●○●

 シェイダさん側が今回提出した「準備書面(5)」は、シェイダさんのイラン時代から現在までの歩みを再整理し、難民たる理由を再整理したものです。
 シェイダさんは、少年時代に同性愛者であることを自覚し、家族や社会、国家による抑圧から逃れるためにイランを出国しました。その後、1992年に欧米を拠点とするイラン人同性愛者の人権団体「ホーマン」に参加し、同性愛者としての社会活動を開始しました。1999年、あるイベントで同性愛者であることを公にカミングアウトし、その後はレズビアン・ゲイ・パレードや人権に関わる公的なイベントにも参加し、イラン人の同性愛者として人権の確立を訴えてきました。こうしたシェイダさんの活動は、マスコミにも取り上げられ、イランの治安当局がシェイダさんの存在を把握している可能性は大きくあります。今回の書面では、シェイダさんが同性愛者であるということだけでなく、イラン当局がシェイダさんの存在を把握しているかどうかといった側面にも着目し、シェイダさんを強制退去させた場合、本国で厳しい迫害を受ける可能性が高いことを強く主張しました。
 また、シェイダさんはイラン国内での同性愛者の人権の確立や、イラン刑法からのソドミー条項の撤廃などを求めていますが、イラン国内の状況に照らせば、これは立派な「政治的意見」と言えるものであり、今回の書面では、シェイダさんが自己の性的指向に関わって持っているこれらの主張を「政治的意見」とし、シェイダさんが難民となるべき補足的な理由に加えました。
 さらに、シェイダさんは少年時代、イランの左翼組織「イラン革命的労働者機構」(Rahe Kargar:1975年にイラン最大の反体制組織ムジャヒディーン・ハルクから左派グループが離党して創設された組織で、イラン国内では非合法)に参加していたことがあります。これについても、シェイダさんが難民であることの補足的理由としました。

●○●在米イラン人活動家を証人申請○●○

 今回のもう一つの大きな展開は、在米イラン人人権活動家、ゴウダルズ・エグテダーリ氏の証人申請です。
 ゴウダルズ・エグテダーリ氏は現在45歳の米国の市民権を持つイラン人で、オレゴン州のポートランドでシステム工学の研究をする傍ら、「米国イラン人人権グループ」Iranian Human Rights Group USA の議長としてイランの人権状況の監視活動を行っています。同性愛者の人権については、「イラン・イスラム共和国と姦通・同性愛に関する死刑の執行」という著作があり、イランにおける同性愛者への弾圧のあり方の変遷を詳細にまとめています。また、シェイダさん裁判についても、イランの同性愛者への処刑の状況についての意見書を執筆してくれました。
 シェイダさん側は、シェイダさん本人に加え、このエグテダーリ氏を今回証人申請しました。

○●○法廷での反応●○●

 今回の口頭弁論は、他のいくつかの難民裁判と一緒に行われましたが、シェイダさんが一番最初でした。「準備書面(5)」は事前に裁判所に提出してあり、裁判長もこれを見た上で法廷に臨んでいました。裁判長は雰囲気的には、こちらの主張にかなり理解を深めているようで、「議論が大変深まってきましたね」と肯定的なコメントを口にしていました。
 証人尋問については、シェイダさん側の代理人弁護士である大橋毅氏が、エグテダーリ氏の尋問について説明したところ、裁判長は、「代理人は証人候補と既にコミュニケーションをとっているか」「招請の手間や経費などについて算段は整っているか」と質問、問題がないことを確認した上で、次回の法廷で証人の採否について決定すると述べました。また、裁判長は、証人の採否について被告の法務省側で意見があれば書面で出してくれ、とつけ加えました。これも、かなり肯定的な雰囲気でした。
 一方、被告側は、前回の法廷でシェイダさん側が求めていた質問についても、裁判長から出た質問についても、今回は回答の書面を用意していませんでした。裁判長は「同性愛者が特定の社会的集団であるかどうかといった議論について、もし意見があるなら書面で出してほしい。また、拷問等禁止条約についても、意見があれば出してほしい」と被告に注文。被告側は、次回の法廷までに書面をまとめると表明しました。

●○●次回の口頭弁論は○●○

 最後に次回の口頭弁論の日程が決まりました。次回は12月4日、午後4時から、同じ法廷で行われます。次の裁判の焦点は、ゴウダルズ・エグテダーリ氏が証人として採用されるかどうか。ぜひともご注目のほど、お願いします。終了後、午後4時30分から報告集会を行います。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第八回口頭弁論>>      ┃
┃●日時:2001年12月4日(火)午後4時〜(3時30分集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<第八回口頭弁論 報告集会>>             ┃
┃●日時:2001年12月4日(火)午後4時30分〜       ┃
┃●場所:弁護士会館5Fを予定                ┃
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(2)のれんに腕押し:「東日本入国管理センター」の実態
 〜医師のシェイダさんへの暴言にも謝罪なし、歯科治療も放置〜
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 シェイダさんが東京入管の収容場から茨城県の牛久収容所(東日本入国管理センター)に移ったのは昨年の8月。すでに1年と3ヶ月がたとうとしています。
 牛久収容所の処遇のひどさについては、シェイダさんがまとめた手記を3回に分けて「ニュースアップデイト」第23号〜25号に掲載しました。シェイダさんがこの手記で取り上げていた問題として、二つ大きいものがあります。
 ひとつは、医師の暴言です。シェイダさんが睾丸・足の付け根部分の痛みを訴えて牛久収容所の診察室を訪れたとき、医師はろくに診察もせずに軟膏を取り出し、シェイダさんが「これは体の中からの痛みだから検査してほしい」と言ったところ、医師は「国に帰って検査してもらえ」と暴言、「ここは診察室なのか、強制送還のための役所なのか」と抗議したシェイダさんの手を叩いた、というものです。
 もうひとつは、歯科治療です。シェイダさんは5月以降、外部の歯科医院にかかっていましたが、7月になって急に、本来手当をする能力のない入管の医師の診察に切り替えられてしまったという問題です。この二つの問題については、8月31日にシェイダさんの代理人の大橋毅弁護士とチームSで牛久収容所に申し入れ、対応した課長補佐も、しぶしぶながら医師の暴言には「調査」、歯科治療には「善処」を約束していたところでした(「ニュースアップデイト第24号参照)。その後、どのような処理が行われたのでしょうか。

