スタートアップが資金調達する方法

(原文:Paul Graham, "How to Fund a Startup" (http://www.paulgraham.com/startupfunding.html)。日本語訳:森田尚。転載許諾はGeneral FAQを参照)

2005年11月

(この記事は、スタートアップの創業者が資金を調達する際にどういう選択肢があるか、網羅的にまとめようというものだ。これは事実上、資金調達について私たちがY Combinatorで創業者たちに伝授している知識のカーネルをオープンソース化することに等しい。)

ベンチャーの資金調達はギアのように動作する。典型的なスタートアップは資金調達を何ラウンドか経験するが、各ラウンドであなたがなすべきは、次のギアにシフト可能な速度に達するべく、きっかり必要な額の資金を手に入れることだ。

このことを正しく理解するスタートアップはほとんどない。多くは資金が足りない。資金過剰なところもいくつかはあって、それはまるでサードギアに入れて発進しようとしているようなものだ。

資金調達をよりよく理解することは、創業者のためになるだろうと私は考えている――仕組みだけではなく、投資家が何を考えているかを理解するのだ。私が最近気がついて驚いたことに、私たちが自分たちのスタートアップで直面した最悪の問題はすべて、競合相手が原因ではなく、投資家が原因だった。それに比べれば競合相手の扱いは簡単だった。

私たちの投資家が全くの足手まといだったなどと言うつもりではない。例えば、彼らは条件交渉の際には助けになってくれた。私が言いたいのは、投資家との衝突はとりわけ厄介だということだ。競合相手は顎にパンチを食らわしてくるが、投資家ときたらこちらの急所を握っているのだ。

明らかに、私たちの状況は珍しいものではなかった。そしてもし投資家とのトラブルがスタートアップにとっての最大の脅威のひとつなら、それを制御するのは創業者が学ばなければならない最も重要なスキルのひとつだ。

ではまずスタートアップの資金調達の5つの資金源についての話から始めよう。そして次に、架空の(とても幸運な)スタートアップが、連続したラウンドで成功してギアを上げていくその生涯を追っていこう。

友人と家族

多くのスタートアップは友人や家族から最初の資金を調達する。例えばExciteがそうだった。創業者たちは学校を卒業した後、会社を始めるために両親たちから$15,000を借りた。若干のパートタイムの仕事のおかげもあって、それで18か月の間もたせることができた。

もしあなたの友人か家族がたまたま裕福だったら、彼らとエンジェル投資家との間の区別はぼやけてくる。Viawebで私たちは最初の$10,000のシードマネーを私たちの友人であるJulian[訳注1]から得たが、彼は十分に裕福だったので彼を友人とみなすべきかエンジェルとみなすべきかの区別は難しい。彼は弁護士でもあり、それは素晴らしいことだった。というのも、それは弁護士費用をその最初期の少額の資金から支払わなくてよいということを意味していたからだ。

友人や家族から資金を調達することの有利な点は、彼らは見つけやすいということだ。あなたは彼らを既に知っている。不利な点は主に3つある:あなたが事業と個人的な人生をごっちゃにしてしまうという点、彼らはエンジェルやベンチャーファームほど広くはコネクションがないだろう点、彼らは適格投資家(accredited investor: 自衛力のある認定投資家)◆→用語要確認←◆ではないかもしれないという点。これらは後であなたの人生を複雑にする可能性がある。

SEC(Securities and Exchange Commission: 証券取引委員会)は、「適格投資家」(accredited investor)を、$1,000,000を超える流動資産を持っているか$200,000以上の年収を持っている人と定義している。企業の株主がみな適格投資家である場合、わずらわしい規制がずいぶん軽減される。いったん一般公衆から資金を得ると、できることがより制限されることになる[1]

もし投資家のなかに一人でも適格投資家でない者がいると、スタートアップの生涯は法的な面でより複雑になる。IPOにおいては単に費用が上乗せされるだけではなく結果に影響を与えるかもしれない。それについてある弁護士に聞いてみたところ、こう言った:

企業が株式公開するとき、SECはその企業による過去のすべての株式発行を注意深く調べて、過去に証券取引法上の違反がひとつでもあれば直ちに対処することを要求するだろう。それらの是正措置はIPOを遅らせたり、立ち往生させたり、失敗させてしまったりさえする。

もちろんスタートアップがIPOを行う可能性は低い。しかし見た目ほど低くはない。株式公開をした多くのスタートアップは、当初はそうなるようには見えなかった。(WozniakとJobsが余暇に始めた、マイクロコンピュータの設計図を売るスタートアップが◆→事実関係要確認。plansは設計図でOK? 確かにApple Iはキットだったようだが……←◆、1980年代最大級のIPOを果たすなんて、誰が予想できただろうか?)スタートアップの価値の大半は、その小さな可能性に莫大な結果を掛けた積でできている。

だが、私が私の両親にシードマネーを求めなかったのは、彼らが適格投資家でなかったからではない。私たちがViawebを始めたとき、私は適格投資家という概念を知らず、投資家のコネクションの価値について考えようともしなかった。私が両親から資金を受け取らなかった理由は、財産を失ってほしくなかったからだ。

コンサルティング

スタートアップが資金を調達するもうひとつの方法は、仕事を得ることだ。なかでも一番いいのは、あなたがスタートアップとして売りたい何らかのソフトウェアを作れるようなコンサルティングプロジェクトだ。そうすれば徐々にコンサルティング企業からプロダクト企業へと変化していくことができ、そして顧客にあなたの開発費用を支払ってもらうことができる。

これは子供がいる人にとってはいいプランだ。スタートアップを始めることからリスクの大半を除いてくれるのだから。無収入の期間は存在しない。しかしながらリスクと報酬は比例する:スタートアップを始めるリスクをカットしてくれるプランは、同様に平均的なリターンもカットすると考えるべきだ。このケースでは、経済的なリスクを軽減するのと引き換えに、あなたの会社がスタートアップとして成功しないというリスクを増大させることになる。

でもコンサルティング会社というのはスタートアップじゃないのかい? いいや、一般にはそうではない。スタートアップであるためには、企業は単に小さくて新規に興されただけでなく、それ以上のものでなければいけない。アメリカには何百万もの小さなビジネスが存在するが、そのうちスタートアップは数千しかない。スタートアップであるためには、サービス業ではなくプロダクトビジネスでなければならない。物理的実体のある何かを作らなければならないという意味ではない。個々の顧客に対してカスタムで仕事をするのではなく、多くの人に売れる商品をひとつ持っている必要があるという意味だ。カスタムの仕事はスケールしない。スタートアップであるためには、結婚式や祭事のひとつひとつで演奏して稼ぐバンドではなく、曲のコピーを何百万も売るバンドになる必要がある。

