シェイダさんを救え!ニュースアップデイト No.41〜No.50


2002年8月31日〜2003年5月5日


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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第41号 2002年8月31日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)シェイダさん在留権裁判 第12回口頭弁論迫る!
 次回法廷は9月11日(水)午後3時から東京地方裁判所で。
(2)イスラーム圏で強まる同性愛者弾圧
 ○資料を見る前に:イスラームへの視点
 ○サウディ・アラビアで同性愛者が処刑される
 ○エジプトで同性愛者50人が再審に
 ○ナイジェリアで少年と性行為をした男性に石打ち刑が宣告
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(1)シェイダさん在留権裁判 第12回口頭弁論迫る!
 次回法廷は9月11日(水)午後3時から東京地方裁判所で。
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<何を立証したいのか不明な法務省の「新証拠」>

 前回の7月19日の法廷から1ヶ月半。シェイダさん在留権裁判の第12回口頭弁論が迫ってきました。
 前回の法廷では、法務省側がようやく重い腰を上げて、シェイダさんの難民性に関する証拠資料を6点ほど出してきました。しかし、その内容は、法務省が前に出していたカナダのオタワ移民難民委員会調査部作成の証拠資料が、オーストラリアやイギリスでも、イラン人ゲイ難民の難民性の判断材料の一つとして「使われている」ということを示すだけの、必ずしも新味に欠ける内容のものでした。さらに、その証拠によって「何を」証明しようとしているのかについて説明する書面なども提出されず、これらの証拠によって法務省が「何を言いたいのか」については、今回の法廷に持ち越されています。また、法務省は外務省に対して、イランに関する情報収集を頼んだらしいのですが、外務省からはその返答は来ておらず、そればかりか、裁判に出てくる訟務検事たちは、法務省が外務省に何を頼んだのかもご存じない様子。

<今回の法廷の見どころ>

 そんなわけで、シェイダさん側はまたも一回休み。今回は、法務省が今後、シェイダさん裁判にどのような方針で臨んでくるのかをじっくり聞くための法廷となっています。
 とはいえ、油断は禁物です。法務省側の証拠は、一つ一つは新味がないのですが、たくさん合わさると、ボディーブローのように効いてきます。「そうか、イギリスもオランダもカナダも、イラン人の同性愛者難民を何人かは認めているが、一方でイラン社会では同性愛者は迫害されていないとも言っているのだな」……こうした認識が、「じゃあ、日本が(そしてその国の裁判官たる自分が)わざわざ火中の栗を拾う必要もないか」というところにつながると大変です。法廷に緊張感がなくなると、えてしてそういった方向に話が進みがちです。
 同性愛者たちが、イランの中でどれだけ迫害されているか。どれだけ屈辱的な生を強制されているか。シェイダさんを、そのイランに送り返すことが、彼の精神を、身体をどれだけ痛めつけることにつながるのか。そうしたことを、私たちはずっと法廷で伝えてきました。これからも、リアリティを持ってそのことを裁判官に伝えていかなければならない、と思います。
 法務省、そして裁判官に、シェイダさんを支援するという私たちのメッセージ、気迫をとどけましょう。
 9月11日。一人でも多くの皆様に、法廷に足を運んでいただくことを呼びかけます。
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┃シェイダさん在留権裁判 第12回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2002年9月11日 午後3時〜   ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
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┃第12回口頭弁論報告集会         ┃
┃○日時:2002年9月11日 3時30分〜   ┃
┃○場所:弁護士会館を予定        ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(2)イスラーム圏で強まる同性愛者弾圧
〜サウディ・アラビアとエジプトのケースから〜
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◆◇◆資料を見る前に◆◇◆

<革命イランをみる多様な視点>

 今年の2月、東京外国語大学で、主にペルシア語学科の学生さんたちとともに「シェイダさんを囲む会」を持ったことがあります。シェイダさんはそこで、イスラーム革命のもとに独自路線を歩み、米国と鋭く対立し続けてきたかに見えるイランのイスラーム共和国体制が、実は冷戦下でイランに左翼政権が誕生することを警戒する米国とイスラーム主義者との結託によって生み落とされたものだということを、米国が新しく公開した外交資料をもとにしながら、延々と述べました。
 一見、陰謀史観にもみえる認識ですが、イラン・コントラ事件(85年、米国が国交のないイランと武器の取引をし、売却益をニカラグアの親米派ゲリラに供与していたという事件)など、いろいろと調べていくと、あながちおかしな認識ではないということがわかります。日本人から見れば唐突に思えるこのような考え方も、欧米に亡命を余儀なくされたイランの左翼の人々にはごくふつうに行き渡っているものです。

<多様性と統一・そこにはらまれる暴力>

 そもそも、旧ソ連の南側に位置するイランでは、ソ連と近しい勢力から、ソ連と対立する勢力、社会主義とイスラーム主義の融合を目指す勢力まで、さまざまな勢力が存在していました。遠く日本から見ると、イランはイスラーム神政国家、イラン人の国、と思えるわけですが、実際には、無神論者から、キリスト教徒、ユダヤ教徒、バハーイ教徒まで、民族でいっても、ペルシア人だけではなく、アーゼルバーイジャーン人、クルド人、バルーチー人と多様です。性的指向についていえば、数多くの同性愛者が、迫害と絶望の中ではあっても、必死で生き続けてきました。
 イランの現体制は、シーア派イスラームという一つの統合軸をたて、それを体現する国家統治システムとして「イスラーム法学者による統治」(ヴェラーヤテ・ファギーフ体制)という原理を置いて、本来は多様なイラン社会をそこに統合していこうというものです。現代世界がいまだ国民国家を基軸としていること、あるいは、国民国家体制をこえるものとして登場してきたグローバリズムが、第三世界における、そもそも擬制としてしか存在してこなかった国民国家を骨抜きにし、欧米という一つの極に全てを収斂させようとする世界システムを指向していることを考えれば、第三世界において、それと対極をなす別個のイデオロギーを核とする、対抗的な主体を生み出そうという動きが出てくるのは当然のことです。
 問題は、その主体化のプロセスの中で、社会を構成していた多様な要素がそぎ落とされ、その存在すら許されなくなったということです。ホメイニーが自己の権力を確立した後、宗教でいえばユダヤ教徒とバハーイ教徒が、民族で言えばクルド人が、その犠牲となりました。そして同性愛者たちは「地上における堕落者」の烙印を押され、多くの人々から指さされた挙げ句、殺されていったのです。

<グローバル世界において「独立」とは?>

 グローバル世界における「独立」とは何か。これは非常に難しい問題です。シェイダさんのケースを見てもわかるとおり、イランは国際社会において普遍的な基準とみなされている国際人権規約などの水準をまったくクリアしていません。死刑は年間100名以上におよびます。まずイギリスの、そしてアメリカの支配の下にあった帝政イランは、革命によってそのくびきを断とうとし、その途上であまりにも多くの「主体化」の犠牲を生み出しました。
 では、イラン革命はなかった方が良かったのか。
 私は、そう言い切ることはできないと思います。そう言い切れるだけの倫理を持ちうる立場、他者が持つ「悪」を自在に処断できる立場に、私たちはいないだろうと考えるからです。
 私たちが住んでいる日本は先進国です。先進国を先進国たらしめるために、既存の国際秩序ができあがっています。先進国と途上国の関係は、私たちの前に、否が応でもつねに垂直的なものとして、存在しています。
 一例を挙げましょう。国際NGOを中心とする市民セクターがその中心をなしている開発援助の世界も、実際には欧米(や日本)などの出すグローバルな金の流れが基本です。米国は現地政府セクターを無視して現地民間セクターに直接援助を行うことによって、ヨーロッパや日本は、現地政府セクターの「ガバナンス能力の向上」に向けたセクターワイド・アプローチ(特定のプログラムを虫食い的にやるのではなく、国際機関、政府機関、民間機関の連携によって、「現地政府の管理能力を強化する」方向で援助を統合的に行おうという方法論)によって、ともに途上国の政府の骨抜きか飼い慣らしに向けた力学を働かせています。その中でのNGOの活動は、もちろんプロジェクトに対する具体的な成果を生み出すものとしては有効なのですが、それをトータルに見た場合、どこまでこうした国際政治の罠から独立したものとして作り出せるのか疑問です。市民セクターの地道な活動が、実は第三世界の人々の自己決定権や内発的な発展を阻害し、グローバリズムへの従属を助長するものになる危険性も充分にあるのです。
 こんな世界の中で、途上国は、いかにして独立と自己決定を確保するのか。イランの現体制の側から見れば、彼らは多くの犠牲を払いながら、グローバリズムの荒波の中で、「自らが守るべき固有の価値」を自ら選び取るという、途上国にあっては希有な試みにこれまで「成功」してきたと言えなくもないのです。
 
<私たちが変わらなければ、彼らも変わることはできない>

 イランに限らず、現代のイスラーム圏について考えるとき、その国家・社会における苛烈な迫害、人権侵害の問題点はもちろん徹底的に検証されなければなりません。しかしそれを認識するだけでは不十分です。それとともに、一方でかつては帝国主義が、現代においてはそれと連続するものとしてのグローバリズムが、これらの地域に生きる人々の生活や倫理のあり方を、彼ら・彼女らの自己決定とは別のところで、有無を言わせずに変えていく圧倒的な力として立ち現れていることについても思いを馳せないわけにはいきません。以下、サウディ・アラビアとエジプトにおいて最近起こっている、国家権力による同性愛者への苛烈な迫害の事例を挙げますが、それをみる私たちが陥ってはならないのは、「だからイスラームは野蛮だ」とするような決めつけです。もちろん、このような苛烈な弾圧を行う政府は変えられなければなりませんし、社会も変わらなければなりません。しかし、まず私たちが、自らを、先進国の国家を、社会を、そして先進国優位の世界秩序を変えていくことがなければ、彼らが変わるということもまたあり得ないのです。(大塚重蔵)

◆◇◆サウディ・アラビアで同性愛者が処刑される◆◇◆
インターナショナル・ニュース 第402号
2002年1月7日発行 レックス・ウォックナー Rex Wockner

 サウディ・アラビアの南西部の都市アブハ Abha で1月1日、3人の男性が「この上なく猥褻で汚らわしい同性間性行為 extreme obscenity and ugly acts of homosexuality を行い、同性同士で婚姻し、青少年に性的な嫌がらせを行った」ことにより処刑された。サウディ通信局 Saudi Press Agency が伝えた。これに関連して、サウディ・アラビア当局は、アリ・ビン=ヒッタン・ビン=サイッドAli bin Hittan bin Sa'id、モハンマド・ビン=スレイマン・ビン=モハンマド Mohammad bin Suleyman bin Mohammad 、およびモハンマド・ビン=ハリル・ビン=アブドゥッラー Mohammad bin Khalil bin Abdullah の3名がイスラームの教えを破ったと述べた。
 アムネスティ・インターナショナルは、この処刑について「この3名の処刑は、サウディ・アラビア政府が、致命的な結果をもたらさない犯罪に対する処罰として死刑を用いないことを要求する国際的な基準を公然と無視していることを示すものでもある」と批判した。
 サウディ・アラビアでは、昨年、殺人、強姦、薬物取引、強盗を行った者、同性愛者、背教者 apostates を含め100名以上の人が処刑されていることが報告されている。2000年には、同じくアブハにおいて、6名の男性がソドミー、異性装、「同性間での婚姻」をした上、青少年に睡眠薬を与えた上で強姦したとして斬首刑に処されている。また、同じく2000年に、隣国のイェーメン出身の男性3名が、同様に同性愛、異性装、同性間婚姻、青少年を性行為に誘惑した等の罪により、サウディ・アラビアのジザン Jizan において斬首刑に処されている。
 アムネスティは支援者に対し、以下に掲げるサウディ・アラビア政府の責任者に電報、テレックス、FAX、速達、エアメール便にて手紙を送ることと、その手紙において
・性的指向を理由として3名の男性が処刑されたことに関して懸念を示す
・処刑に関する正確な理由、宣告の理由、証拠書類、彼らの司法手続きに関する情報をただちに公開すること、また、現在の段階で性的指向を理由として死刑宣告を受けている獄中者の氏名を明らかにすることを要求する
・かかる獄中者を減刑することを要求する
 ことを表明することを呼びかけている。手紙の送り先は以下の通りである(略)

◆◇◆エジプト:ムバーラク大統領が同性愛者50名を再審に◆◇◆
2002年5月22日 Gay.com/PlanetOut.com ネットワーク

 エジプトの大統領ホスニ・ムバラク Hosni Mubarak は、1年前に同性間性行為の廉により逮捕された50名の男性の再審を命令した。水曜日に当局者が明らかにした。AP通信による報道と同様、匿名の当局者は、大統領がこれらの男性を「宗教侮辱罪」contempt of religion ではなく、放蕩 debauchery の罪により、簡易裁判所で裁くことを要求したと述べた。
 大統領の命令は、このところ続いていた、エジプトで男性が同性愛の咎で逮捕され、過酷な懲役刑に処されていることに対する国際的な人権活動家や政治指導者の非難に対応するためのものである。
 昨年5月、52名の男性がナイル川に係留されていた船を活用したナイトクラブで「性的不道徳」sexual immorality の罪(同性間性行為なども包含することが可能な罪名)で逮捕され、カイロで一時は暴動を引き起こしかけた数ヶ月の裁判ののち、23人の被告は強制労働の刑を宣告され、29名は釈放された。
 ちなみに、グループの主犯格とされた男性シェリフ・ファラハト Sherif Farahat は、放蕩罪、宗教侮辱罪、聖クルアーンの曲解、邪悪な思想の普及などの罪により5年間の懲役刑に処せられ、もう一人の男性マームード・アフメッド・アラム Mahmoud Ahmed Allam は宗教犯罪については有罪となり懲役3年の刑に処せられたが、放蕩罪については無罪とされた。ムバラクは、この二人の男性については再審命令の対象とせず、刑罰をそのまま承認した。ムバラクは、エジプトの最高軍事司令官として、終審裁判所である非常事態裁判所 emergency court のすべての決定を認証しなければならない立場にある。
 50名の男性の再審がいつ行われるか等の詳細については、今のところ情報はつかめていない。
 AP通信の報道によると、国際ゲイ・レズビアン人権委員会(IGLHRC)はこのニュースに失望感を表明している。IGLHRCのシドニー・リーバイ Sydney Levy は、ゲイ・コム/プラネットアウト・コム・ネットワークの取材に対して「私たちは、主要な被告二名に対する刑が確定したこと、ムバラクの命令が刑の免除でなく再審であったことにショックを受けている」と述べた。また、リーバイは、すでに無罪となった29名の男性を再審の対象にしたことについても疑問を表明した。
 同性愛は、エジプトでは社会的タブーとされているが、法律では明文を持って禁止されているわけではない。

◆◇◆ナイジェリアで石打ち刑が宣告される◆◇◆
BBCニュース・アフリカ 2001年9月14日

 ナイジェリア北部のイスラーム裁判所が、7歳の男性児童と性行為を持ったとされる男性に対して石打ち刑を宣告した。この決定は、ケビ州 Kebbi State の第一上級イスラーム法裁判所 the Upper Sharia Court 1 が水曜日に下したものである。
 石打ち刑の宣告は、過去2年間にナイジェリア北部12州がイスラーム法を導入してから初めてなされるものである。被告であるアッタヒル・ウマル氏 Attahiru Umar は、刑の宣告から30日を期限として、控訴する権限を有する。
 裁判所当局者はAFP通信に対して、ウマル氏は二人の証人による目撃証言がなされたのちに事実を告白 confess したと述べた。マラム・アブバカール・ベナ判事 Mallam abubakar Bena は、被害者の名前や犯罪の内容を公にすることを禁止する命令を出した。刑罰の宣告後、この事案はケビ州イスラーム法執行委員会 Kebbi State Sharia Implementation Committee、さらに最終的に州知事に提出される。
 ザンファラ州 Zamfara は、2000年1月、ナイジェリアで最初にイスラーム法を導入した州である。ナイジェリアのオルセグン・オバサンジョ大統領 Olusegun Obasanjo は、改宗したキリスト教徒であるが、現在ザンファラ州に最初の公式訪問を行っているところである。
 ザンファラ州の知事であるサニ・アハメド Sani Ahmed は、公的な場所に男性と女性が混在するのは「イスラーム的でない」からという理由で、オバサンジョ大統領の歓迎行事に女性を参加させないことを命令した。しかし、行事出席者によれば、何人かの女性はこの禁止令を無視して出席し、オバサンジョ大統領を歓迎した上、逮捕もされなかったという。イスラーム法導入の支持者たちは、キリスト教徒の不安をしずめるために、イスラーム法はイスラーム教徒のみに適用されるもので、その他の宗教の信者には、現存する刑法が課せられるのみであると説明している。しかし、実際には、イスラーム法の導入はキリスト教徒とイスラーム教徒との緊張関係に火をつけている。北部の主要都市カドゥナ Kaduna、カノ Kano、そして先週にはジョス Jos で、宗教を要因とした衝突が起こり、これまでに数千人の人々が殺害されている。