○●○「善処」は口約束?●○●

 8月31日の交渉から12日後の9月11日。チームSのメンバーがシェイダさんに面会し、医師の暴言に関する「調査」について何か伝えられたかを聞きました。シェイダさんは「全然、何も聞いてない」とのこと。また、歯科治療についても、全く返事がない、ということでした。そこで、面会をしたメンバーは、この二つについて早急に対応するよう、牛久収容所の総務課に要請書を提出しました。
 さらにその2週間後の9月25日。別のチームSのメンバーがシェイダさんに面会、暴言の「調査」と歯科治療について何かあったかシェイダさんに聞きました。驚いたことに、状況は2週間前と同じ、収容所側はなにもやっていないのです。面会をしたメンバーは、同じ内容で再要請書を牛久収容所に提出しました。
 そして10月7日に訪問したチームSのメンバーがシェイダさんに聞いたとき、ようやく返答がなされた、とシェイダさんはいいました。しかし、その内容はいいものではありませんでした。所からの回答は「暴言はなく、謝罪の必要はない」「歯科治療を受けたいなら、申請書を出せ」というものであり、しかもその回答を告げた職員はシェイダさんに対して「君の態度はわがままだ」と言ったというのです。

●○●シェイダさんからの手紙○●○

 シェイダさんは、所の対応について詳しく述べたペルシア語の手紙をチームS宛に送ってきました。これによると、10月5日、センター職員2名がシェイダさんのところに来て、上の答えを口頭で説明したそうです。医師の暴言問題については、シェイダさんは所側のずさんな回答に抗議した上、弁護士を通じて再調査を申し入れると回答。また、職員の「わがまま」発言については、その場で謝罪を要求し、職員が謝罪しなかったため、これについても弁護士を通じて必要な措置をとるとともに、この暴言を所長に報告することを職員に要求したということでした。
 収容所の不当な扱いや侮辱に対して、具体的に対抗していこうとしているシェイダさん。私たちサポートグループの側も、収容所の中で闘うシェイダさんと具体的につながりながら、収容所がシェイダさんやその他の被収容者たちに、人間としてふさわしい処遇を行わせていくために、がんばっていかなければならないと思います。
 チームSでは、定期的な面会に加え、またシェイダさん激励・収容所視察ツアーなども組んでいきたいと思っています。具体的な日程は随時お知らせしますので、収容所の問題に興味のある方、ご連絡下さい。

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(3)難民問題情報短信:在日アフガン難民問題に注目!他
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<<短信1>>「今こそアフガニスタン難民に難民認定を!」一日行動行われる

 米国の同時多発テロやアフガニスタン情勢の深刻化の中で、日本に在住するアフガニスタンの難民申請者の問題に注目が集まっていることについては、前号でもお伝えしました。
 大阪では、タリバーン政権に迫害されたハザラ人などアフガン少数民族の難民申請者4名が、難民不認定とされ、1〜2年に渡って裁判を争っています。東京では、同じくハザラ人の難民申請者9名が、決定がおりない段階で強制収容され、タリバーン政権やウサマ・ビン=ラーデンとの関係について尋問されるという、ここ数年の難民申請実務に照らして極めて異例の事態が生じています。
 こうした中、大阪のアフガン少数民族の難民申請者4名を含む、アフガン人少数民族の難民・難民申請者14名が10月15日、上京し、法務省との交渉、司法記者クラブでの記者会見を行い、衆議院第二議員会館で「今こそアフガニスタン難民に難民認定を!市民集会」を行いました。
 行動をコーディネイトしたのは、大阪でアフガン人少数民族の難民の支援にあたっている「カトリック大阪大司教区国際協力委員会」。アフガン人たちは大阪からだけでなく、名古屋や埼玉、千葉からも集まりました。
 法務省との交渉は、必ずしも実りあるものではありませんでしたが、記者会見には在京テレビ局全社や主要新聞社を始めとする40名以上のマスメディアが集まり、関心の高さを示しました。市民集会には、参議院議員の田嶋陽子さん、福島瑞穂さんなど4名の国会議員を始め100名以上が参加、アフガン人少数民族の難民認定と人権の尊重を求める決議を採択して、盛況のうちに終了しました。
 これだけ多くの難民申請者が難民申請を求めて行動したのは、日本でも初めてです。多くの注目が集まっている中、今後の法務省の対応が注目されます。
(決議文についてはホームページ「国家による憎悪犯罪・日本のアフガニスタン難民申請者の現在」http://www.kt.rim.or.jp/~pinktri/afghan/index.htmlより見ることが出来ます)

<<短信2>>強制収容されたアフガン難民申請者たちが法務省を提訴

 東京入国管理局が10月3日、アフガン少数民族の難民申請者たちを決定前の段階で強制収容した事件で19日、これらのアフガニスタン少数民族の難民申請者たちが法務省に対して、収容令書の発布を違法とする取消訴訟を提訴しました。10日に結成された「アフガニスタン難民弁護団」が、訴訟をバックアップします。
 この強制収容は、政府首脳(一説には小泉首相)が直々に法務省入国管理局に命令して行われたものとの説もあり、米国の同時多発テロやアフガニスタン情勢の急迫を受けた極めて政治的なものです。法務省は、「これらの少数民族は密航により入国した悪質な連中だから捕まえた」「背後にブローカーの存在がある」などと、政治的な弾圧であることを隠蔽しようとしていますが、国連難民高等弁務官事務所も、難民が合法的に入国するのは極めて困難であるので、入国方法を理由として迫害を行うべきではないという趣旨のガイドラインを出しており、法務省の主張は国際的な難民の取扱い基準から見て適切なものでは全くありません。
 東京のアフガン難民申請者たちについては、訴訟以外にも様々な救援のわが広がることが予想されています。是非ともご注目下さい。(新聞報道についてもホームページ「国家による憎悪犯罪・日本のアフガニスタン難民申請者の現在」http://www.kt.rim.or.jp/~pinktri/afghan/index.htmlより見ることが出来ます)

<<短信3>>シェイダさんが「週刊SPA!」に登場!!

