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    島8日目

    200年の月

    9・17(水)
    密度の濃い日々を送っている。東京では逢えないような人々にたくさん会った。
     今日はミサちゃんや、テルオーたちが帰る日。仲良くあそんで、気ごころの知れた仲間を見送るのは本当に切ない。でも、きっとまた逢えるだろう。
    「俺にとって、旅は非日常。旅先で会った人間とはもう逢うことがないだろう…」
    というようなテルオーの発言にわたしは薄笑いしながら「キミとはそうかもね〜」などといってみたりする。(しかし、彼はこの後の東京での飲み会をしたときやってきてた。)港でお別れをしたとき、彼がちょっと涙ぐんでいたのは潮風のせいではないと思う。

     この頃になるともう、いちばん長く残ってるのは私たちだけになった。
    昨日今日ですっかりみんな帰ってしまった。
    わたしとノリちゃんとドクちゃんは明日、船で帰る。
    みんな先に帰っちゃったからいいけどさ…今日は淋しい夕ご飯だ。切なく思う。

     今日は昨日かえってしまった人たちの分、ごっそりたくさんやってきた。今日やってきたミワちゃんを島の観光スポットに案内する。彼女は1泊しかしないそうだ。もうガイトもできるようになったな、と自分に感心する。

    浜に行くとミワちゃんと船が同じだったというユウコちゃんに逢う。
    ユウコちゃんとそのとき一緒にいたチヒロちゃんとドクちゃんが同じ大学だということを知る。「夕ご飯すぎに民宿に遊びにきたら〜」と誘う。

     今日は夕日の時間になっても浜に行く気がしなかった。外のベンチでボーっとぶらさがってる電球や、壁に這いつくばってるナキヤモリや、庭のガジュマルを眺めていた。今日が最後の夜だと思うと胸がぎゅっとなる。

    ドクちゃんが最後の夜だというので、夕ご飯の時には郵便局員さんが三線を弾きに来てくれた。杉本哲太に激似。あだ名はルパンだけど。

    それから漁師のおじさん(貝殻の浜を教えてくれた人)も「スモークにわとり」を持ってきてくれた。作りたてだからおいしいぞーという。
    にわとりそのまんまの形。みんなでちぎって食べる。
    おいしかった。
    食物の本当の味、だった。

    今日は、皆既月食の夜。
    浜で見ようと、宿泊してるみんなとニシ浜へ向かう。
    わたしはうきわを枕にしようと、抱えてあるいてたら「ガンジー、泳ぐの?」とドクちゃんが聞くので「今夜は、最後だから泳ぐよ〜」と言ってみた。そしたら、さすがガンジー、やりかねない、って呟いてた。

    ドクちゃん、ノリちゃん、ユウコちゃん、チヒロちゃん、シンちゃん、ミワちゃん、ルパン、フジコちゃん、キヨミちゃん、ヤマちゃん、わたし、の計11人で月影の濃い浜辺をそぞろ歩く。

    満月と海とサトウキビ畑。
    こんな感じで、わたしの世界が続いていったらいいのになぁ。
    あまりにも美しくて笑っちゃうくらい美しくて、哀しくて、わたしの内側も外側も満月だけが照らしていた。
    もうなんにもいらない、と思った。
    すべてのものに祈るような気持ち。

    月が少しずつ欠けていった。
    うきわの空気を少し抜いて、寝転んで見た。
    砂はひんやりしていた。
    みんなも寝転んでいた。

    視界が天の星でいっぱいになる。
    誰もじっと黙っていた。
    時折、流れ星が横切る。

    月と地球と太陽とわたしたちが一直線になった。

    もう、何もかも許せるなぁ。
    もうなんでもいいや。
    わたしのまま、でしかいられない。
    こんな大きいものの前では、祈ることしかできないもの。

    あまりにも静かで、夜空には雲の影さえもなくて、私たちがここにいる事の意味を考えた。出来すぎている。あまりにも。


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