シェイダさんを救え!ニュースアップデイト No.31〜No.40


2002年1月17日〜2002年7月28日


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第31号 2002年1月17日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)証人は決まるかな?在留権裁判 第九回口頭弁論のお知らせ
(2)「収容所の中も、外も大変」シェイダさん仕事探しの日々
   〜シェイダさん生活支援にぜひともご協力を〜
(3)シェイダさん在留権裁判 証拠資料コレクション1
   〜同性愛者を難民として認めたドイツの先駆的判決〜
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●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)証人は決まるかな?<在留権裁判 第九回口頭弁論のお知らせ>
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 明けまして、おめでとうございます。お正月はいかがお過ごしだったでしょうか。
 シェイダさんが出てきてから、もうすぐ2ヶ月。シェイダさんは元気ですが、まだ仕事が見つからず、仕事探しに明け暮れています。そんなこんなで、「ニュースアップデイト」も、ふだんは一ヶ月に2回ほど出していたのが、今号は一ヶ月ぶりの発行です。今年もよろしくお願いします。
 さて、来る2月8日の第九回口頭弁論のお知らせです。
 12月4日(火)に行われた第八回口頭弁論では、法廷にシェイダさんを迎えての行われました。第八回口頭弁論では、アメリカのイラン人人権活動家グダーズ・エグデダーリさんを証人として採用してもらえるかということが大きな焦点でした。他に、シェイダさん当人の尋問期日やそれに要する時間などが焦点になりました。
 それらの「宿題」に関して市村陽典裁判長のコメントが奇妙で、やる気の無さを感じさせるような対応に一同はビックリしました。エグデダーリさんの証人尋問について、市村裁判長は「陳述書はいつ提出されますか?」ということを聞いてくるのです。しかし、すでにエグデダーリさんの陳述書に関しては、イランでの同性愛者の迫害ケースを事細かく分析した意見書が提出されています。また、本人尋問に関しても、”あまり時間をとりたくない”というようなコメントでした。
 さらに、法務省に対して出題していた「宿題」を裁判長と法務省双方が完全に忘れているという珍事もありました。それを見かねた裁判官が裁判長に耳打ちして、裁判長がようやく思い出したという始末です。法務省に対する「宿題」とは、同性愛者が「特定の社会的集団」にあたるかという点と、「拷問等禁止条約」に関わるいくつかの争点です。法務省は驚くべきことに、それらの反論は提出しないと述べました。
 これらの法務省と裁判長とのやりとりを見ていると、やる気がないというよりも、それを通り越して、シェイダさんの訴訟について双方で手打ちをしているのではないかと疑惑をかけたくなるような振る舞いでした。
 そもそもこの裁判長、アフガン難民の収容令書取り消し訴訟で、4名のアフガン難民に対して不法就労や偽装難民の可能性があり、収容は妥当と判決を下したくせ者です。シェイダさんの訴訟でもそのような論理を振りかざす可能性は否めません。このような裁判長の判決を絶対に許さないためにも、多くの方がシェイダさんとともに傍聴に駆けつけてください!次回の裁判のスケジュールは以下の通りです。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第九回口頭弁論>>       ┃
┃○日時:2002年2月8日(金)午前11時〜(集合10時30分)  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階第606号法廷(地下鉄霞ヶ関駅下車)┃
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┃<<第九回口頭弁論報告集会>>               ┃
┃○日時:2002年2月8日(金)午前11時30分〜12時30分   ┃
┃○場所:弁護士会館5F会議室を予定             ┃
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(2)「収容所の中も、外も大変」シェイダさん仕事探しの日々
   〜シェイダさん生活支援にぜひともご協力を〜
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 シェイダさんが収容所から出たのは、昨年の11月27日でした。この日は、おりしもアフガニスタン難民問題と絡めての収容所視察や所長との懇談会が予定されており、解放されたばかりのシェイダさんが、参議院議員の田嶋陽子さん、衆議院議員の北川れん子さんらと一緒に、車でにぎやかに東京に「凱旋」したことを憶えています。
 それから2ヶ月。シェイダさんは難民支援のNGO/NPOなどからのサポートも得て、外の生活もなんとか軌道に乗り始めています。しかし、一番問題なのが「仕事」です。
 シェイダさんは毎日仕事探しで動いていますが、まだ確実な仕事が見つかっていません。不況の折、ということもありますが、それ以上に、人事担当者の外国人嫌いや、「ハローワーク」が仮放免中の人を実質上排除していることなどが、大きな壁になっています。

<<仮放免中の人に「紹介状」を出さない「ハローワーク」>>

 ある日シェイダさんはハローワークに電話し、収容所から仮放免中であることを示した上で、担当者から時間を指定され、仕事の紹介に関する面接を受けにハローワークに行きました。
 ところが、ハローワークの相談員さんは、東京入国管理局が発行したシェイダさんの仮放免許可証を見て一言、「これ以外に、労働していいかどうかについての紙はもらっていないの。資格外活動許可とか」と言います。それはもらっていない、と告げると、「それじゃ紹介できないね」。なんでも、厚生労働省の内規があって、ハローワークでは、仮放免中の人については、資格外活動許可がないと紹介状を出さないのだそうです。
 あとで、外国人の問題に詳しい弁護士さんに聞いてみると、東京入国管理局は仮放免中の人には資格外活動許可を出さないのだということです。つまり、仮放免中の人は「ハローワーク」で積極的に仕事の紹介をしてもらえないということ。仕事に関する情報提供は行うということで、コンピューターで仕事を検索し、勝手に電話をかけるのは自由なのだそうですが。
 シェイダさんの場合、裁判所が強制送還命令を執行停止しているのであり、事実上、合法的に日本にいるわけです。収容所から外に出た以上、働かないわけには行きません。「ハローワーク」で公的に仕事を紹介しなければ、アンダーグラウンドに仕事を確保するしかありません。このような形で仮放免中の外国人に無意味なイジメをしていれば、外国人はますますアンダーグラウンドな場所に押し込められることになります。決して、いい結果はもたらさないと思うのですが……。

<<外国人は機械的にお断り!の会社も>>

 シェイダさんはハローワークで検索した職場に電話をかけ、求人担当者に面接をお願いしています。しかし、シェイダさんが直接かけた場合、日本人の友人がかけるよりも、面接につながる率がぐんと落ちてしまうのです。日本語の問題もあるのかも知れません。しかし実際には、言語の流ちょうさはあまり関係ない職種も多いのです。
 また、日本人の友人がかけた場合にも、「外国人なんですが……」というと、「外国人は困るんで……」といって面接に結びつかないケースがかなりあります。向こうの人事担当者も、申し訳なさそうに語尾を濁す場合が多いのですが。
 面接に行けば行ったで、在留権や過去の仕事のことについて根ほり葉ほり聞かれます。その上で不採用、となれば、気がふさぐのも当然です。
 前の会社では、何年もの間、真面目に勤め上げたシェイダさん。不況時とはいえ、なんとかならないものでしょうか。

<<皆様にお願い!>>

●お願い1:もし、何か仕事のつてがあったら紹介して下さい
 ハローワークの仕事も、短期で1ヶ月、2ヶ月で終わってしまうものが多く、もし何らかの仕事につけたとしても、期間が終われば放り出される可能性があります。
 ここで皆様にお願いです。もし、何らかの仕事のつてがあったら、シェイダさんに紹介してあげて下さい。在留資格をめぐる裁判も抱えている彼にとって、安定的な仕事につくことは不可欠です。とりあえず、何かあてがありましたら、「チームS電子オフィス」shayda@da3.so-net.ne.jpまでお知らせ下さい。

●お願い2:シェイダさん生活支援に募金お願いします
 前号でもお知らせしたとおり、シェイダさんの生活資金のためのカンパを集めています。是非ともよろしくお願いします。口座は以下の通りです。
<口座名称> シェイダ基金
<口座番号> 00100-2-554626
 よろしくお願いします。会計報告は定期的に行っております。

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(3)シェイダさん在留権裁判 証拠資料コレクション1
   〜同性愛者を難民として認めたドイツの先駆的判決〜
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 このコーナーでは、シェイダさんがこれまで裁判所に出した証拠資料から、同性愛者の難民の人権にとって重要と思われるものをピックアップしてご紹介していきたいと思います。第一回は、1983年にドイツのヴィースバーデン行政裁判所で出された同性愛者難民の認定に関する判決です。
 1979年、1人のイラン人男性が、在住先のドイツからイランへ帰国しました。イランは折しも、革命の真っ最中であり、皇帝がアメリカに亡命し、ホメイニー師が帰国したばかりでした。
 しかし男性はほどなくして、再びドイツに戻り、難民認定を申請します。その理由は、イラン革命後成立した体制が、イスラーム法の遵守を根本とするイスラーム原理主義体制だったからです。男性は、自分がこの体制のもとで厳しく処罰されるのではないかと恐れました。その理由は、彼が同性愛者だったからです。
 ところが、ドイツの連邦難民事務所は、彼が同性愛者でないことをイラン政府は知らないこと、イラン政府が彼の出入国を妨害していないことを理由に、彼はこれまで迫害に直面したことがなく、今後も同性愛者であることをイラン当局に対して隠し通せば、イランで暮らすことに何の危険もない、として難民認定を却下しました。男性はこの決定を不当として、ヴィースバーデンの行政裁判所に提訴したのです。同性愛者を難民と認めた、世界で最初の判決は、この男性に対して1983年に言い渡されました。
 ヴィースバーデン行政裁判所はまず、イランにおいて同性愛者が処刑される可能性があり、実際に処刑されていることに論争の余地はない、と述べたうえ、原告の、自分が同性愛者であるという訴えを事実として認定しました。その上で裁判所は、原告が同性愛者であることを隠していれば、イランで安全に生活できるという当局の主張を否定し、以下のように指摘しました。
 「同性愛の発生理由について理論的な論争は存在するものの、同性愛が自分の意志によってスイッチを入れたり切ったり出来るような、単なる嗜好 preference の一つではないというところには、一般的な合意が存在する。」
 「裁判所は、同性愛者の亡命申請者に対して、隠れてひっそりと生活することによって、迫害を避けることが出来るなどということは、宗教的信念を否定したり隠したりすることや、皮膚の色を変える努力をすることを勧めることと同じであり、受け入れられるものではない」
 その上で裁判所は、同性愛者が難民条約の「特定の社会的集団」にあたると明白に述べた上で、ある集団が「特定の社会的集団」にあたるかどうかの判断基準は、その集団が会員制度を持っていたり、お互いに知り合いであるというところにではなく、主流社会の側がその集団を「受け入れることのできない集団」として扱っているかどうかというところにある、と述べ、「特定の社会的集団」の解釈に新機軸を打ち立てたのです。
 先にも述べたように、この判決は同性愛者を難民として認めた世界で最初の判決です。その後、同性愛者を難民と認める数多くの決定や判決が、各国で出されましたが、この判決は、一番最初の判決であるにも関わらず、その水準はその後出された多くの決定や判決以上のものがあり、まさに最初にして最良の判決であるということができます。この判決は、カナダやニュージーランドでその後出された決定などでも引用されるとともに、難民条約上の難民の定義についても新たな理論的水準を打ち出したものとして、学術的にも高い評価を得ています。
 日本の裁判所も、この判決に学び、是非ともシェイダさんを難民として認めてほしいと思います。
<参照>Maryellen Fullerton, Persecution due to Membership in a Particular Social Group: Jurisprudence in the Federal Republic of Germany, Georgetown Immigration Law Journal [Vol.4:38]
***第32号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第32号 2002年1月28日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)東京外語大でシェイダさんを囲んで討論会企画
  〜2月1日(金)午後6時:府中キャンパス ぜひともお越し下さい〜
(2)シェイダさん在留権裁判 第九回口頭弁論にもおいで下さい
  〜2月8日(金)午前11時:東京地方裁判所606号法廷〜
(3)東京地裁民事第三部がまたもや画期的判決
  〜入管法「60日条項」の緩やかな解釈を求め難民不認定処分を取消し〜
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(1)東京外語大でシェイダさんを囲んで討論会企画
  〜2月1日(金)午後6時:府中キャンパス ぜひともお越し下さい〜
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 2月1日金曜日、東京外国語大学(東京都府中市)にて、シェイダさんを囲んで討論会企画が行われます。
 1963年にテヘランで生まれたシェイダさんは、1979年に一中学生としてイラン革命に参加。その後1981年のホメイニー体制の確立により、彼が参加していた政治組織は国内で壊滅し、自身も弾圧の危険にさらされました。一方、彼が自分の性的指向を自覚したのも同じイラン革命のころ。イスラーム法の直接的な執行により、同性愛者とされた人々が処刑されていった1980年代を、彼は同性愛者としてイランで息抜き、そして1991年に亡命への道を選びました。彼はいわばイラン現代史の生き証人ということができます。また、彼は法務省入国管理局の強制収容所に1年7ヶ月間にわたって収容され、日本の入管体制の過酷さについても実体験している、貴重な人であるといえます。
 彼の目から、イラン革命は、そしてその後に確立したイランの現体制はどう見えたのか。同性愛者としてイランを生きるとは、また難民として日本を生きるとは、どういうことなのか……。生の体験からつづられるシェイダさんの話に耳を傾けましょう。以下、討論会企画の紹介です。

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┃在日イラン人同性愛者 シェイダさんを囲んで ┃
┃ 〜イラン革命・同性愛者・難民をめぐって〜 ┃
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●日時:2月1日(金) 18:00-20:30
●会場:東京外国語大学 府中キャンパス 海外事情研究所研究講義棟427教室
(中央線武蔵境駅から西武多摩川線に乗換え、多磨駅下車徒歩5分程度)
●入場無料 どなたでもお越しください。
 日本で難民認定を求め、裁判を続けているシェイダさんをお招きして、現代イランの政治的変遷と同性愛者の置かれた位置について語っていただき、ささやかな討論と交流の場をもちたいと思います。イスラームと同性愛者について、在日外国人の状況やこの国の難民・入管政策について、またアフガニスタンの状況について関心のある方も、ぜひお集まりください。
 コーディネイターには、在日アフガン人難民問題にも積極的な取り組みをしている稲場雅紀さんをお迎えします。

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■シェイダさん裁判について
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イラン人のゲイ、シェイダさんは、同性愛者を死刑にする刑法をもつ祖国イランから、迫害を逃れて1991年に来日しました。その後、彼は欧米に拠点をもつ亡命イラン人同性愛者の人権団体「ホーマン」の日本唯一の会員となり、1999年には、あるイベントで「私はゲイ。私の祖国はイラン。イランでは同性愛者は死刑になっています」とカミングアウトしました。
 彼はレズビアン・ゲイ映画祭や札幌のパレードなどに積極的に参加し、日本のレズビアン・ゲイ・コミュニティとの交流を求めていきますが、2000年4月、オーバーステイの容疑で逮捕され、入国管理局によって強制収容されてしまいます。難民申請も却下され、ついに2000年7月、法務省は彼にイランへの強制送還を言い渡しました。シェイダさんはそれを違法として、東京地方裁判所に提訴、「シェイダさん在留権裁判」が始まりました。
 詳しくは、http://www.sukotan.com/shayda/shayda_top.html(チームS・シェイダさん救援グループ)をご覧ください。
●コーディネイター: 稲場 雅紀 (チームS・シェイダさん救援グループ)
●通訳: 渡部 良子 (東京大学大学院・イラン史)
●司会: 浜 邦彦 (東京外国語大学非常勤講師)
●連絡先:TEL/FAX 03-3949-1969 islands@mbe.nifty.com(浜 邦彦)

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(2)シェイダさん在留権裁判 第九回口頭弁論にもおいで下さい
  〜2月8日(金)午前11時:東京地方裁判所606号法廷〜
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 シェイダさん裁判の第九回口頭弁論も近づいています。2月8日午前11時から、東京地方裁判所第606号法廷で行われます。
 「ニュースアップデイト」第31号でもお伝えしましたが、前回の口頭弁論(2001年12月4日)は奇妙な展開でした。その前の法廷で「原告側の議論も深まってきたので、被告も主張があれば出して下さい」と、いくつかの項目について被告側に書面の提出を求めた市村裁判長でしたが、この法廷では、そんなことはまったく頭にないかのよう。右側の裁判官に言われてようやく思い出す始末です。シェイダさん側の大橋毅弁護士が被告側に「書面を出す予定はないのですか?」と問いただすと、被告は即座に「その予定はありません」とにべもない返事。米国から証人を呼ぶ件についても結論は出ず、原告シェイダさん本人の尋問についても、裁判長は興味のない様子で、「なるべく陳述書で出してもらって、肝心なところだけ聞くようにして時間を短縮できませんか」という態度でした。
 となりの東京地裁民事第三部(藤山雅行裁判長)が在日アフガニスタン難民の問題や、その他入管法関係の裁判で、行政当局の人権侵害を厳しく指弾する画期的な判決を出し続けているのと裏腹に、市村裁判長はどうも腰が引けている様子です。
 裁判長の態度を変えるには、多くの方々の傍聴が一番です。ぜひとも法廷にお越し下さい。なお、今回の報告集会は、弁護士会館が弁護士会選挙で使用できないため、午後1時から西新橋の「桜福祉会館」研修室Aを確保してあります。そちらの方もよろしくお願いします。