 扶桑社が発刊している「週刊SPA!」10月31日号(10月24日発売)に、シェイダさんが登場しました。
 登場したのは、20ページから4ページに渡って組まれている難民問題の特集。シェイダさんのコメントは、牛久収容所の実態の紹介とともに大きく取り上げられています。また、シェイダさんの隣には、ハザラ人のアフガン難民申請者、グラム・フセインさんも紹介されています。
 この特集、難民問題の入門ガイダンス編としても大変適切なものです。ぜひ目を通してみて下さい。
***第28号は近日中発行の予定です***


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第28号 2001年11月15日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん在留権裁判 第8回口頭弁論に集まろう!
 〜焦点は米国在住のイラン人人権活動家の証人採用〜
(2)政府の難民政策は「国際秩序に反する」
 〜在日アフガン難民問題で東京地裁民事第三部が歴史的決定〜
(3)シェイダさん関係ニュース短信
 〜今国会で入管法改訂案上程、その他〜
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(1)シェイダさん在留権裁判 第8回口頭弁論に集まろう!
 〜焦点は米国在住のイラン人人権活動家の証人採用〜
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 東京では、急に秋が深まり、寒さもかなり厳しくなってきました。ストーブを取り出した人も多いことと思います。シェイダさんの裁判も、二回目の冬を迎えました。
 シェイダさん在留権裁判の第8回口頭弁論は、12月4日の午後4時から、いつもと変わらず東京地方裁判所の6階、第606号法廷で行われます。
 
●○●イラン人の証人が採用されるか○●○

 今回の法廷の一番の焦点は、何と言っても、前回の法廷でシェイダさん側が申請した米国在住のイラン人人権活動家、グダーズ・エグテダーリ(Goudarz Egthedari=シェイダさんに確認したところ、この表記が正しいということです)氏が証人として採用されるかどうかです。
 エグテダーリ氏は、「イラン人権グループ・米国」Iranian Human Rights Group USAの議長としてイランの人権状況の監視活動を行っており、同性愛者の問題に関しても「イラン・イスラム共和国と姦通・同性愛に関する死刑の執行」という著作があります(ホームページで読めます:http://www.ihrwg.org/CP/cirapapr1.htm
)。また、シェイダさん側の依頼に応じて、90年代の同性愛者に対する複数の処刑ケースについて分析し、意見書を作成してくれました。もしエグテダーリ氏が証人採用されれば、日本の法廷でイランの同性愛者の迫害状況について告発するイラン人活動家の生の声を聞くことが出来ます。
 
●○●たまっていた論点への法務省の反論○●○

 また、シェイダさん側の主張についての法務省側の反論がいくつか提出されます。裁判所は、同性愛者が「特定の社会的集団」にあたるかという点と、「拷問等禁止条約」に関わるいくつかの争点について、法務省側に反論を求めていました。法務省側がどのような反論をしてくるかが注目されます。これらの点については、当日の報告集会などで、紹介していきたいと思います。

●○●シェイダさん裁判に応援を○●○

 シェイダさんの裁判を扱っているのは、東京地裁の民事第二部(市村陽典裁判長)ですが、今号(3)の記事にも紹介したように、市村裁判長は、在日アフガン難民申請者の収容問題について、「収容はOK」という、法務省側に大変有利な決定を下した人物です。アフガン難民問題についても、法務省の不当な処分に対して適切な態度をとれなかった人ですから、シェイダさんに関しても、ほっておけば不当な判断が出てくる可能性は大きいと言えます。
 ぜひともシェイダさんの裁判に足を運んで下さい。多くの人の注目があることを市村裁判長に知らしめ、適切な判決を出すように求めていきましょう。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第八回口頭弁論>>      ┃
┃●日時:2001年12月4日(火)午後4時〜(3時30分集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<第八回口頭弁論 報告集会>>             ┃
┃●日時:2001年12月4日(火)午後4時30分〜       ┃
┃●場所:弁護士会館5Fを予定                ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(2)政府の難民政策は「国際秩序に反する」
在日アフガン難民問題で東京地裁民事第三部が歴史的決定
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 2001年10月3日、法務省・東京入国管理局が千葉県内及び東京都内でアフガン人9名を含む12名を拘束、東京都北区の強制収容所(東京入国管理局第二庁舎収容場)に強制収容した問題については、この「ニュースアップデイト」でも、第26号あたりから紹介してきたと思います。
 この問題については、法務省の収容攻撃に対する反撃がすばやく準備され、10月10日には「アフガニスタン難民弁護団」が結成、10月19日には、アフガン人たちを収容する法的根拠である「収容令書」の執行停止(つまり、収容の停止)を求める申し立てと、「収容令書」を違法として取り消すことを求める訴訟(取消訴訟)が、東京地方裁判所に提起されました。
 マスメディアの注目も集まり、いくつかのニュース番組では、この問題と日本の「難民鎖国」を問う特集が放送され、新聞でも、綿密な報道が行われました。さらに、国会でも社民党や民主党の議員がかなりの時間をとって法務省を追及、さらには自民党の議員も「こんなことでいいのか」と法務省に詰め寄る場面も見られました。
 こうしたことから、まず、東京地方裁判所が「収容令書」の執行停止申立にどのような判断を示すかが注目されていました。

○●○東京地裁民事第三部の歴史的決定●○●

 アフガン人9名の申立および訴訟は、機械的に東京地裁の民事第二部(市村陽典裁判長)に4名、民事第三部(藤山雅行裁判長)に5名が振り分けられて審議されていました。
 まず決定が下ったのは11月5日、民事第二部の方でした。しかし、内容は愕然とさせられるものでした。9名は難民の可能性もあるが、不法入国の偽装難民の可能性もある、また、難民認定手続と退去強制手続は別物であって、難民調査中に退去強制手続を別個に進めることは問題がない、だから、収容もしかたがない、というものだったのです。4名の収容は継続することとなり、弁護団は意気消沈しました。ちなみに、この決定を下した市村裁判長は、シェイダさんの裁判の裁判長でもあります。
 ところが、その翌日に下された民事第三部の決定は、前日の決定による沈滞ムードを吹き飛ばしてあまりあるものでした。藤山裁判長は、決定文の中で、法務省側の対応を「国際秩序に反する」と糾弾、5名の収容は取り返しのつかない損害を与えるとして収容令書を執行停止したのです。5名は9日に、晴れて身柄を解放されました。
 民事第三部の決定は、その内容も極めて画期的なものです。
 難民条約は、危険にさらされていた地域から直接来た難民について、不法入国・不法滞在を理由に刑罰を科してはならず、難民の移動についても必要な制限以外の制限を課してはならないと定めています。しかし法務省はこれについて、「難民認定されていない人は難民ではないから収容は適法」「そもそも収容は刑罰ではない」などと屁理屈をこねて自分の主張を正当化してきました。
 しかし、民事第三部はこの考え方を否定、収容令書の発付に当たっては、まず最初に対象者が難民に該当するかどうか検討し、その可能性がある場合には、その可能性の大小や移動の制限の必要性について、難民条約に照らして検討しなければならないとしました。
 民事第三部はその上で、民事第三部が扱う5名について検討し、難民該当性が高く、収容の必要性は低いため、彼らを収容する必要はないとし、逆に収容が彼らに取り返しのつかない損害を与えるとして法務省の収容令書の執行停止を決定。さらに、法務省の処分のやり方について、「難民条約を無視しているに等しく、国際秩序に反するものであって、ひいては公共の福祉に重大な悪影響を及ぼすものというべきである」と厳しく糾弾したのです。
 本決定は、今回の強制収容にとどまらず、法務省の閉鎖的な難民政策全体に対して、初めて法の裁きがおりたものとして画期的であり、日本の難民政策全体をより開放的なものに変えていく上での一つのターニングポイントになりうるものであると考えることが出来ます。