***第42号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第42号 2002年9月16日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)12回口頭弁論、法務省側は失意の表情。裁判長は外国の判例に興味津々
 〜次回法廷は10月11日(金)午前11時〜
(2)「ハータミー政権になっても迫害は続いている」
 〜法務省の新証拠にエグテダーリ氏(在米イラン人人権活動家)が反論〜
(3)イラン映画「アフガン・アルファベット」(モフセン・マフマルバフ
 監督)公開中。(支援者の方よりのお知らせ転送+α)
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(1)12回口頭弁論、法務省側は失意の表情。裁判長は外国の判例に興味津々。
 〜次回法廷は10月11日(金)午前11時〜
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<エグテダーリ氏からの陳述書:ぎりぎりセーフ>

 7月18日の裁判で、市村裁判長はシェイダさん側・法務省側の両者それぞれに対し、持てる全ての証拠を出し切るように指示しました。法務省側は以前から、「外務省と連携して調査を行っている」と言っていたので、裁判長はその調査結果を次回の法廷までに出すように指示。また、シェイダさん側に対しては、シェイダさん側が証人申請している在米イラン人人権活動家・ゴウダルズ・エグテダーリ氏に関して、前回法務省が出した証拠への反論も含め、本人の陳述書など何らかの者を提出するように指示しました。
 シェイダさん側はその後、さっそくエグテダーリ氏と連絡をとりましたが、待てどもエグテダーリ氏からの返事は来ず。8月末になって業を煮やした頃に、「夏休みだった。今、夏休み明けで忙しいが、何とか書面を作成してみる」という前向きの返事が、突然飛び込んできました。
 シェイダさん側としては、すぐにエグテダーリ氏に、書いてほしい書面の内容を伝えました。1週間後、裁判の日の前日に、エグテダーリ氏から「短期間でやれるだけのことをやった」というメッセージと共に陳述書が届いていました。さっそく裁判の日の午前中に超スピードで翻訳を上げ、法廷では「このように、書面はすでに手に入っています。あとは翻訳を校正すればいいだけです」と裁判長にアピールすることが出来ました。

<失意の表情:法務省>

 一方、法務省側はというと、市村裁判長に「何か提出するものはありますか?」と問われ、「いいえ、何もありません。調査結果も何も来ていません。来ないことを前提に進めていただくしかありません」と、担当官が失意の面持ちで答弁。この対応には、こちらも非常に驚きました。こちらとしては、当然、前回法務省が提出した証拠について「それをもって何を立証したいのか」を説明する準備書面のひとつくらいは出るだろうと思っていたからです。いったい、法務省のこの消極的な姿勢は何を意味するのでしょうか。このままでも「勝てる」と踏んでいるのか、難民制度の変更などをにらんで、音無しの構えをとっているのか、それとも、シェイダさん裁判については、もう「投げて」いるのか……?
 市村裁判長は法務省の態度を見てとった上でシェイダさん側の大橋弁護士に「外国の判例とか、もっとないのですか?イランで処刑がある、ということはわかりました。問題はその処刑がごく例外的なことなのか、一般的に行われているということなのか、ということです。それで、外国で難民として認められている事案について、外国の裁判所が、どんな理由で難民と認めているのかということをもっと知りたいのです」と水を向けてきました。
 このコメントは、両刃の剣とも言えますが、裁判長が、シェイダさんを「難民」と認める可能性も含め、事実を事実としてきちんと認識した上で判決を出そうという態度をとろうとしていると判断できます。その意味では、評価できるコメントといえるのではないかと考えられます。
 こんなやりとりもありましたが、この日の法廷は法務省側が何も言ってこなかったこともあってそそくさと終了しました。

<傍聴の皆さん、ありがとうございます>

 米国同時多発テロから1周年のこの日。こちらとしては、何人の人が傍聴に来てくれるだろう……とちょっと心配でしたが、20名を越える傍聴者が来てくれました。報告集会では、昨年のあの日ニューヨークで事件に遭遇したという人から、「今年、法廷でシェイダさんを支援することができて、自分もあの事件を越えて何かに取り組んでいるのだという気がしている」というコメントもありました。シェイダさんの裁判も、ひろく世界の状況とつながっているのだということが、改めて認識できました。次回は、ちょうど1ヶ月後の10月11日(金)午前11時から。今後とも、多くの方に傍聴に来ていただけることを期待しております。
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┃シェイダさん在留権裁判 第13回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2002年10月11日 午前11時〜  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
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┃第13回口頭弁論報告集会         ┃
┃○日時:2002年10月11日 11時30分〜   ┃
┃○場所:弁護士会館を予定        ┃
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(2)「ハータミー政権になっても迫害は続いている」
〜法務省の新証拠にエグテダーリ氏(在米イラン人人権活動家)が反論
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 7月18日の法廷(第11回口頭弁論)で法務省は、以下の5つの証拠を出してきました。

○英国移民国籍部各国情報政策課作成「国別調査:イラン」2001年度版
○同課作成「国別調査:イラン」2002年度版
○オランダ外務省作成「イラン:状況」2001年度版
○オーストラリア難民控訴審判所決定(1999年5月24日)
○オーストラリア難民控訴審判所決定(2001年10月16日)

 法務省がこれまで、イランの同性愛者の状況に関する証拠として出していたのは、カナダ移民難民委員会調査部が作成したイランの同性愛者の迫害に関する報告書ただひとつだけでした。今回これに加えて上記の5点を提出した目的として「カナダ移民難民委員会調査部が作成した報告書が、多くの国で難民認定に関する資料として活用されている」ことを示すためである、と述べています。
 これら証拠資料で主張されているのは、以下の5点です。

○イランにおける同性愛者への迫害は、法律の文面上は非常に厳しく、社会的にもタブーである。
○しかし、捜査機関は同性愛者を積極的に摘発しているわけではなく、それだけを理由とした処刑も行われていない。
○同性愛者は、イスラーム的規範を露骨な形で侵犯しない限り迫害されることはない。
○法的にみても、本人の4回の告白、4人の男性の目撃証言など、高い立証基準を課しており、それがハードルとなって同性愛者への処刑を行うのは難しい。
○ハータミー政権の成立によって、道徳犯罪に対する摘発は以前よりも緩和された。

 これらのうち最初の4点は、カナダ移民難民委員会調査部の報告書においても取り上げられていたことであり、シェイダさん側としては、これらの論点に対して、ほぼ完全に論破する書面および証拠を提出しています。
 今回シェイダさん側は、法務省の主張に対する反論を、証人として申請している在米イラン人人権活動家のエグテダーリ氏に陳述書として執筆してもらいました。エグテダーリ氏は「極端に多忙」と言いながらも、

○保守派が支配する警察・革命防衛隊・その他の準軍事組織により道徳犯罪の摘発が強化され、ハータミー政権もこれを黙認していること
○ハータミー政権などの改革派は、イスラーム刑法の適用それ自体に反対しているわけではなく、公開で適用することに反対しているだけであること
○同性間性行為と同じ立証水準を課している姦通罪について、処刑事例が多発しており、「高い立証水準」は迫害の有無を考える上で問題にならないこと

 の3点を軸に、陳述書を作成してくれました。エグテダーリ氏は最後に、イランで同性愛者が隠れて生きていく分には、たしかに安全かも知れないが、他国で難民申請などをしてその存在が知られている同性愛者をイランに強制送還することは「極端に危険」 extremely dangerous であるとはっきりと述べています。
 専門用語や固有名詞が多いので少しわかりにくいかも知れませんが、ぜひとも陳述書に目を通してみて下さい。

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書面による証言(抄)
ゴウダルズ・エグテダーリ Goudarz Eghtedari
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。.英国移民国籍部各国情報政策課 Country Information and Policy Unit, Immigration and Nationality Directorate of the UK によって編集されたイランの国別調査 Country Assessment of Iran に言及されている、カナダ移民難民委員会 Immigration and Refugee Board of Canada の調査報告とは反対に、イラン・イスラーム共和国からなされた最近の報告(2002年夏)では、テヘランおよび他の複数の主要都市において、法の執行のために新しく設置された部隊が配置についたことが明らかにされている。この部隊は、特殊部隊 Special Forces に属する制服警察官によって構成され、道徳的な犯罪を監視するための近代的な装置によって完全武装している。規範や道徳を侵したとみなされた者は、若者であれ何であれ、この部隊によって詳細な取り調べを課せられるのである。イランは現在、世界的な金融危機に見舞われ、政府の財政は弱体化しており、もし政府が刑法に書かれた規定を実際に執行することを望まないのであれば、わざわざこのような努力をするわけがないということは、容易に想像できるであろう。人々が集まっているところを急襲したり、道で人を逮捕するといったことは、ハータミー大統領が道徳警察 moral police の活動を管理したり、それを最小限に押さえようと努力していた過去数年間よりも、より一般的にみられるようになっている。
 イラン・イスラーム共和国司法長官アーヤトッラー・ハーシェミー・シャハローディ師 Ayatollah Hashemi Shahroodi 師は、こうした取り締まりはイスラーム共和国の最高指導者であるアーヤトッラー・アリー・ハーメネイ師 Ayatollah Ali Khamenei によって発布された公式の命令に基づいて行われていると述べている。
 イラン検察庁長官アーヤトッラー・モハンマディー・ギーラーニー師 Ayatollah Mohammadi Gilani は、ハーメネイ師がこうした道徳犯罪取り締まり活動を命令したのは、イランの主要な判事が集まって毎週木曜日に開催される会議においてのことであると述べている。ギーラーニー師は、地元の新聞にむち打ちを執行する際の方法について質問され、「私は提案する。罪人をむち打ちする際には、むちが皮膚と肉を食い破り、骨にまで届くように行うべきだ。」と答えた。また、同性愛に対していかなる処罰が適切かを問われたとき、師は「同性間性行為を行った者に対しては、火を用意し、その者を火の中に投げ込むべきである」と答えた。(2001年8月30日、ノウローズ新聞 Nowrooz より)
 次のような憶測が見受けられることがある。いわく、「ハータミー大統領の政権は必ずしも、処罰を法律に書かれたとおりに行うことを追求していない」。しかし、イラン国内で状況を監視しているすべての外国の観察者によって知られている事実は、そうではない。事実は、ハータミー現政権は法の執行および司法について、これを統制する力を全く持っていないということである。付け加えて言えば、ハータミー政権の内部にいる改革派 reformers の人々も、イスラーム法による処罰(タージラート Taazirat)自体を拒否したことはなく、単に、国際的な舞台におけるイスラーム共和国への信頼をおとしめないために、処刑を公開の場において行うことを止めよう、と主張しているに過ぎないのである。すなわち、彼らはむち打ち、石打ち、死刑等のイスラーム的な処刑が、公開の場所でなく、刑務所の中で行われることを好んでいるだけなのである。例として、国家内務相 state interior minister のホッジャトルイスラーム・アブドルバヘド・ムーサヴィ・ラリ師 Hojatt-ol-islam Abdolvahed Musavi Lari 師(訳注:改革派のイスラーム法学者)は、複数のイスラーム系団体が集まって毎年開催される会議において、「イスラーム的処罰の執行に反対しているのではない。しかし、むち打ち刑を行うのに、わざわざみんながみている場所を選ぶことはない」と述べているのである。
「.英国移民国籍部国別情報政策課のイランに関する報告の5.130段落〜5.132段落の部分、およびそれに続くイラン刑法の引用部分は、イラン・イスラーム共和国において同性愛者が法的にどのような扱いを受けることになっているかを余すところなく明らかにしている。
 カナダ移民難民委員会調査部は次のように正しく述べている。「技術的には、同性間性行為はイスラームによって明確に拒絶されており、イランではイスラーム法(シャリーア)が導入されている。同性間性行為は、それを行った両者が成人であって、正常な判断能力を持って自由意志に基づいてそれを行ったと見なされた場合には、死をもって処罰される。それは、被告人が4回の告白を行うか、または4名の正常な認識能力を持った男性が行為を目撃したとの証言を行った場合、もしくはイスラーム法判事が、習慣的な方法を通じて引き出した知識に基づいて判断した場合に立証される」。しかしながら、「同性愛者の処罰に関する高い立証基準(があるために処刑は防がれている)」などというような主張は、同様な基準が採用されている「姦通」に関して、過去数年の間に、十数件の石打ち刑が執行されている以上、論じるに値する主張であるとは言えない。
 また、こうした道徳的犯罪のケースが、一般法廷 general courtsで処理されている(から問題ない)という主張がなされているが、これは別の意味で、当事者を不安に陥れる議論である。一般法廷はイスラーム法判事によって運営されており、イスラーム法判事が、この宗教的な国を代表する検察官と裁判官を兼務している一方、陪審員は存在せず、またほとんどのケースにおいて被告を弁護する弁護人も存在しないのである。

結論

 イランにおいて、同性愛者が地下において隠れて生活を営むことは可能であり、そのような生活を営む限り、(同性愛者に対する迫害が存在していた)かつての欧米諸国と同程度には安全であるということは明らかである。しかし、外国において庇護を求める法的手続を進めたことがあるなどして、同性愛者であることが知られている人がイランに帰国することは、極端に危険であるということができる。私はシェイダ氏の実名を知っておらず、会ったこともなく、彼の事例に関する個人的な知識も持っていない。(このように、彼に対して何らの私的利益もまじえない立場から)、私は、彼をイラン・イスラーム共和国に強制送還することが、彼を死刑の危険性さえも含む巨大な危険に陥れることになるであろうことを、はっきりと証言する。

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(3)イラン映画「アフガン・アルファベット」(モフセン・マフマルバフ
 監督)公開中。(支援者の方よりのお知らせ転送+α)
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 前々回の法廷(7月18日)から裁判を傍聴して下さっている方より、イランの映画監督モフセン・マフマルバフの映画「アフガン・アルファベット」の上映についてのお知らせをいただきました。アフガンの状況や、イランとの関係について知る上でも大切な映画だと思います。関心のある方は見に行ってみて下さい。
 最近公開されたイランの映画では、筆者(大塚重蔵)としては、アボルファズル・ジャリリの「少年と砂漠のカフェ」(原題:Delbaran)をお勧めします(ビデオ化未定)。筆者のコメントをつけましたので関心があったら読んでみてください。
 あと、9.11米国同時多発テロ1周年にあたって、11人の映画監督によって作られた連作映画「September 11」の冒頭を飾るサミラ・マフマルバフの作品は、まさに珠玉の短編と言って良いものでした。公開は来年となっていますが、機会があったらぜひどうぞ。

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<<アフガン・アルファベットの紹介>>
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●9.11を経て。 10月7日はアフガン空爆開始から1年。『カンダハール』を世に問うたマフマルバフ監督がアフガニスタンの未来のために何が必要かーに迫った映画『アフガン・アルファベット』がただいま公開中です。
          
これはいい映画か。アフガン少女のブルカを脱がせるのは正しいのか。だが、マフマルバフの直球はそういう気取った批評家的な懐疑を粉砕する。彼にとって大切なのは、「多文化主義」に基づく秀作映画を撮ることなどではなく、アフガニスタンの子どもたちの状況を具体的に改善するための有効なプロパガンダを展開することなのだ。これがいい映画かどうかはわからないし、実はそんなことはどうでもいい。要はこの雄弁なプロパガンダが観る者を激しく衝き動かすということである。  
浅田彰さん(京都大学助教授)
アフガン・アルファベット新宿武蔵野館にてロードショー
03-3354-5670 新宿駅東口三越裏 同時上映『おばさんが病気になった日』『風と共に散った学校』
『アフガン・アルファベット』入場料の一部はアフガン支援に役立てられます。新宿武蔵野館での全入場料の10%が、マフマルバフ監督の提唱で始まった「ACEM(アフガン子ども教育運動)」に寄付されます。ACEMは、イランのアフガン難民居住区とアフガニスタン国内で、子どもたちに読み書き教育と基礎的な衛生教育、また医療支援などを行うイランのNGOです。