★★★報告集会の場所が変わりました★★★
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第九回口頭弁論>>       ┃
┃○日時:2002年2月8日(金)午前11時〜(集合10時30分)  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階第606号法廷(地下鉄霞ヶ関駅下車)┃
┠──────────────────────────────┨
┃<<第九回口頭弁論報告集会>>               ┃
┃○日時:2002年2月8日(金)午後1時〜2時         ┃
┃○場所:港区立 桜福祉会館3F 研修室A          ┃
┃・港区西新橋2-10-18(電話:03-3580-2457)       ┃
┃・弁護士会館から芝公園方向に直進、             ┃
┃ 第17森ビルを右手に見る通りを左折して徒歩3分。      ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(3)東京地裁民事第三部がまたもや画期的判決
 〜入管法「60日条項」の緩やかな解釈を求め難民不認定処分を取消し〜
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 2002年1月17日、東京地方裁判所民事第三部(藤山雅行裁判長)は、法務省による難民不認定処分の取消を求めて行政訴訟を行っていたエチオピア人の男性について、難民不認定処分を取り消し、改めて難民該当性を審理することを命じる判決を下しました。
 このエチオピア人男性は、1998年に来日し、3ヶ月(90日程度)後に難民申請をしましたが、入国後60日以内に難民認定をしなければならないという入管法の規定(60日ルール)を越えてからの難民申請であるという理由のみで不認定となり、訴訟を起こしていたものです。
 入管法のこの規定には「やむを得ない場合はその限りでない」という但し書きがつけられています。法務省はこの但し書きについて裁判で「病気などで入国管理局などに出向けなかった場合や、難民申請を決めるのが客観的に困難な特別の事情がある場合に限るべきだ」と主張しました。しかし東京地裁は法務省のこの主張について、但し書き事項をこのように解釈すると、難民である人を、難民条約にはない規定を使って難民不認定とすることになるから難民条約違反になる、と判断。法務省の現行の「60日ルール」や「但し書き事項」の現在の解釈や運用の実務が、裁判所によって否定されたことになります。
 東京地裁のこの判決は、法務省がこれまで行ってきた「60日ルール」のみに基づく難民不認定処分を否定したもので、日本の難民政策を国際的な基準に則ったものにする上で極めて重要な先駆的判決であるといえます。この判決が、シェイダさんの裁判にもよい影響を与えることを期待します。

***第32号は近日中に発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第33号 2002年2月15日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん関連企画案内
  〜2月22日「これでいいのか日本の難民政策」in 世田谷
(2)シェイダさん本人尋問、5月8日(水)に!
  〜在留権裁判第九回口頭弁論:イラン人人権活動家の招請は保留に〜
(3)法務省、同性愛者を「特定の社会的集団」と認める
  〜難民条約解釈上、きわめて重要な論点があっさり決着〜
(4)イスラームが同性愛者を迫害しているのか
  〜イスラーム圏における同性愛者弾圧の謎に迫る〜
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(1)シェイダさんが日本の難民政策について話します
 〜「これでいいのか日本の何民政策」in 世田谷〜
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 イラン人の同性愛者で、イラン革命とその後の同性愛者や反体制勢力への弾圧をつぶさに見てきた「歴史の生き証人」シェイダさん。日本の入管行政についても、1年7ヶ月の収容生活を実体験し、その過酷さを生で体験しています。
 そんなシェイダさんと、代理人弁護士の大橋毅氏をお呼びして、2月22日に世田谷で講演・交流企画が開かれます。皆様お誘い合わせの上、参加して頂ければ幸いです。

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 2月の元気印ミーティング
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これでいいのか日本の難民政策
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▼ ゲスト講師:大橋 毅弁護士(全国難民弁護団連絡会議)、シェイダさん(在日イラン人ゲイ難民)
▼コーディネイター:田中幾太郎さん(チームS・シェイダさん救援グループ)
 先頃、難民申請中だったアフガニスタン人たちが東京入管によって収監された事件は記憶に新しいことと思います。日本政府はアフガン復興支援を標榜する一方で、苦難の果てに日本にやってきたアフガン少数民族を難民として受け入れることを拒否し、彼らの自由まで奪いました。このように日本は世界でも難民受け入れが極端に少ない恥ずべき国として知られています。保坂議員もビルマ難民支援をはじめこの問題では、国会内外で積極的に動いてきました。「同性愛者は死刑」というイランから逃れてきたシェイダさんと、シェイダさんをはじめ難民認定を求める多くの在日外国人たちを支援し、日本の難民政策にも詳しい大橋弁護士をゲスト・スピーカーに迎えて、この問題について考えてみたいと思います。
【関連サイト】
在日アフガニスタン難民問題の現在
http://www.kt.rim.or.jp/~pinktri/afghan/index.html
チームSシェイダさん救援グループ
http://www.sukotan.com/shayda/shayda_top.html
収容された難民の人身保護請求事件(大橋弁護士)
http://www2.odn.ne.jp/nyukan/re/ohashi00top.htm
▼日時:2月22日(金)19:00〜21:00
▼会場:保坂展人世田谷事務所
 世田谷区宮坂3-12-18 ブエノス経堂205
▼参加費:¥600(会員¥500)
▼主催:保坂展人と世田谷ごえんの会、元気印の会
▼連絡先:世田谷ごえんの会 
 TEL03-5477-7377、FAX03-5477-6067
 E-mail: GAF06452@nifty.ne.jp

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(2)シェイダさん本人尋問、5月8日(水)に!
  〜在留権裁判第九回口頭弁論:イラン人人権活動家の招請は保留に〜
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 シェイダさん在留権裁判の第九回口頭弁論が開かれた2月8日。よく晴れた、2月にしては大変暖かな日でした。
 この日の焦点になっていたのは、(1)シェイダさんの尋問はいつになるか。また、時間はどのくらいとるか。(2)シェイダさん側が招請していたイラン人人権活動家、グダーズ・エグテダーリ氏が証人として採用されるか。(3)法務省側から、新たな主張はなされるか。の3点でした。
 シェイダさんの尋問は十分に時間をかけて行うこと、裁判の焦点が「イランで同性愛者が迫害されているかどうか」にある以上、その事実を知るエグテダーリ氏の尋問は必要不可欠であること……この二つは、シェイダさん側にとって譲れない一線です。シェイダさん側は、この日に向けて新たに「証拠申出書補充書」を提出し、この二点について裁判所に強くアピールしました。
 さて、この法廷で、国際的には大きな争点となっている一つの問題が、予想外にすんなりと決着しました。

●○●法務省、同性愛者を「特定の社会的集団」と認める●○●

 難民条約における難民の要件とは、「人種、民族、宗教、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見」により「十分に理由のある迫害の恐れ」を有する人、ということです。欧米で同性愛者の難民認定が争われたケースでは、同性愛者が「特定の社会的集団」にあたるかがつねに最大の論点になってきました。
 この点について、シェイダさん側は欧米の判例などを証拠提出し、同性愛者は明らかに「特定の社会的集団」にあたると主張してきました。裁判所は昨年12月の第7回口頭弁論で法務省側にこの点で反論があるならまとめろと指示しており、法務省の対応が注目されていました。
 さて、この日の法廷で裁判所からこの点について問われた法務省側の担当者は「積極的に争うつもりはありません」と述べ、この論点はあっさりと決着しました。同性愛者が「特定の社会的集団」であることを日本の法務省が認めたということであり、国際的には大きなインパクトを与えそうです。

●○●シェイダさんの尋問は90分、エグテダーリ氏採用は「留保」に●○●

 一方、裁判所は、シェイダさんの尋問に関して、シェイダさん側が求めた「4時間」という要求に対して、尋問時間を90分に制限するという不当な判断をしてきました。シェイダさんは通訳つきで尋問を行うため、実質的な時間は45分程度しかありません。裁判所は、その代わり、陳述書を作成するのに十分な時間を提供する、として、陳述書提出期限を4月8日と定め、さらにシェイダさんの尋問日を3ヶ月後の5月8日に指定しました。一方、法務省側は反対尋問の時間について、通訳含め60分が必要であると主張、受け入れられました。
 十分な準備期間が与えられ、充実した陳述書を作ることは、これで可能になります。しかし、シェイダさんは、イランに居住した同性愛者として、その経験を私たちや裁判所に伝えることができる唯一の人であり、尋問は、原告であるシェイダさんのおかれた立場や主張について、シェイダさん自身が肉声で裁判官に伝えることのできる極めて貴重な機会です。書面をもってこれに代えることは、極めて難しいのです。
 裁判所は、わずか90分の尋問時間しか与えなかったことによって、この事件について的確な判断を行う上で、自ら大きな損失を科すことになったと言えるでしょう。
 一方、シェイダさん側が申請していたイラン人人権活動家グダーズ・エグテダーリ氏の証人採用について、裁判所は今法廷では決定を「留保」することを表明。おそらく、裁判官の間でまだ意見が一致していないのだろうと思われます。いずれにせよ「留保」決定により、こちらの方は次回の法廷に向けて希望をつなぐことになりました。

●○●次回法廷は5月8日、尋問準備に精魂傾けます●○●

 この法廷で、次回法廷が5月8日午後2時から4時30分まで、内容はシェイダさんの尋問、ということになりました。
 次回法廷まであと3ヶ月。シェイダさんの陳述書作りと尋問に向けて、シェイダさん弁護団の全精力をそそぎ込みたいと思います。
 次回の法廷は、シェイダさん在留権裁判の最大の「山場」です。内容も、これまでの裁判と違ってとても面白いものになると思います。皆様、万障お繰り合わせの上、ぜひとも傍聴にきていただくよう、よろしくお願いいたします。
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┃シェイダさん在留権裁判 第十回口頭弁論        ┃
┃<<シェイダさん証人尋問>>             ┃
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┃日時:2002年5月8日 午後2時〜4時30分      ┃
┃場所:東京地方裁判所第606号法廷           ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分 東京地方裁判所6階)┃
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┃第十回口頭弁論 報告集会               ┃
┃<<原告証人尋問を終えて>>             ┃
┃日時:2002年5月8日 午後5時〜7時         ┃
┃場所:弁護士会館5F会議室(東京地裁裏)を予定    ┃
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(3)法務省、同性愛者を「特定の社会的集団」と認める
  〜難民条約解釈上、きわめて重要な論点があっさり決着〜
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 (1)の記事でも述べましたが、法務省は今回の法廷で、同性愛者が難民条約上「特定の社会的集団」を構成する、というシェイダさんの主張に対し「積極的に争わない」と述べ、事実上、同性愛者が「特定の社会的集団」であることを認めました。
 同性愛者は「特定の社会的集団」か。これは、シェイダさん在留権裁判ではあまり主要な論点にはなってきませんでしたが、同性愛者の難民認定をめぐって欧米諸国で争われた多くのケースにおいて、この問題は極めて重要な争点になっていました。法務省がこの時点で、この点について「争わない」としたことは、国際的には大きなインパクトのあることだと言えます。

●○●欧米諸国と日本の難民条約解釈の違い●○●

 欧米諸国では、なぜこの点が主要な論点となってきたのでしょうか。また、日本の法務省はなぜこの点についてあっさりとシェイダさん側の主張を認めたのでしょうか。その最大の要因は、おそらく難民条約の解釈の違いにあります。
 難民の定義は大きく分けて二つの要素からなっています。(1)人種、民族、宗教、政治的意見、特定の社会的集団の構成員であることにより、(2)「十分に理由のある迫害の恐れ」を抱いていること、です。
 欧米では、(2)の「十分に理由のある迫害の恐れ」という文言を字義通りに解釈し、ある人が迫害の恐れを有しており、それに客観的な根拠があれば「たとえ迫害にさらされる確率が10%以下だとしても」(引用:米国の判例)難民として認めるという解釈が普通です。ですから、ある人を難民と認めるかどうかの焦点は(1)に置かれます。(1)の中で具体的な定義として示されていないのは「特定の社会的集団」ですから、難民認定に関する論争は、何らかの集団が「特定の社会的集団」にあたるかどうかを中心に検討されることになります。欧米には、「何が『特定の社会的集団』にあたるか」について、複数の学説と実務上の判断があり、活発に論争がされています。
 一方、日本の法務省は「難民申請者個別の事情を勘案する」という表現のもとに、「十分に理由のある迫害の恐れ」という文言をことさらに厳しく解釈し、事実上「誰を認定し、誰を認定しないかは行政次第」という、いわば裁量権万能の状況を作り出しています。そのため、たとえばシェイダさんの難民申請について判断するのに、わざわざ同性愛者が「特定の社会的集団」であるかないかといった論争をする必要はなく、(2)で「イランでは同性愛者は迫害されていない」と言えばそれで済むわけです。法務省があっさりと「同性愛者」=「特定の社会的集団」と認めたのには、こうした日本独特の難民条約「解釈」があるわけです。

●○●国際的には大きなインパクト●○●

 欧米で初めて同性愛者が「特定の社会的集団」と認められたのは、1983年にドイツのヴィースバーデン行政裁判所がイラン人ゲイに対して出した判決です(前号参照)。その後、欧米諸国の多くで、同性愛者を「特定の社会的集団」とみなすとの判決や行政機関の決定がなされ、現在ではUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も同性愛者を「特定の社会的集団」の一つとみなしています。「シェイダさん在留権裁判」でシェイダさん側は、海外で出されたこれらの決定や判例、論文などを翻訳し、証拠として提出してきました。「同性愛者が特定の社会的集団にあたることについて積極的に争わない」という法務省の方針は、欧米でのこれまでの蓄積を生かしたシェイダさん側の不戦勝である、ということができます。
 しかし、欧米諸国の政府には、同性愛者を「特定の社会的集団」とみなすべきではないという判断を堅持しているところもあり、スウェーデンなどでも、政府が裁判で「同性愛者は『特定の社会的集団』とは言えない」と主張することがあるようです。人種主義的で閉鎖的なことで知られる日本の法務省が、同性愛者を「特定の社会的集団」とみなすという主張に反対しないという判断を行ったということは、国際的には非常に重要であり、各国で難民認定をめざす同性愛者にとっても大きな励みとなることでしょう。

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(4)イスラームが同性愛者を迫害しているのか?
  〜イスラーム圏における同性愛者弾圧の謎に迫る〜
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●○●イスラーム圏で強まる同性愛者迫害●○●

 「シェイダさんを救え!ニュースアップデイト」でも何度も報じているとおり、イランでは、同性間性行為を行った者を死刑とする刑法ソドミー条項により、90年代に入ってからも、国際的に明らかになっているものだけで十数名の人が死刑に処されています。
 これは、イランに限ったことではありません。イスラーム圏の国々では、同性愛者を対象に、極めて過酷な刑罰が行われています。1月2日、サウディ・アラビアで3名の男性がソドミー罪により斬首刑に処せられました。世俗主義体制をとるエジプトでも、52名の男性が同性間性行為の容疑で逮捕され、23名が懲役刑を受けており、さらに最近になって同性愛者の逮捕が連続して行われるなど、状況は深刻化しています。
 イスラーム圏で起こっている、こうした恐るべき弾圧を見ていると、どうしても、イスラーム圏における同性愛者の迫害の根拠を、イスラームそのものと結びつけてしまいがちです。実際、これらの国々の聖職者たち自身が、イスラーム法は同性間性行為に対する厳格な処罰を要請していると主張しています。例えば、イラン最高裁判所長官を務めたアルデビーリー師は、同性愛者を死刑に処す理由として、イランで信仰されているシーア派イスラームで最大の尊崇の対象とされる初代イマーム(第四代正統カリフ)、アリーの言行録を引用して、アリーが「同性愛者」を刀で切り裂き、遺体を焼却するよう命じたことを挙げています。

●○●社会や政治体制でなく「宗教」に迫害の根源を求めるのは誤り●○●

 しかし、こうした実例によって、イスラームと同性愛とは本質的に非和解だと結論づけてしまうことは、妥当ではありません。イスラームは宗教と解されているものの、その範囲は法学から神秘主義、文学から建築まで様々な分野にまたがり、さらに西アフリカからインドネシアに至る様々な文化的・社会的伝統とまざりあい、溶け合って巨大な渦を形成しているのであって、そこから同性愛だけがつねに、ひとりだけ排除されていたなどということはありえません。実際、イスラームの主要な原理であるタウヒード(神との一体性)を追求するスーフィズム(イスラーム神秘主義)には、同性間の恋愛を称揚する詩の伝統があります。もちろん、イスラーム世界においても、同性愛者は周縁化された存在に追いやられていましたが、それは欧米のキリスト教世界や、東アジアの儒教文化圏と同じことであり、ことさら「イスラームだから」と言い立てる根拠はありません。
 ではなぜ、現代イスラーム世界では、国家が主導する形で、同性愛者に対して処刑などの政治的暴力の行使がなされているのでしょうか。「イスラームの教義に反する」などという政府や宗教者の公式見解は、迫害の理由ではなく、むしろ結果を述べているにすぎません。まず私たちが見る必要があるのは、18世紀以降の近代において欧米がイスラーム世界に進出し、イスラーム世界が近代国家化による欧米への対抗を迫られる中で、イスラームがそのイデオロギー的支柱としての役割を果たさざるを得なくなったことです。その結果、豊穣な文化的混淆の伝統は非イスラーム的なものとして切り捨てられ、イスラームは単一の起源を強調する、「純粋」で「闘争的」な国家イデオロギーへと再編されることとなりました。
 もう一つ見る必要があるのは、こうした中で近代国家の器にはめ込まれたイスラーム諸国が歴史的に形成し、現在持っている政治的・文化的・経済的背景と、その背景のもとでイスラームがどのような機能を果たしているかということです。同じ同性愛者の処刑でも、イランとサウディ・アラビアとでは、それをとりまく力学のあり方は全く異なっていると言えます。
 ちょっとずれるたとえになるかも知れませんが、西欧諸国では、死刑は残虐な刑罰として全廃されています。もし西欧人から「中国と日本が野蛮な死刑制度を維持しているのは、儒教文化圏だからだろう」といわれたら、日本人は困惑するでしょう。イスラーム世界における同性愛者への迫害を、イスラームにすべて還元するのは、これと同じようなものです。