コンサルティングの問題点は、顧客には、あなたに電話をかけてくるという厄介な癖があるという点だ。ほとんどのスタートアップは失敗すれすれのところでしのいでおり、顧客の相手をしなければならずに集中力がそらされれば、あなたは崖っぷちの向こう側へ追いやられかねない。特にスタートアップとしてフルタイムで働いている競合相手がいる場合はそうだ。

だからコンサルティングでいくのなら、あなたは強く自律しなければならない。この容易だが利益幅の小さな資金に依存する「雑草の大きくなったもの」(weed tree)へと会社が変貌してしまわないように、あなたは活発に働かなければならない。[2]

実際のところコンサルティングの最大の危険は、失敗の言い訳を与えてくれることかもしれない。スタートアップでは、大学院と同じように、結局のところあなたを突き動かすものの多くは、あなたの家族や友人からの期待だ。いったんスタートアップを始めて、自分がやっていることをみんなに言ったなら、あなたはこうラベルが付けられた道にいることになる:「金持ちになるか、潰れるか。」あなたはいまや金持ちにならなければならない。そうでなければ失敗なのだ。

失敗を恐れる気持ちは、尋常ではなく強い力になる。通常それは人が何かを始めることの妨げになるが、いったん何か明確な野心を公にすると、それは方向を変えてあなたの味方として働き始める。逆らいがたい力を、それよりは少しなんとかなりそうな金持ちになるという目標に対抗するように仕掛けるというのは、なかなかに頭のいい「柔術」だと私は考えている。あなたが口にした野心が、単にコンサルティング会社を始めていつの日かスタートアップになるというものなら、それはあなたを突き動かしたりしないだろう。

製品を開発する方法としてのコンサルティングの有利な点は、少なくとも一人の顧客が欲しがるようなものを作っているとあなたが知っていることだ。しかしもしあなたがスタートアップを興すのに必要な資質を持っているなら、こんな松葉杖は必要ないほどの洞察力を十分に持っているはずだ。

エンジェル投資家

エンジェルは裕福な個人たちだ。この言葉は最初ブロードウェイの演劇の後援者たちを指して使われたが、今では個人投資家一般に対して使われる。技術分野でお金を稼いだエンジェルが望ましい。それには2つの理由がある:あなたが置かれた状況を彼らは理解するし、人脈と助言の提供元でもあるからだ。

人脈と助言はお金よりも大事かもしれない。del.icio.usが投資家たちから資金提供を受けたとき、彼らは誰にもましてTim O'Reillyからの投資を受けた。彼が投じた金額は、そのラウンドを率いたVCに比べれば小さかったけれども、Timは頭が良くて影響力のある男だから、彼を味方につけておくのは良いことだ。

コンサルティングや家族友人から得たお金はどう使おうと構わない。だがエンジェルはベンチャーに資金調達する専門家なのだから、ここでイグジット戦略(exit strategy)という概念を導入しておこう。年若い創業志望者たちがよく驚くことに、投資家たちは会社の売却ないしは株式公開を期待している。というのも、投資家は彼らの出資を取り戻す必要があるからだ。彼らはイグジット戦略を持った企業しか相手にしないだろう――つまり買収されるか株式公開するかが可能な企業だ。

これはそれほど身勝手なことではない。大きな技術系企業で株式非公開のところはほとんどない。失敗しなかったところは買収されるか株式公開をしているようだ。その理由は、従業員もまた投資家だということ――彼らの時間を投資している――そして彼らもできるだけ投資を現金化したがっている。もしもあなたの競争相手が、裕福になれるかもしれないストックオプションを従業員に提供して、一方あなたは株式を公開しないままという方針をはっきりさせたなら、あなたの競争相手は一番優秀な人たちを手に入れるだろう。だから「イグジット」の原則は、ただ投資家からスタートアップに押し付けられる何かではなく、スタートアップがスタートアップであることの本質の一部だ。

ここでもうひとつ、評価価値(valuation)という概念を導入する必要がある。企業の株を誰かが買うとき、それによって暗黙のうちに企業の価値が決まる。もし誰かが企業の10%を得るのに$20,000を支払ったら、その企業は理論上は$200,000の価値があることになる。「理論上は」と言ったのは、初期の投資における評価価値算定はまじないのように曖昧なものだからだ。企業がより確固たるものになるにつれ、その評価価値は実際の市場価値に近づく。しかし新しく創業されたスタートアップでは、評価価値の数字は関係者全員の寄与それぞれから結果的に出来上がったものでしかない。

スタートアップは、低い評価価値での投資を許すことによって、何らかの形で会社を助けてくれる投資家に「支払い」をすることがよくある。もし私がスタートアップをやっていて、そこにスティーブ・ジョブズが投資したいと言ってきたら、彼が投資していると吹聴できるというだけのために、$10で株式を譲るだろう。残念なことに、企業の評価価値を投資家ごとに上げたり下げたりして調節するというのは(もしも違法でなかったとしても)現実的ではない。スタートアップの評価価値は時がたつにつれて増すということになっている。だから有力なエンジェルに株を安く売ろうと思っているなら、企業の評価価値が低くて当然の早期のうちにそうすることだ。

エンジェル投資家のなかには、一緒になって組織を作っている者たちもいる。人々がスタートアップを興すような都市ならどこでも、そういうグループがある。ボストンで最大のものはCommon Angelsだ。サンフランシスコのベイエリアではBand of Angelsだ。Angel Capital Associationで、最寄りのグループを見つけられる。[3]しかし、ほとんどのエンジェル投資家はこういったグループには属していない。実際のところ、エンジェルが著名であるほど、グループに属する可能性はより少ない。

エンジェルグループのなかには、あなたのアイデアを彼らに売り込む際に金を取るものがある。言うまでもないことだが、これは絶対に受け入れるべきではない。

エンジェルグループや投資事務所ではなく個人のエンジェルから投資を受けることの危険のひとつは、彼らには守るべき名声が少ないということだ。有名なVCファームはあなたをそれほどひどく食い物にしたりしないだろう。他の創業者がその話を聞きつけたら、彼らを避けるだろうから。個人のエンジェルに対しては、この防御は使えない。がっかりしたことに、私たち自身のスタートアップでそれを経験した。多くのスタートアップの生涯において、投資家の慈悲を乞うような場面がある――資金が尽き、補う手段は既存の投資家しかないというような時だ。私たちがそのような窮地に陥ったとき、私たちの投資家はそれを、ブランド名のあるVCならおそらくしなかったようなやり方で利用した。

