昨年観た"幸福幻想"展 @ 国際交流フォーラム以来、アジアの現代美術が妙に 気になるTFJです。と言いつつ、去年の後半はあまり観る機会がなかったのだが。 ここにきて、東アジアの現代美術の展覧会をたて続けに二つ観た。まずは、 火の起源と神話 - 日中韓のニューアート Origin And Mythe Of Fire - New Art from Japan, China and Korea 埼玉県立近代美術館 一般展示室, 浦和市常盤9-30-1 北浦和公園内 (北浦和) 96/10/12-12/8, 10:00-17:00, 月休 - 西 雅秋 (Nishi Masaaki), 古郡 弘 (Furugori Hiroshi), 土屋 公雄 (Kimio Tsuchiya), 長澤 伸穂 (Nagazawa Nobuho), 呂 勝中 (Lu Sheng-Zhong), 黄 鋭 (Huang Rui), 陳 箴 (Chen Zhen), 徐 冰 (Xu Bing), 蔡 國強 (Cai Guo-Qiang), 李 升澤 (Lee Seung-Teak), 元 慶煥 (Won Kyung-Hwan), 李 相鉉 (Kee Sang-Hyun), 陸 根丙 (Yook Keun-Byung) 日本、中国、韓国の作家のインスタレーション作品を主にした展覧会。 全体として出来がよかったと思うが、特に興味を惹いたものについてだけ、 言及しよう。 やはり、最も興味を惹かれるのは火薬を使った爆発プロジェクトで知られる 蔡 國強。ビデオではなく実際にその爆発の時を観てみたいのだが。しかし、 この展覧会の前のオーストラリアでの爆発プロジェクトにおいて、花火工場が 爆発事故を起こしてしまったという。屋内の展示では、その時の経緯を書いた 白い布が壁にかけられ、彼の今までの爆発プロジェクトのビデオを上映して いるモニターに、客が水鉄砲で水をかける趣向になっている。自分の爆発を 消してくれとでもいうのだろうか、少々皮肉だ。屋外の積み上げられた薪の上の 消防車を燃やすというインスタレーションは、この事故のために中止したと いうが、やはり、やって欲しかった。 もう一つの興味深い作品は、長澤 伸穂の"摂氏233度"。Ray Bradburyの小説、 それをFrancois Truffautが映画化した"Fahrenheit 451" (「華氏451度」) で知られる紙の発火点。世界の焚書の歴史を題材にしたもの。炭の上に蝋で できた本を積み上げた作品は、やはり火をつけて溶かした方が面白いだろう。 焚書の歴史はこうしなくても知ることはできるわけだし、富山県立近代美術館で 1993年にあった天皇がらみの焚書にもっと焦点を当ててもいいように思ったが。 それに、自主検閲の問題の方が、現代では重要だと思うのだが。 徐 冰の蚕を使った"蚕書"もいいが、ローマ字と漢字を描いた二頭の豚を 交尾させる (展示はビデオだが)、"文化動物" − 英題の"A Case Study Of Transference"の方がしゃれていると思うが − が皮肉が利いていていい。 たしか、雄がローマ字で、雌が漢字だったような気がするのだが。 これが面白かったので、これに関連して、次の美術館に足を運んだ。 90年代の韓国美術から−等身大の物語 An Aspect of Korean Art in the 1990s 東京国立近代美術館 96/9/25-11/17, 10:00-16:30, 月休 - 李 英培 (Lee Bae), 朴 仁哲 (Park In-Churl), etc 炭をキャンバスに敷き詰めるように張りつけた上で平面を出して、さらにそれを 削ずり込んだ李 英培の作品は、炭の質感がとてもよくて気にいった。特に 表面を奇麗に磨いた"家具"は、光沢と木目が美しい。 朴 仁哲のインスタレーション"沈黙を守る物たち"は、動物の骨やワインボトルの 形をした炭化した木に、妙な既視感が。実は、Nicolas de Oliveira, et al "Installation Art" (Smithsonian, ISBN1-56098-347-7)に載っていたRachid Araeenが火災に遭った後、とでもいった仕上がりなのだ。このRacid Araeenの インスタレーションが、この本によれば、"The work of Rachid Araeen often focuses on his position as an outsider - an Asian artist within Western culture. His two floor pieces at the Showroom Gallery, London, is 1988 satirized the work of Richard Long. The rectangle was composed of real bones; the circle of empty wine bottles."というのなら、朴 仁哲の インスタレーションはRichard Longのインスタレーションに対してどういう 位置になるのだろうか。 この韓国の現代美術の展覧会も火を感じさせるものが多く、"火の起源と神話"展 と共通する火〜灰・炭・土っぽい色を持つ展覧会だったのが、興味深かった。 けれども、あるレベルを越えた美術展だったと思うからこそ、あえて書くけど、 なぜ「神話」や「等身大の物語」なのかな。1年半ほど前に"幸福幻想"展では、 NIES諸国の作家の作品が、まさに躍進するアジアを駆り立てている幸福の幻想を 暴くかのごとく辛辣というか居心地の悪さをかもし出していたのだが。この二つの 展覧会にはそういうあくどさがあまり感じられないのだ。僕のこの日常生活との 接点はどこにあるのだろう。この妙な居心地の良さが逆に僕を苛立たせることも あるのだ。 96/11/24 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