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<<「少年と砂漠のカフェ」へのコメント(大塚重蔵)>>
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「少年と砂漠のカフェ」(アボルファズル・ジャリリ監督、イラン映画)をみました。イラン映画は最近、よく公開されていますが、ジャリリは私の一番好きな監督です。この映画も、「カンダハール」ほど話題になりませんでしたが、実際には、ずっと深いところを突いている映画だと思います。
 ジャリリは一貫して、イランの過酷な現実を生きる少年と労働者の姿を見事に映画化してきました。「少年と砂漠のカフェ」では、辺境の町で、ついに生きる場を確保したかに見えたアフガン人難民の少年が主人公ですが、彼の生きる場を潰してしまうのは、少年に直接、迫害を加えるイラン警察ではなく、ターリバーン政権との軍事的緊張の中で国境沿いに作られる軍事基地、そして軍事基地建設に付随する幹線道路建設の公共事業です。新しい幹線道路の開通が、カフェを長距離ドライバーの休憩所から僻地の一軒家へと変えてしまう。この映画の一番すばらしい点は、少年の生きる場をこわしていくのが、圧倒的な構造的暴力であるということを、婉曲に、しかしはっきりと示している点です。
 少年はただその暴力に屈服するのではありません。彼の抵抗は、道路にばらまかれたたくさんの釘のきらめきに象徴されます。彼の小さな、そして悪意に満ちた抵抗を、この映画は美しく、全面的な肯定をもって描き出すのです。
 イラン当局がこの映画の国内上映を許したとしたら、彼らの度量はかなり広いということになるでしょう。ジャリリの前の作品「ダンス・オブ・ダスト」は、まったくせりふを用いずに、辺境の煉瓦造りの少年と、出稼ぎ労働者の少女との交流を、手形〜少女は聖人信仰のためのものと思われる金属の小さな手、少年は煉瓦につけた自分の手形〜の交換という象徴的な手法によって描き出す、清冽な映画ですが、一方でそれは、少年と少女の恋愛=欲望を描いていること、そして、聖人信仰という、あるいみ 異端的な表象を活用するということによって、イラン現体制=それは、イスラーム社会・文化の多様性を切り捨て、ホメイニー主義に歪曲されたシーア派イスラームを強制しようとするものです=に対する抵抗の姿勢を、あるいみあからさまに示したものでした。当然、この映画はラフサンジャーニー政権のイランにおいて上映禁止になりました。
 ジャリリの「少年と砂漠のカフェ」は、アフガニスタン、そしてイランに関心を持つ人にとって必見の映画だと思います。そのうちビデオ化されると思いますので、ぜひ見て欲しいと思います。

***第43号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第43号 2002年10月5日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)判決に向けての道筋が開かれる?第13回口頭弁論にご注目を!!
 〜次回は10月11日(金)午前11時から東京地裁です〜
(2)法務省の新証拠に反論:シェイダさんの新しい陳述書
 〜今回の法廷で提出する証拠資料など〜
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●バックナンバーが必要な方は電子オフィスまでお知らせ下さい。
●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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(1)判決に向けての道筋が開かれる?第13回口頭弁論にご注目を!!
  〜次回は10月11日(金)午前11時から東京地裁です〜
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<これまでの流れ>

 シェイダさん本人の尋問という山場が5月に終わったシェイダさん在留権裁判。7月の第11回口頭弁論では、法務省側から新しく外国のホームページなどからとった証拠資料が5つ提出され、すわ、法務省も本腰を入れてきたかと少し気を引き締めました。ところが、前回の9月11日の法廷では、法務省側からは新しい証拠は一切出ず。法務省が以前、外務省に問い合わせて事実調査をしていると答弁していたことについて、裁判長がどうなっているのかと質問したところ、法務省は「もう何も出ないのを前提に進めて下さい」と意気消沈した様子で、こちらも拍子抜けでした。
 一方、シェイダさん側は、ぎりぎりになって届いた米国在住のイラン人人権活動家・エグテダーリ氏執筆の「書面による証言」を裁判長に示し、法廷の2・3日後に正式に提出しました。

<意欲的な裁判長の態度>

 ここ数回の法廷で特徴的なのが、裁判長・市村陽典氏の非常に意欲的な態度です。
 市村裁判長は前回の法廷で、原告に対して、「もっと外国の判例などはないのですか?」と質問、なぜそんな質問をするのかについて自分から述べ始めました。曰く、「イランで同性愛者の処刑の事例があることはわかりました。ただ、それが通常行われていることなのか、それとも例外的なことなのかが必ずしもはっきりしない。その辺、外国の判例においてどのように述べられているのか、もっと知りたいのです」。
 さらに裁判長は別途、難民条約上の「特定の社会的集団」の定義について、「難民条約の制定当時、この『特定の社会的集団』はどういう趣旨で入れられたのか、何か主張があったら出してほしい」という依頼を行いました。
 このように、裁判長はここにきて非常に積極的に、原告・被告に対して、かなり内容に大きく踏み込む質問を行い、双方に積極的に証拠資料等を提出するように要請し始めました。
 これは、基本的にはいい傾向だと思われます。これは判決を書く上で必要な情報を積極的に収集するためのことだと思われますが、もし、いい加減な・あるいは前例踏襲型の判決を書くにとどめるなら、一生懸命証拠を収集したり、両者に具体的な中身について問いただしたりする必要がないからです。
 ただ、それがどう転ぶかはなかなか判断が難しいところです。読んでいただければわかるように、裁判長の質問は、必ずしもシェイダさん側にとって有利なことばかりというわけではありません。たとえば、難民条約の制定時においては、「特定の社会的集団」という定義は、必ずしも同性愛者を含み込むことを前提に作られたものではなかったでしょう。意欲的な裁判長に対して、こちらも適切な資料を示せるかどうか、かなり重要なところです。

<判決までの道のりを示す今回の法廷にご参加を!>

 今回の法廷の焦点は、まず「エグテダーリ氏が証人採用されるかどうか」。これが最終的に決着します。裁判長は、前回原告側が出したエグテダーリ氏の「書面による証言」を読んだ上で、証人採用が必要かどうかを判断します。ただし、エグテダーリ氏の証言内容は、この書面に尽きているとも言え、この証人採用の諾否が裁判の流れに大きく影響するというわけではありません。
 次の注目点は、「判決までの道のり」です。もしエグテダーリ氏が証人採用されれば、次回はおそらく氏の証言ということになります。一方、採用されなければ、次回は結審、次々回が判決ということになるでしょう。そうすると、結審は年内、判決はおそらく年度内の来年3月頃になるだろうと思われます。
 今後の「判決までの道のり」が示される?今回の法廷、要注目です!
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┃シェイダさん在留権裁判 第13回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2002年10月11日 午前11時〜  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
┠────────────────────┨
┃第13回口頭弁論報告集会         ┃
┃○日時:2002年10月11日 11時30分〜   ┃
┃○場所:弁護士会館を予定        ┃
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(2)法務省の新証拠に反論:シェイダさんの新しい陳述書
 〜今回の法廷で提出する証拠資料など〜
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 今回の法廷では、まず法務省が7月の法廷で提出した5つの新証拠に対するシェイダさんの陳述書、そして、ロンドンで発行されているイラン人向け新聞「ケイハーン・ロンドン」に掲載された二つの記事を提出します。
 法務省は7月の法廷で、イギリス、オランダの行政の難民担当部局がリリースした報告書と、オーストラリアでイラン人の難民申請者に対して出された決定二つを証拠として提出しました。法務省がこれらを提出した意図は、法務省がすでに提出していたカナダ移民難民委員会調査部の証拠資料(乙第17号証)が、各国でも活用されているということを示す、というところにあります。
 この乙第17号証については、シェイダさん側はすでに準備書面(2)において全面的に反論しています。新しく法務省が出した証拠は、この乙第17号証の論点を繰り返しているものに過ぎません。しかし、シェイダさんは敢えてこれに、以下の陳述書で反論を行いました。
 反論の論点は以下の通りです。

●新しい証拠資料において、同性愛者の処刑は「4名の男性の証言」または「本人の4回の告白」がなければ出来ないので、実際にはあまり行われていない、と書かれています。これに対してシェイダさんは、これらの立証はつねに恣意的に行われてきたのであって、「立証基準が厳しいから処刑は行われていない」というのはごまかしである、と述べています。

●イギリスの証拠資料は、イランで最後にソドミー罪での処刑が行われたのは1995年であると述べていますが、これは誤りで、最後にソドミー罪での処刑が行われたのは2001年(イラン北西部アルデビール州メシュギーン・シャフル市での事例)であると述べています。

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原告による法務省新証拠への反論
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 法務省が裁判所に提出した新たな証拠は,イラン社会の現実を反映していない,極めて曖昧なものである。証拠書類のレポートには,イスラーム法の裁判官が,同性愛行為の罪による処刑または石打刑の罪状を被告の刑に加えるために,「4名の信頼しうる目撃者の証言または被告の4回の自白」を利用してきたということが指摘されていない。同性愛者を抑圧するイラン社会において,4人の理性的かつ健全な人物の目の前で,性的関係に身を任せるなどということが,どうして可能だというのか?!
 日本国法務省は,被告の自白又は4名の信頼しうる目撃者の証言による判決の事例をもし知っているのなら,それを証拠として裁判所に提出するべきである。
 最も新しい同性愛行為の罪状による処刑は,昨年行われたのであり,イギリス入国管理局のレポートにある1995年ではない。
 また同時に,何人ものイランの同性愛者が,イギリス入国管理局から居住許可を得ることに成功している。一例を挙げると,イラン人同性愛者モハンマド=サーデグがそうである。
 確かに,同性愛者である人間は,イスラーム法の正式な知識を持っておらず,飲酒も行う。しかし,飲酒の罪状による刑罰は鞭打ち刑であり,飲酒によって死刑に処されることはない。もし本当にイラン内部の状況について調査したいと思うならば,人権擁護諸団体の報告を参照し,それを証拠として法廷に提出すべきであろう。
2002年9月25日 シェイダ
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 この証拠以外に、シェイダさんは今回、二点の新聞記事を提出します。いずれもイギリスで発行されているイランの新聞「ケイハーン・ロンドン」掲載のもので、イラン・イスラーム共和国の情報省等一部機関が、海外で活動するイスラーム共和国に対する政治的反対者の暗殺などの謀略活動について新しい方針を策定した、というものと、イラン国内において、パーティーへの弾圧などいわゆる「道徳犯罪」への取り締まりが苛烈さを増している、という記事です。

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警告(ケイハーン・ロンドンNo. 919、2002年8月22日号)
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「国内・国外ナショナリスト・パワー」は,ある公報を通し,次の警告を発した。イスラーム共和国は,新たに,外国人顧問達の勧告に基づき,自国のテロ活動の手法を変更。国外在住の情報部員を召集し,国外における政治的暗殺活動要員として,標的の地域に在住する軽犯罪者達を利用することを指示した。それにより,殺人を政治と無関係に見せかけるためである。
 イスラーム共和国情報省が将来のテロ活動のために目論んだ新たな方針を考え,私たちは,国外在住のすべての愛国者達に警告する。新たなテロ活動による危険から身を守るために,諍いにつながるような暴徒や軽犯罪者による言いがかりに関わることを慎み,身を遠ざけておくように。
 モスクでのルンペンの雇用は容易な仕事である。そして,この種の人間達がイスラーム共和国のために行う反対勢力の暗殺は,西側世界には何ら被害を及ぼさないであろう。

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オーストラリア大使館職員の逮捕:外交官2名,イラン人25名が逮捕さる
(ケイハーン・ロンドンNo. 926、2002年9月26日号)
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在テヘラン・オーストラリア大使館に勤務するあるイラン人女性が,数日前の夜,テヘランのガンディー通りにある父親の家で,大勢の友人を招待し自分の誕生日パーティーを催した。パーティーの途中で,勧善懲悪[イスラーム法に基づく行為を奨励し,反イスラーム的な行為を取り締まる]司令部の民兵がこの女性の家に押し入り,女性の同僚である外交官2名を含むパーティーの招待客達を逮捕した。 民兵はパーティーの客達をテヘラン北部のイスラーム指導省司法局第1509支部に連行し,そこで彼らに罰金刑の判決を言い渡した。パーティー客らの一部は6万トマン,一部は10万トマンを支払い,釈放された。監視を怠ったマンションの大家も,10万トマンの罰金刑に処された。逮捕された2名の外交官の調書は司法局に送付された。

*****第44号は近日中に発行の予定です*****

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第44号 2002年10月31日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)エグテダーリ氏証人採用内定するもタイミング悪し?
 〜山が動きつつある?第13回口頭弁論〜
(2)新たな証拠を法務省が提出:しかし「これは証拠なのか?」
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(1)エグテダーリ氏証人採用内定するもタイミング悪し?
 〜山が動きつつある?第13回口頭弁論〜
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 10月11日午前11時より、シェイダさん裁判の第13回口頭弁論が、東京地方裁判所6階の第606号法廷で開かれました。いつもよりちょっと寂し目の法廷だったのですが、内容はかなり濃いものでした。(ごめんなさい、筆者も遅刻してしまい、シェイダさんや他の傍聴者の皆さんに心配をおかけしてしまいました)
 シェイダさんの裁判はもう2年半にも及んでいます。今回の法廷の焦点は、シェイダさん側が1年以上前に申請した在米イラン人人権活動家、エグテダーリ氏を証人採用するかどうか。もし裁判所が証人採用しなければ、年内に結審となり、年度内の判決がほぼ確実となります。どうなるでしょう。
 最近、本裁判を担当している男性の市村陽典裁判長と、向かって右側に座っている若い女性の馬渡裁判官は、とみに積極的な態度で法廷に臨んでいます。とくに市村裁判長は、今回非常に積極的に原告側・被告側に質問を飛ばしました。

<積極的な市村裁判長の態度>

 まず、法務省が今回、提出した証拠について。前回打ちひしがれた表情で「外務省から証拠が来ません。もう来ないという前提で進めて下さい」といっていた法務省は、今回は証拠を出してきました。しかしその内容は「外務省の資料を基に法務省がまとめた」というわずか3枚の図表で、「証拠」と言えるようなものではありません。当然、裁判長は「基になった資料はあるのですか?」と質問。また、諸外国で出された判決などはあるのかどうかについても質問。「まだ和訳してない」というのが法務省の答えでした。
 次に裁判長は、日本も3年前に加盟した「拷問等禁止条約」に話を進めました。「難民条約」に加え、「拷問等禁止条約」にも、拷問を受ける可能性がある国に送還してはならないという規定があります。シェイダさん側は、シェイダさんの送還が違法である理由として、この「拷問等禁止条約」をも根拠に含めています。これについて裁判長は、もし原告がイランに送還されて石打ち刑などに処された場合、それが「残虐な刑罰」にあたるかどうかについて国側に主張を出すように指示しました。これはかなり積極的な態度だと言えます。

<エグテダーリ氏の招へい:「うれしい誤算」>

 最後が肝心のエグテダーリ氏の招へいについてです。裁判長は「もし12月、または1月に来日できるというなら、日程を指定して、エグテダーリ氏を法廷に招いてもよいと考えています」と言い出しました。なんと!エグテダーリ氏の招へいについてはじめて法廷で問われたのは、2001年10月16日の第7回口頭弁論。それからほぼ1年が経ったわけです。
 私たちとしては、エグテダーリ氏の証人申請が受け入れられる可能性について、おそらく非常に少ないだろうと考えていました。そのため、私たちはエグテダーリ氏に対して、イランにおける同性愛者の処刑等に関して詳細な書面を書いてもらうようにお願いし、その結果、エグテダーリ氏は前回の法廷に向けて「書面による証言」という文書を執筆してくれたのです。それが証人採用ということで、私たちにとっては「うれしい誤算」でした。シェイダさん側の大橋弁護士は、エグテダーリ氏の日程を確認して調整する、と答え、それに要する期間として1ヶ月の猶予が与えられました。次回の法廷は11月15日と決まりました。

<しかし、タイミング悪し> 

 原告団では、早速エグテダーリ氏に連絡を取り、12月または1月の来日が可能かどうか打診しました。エグテダーリ氏からは数日後に回答がありました。彼は12月から1月にかけて国外で学会発表等のためにすでに予定が入っており、2月中旬までは来日することができない、2月15日以降であれば喜んで来日する、ということでした。うーん、残念。
 裁判長が1月という時期を指定したのは、1月に尋問が終わらないと、年度内に判決を出すことが出来ず、現在の裁判官のチームで判決が書けなくなってしまう可能性があるからです。私たち自身としても、市村裁判長が非常に積極的な態度で法廷に臨んでいること、市村裁判長の近年の難民問題に関する判決は非常に質の高いものになってきているということなどから、なるべく現在のチームに判決を出してほしいと考えており、なんとか両立を図れないかと策を練っているところです。
 次回の第14回口頭弁論は、この点がどうなるか、そして判決に向けての裁判の流れがどうなるかがほぼ確定します。ぜひともお越し下さい。11月15日(金曜日)午後1時30分、606号法廷です。
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┃<<シェイダさん在留権裁判 第14回口頭弁論>>     ┃
┃●日時:2001年11月15日(金)午後1時30分〜(1時集合) ┃
┃●場所:東京地方裁判所第606号法廷            ┃
┃           (営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分) ┃
┃<<第14回口頭弁論 報告集会>>            ┃
┃●日時:2001年11月15日(金)午後2時〜         ┃
┃●場所:弁護士会館を予定                  ┃
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(2)新たな証拠を法務省が提出:しかし「これは証拠なのか?」
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 上に述べたとおり、法務省は前回法廷において3点の証拠資料を提出しました。いずれも、外務省の資料に基づいて法務省が作成したというもので、以下の3点です。

1.同性愛を迫害理由とする難民認定申請 平成14年7月現在(乙第23号証)
2.イスラム教国における同性愛者に対する処罰状況 平成14年7月現在(乙第24号証)
3.難民認定室難民係長より法務省入国管理局総務課難民認定室長への書簡(乙第25号証)