●○●アメリカで立ち上がるゲイ・ムスリムたち●○●

 現在、アメリカ合州国の移民のコミュニティでは、パキスタンやイラン、アラブ系の同性愛者たちが、イスラームをアイデンティティの一つとする同性愛者のコミュニティ「アル・ファーティハ」を組織しています。彼らは同性愛を認めようとしない原理主義的なイスラーム解釈に反対し、開明的なイスラーム聖職者たちとも連携を持って模索を続けています。多くの脅迫にもめげずに活動を続け、現在では全米に9支部を持つようになった彼らの努力は、今後イスラーム世界において、同性愛者が自己の性的アイデンティティを、イスラームというアイデンティティと両立させながら生きていけるようになるための第一歩であると言えると思います。イスラーム還元主義に陥るのでなく、彼らの困難な歩みの一歩一歩をこそ支援したいと思います。

***第34号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第34号 2002年3月14日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)3月17日(日)緊急茶話会開催のお知らせ
 「大変だ、シェイダさんのこれからの生活どうなるの?」
(2)東京地裁民事第二部がクルド人の難民不認定をくつがえす判決出す
 〜市村陽典裁判長を見直した、との声もあがるほど画期的な判決〜
(3)イラン・中東からのニュース短信
 ○イランで4名の女性が鞭打ち刑に処される
 ○エジプトで続く同性愛者への弾圧
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●バックナンバーが必要な方は電子オフィスまでお知らせ下さい。
●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)3月17日(日)緊急茶話会開催のお知らせ
 「大変だ、シェイダさんのこれからの生活どうなるの?」
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 1年7ヶ月もの収容所生活からやっと出てきて「自由」を得たはずのシェイダさんですが、これからの生活も想像していた以上に厳しい状況が続きそうです。収容所から出られても、シェイダさんは仮放免の身であり、仕事の保障も何もない状況のままそのまま放り出されたにすぎません。
 その端的な例が求職活動です。この不況の中で日本人でも仕事を探すのが大変難しいのに、外国人であるため、本当に仕事先が見つかりません。ハローワークで仕事を見つけようとしても、シェイダさんが仮放免中で「在留資格のない外国人」に分類されることから、仕事先に紹介状を出してくれないなどの不当な対応がまかり通っています。シェイダさんは裁判所によって、第一審判決までは日本への滞在が認められているのであり、ハローワークがシェイダさんに仕事を紹介するのが筋なのです。
 これから、「シェイダさん在留権裁判」も本人尋問などが予定されており、山場に入ってきています。シェイダさんを励ます意味も込めて、みんなでこれからのシェイダさんの支援を考える茶話会を開催したいと思います。
 「シェイダさんと苦楽をともにしたい」という人から「お茶飲むくらいならつき合える」という人まで、いろいろモロモロの立場から参加大歓迎です。皆様の参加を心よりお待ち申し上げます。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃日 時:2002年3月17日(日)13時〜16時             ┃
┃場 所:新宿 ルノアール新宿区役所横店マイスペース二号室     ┃
┃   (JR・営団地下鉄新宿駅下車、東口出て歌舞伎町新宿区役所横)┃
┃内 容:シェイダさんの今〜生活から難民認定まで〜         ┃
┃    フリーディスカッション                  ┃
┃参加費:お茶代+カンパ                      ┃
┃備 考:ご参加の際はご連絡下さい。                ┃
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(2)東京地裁民事第二部がクルド人の難民不認定をくつがえす判決出す
 〜市村陽典裁判長を見直した、との声もあがるほど画期的な判決〜
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○●○「消極的」と思われていた民事第二部で快挙○●○

 在日アフガニスタン難民の問題が大きくクローズアップされたのを皮切りに、日本の旧来の難民認定制度が司法によって大きく揺さぶられつつあります。
 東京地裁で難民や入国管理を始めとする行政裁判を扱っているのは、民事第2部・民事第3部・民事第38部の3つです。このうち、民事第三部(藤山雅行裁判長)は、昨年11月と今年の3月の二度にわたって、法務省によって収容されたアフガニスタン難民の収容を解く決定を行いました。また、それだけでなく、退去強制令書を発付されて収容されていたパキスタン人男性の身柄を解放する決定や、エチオピア人男性に対する難民不認定処分をくつがえす判決を出しています。いずれの判決や決定も、これまでの法務省の難民政策や制度運用、外国人の収容のやり方について、人権を無視した不適切なものであるときびしく批判する立場から出されたもので、日本のゆがんだ難民・入管行政を司法の側からただすものとして高い評価を受けています。
 一方、シェイダさんの裁判を管轄しているのは民事第三部ではなく、民事第二部(市村陽典裁判長)です。この部は、アフガニスタン難民の収容を継続して構わないという決定を出すなど、民事第三部と比べて消極的な姿勢が目立っていました。
 ところが、3月8日、その民事第二部が、これまでの認識をくつがえす、目の覚めるような判決を出しました。法務大臣によって難民不認定処分を受け、取り消し訴訟を提起していたクルド人男性について、民事第二部はこの男性が難民としてのよう件を満たすことを認め、法務大臣の決定を取り消したのです。

○●○これまで1人も難民認定されてこなかったクルド人を難民と認める○●○

 トルコでは、20世紀初頭におきたムスタファ・ケマルの革命と共和制施行以来、トルコ民族以外の民族や言語の存在を認めず、クルド人に対してもクルド語の使用を禁止し、民族運動を徹底的に弾圧する政策がとられてきました。
 このような中で、多くのクルド人が難民として欧米に移動していきました。90年代後半以降、日本にも数百人のクルド人難民が渡航し、難民認定を申請していますが、これまで1人も難民認定されないという状況が続いてきました。日本から強制送還されたクルド人の中には、トルコで逮捕され、処刑されたり拷問を受けた人も多くいることが明らかになっています。
 トルコは中近東における米国の軍事的な拠点の一つであり、米国はトルコを重要な同盟国の一つと考えています。日本がトルコからのクルド難民を1人も認定してこなかったのは、米国の主要な同盟国であるトルコとの政治的関係を優先したものであると言われてきました。
 東京地裁の判決は、この男性が以前からクルド人の民族運動に参加してきたことから、トルコ共和国政府による迫害を受ける恐れを十分に理由のあるものとして持つ難民に該当するとした上、法務大臣による難民不認定決定は誤りであるとしてこれを取り消したものです。難民認定手続の不備ではなく、「不認定」という結論自体が誤りであり、原告が難民であることを認定して不認定取り消しの判決を出したのは、これが史上二度目であり、この判決は極めて画期的なものです。 

○●○シェイダさんにも大きな希望○●○

 この判決は、東京地裁民事第三部だけでなく、民事第二部も、日本の劣悪な入管・難民行政に見て見ぬふりができなくなっているということを示したものです。司法の果敢な挑戦を受け、法務省にも自己の入管・難民行政の問題点を率直に見直すべきときが来ています。
 また、民事第三部に比べて消極的といわれてきた民事第二部でこうした判決がでたことは、シェイダさんにとっても大きな励みになることです。これまでシェイダさんと弁護団は、イランにおける同性愛者の迫害について数多くの証拠を提出してきました。シェイダさんの裁判も佳境にさしかかりつつありますが、この判決を大きな希望として今後もがんばっていきたいと思います。

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(3)イラン・中東からのニュース短信
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○イランで4名の女性が鞭打ち刑に処される
 
 イランのクルド人反体制組織であるイラン・クルド民主党 KDP: Kurdish Democratic Party の活動家11名が、イランで死刑判決を受けた。このうち二人は、1997年に逃亡先のトルコから強制送還された上逮捕された人で、逮捕以降拷問を受けている。また、他にも拷問によって歩行困難になったり、精神疾患を患ったりし手いる人が複数存在している。また、1月27日には、これらの人々とは別に、トルコから強制送還された難民1名を含む5名のイラン国籍のアラブ人がイラン南西部で死刑に処されたとの情報が入ってきている。
 一方、国際女性デーの翌日の3月9日、イラン西部のケルマンシャー Kermanshahの中心部で、イスラーム法に違反したとのかどで4名の女性が鞭打ち刑に処された。しかし、人々が刑の執行に抗議したため、刑務官は執行を中断せざるをえなくなった。(国際イラン人難民連合 IFIR 機関誌 ハンバステギ Hambastegi 第120号 2002年3月11日発行より )

○エジプトで続く同性愛者への弾圧

 エジプトは世俗法に依拠する国家であり、同性愛者を処罰する刑法は存在しない。にもかかわらず、昨年ナイル川河畔に係留中のボートで営業していたゲイ・クラブが摘発されて以降、エジプト各地で同性愛者が逮捕・拘禁され、刑事裁判の対象になっている。
 1月20日、独立系新聞アル=ワフド Al-Wafd が報じたところによると、アレクサンドリアの南西にあるアル・ベヘイラ県の首都ダマンフール Damanhour, Al-Beheira Province において、8名の男性が「放蕩罪」 the practice of debauchery で検挙された。これらの男性は「ガウンを着て化粧をしていた」とのことであり、警察当局は「これは放蕩の事件ではなく、『おかま』 faggots の事件である」と述べている。これらの男性は、逮捕後、病院で性器を検査されるなどの辱めを受けた。8名のうち3名は釈放されたが、5名は勾留され続けた。
 3月4日、5名はダマンフールの法廷に出廷し、二ヶ月間の勾留の間、警察によって殴打や電気ショックなどの拷問をされたことを判事に証言した。しかしこれも効果はなく、3月11日、5名は懲役三年の刑を宣告された。AFP通信の報道によると、5名の罪名は「放蕩の罪、および同性間でセックス・パーティーを開催したこと」だという。5名は控訴し、4月13日に控訴審の第一回公判が行われる。
 なお、警察は8名の男性の逮捕と同時に、急襲した部屋から住所録を押収しており、今後の捜査の方針によっては新たな逮捕・弾圧に発展する恐れも出てきている。
 エジプトのゲイ弾圧に抗議する国際的な運動が欧米を中心に広がっている。米国の国際ゲイ・レズビアン人権委員会(IGLHRC)と、サンフランシスコに本部をおくレズビアン・ゲイのイスラーム教徒の組織アル・ファーティハ Al Fatiha はエジプト政府を非難し、米国政府に対して、3月5日に訪米したエジプト大統領ホスニ・ムバラクにゲイ弾圧をやめるよう圧力をかけることを要求するキャンペーンを展開、ブッシュ・ムバラク会談時にはワシントンで抗議行動を展開した。

***第35号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第35号 2002年4月17日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)連休明け 5月8日はシェイダさん在留権裁判最大の山場
 原告本人尋問に立つシェイダさんを法廷で直接応援しよう!
(2)外国人と日本社会:最近のシェイダさんとの対話から
(3)在日アフガン難民問題:新たな局面へ
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●バックナンバーが必要な方は電子オフィスまでお知らせ下さい。
●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)連休明け 5月8日はシェイダさん在留権裁判最大の山場
 原告本人尋問に立つシェイダさんを法廷で直接応援しよう!
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 前号(34号)を出してからはや一ヶ月。シェイダさんと弁護団は、来る5月8日に行われるシェイダさん在留権裁判最大の山場、原告本人尋問に向けて、準備に追われています。
 前回の法廷(2月8日)のやりとりを思い出してみましょう。
 シェイダさん弁護団は、イランにおけるゲイに対する迫害、処刑の恐怖と抑圧的な社会の実態を証言できるのは、その半生をイランで過ごした原告シェイダさんの他にはいない、ということから、シェイダさんの尋問には4時間程度の時間が必要だ、と裁判所に要求しました。これに対して市村陽典裁判長は、尋問時間を90分に制限した上で、陳述書を書き、尋問内容を手短にまとめるために準備の時間が必要だろうということで、次の裁判を3ヶ月後の5月8日に設定し、陳述書の提出をその1ヶ月前の4月8日に設定したのでした。
 シェイダさん弁護団は、それ以降、陳述書の作成作業に明け暮れました。シェイダさんも、弁護団の作成した質問項目に従って6ページにおよぶ回答を執筆し、シェイダさんがこれまでに執筆した文章と合体させて、4月8日までに、計18ページに及ぶ陳述書ができあがりました。これは、すでに裁判所に提出してあります。
 その後弁護団は、シェイダさんの尋問にむけた準備作業を開始しました。尋問はまずシェイダさん側がシェイダさんに尋問する主尋問(90分)、つぎに法務省側がシェイダさんに質問する反対尋問(60分)で構成されます。準備としては、主尋問の質問項目を決め、反対尋問でなにが質問されるかを予測することが必要です。今、弁護団はシェイダさんとともに、この作業を続けています。連休前にこの作業を何とか終わらせ、本番につなげたいと思っています。
 今回の法廷は、シェイダさん裁判の一番の山場です。シェイダさんは法務省側から厳しい質問にさらされるかもしれません。そんなときに勇気のもとになるのは、傍聴席でサポートしてくれるみなさんです。5月8日は、ぜひとも法廷でシェイダさんを直接応援しましょう!
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┃シェイダさん在留権裁判 第十回口頭弁論               ┃
┃(日時)2002年5月8日 午後2時〜(1時30分集合)午後5時終了予定┃
┃(場所)東京地方裁判所6階 第606号法廷              ┃
┃・営団地下鉄霞ヶ関駅下車、法廷まで徒歩3分             ┃
┠──────────────────────────────────┨
┃シェイダさん在留権裁判 第十回口頭弁論報告集会           ┃
┃(日時)報告集会終了後(5時〜6時30分を予定)          ┃ 
┃(場所)弁護士会館5Fを予定                    ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(2)外国人と日本社会:最近のシェイダさんとの対話から
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○●○日本での生活は「人生の無駄」?○●○

 シェイダさんが収容所から出たのは昨年の11月末。もうすぐ半年になる。解放された日、シェイダさんは、まるで奇跡のようだ、信じられない、と繰り返した。しかし、収容所での1年7ヶ月の生活ののちに再びめぐりあった日本社会は、シェイダさんをひどく幻滅させるものだったようだ。
 うんざりするほど長くかかる裁判、波長の合わない人間関係、うまくいかない生活設計…、彼を悩ませるものはたくさんある。
 「日本での生活は、人生の無駄、と思うこともある」彼は最近、こんなことまで言うようになった。陳述書の作成(上記(1)参照)においても、彼が強調するのは、「日本には来ようと思って来たのではない」
「日本は通過点であり、長期滞在する意志はそもそも、全くなかった」
 ということだ。
 もちろん、彼と、彼の闘いをともに担ってきた立場からは、また、「日本」という国のあり方をいかに変えていくか、ということを基点として考えている立場からは、彼のこうした言葉に、いささか不快の念を覚えることもある。しかし、その不快さに身をゆだねることは危険だ。彼の実りなく過ぎていく日常に対する焦り、怒り、無気力感、といった激情の部分を差し引いて、たとえばヨーロッパ、アメリカとの比較において、イラン人のゲイに日本での生活を「人生の無駄」と感じさせるものは何なのか、そのことを考える必要がある。

○●○「精一杯稼いで、帰国する」○●○

 ちょっと歴史を前にもどしてみよう。シェイダさんが日本に来た90年当時、日本とイランはビザの相互免除協定を結んでおり、多くのイラン人が日本に押し寄せたことがあった。そのときのイラン人の数は全国で1万以上とも言われた。その後日本は不況になり、ビザの免除協定はストップされてイラン人の数は激減した。
 欧米にもイラン人はたくさんいる。アメリカで最大のイラン人コミュニティはロスアンゼルスにあり、その人口は数十万人。ヨーロッパ各国にも、大きなイラン人移民・難民コミュニティがある。欧米のイラン人社会に存在し、日本のイラン人社会には存在しないのは何かといえば、イラン人による政治団体と人権団体である。
 イラン革命は20世紀後半で考えれば5本の指に入るほど重大な政治的事件である。この革命の達成に向けて動いた政治組織は、宗教主義者から左翼まで、数百に上る。その後ホメイニーの権力掌握と左翼や民族主義者に対する徹底弾圧により、多くの人々が亡命を余儀なくされた。彼・彼女らは欧米で、イランの民主化と世俗主義体制の確立、人権の保障を求める数多くの政治団体・人権団体を組織した。ホームページ検索でIran, human rights, などと打って調べてみると、美しい、情報豊かな、機能的なホームページが山ほど出てくる。彼・彼女らは本来、きわめて政治的に活発な人々のはずである。そうであれば、一万以上のイラン人が日本におしよせた90年当時以降、現在までに日本でも同じような動きがあって当然のはずである。
 実際、日本に来たイラン人の中には、イランの左翼や民主化のための政治組織にかかわっていた人々がたくさんいた。しかし、彼らはこの国を基盤にして、イランの将来にかかわっていこうとは思わなかった。もちろん、彼らはその可能性は考えただろう、しかし、それはこの国では不可能だった。その結果として、彼らは日本を「円都」*1とみなし、「円盗」*2として振る舞い、不況や入国制限とともにイランへ、または別の国へと去っていった。「精一杯稼いで、帰国する」…彼らはこの国に、この可能性以外のものを見いだすことができなかったのである。