●○●アフガン人9名全員の難民認定に向けて○●○

 民事第三部の決定により、アフガン人9名のうち5名が解放されました。しかし、民事第二部の管轄下にあった4名は、未だに収容され続けています。アフガン人9名は、いずれもタリバーン政権の迫害にさらされた少数民族であり、難民たる要件については、何らかわりがありません。このような形で9名を分ける理由は全くなく、分断は絶対に許されません。4名は民事第二部の決定を不服として即時抗告(普通の裁判の「控訴」にあたる)を行い、現在東京高等裁判所第三民事部において検討されています。東京高裁が、残る4名の収容令書の執行停止についてどのような判断を下すかが、今後の一番最初の注目ポイントです。
 一方、法務省は東京地裁民事第三部の決定を不服として、翌日に東京高等裁判所に即時抗告を行いました。これは現在、東京高裁第九民事部において検討されており、これがどうなるかも大きな問題です。
 また、この問題は、この決定によって終わったわけではありません。解放された5名も、収容令書の執行停止によって一時的に解放されたというだけであり、現在も彼らを強制送還するための手続は進んでいます。この手続が最終的な段階まで進めば、法務省は彼らに「退去強制令書」を発付して彼らを再び収容することが可能になってしまうのです。
 また、彼らの難民申請がどのように扱われるかも問題です。法務省は、テロ対策のために彼らを捕まえておきながら、それを覆い隠すために、彼らは不法入国の「経済難民」であると言い続けています。もし、彼らが難民認定されなければ、彼らは難民不認定処分の取消訴訟を提起しなければならなくなってしまいます。
 このように見れば、最大のポイントは、「収容令書」の是非の問題ではなく、彼らの退去強制手続および難民認定手続がどのようになっていくかということにあると言えます。「収容令書」におけるやりとりは、闘いのいわば「前哨戦」であるということができるのです。
 アフガン難民たちは、出来るだけ早く、出来るだけいい形での解決を望んでいます。私たち「チームS・シェイダさん救援グループ」は、今回のアフガン人難民の問題を放置しておけば、日本の難民政策自体が大きく後退し、ひいてはシェイダさんの問題にも影響が出てしまうという危機感からこの問題に取り組んできましたが、今後も彼らの取り組みを支援し、彼らが難民として日本に滞在できるよう、そして、このアフガン難民問題が、日本の「難民鎖国」をとくうえでの一つの大きなきっかけとなっていくよう、がんばっていきたいと考えています。
(本件に関しては、詳しくはホームページ「国家による憎悪犯罪:日本のアフガン難民申請者の現在」http://www.kt.rim.or.jp/~pinktri/afghan/index.htmlをご覧下さい)

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(3)シェイダさん関連ニュース短信
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<<1.今国会で入管法改定案上程:国際会議参加のNGO排除が可能に?>>

 9月に始まった臨時国会では、米国の対テロ戦争協力法の成立などの動きが起こっていますが、出入国管理の関係についても動きが急です。テロ対策の特別委員会などでは、出入国管理を厳しくすべきだといった議論が、与党だけでなく民主党・自由党などの野党からも相次いでいます。
 そんな中、法務省は2002年のサッカーワールドカップをにらんで、入管法の改定案を上程しました。この改定案の主なポイントは、(1)国際競技会・国際会議に絡んで暴力を行使する恐れのある者の上陸を拒否することが出来る、(2)特定の犯罪を犯した外国人は在留資格があっても強制送還できる、というものです。両者とも大きな問題をはらんでいますが、とくに大きな問題は(1)の国際会議に絡んで暴力を行使する者の排除です。
 1999年冬の米国シアトル市でのWTO(世界貿易機関)反対運動、本年のジェノバサミット反対運動などのように、現在、急激な勢いで進むグローバリズムに対して、南北問題の深刻化や環境破壊、各国の産業破壊などに反対する多くのNGO/NPOが国際的なネットワークを作り、こうした会議の実施に反対する運動が活発化しています。日本ではこれらの動きはまだまだ盛んではありませんが、政府はこうした動きが日本にも及んでくることをあらかじめ警戒し、グローバリズムに抵抗する人々の入国を無制限に排除できる体制作りを意図しています。
 また、(2)については、近年多発しているピッキング犯罪や、殺人・強盗などの暴力犯罪に加え、労働組合などの弾圧によく使われる「住居侵入」や「集団的暴行・脅迫」などが含まれていることに注意しなければなりません。これは単純に言えば、ひどい労働条件の下で働いている研修生などの外国人労働者が経営者につめよったりしたら、強制送還される可能性が出てくるということ、また逆に、経営者が外国人労働者に対してそういう脅しをかけることもできるということを意味します。
 この入管法改定案、すでに参議院では数時間の審議の上で可決され、今度は衆議院にかかろうとしています。国会の審議に注目していきましょう。