 いずれも一枚の紙に記されたもので、1と2は図表になっています。これらはいずれも、原資料ではなく、外務省が入手した情報を法務省がまとめたもので、その証拠的な価値は著しく低くなっています。しかもその恣意性は一目瞭然で、「これが『国』が提出する証拠なのか」と唖然とさせられるような質の低いものです。
 まず1から見てみましょう。1は、同性愛を迫害理由とする難民認定申請の状況について各国の状況をまとめた表です。まず国名から。ドイツ、オランダ、デンマーク、カナダ、オーストラリア、韓国、スウェーデンの7ヶ国ですが、明らかに恣意的なのは、イラン出身の同性愛者の難民をもっとも多く受け入れ、難民の受入数でもドイツと並んで多いアメリカ合州国が対象国からはずされていることです。そもそも外務省がアメリカ合州国について調査対象としなかったとは思えません。明らかに、載せると不利だから割愛したのです。
 次に、表の項目。「申請事実、申請者国籍、申請数、認定事実、認定数、認定理由」について、ほとんどが「不明」「統計無し」「情報入手不可」とされており、表として意味をなさないものとなっています。唯一たくさんの記述がなされているのは「備考」のところですが、ここは同性愛者の難民申請者に対する悪意ある記述が、出典を示さずに並んでいます。例えばドイツの記述に、「同性愛者が条約難民に当たるという判例はない」と書かれていますが、世界でもっとも早く同性愛者を条約難民と認めたのは1983年のドイツ・ヴィースバーデン行政裁判所であり、その判決では明確にイラン出身の同性愛者を条約難民と認めています。また、オーストラリアのところでは「同性愛嗜好(ママ)を有することのみでは『特定の社会的集団』として保護の対象にはならない」と書かれていますが、これはわざわざ書くまでもないことです。実際に性的指向を理由とした迫害を受ける恐れが生じたときに、その理由が「特定の社会的集団」にあてはまるものかどうかが問題なのであって、「同性愛者」=即「難民」であるはずがありません。このように、表のまとめ方も、難民条約における難民の規定や、最近の「特定の社会的集団」に関する議論に無知な人物がまとめたとしか思えない粗雑なものとなっています。
 つぎに2は、イスラーム教徒の多い国家において同性愛者がどのように扱われているかについての表ですが、インドネシア、マレーシア、アラブ首長国連邦、エジプト、サウディ・アラビアと、世俗主義体制をとる国とイスラーム法に基づく統治体制をとる国がごちゃまぜに並べられているところからして、イスラーム国家論に無知な人間が思いつきで作った表としか思えません。ここでまた恣意性が明らかになるのがサウディ・アラビアのところで、「同性愛者に対する処罰事実=不明、差別の有無=不明、備考=情報入手困難」。実際には1月に同性愛者5名が斬首刑に処されているほか、それ以前にも同様の処刑事例が存在しています。これらについては欧米でも大きな問題となり、外務省もその程度の資料は入手していることでしょう。ところが、これらをすべて記述から落とすことで、「イスラーム圏でも、大した迫害はないようだ」と思わせるような証拠づくりとなっています。
 3は、日本外務省が「イラン外務省人権部長」に同性愛者への迫害について問い合わせた結果について、法務省難民認定室認定係長が難民認定室長宛に作成した書簡です。まず、迫害の有無について、迫害を加えている主体である当該国家の政府当局者に質問するということは、難民申請者本人や家族などに対するさらなる迫害を準備することにつながります。このような調査はシェイダさんを危険に陥れるものであり、そもそも許されません。
 この書簡の驚くべきところは、イラン・イスラーム共和国憲法第22条が「個人の私生活に対する不可侵」を定めているから、個人の尊厳が侵害されないと述べているところです。イランではパーティーへの弾圧や、婚姻相手以外の相手との性行為による死刑が多発しており、憲法の規定などはほとんど意味を持ちません。このようなことを書きつつ、この書簡では、同性愛者に対する死刑は「他の犯罪もとりまぜて」行われていると述べ、「同性愛単独では処刑されない」というメッセージをそれとなく示唆するものとなっています。しかし、これらはエグテダーリ氏の書面によっても反駁されているとおりです。
 このように、今回法務省が提出してきた証拠3点はいずれも、外務省が入手した情報なるものを恣意的に、かつ何らの出典も示さずにただ「書いた」ものであり、証拠としての価値はほとんどないと言ってもいいような代物です。シェイダさん側としては、次回法廷(11月15日)に向けて、これらの証拠を徹底批判する書面を提出する予定です。

***第45号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
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第45号 2002年11月27日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)山が動いた!シェイダ裁判 エグテダーリ氏の証人尋問決定!
  〜今後、大きな支援の輪が必要になります!!〜
(2)同性愛者の難民認定:イギリス編
  〜その1:送られてきたたくさんの資料〜
(3)「特定の社会的集団」について:ヨーロッパの状況
  〜新しい証拠資料から〜
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(1)山が動いた!シェイダ裁判 エグテダーリ氏の証人尋問決定!
  〜今後、大きな支援の輪が必要になります!!〜
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 11月15日(金)午後1時30分より、シェイダさん裁判の第14回口頭弁論が、東京地方裁判所第606号法廷で開かれました。
 この法廷の課題は、以下のようなことでした。
○裁判所として、シェイダさん側が証人として申請しているグダーズ・エグテダーリ氏(イランの人権活動家)を採用するかどうかを決める。
○同性愛者が「特定の社会的集団」であるか、また、イランで行われている「石打ち刑」などの処刑方法が、拷問等禁止条約にいうところの「拷問」にあたるかどうか、法務省側が主張を出す。
○判決に向けた今後の日程・見通しを定める。
○前回法務省が提出した証拠資料(第44号参照)に対するシェイダさん側の反論を提出する。
 これらのことについて、今回、まさに「山が動いた」といえるような大きな判断がされました。以下、見ていきましょう。

<<<エグテダーリ氏が証人として採用される!!>>>

 この法廷で決まった、一番大きいことは、なんと言っても証人の採用でしょう。
 シェイダさん側は、前回の法廷の後、エグテダーリ氏に連絡を取り、エグテダーリ氏からスケジュールを聞いて市村裁判長に伝えておきました。エグテダーリ氏は、1月中は外国におり、証人尋問のための来日の予定はとれないということで、2月15日以降なら可能だということでした。
 裁判長は、「裁判所としては、証人申請を前向きに考えていますから。ただ、直前になって日程を決めるというのも、先方の都合もあることですので、今決めてしまいましょう」と言い、証人尋問の日程を2月18日(火)午後1時から4時、と定めました。
 のちにエグテダーリ氏に確認したところ、18日は日本に来ることができる、ということでしたので、この日は証人尋問ということで確定です。
 エグテダーリ氏は、米国にある「イラン人権ワーキンググループ」(Iranian Human Rigths Working Group: IHRWG)のボードメンバーで、自身はゲイではありませんが、イラン・イスラーム共和国の死刑の問題について調べているうちに、「姦通」(婚姻外の性行為)と同性間性行為に関する処刑の問題に行き当たり、長い論文をまとめた人物です。1990年にイランを出国、現在は米国オレゴン州のポートランド大学において、システム工学の研究を行うかたわら、イランの人権状況についての調査研究を続けています。
 私たちは、エグテダーリ氏の証人尋問によって、イランの同性愛者がおかれている社会的な迫害と国家的な迫害の関連性などについて、具体的にはっきりさせていこうと考えています。

<<<証拠資料等について>>>

 前回の法廷で法務省は、(1)先進国における同性愛者の難民認定に関する状況、(2)「イスラーム教国」における同性愛者の迫害の状況、および(3)イランにおける同性愛者の迫害の状況について、「外務省からの情報に基づいて作成した」と称して、3枚の証拠資料を提出しました。この証拠の問題点は本ニュースアップデイト前号に示しましたが、(1)については、米国など同性愛者の難民を積極的に受け入れている国を除外する、(2)については、世俗主義体制をとる国の状況を多く紹介し、イスラーム法に基づく体制をとっている国についてはほとんど紹介していない、また、いずれの証拠についても、出典が全く示されていない、など、著しく欠陥の多い証拠資料でした。
 これらについて、シェイダさん側はこれらの証拠の欠陥や内容的な矛盾などを全面的に指摘する書面を作成、提出しました。また、前回の法廷で指摘されていた「特定の社会的集団」についても、シェイダさん側はヨーロッパ評議会(CoE=欧州43ヶ国が加盟する国際機関で、欧州人権裁判所などが付属し、主に人権関係について取り組んでいる)の報告書を証拠として提出。
 一方、法務省側は、前回裁判所に提出を要求されていた「特定の社会的集団」に関する見解、および「拷問等禁止条約」に関する見解について、いずれも次回以降に先送りすることを表明。裁判所側は、これらの点について法務省の見解を待たなければ、裁判を終わらせることはできない、と述べ、証人尋問以外に、一般の法廷(第15回口頭弁論)を次回12月20日(金)午後4時30分から入れることになりました。

<<<エグテダーリ氏の招請にご協力を!!!>>>

 上記のように、今回の法廷では非常に大きなことが決まりました。エグテダーリ氏の証人尋問です。
 エグテダーリ氏は在米の人権活動家で、2月18日にアメリカから呼ばなければなりません。交通費・宿泊費など、いろいろな経費がかかります。
 当方としては、エグテダーリ氏招請に関しては、4〜5日を考えており、滞在中に人権関係の団体などとともに集会を開催するなどして交流企画をもちたいと考えています。
 経費の面、エグテダーリ氏の案内・アテンドの面など、招へい企画には多くの方々の支援が必要です。ぜひとも、カンパおよびボランティアでの協力をお願いいたします。
 近日中に「エグテダーリ氏招へいキャンペーン」を呼びかけさせていただくことになります。まずはカンパについてですが、可能な方、ぜひとも以下の口座によろしくお願いいたします。
○●○在米イラン人人権活動家エグテダーリ氏から話を聞こう!!キャンペーン○●○
・目標金額:合計40万円
・口座名義:シェイダ基金
・口座番号:郵便振替口座 00100-2-554626
 では、エグテダーリ氏招請へのご協力、是非ともよろしくお願いいたします!!!

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(2)同性愛者の難民認定:イギリス編
  〜その1:送られてきたたくさんの資料〜
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 そのニュースに気づいたのは、10月中旬、あるメーリングリストで流れてきた一つの情報でした。
 イギリスでジャマイカ出身のゲイが難民として認定された、というのがそのニュースの趣旨でした。レズビアン・ゲイに関するニュースなどが流れる国際的なホームページのアドレスが紹介されており、そこをたどると、この10月に、二人のジャマイカ人のゲイが、イギリスで「厳しい同性愛嫌悪により生活が危機にさらされている」との理由により難民認定を受けたとの情報が掲載されていました。
 私は、イギリスは同性愛者の難民認定に厳しい態度をとっているとの情報を持っていたので非常に意外な感じを持ちました。そこでその記事を詳しく読んでみると、1999年に、イギリスの最高裁判所を兼務している上院 House of Lords が、同性愛者は難民条約における「特定の社会的集団」に該当する、とする判断を示しているということがわかりました。
 ジャマイカのゲイのおかれている状況は、たしかに厳しいものです。一つは、イギリスの植民地時代に制定されたソドミー法(同性間性行為を取り締まる法律)が未だに残っているということ、もう一つは、ラップやレゲエなど、ジャマイカで流行している(たしかにジャマイカは音楽をはじめ、アフリカ系の人々の文化の大きな発信地の一つです)ポピュラー・ミュージックにおいて、同性愛者を襲撃・殺害しろというようなメッセージが流され、それに扇動されて実際に同性愛者に対する襲撃・殺害事件が生じているということです。しかし、比較するのもどうかと思いますが、この状況は、イランで起こっている状況よりももっと厳しいというものでもありません。
 何とかしてこの決定を手に入れなければ……ということで、私はイギリスのアムネスティ・インターナショナルの知人にメールを送りました。すると、その知人はすぐに、この決定を勝ち取った事務弁護士(solicitor)の事務所の連絡先を教えてくれました。それで、この事務所に連絡を取ったところ、この事務所は、こちらの申し出の主旨を理解し、このジャマイカ人のケースに加えて、最近難民認定が認められた同性愛者の事件に関する決定文6つに、イギリス上院の決定文をつけて、航空便で送ってくれたのです。この6つというのは、ジャマイカのケースが4つ、イランのケースが1つ、ナミビア(南部アフリカの国)のケースが1つ、ということで、大変な充実ぶりです。
 私たちとしては、ボランティアの皆さんの協力を得て、これらの証拠資料を訳し、裁判所に提出しようと考えています。ちょうどよいことに、裁判所は、各国の法廷で、どのような基準により同性愛者の難民認定が行われているのかについて、非常に強い関心を示しています。これについては、本「ニュースアップデイト」においても、積極的に紹介していきたいと思っています。

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(3)「特定の社会的集団」について:ヨーロッパの状況
  〜新しい証拠資料から〜
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 以下に紹介する資料は、「ヨーロッパ評議会(CoE)加盟国におけるレズビアンとゲイおよびパートナーの庇護と移民の状況」という資料の抄訳です。
 この資料は、ヨーロッパ評議会 Council of Europe: CoE の議員総会の決定に基づいて組織された委員会によって、評議会への答申として提出されたもので、ヨーロッパにおける同性愛者の難民認定の状況、とくに難民条約の「特定の社会的集団」にかかわる各国の判断について、詳細に示されています。貴重な資料になると思いますので、ここに紹介することとします。

<抄訳>
ヨーロッパ評議会(CoE)加盟国における
レズビアンとゲイおよびパートナーの庇護と移民の状況
文書8654
2000年2月25日
報告書
移民・難民および人口統計学に関する委員会
報告者:ルス=ガビー・ヴェルモ=マンゴールド、スイス、社会主義者グループ

A.「特定の社会的集団の構成員」としての性的指向
 
第16段落

1951年の難民条約及び1967年の難民議定書の下で難民の地位を確定する上で、「特定の社会的集団」を定義することは容易ではない。UNHCRの「難民の地位の確定に関する基準と手続に関するハンドブック」によると、「特定の社会的集団とは、通常、共通の背景、習慣、社会的地位に属する人々で構成される。この名目に基づいてなされる迫害の恐怖にかかわる申請は、例えば人種、宗教、国籍などその他の理由に基づく迫害の恐怖にかかわる申請としばしば重なることがある」。

第17段落

UNHCRの分析によってすでに説明されているように、「この用語(特定の社会的集団の構成員であること)は、1951年の条約を定めるための全権委員 plenipotentiaries の会議において、スウェーデンの代表団によって、迫害の理由の中に付け加えられたものである。スウェーデンの代表団は次のように説明した。『経験が示すとおり、一定数の難民は、特定の社会的集団に属していることによって迫害を受けてきた。この条約草案には、これらの事例についての言及がない。従って、これらの難民を包含する用語が導入されるべきである』。難民の定義に関するそれ以外の用語と違い、この用語の中身については継続的な議論の課題となっており、一般にこの理由に関しての法学的論争は多様であり、形成の途上にある」

第18段落

近年、欧州難民・亡命者委員会 European Council on Refugees and Exiles (ECRE) によってなされた調査では、この問題に関する学術的な論争の焦点は、以下の3つのアプローチを含んでいる。
a. 包含的アプローチ The inclusive approach 1951年条約の草案作成者たちは、この社会的集団に関するカテゴリーを、難民の定義に関する他の4つの理由にあてはまらない全ての人々を含めるものとして、いわば「セイフティー・ネット」として機能させるために導入したと推測する。このアプローチは、「社会的集団」のカテゴリーの「広く、リベラルな解釈」を要求する。
b. 排除的アプローチ The exclusive approach この社会的集団について、それ自体として何らかのカテゴリーとは見なさず、難民の定義に関する他の4つのカテゴリーとの関連において見られるべきであるとする。このアプローチは、適合性に関する基準を定めることを要求する。
c. 中間的アプローチ The middle way approach この社会的集団のカテゴリーを、意味のないものとしてみなすわけではないが、かといって「全てを含み込むもの」としてみなすというアプローチもとらない。

第19段落

法学においては、同性愛者は特定の社会的集団を構成していると認識されてきた。UNHCRは、最近の潮流となっている分析ですでに取り上げられている、トボソ=アルフォンソ Toboso-Alfonso の事例について言及している。このケースについて、米国移民控訴委員会は、「同性愛的行為 homosexual activity は社会的に逸脱した行為としてみなされているが、このような行為は社会的集団の存在としてみることは出来ない、とする既存の決定を覆した。委員会は、迫害を導くのは申請者の特定の行為ではなく、申請者が同性愛者として存在しているということである、と述べた。一方、委員会は、同性愛に関する自己認識は不変の属性であるということには異議が申し立てられなかったということを強調した。」

第20段落

UNHCRはまた、次のように指摘している。「ドイツ当局は、同性愛者が少数派であり、社会の中で否定的な立場におかれているということを根拠に、同性愛者が特定の社会的集団を構成しうるということを受け入れている。ヴィースバーデン行政裁判所は、特定の社会的集団の存在を決定する鍵は、一般の人々が、特定の人々の集団を、受け入れがたい集団として認識しているかどうかにある、と述べている。『同性愛者に対して貼り付けられている軽蔑的な烙印 pejorative labels に基づいて、イランやそのほかの社会では、同性愛者に対する偏見が公に表明され、同性愛者に対する破壊的な扱いが行われている。ゆえに、法廷は同性愛者がジュネーブ条約にいうところの特定の社会的集団を構成していると結論づける』」。