○●○外国人にトータルな人間としての存在を認めない日本社会○●○

 シェイダさんはそもそも、経済的な目的でこの国に来たのではない。彼の家はイランでは裕福で、生活水準も今よりイラン時代の方が高かった。彼の出国目的は、ゲイとして、またイスラームの価値観を共有しない一個人として、自由に生きられる場所を見つけることだった。彼は92年にはすでに「ホーマン」(欧米に拠点を置くイラン人レズビアン・ゲイの人権組織)と連絡を取り、「ホーマン」から日本でイラン人ゲイとして何らかの活動をしてほしいと要請された。しかし、彼が見いだしたのは、自分は日本語ができないということだった。実はこれは「日本語」の問題ではない。「日本語」というのは、日本に住む外国人にとっての日本と日本人の象徴だ。人間は食べて稼いで寝る存在であるという以外に、政治的・宗教的・文化的・性的な存在でもある。ところが、日本では外国人はこのような「人間」であることを認められない。これまでサポートしてわかったことだが、彼はそのプライオリティの多くを政治的・宗教的・文化的・性的な部分に置いている。彼が人間として生きていくということは、そうした存在として生きていくということである。それが認められない以上、彼にとってこの国が「人生の無駄」と感じられるのは、至極当然だということになる。
 アメリカは外国人にとって、きわめて単純な、しかし堅固な魅力を持ち続けている。いわゆる「アメリカン・ドリーム」だ。これは端的に言って経済の問題ではなく、その国が構造として継続的に発散しているアティチュードの問題である。イギリスやフランスなどヨーロッパの国も、第3世界に住む外国人にとって、同様の吸引力を、アメリカほどではないものの持ち続けている。日本にその吸引力はない。日本の吸引力は「金」だけだが、その「金」も尽きようとしている。外国人が人間として生きていく上で、「金」以外に魅力のない国。国家の視点からものを見ることを峻拒する立場からも、なぜか日本の将来が心配になる。グローバリズム世界において、こんな国が命脈を保っていくことはできないからだ。
 日本をこのようにしてきた要因の一つが「入管体制」であり「難民鎖国政策」である。日本を閉塞に追い込んでいるこうした外殻をいかに脱ぎ捨てることができるか、これらは日本の課題でもある。もうひとつ、私たちは日本の脱皮をまつことなく、たとえばシェイダさんという人間が、トータルな意味で「人間」として生きていけるような空間と関係をつくっていくという課題を負っている。彼のいささかの激情、我が儘も含めて。忘れてはならないのは、日本で生きる日本人は明らかに、外国人にとって強者だ/強者にさせられている、ということだ。そんな私たち(日本人)のあり方を変えていくという課題に、常にどん欲でありたいと思う。(大塚 重蔵)
*1/*2:岩井俊二「スワロウテイル」(映画、1996年)。

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(3)在日アフガン難民問題:新たな局面へ
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 昨年の10月3日、東京入管と千葉県警の部隊が、すでに難民申請を終えていたアフガニスタン人9名を拘束、収容したことに端を発する在日アフガニスタン難民問題は、問題の発覚後半年を迎えて、大きな局面の変化を迎えています。
 法務省は彼らを難民不認定にしたうえ退去強制令書を発付しましたが、これらの処分を取り消すことをもとめる裁判が本格化してきました。4月11日には、東京地方裁判所で第2回口頭弁論が行われ、出廷したアフガン人の原告たちは40分にわたって意見陳述を披露しました。彼らの裁判を担当するのは、民事第3部の藤山雅行裁判長。藤山裁判長は、一般の裁判官にありがちな尊大・傲慢な態度がみじんも感じられない希有な人物で、驚嘆に値します。そもそも30分以内が予定されていた裁判で、意見陳述が長引いても、法廷はそのまま続けられました。
 同じ趣旨の裁判を行うアフガン難民は数十人にわたっており、裁判所は審理の期間を短縮するため、一人の原告にこれを代表させて集中的に審理を行う方式を採用しました。これにより、本来一審だけで2〜3年かかる裁判が、1年程度に短縮される可能性が出てきています。これは、彼らの利益にもかなうことです。今後、裁判の行方に注目していきたいと思います。
 一方、これまで茨城県牛久市などの収容所に強制収容されていたアフガン人たちの多くが3月以降、徐々に仮放免を受け、身柄が解放されてきています。牛久収容所に収容されているアフガン人は、最大で30名前後を数えましたが、3月以降、仮放免による身柄解放が相次ぎ、現在は10名以下にまで減ってきています。法務省・収容所は具体的に明らかにしていませんが、いろいろな理由があいまって事実上の政策転換が進んでいるのではないかとの推測もあります。
 シェイダさんの身柄解放の際もそうでしたが、身柄の解放は非常に喜ばしいことであると同時に、これから日本社会で生きていくという、別の困難な課題にぶつかることでもあり、仕事や住居などの面で、これから新たな努力をしていかなければならない状況です。彼らの支援に関心のある方は、ご返信いただければ幸いです。
 では、4月11日の法廷における彼らの意見陳述を以下、掲載します。

<<<意見陳述>>>

1 はじめに

  裁判長殿、本日は、裁判官皆様の前で話をする機会を与えていただき、心より感謝申し上げます。
  裁判官方が私達を地獄の苦しみである収容所から解放してくださったと聞いています。本日の裁判の原告はもちろん、傍聴しているすべてのアフガニスタン人を代表して、我々に対する人道的配慮に心より感謝申し上げます。
  窓もない鉄格子の中で正気を失いかけていた私たちにとって、もう一度新鮮な空気と青い空を見ることができたことは言葉に尽くせぬ喜びであります。
  本日は、時間が限られておりますので、私、AとB、Cの3人で、DとEの言葉をもお伝えいたします。

2 私たちが日本に庇護を求めた理由

(1) 私はA、シーア派のハザラ人です。残念ながら私の半生は戦争と虐殺の歴史でありました。
 我々6名は、アフガニスタンの少数民族ハザラ人です。裁判長殿、私達の顔を見てください。同じような顔をしています。しかし、私たちはモンゴロイドでありシーア派であるというだけで、長年にわたる差別、抑圧、虐待、そして迫害に苦しんできました。近日報道されているとおり、バーミヤンで新たに女性や子どもを含む多くのハザラ人の虐殺体が発見されました。
 長い迫害の歴史の中でも特にナジブラ政権崩壊後の10年間、我々の国民とくにハザラ民族は、受難の時を強いられました。そしてマザリシャリフやバーミヤン、ヤカオラン、西カブールでのハザラ人に対する凄惨な虐殺。
 アフガニスタンでは、シーア派イスラム教徒でありモンゴロイドであることそのものが罪なのです。
 例えば、私自身も、目の前でロケット砲が炸裂し、爆撃、地雷で人々が虐殺される場面を幾度となく目撃しました。父がタリバンから連行された場面にも遭遇しました。これらの筆舌に尽くしがたい悲惨な光景の記憶は、今も私をさいなみます。
(2) 私達は、せめて私だけでも生き抜いて欲しいという家族の切ない希望を背に日本に庇護を求めました。アフガニスタンの状況がここまで悲惨を極めなければ、日本まで庇護を求めたりしなかったでしょう。私の母国を誰よりも愛しているのは、この私です。帰国できる状態であれば、自分の足で帰ります。

3 難民申請、そして収容へ

 私たちアフガニスタンのハザラ人は、Aが語ったように、地獄から逃れるために、日本に来日しました。日本人が親切で人道的であるから、私達を庇護すると信じてやってきたのです。私は、入国約1週間後、日本を信じ、自らの意思で、自らの足で、東京入国管理局に出頭しました。
 それなのに、私たちは収容されました。早朝、防弾チョッキを装備した男たちに、犯罪者同然に引き立てられました。
 なぜですか?
 ハザラ人難民申請者を収容する国を聞いたことがありません。私達は、アフガニスタンで迫害され、日本で2度迫害されました。

4 収容の苦しみ

  私Bは、100日以上収容されました。このDは、さらに長く拘束を受けました。彼は、昨年11月に自分が解放されないと知ったとき、多量の錠剤とせっけんを飲み込みました。10代だったCは、今年2月に、パニック障害、脱水症などに罹患し、突然倒れて意識を失い、約2週間歩くこともできませんでした。そして、Eは、こんな白髪になってしまいました。収容前には、彼には一本の白髪もありませんでした。
  私達はみな、収容所で、薬を1日に10−20錠くらいを飲んでいました。それでも、毎日、死にたいという衝動を抑えることができませんでした。
  そして、傍聴席に座っている10代後半のFは、私の目の前で、はさみで体を滅茶苦茶に切りつけました。あの時の私の気持ちをどう表したらいいでしょうか。今でも彼の腹には痛々しい傷跡があります。
  どうか、私達から、いつの日にか、健康な体でアフガニスタンに帰国し、祖国のために活躍する機会を奪わないで欲しいのです。

5 最後に

  裁判長殿、私は、誠心よりお願い申し上げます。私達は5人ですが、傍聴に来ている仲間を含めれば、今日は14人です。そして、今この瞬間も、収容所の中で、心の傷から血を流し続け、死ぬ瀬戸際までいった仲間が何人も収容中です。
  裁判長殿、すべての仲間を代表して、最後に申し上げます。私達は、この世の地獄から逃げてきました。私たちは、庇護を求める難民です。
  私達を二度と再び収容しないで下さい。収容令書を取り消して下さい。そして、退去強制令書を取り消してください。
  私たちは裁判長と日本の裁判所、そして日本の人々が、私達の心に溢れる苦しみをご理解下さると信じております。裁判官方の人道的なご英断を賜りたくお願い申し上げます。

6 付加

  私はCです。先月誕生日を迎え、10代ももうすぐ終わります。私の夢は、医者になってアフガニスタンの人たちを助けることです。そのために、現在、日本語を一生懸命勉強しています。
  私の父はタリバンに連行されてしまいました。母と妹の消息も不明です。今でも家族のことを考えると涙がでます。
 でも、私は1人でも夢の実現のためにがんばります。裁判長殿、どうか私の夢を叶えさせてください。

***第36号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第36号 2002年5月6日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん尋問 二日後に迫る!衝撃的な新事実も明らかに!
  〜5月8日午後2時、東京地方裁判所に集まろう!!〜
(2)東京地裁民事第2部でまた画期的判決
  〜在留資格変更の不許可処分を取り消し〜
(3)シェイダさん陳述書〜イランでの同性愛者迫害について〜
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●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)シェイダさん尋問 二日後に迫る!衝撃的な新事実も明らかに!
  〜5月8日午後2時、東京地方裁判所に集まろう!!〜
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 2000年7月の提訴からもうすぐ2年。「シェイダさん在留権裁判」最大の山場があと二日後に迫っています。
 来る5月8日、シェイダさんが東京地方裁判所の証言台にたち、約2時間30分にわたって証言を行います。
 シェイダさんの弁護団では、2月8日に行われた前回の法廷(第9回口頭弁論)直後からシェイダさん尋問の準備を開始。4月8日までに約20ページに及ぶ陳述書を作成して法廷に提出、その後、日曜・休日をつぶして尋問準備に取り組みました。おかげで、相当に内容の濃い尋問が展開できそうです。
 尋問準備の過程で、衝撃的な新事実も明らかになりました(なかみは当日のお楽しみ!)。弁護団としては、最終的に、尋問に向けて万全の体制を組むことができたと考えています。
 シェイダさん本人尋問は5月8日午後2時から始まります(集合:1時30分)。ぜひとも傍聴に来て下さい。法廷での応援、大歓迎です。法廷終了後、弁護士会館(10階:いつもの場所とはちがいます)で報告集会を予定しています。こちらも、ふるってご参加下さい。
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┃シェイダさん在留権裁判 第十回口頭弁論               ┃
┃(日時)2002年5月8日 午後2時〜(1時30分集合)午後5時終了予定┃
┃(場所)東京地方裁判所6階 第606号法廷              ┃
┃・営団地下鉄霞ヶ関駅下車、法廷まで徒歩3分             ┃
┠──────────────────────────────────┨
┃シェイダさん在留権裁判 第十回口頭弁論報告集会           ┃
┃(日時)報告集会終了後(17時〜18時30分を予定)          ┃
┃(場所)弁護士会館1006AB会議室(第二東京弁護士会)       ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(2)東京地裁民事第2部でまた画期的判決
 〜在留資格変更の不許可処分を取り消し〜
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 東京地方裁判所では、これまでの難民・出入国管理行政のあり方を問い直す判決が相次いで出ています。東京地方裁判所民事第2部(市村陽典裁判長)は、3月8日のトルコ出身のクルド人の難民不認定処分を取り消す判決に続き、タイ人女性の在留資格変更を不許可とした法務省の処分を取り消す判決を出しました。
 判決は難民問題とは直接関係はないものの、法務省による在留資格変更不許可処分を正面から退ける内容で、非常に有意義なものであるといえます。
 市村裁判長は、シェイダさんの事件を担当している裁判官でもあり、シェイダさんの事件についても積極的な判決を出すことが期待されます。
 以下は、本件事件の判決についての共同通信の報道です。

┌─────────────────────────┐
│タイ女性の定住資格認める  入管の判断「事実欠く」│
└─────────────────────────┘

 日本人男性との間に生まれた女児の親権者になったタイ人女性(31)が法相に定住者資格を与えるよう求めた訴訟の判決で、東京地裁(市村陽典裁判長)は二十六日、「事実の基礎を全く欠いた判断だった」として在留資格の変更を認めなかった法相の処分を取り消した。
 判決によると、女性は一九八九年に不法入国し、九二年に日本人男性との間に長女をもうけた後にこの男性と結婚。さらに九四年に二女を出産したが、九五年に強制退去になった。
 九六年に日本人の配偶者として再来日したが、九九年に離婚。日本国籍の二女の親権者となったため定住者資格を申請したが、東京入国管理局は「形式的な親権者で養育能力がない」などとして許可しなかった。
 これに対し、市村裁判長は「子への愛情は十分で、周囲には支援者もいて経済的能力が全くないわけではない」と指摘。「入管の判断は重要な事実誤認があり、事実に対する評価が明白に合理性を欠いている」と述べた。
 判決について女性の弁護団は「同じ境遇にある多くの外国人にとって有意義な判断。子供を保護する観点から離婚後の外国人には定住者資格を与えるのを原則とすべきだ」としている。(2002年4月26日 共同通信)

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(3)シェイダさん陳述書〜イランでの同性愛者迫害について〜
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 シェイダさんは5月8日の尋問に先立って4月8日、東京地方裁判所に提出しました。この陳述書は合計18ページにわたるもので、イランにおける同性愛者の迫害の状況から、来日してからカミングアウトに至るまでのシェイダさんの気持ちに至るまでがわかりやすく述べられています。
 今回は、この陳述書から、イランでの同性愛者に対する迫害に関する部分を抜粋してご紹介します。同性愛者を死を以て処罰するイランの現体制、同性愛者の存在を認めないイラン社会……その中を歩んだ一人のイラン人同性愛者の半生の記録としてお読みいただければ幸いです。

┌───┐
│陳述書│
└───┘

2002年4月8日
シェイダ

<<同性愛者だと気づいた瞬間>>

 私は、同性愛者として難民認定を申請しています。
 私は西暦1963年12月22日、イランで生まれました。学校に通うようになって、先輩たちに対して自分が感じる気持ちから、私が同性愛者であるかも知れない、と本格的に思うようになりました。
 私は最初、この気持ちを異常だと思いました。イランでは、ゲイが集まる特定の場所がなく、同性のパートナーを見つけることは困難です。しかし、その極めて稀なことが、私にはありました。学校で特定のパートナーを得る機会があったのです。
 最初の関係は、友人としてでした。しかし、彼と会ってから、彼と会いたいと思い、一緒にいるときには心地よく感じました。
 最初のうちは、その先輩と一緒にいないときには、もしかしたら自分は同性愛者なのではないかと考え、そのことに嫌悪を感じ、病気ではないかと心配もしました。先にも述べたように、同性愛はイラン社会では認められていません。イラン社会で育った私には、同性愛に対する嫌悪の情がしみこんでいたのです。しかし、先輩に会いたいという気持ちの方が上回っていました。