しかしエンジェルには逆に有利な点もある。彼らはVCが縛られているようなたくさんの規則に縛られていない。だから例えば資金調達のラウンドでいくらかの株を投資家に直接売却して一部現金化することを創業者に許すことができる。これはもっと普通のことになるだろうと私は考えている。平均的な創業者はそうしたがっているし、例えば数十万ドル分の株を売却したとしても、ほとんどの創業者については、VCが恐れるように前ほど仕事に没頭しなくなるなんてことはない。

私たちを搾取しようとした当のエンジェルが、これをさせてくれた。だから差し引きでは私は怒りよりも感謝を感じている。(家族と同様に、創業者と投資家との関係は複雑なことがある。)

エンジェル投資家を見つける一番の手は、個人の紹介を頼ることだ。近くのエンジェルグループに飛び込みで連絡してみることもできるけれど、エンジェルはVCと同様に、自分が尊敬している誰かが推薦する案件に、より強い関心を持つだろう。

エンジェルとの契約条件はいろいろだ。一般に受け入れられた標準というものはない。エンジェルの契約条件がVCのそれと同じくらい臆病で心配性なものであることも、時としてある。そういうエンジェルを除けば、特に初期段階では、2ページの契約書で投資をしてくれるだろう。

たまにしか投資しないエンジェルは、どういう条件を望んでいるのか自分でも分からないかもしれない。彼らはただこのスタートアップに投資したいのだ。株式の希薄化防止策については、どういうものを彼らは望んでいるのだろう? 知るわけがない。こうした状況では、契約条件は行き当たりばったりなものになりやすい:エンジェルは自分の弁護士に普通の契約書を作るよう依頼し、契約の文言はその弁護士が普通だと信ずるものになる。それは実際にはどういう意味かというと、彼が自分の事務所で手近に見つけた既存の契約書ということだ。(法的文書が一から起こされることはほとんどない。)

こういった定型文書の山は、小さなスタートアップにとっては問題だ。というのも、書類は先行する全ての文書の集合となってふくれあがる傾向にあるからだ。私が知っているあるスタートアップは、エンジェル投資家と握手を交わしたのだが、その握手は500ポンドの重さがあることが後で分かった:投資を決めた後、エンジェルは彼らに70ページの契約書を提示したのだ。そのスタートアップは条件を交渉するどころかその契約書を読んでくれる料金さえ弁護士に払えなかったので、取引は流れてしまった。

この問題の解決策の一つは、エンジェルの弁護士ではなくスタートアップの弁護士に契約書を作ってもらうことだろう。エンジェルのなかにはこれに反対する者がいるかもしれないが、大半はたぶん歓迎するだろう。

経験が浅いエンジェルは高額の小切手を切る段になるとおじけづくことがよくある。私たちのスタートアップでは、最初のラウンドで2人のエンジェルのうち一人が何か月も支払いを延ばしたすえ、私たちの弁護士から何度も口うるさく言われてやっと支払ったことがあった。私たちの弁護士が彼の弁護士でもあったのは幸運だった。

投資家が支払いを遅らせる理由は明白だ。スタートアップへの投資はリスクが高い! 会社が出来てからたった2か月しかたっていなければ、1日待てば会社の軌道に関するデータが1.7%増える。しかし投資家は既にそのリスクを株価の安さで埋め合わせているのだから、遅らせるのは不当だ。

公正だろうがそうでなかろうが、あなたが隙を見せれば投資家はそうする。VCさえそうする。そして資金調達における遅延は創業者たちの気を散らすことこのうえない。創業者は会社の仕事をすべきで、投資家について心配している暇はないというのに。じゃあスタートアップはどうしたらいいだろうか? 投資家に対しても買収元に対しても、唯一のレバレッジ手段は競合させることだ。もし投資家が、他の投資家が控えていると知ったら、取引で合意したがる気持ちはより強くなるだろう。それは単に取引が不首尾に終わることを心配しているからではなく、他の投資家が興味を示しているのならあなたには投資する価値があるに違いないからだ。買収についても同じことだ。誰か別の人間が買おうとするまで、あなたを買いたがる者はいない。そして誰かが買おうとしたら、誰もがあなたを買いたがる。

取引で合意に達するための鍵は、別の選択肢を探すことを決してやめないことだ。投資家があなたに投資したいと言ったり、買収元があなたを買いたいと言ったりしたら、小切手を切ってもらうまでは信じないことだ。投資家がイエスと言ったなら、あなたは安心してコードを書きに戻るというのが自然な傾向だろう。ああ、そうはできないんだ。この投資を成功させるためにも、あなたはさらに多くの投資家を探しつづけなければならない。[4]

シードファンディングファーム

シードファームは、比較的少ない額を初期において投資するという点ではエンジェルと似ているが、それを業務として行うという点では、本業の傍らたまに投資する個人よりもむしろVCに似ている。

今にいたるまで、ほぼすべてのシードファームはいわゆる「インキュベータ」だったので、Y Combinatorもそう呼ばれている。しかし私たちと彼らに共通しているのは、最初期に投資を行うということだけだ。

National Association of Business Incubatorsによると、合衆国には約800のインキュベータが存在する。これは驚くべき数字だ。というのも私は多くのスタートアップの創業者を知っているが、インキュベータで創業した者は一人も思い浮かばないからだ。

インキュベータとは何だろうか? 私自身もはっきり分からない。彼らの用意した空間で働くということが、定義の鍵となる特徴のように思える。「インキュベータ」(孵卵器)という名前はそこに由来する。その他の点では各インキュベータは大きく異なる。極端な一例は、政府の補助金目当てのプロジェクトの類で、市が州政府から資金を得て、入居者ゼロの建物を改修して「ハイテク・インキュベータ」にするというものだ。まるでこの市が今までスタートアップハブにならなかったのは、単に適切なオフィススペースがなかったせいだとでもいうように。もう一方の極端な例には、Idealabのように組織内の新しいスタートアップのためのアイデアを出して、彼らのために働く人を雇うというものがある。