第21段落

1993年、カナダ最高裁判所 Canadian Supreme Courtは、カナダ司法長官対ワード Canada (Attorney General) v. Ward の裁判において、「ジェンダー、言語的背景、および性的指向を理由とする迫害について恐怖をもつ個人」は、1951年の難民条約の趣旨において、「生来的な、または不変の属性」によって定義される、特定の社会的集団を構成しうる、との判断を確立した。

第22段落

1999年、イギリスにおける「イスラーム(A.P.)対内務大臣」 Islam (A.P) v. Secretary of State for the Home Department、「リジャイナ対移民控訴審判所および前パルテ・シャー」 regina v. immigration Appeal Tribunal and Another Ex Parte Shah (A.P.) の裁判においてイギリス上院は、性的指向を理由に迫害された同性愛者は、1951年の難民条約の趣旨において特定の社会的集団を構成しうると述べた。

第23段落

最後に、1998年にフランスでなされた決定において、アルジェリア出身のトランスセクシュアル(性同一性障害の当事者を指す)が難民として認められたことについて言及するのは見当違いではないだろう。難民控訴委員会 The Commission des recours des refugies は、トランスセクシュアルは他の人々と違う共通の属性を持っているということによって、アルジェリアで迫害を受けており、それゆえ、1951年の難民条約の趣旨において特定の社会的集団を構成すると述べた。

第24段落

欧州難民・亡命者委員会によってなされた上述の調査によれば、「1996年において、性的指向に関連して難民条約の『特定の社会的集団の構成員』および『政治的意見』、またはこれらの両方を理由に難民条約に基づく難民の地位を申請したケースは、すでに決定されたものと保留されているものを含めて、世界全体で700件に及ぶと推測される。性的指向に関わる難民申請のうちいくつかは、多くの同性愛者が性的指向について政治的な問題であるとの認識を持っていないにもかかわらず、『政治的意見』のカテゴリーとして申請されている。また、複数の専門家は、同性愛者という立場により、国家または民間の行為主体によって遵守を強制される因習的な宗教的教義との間で紛争が生じている場合には、性的指向に関わる申請は「宗教」のカテゴリーにおいて行うことが可能であると認識している。ただし、このカテゴリーにおいて申請されたケースは知られていない。」

***第46号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第46号 2002年12月23日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
1.エグテダーリ氏招へいへの助走:第15回口頭弁論
  〜法務省側は判例を一つ出しただけ〜
2.特集 「原告側証人 グダーズ・エグテダーリ氏を迎えるにあたって」
(1)グダーズ・エグテダーリ氏の横顔
(2)エグテダーリ氏の証人尋問:何を達成するか?
(3)グダーズ・エグテダーリ氏の来日日程
3.イギリスにおける同性愛者の難民認定の実状
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1.エグテダーリ氏招へいへの助走:第15回口頭弁論
  〜法務省側は判例を一つ出しただけ〜
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 11月15日に開かれた第14回口頭弁論では、シェイダさん側が申請していたイランの人権問題専門家、グダーズ・エグテダーリ氏(米国オレゴン州在住)が証人採用され、その日時が2月18日に定められました。一方、「石打ち刑は拷問等禁止条約で禁止されている拷問に当たるのか」「同性愛者は難民条約で定められている『特定の社会的集団』に当たるのか」など、裁判所が法務省に向けて出した宿題に法務省側が応えるための期日として、12月19日に第15回口頭弁論が設定されました。
 冬至も近づく東京地裁。ほぼ日の暮れかかった4時30分に裁判が始まりました。法務省側がなにか証拠を提出するのではないかと思いきや、出てきたのは、かなり前にドイツで出された同性愛者の難民認定に関する裁判の判決の翻訳だけでした。法務省側は最近提出した証拠で、「ドイツの判例では、同性愛者として難民認定するには、本人が同性にしか性欲が向かず、その性欲を押さえることができないということを立証しなければならないと書いてある」などと主張していましたが、それを立証するためのものだそうです。しかし、判決をよく読んでみると、被告となっているのは1960年代(帝政時代)に欧州に移住したイラン人で、裁判における主要な争点も、シェイダさんや、現在のイラン・イスラーム共和国の迫害により亡命を強いられた他のイラン人の同性愛者たちとは、全く異なった内容のものです。わざわざこんなものを提出してくるとは、法務省(もしかしたら外務省?)も気が利いているというか、なんというか……。
 
 今回の法廷は、法務省に答弁の機会を与えるために開かれたものであるにもかかわらず、法務省側は、裁判所から出された上記の二つの質問については、「まだ準備中」としか応えませんでした。しかし、「特定の社会的集団」問題に関しては、本年2月18日の第9回口頭弁論で「同性愛者を『特定の社会的集団』とみなすことについて争うつもりはない」と答弁したのをあっさりと覆し、「まだ準備中なのですが、同性愛者が『特定の社会的集団』であるということについては争う方向で準備を進めています」と、不気味な(?)答え。どうやってそんな主張をするのか、法務省側のお手並み拝見です。
 
 一方、今回の法廷は主に法務省を対象としたものであるということもあって、シェイダさん側はとくに提出物は出しませんでした。しかし、先日、イギリスのウェズリー・グリック事務弁護士事務所から送付を受けた、イギリスにおける同性愛者の難民認定の決定文6本を現在、順次翻訳しているところであり、現在、3本までできあがっています。イラン人の難民認定1本以外に、ジャマイカ人の難民認定4本、ナミビア人の難民認定1本を含むこの決定文は、「同性愛者の迫害に関する難民認定の基準」について考えなければならないと思っている、市村裁判長をはじめとする裁判官にとって大きな朗報になるでしょう。
 
 次回の裁判は、今から約2ヶ月半おいて、エグテダーリ氏の尋問がなされる2月18日です。シェイダさん裁判第1審最大の山場となります。ぜひともご参加下さい。また、エグテダーリ氏招請に当たっては、多くの皆様のご協力が不可欠です。今後、具体的なことは順次、お知らせしていきますので、ぜひともよろしくお願いいたします。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃シェイダさん在留権裁判第16回口頭弁論 ┃ 
┃○日時:2003年2月18日午後2時〜 ┃
┃    (集合時間:午後1時30分)  ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷  ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)   ┃
┠────────────────────┨
┃第16回口頭弁論報告集会        ┃
┃〜イラン人人権問題専門家        ┃
┃グダーズ・エグテダーリさんを迎えて〜  ┃
┃○日時:2003年2月18日午後5時〜 ┃
┃○場所:弁護士会館(予定)       ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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2.特集 「原告側証人 グダーズ・エグテダーリ氏を迎えて」
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 11月19日に開かれた第14回口頭弁論で東京地方裁判所民事第2部(市村陽典裁判長)は、シェイダさん側が招請していたグダーズ・エグテダーリ氏の証人採用を認め、その期日を2月18日(午後2時〜5時)と定めました。その後、チームSでは、エグテダーリ氏の証人尋問に向けて準備を進めています。12月13日には、チームSメンバーの一人が米国に渡航し、エグテダーリ氏と面会、来日スケジュールや尋問内容に関する、最初の打ち合わせを行いました。
 迫害国における迫害の状況を立証するために外国人の証人を招くのは、日本の裁判所としては、非常にめずらしいことです。エグテダーリ氏の証人尋問を成功させるには、チームSのスタッフだけでは、人材も資金も足りず、多くの皆さんのご協力が欠かせません。以下、エグテダーリ氏の横顔、経歴、裁判での立証ポイント、資料などを示します。ぜひともご一読の上、エグテダーリ氏の招へい事業にご協力をいただければ幸いです。

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(1)エグテダーリ氏と会って 
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 11月19日、東京地方裁判所。第14回口頭弁論で市村裁判長が軽く流すように「本法廷はエグテダーリ氏を証人として採用するつもりですから」と言ったとき、私はちょっとした驚きと、これからエグテダーリ氏を招く上で必要な労力を予期した、目の眩むような感覚を覚えた。
 難民の裁判で、当該の国の迫害状況を立証するために、外国の専門家を証人に呼ぶというのは、これまでほとんど行われたことがない。これまでの難民訴訟のほとんどは、法務省の主張をほぼ全面的に採用する判決がほとんどだった。そんな判決を書くためなら、外国証人を呼ぶ必要はない。外国証人を呼ぶのは、同性愛者の迫害に関連して、「迫害」に関する難民認定の新たな地平を開くため、のはずだ。裁判官たちも、法務省の旧態依然たる「難民鎖国」政策により数百件の難民裁判を抱えて呻吟している。その打開のための突破口の一つを、裁判官たちはこの裁判に求めてきたのだ。私たちも覚悟を決めなければならない……。ふと感じた当惑は、徐々に覚悟と使命感へと変わっていった。
 12月13日。エグテダーリ氏が住むアメリカ合州国オレゴン州・ポートランドは、東京よりも幾分温かいが、雨が降らない日はないという。その日も雨で、エグテダーリ氏は、仕事が終わってから、私が宿泊した安ホテルのロビーに来てくれた。
 グダーズ・エグテダーリ。イラン科学技術大学を卒業したこの情報工学の専門家は、もう一つの別の顔を持つ。イランの人権問題の専門家であり、イランにおいて行われている死刑を撤廃するために調査活動を精力的に続けている。「イラン人権ワーキンググループ」の執行委員会メンバーを4年務め、1997年、イラン調査研究センター主催の国際会議で、同性愛者と女性の婚姻外性行為に対するイランの処刑の実態について発表を行い、長い論文を書いた。これまでのメールのやりとりで、彼はゲイではないということ、しかし、とても誠実な人物だということはわかっている。彼はシェイダさんのために、これまで彼が収拾したデータを整理し直して、長い陳述書を作成してくれた。
 彼はいま47歳。たくましい口ひげをたくわえた、身長190センチはあると思われる大男だ。ポートランド大学の近くにある喫茶店で、シェイダさん裁判の打ち合わせをした。彼の話しぶりは、とても穏やかで落ち着いていた。ときたま上げるちょっと皮肉な笑い声が印象的だ。彼の生い立ちと経歴、シェイダさん裁判の経過と現状、裁判官が何を考えているか、今までの私たちの主張の弱いところはどこにあり、証言では何を達成する必要があるか……打ち合わせはそうしたことに始まり、現在のイランの改革派の政治的な立場のあり方、ブッシュ行政が押し進めるイラク攻撃の問題点と、西海岸における反戦運動の現状……にまで話は及んだ。ポートランドでは、彼が執行委員会メンバーを務める平和運動のグループが、11月に二万人の参加するイラク攻撃反対のデモンストレーションを行ったという。また、これも驚きだったが、彼はオレゴン州の公共ラジオ「RADIO KBOO」(http://www.kboo.fm/)で「中東の声」(Voice of the Middle East)という一時間番組を持ち、中東地域にかかわる活動家や研究者の声を紹介しているという(ホームページ:http://www.voicesofthemiddleeast.com/)。
 彼とポートランド郊外にあるアラブ料理店で食事をし、翌日、彼が書いたイランの改革派勢力についての論文をもらい、こちらは、イギリスで難民として認められたイラン人のケースについて私が持っていた決定文を差し上げた。もうひとつ、彼がくれたのは手帳だった。13世紀のイランの詩人にしてイスラーム神秘主義者・ジェラルディーン・ルミの詩作が書かれた手帳には、「勝利を祈る」という彼のサインが書き込まれていた。(稲場)

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(2)グダーズ・エグテダーリ氏の横顔
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 グダーズ・エグテダーリ氏は1956年、イラン南部の拠点都市・シーラーズ Shiraz に生まれました。当時、イランは民主政権を樹立し石油を国有化しようとしたモサデグ首相の試み(1952〜53年)が西側と皇帝によって鎮圧されたばかりで、きびしいパフレヴィー朝の圧制下にありました。1978年〜79年のイラン革命期には、彼はテヘランのイラン科学技術大学で学ぶ学生でした。革命に参加した様々な諸勢力がイスラーム勢力による恐怖政治の中で徹底的に弾圧され、ホメイニー師の下で「法学者による統治」(ヴェラーヤテ・ファギーフ)体制が確立していく過程を、彼はシェイダさんより少し年上の人間の目でつぶさにみていたわけです。
 1990年、彼はついにイランを出国、アメリカ合州国に身を寄せることになります。「多様性を認め、リベラルで、かつ静かだから、私はこの街を選んだ」とエグテダーリ氏自身がいうオレゴン州のポートランドに身を落ち着けて、彼は情報工学の仕事に従事するかたわら、イランにおける死刑の廃止とイランの人権状況の改善のための調査・研究に身を乗り出します。彼は国際組織「イラン人権グループ」(Iranian Human Rights Group)の執行委員会委員を4年間つとめ、イランの人権問題の調査・研究とアピールに精力を傾注します。その中で行き当たったのが、同性愛者に対する死刑の問題、および女性の婚外性交渉に対する死刑の問題でした。国外で活動するイランの民主化運動、政治運動に携わる人々の多くが触れたがらなかった、とくに同性愛者に対する死刑の問題に、彼は積極的に関わりました。1997年には、アトランタで開催された「イラン研究センター」Center for Iranian Resource において、「イランにおける同性愛者および婚外性行為に対する死刑執行」というタイトルの発表を行い、イランでの同性愛者に対する弾圧を整理した上、イランにおける同性愛者の処刑が国連人権規約に違反するものであることをはっきりと主張しました。
 この論文は、シェイダさんの裁判を支援していた「チームS」のメンバーの目に止まり、チームSではこの論文を多くの方の協力を得て翻訳すると同時に、エグテダーリ氏に連絡をとり、これまでのイランの同性愛者弾圧についてまとめて陳述書を作成してもらうこと、シェイダさん裁判において証人になってくれることをお願いしました。エグテダーリ氏はこれを快く引き受けてくれ、これまでに二つの陳述書を提出して現在に至っています。
 一方、エグテダーリ氏はイランの人権問題全般の研究も積極的に行っており、死刑の問題については、現在イラン国内で司法府を握る保守派に抵抗している、いわゆる「改革派」の中に存在する様々な潮流の傾向や、これらの人々の「死刑」に対する見解などについても広く整理し、論文などにまとめています。また、その一方で、アメリカ合州国やヨーロッパの中東政策に対して、中東に生きる人々の立場から問題提起を行っています。その活動は、現在エグテダーリ氏が地元FM局(Radio KBOO)で持っているラジオ番組「中東の声」(Voices of the Middle East http://www.voicesofthemiddleeast.com/)に結実しています。このように、エグテダーリ氏は、同性愛者の人権の問題についてイランの国家や社会のあり方について専門家として証言することができるとともに、現代イランや中東のあり方について、的確な発言ができる人であるということができます。
○エグテダーリ氏について、より詳しい情報を得るためには、
・ラジオKBOO   http://www.kboo.hm/
・中東の声      http://www.voicesofthemiddleeast.com/
・オレゴン平和研究所 http://orpeace.org/index.cfm
○イランの人権問題に関する情報については、以下のリンク集が便利です。
・http://www.derechos.org/human-rights/mena/iran.html

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(3)グダーズ・エグテダーリ氏の証人尋問・何を達成するか
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 シェイダさんの裁判を扱っている裁判官たちは、「イランで同性愛者を死刑にする法律があり、実際に死刑が適用されている事例があるということはわかった、しかし、実際に死刑にされる危険性がどの程度あるのかということに関しては、未だ十分な論証がされていない」というようなことを法廷で述べています。
 国際的な難民条約解釈においては、迫害を受ける可能性について「合理的な可能性」が存在すれば難民とする、というのが通例ですので、同性愛者の死刑を要求する法律の存在および死刑執行の事例の存在で、難民とするには十分ではないか、という主張も当然成り立ちます。しかし、裁判官が上のようなコメントをする以上、私たちとしては、万全を期すために、シェイダさんが強制送還された場合に迫害の危険性がなぜ、また、どのように存在するか、ということを示さなければなりません。
 私たちは、シェイダさんが帰国した場合に迫害を受ける可能性について、主に(1)イランには、社会的に強い同性愛嫌悪が存在すること、(2)シェイダさんは「ホーマン・イラン同性愛者人権擁護グループ」という、亡命イラン人同性愛者の人権団体に参加して活動をしており、同性愛者の存在の公然化を許さないイラン政府によって弾圧されることは明らかであること、の2点をより積極的に立証していこうと考えています。
 また、エグテダーリ氏は上記2点に加えて、イランの司法システムが、死刑に当たって、例えば同性愛という主要な理由を隠し、他の理由をいろいろと付け加えるといったことを可能にするような形で成立しているものであるということを、実例をもって立証してくれると述べています。また、現在のハータミー政権を構成する「改革派」の潮流の多くが、実際には同性愛者の処刑をも規定しているイスラーム法による支配に反対しているというわけではなく、とかく問題にされることの多い司法府を握る「保守派」だけでなく、改革派の多くも、同性愛者に対しては厳しい姿勢をとっているということも立証してくれるとのことです。
 私たちとしては、エグテダーリ氏の証人尋問において、イランの状況をよく知る当事者から直接、こうした点を立証してもらうことにより、シェイダさんがイランに強制送還されたときに迫害を受ける合理的な可能性が存在する、ということを、はっきりと訴えていきたいと考えています。