<<イラン革命がおきてから>>

 1979年に、イラン革命が起こりました。革命後、同性愛者の一斉逮捕や処刑が開始されました。テレビ・ラジオのニュースや新聞で、同性愛者に対する処刑のことが頻繁に報道されるようになりました。スウェーデンとデンマークにあるイラン大使館の前で、イランの革命勢力が同性愛者を虐殺していることについての抗議のデモが行われたという報道を読んだ記憶があります。
 新聞を読んでみると、同性間性行為に対する石打ち刑の記事が報道されていたり、テレビで石打ち刑による処刑のニュースが放送されたのを見たこともありました。それを見るごとに、私は自分の死が目の前にあるように感じ、自分が同性愛者であることを人に話す勇気が出ませんでした。

<<同性愛者であることを隠しながら>>

 実際、私の知人たちは、私が同性愛者であると分かったら私と絶交し、そのことを革命防衛隊(注:イラン・イスラーム革命の防衛のためにイスラーム主義者たちが組織した軍事組織で、イスラーム共和国の軍・警察の別働隊としての役割を果たしている)に通報したことでしょう。私と私の特定のパートナーは、もし私たちの関係が暴露されたら私たちも処刑対象者のブラックリストに加えられ、処刑の対象となるのではないかとおびえていました。
 私は家族や知人に対して、自分と特定のパートナーとの関係をずっと隠してきました。私はこのことをいつも思い悩んでおり、精神的にも安定しませんでした。自分の本当の気持ちを明かすことが出来ないため、私はいつも孤独で、集団に参加することにためらいがありました。だから、心を許せる親しい友人もいませんでした。
 もしかしたら、知人・友人の中に他にも同性愛者がいたかも知れませんが、こうした事情があり、私には他に同性愛者の知り合いはいませんでした。
 親戚や友人などに、私とパートナーとの関係を伝えることが出来なかったのは、皆が信頼できなかったからです。私は、可能であるならば、パートナーを皆に紹介したいと望んでいたのですが、嘲られたり、問題を起こされたりする可能性が高いと考え誰にも話すことができません。
 なお、当時の私のパートナーは、私も一時期所属していたイランの左翼組織の活動家でもあり、80年代末にイランを出国してヨーロッパのある国で難民として認定され、現在はヨーロッパで生活しています。

<<イスラム刑法が執行する同性愛者への刑罰>>

 先進国では、同性愛者の問題は社会的な運動として発展していますが、イランでは未だにタブーとされており、イラン社会の中では、同性愛者の権利を求める運動を公に展開することはまったく不可能です。
 イランで同性愛者であることが判明すれば、同性愛者を対象とする法に基づいて処罰されます。
 イラン政府は同性愛者に対して厳しい処罰を行っています。同性愛者の処罰は死刑であり、死刑の方法を裁判長が決めます(イスラーム刑法141条)。そして同性愛の関係を持っている二人が成人(男15歳以上、女性は9歳以上)であって、二人とも自由意思で性関係を持っていたとした場合には、死刑の処罰が下されます(142条)。
 現在まで、イスラーム共和国政府は公開で、あるいは秘密裏に、同性愛者を残酷に罰してきました。
 私は革命以前から、イスラームに帰依する意思も、神への信仰心も持っていませんでした。そうした私の信条は、当時はとくに科学的な基盤のあるものではなく、むしろ感情的な要因に基づくものです。私の感情や性的関係は、イスラームのどこにも居場所がありません。
 革命裁判所法第202条では、これらの「異端」を、第一に殺害、第二に絞首刑による殺害、第三に右手や左足の切断、第四に流刑という方法で処刑することを定めています。
 石打ち刑を始めとする、イラン政府による同性愛者への処刑や弾圧以外に、同性愛者が恐れるのは、イラン社会にあまねく存在する同性愛に対する嫌悪感です。
 一般大衆が人に悪口を言うとき、同性愛に関する比喩が用いられることが多いです。同性愛者たちは、いつでも引き合いに出され、ののし
られます。
 同性愛者であることを公言することは、イラン国外でこそ可能ですが、国内では不可能なことです。もし誰かが蛮勇を振り絞って、自分が同性愛者であると公言したら、イスラーム共和国体制によって処刑される以前に、社会から忌避され、彼に近づく人はいなくなるでしょう。

<<イランへの退去強制はやめて!>>

 性的指向は、人を人として形作る上で根本的な要素の一つです。
 私は、性的指向を隠したり、処刑される恐怖を抱いたりすること愛者、人間として生きるにたる人生を求めて、イランを出国しました。しかし、日本政府は、私を「犯罪者」であり、外国人であり、不法に滞在しているとし1年7ヶ月もの間、牢獄のような収容施設に閉じこめました。
 どうして、私はこんな恥辱を受けねばならないのでしょうか。こうした扱いは、私の尊厳だけでなく、すべての人類の尊厳にとってふさわしくないものです。
 イスラーム体制が続く私の祖国イランは、私にとって、とても広く、天井が空に続いている刑務所です。そのイランにも、同性愛者がいないわけではありません。多くのイラン人の同性愛者が、イランという広大な牢獄につながれています。死刑、石打ち刑、身体の切断、残虐な拷問などが、イスラームの名の下で行われています。私は暗く恐ろしいその刑務所から逃亡して、日本に来ました。日本での生活で、私にとってうれしいことが一つだけあります。小さなことだけれど、それは決定的なことです。それは、私がいま、ここで生き、呼吸していることを感じることができるということです。
 裁判長および裁判官の皆様にお願いします。私に発付されている退去強制令書を執行し、私をイランに強制送還することは、私が自らの生を実感することができるという、私に残されたたった一つの幸せすらも、奪ってしまうことを意味します。私に残った最後の幸せ、最後の希望を、私から奪い去らないで下さい。祖国イランが同性愛者にとって牢獄であることをやめたなら、その暁には私はすみやかにイランに帰国し、イランとそこに生きる同性愛者のために働くつもりです。(了)

***ニュースアップデイト第37号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第37号 2002年5月14日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)今後の裁判の展開に大きなインパクト
 〜シェイダさん原告本人尋問終わる〜
(2)より詳しい内容を知りたい方へ:シェイダさん証人尋問詳報
(3)在外日本大使館・総領事館の難民申請に対するずさんな実態
 〜シェンヤン総領事館と駐チェコ大使館の事件から〜
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(1)今後の裁判の展開に大きなインパクト
 〜シェイダさん原告本人尋問終わる〜
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 もうすぐ丸2年を迎えるシェイダさん在留権裁判。5月9日、今までのところ一番の山場である原告シェイダさん本人の尋問が行われました。当初、尋問時間は2時間半を予定していましたが、尋問内容には裁判官も熱心に聞き入り、法廷は30分ほど延長されました。内容的にも非常に満足のいくもので、今後の裁判の展開に非常によい影響を与えそうです。
 また、シェイダさんの尋問と聞いて多くの人々が傍聴にかけつけてくれ、法廷は満席に近い状態となりました。傍聴に来ていただいた皆さん、どうもありがとうございました。
 原告代理人の大橋弁護士による主尋問では、まずイランでの同性愛者の迫害状況と、シェイダさんの出国理由、同性愛者の団体「ホーマン」と出会って同性愛者としてのポジティブなアイデンティティを身につけたことなどが証言されました。その後、シェイダさんの収容(2000年5月)後東京入国管理局によって行われた尋問が、通訳も付けず、何のための尋問かをきちんと説明せずに行われたこと、最初の尋問はイラン人や他の外国人がいる大広間で行われ、証言内容を他人に聞かれるなどの問題が生じたこと、次の尋問は病気で尋問に耐えられる体調でないときに、昼から夜まで無理に行われ、作成された調書の読み聞かせも行われなかったこと、など、入国管理局側の尋問のずさんな実態が明らかになりました。
 一方、法務省側の反対尋問は精彩を欠き、1時間の予定がわずか40分で終わりました。
 裁判長は今後の法廷について、原告側が申請している在米イラン人の人権活動家グダーズ・エグテダーリ氏の採否を決める前に、いったん原告・被告双方がイランにおける同性愛者の迫害の状況について資料を全部出してほしい、と指示。被告側は「イランの同性愛者の人権状況については現在調べているところであり、少し時間をくれ」と述べ、次回法廷は2ヶ月以上あとの7月19日となりました。法務省がどんな証拠を出してくるか、要注目!です。
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┃シェイダさん在留権裁判 第11回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2002年7月19日 11時30分〜  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
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┃第11回口頭弁論報告集会         ┃
┃○日時:2002年7月19日 12時30分〜  ┃
┃○場所:弁護士会館を予定        ┃
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(2)より詳しい内容を知りたい方へ:シェイダさん証人尋問詳報
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○●○改めてイランの同性愛者への人権抑圧を告発○●○

 尋問は、イラン・イスラーム革命(1979年)以後のイスラーム共和国体制において、同性愛者がどのように迫害されてきたのか、また、シェイダさんがそれをどのように知り、どう考えたのかから始まりました。
 シェイダさんは、同性間性行為や結婚相手以外との性的関係などを処罰するために行われている「石打ち刑」の実態を詳しく説明しました。また、イスラーム共和国体制に反対する左翼や民主派などの勢力も、同性愛者の人権確立には不熱心であったこと、国家による迫害だけでなく、家族などからの社会的迫害も深刻であり、彼自身がイランで家族からの強烈な結婚圧力に悩まされていたことを証言しました。
 また、同性愛について十分な情報がないイランでは、同性愛者が自分の性的指向を肯定的にとらえることができず、同性愛を「罪」とか治療しなければならない病気ととらえざるをえない状況があること、イランでは自分もこうした意識にとらわれていたことを証言。自分が同性愛者であることを肯定的にとらえ、ポジティブなアイデンティティにしていくことができたのは、イランからの出国後、欧米で活動しているイラン人同性愛者の人権団体「ホーマン」に出会ってからだと述べ、同性愛者のコミュニティに触れることの重要性についても証言しました。
 尋問に当たった大橋弁護士の「イランから出国した理由はなんですか」という問いに対するシェイダさんの回答「人間らしく生きたかったからです」という答えには、説得力がありました。

○●○収容時の東京入管のずさんな尋問実態を告発○●○

 尋問は、シェイダさんが2000年4月の逮捕以降、5月に東京入国管理局の収容場(通称「十条」、東京都北区十条駅近く)に送られたときにシェイダさんが経験したことへと移っていきました。
 シェイダさん在留権裁判で法務省側は、収容場で「退去強制手続」の一環として行われた入国警備官による尋問(2000年5月9日)、入国審査官による尋問(5月25日)、特別審理官による尋問(6月9日)の調書を証拠として提出しています。そこには、シェイダさんの家族が、シェイダさんが同性愛者であることを知っているとか、シェイダさんはイランからの出国後ドバイ(アラブ首長国連邦)で日本大使館に立ち寄ったとか、事実に反することが書かれています。法務省は外国人の難民事件の裁判などでは、本人が自発的に行った証言と、退去強制手続のための尋問で行われた証言とのささいなずれをついて責め立て、「こいつはうそつきだ」という印象を裁判官に与えるという戦術をとることが多いのです。
 シェイダさんは証言の中で、これらの尋問がどのような形で行われ、こうした「調書」となっていったかについて克明に証言しました。この証言内容は驚くべきものでした。
 まず、シェイダさんが「十条」に移された直後の5月9日に行われた入国警備官による尋問について。シェイダさんの証言によると、この尋問は専用の部屋ではなく大広間で行われましたが、その部屋の中では他にも尋問が行われており、尋問待ちのイラン人や他の外国人が十名以上いたということです。シェイダさん自身、他の尋問の内容を聞くことができました。シェイダさんの近くには他のイラン人がいてシェイダさんの尋問を聞いており、このイラン人はあとでシェイダさんの尋問理由を他の人に言いふらしていたというのです。
 また、尋問の担当官は尋問に当たって「これは難民申請とは関係ない。入管に入るための手続きの一環だ」といい、弁護士がいなければ尋問には応じないといったシェイダさんに対して大声で威圧したとのことです。尋問には通訳も付きませんでした。他の外国人の存在に気を取られ、シェイダさんは担当官の調書読み聞かせに集中することができず、調書の内容がまちがっていてもチェックすることができなかったと証言しました。
 次に、5月25日に行われた入国審査官による尋問についてですが、シェイダさんはこの日の数日前から全身のかゆみや腫れに襲われ、耳・鼻にも炎症ができて医師にかからざるを得ないほどひどい体調でした。尋問はこれを無視して、昼前から夜8時までの長時間、通訳なしで行われたそうです。これについても「難民申請とは関係ない」という説明があり、さらに時間が遅くなったために担当官は読み聞かせをせずに調書を作成したとのことです。
 以前から、入国管理局による尋問は通訳などの点で問題があると指摘されていましたが、シェイダさんの証言によって、通常では考えられないずさんな尋問のやり方が法廷で明るみに出たと言えます。

○●○精彩を欠いた法務省の反対尋問○●○

 東京入管のずさんな尋問実態の証言については、最初は眠そうにしていた裁判官も身を乗り出して聞くなど、裁判官にもかなりのインパクトを与えました。法務省側も、証言が進むにつれてあわてて書類をめくったり、担当者同士が小声で相談しあうなど、うろたえている様子が如実にうかがえました。
 出鼻をくじかれた法務省側の反対尋問は、非常に精彩を欠いたものになりました。法務省側は、シェイダさんが1996年に東京で行われたレズビアン・ゲイ・パレードに参加し、その後97年にイラン大使館に赴いてパスポートの更新を行ったことをとりあげ、「本当に迫害が恐いなら、イラン大使館に行くことはできないはず」とばかりに迫りましたが、シェイダさんは96年のパレードについては「ホーマン」の会員としてではなく個人的に参加しただけであること、在外イラン大使館は反体制活動家などに対してもパスポートの切り替え業務を行うのが通常であることなどを証言して切り返しました。法務省のつっこみはその程度で、あとは時間を稼ぐための無ないような質問が淡々と続き、1時間を予定していた法務省の尋問はわずか40分で終わりました。

○●○今後のスケジュール○●○

 尋問が終わった後、市村裁判長は今後の進め方について、シェイダさん側が証人尋問を申請しているイラン系米国人の人権活動家、グダーズ・エグテダーリ氏の採用について言及しました。市村裁判長はまず、エグテダーリ氏が自ら執筆した意見書等が証拠として提出されていることから、まず原告・被告双方が、イランにおける同性愛者の迫害の状況について、現段階で出せる証拠をすべて出し切ることが必要であると述べ、そのために一度口頭弁論を設けることを提案。エグテダーリ氏の採否はその段階で決定すると述べました。
 法務省側は、イランでの同性愛者の迫害状況について「現在調査中であり、今しばらく時間がほしい」と述べ、次回の法廷を7月に持つことを主張。次回の口頭弁論の期日は7月19日、午前11時30分からとなりました。
 法務省が、イランにおける同性愛者の迫害について新しく「調査」を行っているというのは、当方にとっても初耳であり、意外な感じがしました。法務省側は、次の法廷にどんな資料を持ってくるのでしょうか。次回の法廷、要注目!です。

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(3)日本の在外公館の庇護希望者に対するずさんな実態
 〜シェンヤン総領事館と駐チェコ大使館の事件から〜
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○●○問題は「主権侵害」ではない○●○

 肝心なことがごまかされようとしている。
 北朝鮮出身の一家5名が、中国での数年間の逃亡生活の後、政治亡命をもとめてシェンヤンの日本総領事館に逃げ込んだ。女性と子ども三人は総領事館の敷地内にいったん入ることに成功したものの、その場で中国の武装警察に引きずり出され拘束された。二人の男性はビザ申請待合室に逃げ込み、そこで10分間待機していたが、その後武装警官が待合室にまで入り込んで二人を拘束、結局全員が中国当局によって身柄を拘束されたのである。
 日本政府の抗議に対して、中国側は総領事館への武装警官の侵入と5名の拘束について総領事館側の了解があったと反論、副領事が二人の男性の拘束に同意を与え、さらに感謝までしたと述べ、日中両国は事実関係について真っ向から対立している。
 事件の状況をとらえたビデオが世界中のテレビ番組で放映されているが、それを見ると、日本側の副領事たちは、女性3人が取り押さえられたところで門まで出てきて、わざわざ警官たちの帽子を拾い集めて渡している。侵入に抗議したり、拘束された人たちが誰なのか、拘束が適当なのかということについて中国側と論争している様子はうかがえない。総領事館への逃げ込みに一時は成功した男性二人が拘束されたのはその後だ。総領事館がこの二人の身柄を守ろうと思えば、簡単に守れたはずであるのに、総領事館は中国武装警官のさらなる侵入を許し、簡単に二人を拘束させてしまった。
 外務省はこれが大きな国際問題に発展するに及んで、あわてて幹部を派遣し調査に当たらせた上、総領事館は5名の拘束に同意を与えていなかったとする報告を出した。外務省の調査報告は真実なのか。ここに一つの発言がある。9日、自民党に事件の説明に行った竹内行夫外務次官が「(シェンヤンの総領事館には)ふだんから物乞いが来ていた」と弁明したというのである(10日、共同通信)。ふだんから「物乞い」が来ていたから、どうだというのか。総領事館が今回もそうだと思い、武装警官のなすがままに任せたということなのか。
 この弁明から推測できるのは、日本の在外公館が、亡命者も「物乞い」も「身元不明者」ということで一緒くたにして、ふだんから中国側の武装警官に排除にあたらせていたということである。北朝鮮の亡命者の救出活動に当たるNGOがマスコミと連動してこの事件を記録化し、世界に発信していなかったら、この亡命希望者たちは誰にも気づかれることなく中国官憲に拘束され、北朝鮮に送り返されていたことだろう。

