発作性上室性頻拍(頻脈)について

                   by A.Tomiya (2005/5/15改訂)


目次


<どんな症状か?>

発作性上室性頻拍では, 心拍数が突然150拍/分以上に跳ね上がる,という発作(頻脈発作)が起きます.
ただちに命の危険は無いものの,胸苦しさやめまいを伴い,やがて手足が冷えてきて顔面蒼白になり,更にひどくなると意識が遠のいたり吐き気を催したりします.

発作の継続時間は短い時は1分以内ですが,まれに1時間以上も続くことがあります.
発作は自然に止まる場合がほとんどです.
しかし,どうしても止まらないときは救急病院へ駆け込み,薬を注射することなどによって発作を止めてもらうことになります.

#ちなみに,発作が始まる時も脈拍が突然150以上にぽんと跳ね上がるのですが,
 治まる時も突然70〜80にぽんと戻ります.

このタイプの不整脈は,治療せずにいたとしてもただちに命に別状はありません.
発作の起きていない時はまったくの健康体として生活できます.
ただし,いつ発作が起きるか,という不安はあります. 特に,発作が起こると致命的なことになりかねない業務に従事している人は要注意でしょう.


<なぜ起こるのか?>

簡単に言えば,心臓の拍動を行なわせる神経からの電気信号の伝播に異常があるために起こります. 多くの場合,WPW症候群 (Wolff-Parkinson-White Syndrome) (※) によると言われています. しかし,「房室結節リエントリー性頻拍」によって起こることもあります. これは,先天的に心臓に異常があって,本来は1本であるはずの房室結節内の伝導路が2本以上 (※※) 存在してしまうことが原因であり, 房室結節中の余計な伝導路(副伝導路あるいは遅伝導路)を通る電気信号がときどき悪さをして発作を誘発してしまいます.つまり,本来の信号は正常伝導路を通って心房から心室に入っていくのですが,過って遅伝導路を通った信号が正常伝導路を通って心房に再び戻ってきてしまう(リエントリーしてしまう)ことが起こり得ます. すると,正常伝導路と副伝導路の両者を介して信号がグルグル回り出して,心拍数が異常に跳ね上がってしまうのです.

(※) WPW症候群:先天的に心臓に異常があって,正常な伝導路(房室結節)以外にも心房と心室を短絡する副伝導路(ケント束)が存在してしまっているもの.発作性上室性頻拍を引き起こす最も一般的な原因.

(※※) 多い場合は伝導路が3本とか4本あることも...

発作は普通の状態ではなかなか起こらないのですが,過労・睡眠不足・強いストレスなどによって誘発されると言われています.


<治療方法?>

大きく分けて,薬物治療とカテーテル治療の2種のようです(2001年現在).

薬物治療

定期的に薬を飲むことにより発作を抑えるというものです.
対症療法的なので,発作を完全に止めることはできず,効果は60〜70%程度と言われています.薬の長期服用による副作用に対する懸念もあります.
手術を必要としないので,リスクが小さいというメリットはありますが, 多くの医者は下記で述べるカテーテル治療を勧めると思います(特に患者が若年者であればあるほど).

カテーテル治療(カテーテルアブレーション)

特殊な管(カテーテル)を鼠蹊部(脚の付根)などから血管を通じて心臓の内部にまで到達させ,頻脈の原因になっている副伝導路を高周波で焼き切る「カテーテルアブレーション」と言う治療方法が最近確立されてきました.発作の根本的原因を取り除くことができるため,根治が可能です.
患部の切開を行なわないため,患者の負担や危険性が小さく,優れた手術法です(最近の成功率は90%以上).
しかし,以下のように若干のリスクはあります.

現在(2001年当時),約2%の確率で合併症の危険があると言われています.
最も多い例が,出血(主に術後の止血の不完全),および気胸ですが,これらは命にはあまり関わらないとのことです.
命に関わるものとしては,0.2%程度の確率で,心破裂(カテーテルが突き破ってしまう),脳硬塞(焼灼によって生じた血栓が脳血管に詰まってしまう)等の心配があります.