<<2.エジプトで同性愛者23名が1〜5年の懲役刑に>>

 エジプトでは、5月11日に同性愛者に対する弾圧が行われ、ナイル川に係留されていた大きなボートで営業していたゲイ・クラブにいた人々を始め、合計52名が逮捕されました。その後エジプト当局は、52名を「不道徳な性行為」の罪、主犯格の複数の人物を「イスラーム教にかかわる誤った過激思想を流布した」罪で起訴しました。
 この件については、アムネスティ・インターナショナルや米国のイスラーム教徒の同性愛者団体「アル・ファーティハ」al-Fatiha Foundation などがエジプト政府に対して抗議運動や事件調査を展開し、この52名の多くが実際に同性間性行為を行ってすらおらず、性的指向についての推測だけで検挙されたということも判明しましたが、カイロの国家保安裁判所 State Security Court は11月14日、主犯格とされる人物1名に懲役5年、副主犯格1名に懲役3年、20名に懲役2年、1名に懲役1年、残りの29名については無罪とする判決を出しました。しかし29名についてはまだ解放されておらず、検察庁が控訴する恐れもあります。
 エジプトはイランなどと違い、近代国家化のプロセスの中でイギリス・フランスの法体系を導入して法律の骨格が作られた世俗国家です。また、法律制定のプロセスの中でソドミー条項(同性間性行為を罰する規定)は取り入れられず、同性間性行為を禁ずる法律はありません。しかし、今回は同性愛を「不道徳」とするエジプト宗教見解庁の決定に基づいて刑が下されたものであり、エジプトの立法・司法システム自体が批判にさらされました。アムネスティ・インターナショナルや国際レズビアン・ゲイ人権委員会(IGLHRC)、「アル・ファーティハ」などは今回の判決を厳しく批判するコメントを相次いで発表しています。
***第29号は近日中に発行の予定です***


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第29号 2001年11月26日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)<緊急速報1>牛久収容所がシェイダさんの仮放免を許可
 シェイダさんの身柄は今週中に解放
(2)<緊急速報2>在日アフガン難民9名に難民不認定処分 
  「再収容」を許さない世論を巻き起こそう
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●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)<緊急速報>牛久収容所がシェイダさんの仮放免を許可
 シェイダさんの身柄は今週中に解放
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 とてもうれしいニュースが入りました。牛久収容所(東日本入国管理センター)に収容されていたシェイダさんに仮放免決定がおりたのです。5回目の申請にして、ようやくかちとれた勝利です。
 酒井明・牛久収容所長がシェイダさんの仮放免を決定したのは11月22日(木曜日)。保証金は30万円ですが、保証書をさし入れるということで、実際に現金を支払う必要はありません。
 シェイダさんが逮捕されたのは2000年4月22日。シェイダさんはまず高島平警察署に留置され、それ以降、5月に東京入国管理局収容場(東京都北区)、8月に牛久収容所に移送され、収容は1年と7ヶ月におよびました。さる8月31日、シェイダさんの仮放免を求めて牛久収容所と交渉をもった際には、すでにシェイダさんは、牛久収容所で7番目に収容期間の長い人になっていました。その後、9月に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がシェイダさんの難民認定の支援を決定、10月31日にはUNHCRのスタッフの方の名義で仮放免を申請しました。この申請については、おそらく許可が出るだろうとの見通しが立っており、問題はいつ許可されるかということに移っていました。「チームS」としては、早期の許可と処遇の改善を求めて、今月末に国会議員の方の仲介で所長交渉を予定しており、22日に交渉の申し込みを行った矢先の決定でした。
 シェイダさんの仮放免については、これまで多くの皆様からのご協力を頂きました。シェイダさんが牛久に移ってからも、ほぼ1ヶ月に2回の割合で面会体制を組むことができました。また、「チームS」として呼びかけたシェイダさんの仮放免を求める嘆願書には、合計600人以上の方が署名してくれました。また、多くの方々が、自らの知識を生かして協力してくれました。今回の仮放免決定は、こうした皆様の努力が結晶したものであると言えます。
 シェイダさんの仮放免が実現した現在、焦点はシェイダさんの難民認定が認められるかどうか、また、シェイダさんをイランに送還することを命令する「退去強制令書」の取消訴訟の行方がどうなるかに焦点が絞られることになります。今後とも、シェイダさん在留権裁判のゆくえに注目を、そしてシェイダさんにさらなるご支援をお願いいたします。
 なお、次回の「シェイダさん在留権裁判」第8回口頭弁論は来る2001年12月4日、午後4時から、東京地方裁判所606号法廷にて行われます。原告シェイダさん本人が出廷する初めての裁判となります。
 また、裁判終了後には、「報告集会」あらため、「シェイダさんお帰りなさい!そして難民認定、在留権獲得へ」集会(仮)を実施する予定です。長い収容から解放されたシェイダさんの弁を聞きたいという方、ぜひともお越し下さい。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第八回口頭弁論>>      ┃
┃●日時:2001年12月4日(火)午後4時〜(3時30分集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<「シェイダさん、お帰りなさい!            ┃
┃ そして難民認定、在留権獲得へ>>集会          ┃
┃●日時:2001年12月4日(火)午後4時30分〜       ┃
┃●場所:弁護士会館5F502E会議室             ┃
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(2)<緊急速報2>在日アフガン難民9名に難民不認定処分 
  「再収容」を許さない世論を巻き起こそう
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 次は、先月から問題になっていたアフガン人少数民族の難民申請者9名に関する緊急速報です。
 彼らアフガン人たちは、今年の7〜8月に難民申請を行っていましたが、東京入国管理局は10月3日、申請に対する決定がおりていないにも関わらず、彼らを強制収容し、日本の難民史上でも大きな注目を浴びる問題となっていました。11月6日、東京地裁民事第三部は9名のうち民事第三部に機械的に振り分けられた5名の収容を停止する歴史的決定を下し、5名は解放、残る4名については、東京地裁民事第二部の収容停止却下決定によって収容が継続していました。
 2001年11月26日、法務大臣(森山真弓)は本年上半期に日本に入国して難民申請を行っていたハザラ人などアフガン少数民族9名全員に対して、難民不認定処分を決定、通知しました。