○●○問題は日本の亡命者・難民政策と外務官僚の弛緩しきった頭脳にある○●○

 この問題は「中国が日本の主権を侵した」という問題として喧伝され、不況でやけ太った日本の陳腐なナショナリズム培養の肥やしになっている。しかし、この問題の根っこにあるのはそれではなく、むしろ、特権階級たる在外公館職員の、現地社会に対する差別的なまなざしの問題である。彼らは普段から中国の武装警官に頼んで、総領事館にやってくる「物乞い」を追っ払ってもらっていた。それが5月8日にはたまたま、政治的抑圧と貧困と飢餓の中から脱出し、中国各地をさまよったあげく、ぎりぎりのところで亡命の道を選んだ北朝鮮の住民だった。かかわりあいになりたくない、せいぜい「身元不明者」として中国の武装警官に対応させればよい。中国の現場の武装警官の「主権侵害」を招いたのは、そうした認識だ。
 5月13日の東京新聞朝刊で報道された、在外公館における亡命者の取り扱い方針が、それを裏書きしている。日本のどの在外公館も、亡命希望者を含め身元不明者はいっさい「敷地に入れない」方針をとっているというのである。5月15日、新聞各紙はさらにショッキングな報道を行った。事件の数時間前に阿南惟茂・中国大使が「不審者を敷地内に入れるな」と指示していたというのである。
 もし、これらの北朝鮮亡命者が総領事館の入り口で職員を呼びだし「亡命したい」との趣旨を告げたとしたらどうだっただろう。この方針通りにやるなら、敷地内には立ち入らせず、中国の武装警官に身柄を引き渡すことになる。彼らは拘束され、北朝鮮に送り返されるが、「主権侵害」の問題は一切生じない。外務省は一生懸命、この問題を「主権侵害」の方向に誘導しようとしているが、問題の本質はそこにはない。問題は、在外公館への亡命希望者を庇護するという方針を掲げてこなかった日本の亡命者・難民政策と、突発的な事件に際して、何が最も優先されるべき事柄なのかを判断することのできない官僚の弛緩しきった頭脳にこそあるのだ。
 「差別的なまなざし」:これを立証する事実はもう一つある。外務省は中国側の指摘を認め、副領事が中国官憲の前で、北朝鮮出身者5人のうちの一人から英文の手紙を受け取っていたことを明らかにした。外務省はその中で、副領事はその手紙が「理解不能だったので返した」と述べている。韓国のNGOが、この5名が持っていた英文の手紙を公開しているが、その内容は理解不能であるどころか、庇護を希望していること、米国に行きたいことがはっきりと明記されている。手紙の内容が理解不能だったのではない。「副領事さま」におかれては、しょせん「不審者」の書いたものであるこの手紙を理解しようと努力を傾ける必要はなかったということなのだ。

○●○駐チェコ日本大使館の無責任回答○●○

 日本の難民政策のずさんさは、ヨーロッパでも暴露されている。
 チェコ共和国では、ロマ人に対する民族差別や迫害が著しく増えている。その中でロマの人々は難民として他国に出国することを考え、チェコとビザ免除協定を結んでいる日本を一つの候補に選んだ。国営チェコ通信が、プラハの日本大使館に対しロマ人の難民としての受け入れが可能かどうかをインタビューした。日本大使館職員は「日本は絶対難民を受け入れない。数年間投獄されるかも知れない。高い航空運賃は無駄になり、渡航した人は失望するだろう」と述べた。
 たしかに、事実はその通りである。しかしこの回答は、日本が難民条約の加盟国であるというもう一つの事実を全く無視している。結果としてこのメッセージは、迫害を恐れるロマの人々に「日本はコワい国、行かない方がよい」を威嚇する効果しか持たないものとなっている。
 大使館として面倒を避けるためには、たしかにベストの回答かも知れない。しかし、この答えで放置されるのは、日本が国家として、「難民条約」に対していかに責任をとっていくかということである。難民条約に加入している国家が「我が国は難民を受け入れない」ではすまされない。在外公館の役割は、自国政府の政策を他人事のように説明することではない。在外公館は政府機関を構成しているのであり、自国政府の政策の矛盾に具体的にこたえる義務があるはずである。

○●○亡命・難民政策を改め、抜本的な解決を○●○

 シェンヤンとプラハの二つの在外公館で生じた問題は、日本の亡命・難民政策の欠落点を、これ以上ない形でむき出しにした。
 出入国管理・難民認定法は、在外公館での亡命希望者の庇護のあり方について何ら規定をしていない。難民認定は日本に上陸した段階で初めて行われるものとなっており、これが在外公館における亡命希望者の庇護の方針化を阻んでいる。明らかな法の不備である。
 日本の入管行政はこれまで、裁量次第でどうとでもできる入管法のもとで、とくに難民に関して、徹底した鎖国政策を敷いてきた。しかし、それでもなにがしかの規定は存在した。在外公館の亡命者の問題は、それとは質が異なる。どこにも、何ら規定のない全くの法の不備が国家政策に穴を作り、「主権侵害」という事態を引き起こしたのである。
 入管・難民法は難民に関する膨大な規定をすべて「第61条の2」にぶちこむという普通では考えられない泥縄式で日本の難民政策を規定してきた。しかし、もう限界だ。法律にはっきりとした穴がある以上、難民・亡命者に対する立法的・行政的施策は根底から見直されるべきである。難民条約の精神に基づく、人道的な方向性にのっとった形で、それが行われるべきことは言うまでもない。(文責:大塚 重蔵)

***第38号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第38号 2002年6月27日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん裁判:次の法廷が一つの節目に
  〜7月19日 第11回口頭弁論に集まろう!〜
(2)<シリーズ>シェイダさん裁判 証拠ライブラリー
  〜第1回:イランにおける同性愛者弾圧の巻〜
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●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)シェイダさん裁判:次の法廷が一つの節目に
  〜7月19日 第11回口頭弁論に集まろう!〜
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 シェイダさんが難民不認定となり、強制退去命令を受けたのは2000年の7月4日のことでした。それから2年、シェイダさんは収容所から解放され、今、東京でたくましく、ふてぶてしく生き抜いています。
 収容所で、ロンドンで2週にいっぺん発行されているイランの新聞「ケイハン・ロンドン」をなめるように読み尽くしたシェイダさん。同性愛者の処刑に関するたくさんの記事が証拠になり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民認定も、事実上かちとることができました。
 しかし、2年前と変わっていないことが、たった二つだけあります。一つは、裁判がまだ続いていること。そして、シェイダさんには難民認定などの形で、日本に合法的に滞在する資格が、未だに与えられていないということです。
 5月9日、シェイダさん裁判は大きな山場を迎えました。2時間半の尋問……シェイダさんはやり抜きました。主尋問では、法務省の違反調査の実態が、きわめてずさんなものであることを告発し、反対尋問では法務省の突っ込みに対して、鋭い皮肉でこたえました。
 次の裁判は、7月19日。裁判長は、法務省側・シェイダさん側双方に、イランでの同性愛者弾圧に関して持っている証拠をすべて出せ、と指示しました。法務省側は、「今、調査中でございまして、少し時間を下さい」とこたえ、2ヶ月以上たったこの日に法廷が設定されたのです。今のところ劣勢の法務省ですが、窮鼠猫を噛む、ともいいます。次に何を出してくるのかによって、裁判の展開は大きく変わります。
 次の法廷は、裁判の今後を占う意味では大変重要な法廷です。ぜひとも、法廷に集まりましょう!!
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┃シェイダさん在留権裁判 第11回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2002年7月19日 11時30分〜  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
┠────────────────────┨
┃第11回口頭弁論報告集会         ┃
┃○日時:2002年7月19日 12時30分〜  ┃
┃○場所:弁護士会館を予定        ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(2)<シリーズ>シェイダさん裁判 証拠ライブラリー
  〜第1回:イランにおける同性愛者弾圧の巻〜
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 シェイダさん側は、裁判が始まって以降、現在までに80点以上の証拠資料を提出してきています。法務省側の証拠資料がわずか十数点なのに比べて、雲泥の差だといえるでしょう。
 これらの証拠資料は、外国人の同性愛者が、難民認定を求めて日本に来たときにも活用できる可能性のあるものです。また、外国人の難民認定や在留権を求める裁判一般についても、活用できるものが数多くあります。
 「シェイダさんを救え!ニュースアップデイト」では、3回シリーズで「シェイダさん裁判 証拠ライブラリー」を公開したいと思います。今後の難民訴訟や外国人訴訟、同性愛者の人権を問う訴訟などをたたかう皆さんへの参考にしていただければ幸いです。
 まず、第1回目は、イランにおける同性愛者弾圧について扱った証拠資料の目録です。一見、無味乾燥に見えますが、読み進めるにつれて、イランに生を受けた同性愛者の苦しみと闘いが見えてくるはずです。
 シェイダさんの裁判に取り組み、証拠収集に集中して、初めに感じたのは、「難民制度は累々たる死者の存在を前提としたものである」ということでした。彼に先行する多くの死者の存在があって、初めて彼は難民として認められるということ。難民裁判の記録は、彼に先行する多くの死者の目録であるということ。難民として認められるためには、死者は多ければ多いほどよいという逆説。そして、いつしか、もっと恐るべき、もっと残虐な死が「証拠として」手に入ることを望むようになる、この錯誤。
 そんな逆説にまみれた難民制度が、しかし彼がイランに強制送還されるのを防ぐ最後の防波堤なのです。同胞の死が、自らの生命を担保するという現実を、想像してみて下さい。
 以下の記録は、私たちが、そして何よりも当事者であるシェイダさんが集めた、イランの同性愛者たちの墓碑銘です。一つ一つ、読んでみて下さい。