古いバブル期のインキュベータは、いまやほとんどが死に絶えたようだが、資金提供先のスタートアップにおいて相当大きな役割を演じたというところを除けばVCと似ていた。スタートアップは、彼らのところで働くことに加え、彼らの事務スタッフや弁護士や会計士などを使うということになっていた。

インキュベータがVCよりも支配力を行使する傾向にある(あった)のに対し、Y Combinatorはその反対だ。

そして私たちは、スタートアップが自分の家を拠点にするほうが、それがどんなにおんぼろでも、彼らの投資家の事務所よりはいいと考えている。だから私たちが「インキュベータ」と呼ばれ続けるのは心外だ。だがひょっとするとこれは避けられないことなのかもしれない。というのも、今のところ私たちは他に似たものがないし、私たちを表現する適当な言葉もない。もし私たちが何らかの名前を選ぶとしたら、明確なのは"excubator"だろう。(この名前は、私たちは誰かがキュービクル(パーティションで区切られたオフィス)から逃げ出すのを手伝うという意味に捉えれば、許容しやすくなる。)

シードファームは個人からなる集団というよりは企業なので、エンジェルよりも連絡をつけやすい。彼らのWebサイトへ行ってメールを送るだけでいい。個人的な紹介の重要性はケースによるが、エンジェルやVCよりは低い。

シードファームが企業であるということは、投資のプロセスがより標準化されているということでもある。(エンジェルグループについても一般的には同じことが言える。)シードファームは多分、すべての投資先スタートアップに使う既定の取引条件を用意しているだろう。取引条件が標準的だということは、あなたにとって好ましいということを意味しているわけではないが、他のスタートアップたちが同じ契約書にサインをしてその後うまくいったとしたら、それは条件が道理にかなったものであるというしるしだ。

シードファームは、最初期の段階――まだ会社がアイデアでしかないこともしばしばある――に限って投資をするという点で、エンジェルやVCとは異なっている。エンジェルや、そしてVCファームですら、たまにそうすることがあるが、彼らは後の段階においても投資を行う。

初期段階では問題となる点が異なる。例えば、最初の数か月でスタートアップは彼らのアイデアを完全に考え直してしまうかもしれない。だからシード投資家は通常、人間を気にするほどにはアイデアを気にはしない。これはベンチャーの資金調達のすべてにおいて真実だが、シード段階では特にそうだ。

VCと同様に、シードファームのいいところは、彼らが授けてくれる助言にある。しかしシードファームはより初期の段階で介在するので、違った種類の助言を提供しなければならない。例えば、シードファームは、どうやってVCにアプローチするかについて助言できてしかるべきだ。当然だが、VCはその必要はない。一方VCは、どうやって「上級管理職のチーム」(executive team)を雇うかについて助言できてしかるべきだ。これはシード段階では気にしなくてよい事柄だ。

最初期段階では、多くの問題は技術的なものだから、シードファームはビジネスの問題と同様に技術的な問題でも支援を提供できてしかるべきだ。

シードファームとエンジェル投資家は一般的にスタートアップの初期段階に投資したがる。そして次のラウンドでは彼らをVCへと受け渡す。しかし、時折スタートアップがシード資金調達から買収へと直接移行することがあり、そして私はそれがもっと当たり前のことになるだろうと思っている。

Googleは積極的にこのやり方を追求しており、今やYahooもそうだ。両方とも今ではVCと直接競合している。これは賢い動きだ。なぜ次のラウンドでスタートアップの値段が高騰するまで待つんだ? VCがスタートアップへ投資するのに十分な情報を得るころには、買収元も買収するのに十分な情報を手に入れているはずだ。実際にはより多くの情報を得ているだろう。技術レベルが高い分だけ、VCより買収元のほうが、優秀なスタートアップを見分ける能力に長けているはずだ。

ベンチャーキャピタルファンド

VCファームは、本物の企業であるという点ではシードファームと同様だが、彼らは他人の金を、そしてより大きな額を投資する。VCの投資額の平均は数百万ドルだ。だから彼らはスタートアップの生涯においても、より後の段階で登場する傾向にあり、獲得するのがより難しく、そして条件が厳しい。

「ベンチャーキャピタリスト」という言葉はベンチャー投資家全般を指してゆるく使われることがあるが、VCとその他の投資家との間にははっきりとした違いがある:VCファームはヘッジファンドやミューチュアルファンドと同様のファンドとして組織されている。「ジェネラルパートナー」と呼ばれるファンドマネージャ(資金運用担当者)たちは、運用報酬(management fee)として年間でファンドの約2%を、さらに加えてファンドの利益(gain)の約20%を受け取る。

VCファームの運用実績は、互いにとても大きな差がある。というのも、VCというビジネスにおいては成功と失敗の両方が自身の立場を強化するように働くからだ。GoogleがKleinerとSequoiaにとってそうだったように、投資が大成功に終われば、VCにとって良い評判が大いに広まる。そして多くの創業者は、成功実績のあるVCから資金を調達することを好む。それがお墨付きを与えてくれるからだ。こうやって(敗者の視点から見たところでは)悪循環が始まる:実績の悪いVCは、大魚が拒絶した案件しか手に入れることができず、そのせいでさらに実績が悪くなるのだ。

結果として、合衆国の何千というVCファンドのうち、儲けている様子なのはたった50で、このグループに新しいファンドが入り込むのはとても難しい。

ある意味、地位の低いVCファームは創業者にとって特売品だ。有名なファームほどに頭が切れたり良い人脈を持っていたりはしないかもしれないが、取引を成立させたいという気持ちはずっと強い。これはつまり、彼らとのほうがより良い条件で取引できるはずということだ。

良い条件って、どういうふうに? 一番分かりやすいのは評価価値だ:彼らはあなたの会社のより少ない部分しか持っていかない。しかしお金と同じく、権力というものもある。私は創業者がCEOに留まるケースが増えると考えている。そして長期的にはそのおかげで創業者を後で解雇することは相当に難しくなるだろう。

私が予測する最も劇的な変化は、自分の株のいくらかをVCファームに直接売却して部分的に現金化することを、VCが創業者に許すようになるというものだ。VCは伝統的に、最終段階の「会社が流動資産になるイベント」(liquidity event)までは、創業者が何物も手にすることを許さなかった。しかし彼らは同時に、取引も成立させたくて仕方がない。そして、創業者から株を買うことに反対するこの規則は馬鹿げていると私は経験から知っているので、ベンチャーの資金調達がどんどん売り手市場になるにつれ、そのようになるのは自然なことだ。