○●○タリバンと戦っていないから難民ではない?
       法務省の驚くべき「難民条約」認識●○●

 本日朝のNHKニュースによれば、難民不認定の理由は、「タリバンと戦ったり政治活動をした経歴がなく、迫害を受けるおそれは乏しい」などというものですが、これは噴飯ものです。
 彼らはタリバーン政権によって拘束され、暴行を受けるなど、実際にタリバーン政権による迫害を受けてきた人々であり、その迫害などによってATSD(急性心的外傷後ストレス障害)の診断を受けています。法務省の処分は、彼らをテロ対策の一環として拘束・強制収容したことを隠蔽し、「法務省の難民政策は国際秩序に反する」として彼らのうち5名を解放した東京地裁民事第三部の歴史的決定を「なかったこと」にするための政治的な処分です。
 また、この難民不認定処分については、9名の代理人である「アフガニスタン難民弁護団」が提出した資料を入管側が受け取りを拒否するなど、本来必要な証拠の検討を全く行わないまま出されたものであり、手続上の瑕疵も見られます。
 難民申請に関して不認定処分がおりた場合、一度だけ異議の申し出を行うことができます。また、行政事件訴訟法で規定されているいくつかの方法で、不認定処分の取消や無効の確認を求める訴訟を提起することが可能です。
 一方、難民申請について不認定処分がおりた場合、退去強制手続についてもほぼ同時に最終段階の判断が下され、法務大臣が「退去強制令書」を発付するのが通常です。「退去強制令書」は送還と収容の二つの命令から成り立っており、もし退去強制令書が発付されれば、解放されていた5名も再収容される可能性が高いです。
 「再収容」を許さない世論を作り、法務省の不当な決定に対抗していきたいと思います。

●○●東京高裁も残る4名の収容停止申立を棄却●○●

 一方、同じ26日、東京高等裁判所は、東京地方裁判所民事第二部が出したアフガン人4名に対する収容継続の決定に対する即時抗告(通常の裁判で言う控訴)について、棄却の決定を下しました。内容は、東京地裁民事第二部の決定を踏襲するもので、収容されていても難民認定手続などは行うことができるため、収容は彼らに回復不可能な損害を与えるものではないというものです。
 しかし、実際には、収容が続く4名のアフガン人のうち一人が自殺未遂、もう一人が摂食障害を起こすなど、アフガン人たちの精神状態は極度に悪化しています。ただちに彼らを解放することが必要ですが、彼らにも難民不認定処分がおりているため、退去強制令書の発付も近いものと思われます。
 アフガニスタンの情勢は極めて混沌としており、現状で彼らにとって安全な場所ではありません。強制送還は許さない、彼らをただちに解放すべきだ、という声を、大きく上げていきたいと思います。
○アフガニスタン難民関係の資料は、ウェブサイト「国家による憎悪犯罪:日本のアフガニスタン難民申請者の現在」http://www.kt.rim.or.jp/~pinktri/afghan/index.htmlに詳しく掲載されています。
***ニュースアップデイト第30号は近日中発行の予定です***


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第30号 2001年12月16日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)何も決まらず、盛り上がらない法廷〜第八回口頭弁論の報告〜
(2)年末年始の予定と、シェイダさんの生活支援のお願い
(3)さようなら牛久収容所:東日本入国管理センター旅行案内
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(1)何も決まらず、盛り上がらない法廷〜第八回口頭弁論の報告〜
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 2001年12月4日(火)、シェイダさん在留権裁判の第八回口頭弁論が行われました。シェイダさんが仮放免されたのは、ちょうどその5日前。私たちは、シェイダさんが仮放免されるのは12月末くらいかな……と思っていましたので、今回の法廷にシェイダさんを迎えることができるのは、とてもうれしく感じられました。
 さて、法廷の方ですが、めずらしく午後4時からの開廷でした。いつものことですが、同じ時間に合計4件の事件を処理するスケジュールとなっています。4件とも外国人の在留権をめぐる裁判であり、シェイダさんの事件は3番目に行われました。
 今回の法廷は、次の三つのことが焦点になっていました。

○シェイダさん側が申請した在米イラン人人権活動家グダーズ・エグテダーリ氏が証人として採用されるか。
○シェイダさん本人に対する尋問の期日はいつになり、時間はどのくらいとるか。
○前回シェイダさん側が提出した書面に対する法務省側の反論の書面の内容はどのようなものになるか。

 私たちは、これらの点についてきちんと法廷で議論があり、それぞれについて見通しが立てられるものと考えていました。しかし……
 まず第一の点について。市村陽典裁判長は妙なことを言い出しました。「陳述書はありますか?」裁判長は、エグテダーリ氏を法廷に呼ぶのでなく、陳述書を提出するという話だと誤解していたようなのです。シェイダさん側の大橋弁護士は、イランの同性愛者への弾圧状況に関するエグテダーリ氏の意見書などは前回の法廷ですでに提出されていることなどを説明し、イランにおける死刑の情報入手経路、社会的な状況などについてのエグテダーリ氏の研究成果を、本人を直接呼んで尋問するつもりであるということを改めて説明し、理解を求めました。裁判長は「採否は次回に決定する」ということで、エグテダーリ氏の採否については次回に持ち越されてしまいました。
 つぎにシェイダさんの本人尋問についてです。ペルシア語での尋問となるため、通訳を通して、時間が二倍かかります。そこで大橋弁護士は「尋問時間は半日は必要です」と述べました。それに対して裁判長は「半日は長いですね。主張の大部分を陳述書にまとめて、要点だけ聞くということはできないのですか」と述べ、時間がとれないことを強調。これについても、次回の法廷で検討ということになりました。
 最後の法務省側の反論については、裁判長はそ知らぬそぶり。右側に座っていた裁判官が裁判長に耳打ちして、ようやく思い出したようで、この点について法務省に問いただしました。しかし、その問いただし方も、どうも形式的です。法務省は「書面提出は考えていません」と肩すかしの答弁。おどろいた大橋弁護士が「そうすると、当方の書面への反論権を放棄したということですか?」と問いただすと、法務省は「今後いっさい出さないというふうには考えていませんが」といった答弁。裁判長も、あらかじめ分かっていたような感じで、これについてあらためて問いただす様子もありませんでした。
 結局、重要なことは何も決まらないまま、問題は次回の法廷に先送りされた感じです。また、裁判長のようすもどうも変です。前号でも述べたとおり、この裁判長はアフガニスタン難民申請者9名のうち4名の審理を担当し、「収容継続」を決めた人です。どうもそのプロセスの中で、法務省と手打ちでもあったのか?と思わせるような妙な展開。どうも雲行きが怪しくなっています。
 怪しい雲行きをくつがえすには、多くの皆さんが傍聴し、裁判のなりゆきを見守って行くことしかありません。ぜひとも傍聴に来て下さい!よろしくお願いします。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第九回口頭弁論>>       ┃
┃○日時:2002年2月8日(金)午前11時〜(集合10時30分)  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階第606号法廷(地下鉄霞ヶ関駅下車)┃
┠──────────────────────────────┨
┃<<第九回口頭弁論報告集会>>               ┃
┃○日時:2002年2月8日(金)午前11時30分〜12時30分   ┃
┃○場所:弁護士会館5F会議室を予定             ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(2)年末の予定と、シェイダさんの生活支援のお願い
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<<チームS:年末の予定>>