●第1号証●
・Islamic Penal Law in Iran(イラン・イスラム共和国刑法)
・イラン・イスラム共和国政府
・イラン・イスラム共和国刑法より、同性間性行為を規制する「ソドミー条項」を抜粋したもの。
●第2号証●
・「法律の実践」 (出典:ホーマン第16号 2000年春号)
・ホーマン:イランの同性愛者の人権を守るためのグループ (在ヨーロッパ)
・スウェーデンに本部を置くイラン人同性愛者亡命組織「ホーマン」が発行する「HOMAN」第16号に収録された、イラン人同性愛者の処刑・謀殺に関する記録。合計5件の処刑のケースが紹介されている。
●第3号証●の1
・「私たちもまた、ガスのにおいを感じた」(ペルシア語表記)
・イラン政治的亡命者女性グループ・ベルリン
・イランの首都テヘランで1999年に発生した2名の女性の死亡事件について、ベルリンの女性の政治的亡命者グループが、この2名の女性がレズビアン・カップルであった可能性と、それを理由としてイラン政府または民間武装組織によって謀殺された可能性があることを表明する資料。
●第3号証●の2
・返事:ペルシア語で書かれたこの手紙類について説明してくれませんか?
・ホーマン・連合王国支部
・テヘランでの女性2名の死亡事件についての稲場雅紀の問い合わせに対してホーマン・連合王国支部の担当者ナシム氏が返答したもの。二名がレズビアン・カップルであり、謀殺された疑いが強いことを主張している。
●第4号証●
・逮捕状
・イラン・イスラム共和国革命防衛隊総務課(テヘラン1区)
・イラン政府の正式な政府機関の一つである「革命防衛隊」が発行した「逮捕状」。本証拠は、イランでは1997年の段階においても、同性間性行為を行った疑いにより、革命防衛隊による逮捕が行われていることを示すものである。
●第5号証●
・報告書
・アデル・アバド・シーラーズ刑務所長モハマド・ジャヴァド・モヘビ
・イスラム刑法の性道徳規定に違反し、同性間性行為を行ったとされる被告を勾留し、裁判所が執行猶予付きながらむち打ち刑などの身体的刑罰を科した判決を出したことなどが報告されている。
●第6号証●
・逮捕者の身分に関する要約
・イスラム革命司法局
・イスラム教に反する行為の容疑によって逮捕された人物に関して、イスラム革命司法局が作成した身柄を拘束していることを示す要約文書である。
●第7号証●
・「法律の実践」(出典 ホーマン第16号 2000年春号)
・ホーマン:イランの同性愛者の人権を守るためのグループ (在ヨーロッパ)
・イランで、同性間性行為を行った人が法律によって処刑されるだけでなく、正規の司法手続きによらずに謀殺されているということを示すもの。2件の謀殺事例が記録されている。
●第8号証●
・関係諸氏へ
・ホーマン・連合王国支部(署名:ナシム)
・イラン人レズビアン・ゲイ亡命活動家によって構成されているグループ「ホーマン」に、原告が加盟していることを証明するもの。
●第9号証●
・「ホーマン」とは何か?(出典 ホーマン1999年冬号)
・ホーマン:イランの同性愛者の人権を守るためのグループ (在ヨーロッパ)
・イラン人レズビアン・ゲイ人権擁護グループである「ホーマン」がどのような活動を行っているかを示している文書。
●第13号証●
・強制送還されたイラン人ゲイが逮捕される
・レックス・ウォックナー(ゲイの国際ジャーナリスト)
・アメリカに在住し、同性愛者に関する国際ニュースを週刊で編集・配信している著名なジャーナリスト、レックス・ウォックナー氏により配信されたニュースから抜粋したもの。オランダから強制送還されたイラン人同性愛者がテヘランのメヘラーバード国際空港で逮捕されたという事件を報道したもの。本国に強制送還された場合、イラン政府が即刻逮捕する可能性が存在することを示している。
●第22号証●
・死刑(原文ペルシア語)
・サラーム紙(イラン国内で発行) 西暦1997年10月14日発行。 
・ホーマン 97年8月にキャリム・ホセインアリーという男性が同性間性行為の容疑により処刑された事例。ハータミー政権の成立以降にも同性愛者の処刑が続いていることを示す。
●第23号証●
・表題なし(文章の一部)
・「ホーマン」(「ホーマン」第12号(1997年冬)発行)
・ 新聞「ケイハン・ロンドン」に掲載されたニュース短信を「ホーマン」第12号に採録した記事。レザー・サグバズ氏という男性が同性間性行為の容疑により処刑された事例。本ケースも、ハータミー政権成立以降の同性愛者への死刑執行であり、ハータミー政権が事実上前政権の方針を引き継ぎ、極刑に処していることが証明される。
●第24号証●
・難民認定を求めるイラン人に対するオランダ政府の見解が発表される(原文ペルシア語)
・ニムルーズ第534号(1999年発行)
・雑誌「ニルムーズ」が掲載したオランダ政府の対イラン人難民政策についての説明。オランダ政府はイランが安全な国であるとは認識していない。また、オランダ政府は、イランにおいて迫害の恐れが十分にある社会的集団として、知識人、バハーイ教徒、同性愛者を挙げている。
●第29号証●
・イラン・イスラム共和国とかん通・同性愛に関する死刑の執行
・グダーズ・エグテダーリ(在米国の団体「イラン人権ワーキンググループ」メンバー)
・米国に支部を持つイラン人権ワーキンググループのグダーズ・エグテダーリ氏が、97年米国で開催されたイラン調査センター年間会議で発表した論文。帝政時代以降から現在までのイランの刑法における反ソドミー条項の変遷を振り返り、同性愛およびかん通に対する刑罰が、イスラム共和国の成立とともに極端に重罰化し、実際に適用もされていることを証明。
●第30号証●
・国連人権委員会特別代表レイナルド・ガリンド=ポール氏による、国連人権委員会決定 1999/79に基づくイラン・イスラム共和国の人権状況
・国連人権委員会特別代表レイナルド・ガリンド=ポール氏(資料翻訳:稲場雅紀)
・90年代前半に国際連合人権委員会の特別代表を務めたエル・サルヴァドール大学教授レイナルド・ガリンド=ポール氏による、イランの人権状況に関する報告書。90年に5名のゲイ・レズビアンが斬首刑に処されたケースについてのガリンド=ポール氏の問い合わせに対して、イラン政府は「同性愛者が自らの行為を告白した上、その行為に固執する場合は、イスラム法に基づき死刑が宣告される」と主張。
●第37号証●
・「変容する国家第2部 ヨーロッパ奔流5〜要塞化VS移住社会〜差別逃れ世界中から 同性愛者『ここは天国』(毎日新聞2001年2月24日付朝刊)
・毎日新聞社
・毎日新聞欧州問題取材班による新聞記事。「イランやサウジアラビアなどでは同性愛行為は最高刑で死刑」と書かれている。
●第38号証●
・「イスラーム世界がよく分かるQ&A100」(亜紀書房刊)第96問「イスラーム社会にも同性愛者はいるのですか」
・飯塚正人・東京外国語大学アジア・アフリカ言語研究所助教授
・アラブ・イスラム世界に関する日本国内の主要な研究者の一人である飯塚正人氏によるイスラム世界理解のための著作の一項目。「イスラームが同性愛を認めるわけではありません。」「イスラーム法上同性愛は罪であり、不義密通と同じく、露見すれば石打ちの刑となります。」と述べ、法務省側の主張を専門家の立場から覆している。
●第40号証●
・「イランが同性愛者の処刑を開始:5名を処刑」(ベイエリア・リポーター紙1990年1月25日付)
・ベイエリア・リポーター紙(サンフランシスコの地方紙、翻訳:稲場雅紀)
・90年初頭の男性同性愛者3名および女性同性愛者2名に対する処刑の詳報。同事件の事実については、第36号証に示すとおり国連人権委員会特別審査官が問い合わせを行っているなどから、きわめて信憑性が高い。
●第41号証●
・タイトルなし(ロイター通信1981年2月25日付)
・ロイター通信社
・81年、イラン中央部に位置するシラーズで男性同性愛者2名が銃殺刑に処された事実。同性間性行為を行った人物を双方とも処刑したものと推測される。
●第42号証●
・タイトルなし(ロイター通信1995年11月14日付)
・ロイター通信社
・95年11月、イラン・ハマダーン市で行われた、イスラーム神秘主義(スーフィー)集団のメンバーであるメヘディ・バラザンダー氏に対するかん通およびソドミー行為の累犯による石打ち刑実施の事実。
●第43号証●
・タイトルなし(ロイター通信1980年7月3日付)
・ロイター通信社
・1980年7月3日、「少年」とされる人物を性的に誘惑し、性関係を持ったかどで、男性が銃殺刑に処された事実。
●第44号証●
・タイトルなし(ロイター通信1982年9月1日付)
・ロイター通信社
・1982年、イスファーハンで3名の男性が同性愛の罪で処刑された事実。
●第45号証●
・緊急行動要請
・アムネスティ・インターナショナル
・同性間性行為を行ったとして逮捕され、のちに「心臓発作により死亡した」と発表されたイランの反体制作家・詩人アリー・アクバル・サイディ・シルジャーニー氏の拘留及び処刑に関する詳細。
●第46号証●
・死刑反対のための活動
・アムネスティ・インターナショナル
・イスラーム教スンナ派の指導者、アリー・モザファリアン博士に対して行われたソドミー行為を罪状とする石打ち刑による処刑の詳細。
●第47号証●
・「沈黙を破ってー性的指向に基づく人権侵害」(48p〜51p及び表紙)
・アムネスティ・インターナショナル(翻訳:稲場雅紀)
・イランにおけるソドミー行為または同性愛を理由とする処刑の存在を示す資料。
●第48号証●
・イランにおける同性愛者の評価に関する答弁書
・闘う文化協会オランダ
・「闘う文化協会オランダ」が、オランダ政府がイラン人同性愛者の難民申請に対してとっている中途半端な態度を実証的に批判する立場から作成した答弁書。イラン政府が97年にすくなくとも3名の人物を同性間性行為の廉で処刑したことが、イラン国内の新聞「サラーム」で報道されているという事実、およびイランにおける同性愛者に対する裁判で、本来イラン刑法典で必要とされている立証要件が、実際の法廷では全く問題にされていないという事実を示す。
●第51号証●
・イラン:ムサヴィ・アルデビーリー師が同性愛者や麻薬使用者に厳罰要求
・英国放送協会
・イランが国営ラジオ放送「イスラム共和国の声」で放送した、当時の最高裁長官ムサヴィ・アルデビーリー師のテヘラン大学での金曜礼拝の際の説教についてBBCが内容を報道したもの。同師は、イスラムにおいては同性愛にもっとも厳しい処罰が与えられるとし、またその根拠として、イランの国教であるイスラーム教シーア派12イマーム派において不可謬の存在とされている初代イマーム、アリーの言行録を示した。
●第52号証●
・陳述書
・稲場雅紀(シェイダさん救援グループメンバー)
・2000年9月にホーマンに寄せられたイランからの電子メールについて、ホーマン・連合王国支部、ナシム氏が稲場に転送した経緯について報告するもの。ホーマンに寄せられたメールは、イラン在住の同性愛者から「ホーマン」に向けて送られた電子メールのメッセージである。同メッセージは、同性愛が法的・社会的に徹底して迫害されているイラン国内からの、きわめて貴重なメッセージであるといえる。
●第63号証●
・バムダッド:イラン(2001年2月)
・バムダッド・イラン紙(在ロンドンのイラン人による新聞)
・ファッラヒアン情報省長官(当時)付の運転手謀殺事件について情報省をはじめとする政府高官が関わっていたことを暴露した資料。同運転手であるシアマク・サンジャリー氏は同性愛者であったことが明らかになっている。イランにおいて、同性愛者が死刑だけでなく謀殺の対象となっていることを証明している。
●第65号証●
・司法府長官モハマッド・ヤズディ師から情報省長官ホッジャトルイスラーム・アリー・ファッラヒアン師への書簡
・司法府長官モハマッド・ヤズディ師
・ファッラヒアン情報省長官(当時)が、シアマク氏(ファッラヒアン氏の専属運転手)の謀殺事件について、司法府長官がその件について最高指導者であるアリー・ハーメネイ師と会談することを要望する書簡。謀殺事件が国家の最高権力者によって承認されていたことを示す。
●第66号証●
・「語られぬ掟:性的指向と女性の人権」
・レイチェル・ローゼンブルーム編、イランの章はヴァハメ・ザブズ氏が執筆(提供:国際ゲイ・レズビアン人権委員会)
・イラン人のレズビアンであり、それを理由として米国に亡命するに至ったヴァハメ・サブス氏が、イランにおける同性愛者の状況について、とくにレズビアンの立場から資料を精査し、執筆したもの。
●第67号証●1 
・新しい暗黒時代:ピーター・タッチェル氏がイスラム原理主義による世界的な脅威について告発する
・ピーター・タッチェル(提供:国際ゲイ・レズビアン人権委員会)
・イギリスで活動するレズビアン・ゲイの人権のための組織として有名な「アウトレイジ」の代表ピーター・タッチェル氏が、イスラム諸国、特にイランにおけるイスラム原理主義者の同性愛者に対する迫害について告発し、分析したもの。
●第70号証●
・「男性がソドミー罪により死刑判決」(ケイハン・ロンドン第867号2001年7月26日〜8月1日号)
・ケイハン・ロンドン
・2001年7月26日付け「ケイハン・ロンドン」第867号に収録された「男性がソドミー罪により死刑判決」の記事。7月19日の報道として、イラン北西部にあるアルダビール州で、男性がソドミー罪により死刑判決を受けたことが報じられている。
●第71号証●
・日本の難民申請の問い合わせについての回答
・グダーズ・エグテダーリ
・79年のイラン革命の後にイラン国内で行われている同性愛者の処刑についていくつかの類型に分け、イランでいまだに同性愛者に対する処刑が続いていることを明らかにする論文。エグテダーリ氏が本裁判のために書き下ろしたもの。
●第78号証●
・「密室は危ない」ケイハン・ロンドン第839号(2001年1月4日〜10日号)所収
・ケイハン・ロンドン(ロンドンで発行されているイランの新聞)
・2001年1月4日に「ケイハン・ロンドン」第839号 に掲載された記事。刑務所に収容されていたオミッド・ナジャフ・アバディ氏という人物が刑務所内で同性間性行為を行った罪により死刑に処せられた事実がかかれている。

***第39号は近日中発行の予定です。***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第39号 2002年7月12日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)今後の裁判の方向性を占う7月19日の第11回口頭弁論
 〜ぜひ傍聴にお願いします〜
(2)<シリーズ>シェイダさん裁判 証拠資料ライブラリー
  〜第2回:諸外国のイラン人難民受け入れ状況〜
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(1)今後の裁判の方向性を占う7月19日の第11回口頭弁論
 〜ぜひ傍聴にお願いします〜
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 裁判というものは、場合によっては何年も延々と続いていくので、裁判をやっていると、いつまでも終わらないのではないかという錯覚にとらわれることがあります。「延々と続いていく」という側面と、「はっきりとした始まり・終わりがある」というのは、裁判というコインの表と裏のようなもので、とくに、具体的に裁判にかかわっているのではない多くの人にとっては、「判決こそ裁判」であり、「延々と続いていく」側面というのはあまり目に止まらないものです。
 シェイダさんの裁判の判決はいつになるのか。それを占うのが、今回の第11回口頭弁論です。
 市村陽典裁判長は、「次回の法廷までに、両者とも、出せる証拠はすべて出して下さい。その上で、必要があれば外国からの証人(注:シェイダさん側が申請しているエグテダーリ氏)を呼びましょう」と言いました。法務省側は、「今、調査を行っているところなので、少し時間がかかります」と言い、今回の法廷は7月19日まで延ばされました。
 もし、法務省がイランの現地調査など、かなり重要度の高い調査を行った上で法廷に提出してきた場合には、シェイダさん側もエグテダーリ氏を証人採用するよう強く働きかけ、第1審にもう1ラウンド設けることになります。法務省側が、あまりたいしたものを出してこなかった場合には、裁判所側も「証人はとりあえず、いいですね」ということになり、判決までの期間は短くなります。
 もし、エグテダーリ氏を証人採用することになる場合には、秋口にもう一度法廷を開いた上で、秋半ばに証人尋問、年末に結審、判決は来年春、ということになるでしょう。逆に、証人採用がない場合は、秋口か秋半ばに結審、年末に判決、ということになると思われます。
 7月19日の裁判は、今後の裁判のペースを占う重要な法廷です。ぜひとも傍聴に行きましょう!
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┃シェイダさん在留権裁判 第11回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2002年7月19日 11時30分〜  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
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┃第11回口頭弁論報告集会         ┃
┃○日時:2002年7月19日 12時30分〜  ┃
┃○場所:弁護士会館を予定        ┃
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(2)<シリーズ>シェイダさん裁判 証拠資料ライブラリー 第2回
  1.「諸外国のイラン人同性愛者難民受け入れ状況」
  2.「イランにおける人権弾圧一般」
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 前回から「ニュースアップデイト」上に連載している「シェイダさん裁判 証拠ライブラリー」、今回は「諸外国のイラン人同性愛者難民受け入れ状況」および「イランにおける人権弾圧一般」についてです。
 シェイダさん裁判の証拠資料は、外国人の同性愛者が、難民認定を求めて日本に来たときにも活用できる可能性のあるものです。また、外国人(とくにイラン人)の難民認定や在留権を求める裁判一般についても、活用できるものが数多くあります。
 前回は、同性愛者を死刑にするという法律を持ち、それを実際に施行しているイランの同性愛者弾圧の証拠資料についてまとめましたが、今回は、まず「1.諸外国のイラン人同性愛者難民受け入れ状況」、そして「2.イランにおける人権弾圧一般」についてです。
 前回掲載したように、たくさんのイラン人同性愛者が国内で処刑され、迫害を逃れるために、多くのイラン人同性愛者が欧米などへと逃れていきました。欧米諸国の多くは、彼・彼女らを難民として受け入れました。シェイダさん裁判では、それらの記録を数多く証拠として提出しています。これらは、難民条約にいう「特定の社会的集団」の定義や、「十分に理由のある迫害の恐れ」の解釈について知る上でも、非常に重要なものです。
 一方、イランで迫害されているのは同性愛者だけではありません。現代社会において、シーア派イスラームという、いわば「オルタナティブな国造り」を掲げて独特のあゆみを行っているイラン・イスラーム共和国においては、ホメイニーの考え方を継承する「正統な」シーア派イスラームが国家の統治原理とされ、そこへの統合を拒否する人々(左翼勢力や王党派など)、また、そこに統合され得ない少数民族(クルド人など)や少数派の宗教集団の人々(ユダヤ教徒、バハーイ教徒、改宗したキリスト教徒、イランでは少数派のスンナ派ムスリムなど)は迫害されています。また、イスラーム共和国の枠内で改革を進めようとする急進派・改革派の人々と、軍や革命防衛隊、宗教的な準軍事組織などを押さえる保守的な司法府とが国を二分する対立を続けており、急進派・改革派が司法府によって厳しい弾圧を受ける構造があります。
 また、イスラーム道徳の強制政策により、婚姻相手でない男性と性行為をした女性が石打ち刑などの残虐な刑罰によって処刑されるといったことも起こっています。イランの死刑の総数は平均して年間100人を数えますが、これは中国に次ぎ、サウディ・アラビア、イラクなどとならぶ数です。
 こうしたことについて、シェイダさん裁判では数多くの証拠を提出しています。目を通してみていただければ幸いです。

<<1.諸外国のイラン人同性愛者難民受け入れ状況>>

●第10号証●
・米国への亡命に関する事実証明
・国際ゲイ・レズビアン人権委員会亡命プロジェクト コーディネイター ダスティ・アラウーホ
・米国サンフランシスコ市に本部を持つ国際的なレズビアン・ゲイの人権擁護団体「国際ゲイ・レズビアン人権委員会(IGLHRC)」が作成した資料。アメリカ合衆国、カナダ、英国など先進工業国において、性的指向による迫害を理由とした難民申請・亡命申請が受け入れられたケースについて記録したもの。
●第11号証●
・ダスティ・アラウーホによる宣言
・ダスティ・アラウーホ(国際ゲイ・レズビアン人権委員会亡命プロジェクトコーディネイター)
・IGLHRCにおいて移民・亡命等に関する相談・サービス活動を行っている「亡命プロジェクト」のコーディネイター、ダスティ・アラウーホ氏により作成されたもの。この宣言文では、亡命受け入れ国であるアメリカ、カナダにおいて性的指向による迫害を難民として認めていることが示されている。
●第12号証●
・口頭での決定及び理由
・カナダ政府移民・難民委員会(難民部門)
・カナダ政府移民・難民委員会(難民部門)による難民申請を受諾する決定およびその理由についての記録書類。イラン人の難民申請者に対して、カナダ政府難民部門が、本人の提出した証拠をもとに審議を行い、申請者がイランに帰国した場合に同性愛を理由に訴追される可能性があることを認定し、本人が難民たるに値することを決定している文書。本証拠により、カナダ政府は、イランにおける同性愛者への迫害が、難民としての地位を認めるに値することを表明している。
●第49号証●
・ワールド・リーガル・サーヴェイ スウェーデン編(インターネットよりダウンロード)
・国際レズビアン・ゲイ連盟
・98年および99年に、スウェーデン政府がイラン人同性愛者に永住権を与える決定を行った事実について示す。
●第50号証●
・ホーマン連合王国支部から稲場雅紀宛1999年8月2日付電子メール(メールをダウンロード)
・ホーマン連合王国支部
・在イラン・スウェーデン大使館が作成した秘密報告書について、稲場がホーマンに評価を求めたことの回答メール。同報告書は、当初非公開であったが、運動団体による要求の結果公表されたこと、スウェーデンの同性愛者団体やホーマンが、同報告書内容が実態と乖離していると批判されている。
●第55号証●
・カルドザ・フォンセカ事件1987年3月9日判決 アメリカ合衆国最高裁判所
・難民条約における、「迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖」の意義について示す。
●第56号証●
・アジェイ事件1987年1月27日判決
・カナダ控訴裁判所
・難民条約における、「迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖」の意義について示す。
●第57号証●
・シヴァクマラン事件1987年10月12日判決
・英国控訴院民事部
・難民条約における、「迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖」の意義について示す。
●第58号証●
・ニュージーランド難民の地位控訴局1995決定1312/93号 1995年8月30日
・ニュージーランド難民の地位控訴局(翻訳・訳注 沢崎敦一)
・世界的に評価の高い難民認定制度を有するニュージーランドにおいて、イラン人の、性的指向を一つの理由とする難民認定申請に対して、詳細な理由を付して認定をした決定である。
●第59号証●
・ピンク色の亡命−アメリカ合衆国の移民政策におけるレズビアン・ゲイの政治亡命の適格性−(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校法学紀要1995年4月所収)
・ジン・S・パク(翻訳:稲場雅紀)
・米国の難民認定制度の変遷と、同性愛者の難民認定に関するこれまでの理論的な達成についてまとめた論文。
●第62号証●
・返信:(X氏の案件に関する)勧告的意見の養成
・リジャイナ・ジャーメイン(国連難民高等弁務官事務所法律参事官)
・イラン国籍で米国に在住しているレズビアンであるX氏について、難民条約上の難民であることを結論付けた決定。