あまり知られていないファームから資金を調達することの不利な点は、それが正しかろうがそうでなかろうが、あなたがもっと高名なファームに拒絶されたのだと人々は推測するだろうということだ。しかし出身大学と同様に、何らかの測定可能な成果があなたにあれば、あなたのVCの名前など何でもなくなる。だからあなたに自信があればあるほど、有名なVCは必要なくなる。私たちはViawebの資金をエンジェルだけで調達した。よく知られたVCファームの後ろ盾が、自分たちの印象をより良くするだろうというような状況は、私たちには一度も起きなかった。[5]

知名度の低いファームのもうひとつの危険は、評判を守る必要性がより少ないということだ。ハッカーの間でVCがあれほどまでに悪評紛々なのは、地位が低いファームにその責任の大部分があると私は睨んでいる。彼らは二重の困難に陥っている:ジェネラルパートナー自身が能力に劣るというのに、より難しい問題を解決しなければならない。というのも、トップVCが良い案件を全部持っていってしまい、地位の低いファームには失敗しそうなスタートアップしか残されていないからだ。

例えば、地位の低いファームは、あなたと取引をしたがっているようなふりをする可能性がずっと高い。自分が本当はどうしたいのか決める間あなたを釘付けにするだけのために。これはある経験豊富なCFOの言葉だ:

程度のいいファームは普通、本当に取引したくならない限りタームシート(term sheet, 条件概要書)を出さない。二流、三流のファームは破談になる確率がずっと高い――50%近くにもなる。

理由は明らかだ:地位の低いファームが最も恐れるのは、幸運が骨を投げてくれたときに、もっと大きな犬がそれに気づいて持っていってしまうことだ。大きな犬たちはそれを心配する必要はない。

このトリックに引っかかると、あなたはひどい痛手を被ることになりかねない。あるVCから聞いたところによると:

もしあなたがVC4社と話していて、うち3社にタームシートを受け入れた旨話した後で、彼らに電話をかけ直してあれは冗談だったと言わなくちゃいけなくなったら、あなたは完全に商品として傷物だ。

完全ではないが解決策がある:VCがタームシートを出してきた時に、過去に提示した10枚のタームシートのうち、実際に取引成立にいたったのは何件あるか尋ねることだ。こうすれば、もし彼らがあなたを誤解させたがっているなら、少なくともあからさまに嘘をつくことを強制することになるだろう。

VCファームで働く人がみなパートナーというわけではない。ほとんどのファームではアソシエイトやアナリストなどと呼ばれる下位の社員が少数いる。もしVCファームから電話がかかってきたら、彼らのWebサイトに行って、電話で話した相手がパートナーかどうかを確かめること。たぶん下位の誰かだろう。彼らは自分の上司の投資対象になりそうなスタートアップを探して、Webを漁り歩いている。下位の社員たちはたいてい、あなたの会社に対してとても積極的な様子に見えるだろう。別に彼らは演技をしているわけではない。彼らはあなたがホットで有望な候補だと信じたいのだ。もし彼らの見つけた会社にファームが投資することになれば、彼らにとっては大手柄だからだ。この楽観主義に欺かれてはいけない。決定権があるのはパートナーで、彼らはもっと冷めた目でものを見る。

VCは大きな額を投資するので、彼らからの資金にはより強い制限が伴う。ほとんどは会社がトラブルに陥らない限り効力を持たない。例えばVCは一般に、いかなる売却においても最優先で彼らの投資を取り戻す旨を条件に盛りこむ。だから会社が低い価格で売却されたなら創業者には何も残らないかもしれない。VCのなかには、いかなる売却においても、通常の株主(つまりあなたのこと)が何物かを得るよりも先に、自分の投資額の4倍を取り戻すことを要求するところもあるが、しかしこれは行き過ぎで阻止すべきものだ。

高額な投資のもうひとつの違いは、創業者は通常「ベスティング」(vesting)を受け入れることを求められる――株を手放して、その後4-5年間かけて取り戻すというものだ。創業者がただ立ち去ることもできる企業にはVCは投資したがらない。財務的にはベスティングはほとんど効果がないが、状況によっては創業者の力が制限されることになりうる。もしVCが企業の事実上の支配権を握って創業者の誰かを解雇したなら、特に防止策を講じていない限り、彼はまだ自分のものにしていない株のすべてを失う。だからこの状況ではベスティングは創業者が期待されたことをするよう強制する。

スタートアップが真剣な資金調達を受ける際の、最も目につく変化は、もう創業者が完全に支配する状態ではなくなるということだ。10年前、VCたちは、創業者はCEOの座を降りてVCが連れてきたビジネスマンに仕事を引き渡すべきだと主張していた。これは今では前ほど強い慣行ではなくなっている。その理由の一部は、一般のビジネスマンはそれほど素晴らしいCEOにはならないことを、バブルの惨事が示したからだ。

しかし創業者たちが今よりいっそうCEOの座に留まれるようになるであろう一方で、権力のいくらかを譲らなければならないだろう。というのも取締役会がより力を持つだろうからだ。シード段階では、取締役会は一般に形式的なものだ。もしほかの取締役と話がしたければ、隣の部屋に向かって叫ぶだけでいい。この状況はVC規模の資金が入ると同時に終わる。典型的なVC資金の条件による取締役会の構成は、2人のVCと2人の創業者、そして両方が許容できる外部の人物1人というふうになるだろう。取締役会は究極的な権力を持つ。つまり今や創業者は命令するのではなく説得しなければならないということだ。

しかしこのことは思ったほど悪くない。Bill Gatesは同じ立場にいる。彼はMicrosoftの支配権の過半を握っていない。原理的には彼もまた命令する(commanding)のではなく説得する必要がある。それでもなお彼はとても命令調で威圧感がある(commanding)だろう?

エンジェルと同様、VCは彼らが知っている人物を経由してやってきた案件に投資するほうを好む。だから、ほとんどすべてのVCファンドはスタートアップ創業者からのビジネスプランを受け付けるアドレスを持ってはいるものの、このルートで資金調達に至る可能性はゼロに近いことを内輪では認めている。ある者が最近私に言ったことには、彼はそうやって資金を得たスタートアップをひとつも知らないそうだ。

「一方的に送りつけられてきた」ビジネスプランをVCが受け付けるのは、取引に発展する機会としてというよりは、業界の傾向を監視するための手段としてではないかと私は疑っている。私は、でたらめに自分のビジネスプランをVCに送りつけるのは慎むよう強く忠告したい。というのも彼らはそれを怠惰の証と捉えるからだ。個人的な紹介を得るために手間を惜しまず努力をしよう。あるVCがこう言っている:

私を見つけるのは難しいことではないよ。私はたくさんの人を知っている。もし君が私へのつてをなんとしても見つけられないとしたら、成功する会社をどうやって作るつもりだというんだい?