 シェイダさんが収容所から出てきました。仮放免により出所したシェイダさんを招いて話を聞こうというお誘いがいくつかあります。年明け以降、具体化していきますので、決まり次第お知らせしていきたいと思います。
 さて、チームSでは、出所したシェイダさんを囲んで「忘年会」を開催します。シェイダさんと旧交を温めたいという方、一度シェイダさんと会ってみたいという方、お越し頂ければ幸いです。スケジュールは以下の通りです。
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┃<<シェイダさんを囲んで忘年会>>主催 チームS      ┃
┠──────────────────────────────┨
┃○日時:2001年12月28日(金)午後7時〜(担当:庄子)   ┃
┃○場所:「赤ちょうちん」(JR高円寺駅北口徒歩3分)    ┃
┃ ※低料金の居酒屋です。電話03−3338−3252    ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

<<シェイダさんの生活支援のお願い>>

 シェイダさんが収容所から出所してから2週間以上がたちました。
 シェイダさんはその後、仕事や住まい探し、難民への支援を行うNGOなどへのサポートの依頼を行っていますが、まだ見つかっていません。 
 日本では難民や難民申請者に対する公的な支援制度はありません。国連や小さなNGOの支援はありますが、すべての難民・難民申請者にというのはなかなか難しい状況です。
 すべての自由と選択権を奪い、かわりに最低の衣食住だけを与える収容所から、社会保障なしで難民を完全に放置する外の社会へ……シェイダさんにも戸惑いを感じているようです。「自力自闘」とはいえ、生活をゼロから組織することは困難で、立ち上がりのためのサポートが必要です。
 不況で大変なこととは存じますが、チームSといたしましては、シェイダさんの生活支援のお願いをいたしたいと思います。よろしくお願いします。
○シェイダさん生活支援のためのカンパのお願い
 シェイダさんの生活支援のためのカンパをお願いします。口座は以下の通りです。
<口座名称> シェイダ基金
<口座番号> 00100-2-554626
 よろしくお願いします。なお、会計報告は定期的に行っております。
○仕事・住居のご紹介を頂けないでしょうか
 当然のことですが、難民申請者は仕事をして収入を上げなければこの社会で生活を営んで難民の地位を得ていくことはできません。一番困るのが「仕事探し」です。仕事がなければ、家を借りても家賃が払えず、早晩退去せざるを得なくなります。
 本人も一生懸命、仕事や住居を探していますが、仕事や住居について何か情報がありましたら、ご紹介頂ければ幸いです。とりあえず、ご存じのことがありましたら、このメールアドレスに返信して下さい。

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(3)さようなら牛久収容所:東日本入国管理センター旅行案内
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「この社会と大村収容所は現世とあの世に似ており、現世とあの世の間には茫漠とした時間と空間が横たわっているだけである。」
−梁石日「夜を賭けて」(幻冬舎文庫)

●○●まえがき○●○

 2001年11月29日、シェイダさんは仮放免決定を受けて1年3ヶ月ぶりに茨城県牛久市の「入国者収容所東日本入国管理センター」(牛久収容所)を後にした。東京都北区の十条駅近くにある東京入国管理局の収容場に収容されていた期間を入れると、合計1年7ヶ月あまりになる。
 「ウシク」と「ジュージョー」。この二つの地名は、いまや日本を訪れるアジア・アフリカ・ラテンアメリカの人々にとって、京都や奈良に劣らない知名度を持っているかもしれない。そこにまつわる、消すに消せない記憶とともに……。
 シェイダさんの出所を記念して、ここにウシク収容所の旅行案内を作ってみた。今後ウシクに収容される人や、被収容者のサポートを行う人にとっての参考になれば幸いである。

○●○仏に見守られて●○●

 茨城県ウシク市は人口約7万の都市である。東京から北東に70キロ、新東京国際空港から北に30キロに位置し、ウシク沼の東側に位置し、駅周辺は首都東京のベッドタウンとして都市化する一方、東部には昔ながらの水郷地帯が広がっている。
 1993年、ウシク駅から東に10キロほど入った田園地帯、法務省管轄の少年院「茨城農芸学院」の隣に、忽然と白亜の殿堂が姿を現した。老朽化した横浜入国者収容所のかわりに、新しい外国人収容所ができたのである。ちなみに、その北東に2キロ行った所から、高さ100メートルに及ぶ巨大な大仏(東京本願寺牛久大仏)が、この収容所を見守っている。

○●○交通●○●

 ウシク収容所に来るときには、時刻表をよくにらんで、きちんと計画を立てることが大切だ。東京の便利な公共交通に慣らされている人には、ウシク収容所は厳しい。上野駅または日暮里駅に出て、常磐線に乗ればウシク駅には一時間弱で着くが、その後が大変だ。「牛久浄苑」行きバスに乗ればよいのだが、このバスが一日に4〜5本しかないのだ。
 運悪くバスと時間が合わなかったら、タクシーで行くのもよいが、片道3500円もかかることに注意すべきである。少しでもお金を節約したければ、一時間に一本以上出ている「鹿ケ作」行きのバスに乗って終点の「鹿ケ作」でおり、県道に出て東に20分歩けばウシク収容所の入り口につく。帰りは南に15分ほど歩くと国道に出て、そこを通っているバスに乗ればよいが、これまた一日に4本しかない。タクシーを呼ぶのもよいが、安上がりなのは、今度は西に20分ほど国道を歩いて「第12東宝ランド入口」バス停に行くという方法である。このバス停からは、一時間に2本ほど、バスが出ている。
<牛久駅発牛久浄苑行きバス>
 牛久駅発時間 8:35、10:15、11:40、14:25、15:55
<公民館前発牛久駅行きバス>
 公民館前発時間 7:42、11:42、14:42、19:02

○●○所持品と面会上の注意●○●

 というわけで、ウシク収容所を訪れるなら、交通費をたっぷり用意しておくことが必要である。もう一つ、所持品として必要なのは、身分証明書である。
 被収容者と面会する場合、申請書を書いて窓口に提出しなければならないが、この際、身分証明書の提示を求められる。身分証明書がないと面会させてくれないため、面会はあきらめ、泣く泣く帰るか、牛久大仏の観光に行かなければならなくなる。身分証明書は必ず持参すること。
 もう一つ、申請書には自分の職業を書かなければならないが、気をつけなければならないのは、ウシク収容所当局が、ジャーナリストや作家に著しい警戒心を持っているということである。警戒心を持ち、ぬかりなく対応することが必要である。

