書面による証言
Written Testimony 本論文は、エグテダーリ氏がシェイダさん弁護団の求めに応じて、これまでにイランで行われた同性愛者に対する死刑のケースに関して整理・分析を試みたものである。イランにおける同性愛者への国家的な迫害について、現存する最も整理された資料となっている。 |
論点の要約 Argument
Summary 氈D次のような主張を続けている学者が一定数存在している。「イランでは同性愛またはレズビアニズムを唯一の理由とした処刑は行われていない」(移民難民委員会調査部、オタワ)。この主張は以下の3点において誤っている(詳細は以下にかかげる報告書全体を
参照のこと)。
.カナダ移民・難民委員会は、性的指向に基づく亡命申請を認めるかどうかについて、極めて明快な基準を設けている。
カナダ移民難民委員会はこの根拠に基づいて、一人の同性愛者の亡命を認めている(1993年)。まず第一の観点については、申請者が同性愛者であることを心理学者が証明した(.1)。次に、第二の観点について、イラン・イスラム共和国において同性愛者が迫害の対象となる少数者であることを示した(.2)。さらに亡命申請者は、自分が具体的に迫害の対象となる可能性について証拠をもって示した。この事例の場合については、申請者の父親が彼と彼のパートナーのことについて警察に通報し、警察がパートナーを逮捕したため、申請者個人についても逮捕状が発付されている可能性が極めて高かったのである(.3)。 。.ハータミー大統領が政権の座についてから、同性愛および姦通を含む道徳的な犯罪についての取り扱いが変化した、ということを主張する論者が存在する。しかし、事実は、またハータミー大統領の内閣による声明が意味するところは、単に処刑をを公開の場で行うことに反対するということに終始するのであって、彼らはイラン刑法自体に反対しているわけではない。 「.姦通および同性愛にかかわる犯罪については、立証基準が高く設定されているので、刑法に基づいて処刑を行うことは実際には防がれている、という主張が存在する。しかし同性愛と同じ立証基準が課せられている「姦通」において、多数の石打ち刑およびその他の刑罰が執行されていることに鑑みれば、こうしたいわゆる「犯罪」とされている行為を行った人々を起訴し、処罰することは、現行の司法機関にとって、大して難しいことではないことは明らかである。 論争 Arguments 氈DA.イラン・イスラーム共和国の現体制は、政治的反対派を貶めることを目的に、同性愛による有罪宣告を活用している。この分析は、1990年代にアムネスティ・インターナショナルによって発表された二つの極めて有名な事例に基づいたものである。これらの事例について重要なことは、同性愛は他の様々な有罪宣告のリストに並べられた一つの罪であり、同性愛または姦通をもって唯一の罪とするものではないということである。この現象は、現状で知りうる他の事例と異なったものである。
このような処刑の潮流は、最近においても同様に続いている。シアマク・ポウルザンド
Siamak Pourzand はジャーナリストで、2002年に逮捕されたが、彼は道徳的不品行 moral misbehaviors の罪によっても処罰された。彼が弾圧を受けたのは、彼の妻であり、現在米国でイスラーム体制に反対して人権と女性の権利のために闘っている活動家、メヘランギーズ・カアル
Mehrangiz Kaar 氏の活動を封じ、黙らせるためであると考えられている。これは、1997年に行方不明になったジャーナリスト、ファラージ・サルクヒ
Faraj Sarkuhi 氏においても同じである。このように、逮捕に関して証拠をでっち上げ、根拠のない告発 unsubstantiated
charges を行うことはイランの司法機関においてごく一般的に行われていることである。 氈DB.他の大部分の事例は、これらの例と類似していない。イランにおいては、同性愛者であるということ、または同性愛者として振る舞うことにより、男性も女性も死刑を含む暴力的な形で処罰される。公式の発表および報道によって示された最近の事例を以下に示す。
以下の証拠は、ニュージーランドおよびカナダにおいて難民認定を受けた申請者によって提出されたもの、および同性愛者向け新聞に掲載されたものである。
このタイプの処刑はイスラム革命の初期から繰り返されてきており、以下の情報を含む数多くの事例が報告されている。
氈DC.イランにおいては、同性愛者が、政府の介入を排して自らの生活を続けることを認める政治的もしくは宗教的な勢力に参加する