スタートアップの創業者にとって最も難しい問題のひとつは、いつVCにアプローチするかを決めることだ。チャンスは一度しかない。なぜなら、彼らは第一印象をひどく重視するからだ。そしてあなたは他のVCを後の機会のために温存しつつあるVCにアプローチするということはできない。というのも、(a)彼らは自分たちのほかに誰と話をしたか尋ねるし、(b)彼らはお互いに情報交換をするからだ。もしあなたがあるVCと話をしていて、あなたが数か月前他のVCに拒否されたことを彼が知ったら、あなたは明らかに棚ざらしの商品のように見えてしまうだろう。

ではいつVCにアプローチすればいいだろうか? 彼らを説得できるときにすればいい。もし創業者が印象的なレジュメを持っていてアイデアが明快なら、かなり早い時期にVCにアプローチできる。一方、創業者が無名でアイデアが非常に斬新だと、モノをローンチしてユーザがそれを気に入っているということを見せるまで、VCは納得しないだろう。

もしいくつかのVCがあなたに興味を持った場合、彼らは時折お互いの間でに取引を分割してもいいという気になる場合がある。これはVC同士がVC間の序列で近い位置にいるときに、より起こりやすい。このような条件は創業者にとって究極の勝利かもしれない。複数のVCがあなたの成功に興味を持っており、あなたはそれぞれに対して他方に関する意見を求めることができるのだから。私が知っているある創業者はこう書いている:

ファームが2ついる取引は格別だ。持ち分を若干多めに持っていかれるけれど、2つのファームを互いに対抗させて魚夫の利を得られる(他方がおかしなことをしていないかも尋ねられる)ことには計り知れない価値がある。

いざVCと交渉という時になったら、彼らはあなたよりももっとずっと多くの回数それを経験していることを忘れてはいけない。彼らは何ダースものスタートアップに投資してきているのに対し、たぶんあなたが創業したのは今回が初めてだろう。しかし彼らやこの状況に怖じ気づいてはいけない。平均的な創業者は平均的なVCよりも頭がいい。だからただ単に、あなたがいつも複雑で不慣れな状況ですることをすればいい:慎重にことを進め、奇妙に感じられることは何であれ質問することだ。

残念なことに、創業者が後で驚くことになるような文言をVCが契約書に盛りこむことは珍しくない。また、業界の標準だと言って自分たちがやることを弁護するのもVCがよくやることだ。標準、ヒョウジュンだ。業界全体が数十年の歴史しかなく、しかも急速に発展しているというのに。活動が小規模なら「標準」の概念は便利なものだ(Y Combinatorはすべての取引で同一の条件を使う。少額のシード段階の投資では、個々の条件を交渉するオーバヘッドは割に合わないからだ)。しかし、VCのレベルではそれは当てはまらない。その規模では、どの取引もユニークなものになる。

成功したスタートアップのほとんどは、以上の5つの資金調達元のうち複数から資金を得ている。[6]そして混乱することに、資金調達元の名前は、各ラウンドの名前にも使われることが多い。一体全体どういう仕組みになっているのか説明する一番の方法は、架空のスタートアップのケースを追ってみることだ。

ステージ1:シードラウンド

我々のスタートアップは友達同士の3人がアイデアを持っているところから始まる――彼らが作るもののアイデアでもいいし、単に「会社を作ろう」というアイデアでも構わない。彼らは既に食べるものと住むところは何かしら確保しているものとする。しかし食と住があるとしたら、多分すべきこともあるだろう:学校か、そうでなければ仕事か。だからスタートアップでフルタイムで働きたければ、多分経済的な状況も変わる。

多くのスタートアップ創業者が、何をするつもりかアイデアを全く持たずに会社を始めたと言う。これは実際には、言われるほどよくあることではない:そうしなければアイデアが前の雇い主のものになってしまうので、多くは辞めてからアイデアを考えたと主張する必要があるのだ。

3人は、向こう側へ飛び越えることを決意する。ほとんどのスタートアップは競争の激しいビジネスに身を置くので、単にフルタイムというだけでなく、フルタイム以上に働きたいところだろう。だから友人たちのうち何人かまたは全員が、仕事を辞め学校を去る。(スタートアップ創業者のうちいくらかは大学院に残ることも可能だが、少なくとも誰か一人は会社を自分のフルタイムの仕事にしなければならない。)

最初は彼らのうち誰かのアパートの一室で会社を始める。ユーザがいないのでインフラストラクチャにさほどお金を払わなくてよい。彼らの主な出費は企業を興すための費用で、これは法的な処理と登記の費用に数千ドルかかる。そして創業者たちの生活費だ。

「シード投資」という言葉が指す範囲は広い。あるVCにとっては$500,000を意味するだろうが、しかし多くのスタートアップにとっては数か月間の生活費という意味だ。我々の友人グループは、彼らの友人の裕福な叔父から会社の5%を提供するのと引き換えに$15,000を得て、それを元手に始めるとしよう。この段階では通常の株式しか存在しない。彼らは将来の従業員のために20%のオプションプールを残し(ただしほとんどが発行されていない早期に買収された場合には、この株を自分たち自身に発行できるように設定しておく)、そして3人の創業者はそれぞれ25%を手にする。

彼らの考えでは、質素に暮らせば残りのお金で5か月はもつ。残された滑走路があと5か月分のとき、次のラウンドを探し始めるのはいつごろがいいだろうか? 答え:今すぐ。投資家を見つけるには時間がかかるし、彼らが口頭で了解した後でも取引を完了するまでには時間が(常に予想以上に)かかる。だからある創業者グループが自分たちがやっていることを理解しているなら、即刻エンジェル投資家を探してあたりを嗅ぎ回り始めるだろう。しかしもちろん彼らの主たる仕事は、彼らのソフトウェアのバージョン1を作り上げることだ。