○●○食事●○●

 食事については、旅行者と被収容者に分けて書かなければならない。
 まず旅行者についてである。ウシクとジュージョーの食事関連は、両方とも「おかだ」という会社が取り仕切っている。この会社は、やる気になれば高級な重箱に豪勢な幕の内弁当をパックすることもできる能力を持っている。ウシク収容所の一階の端にある訪問者と職員のための食堂では、「おかだ」はその片鱗を見せてくれる。味付けがすこしエスニックで凝っており、なかなか味わいがある。しかも500円と安く、お得である。
 一方、被収容者へのメニューはなかなか厳しい。献立は曜日ごとに決まっており、正月もクリスマスも、同じ曜日に同じものを食べる。おかげで被収容者は、長期の収容生活においても、食事が何だったかを思い出せば、今日は何曜日か分かるので便利である。ハンバーグは鳥肉で作られており、おかげでヒンドゥー教徒もイスラーム教徒も、安心して食べることができる。多文化主義に即した献立だが、味の方は保証できない。
 さて、収容所の回りは農家ばかりで、外食など望むべくもないかというとそうでもない。収容所から国道を南におり、少し西に向かって歩くと、洋食レストラン「うまっこ」がある。ここでは、「おかだ」以上においしい食事が食べられる。食事が終わるとサービスにコーヒーまで出てくる。収容所で冷え切った心が暖められる瞬間である。

○●○職員●○●

 ここには二種類の職員がいる。ふだん、被収容者と接するのは入国警備官であり、彼らは軍服のような制服をきて、軍靴を履いて任務に就いている。一方、収容所の事務を執るのは法務事務官である。事務官は訪問に来る民間のNGO/NPOや国会議員などの相手をしたり、関連省庁と連絡を取ったり、入国警備官だけでは決定できないことを決定したりする。この二つの職員の間には明確な身分差別があり、入国警備官は法務事務官の支配の下にある。それ以外に、常勤の職員(法務技官)として医師と看護婦がおり、臨床心理士も雇っている。彼らは、入国警備官、法務事務官とを問わず、全員、自らを「先生」と称し、被収容者にもそう呼ぶことを強制している。

○●○処遇●○●

 ジュージョーの職員たちのような、張りつめた神経質な雰囲気はウシクにはない。彼らは概して不親切ではなく、一部の職員は過剰にサービス精神を発揮することがある。しかし、全ての職員に共通するのは、被収容者に対して(また、訪問者に対しても)一切の自己決定権、選択権を認めないことである。
 ここでは、何をするにも申請書が必要である。申請が認められなかった場合、形式的には「異議申出」制度はあるが、異議を申し出ても、長期間待たされた上「(申出の)理由なし」という4文字が記された紙が戻ってくるのみであり、実質的な意味はまったくない。
 職員たちに共通する特徴として他に挙げられるのは、温情主義(パターナリズム)と外国人嫌悪(ゼノフォビア)である。職員たちは、被収容者たちが正確な日本語を操れず、日本的な行動様式に適応していないこと、つまり被収容者たちが日本人でないことをもって、彼ら(彼女ら)を自分より下の存在だと思いこんでおり、一段上の立場から、自分たちが「被収容者たちには精いっぱい『よく』してあげている」と信じている。ところが、被収容者たちは職員たちの温情に応えないばかりか、言うことを聞かなかったり反抗したりする。そのため、職員たちは、もともと自らのうちにある外国人嫌悪の芽を、大木へと育て上げるのである。法務省の上層部から与えられる「人権教育」に、職員たちはこう応える:「被収容者には人権はあるが、職員には人権がない」。悪循環のループに沿って、同じ物語がくり返される。

○●○医療●○●

 ウシクで医療に当たっているのは、週3回勤務する医師と常勤の看護婦であり、彼らは法務技官である。医務室は被収容者の収容スペースと別の場所にあり、医療の申請が許可されたら、鉄格子を空けてもらい、入国警備官に同伴されて医務室に行く。コンクリート打ちっ放しの灰色の収容スペースの中で、医務室だけはまともな壁紙が貼ってあるが、医療設備は整っているとは言えない。
 看護婦は、被収容者が「大した病気でもないのにしょっちゅう医務室を訪れる」ことに腹を立てており、「にきびができたからといって治療に来る」と不満を隠さない。医師は診察にきた被収容者に「自分の国で治してもらえ」というのが口癖である。歯科治療のスペースは医師控室を改造した部屋で、歯科治療のためのイスがまん中に備え付けられているが、水回りは完備しておらず、バケツでくみ出している。ウシクの自慢は、被収容者のカウンセリングのために一部屋設け、カウンセリングルームを設置していることだが、カウンセリングのための部屋は小さく、コンクリ打ちっ放しの外壁が無機的で、形ばかりの応接セットに、シダ植物の植えられた鉢がもうしわけのようにおいてあるだけである。
 
○●○あとがき:閉塞の中のサバイバル●○●

 ウシクの被収容者にとって、収容所から与えられる文化的資源はテレビだけである。テレビが流しっぱなしになっており、静けさを愛する被収容者には耐えられない。戦争映画などが無配慮に流されることがあり、戦争体験をしてきた被収容者に精神的圧迫を与える。被収容者は、支援団体に頼んだり、郵便で取り寄せたりして、自分に必要な本や資料、文献を確保している。
 被収容者たちはみな、国籍・民族・言語などが違う。衝突はあるが、お互い助け合って自己防衛することが多い。非識字の若者に書き言葉を教える、お互いの宗教や文化、政治についての情報をコミュニケートする、日本の出入国管理制度についての情報をシェアしあうなどして助け合っている。
 収容所を出ると、そこは関東平野の中心部。監獄の外には、世界の広がりがある。この極端な両義性は、ウシクという場の両義性をも象徴している。ウシクの両義性、それはアジア・アフリカ・ラテンアメリカ、被収容者たちの体現する世界性と、収容所の体現する人種主義(レイシズム)と外国人嫌悪(ゼノフォビア)の閉塞性のコントラストのことである。(了)

***第31号は近日中に発行の予定です***



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