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(4)エグテダーリ氏の来日日程とご協力のお願い
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 エグテダーリ氏の証人尋問は、2003年2月18日(火)の午後2時から開催されます。エグテダーリ氏はその前の2月15日(土)に来日、16・17日の両日、証人尋問のための集中的なミーティングを行います。証人尋問の後には、「第16回口頭弁論報告集会:イラン人権問題専門家 グダーズ・エグテダーリ氏を迎えて」を弁護士会館にて開催します。2月19日には、イランの同性愛者の迫害の問題や、イランの人権問題、および日本の難民問題などについて考えるシンポジウムを開催します。エグテダーリ氏は20日、アメリカに向けて帰国します。
 
 私たちとしては、エグテダーリ氏の来日に当たって、「エグテダーリ氏招へい実行委員会」を結成し、以下のカンパのお願い、および、ボランティアの募集を行います。

<カンパのお願い>
 エグテダーリ氏来日に当たっては、すでにスタッフ1名の渡米経費等が発生しています。また、エグテダーリ氏の渡航費・宿泊費等も必要です。(目標:40万円)
○シェイダ基金振込先:
・郵便振替口座名義 「シェイダ基金」
・郵便振替口座番号 00100-2-554626

<ボランティアの募集>
 エグテダーリ氏の来日に当たって、以下のスタッフを募集します。ボランティア募集の詳細については、後日、正式の募集文書をお送りいたしますので、そちらをご参照下さい。募集するボランティアは以下の通りです。
○法廷通訳:裁判でエグテダーリ氏の証言(英語)を通訳してくれる方。16〜17日の打ち合わせも、可能なら出ていただければ幸いです。
○シンポジウムでの通訳:2月19日に実施するシンポジウムでのエグテダーリ氏の発言を通訳していただける方を募集いたします。(英語)
○エグテダーリ氏の案内役:エグテダーリ氏が日本に滞在する2月15日から20日までの間、道案内や観光などをお世話していただける方。英語・ペルシア語など、コミュニケーションする意志のある方を求めます。
○事務局スタッフ:裁判・シンポジウムの運営などを始めとして、事務局には様々な仕事があります。どんな形でもお手伝いいただける方、ご応募下さい。応募先は以下の通りです。
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チームS・シェイダさん救援グループ 
エグテダーリさん招へい実行委員会 
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・住所:164-0011東京都中野区中央4-55-8-206稲場方
・電話:03(3380)2490(FAX兼)
・ホームページ:http://www.sukotan.com/shayda/shayda_top.html
・電子メール:pinktri@kt.rim.or.jp(稲場)
       shayda@da3.so-net.ne.jp(チームS)
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***第47号は近日中発行の予定です。***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第47号 2003年1月05日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
●特集:グダーズ・エグテダーリ氏を迎えるにあたって
○エグテダーリ氏のスケジュール/プロフィール/裁判について/ご協力のお願い
○ボランティアを募集します!
●シェイダさん裁判「エグテダーリ氏招へい」のホームページ完成
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●バックナンバーが必要な方は電子オフィスまでお知らせ下さい。
●講読申込・講読中止などの手続は電子オフィスまでお知らせ下さい。

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特集:グダーズ・エグテダーリ氏を迎えるに当たって 
〜イラン人権問題スペシャリストと共に考える6日間〜
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○ボランティア・カンパを募集します!!
○くわしくは以下の記事をを見てね!!

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  イランでの同性愛者への迫害を逃れて日本で難民申請中の「シェイダさん」の、特別在留許可を求める裁判で証言するために、エグテダーリさんがアメリカから来日します。
 日本での難民問題で海外から証人を採用することは、ほとんど前例がありません。この機会にぜひ傍聴・報告会および講演会にお越しください。また、カンパやボランティアのご協力もお願いします。
 
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■スケジュール
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○2月15日(土)=来日
○2月16日(日)〜17日(月)=証言打ち合わせ
○2月18日(火) 13時〜16時30分=証人尋問(東京地方裁判所第606号法廷)
○2月18日(火) 17時〜=報告会:シェイダさん裁判とイランの人権状況
 (タイトル確定後お知らせします)
○2月19日(水)18時〜=エグテダーリ氏講演会
 (イランにおける死刑・人権問題、中東情勢などについて、会場未定)
○2月20日(木) / 帰国

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■エグテダーリ氏プロフィール
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 1956年、イランに生まれたエグテダーリ氏は、1990年に渡米し、現在はオレゴン州ポートランドに居を定めています。エンジニアの仕事のかたわら、イランにおける死刑の廃止と人権状況の改善のための調査・研究に取り組んでおり、とりわけ、イラン民主化運動に携わる人々も触れたがらなかった同性愛者に対する死刑、および、女性の婚外性交渉に対する死刑の問題に積極的に関わってきました。1997年に発表した論文では、処刑の実態を暴き、国連人権規約に違反するものであるとはっきり主張しています。
 また、オレゴン州の地元FM局に「中東の声」というラジオ番組を持ち、中東の人々の立場から欧米の政策に対する問題提起を行っています
 エグテダーリさんに関する詳しい情報は、以下のホームページをご覧下さい。
<エグテダーリ氏を迎えて:イラン人権問題スペシャリストとともに考える6日間>
http://www.kt.rim.or.jp/~pinktri/shayda/eghtedari_flame.html

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■シェイダさん在留権裁判について
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 ゲイであるシェイダさんは、イランでの同性愛者への迫害を逃れて日本へやってきました。難民申請を不認定とされたシェイダさんは、再申請をするとともに、特別在留許可を求めて法務省と法廷で争っています。
 裁判の争点のひとつは、「イランでは本当に同性愛者が迫害されているのか、どんな危険があるのか」、ということです。これを立証するため、エグテダーリ氏は証言台に立ちます。イランでは同性愛者が実際に処刑されているため、カムアウトしたゲイであるシェイダさんを強制送還することは、そのまま生命の危機につながります。この問題を長年研究しているエグテダーリ氏に、説得力のある証言が期待できます。
 また、この裁判には、在日外国人の人権、同性愛者の人権、外国人収容所の問題、難民問題など、この国の人権に関わる多くの要素が含まれています。この裁判の行方がこれら諸問題に一石を投じる結果になるかも知れません。
 シェイダさん裁判についての詳しい情報は、以下のホームページをご覧下さい。
<チームS・シェイダさん救援グループ>
http://www.sukotan.com/shayda/shayda_top.html

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■カンパとボランティア、募集中!!
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 「チームS・シェイダさん救援グループ」は、シェイダさんの友人を中心とした集まりです。エグテダーリ氏来日という大きなプロジェクトを実現するにあたり、資金不足、人材不足に直面しています。

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■カンパのお願い■
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 エグテダーリ氏の渡航費、滞在費をはじめ、裁判費用、講演会開催費など、今後の多額の出費に備え、カンパをお願いします。一口2000円にて申し受けします。
 なお、これまでどおり、シェイダさん救援資金カンパも随時受けつけております。
 振込先はいずれも下記のとおり
 ○郵便振替口座名義 「シェイダ基金」
 ○郵便振替口座番号 00100−2−554626
 

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■ボランティアの募集■
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 チームSでは、エグテダーリ氏来日に当たり、以下のボランティアを募集いたします。ボランティアに応募される方は、以下の「ボランティア・カード」に所定の事項を記載の上、本メールにご転送下さい。もしくは、下記連絡先までお知らせ下さい。また、お問い合わせ等についても同様にお願いいたします。

【報告集会・講演会の通訳】
 エグテダーリさんの証人尋問後の報告集会(2月18日午後5時〜7時30分。証人尋問自体は午後2時〜)、およびエグテダーリさんの講演会(2月19日午後7時〜9時)での通訳をしていただける方を募集します。英語→日本語、日本語→英語のいずれも募集いたします。

【エグテダーリさんのアテンド】
エグテダーリ氏が日本に滞在する2月15日から20日までの間、道案内や観光などをお世話していただける方を募集します。一日単位での申込を希望しますが、数時間でも構いません。やりたいという方大歓迎です。

【事務局スタッフ】
裁判・講演会の運営などを始めとして、事務局には様々な仕事があります。どんな形でもお手伝いいただける方、ご応募ください。
○交通費等の実費をお支払いいたします。
○通訳に関しては、薄謝(応相談)を進呈いたします。

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グダーズ・エグテダーリさん招へい企画
ボランティア・カード
<お 名 前>
<ご所属など>
<連 絡 先>
・住所
・電話(自宅・携帯)
・電子メール
<ボランティアの種類> 1.会合通訳 2.アテンド 3.事務局
 ※複数選んでいただいて構いません
<参加できる日程>
・ 月 日 1.全日 2. 時〜 時
・ 月 日 1.全日 2. 時〜 時
・ 月 日 1.全日 2. 時〜 時
・ 月 日 1.全日 2. 時〜 時
・ 月 日 1.全日 2. 時〜 時
・ 月 日 1.全日 2. 時〜 時
<ガイダンス希望日程>
・第1希望  月 日 時〜 時(希望場所:   )
・第2希望  月 日 時〜 時(希望場所:   )
・第3希望  月 日 時〜 時(希望場所:   )
<語学に関する資格・経験>
1.英語 2.ペルシア語
(資格・経験:          )
<ボランティアをすることで何を期待しますか>(簡潔で結構です)
<メッセージ>
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┃連絡先・お問い合わせ先┃
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「チームS・シェイダさん救援グループ」(担当:稲場)
○住所: 164-0011東京都中野区中央4-55-8-206稲場方
○電話: 03-3380-2490(FAX兼)
○ホームページ: http://www.sukotan.com/shayda/shayda_top.html
○電子メール: shayda@da3.so-net.ne.jp (チームS)

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シェイダさん裁判「エグテダーリ氏招へい」のホームページ完成
「イラン人権問題スペシャリストと共に考える6日間」
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 エグテダーリ氏の招へいについては、シェイダさんの支援グループ「チームS」が、「イラン人権問題スペシャリストと共に考える6日間」というホームページを完成させました。
 エグテダーリ氏とは誰だろう?などの基本的な質問から、エグテダーリ氏招へいに向けたスタッフ・ボランティアの募集、さらには、エグテダーリ氏がシェイダさんの裁判のために執筆した意見書、エグテダーリ氏がイランの同性愛者迫害についてまとめた論文、また、イランの改革派の運動についてまとめた論文など、盛りだくさんのホームページです。ぜひとも一度のぞいてみて下さい。
<ホームページ・タイトル> イラン人権問題スペシャリストと共に考える6日間
<ホームページ・アドレス>
 http://www.kt.rim.or.jp/~pinktri/shayda/eghtedari_flame.html

***ニュースアップデイト第48号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第48号 2003年3月3日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)原告側証人・エグテダーリ氏、法廷に立つ!
(2)ドキュメント:エグテダーリさんの6日間
(3)シェイダさん裁判、これからどうなる?
(4)追加カンパのお願い
※エグテダーリさん招聘の準備に集中していた関係で、「ニュースアップデイト」の編集・発送が遅れ、大変申し訳ありませんでした。
※今号・次号は「エグテダーリさん」特集とします。今号では、エグテダーリさん来日に関する基本的な情報をまとめ、次号でエグテダーリさんの尋問記録やスタッフの皆さんの感想など読み物的なものを掲載しようと考えております。どうぞよろしくお目通しいただければ幸いです。
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(1)原告側証人・エグテダーリ氏、法廷に立つ!
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 2000年7月の提訴以来、もうすぐ3年がたとうとしているシェイダさん在留権裁判。第1審最後の、そして最大の山場が到来しました。11月の法廷で市村裁判長が証人として採用した在米イラン人人権専門家グダーズ・エグテダーリさんが2月15日来日、2月18日の第16回口頭弁論で、3時間30分にわたり、法廷でイランの同性愛者の人権状況について証言を行ったのです。
 日本の難民裁判史上でも、現地の人権状況について、現地をよく知る専門家を招聘して証言を得た例は今回が初めてと言われています。エグテダーリ氏の証言は、非常に画期的なものということができます。

○●○徹底した準備を経て法廷へ○●○

 グダーズ・エグテダーリさんは、米国ワシントン州バンクーバー市で交通工学の専門家として働くかたわら、イランの人権問題に関する調査・研究を行うNGO「イラン人権ワーキンググループ」の執行委員として、イランの人権問題、とくに死刑に関する研究を積み重ねてきました。彼はその中で同性愛者や婚外性交渉を行った女性に対する苛烈な死刑の事例に出会い、この分野に関する論文を執筆、1997年にアトランタで開催された「イラン調査・研究センター」年次総会で発表します。その後も、イランにおける同性愛者の人権状況についての研究を継続し、その一方で、アメリカに亡命を求めたイラン人難民のケースなどについて、自らの専門性を生かしてサポートを行うなどの活動もしています。
 私たちは、エグテダーリさんが持っている、イランの人権状況や刑法・司法システムなどについての知識を法廷でぜひ、披露して欲しいと考えました。私たちは、エグテダーリさんが来日した翌日の16日には、8時間にわたるミーティングを実施、翌17日にもリハーサルを行って、万全の体制で尋問に臨みました。

○●○エグテダーリさん主尋問:イランの同性愛者迫害の実態が明らかに○●○

 18日午後2時。いよいよ、エグテダーリ氏尋問の法廷が幕を開けました。
 606号法廷は42席しか座席がありませんが、傍聴に参加するために詰めかけた人々はおよそ80人。チームSでは、主尋問と反対尋問で入れ替えを実施するほか、定期的に法廷の様子を控え室に伝えるスタッフを配置するなどの対応をとりました。その結果、多くの人に傍聴の機会があったと思っていますが、その一方、傍聴できなかった人もいたかも知れません。(ごめんなさい!!ニュースアップデイトでなるべく早く、尋問の記録を公開いたしますので今しばらくお待ち下さい)
 法廷では、エグテダーリ氏が宣誓を行ったのち、尋問が開始されました。シェイダさん側の主任弁護人・大橋先生の冷静な質問に対して、エグテダーリ氏の答えは、つねに多くの情報を含みつつ、かつ明晰なものでした。エグテダーリ氏の主な証言ポイントは以下のことです。
○イランにおいては、女性や少数民族、宗教的少数派の人権問題については、資料が豊富にあり、人権活動家も存在している。ところが、同性愛者の場合は、あまりに抑圧が厳しいので、イラン国内で同性愛者の問題を語ることのできる当事者がいない。また、イランからの亡命者から話を聞いても、イランの同性愛者の状況についての情報は全く得られない。
○イランの改革派ハータミー政権は、同性愛者に対するイランのこれまでの態度を変えることはできない。その理由は、ハータミー大統領がイランの司法府に対する権限を一切持っていないことと、ハータミー自身がイスラーム法学者であり、シャリーア(イスラーム法)において固定刑(ハッド)として定められている「ソドミー行為に対する処罰」について見直しをする立場に立つことができないということである。
○イラン・イスラーム刑法の規定では、同性間性行為の事実を認定するのに4人の男性の証言が必要であるため、犯罪の認定と処刑はきわめて難しいという主張は誤っている。イラン刑法には、4人の男性の証言以外に、本人の4回の自白、もしくは、裁判官が慣習的に正しいとされる方法によって犯罪の事実を認定し、有罪を宣告することができる(刑法120条)。これらから考えれば、同性間性行為によって人を処罰するのは著しく容易である。
○シャリーア(イスラーム法)は属人法であり、イスラーム教徒個々人がシャリーアが守られる社会を作るために社会に介入することが認められている。その結果、同性間性行為を行った人間に対して私的制裁が加えられても、それは国によって取り締まられることはないというのが現状である。
○同性愛者の人権を認めさせる活動をしている同性愛者は、刑法違反だけでなく、反体制派として当局による迫害を受ける可能性が高い。シェイダさんが属している「ホーマン」は、イランの憲法を変えることを綱領に掲げており、当然、反体制派として認識されている。

○●○シリアスながら決め手を欠いた反対尋問○●○

 一方、反対尋問は、最初のうちはエグテダーリ氏の職業について事細かに聞いたりと、時間つぶしとしか思えない展開を見せていました。しかし、中盤になって一つの波乱がありました。
 法務省側は、シェイダさん側が提出した最近の死刑の事例(2001年、イラン北西部の町で11歳の少年と性行為を持った男性がソドミー罪により死刑判決を受けたという、ロンドンで発行されているイランの新聞「ケイハン・ロンドン」の記事)について、エグテダーリさんに「この事例について原典を調べたか」と迫ってきました。
 この事例については、エグテダーリさんがこれまでに書いてくれた書面などと違い、シェイダさん側が独自に収集した事例だったので、エグテダーリさんはこのケースについて詳しくは知りませんでした。そこでエグテダーリ氏が「原典にあたったりはしていない」と答えたところ、法務省側は、外務省の調査報告書というものをいきなり示し、「外務省の調査報告書によると、『ケイハン・ロンドン』の記事のソースになっている新聞には、該当する記事が載っていなかったとのことである。あなたはどう思うか」と質問してきたのです。エグテダーリ氏は「何とも思わない」と一言で切って捨て、この質問は終わりになりました。
 この質問を見てもわかりますが、法務省側は、シェイダさん裁判で分が悪い状況に追い込まれている現状で、かなりの焦りを見せており、外務省の助力のもと、一生懸命、反転攻勢をはかろうとしています。今回の、外務省による報告書もその表れで、私たちとしても、最後まで気を抜かずに立証につとめていかなければならないと、覚悟を新たにしました。
 この質問以外は、法務省の尋問は気迫を欠く内容に終わりました。その後、裁判所からの尋問がありました。裁判官の「シェイダさんは、イランに帰ると証拠がなくても訴追される可能性がありますか」という質問に対して、エグテダーリさんは「はい」と明晰に答えました。

○●○最後まで手を抜けないシェイダさん裁判:次回法廷は3月18日○●○

 エグテダーリ氏の尋問は、当初の時間を30分以上にわたって延長する、気迫のこもったものになりました。最後の裁判官尋問では、3人の裁判官が身を乗り出して質問する姿が見られ、裁判官たちの熱心さが印象に残りました。今回の尋問は、ほぼ大成功に終わったと見て良いでしょう。
 本法廷は、本当にたくさんの皆様に傍聴していただきました。報告集会などについても、多くの皆様のご入場で実施することができました。また、法廷・報告集会がつつがなく運営できたのは、ボランティア・スタッフの皆様のお陰です。傍聴者の皆様、スタッフの皆様に、チームSより心から感謝を申し上げます。
 一方、法務省側も外務省の助力を借りるなど「オールジャパン」でこの裁判に取り組んできており、シェイダさん側も気を抜くことはできません。次回の法廷は3月18日です。シェイダさん側は、エグテダーリさんが展開した同性愛者の死刑の具体的な事例や、その他様々な事実関係について、この3月18日に向けてきちんと証拠を作り、補強していこうと考えています。
 次回の法廷の詳細は以下の通りです。ぜひとも、法廷に足をお運び下さい!!

