ソフィ・カル『ダブル・ゲーム』 Sophie Calle, _Double Game_ ギャラリー小柳, 銀座1-7-5 (銀座), tel.03-3561-1896 1999/11/18-12/18 (日休), 11:00-19:00 ソフィ・カル『限局性激痛』 Sophie Calle, _Douleur Exquise_ 原美術館, 北品川4-7-25 (品川), tel.03-3445-0051, http://www.haramuseum.or.jp/ 1999/11/20-2000/2/27 (月休;年末年始休), 11:00-17:00 (水11:00-20:00) 写真とテキストとの組み合わせ、という手法を使い、物語性の高い作品を制作する フランス人女性作家 Sophie Calle の展覧会が、都内2個所で開催されている。 自分の私生活をネタに使った、ドキュメンタリー的というか、現実と虚構の曖昧さを 演出するところが特徴なのだが。そのネタが僕の興味とズレることが多いこともある のだが、今まで美術館や画廊で彼女の作品を観ても、テキストをちゃんと読もう という気になれないことが多かった。表現手段として美術館に展示するという やり方が不適切なのであって、本で読むようにすれば、けっこう楽しめるのでは ないか、と思うことも多い。今回の展覧会を観てもその印象は完全に拭いきれな かった。 US の小説作家 Paul Auster とのコラボレーションである『ダブル・ゲーム』の方は、 今まで僕が観た Sophie Calle の作品の中で最も美術作品らしいと思ったものだった。 それは、色や文字を扱った作品で、ぱっと見が綺麗というか、視覚に訴えるところが 多かったからのように思う。Calle をモデルにした登場人物 Maria を Paul Auster は小説 _Leviathan_ の中で登場させるのだが、そこで描かれている生活を、Calle は 自分の生活として再現して、そのドキュメントを制作している。Paul Auster の小説は 少々幻想的な作風があるのだが。例えば映画化するときはそれをいかにリアルに 観せるか工夫するわけだが、この作品では、それを非現実的な感じを生かすように 再現している。それも「色のダイエット」のように実際に料理を作ってみると色的に 綺麗だったり、「B、C、W の日」のようにレタリングすると文字の並びが綺麗 だったり、という所を選んでいる。そういう所が、作品をギャラリーのような空間で 観ても楽しめるものにしているように思う。この展示を観ていると、Paul Auster の 小説 _Leviathan_ も読んでみたいという気になる、という点でも、成功していると 僕は思う。 1984年の来日の際の失恋の経験を、写真とテキストで作品にした _Douleur Exquise_ は、今までに観た作品の印象から大きくズレることはなく、ベッドルームを再現した 一つのギャラリーを中心に、ざっと雰囲気だけ感じて、あとはカタログを買って ゆっくり読んだ方が良いように感じた。 さて、原美術館の展覧会といえば、イメージケーキ。Sophie Calle のケーキは、 固めのチョコレートケーキ "O Days To Happiness" とシュガーで書かれたケーキ。 _Douleur Exquise_ では失恋の日までの日のドキュメントの写真やテキストの上に 例えば "30 Days To Unhappiness" というスタンプが押されているのだけれども、 そのパロディですね。特に作り込んでいないけれども、ケーキを食べている今が 幸福、という感じの洒落になっているのがけっこう気にいった。もちろん、美味しい。 この2つの展覧会に関連して、Sophie Calle の映画『ダブル・ブラインド』 (_Double Blind_, 1992) がユーロスペースで上映されている (『第5回アート・ ドキュメンタリー映画祭』内、及び、来年2月に単独レイトショー。)。また、 2冊の本 ソフィ・カル『本当の話』(野崎 歓=訳, 平凡社) と ポール・オースター 『リヴァイアサン』(柴田 元幸=訳, 新潮社) も出版されている。 1999/11/28 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