原告側証人:エグテダーリ氏、法廷に立つ!

(シェイダさんを救え!ニュースアップデイト第48号より)
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 2000年7月の提訴以来、もうすぐ3年がたとうとしているシェイダさん在留権裁判。第1審最後の、そして最大の山場が到来しました。11月の法廷で市村裁判長が証人として採用した在米イラン人人権専門家グダーズ・エグテダーリさんが2月15日来日、2月18日の第16回口頭弁論で、3時間30分にわたり、法廷でイランの同性愛者の人権状況について証言を行ったのです。
 日本の難民裁判史上でも、現地の人権状況について、現地をよく知る専門家を招聘して証言を得た例は今回が初めてと言われています。エグテダーリ氏の証言は、非常に画期的なものということができます。

○●○徹底した準備を経て法廷へ○●○

 グダーズ・エグテダーリさんは、米国ワシントン州バンクーバー市で交通工学の専門家として働くかたわら、イランの人権問題に関する調査・研究を行うNGO「イラン人権ワーキンググループ」の執行委員として、イランの人権問題、とくに死刑に関する研究を積み重ねてきました。彼はその中で同性愛者や婚外性交渉を行った女性に対する苛烈な死刑の事例に出会い、この分野に関する論文を執筆、1997年にアトランタで開催された「イラン調査・研究センター」年次総会で発表します。その後も、イランにおける同性愛者の人権状況についての研究を継続し、その一方で、アメリカに亡命を求めたイラン人難民のケースなどについて、自らの専門性を生かしてサポートを行うなどの活動もしています。
 私たちは、エグテダーリさんが持っている、イランの人権状況や刑法・司法システムなどについての知識を法廷でぜひ、披露して欲しいと考えました。私たちは、エグテダーリさんが来日した翌日の16日には、8時間にわたるミーティングを実施、翌17日にもリハーサルを行って、万全の体制で尋問に臨みました。

○●○エグテダーリさん主尋問:イランの同性愛者迫害の実態が明らかに○●○

 18日午後2時。いよいよ、エグテダーリ氏尋問の法廷が幕を開けました。
 606号法廷は42席しか座席がありませんが、傍聴に参加するために詰めかけた人々はおよそ80人。チームSでは、主尋問と反対尋問で入れ替えを実施するほか、定期的に法廷の様子を控え室に伝えるスタッフを配置するなどの対応をとりました。その結果、多くの人に傍聴の機会があったと思っていますが、その一方、傍聴できなかった人もいたかも知れません。(ごめんなさい!!ニュースアップデイトでなるべく早く、尋問の記録を公開いたしますので今しばらくお待ち下さい)
 法廷では、エグテダーリ氏が宣誓を行ったのち、尋問が開始されました。シェイダさん側の主任弁護人・大橋先生の冷静な質問に対して、エグテダーリ氏の答えは、つねに多くの情報を含みつつ、かつ明晰なものでした。エグテダーリ氏の主な証言ポイントは以下のことです。
○イランにおいては、女性や少数民族、宗教的少数派の人権問題については、資料が豊富にあり、人権活動家も存在している。ところが、同性愛者の場合は、あまりに抑圧が厳しいので、イラン国内で同性愛者の問題を語ることのできる当事者がいない。また、イランからの亡命者から話を聞いても、イランの同性愛者の状況についての情報は全く得られない。
○イランの改革派ハータミー政権は、同性愛者に対するイランのこれまでの態度を変えることはできない。その理由は、ハータミー大統領がイランの司法府に対する権限を一切持っていないことと、ハータミー自身がイスラーム法学者であり、シャリーア(イスラーム法)において固定刑(ハッド)として定められている「ソドミー行為に対する処罰」について見直しをする立場に立つことができないということである。
○イラン・イスラーム刑法の規定では、同性間性行為の事実を認定するのに4人の男性の証言が必要であるため、犯罪の認定と処刑はきわめて難しいという主張は誤っている。イラン刑法には、4人の男性の証言以外に、本人の4回の自白、もしくは、裁判官が慣習的に正しいとされる方法によって犯罪の事実を認定し、有罪を宣告することができる(刑法120条)。これらから考えれば、同性間性行為によって人を処罰するのは著しく容易である。
○シャリーア(イスラーム法)は属人法であり、イスラーム教徒個々人がシャリーアが守られる社会を作るために社会に介入することが認められている。その結果、同性間性行為を行った人間に対して私的制裁が加えられても、それは国によって取り締まられることはないというのが現状である。
○同性愛者の人権を認めさせる活動をしている同性愛者は、刑法違反だけでなく、反体制派として当局による迫害を受ける可能性が高い。シェイダさんが属している「ホーマン」は、イランの憲法を変えることを綱領に掲げており、当然、反体制派として認識されている。

○●○シリアスながら決め手を欠いた反対尋問○●○

 一方、反対尋問は、最初のうちはエグテダーリ氏の職業について事細かに聞いたりと、時間つぶしとしか思えない展開を見せていました。しかし、中盤になって一つの波乱がありました。
 法務省側は、シェイダさん側が提出した最近の死刑の事例(2001年、イラン北西部の町で11歳の少年と性行為を持った男性がソドミー罪により死刑判決を受けたという、ロンドンで発行されているイランの新聞「ケイハン・ロンドン」の記事)について、エグテダーリさんに「この事例について原典を調べたか」と迫ってきました。
 この事例については、エグテダーリさんがこれまでに書いてくれた書面などと違い、シェイダさん側が独自に収集した事例だったので、エグテダーリさんはこのケースについて詳しくは知りませんでした。そこでエグテダーリ氏が「原典にあたったりはしていない」と答えたところ、法務省側は、外務省の調査報告書というものをいきなり示し、「外務省の調査報告書によると、『ケイハン・ロンドン』の記事のソースになっている新聞には、該当する記事が載っていなかったとのことである。あなたはどう思うか」と質問してきたのです。エグテダーリ氏は「何とも思わない」と一言で切って捨て、この質問は終わりになりました。
 この質問を見てもわかりますが、法務省側は、シェイダさん裁判で分が悪い状況に追い込まれている現状で、かなりの焦りを見せており、外務省の助力のもと、一生懸命、反転攻勢をはかろうとしています。今回の、外務省による報告書もその表れで、私たちとしても、最後まで気を抜かずに立証につとめていかなければならないと、覚悟を新たにしました。
 この質問以外は、法務省の尋問は気迫を欠く内容に終わりました。その後、裁判所からの尋問がありました。裁判官の「シェイダさんは、イランに帰ると証拠がなくても訴追される可能性がありますか」という質問に対して、エグテダーリさんは「はい」と明晰に答えました。

○●○最後まで手を抜けないシェイダさん裁判:次回法廷は3月18日○●○

 エグテダーリ氏の尋問は、当初の時間を30分以上にわたって延長する、気迫のこもったものになりました。最後の裁判官尋問では、3人の裁判官が身を乗り出して質問する姿が見られ、裁判官たちの熱心さが印象に残りました。今回の尋問は、ほぼ大成功に終わったと見て良いでしょう。

 

 


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