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃シェイダさん在留権裁判第17回口頭弁論    ┃ 
┃○日時:2003年3月18日午前11時30分〜┃
┃    (集合時間:午前11時)       ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷     ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)      ┃
┠───────────────────────┨
┃第17回口頭弁論報告集会           ┃
┃○日時:2003年3月18日正午〜      ┃
┃○場所:弁護士会館(予定)          ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

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(2)ドキュメント エグテダーリ氏とともに考える6日間
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 以下、日本を訪問したエグテダーリさんの足跡を、ドキュメント形式で振り返っていきたいと思います。

<第1日 2月15日>
○午後2時 シェイダさんとチームSスタッフ2名、計3名で、エグテダーリさんを迎えに成田空港に向かう。
○午後4時30分 エグテダーリさん、シアトルから成田に到着。出迎えチームでエグテダーリさんを迎え、バスで東京へ。(途中で渋滞に巻き込まれる)
○午後8時 ホテルにチェックインののち、エグテダーリさん歓迎会を実施(池袋)。

<第2日 2月16日>
○午後1時 エグテダーリさん、シェイダさんの主任弁護人の大橋毅弁護士が所属する池袋市民法律事務所へ。尋問の打ち合わせを実施。4時間にわたる綿密な打ち合わせを実施する。
○午後6時 エグテダーリさんが持参した、石打ち刑の模様を撮影したビデオ(モントリオール・イラン女性協会提供)を見る。一同、処刑のむごたらしさに暗然とする。
○午後7時 18日の法廷+報告集会、19日のシンポジウムのスタッフ打ち合わせを行う。エグテダーリ氏も参加。集合写真を撮る。
○午後9時 打ち合わせ終了、エグテダーリさんを囲んでスタッフ交流会。

<第3日 2月17日>
○午前・午後 シェイダさん、エグテダーリさんをもてなして一日観光。秋葉原、浅草を訪れる。
○午後7時 翌日の尋問に向けたリハーサルを実施。

<第4日 2月18日>
○午前11時 エグテダーリさん、チームSスタッフと共にホテルを出発、弁護士会館に向かう。
○午後1時 最終打ち合わせを実施。その後、東京地方裁判所へ。東京地方裁判所606号法廷は、この時点で、すでに法廷の人数を越える人々が集まっている。
○午後2時 証人尋問 主尋問を開始。
○午後4時 証人尋問 反対尋問を開始。
○午後5時30分 3時間半におよぶ尋問が終了。傍聴者とともに報告集会会場(弁護士会館508ABC会議室)へ。
○午後6時〜7時30分 報告集会・シンポジウム「エグテダーリ氏尋問を終えて」ヲ実施。(主催:チームS、後援:(社)アムネスティ・インターナショナル日本、反差別国際運動(IMADR))。
○午後8時〜 スタッフ・参加者と共に打ち上げ。

<第5日 2月19日>
○エグテダーリさんは午前・午後とも買い物へ。
○午後1時 シンポジウム「イラン人が語る現代の中東と人権:エグテダーリ氏を迎えて」(主催:チームS、共催:反差別国際運動(IMADR)、後援:(社)アムネスティ・インターナショナル日本)の準備のため、チームSスタッフとコーディネイターの田崎英明氏とで打ち合わせ開始(小石川後楽園灌徳亭)。
○午後4時 基調講演者の武者小路公秀氏(元国連大学副学長、IMADR副理事長)も打ち合わせに参加。
○午後5時 エグテダーリさんと合流、会場の文京区民センターへ。
○午後6時50分 シンポジウム開始。武者小路氏の基調講演に続き、エグテダーリさんの返答講演、田崎英明氏との対談というプログラム。午後9時、終了。
○午後9時30分 エグテダーリさん、武者小路氏、田崎英明氏を交えて、フェアウェル・パーティー。

<第6日 2月20日>
○午前9時 ホテルでデイリー・ヨミウリの取材受ける(2月27日付「デイリー・ヨミウリ」にて記事に)。
○午前10時 大橋弁護士と打ち合わせ、お別れの挨拶。
○午前11時 シェイダさん、チームSスタッフ2名と成田空港へ。途中、千葉でおみやげなどを購入。
○午後3時30分 成田空港着。エグテダーリさん、アメリカに向け帰国の途につく。

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(3)シェイダさん裁判 今後どうなる?
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 シェイダさん裁判・最後にして最大の山場たる「エグテダーリ氏証人尋問」が終了しました。シェイダさん裁判は今後どう進んでいくのでしょうか。
 市村裁判長は、このエグテダーリ氏裁判を受けて、原告側・被告側とも、全ての証拠を出し尽くすための日程として、次回裁判期日として3月18日を設定しました。裁判長は、この法廷で、今後のスケジュールを示す、と述べています。
 予想としては、この法廷の次の法廷で結審となると思われます。結審に向けて、私たちは最終準備書面を執筆します。また、結審の法廷では、シェイダさんが最終意見陳述を行う予定となっています。おそらく、2ヶ月ほど時間をとって、5月中旬から下旬に結審の法廷があると思われます。
 結審すると、あとは裁判所の手にゆだねられます。裁判所は判決を書くのに2ヶ月から3ヶ月を必要とすると思われます。おそらく、第1審判決は7月か、もしくは夏休みを挟んで8月下旬に設定されると思います。
 これからは、こちらが出せる証拠の質、および、これまでやってきたシェイダさん側の努力を、いかにまとめ、裁判所に示していくか、ということに、集中していく必要があります。また、判決に向けて、様々な対策を打っていく必要があります。
 長い道のりももう少し。しかし、百里の道は九九里が半ば、と言います。法務省も、遅まきながら「オールジャパン」でシェイダさん側に挑みかかる体制を作ってきています。勝訴のためには、多くの皆さんのご支援・ご協力が不可欠です。是非ともご注目・ご支援のほど、よろしくお願いします!!

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(4)カンパのお礼、およびお願い
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 これまで「ニュースアップデイト」でも、皆様にエグテダーリ氏招聘のためのカンパを呼びかけてきました。皆様からの温かいご支援をいただき、エグテダーリ氏招聘中の二回の集会・シンポジウムで合計8万円程度の参加費・カンパをいただきました。また、多くの皆様から、郵便振替でカンパをいただき、カンパの合計金額は17万円にのぼりました。皆様、本当にありがとうございました。
 しかし、エグテダーリ氏の往復旅費、滞在費、その他もろもろの経費としてかかったお金は、合計32万円にのぼっており、全体会計として、まだ7万円ほどの赤字となっております。
 本件裁判では、今後も、判決に向けたキャンペーンや、勝訴を万全なものとしていくための調査費用等などに多額のお金がかかる見込みです。7万円の赤字をかかえたままでは、かなり厳しいのが実情です。不景気のおり、大変心苦しいことではございますが、ぜひとも、カンパをいただければ幸いと存じます。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。カンパの送り先は以下のようになっております。
 ○郵便振替口座名義 「シェイダ基金」
 ○郵便振替口座番号 00100−2−554626
 一口2000円から申し受けておりますが、それ以下の金額のカンパでも大歓迎いたします。どうぞよろしくお願いいたします。

***ニュースアップデイト第49号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第49号 2003年3月31日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)出典は「広辞苑」?驚くべき法務省の書面
 〜3月18日:シェイダさん在留権裁判第17回口頭弁論〜
(2)庇護を求め受け入れられることは普遍的な権利
 〜第16回口頭弁論でのエグテダーリさんのスピーチ〜
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(1)出典は「広辞苑」?驚くべき法務省の書面
 〜3月18日:シェイダさん在留権裁判第17回口頭弁論〜
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 アメリカからエグテダーリさんが来日し、80人以上の傍聴者であふれた2月18日の第16回口頭弁論。3月の法廷は、それから一転して、こじんまりした規模で行われました。
 3月18日の口頭弁論の目的は二つありました。一つは、エグテダーリさんの証人尋問を受けて、これに関連する証拠資料を原告・被告双方が提出すること。もう一つは、被告の法務省側が、「同性愛者は『特定の社会的集団』にあたるか」という裁判所から課せられた宿題にこたえるということです。
□■□原告側、死刑に関わる証拠資料を追加提出□■□

 この法廷で、原告シェイダさん側は、エグテダーリさんが尋問において挙げた同性愛者の死刑の事例に関する新聞記事を3点、むち打ち刑の事例を1点提出しました。 一方、被告の法務省は、「石打ち刑は拷問にあたるか」という裁判所の宿題について、前々回の法廷で、「石打ち刑はイランでは合法な処罰である。一国で合法とされている処罰が拷問に当たるとするためには、その処罰方法が拷問にあたるという解釈が、国際法上の公式文書などで示されている必要があるが、石打ち刑については、これを拷問と定めている公式文書は見あたらないため、石打ち刑が拷問であると言うことはできない」と主張する文書を提出しました。
 この法務省の主張については、後でじっくり反論するとして、原告側は、石打ち刑がどのような残虐な処刑方法かを実際に立証するために、今回、エグテダーリ氏がカナダのモントリオールにある「モントリオール・イラン人女性協会」から入手した、石打ち刑の映像を収録したビデオを提出しました。
 迫害に関わる証拠の収集・作成にあたっていていつも感じることは、シェイダさんの、また、一人一人の難民の庇護の実現には、その前提として、多くの同胞たちの屍が『必要』になる、という冷酷な事実です。申請国(この場合、日本)の難民認定の基準が厳しければ厳しいほど、一人の人の庇護を認めさせるために、より多くの暴力の、拷問の、死の痕跡が必要となる。証拠集めに奔走するうちに、いつしか、証拠に記された暴力の痕跡に何の痛痒も感じなくなっていく……。
 証拠資料、様々な痕跡に残された彼らの暴力、拷問、死の果てに、ひとつの「命」の保障の可能性を見いだす……難民裁判を闘うものにとって、難民制度とは、交差しそうでいて、どこまで行っても交差することのない、現代世界の「命の微分法」だとすら感じられることがあります。しかし、そうであるがゆえに、この闘いに負けるわけには行かないのです。

□■□法務省の驚くべき書面□■□

 今回の法廷で一番驚かされたのは、法務省が「特定の社会的集団」に関して提出してきた書面です。
 難民条約には、「特定の社会的集団」の構成員であることを理由として、十分に理由のある迫害の恐れを持つ者を難民と認めるとの記述があります。裁判所は、「同性愛者」は「特定の社会的集団」に該当するかどうかについて、原告及び被告に説明を求めました。原告側は、米国における「特定の社会的集団」に関する難民認定上の解釈の変遷についての論文や、英国・ドイツ等において、同性愛者を「特定の社会的集団」と認めた判例、また、ヨーロッパ評議会(CoE)の審議会がヨーロッパ各国の「特定の社会的集団」に関する裁判上の解釈を調査した文献などを収集し、これらを証拠資料として提出してきました。これに対して、法務省側はいったん、同性愛者が「特定の社会的集団」を構成することに対して「争いはない」と述べましたが、前々回の法廷で主張を一転、「争う方向で考える」と言い出し、今回の書面提出に行き着いたものです。
 ところが、法務省が提出した書面には、各国の判例や、各国で積み重ねられてきた「特定の社会的集団」に関する解釈の変遷など全く載っていません。代わりに載っているのは、「(集団とは)規則的・持続的な相互関係を持つ個体の集合。団体」とする「広辞苑」の記述です。法務省は、これまで各国で積み重ねられてきた難民条約の解釈の理論など眼中になく、「広辞苑」ひとつをもって「同性愛者は『特定の社会的集団』ではない」と主張しようというのです。
 あまりの惨めさに愕然とさせるような書面ですが、「ライオンはネズミをとらえるにも全力を尽くす」とも言います。次回の法廷は、この書面への反論の書面を提出するための法廷です。当方としては、反論に全力を傾けたいと思っています。
 次回の法廷は、5月8日(木)午前10時30分、東京地方裁判所第606号法廷です。皆様、ぜひとも法廷でお会いしましょう。
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┃シェイダさん在留権裁判第18回口頭弁論    ┃ 
┃○日時:2003年5月8日午前10時30分〜 ┃
┃    (集合時間:午前10時)       ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷     ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)      ┃
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┃第18回口頭弁論報告集会           ┃
┃○日時:2003年3月18日11時〜     ┃
┃○場所:弁護士会館(予定)          ┃
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(2)庇護を求め受け入れられることは普遍的な権利
 〜第16回口頭弁論報告集会でのエグテダーリさんのスピーチ〜
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 2月18日、エグテダーリさんは3時間30分にもわたる尋問で、イランにおける同性愛者の迫害について立証しました。その後の報告集会で、エグテダーリさんは、この日の証言のポイント、イランの死刑の状況などについて講演しました。以下は、その講演録です。非常に貴重なものですので、ぜひ目を通していただければ幸いです。

□■□まずは法廷の感想から……□■□

●司会:
 エグテダーリさんから今日の裁判の感想についてお話ししていただきたいと思います。実は2年前の10月16 日に原告側として、アメリカから証人として採用したいと裁判所に提出しており、一年以上かけて、やっと呼べたということをつけたしておきたいと思います。じゃ、エグテダーリさんの方よろしくお願いします。
●エグテダーリ:
 皆さんこんばんは。まず英語で話さなければいけないことをお許しください。
 今日の法廷についての感想ですがきわめて普通だったと思います。極めて普通に弁論側が弁論し、それに対して国側が反論するといった形でした。ただ少し驚いたのは国側がしつこく私のバックグラウンドであるとか、私の専門性についてしつこく質問されたというのは少し驚きでした。
 特にに国側はですね、わたしが情報工学というものを専攻しているのですけれども、それについて何をやっているのか、あえて技術者として何をやっているのか、それと同時に人権の研究ができるのかということに関して疑問を持っていたようでした。それは非常におもしろい観点かと思うのですけれども、西洋的な考え方と東洋的な考え方の違いかもしれません。私の同僚でも、情報工学に専念していて、政治家ではないから政治活動を行わないというような人もいます。
 東洋においては詩人であり、同性愛者であり、政治家であり、学者であり、というような一人がいろんな専門性を持っているということもあるのですけど、西洋においてはただひとつのもの専門家であることで考えられているようです。
 私は本当に今日の証言がチームSにとってよい結果をもたらすということを希望しております。チームSの皆さんは本当にここ数年、熱心に働いていらっしゃいました。私に1年半前に連絡をとられてからずっと、私を日本に招聘しようとよくはたらいてくださいましたし、それが、良い結果に結びつくことを祈っています。
 大橋さん、そして大橋さんのパートナーの事務所の弁護士さん、チームSの皆さん、この皆さんは本当にシェイダさんのためだけではなく、日本での権利の獲得を勝ち取るために熱心に働いていらっしゃるというふうに感じています。ありがとうございました。
●司会:
 じゃ、続いてエグテダーリさんにチームSの聞き手のほうから質問をしてイランの状況等について話していただきたいと思います。