手術による入院期間は,治療が順調ならば1週間以内です.ただし,もし治療中に何らかの問題(合併症等)が生じた場合には,それ以上に長引くことがあります.

手術時には,カテーテルを心臓に挿入した後,治療(問題部分の焼灼)に先立って精密な検査(心臓電気生理学的検査:EPS)がまず行なわれます.これにより頻脈のタイプが判定されます(WPW症候群か,房室結節リエントリー性か,など).

手術が成功すれば,頻脈の発作は全く起こらなくなります. ただ,治療で焼灼するべき場所が「スリリングな場所」(※)である場合, 焼灼を完全に行なうことができず,もしかしたら発作が再発してしまうこともあります.(2週間程度のうちに,火傷が直るのと同様にして,焼灼した部分が元に戻ってしまう可能性がある.)

(※)「スリリングな場所」とは,焼灼するべき場所(余分な伝導路)が正常な伝導路に非常に近い,という意味です.ちなみに,もし過って正常な伝導路を傷つけてしまうと,完全房室ブロック(心房から心室へ電気信号が伝わらなくなる)になってしまい,一生ペースメーカのお世話にならなければなりません.

カテーテルは右首や右鼠蹊部などから入れます. 術後の止血では数時間の安静が必要ですが,このとき止血がうまくいかないこともあります. (これは,血栓防止用に血液が凝固しにくくなる薬を使うことも要因でしょう.) 止血がうまくいかないと,安静解除のときに,一旦塞がった傷口がぱっくり開いて血が噴き出してしまいます. その場合は,もう一度止血&安静をすることになります.
普通は,手術を受けたその日の夜には歩けるようになります. 術後,傷口に直径数cm〜10cmくらいの皮下出血が見られることがありますが, 2〜3週間のうちにほとんど跡は消えます.

ちなみに,術中も心臓はずっと動かしたままです.:-)
普通は局部麻酔(カテーテルを入れる場所のみ)なので,心臓にカテーテルを入れている間もずっと起きていて,医師たちの会話なども全て聞こえます. 術中,特にカテーテルの挿入時にはそれなりに痛いですが,歯医者さんでの痛み程度を想像していれば当たらずとも遠からずです. むしろ,心臓電気生理学的検査のときに人為的に頻脈の発作を起こされ続けることの方が苦しいかもしれません.(カテーテルの位置を変えながら頻脈の発作を電気的に起こさせて,問題の部位を探る.)
心臓が電気信号によって動くポンプである,ということが実感できるでしょう.(^^;


<参考>

書籍

・NHKきょうの健康 Qブック11
 「動悸、脈が飛ぶ、気が遠くなる 不整脈」
 監修=飯沼宏之 NHK出版編  定価750円+税 2001年1月15日第1刷

web

不整脈(札幌厚生病院循環器科のページ;図解入りで詳細)
不整脈(日本心臓病学会のページ)
最新治療情報:心臓の病気(NHK「きょうの健康」のページ)
心臓病の不安/WPW症候群(NHK「健康ほっとライン」のページ;分かりやすい)
心臓の電気現象/カテーテルアブレーション(けいはい労災病院のページ)
googleなどでキーワード検索すれば,他にも多数の関連ページがヒットします)

カテーテルアブレーションが受けられる病院

心臓血管研究所付属病院
三井記念病院
榊原記念病院
・その他,各種大学病院や大規模病院(循環器内科があり,不整脈専門のスタッフがいること)
注意:私は心臓の専門家ではありません. 本ページの内容は,循環器内科の医師の話,関連する図書やweb,などから得た情報から私が理解した(と思っている)ことを書いたものですので,正確なところは専門の医師にご確認下さい.

Tomiya's Home Page に戻る
(since Feb. 21, 2008) +28696+314+α (since May 7, 2001)

Created:May,7,2001