choose political or religious orientations ことは珍しくない。多くの同性愛者、とくに下層階級や宗教的な家庭を出自にもつ同性愛者は、男性で構成される神秘主義的な集団に参加する傾向がある。イランの神秘主義集団(スーフィズム=イスラム神秘主義、デルヴィーシュ=貧者、修行者)は、神への崇拝の一つとしての同性間の恋愛を含んだ愛の詩で有名である。従って、これらの神秘主義者に対する迫害は、以下にかかげる最近の二つの例を見ても明らかなように、つねに「異端」というよりも「同性愛」を理由として有罪宣告をうけるのである。これらの事例の場合、死刑に処された人が、神秘主義者となった同性愛者なのか、同性愛者である神秘主義者なのかを決定することは不可能である。
同様に、西洋的な教育を受けた人は、反体制的な政治勢力に参加する傾向がある。以下にかかげる事例は、ニュージーランドで亡命を認められた人物の事例であるが、この人物は同性愛者であるとともに、ツデー党
Tudeh Party (イラン共産党のこと)の熱烈な支援者であった。このケースの場合も同様に、同性愛者が、自分の同性愛者としての生活を守るために共産主義者となったのか、それとも自己の共産主義的な信条によって、自分の同性愛者としての性質を確認し、そこに安んじることを可能にしたのかを判断することは不可能である。
III.英国移民国籍部各国情報政策課 Country
Information and Policy Unit, Immigration and Nationality Directorate of
the UK によって編集されたイランの国別調査 Country Assessment of Iran に言及されている、カナダ移民難民委員会
Immigration and Refugee Board of Canada の調査報告とは反対に、イラン・イスラーム共和国からなされた最近の報告(2002年夏)では、テヘランおよび他の複数の主要都市において、法の執行のために新しく設置された部隊が配置についたことが明らかにされている。この部隊は、特殊部隊
Special Forces に属する制服警察官によって構成され、道徳的な犯罪を監視するための近代的な装置によって完全武装している。規範や道徳を侵したとみなされた者は、若者であれ何であれ、この部隊によって詳細な取り調べを課せられるのである。イランは現在、世界的な金融危機に見舞われ、政府の財政は弱体化しており、もし政府が刑法に書かれた規定を実際に執行することを望まないのであれば、わざわざこのような努力をするわけがないということは、容易に想像できるであろう。人々が集まっているところを急襲したり、道で人を逮捕するといったことは、ハータミー大統領が道徳警察
moral police の活動を管理したり、それを最小限に押さえようと努力していた過去数年間よりも、より一般的にみられるようになっている。
カナダ移民難民委員会調査部は次のように正しく述べている。「技術的には、同性間性行為はイスラームによって明確に拒絶されており、イランではイスラーム法(シャリーア)が導入されている。同性間性行為は、それを行った両者が成人であって、正常な判断能力を持って自由意志に基づいてそれを行ったと見なされた場合には、死をもって処罰される。それは、被告人が4回の告白を行うか、または4名の正常な認識能力を持った男性が行為を目撃したとの証言を行った場合、もしくはイスラーム法判事が、習慣的な方法を通じて引き出した知識に基づいて判断した場合に立証される」。しかしながら、「同性愛者の処罰に関する高い立証基準(があるために処刑は防がれている)」などというような主張は、同様な基準が採用されている「姦通」に関して、過去数年の間に、十数件の石打ち刑が執行されている以上、論じるに値する主張であるとは言えない。 また、こうした道徳的犯罪のケースが、一般法廷 general courtsで処理されている(から問題ない)という主張がなされているが、これは別の意味で、当事者を不安に陥れる議論である。一般法廷はイスラーム法判事によって運営されており、イスラーム法判事が、この宗教的な国を代表する検察官と裁判官を兼務している一方、陪審員は存在せず、またほとんどのケースにおいて被告を弁護する弁護人も存在しないのである。 結論 イランにおいて、同性愛者が地下において隠れて生活を営むことは可能であり、そのような生活を営む限り、(同性愛者に対する迫害が存在していた)かつての欧米諸国と同程度には安全であるということは明らかである。しかし、外国において庇護を求める法的手続を進めたことがあるなどして、同性愛者であることが知られている人がイランに帰国することは、極端に危険であるということができる。私はシェイダ氏の実名を知っておらず、会ったこともなく、彼の事例に関する個人的な知識も持っていない。(このように、彼に対して何らの私的利益もまじえない立場から)、私は、彼をイラン・イスラーム共和国に強制送還することが、彼を死刑の危険性さえも含む巨大な危険に陥れることになるであろうことを、はっきりと証言する。 |
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