□■□日本で証言をするにいたった経緯□■□

●聞き手:
 インタビュアーをする稲場です。チームSのほうでコーディネーター的なことをやっております。今日はエグテダーリさんに3時間にもわたる長い尋問でありまして、もうかなりお疲れかなと思っております。そこで私のほうからの質問は非常に簡単に三つか四つに絞らせていただきたいというふうに思います。
 まず日本からシェイダさんの弁護ということで証人に立ってくれということで、アメリカに住んでいるエグテダーリさんとして、日本に来るというのは大きな決断だったと思います。また、最初にそういうふうに聞いて本当にこちらを信用できるのだろうかとかいろいろ考えられたことと思います。そういう点で最初日本から証言の依頼が来た時どのように思われたかをお伺いしたいです。
●エグテダーリ:
 私は、日本について関心を持っていました。最初に言っておきたいのですが、私はイランの同性愛についての研究を始めたわけではなく、まず、初めにイランにおける死刑について研究を始めました。それが、きっかけとしてイランにおける死刑の適用の対象についての同性愛者について研究を進めるようになりました。
 私自身は論文等の中でもはっきり書いていますが、同性愛者ではないのですけれども、同性愛者の問題について、学会で発表するにあたって、非常に差別を受けているような気分になることが多くありました。他の学者の人達も学会の会場ではなくホテル等のロビーなどで会うと、同性愛者とみなしているのではないか、それによって私は差別を受けているのではないかと感じることもありました。
 私がイランにおける死刑の報告を書いたのは1997年でした。
 私が97年に論文を発表した後に私は弁護士さんからの問い合わせを受けるようになりました。それはカナダですとか、チリ、イギリス、そして、アメリカにおいても何人かの弁護士さんから依頼を受けるようになりました。そして私に供述宣誓書を書いて欲しいとか、意見書を書いて欲しいというようなことを依頼しました。そして、チームSから、私が以前書いた意見書を翻訳させて欲しいという依頼が来たとき、私は私の世界が広がって行くということで嬉しく思っていました。
 私はこの分野についてもっと多くの研究がなされるべきだと思います。本当にがっかりしているのは他の研究者がこの問題に触れようとしないところです。彼らはまだ同性愛者に偏見があるということに非常に大きな理由かとおもいますが、自分の社会的な地位を恐れてかこの分野に入ってこようとしません。同性愛者について研究するのは必ずしも同性愛者でなくても彼らの人権を守るということはできているのですけれども、なかなかそういうふうな人達が出てこないというのはがっかりしていますし、もっと多くの人たちが関わってくるべきではないかなと思っています。
 同性愛者の人権を守るということに関しては本当にもっと多くの仕事がなされるべきだと思っていますが、ヨーロッパにおいては多くの同性愛者が雑誌をだしています。それらは信頼性が高い文章というよりも彼らのコミュニティの中で情報をシェアするという目的が強いと思っております。ですから、もし私が同性愛者だったとしたら、法務省から「あなたは同性愛者だから彼らの立場を守っているのではないか」と攻撃されたのではないでしょうか。

□■□イランにおける死刑の問題□■□

●聞き手:
 どうもありがとうございます。私自身は同性愛者としてこの裁判に関わっているのですけれども、彼は同性愛者ではない。また彼はイランという非常に同性愛者に対して厳しい社会で人生を過ごしてきました。アメリカにおいても日本においてもイランにおいても、イラン人の社会は、非常に同性愛者嫌悪が強いと言われています。しかし、その中で、彼は死刑の問題に関連して同性愛者の問題について研究してきました。今や、この分野において最も知識を持っている第一人者と言えるのではないかと思います。逆に私としてはここで、エグテダーリさんの持っているフィールド、イランの死刑に関する問題についてお聞きしたいと思います。簡単にイランにおける死刑の状況について説明してもらえますか。
●エグテダーリ:
 イランの死刑に関しましては刑法に定められていまして非常に多く死刑が執行されています。1995年には、世界で2番目に死刑の執行が多かったのです。その他の年度においても、2番目、3番目とか4番目という非常に高い確率で執行がされています。1位は中国で、それに引き続いてアメリカ、イランというふうになっています。非常に多くの処刑数があるというのが実情です。
 死刑を廃止しようという動きはあったのですが、それに関しましてはハータミー大統領が権力の座について以降、非常に強くそのような主張がなされるようになりました。「イラン人権ワーキンググループ」という私が執行委員で関わっていた団体でもイランにおける死刑の廃止についても多くの紙面を割いて特集を行っていました。ハータミー大統領が就任して以降、言論の自由というのがある程度確保されてきまして、イランにおいてもある程度自由な言論が確立されてきたのですけれども、非常に死刑の廃止に関しては難しいということになりました。なぜならば裁判官が死刑を宣告できる裁量が非常に広く与えられていて、裁判官自体が死刑を廃止する全く前向きでなかったというのが現状です。
 1979年のイラン革命の後、前の体制を作っていた人たちが多く処刑されました。その中には学者もいますし、軍隊、警察にいた人たちも処刑されています。死刑というのは非常に高い規範でもって定められていてそれを覆して行くのが難しいという現状にあります。
 特に1988年に何千人もの人が死刑を執行されました。当時、ホメイニー師により、刑務所を一掃しろという命令がありました。そして刑務所に繋がれている囚人は2つか3つの質問を聞かれました。まず「あなたは反政府的な団体に入っていますか」。それに「イエス」と答えると次は「その団体の正しさを信じていますか」と。それについても「イエス」と答えるとすぐに処刑されたのです。両方にノーと答えた人は命を救われていたわけですが、その当時2〜3週間のあいだに4000人〜8000人が処刑されたというふうに言われています。
 現在は死刑を廃止するという方向ではなくて死刑の執行方法に関して議論がなされています。イランにおいては様々な執行方法がありますけれども、特に石打ちによる死刑というのは非常に苦しみを伴う拷問であると思います。私は今回、石打ちによる執行のビデオテープを持ってきました。それに通常は男性が腹部まで、女性は胸まで土のなかに埋められます。投げる石の大きさも定められています。大きすぎてはいけません。なぜなら1回投げただけでも死んでしまうからです。石打ち刑では、死にいたるまで20〜30分かかります。もし絞首刑であれば、5分程度で死んでしまいます。電気椅子であれば、1分かからない程度です。注射による死刑というのは痛みは伴いません。ですから石打ちというのは痛みを伴う拷問であると言えます。
 同性愛者の死刑執行について話を戻します。刑法に関してはどのような方法で執行するかは決められていません。それは裁判官の裁量で執行するというふうに言われています。ただ最高裁判所の方で示唆がなされています。二つ紹介しますが、まず一人このような処刑行為がいいと言ったのはソドミー行為を行った人は全て火に投げ込めばいいといった最高裁判所の裁判官がいました。そしてもう一人は高いところから突き落とすのがいいといいました。そしてクレーンで吊り上げられ処刑されたという人もいます。

□■□難民の庇護は普遍的な権利□■□

●聞き手:
 イランでは非常に厳しい処刑が行われているわけです。私達としてはイランにおける、また全世界における死刑というものが、適切ではないと強く感じています。
 そしてもうひとつ、この問題、シェイダさんの問題は、このような死刑をやっている国に彼を強制的に送還するという日本政府の処分が行われようとしていて、それに対する裁判を行っているわけです。ここで、この質問で終わりにしたいのですけれども、難民を受け入れる重要性についてどのように考えるているかということをお伺いしたいと思います。
●エグテダーリ:
 一般的に話しますと、庇護をもとめ受け入れられる権利というのは世界人権宣言にも書かれています。これは普遍的な権利であると言えます。日本政府においてもその普遍的な権利を受け入れている国際社会の一員として難民を受け入れていって欲しいと思っています。
 そしてもうひとつ、条約として、拷問等禁止条約というものがあります。これは拷問による処罰を禁止しています。この拷問による処罰というのはヨーロッパの国々によっても否定されているものであり、EUのメンバーになる条件のひとつでもあります。EUのメンバーになるというのには死刑の撤廃というものも挙げられています。そのためにトルコにおいては近年、EUのメンバーになるために死刑というものを廃止しました。死刑を待ちうける国にその人を返さないという規範も出来上がっているといえるのではないでしょうか。たとえテロリストでも返せないということがありました。昨年、フランスでは2001年9月11日に起きた悲劇的な事件に関係しているイスラム系のグループのメンバーと疑われた人が逮捕されアメリカに送還されそうになりましたけれども、アメリカにはまだ死刑は存在しているということで、フランスで送還が止まったというケースがありました。
●聞き手:
 どうもありがとうございました。はるばるアメリカのポートランドから時間をかけて日本に来ていただいてこういうかたちで、そして3時間にわたる尋問をシェイダさんのため、そして日本の人権状況の改善のため、このようなエグテダーリさんに私達としても深い感謝をしたいと思います。
●司会:
 どうもありがとうございました。エグテダーリさんにつきましては13ページにある紹介と明日シンポジウムが開かれるるので、そこでイランの状況についてもっと知れると思います。ここで何かエグテダーリさんにちょっと聞いておきたいこととかイランの状況とか今日の裁判の分からなかったこととかあればですね、ご質問していただければと思います。
●質問者1:
 死刑のことでお伺いしたいんですが、先ほどの法廷での証言の中で、石打ち刑という処刑方法と、シャリーア法というのは非常に結びついているとおっしゃったと思うんです。その辺についてちょっとお聞かせ願えないでしょうか。また石打ち刑という場合に処刑する処刑者とはどのような人達、複数のひとが関わるのではないかと思うのですが、どういう人が処刑者となるのでしょうか。処刑する人。執行人ということです。
●エグテダーリ:
 まずは一つ目の質問に関してですけれども、石打ち刑というのはシャリーア法の一部です。刑法というのは石打ち刑を認めています。この刑法が最終的に定められたのは1991年です。その規定によると、婚外性交渉であるとか、同性愛行為、その他裁判官が、その人を石打ち刑にしたいと思ったら、誰でも石打ち刑になるということです。
 一時、法務省が石打ち刑をとめようということはありました。しかし現在までにそれは実現に至っていません。
 石打ち刑は基本的に公開で行われます。なぜ公開で行うかというと多くのひとにこのことを知って欲しいということになります。もし隠れた場所で処刑するのであれば、誰もそのことを知らずに終わるということになります。なぜ知らせるかというとそれは見せしめのためで、例えばクレーンで吊るというとして見せしめにするということもあります。これは人々にこのようなことをしないようにという教訓を与えるようにということです。つまり、「この人を見なさい。この人は不貞行為を働いたから、婚外性交渉もしくは同性愛行為を行ったからこのようになった。あなたも同じようなことをしたらこうなります」という教訓を与えるためだだからであると思います。人民に、倫理に関する罪を犯させないように、そのような教訓があるのではないでしょうか。現在では石打ち刑に変わる刑罰を導入すべきではないか、というような議論がなされています。それは死刑をとめるのではなくて別の方法で公開ではなく、わからないように公衆の目にさらさずにするほうが良いのではないかというふうな議論で、本質的な解決策ではありません。
 二つ目のご質問に関してですけれども、基本的に定められるところには、罪を犯していない人のみが石を投げられるとなっています。けれども罪を犯していない人などはいないのではないでしょうか。私が弁護士の大橋先生に差し上げたビデオの中では、これが全くの公開であるかどうかは分かりませんが、軍の施設において行われていました。一番はじめにに石を投げたのは裁判官でした。

***第50号は近日中発行の予定です***

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シェイダさんを救え!ニュース・アップデイト
Save Mr. Shayda! The News Update
第50号 2003年5月5日発行(不定期刊)
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発行元 チームS・シェイダさん救援グループ
編集担当 チームS電子オフィス shayda@da3.so-net.ne.jp
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<今号の目次>
(1)焦点は難民条約と拷問等禁止条約をめぐる論争
 〜5月8日 シェイダさん在留権裁判第18回口頭弁論に集まろう!〜
(2)週刊金曜日4月18日号でエグテダーリさん招聘が記事に!!
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(1)焦点は難民条約と拷問等禁止条約をめぐる論争
 〜5月8日 シェイダさん在留権裁判第18回口頭弁論に集まろう!〜
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 今年2月に行われたエグテダーリ氏の証人尋問から約3ヶ月。裁判は佳境を迎えていますが、現在、放置することのできない二つの問題が論争の中心となっています。
 一つは、「石打ち刑」は拷問等禁止条約(「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰に関する条約」)にいう「拷問等」にあたるかどうか。もう一つは、同性愛者は「特定の社会的集団」にあたるかどうか。
 これらの論点は、もともと本裁判ではそれほど大きな問題になっておらず、被告の法務省も、正面からこれらについて原告に反論することを避けてきた問題でした。法務省にとっては、「難民認定については基準を作らず、個別のケースによって判断する」というのが建前ですから、「十分に理由のある迫害の恐怖」があるかどうか、というところだけ主張していればそれでいい、という話だったのです。
 ところが、裁判所は法務省に対し、再三再四にわたって、この二つの問いを提起し続けました。そこで、法務省もこれらについて書面で展開し始めたのです。
 法務省は、社会通念上考えられないような論理で、これらについてシェイダさん側と「争う」姿勢を見せています。
 まず、「石打ち刑」について。「石打ち刑」が拷問等禁止条約にいう「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰」(=「拷問等」)であるというのは、常識的に考えて明らかです。また、イランの裁判官たちも、「石打ち刑」が最も残虐な処刑方法の一つであるということを理解した上で、あえて、同性愛者には残虐な処刑を行う、という立場から同性愛者に石打ち刑を宣告しているわけで、彼らも「石打ち刑」が「拷問等」であることは認めているわけです。
 ところが法務省は、次のようにいいます。
○石打ち刑はイランでは合法的な制裁である。「拷問等禁止条約」では、合法的な制裁は「拷問等」に含まれない。ただし、国際的に「拷問等」であるとの認識が確立している場合は別である。
○石打ち刑を「拷問等」と指摘している国際文書等は存在しない。
○そのため、石打ち刑が「拷問等」であるかどうかについて、現時点で明確な判断は下せない。
 シェイダさん側としては、この議論にある程度まともにつきあう必要を認識しており、以下のような論理構成で反論の書面を提出する予定です。
(1)イランの裁判官たちも石打ち刑を苛烈な、容赦のない(severe)刑罰であると認めている(=ムサヴィ・アルデビーリー前最高裁判所長官の講演より)。刑罰を宣告する側が「残虐な刑罰」と認識しつつ宣告している以上、「残虐な刑罰」であることは論を待たない。
(2)石打ち刑が「拷問等」であるとする国際文書は、欧州議会のイランに対する決議等、複数存在している。
 一方、同性愛者が難民条約上の「特定の社会的集団」にあたるかどうかについては、法務省は、「広辞苑」の「集団」に関する定義を持ち出し、集団とは、「規則的・持続的な相互関係を持つ個体の集合。団体。」であるから、同性愛者を集団ということはできない、などという、これまでの討議の積み重ねを踏まえない稚拙な主張を中心に、書面を組み立ててきています。これについても、今回の口頭弁論で原告側として反論の書面を提出していこうと考えています。
 このように、今回の法廷では、地味ながら重要な論点について、原告側が決着をつけていくことが目的となっています。報告集会では、これらの点についても、解説などしていこうと思っています。場所は東京地方裁判所606号法廷、5月8日、午前10時30分開廷(午前10時集合)です。ぜひ、裁判にご参加下さるよう、よろしくお願いします。
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┃シェイダさん在留権裁判第18回口頭弁論    ┃ 
┃○日時:2003年5月8日午前10時30分〜 ┃
┃    (集合時間:午前10時)       ┃
┃○場所:東京地方裁判所6階606号法廷     ┃
┃(営団地下鉄霞ヶ関駅下車徒歩3分)      ┃
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┃第18回口頭弁論報告集会           ┃
┃○日時:2003年3月18日11時〜     ┃
┃○場所:弁護士会館5F会議室         ┃
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(2)週刊金曜日 4月18日号でエグテダーリさんの証人尋問が記事に
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 ごらんになった方もいらっしゃるかも知れませんが、「週刊金曜日」4月18日号(4月18日発行)で、シェイダさん裁判が見開き2ページの紹介記事として掲載されています。タイトルは「イランへ強制送還なら死刑〜大詰めを迎えたシェイダさん裁判〜」。
 記事を書いたのは、ジャーナリストの今井恭平さん。今井さんは、アメリカ合州国のムミア・アブ・ジャマール氏への死刑攻撃に反対する運動を日本国内から始めるなど、死刑の問題に関して積極的に発言しています。
 今井さんの記事は、2月のエグテダーリさんの証言をベースにしながら、イランにおける同性愛者の迫害の問題をわかりやすくまとめ、日本の難民制度の問題点をさらいながら、シェイダさんの裁判の今後の見通しを示しています。
 シェイダさん裁判の概要や今後の方向性が非常によくまとまっていますので、シェイダさん裁判について他の方に紹介しようという方、また、シェイダさん裁判についてもっとよく知りたいという方、お読みいただければ幸いです。

***第51号は近日中発行の予定です***



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