この友人たちはこの最初の段階でより多くの資金が欲しいと思うかもしれない、だが少々資金が足りないほうが大事な教訓を学べる。スタートアップにとって、廉価であることは力なのだ。コストが低いほど、選択肢が増える――この段階だけに限らず、利益を得るまでの間中ずっとだ。「バーンレート」(burn rate: 資本燃焼率)が高ければ常に時間と競争しなければならない。それは(a)アイデアが発展する時間がなく(b)嫌な取引の受け入れをしばしば強制されるということだ。

どんなスタートアップでも、ルールはこうあるべきだ:お金はほとんど使わずに、迅速に働く。

10週間の努力の末3人は、彼らの製品がどういう感じになるか試せるプロトタイプを作り上げる。これは彼らが元々作ろうと思っていたものとは違う――それを書く過程で彼らの頭にいくつか新しいアイデアが浮かんだのだ。そしてこのプロトタイプは最終的な製品が実現することのごく一部しか実現しないが、その一部分には今までほかには誰もやらなかったものが含まれている。

彼らはまた、少なくともビジネスプランの骨格を書き上げる。その中では5つの基本的な問題を扱っている:何をするのか、なぜユーザにはそれが必要なのか、市場はどのくらい大きいのか、どうやって利益を出すか、誰が競合の相手でなぜこの会社が彼らに打ち勝つのか。(最後のものは「奴らはクソだから」や「僕らは真剣に努力します」よりも具体的でなければならない。)

デモとビジネスプランのどちらに時間を割くか選ばざるを得ないときは、デモにほとんどの時間をかけること。ソフトウェアはより説得力があるだけではなく、アイデアを探索するためのより良い手段でもある。

ステージ2:エンジェルラウンド

プロトタイプを書きながら、グループはエンジェル投資家を探して彼らの友人たちのネットワークをあちこちあたっていた。ちょうどプロトタイプでデモが可能になった時に、何人か見つかった。デモを見せると、エンジェルの一人は投資する気になった。さて、グループはより大きな資金を探している:あと1年は維持でき、もしかすると2、3人の友人を追加で雇えるだけの資金が欲しい。だから$200,000を調達することにする。

エンジェルは投資前の評価価値が$1,000,000であるとして投資することに同意する。会社は$200,000分の新しい株をエンジェルに発行する。もし取引前に1000株あったとしたら、これで200株が追加されたということになる。エンジェルは現在200/1200の株を所有している。別の言い方をすれば会社の6分の1だ。そして以前の株主の所有パーセンテージは1/6ずつ希薄化される。取引後には、資本の表はこのようになる:

株主 パーセント
エンジェル 200 16.7
叔父 50 4.2
各創業者 250 20.8
オプションプール200 16.7
1200100

物事を簡単にするため、私はエンジェルが株の取引でストレートに現金を支払うように書いた。現実にはエンジェルは投資を転換社債(convertible loan)の形にすることのほうが多いだろう。転換社債は後で株に変換できるようなローンだ。最終的には株の購入と同じことになるが、将来のラウンドでエンジェルがVCに潰されないよう、より強い防御となってくれる。

誰がこの取引の法的な費用を支払うのだろうか? スタートアップにはたった2、3千ドルしか残っていないことを忘れないでほしい。現実においてこれは面倒な問題となり、通常は何らかのその場で考えた方法で解決される。もしかするとスタートアップは、スタートアップが将来うまくいったときの仕事を見込んで安価に受けてくれる弁護士を見つけられるかもしれない。もしかするとエンジェルが彼の弁護士に支払いをして双方の代理をするよう計らってくれるかもしれない。(後者を選ぶ場合、弁護士があなたにただ助言するのではなく、必ずあなたを代理するようにすること。そうでないと彼は投資家のほうにしか職責を負わないことになる。)

$200kを投資しようというエンジェルは多分取締役会に席があることを期待するだろう。彼は優先株も欲しがるかもしれない。優先株というのは、他の皆が持っている通常の株に勝る若干の権利を追加で持つ特別な種類の株のことだ。典型的な場合これらの権利には、大きな戦略的判断に対する拒否権、将来のラウンドにおける希薄化からの防御、会社が売却された場合に優先して投資を回収する権利が含まれる。

投資家のなかには、これほどの額と引き換えなのだからと創業者がベスティングを受け入れることを求める者がいるかもしれないし、そうでない者もいるだろう。VCはエンジェルよりもベスティングの受け入れを要求しがちだ。Viawebでは、ベスティングを全く受け入れずに$2,500,000をエンジェルから調達しおおせた。そうすることができた主な要因は、私たちがあまりに経験がなかったせいで、そんな考えには心底ぞっとしてしまったからだ。実際にはそれは賢明なことだったと判明した。というのもおかげで私たちを無理に従わせるのが難しくなったからだ。

私たちの経験は普通のものとはいえない:ベスティングはその規模の額に対しては義務といっていい。Y Combinatorがベスティングを要求しないのは、(a)私たちはいたって少額しか投資しないし、(b)私たちはそれは不要だと考えるし、創業者が働きつづける動機としては裕福になるという希望だけで十分だからだ。しかし仮に何百万ドルもの投資をするようなことになったら、おそらく違う考え方をするだろう。

付け加えると、ベスティングは創業者が自分たちをお互いから守る方法でもある。創業者の一人が辞めたらどうしようという問題をベスティングは解決する。だから創業者のなかには会社を興すときに自分たちにベスティングを課す者もいる。

エンジェルとの取引が完了するには2週間かかり、もうこの会社の生涯の3か月めに入ることになる。

スタートアップの生涯において、エンジェルから初めてまとまった額の資金を得た後の頃が、通常一番楽しい時期だ。それはまるでポスドク(訳注:博士号取得直後の研究者)のようだ:今すぐ心配すべき経済的な不安もなく、責任もほとんどない。仕事はといえば、ソフトウェアの設計などという実に面白い類の仕事だ。お役所的なあれこれに時間を使う必要もない――まだ役人など一人も雇っていないから。楽しめる間に楽しむといい。そして可能な限り物を仕上げておくことだ。なぜならあなたがこれほどまでに生産的になれることは二度とないから。

明らかに使い尽くせない額の資金を銀行に安全にかくまって、創業者たちは彼らのプロトタイプをリリース可能な状態にすべく幸せそうに仕事に励んでいる。彼らは友人の一人を雇い入れる――試すために最初は単にコンサルタントとして――そして1か月後には最初の従業員として。彼には生きていけるだけの最小限の給与を払い、加えて4年間のベスティングという制限付きの株で会社の3%を提供する。(だからこれの後ではオプションプールは13.7%まで落ちる。)[7]彼らはフリーランスのグラフィックデザイナにもいくばくかの資金を費す。