<<2.「イランにおける人権弾圧一般」>>

●第20号証の1●
・「イランにおける石打ち刑に反対する委員会」による声明
・イランにおける石打ち刑に反対する委員会(掲載:雑誌「ホーマン」通巻第13号 1999年夏発行)
・イランにおける「石打ち刑」の実態に関する資料。
●第20号証の2●
・「イランからのニュース」
・雑誌「ホーマン」通巻第12号 1998年冬発行
・同上
●第20号証の3●
・「イランにおける石打ち刑に反対して闘う女性委員会」による見解
・イランにおける石打ち刑に反対して闘う女性委員会
・同上
●第20号証の4●
・「石打ちによる死刑とイスラム法の適用に反対する女性キャンペーン」が大規模な抗議行動を実施(原文ペルシア語)
・インターナショナル●第31号(2000年1月発行)
・同上
●第21号証●
・死刑の事実と実態について
・アムネスティ・インターナショナル
・99年における死刑執行の実態に関する文書である。本文書によると、イランでは、99年中に少なくとも165名が死刑となっている。イランの死刑執行が以前として行われており、中国に次ぐ世界第二位の汚名も残されている。
●第31号証●
・ヒューマンライツ・ウォッチ ワールドレポート 1999年 イラン
・ヒューマンライツ・ウォッチ
・1999年時点のイランの人権状況について報告されている。
●第32号証●
・衝撃的な会議
・ディジタル・フリーダム・ネットワーク(http://www.dfn.org/focus/iran/berlin.htm) 
・2001年末に行われる大統領選に向けて、イラン国内で保守派と改革派の緊張が高まっており、司法府を握る保守派が改革派に対する巻き返しのためになりふり構わぬ弾圧に着手し始めたことを示す資料 。2000年4月ドイツで開催された「選挙後のイラン」と題する国際会議に参加したイラン国内の改革派が、帰国後に逮捕され、厳しい弾圧をうけていることを示す。
●第33号証●
・イラン:会議参加者への裁判
・ヒューマンライツ・ウォッチ(http://www.igc.org/hrw/press/2000/11/iran1102.htm) 
・ドイツで行われたイランの民主化に関する会議の出席者たちへの弾圧について示す資料。
●第34号証の1●
・「イラン改革派に有罪判決 独憂慮、大使を召還〜著名活動家らにも実刑判決〜」(読売新聞2001年1月15日付朝刊)
・読売新聞社
・ドイツで行われたイランの民主化に関する会議の出席者たちへの弾圧について示す資料。
●第34号証の2●
・「イラン・独関係に影〜独で集会参加の改革派に厳刑〜シュレーダー首相訪問延期も〜」(日本経済新聞2001年1月16日付朝刊)
・日本経済新聞社
・ドイツで行われたイランの民主化に関する会議の出席者たちへの弾圧について示す資料。
●第34号証の3●
・「独首相 イラン訪問見合わせ〜急進改革派実刑に反発〜」(朝日新聞2001年1月17日付朝刊)
・朝日新聞社
・ドイツで開かれた国際会議に参加したイラン国内の改革派に対して、イラン国内で行われた裁判で、被告側に課長な刑罰を科す判決が出されたことを示す資料。
●第53号証●
・父親が憤怒の末、HIVに感染した息子を斧で殺害〜イラン〜
・AFP通信
・イラン南西ケルマーン地方で麻薬使用によりHIVに観戦した息子を父親が斧で殺害したというニュース。
●第60号証●
・「見せ物化する公開処刑」(読売新聞2001年4月8日付朝刊)
・読売新聞社(署名:久保哲也)
・読売新聞社テヘラン特派員である久保哲也記者が、3月中旬にテヘラン市内で行われた麻薬密売業者らに対する一般公開処刑の様子を報道したもの。
●第61号証●
・「イラン人女性『石打ち』処刑」(読売新聞2001年5月23日付朝刊)
・読売新聞社(署名:久保哲也)
・2001年5月20日、35歳のイラン人女性が、8年前にイラン国内で制作されたポルノビデオに出演した廉で、テヘラン市内の刑務所で石打ち刑に処された事実を報じたもの。
●第73号証●
・イランの亡命申請者と難民に関する背景的資料
・国連難民高等弁務官事務所 資料調査センター
・UNHCRが公開された資料に基づいてイランの難民および亡命申請者の置かれている状況についてまとめたもの。イランでは現体制を批判する活動の多くが禁止されており、これに違反した場合、革命裁判所や聖職者特別裁判所などで不公正な裁判を受けた上、極刑に処せられる可能性がある。
●第77号証●
・アムネスティ・インターナショナル 
・2000年年間リポート「イラン」 アムネスティ・インターナショナル国際事務局
・アムネスティ・インターナショナルが99年におけるイランの人権状況について総合的にまとめたもの。イランが人権に関する国際的な条約を尊守しておらず、また、言論の自由に対する弾圧、政治犯や宗教的少数者に対する特別裁判所における不公正な裁判、死刑や残虐な刑罰、拷問などを継続して行っている事実を明らかにしている。

***第40号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第40号 2002年7月28日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)それなりの証拠を出してきた法務省、しかしその趣旨は不明
  〜シェイダさん在留権裁判第11回口頭弁論の報告〜
(2)<シリーズ>シェイダさん裁判 証拠資料ライブラリー
  〜第3回:その他の証拠資料〜
 (イスラームについて、同性愛者の人権について、本人の主張等)
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●バックナンバーが必要な方は電子オフィスまでお知らせ下さい。
●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)それなりの証拠を出してきた法務省、しかしその趣旨は不明
  〜シェイダさん在留権裁判第11回口頭弁論の報告〜
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 シェイダさんの証人尋問が行われた5月8日から2ヶ月と10日後の7月19日、シェイダさん在留権裁判の第11回口頭弁論が開かれました。
 今回は、証言などもない普通の法廷だったのですが、前回の法廷で法務省が「外務省などに頼んでイランの同性愛者の迫害状況を調査している。ちょっと時間がほしい」と裁判長に頼んだのが聞き入れられ、2ヶ月以上たった7月19日の開催になったものです。
 前回の法廷以降、法務省は「音無しの構え」で、裁判前日まで何も出してきませんでした。しかし、この日の法廷で法務省は、ぶあつい本格的な証拠資料を提出してきました。そのなかみは、イギリス政府がまとめたイランの人権状況に関するレポートと、オーストラリアで出された、同性愛者であることを理由とする難民申請に関する二つの審査結果についての文書です。
 「すわ、法務省も本気になってきたか」と、こちらもちょっと身構えましたが、ちょっと見てみると、イギリス政府のレポートの方は、同性愛者の人権状況については、「イランの刑法では、同性間性的接触を行った者は死刑に処される。ただし、事前にそのことを認め、告悔した者は許される」と書かれているだけ。オーストラリアの方も、一人は同性愛者であることを理由として難民賭して認められた事例であり、もう一つは、本当に同性愛者かどうかわからない、むしろ異性愛者であるかも知れない、という理由で難民認定を認められなかったという事例。いずれも、シェイダさんの事例に関して、有効な反証にはなり得ません。
 これでいったい、何を証明したいのか……しかし、法務省は証拠を出しただけで、これらの証拠によって何を主張したいのかを述べる文書(準備書面)は提出しませんでした。また、外務省に頼んでいるという調査についても、原告側の大橋弁護士や裁判官に再三再四「外務省に何を頼んでいるのですか?いつごろ、それは出てくるのですか?」という質問に対して、「何を頼んでいるのかわからない」「いつ来るのかもわからない状態でして……」としどろもどろの答弁。数多くの難民訴訟を抱え、法務省の訟務検事たちもいささか疲れ気味の様子です。
 一方、裁判所の方は、シェイダさんが申請している在米イラン人人権活動家、グダーズ・エグテダーリ氏の招請については、いまいち乗り気でない様子。「なんとか書面で提出できないんですかねー」という感じ。しかし、こちらとしても、法務省の立証が不十分である以上、今後何が出てくるかわかりません。原告側としては、エグテダーリ氏を法廷に呼ぶ可能性を残して、次回も通常の口頭弁論を入れることにしました。法務省側も、きっと外務省から証拠を手に入れて、何か出してくることでしょう。
 法廷には、暑いさなかにも関わらず、20名ほどの方が傍聴に詰めかけてくれました。初めて来られた方もおり、報告集会でも今後の進行などについて質問が飛び交いました。また、最近の難民をめぐる政界の動きや、市民活動の広がりなどについてもいろいろな情報が紹介されました。
 次回の法廷は、9月11日、午後3時〜。ぜひとも法廷にお集まり下さい。次の法廷で、シェイダさん裁判の今後の方向性がはっきりと見えてくると思います。
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┃シェイダさん在留権裁判 第12回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2002年9月11日 午後3時〜   ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
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┃第12回口頭弁論報告集会         ┃
┃○日時:2002年9月11日 3時30分〜   ┃
┃○場所:弁護士会館を予定        ┃
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(2)<シリーズ>シェイダさん裁判 証拠資料ライブラリー
〜第3回:その他の証拠資料〜
 (イスラームについて、同性愛者の人権について、本人の主張等)
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 シェイダさん裁判「証拠資料ライブラリー」も3回目。初回はイランでの同性愛者弾圧、2回目はイランでの人権侵害一般と諸外国での難民認定について扱ってきましたが、今回はその他の証拠資料を一気に開示します。

○●(1)イスラームについて●○

 イランという国で起きていることについて考えるとき、現在のイラン・イスラーム共和国の公的なイデオロギーとなっているシーア派イスラームとは何か、ということは絶対に落とせない論点です。ところが、法務省の主張や、法務省が提出した証拠資料においては、このシーア派イスラームについての基本的認識(スンナ派との違いや、現体制が依拠している「イスラーム法学者による監督権」という国家・政治理論など)が欠如しており、イランにおいて同性愛者への抑圧があるいみ「必然的に」導き出されること、その体制は、いわゆる西側的な発想における民主的な手法を通じて変革され得るものではないこと、などが見落とされています。シェイダさん側は、これについて日本で紹介されているイスラーム学の基本的な文献を証拠として提出しています。

○●(2)シェイダさん自身の主張・事件の具体的事実●○

 シェイダさんは、2000年の5月から2001年の11月までの期間、法務省の収容所に強制収容されていました。その間、彼は同性愛者としての自らの半生やその主張、イランで同性愛者がどのように扱われているか、そしてイランのイスラーム体制と対立する自らの政治思想などについて、多くの文章を書きつづりました。これらの文章の多くが、証拠として提出されています。
 また、シェイダさんが99年6月に公開のイベントでカミングアウトした事実などを中心に、彼の友人たちの作成した陳述書も証拠提出しています。

○●(3)同性愛者の人権について●○

 日本では、同性愛者の人権という考え方自体が、司法の領域に必ずしも浸透していません。「同性愛者の人権」という概念は、裁判官の多くにとって無縁のものであると言っても過言ではありません。こうした裁判官たちに対して、世界では、そして日本社会においても、同性愛者の権利は一歩一歩確立されてきているのだ、ということを既成事実として示し、彼・彼女らを教育していく必要があります。シェイダさん側は、日本で初めての同性愛者の人権を問うた裁判「府中青年の家裁判」や同性愛者の人権を明記した東京都の人権指針などを示すことで、こうした裁判官の認識のギャップを埋めようと努力してきました。
 では、じっくりとご覧下さい。

↓↓↓↓↓ここから↓↓↓↓↓

○●(1)イスラームについて●○

●第54号証●
・「イスラム 思想と歴史」(東京大学出版会)第4章2「シーア派」及び第5章「聖法−シャリーア」
・中村廣治郎(東京大学文学部教授:当時)
・イランの国教であるイスラム教シーア派(12イマーム派)が、イスラム教の主流派であるスンナ派と歴史的・教義的に大きく隔てられたものであることが述べられている。
●第72号証●
・シーア派イマーム論−その現代的意義と実践的適用(「講座イスラーム世界5」 『イスラーム国家の理念と現実』所収)
・桜井秀子(イスラーム思想史、イラン地域研究、作新学院大学地域発展学部教授)
・イスラーム思想史の専門家である桜井秀子氏による、イランの主要な宗教であるシーア派のイマーム論(指導者論)の変遷と現代的意義、そしてイラン国内の政治体制における実践的適用のあり方についての論文。

○●(2)シェイダさん自身の主張・事件の具体的事実●○

●第19号証●
・原告の日本への亡命を求める訴え
・シャーマン・A・ディ・ローズ:国際レズビアン・ゲイ連盟(ILGA)アジア地域代表
・国際レズビアン・ゲイ連盟アジア地域代表であるシャーマン・A・ディ・ローズが、原告を難民として認定することを、法務大臣、法務省入国管理局長、難民認定室長宛に要請した書簡。
●第36号証●
・「難民の地位に関する法」
・ジェイムズ・C・ハザウェイ 
・ヨーク大学オスグード・ホール法学校で教鞭を執る著名な難民法学の権威、ジェイムズ・C・ハザウェイ氏の論文「難民の地位に関する法」の中の性的指向に関わる部分。ハザウェイ氏は、ドイツやカナダにおいてなされた判例から、同性愛者が難民条約・難民議定書上の「特定の社会的集団」にあたることを示している。
●第25号証●
・なし(原告本人により作成された文書)
・原告シェイダ(2000年6月16日作成)
・本件全般にわたる問題に関する原告による文書である。
●第26号証●
・陳述書
・A(原告の友人)
・原告がゲイであること、カミングアウトの状況などをカバーするもの。
●第27号証●
・陳述書
・B(原告の友人)
・原告がゲイとしてカミングアウトした時の状況を記録した証言文書。
●第28号証●
・陳述書(2000年10月18日作成)
・原告シェイダ
・原告が自らのイランにおける政治活動、宗教的信条、イランにおける同性愛者に対する認識について陳述したもの。
●第35号証●
・イランの言語や文化の中で、同性愛という性的指向はどうあつかわれているか
・原告
・原告がイラン国内において性的指向およびセクシュアリティが社会的・文化的・言語的にどのように扱われているかを示した論文。
●第68号証●
・日本在留を切望するイラン人ゲイ(Daily Yomiuri 2001年3月24日付)
・読売新聞社(署名:小澤治美)
・01年3月24日付け「デイリー・ヨミウリ(英字)」に掲載された原告に関する記事。
●第69号証●
・日本で難民申請を求めるイラン人ゲイ(共同通信国際局2001年5月9日配信) ・共同通信社(署名:平野恵嗣)
・01年5月9日付けで「共同通信」が配信した原告に関する記事。
●第74号証●
・「ホーマン」の日本とフランスでの活躍からの2つのニュース
・ホーマン
・2000年春に出版された「ホーマン」第16号に収録された原告に関する記事。原告が、東京で開催された同性愛者の人権に関するセミナーで『イスラム共和国という悪夢』というタイトルで講演を行い、イランにおける同性愛に対する弾圧に対して厳しく批判したことを報道。
●第75号証●
・難民調査官のインタビューに対する答弁の補足
・原告シェイダ
・原告がイラン人の同性愛者亡命グループによって結成された「ホーマン」メンバーであること、原告がイランに居住していた際に、同姓のパートナーと性的関係を持ったという事実を説明。
●第76号証●
・イランの同性愛者たち〜忘れかけた犠牲者たち〜
・原告シェイダ
・イランにおいて同性愛者が、政府による厳しい弾圧に会う一方、社会の同性愛者に対する無理解や差別・偏見にもさらされ、二重の苦しみを被っていることが説明。
○●(3)同性愛者の人権について●○
●第14号証●
・「府中青年の家裁判」東京高等裁判所判決(平成六年(ネ)第1580号)
・判例タイムス
・日本で初めて同性愛者の人権に関して争われた訴訟「府中青年の家裁判」の控訴審判決。「少数者である同性愛者も視野に入れた、処理の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利・利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たるものとして許されない」と述べている。
●第15号証の1●
・東京都「人権施策推進のあり方専門懇談会」提言内容を報道する新聞記事(毎日新聞平成11年12月25日付)
・毎日新聞社
・東京都の人権指針を定める懇談会が「同性愛者の人権」を行政施策に含めるべきだという答申を提出したことについての記事。
●第15号証の2●
・東京都の今後の人権施策のあり方について(抄)
・東京と人権施策推進のあり方専門懇談会
・21世紀における東京都の人権政策について検討するために東京都知事が設置した「人権施策推進のあり方専門懇談会」が1年間にわたる審議の末に発表した「提言」およびそれについて報道する新聞記事。同性愛者を含む性的マイノリティに対する人権政策について都がなすべき人権政策の一環として盛り込むなどした。
●第16号証の1●
・1995年11月7日外務省交渉報告
・動くゲイとレズビアンの会
●第16号証の2●
・同性愛者と人権教育のための国連10年
・ 動くゲイとレズビアンの会
・外務省人事課難民課長が発言した同性愛に関する見解。日本の政策は「すべての差別に反対する」というものであり、その中に性的指向による差別も含まれると表明。
●第17号証●
・疫病と関連する健康問題に関する国際的な統計分類 第10版
・世界保健機構(WHO)
・ 世界保健機構が発表する疫病に関する国際的な統計分類として、日本政府も公的な統計などで使用しているもの。この分類では、性的指向は、それ自体としては障碍とはみなされないことが明記されている。
●第18号証●
・世界精神医学会1993年6月総会における、同性愛に関する決議
・世界精神医学会
・93年6月に「世界精神医学会」が開催した総会の決議。同性愛を異性愛と等価なものとし、合意した私人間の性行為に関する罰則規定の廃止を世界的に要請することや同性愛に対する社会的な汚名を軽減し、平等化することを求める。

***41号は近日中発行の予定です***


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