初期の従業員にはどれだけの株を与えればいいだろう? それには大きな幅があるので、一般的な数字というものはない。もし本当に優秀な人をごく初期に見つけたなら、創業者と同程度の株を提供することは賢い判断かもしれない。ひとつの普遍的なルールは、従業員が手にする株の分量は会社の年齢が上がるにつれ多項式的に減るというものだ。別の言い方をすれば、どれだけ早くいたかの何乗かに従って裕福になる。だからもし友人が彼らのスタートアップで働かないかと誘ってきたら、決断するまでに何か月もかけてはいけない。

1か月後、4か月めの終わりに、我々の創業者グループはローンチできるものを持っている。口コミで徐々に彼らはユーザを獲得し始める。実際のユーザ――彼らが知らない人々――にシステムが使われているのを見ると、彼らは新しいアイデアをたくさん思いつく。また彼らは今やとりつかれたように彼らのサーバの状態を心配していることに気づく。(スタートアップがVisiCalcを書いていたころは、創業者の人生は何と楽なものだったことだろう。)

6か月めの終わりには、システムにはしっかりした機能のコアが備わり始め、小規模だが熱狂的な支持者がつく。人々はそれについて文章を書くようになり、創業者たちはその分野での専門家のように感じ始める。

ここで彼らのスタートアップには何百万ドルも投入すべき使途があると仮定する。多分彼らはマーケティングや、何かの高価なインフラストラクチャの構築や、高給取りのセールスマンなどに大きな額を費す必要があるのだろう。だから彼らはVCと話を始めることを決意する。彼らがVCに紹介されるには、さまざまな経路がありうる:彼らのエンジェル投資家が2、3紹介してくれる。いくつかにはカンファレンスで会う。彼らについて何かで読んで連絡してくるVCもいる。

ステップ3:Series Aラウンド

もうきちんと肉づけされたビジネスプランで武装し、実際に稼働しているシステムをデモできる状態で、創業者たちは紹介を受けたVCを訪れる。彼らの目にはVCは威圧的で深遠に見える。彼らが尋ねるのはいつも同じ質問だ:ほかに誰のところへ売り込みに行ったんだい?(VCは高校生の女の子のようなものだ:彼らはVC間の序列における自分の地位には敏感で、彼らが企業に寄せる関心は、他のVCがその企業に示す関心の関数なのだ。)

VCファームのひとつが彼らに投資したいと言い、創業者にタームシートを提示してくる。タームシートは、もし取引をするとなったら取引条件がどのようなものになるかをまとめたものだ。後で弁護士たちが詳細を埋める。タームシートを受け入れると、スタートアップは決められた期間他のVCとは交渉せず、その間このVCは取引に必要な「デュー・ディリジェンス」(due diligence: 詳細な調査)を行う。デューディリジェンスとは素行調査の企業版だ:その目的は会社を後で潰してしまいかねない隠れた爆弾がないか、例えば製品の致命的な設計ミスであるとか、その会社を相手取って起こされている係争中の訴訟であるとか、知的財産関係の問題であるとか、そういったものを調べることにある。VCの法的・財務的デューディリジェンスはかなり徹底したものだが、技術的なデューディリジェンスは一般に言って冗談のようなものだ。[8]

デューディリジェンスの結果、時を刻んでいる爆弾など見つからず、6週間後には取引を進めることになった。これが条件だ:投資前の評価価値で$4,000,000として$2,000,000の投資を行う。つまり取引成立後はVCが会社の3分の1を所有する(2 / (4 + 2))。VCは、取引に先立ってオプションプールに追加で100株を加えて広げるよう主張している。よって新しく発行される株の総計は750で、資本の表はこうなる:

株主 パーセント
VC 650 33.3
エンジェル 200 10.3
叔父 50 2.6
各創業者 250 12.8
従業員*36 1.8*ベスティングなし
オプションプール 264 13.5
1950100

この見取図はいくつかの点で非現実的だ。例えば、パーセンテージが最終的にこのようになったとしても、VCが既存の株の数をそのままにしておくことは考えにくい。実際には、まるで会社が新しく興されるときのように、スタートアップの書類は多分隅から隅まで書き換えられるだろう。また資金はいくつかに分けられて導入されるかもしれず、その場合後から手に入る資金はさまざまな条件が付いているかもしれない――ただしこれは最上位のファームとの取引よりも、低い階層のVC(彼らはより怪しげなスタートアップに資金提供する巡り合わせにある)との取引で明らかにより多く起きることだけれども。

そしてもちろんこれを読んでいるVCは、私の作った架空のスタートアップはいったいどうしてエンジェルに会社の10.3もの部分を持たせたままにしているのか、多分腹がよじれるほど笑っていることだろう。そのとおり、これはバンビちゃんバージョンだ。また全体を単純化する過程で、私は登場人物を少しずつ善人にした。現実世界では、VCはエンジェルのことを、嫉妬深い夫が妻の以前のボーイフレンドたちに対して感じるのと同じような気持ちで見る。彼らにとって、彼らが投資するより前にはその会社は存在しなかったのだ。[9]

私は、VCに行く前にエンジェルラウンドを経る必要があるという印象をあなたに与えたくはない。この例では複数の資金調達元を示すために物事を引き伸ばして見せた。スタートアップのなかにはシード資金調達から直接VCラウンドへと進むものもありえる。私たちが資金提供した企業のいくつかがそうだった。

創業者たちは4年間彼らの株をベスティングする必要があり、取締役会は今では2つのVCと2人の創業者と双方にとって受け入れ可能な第5の人物から成るように再構成されている。エンジェル投資家は喜んで彼の取締役の席を譲り渡している。

ここに至って、我々のスタートアップが資金調達について新しく教えてくれることは何もなくなっている――言い方を変えれば、何もいいことを教えてはくれない。[10]このスタートアップはほとんど確実に、この時点でより多くの人を雇うだろう。この数百万ドルというお金には、結局のところ働いてもらわなければならないのだから。会社はさらなる資金調達ラウンドを経験するかもしれない。おそらくより高い評価価値で。もし並外れて幸運だったなら、彼らはIPOを果たすかもしれない。事実上の目的がどうあれ、それもまた原理的には資金調達のラウンドなのだということを覚えておくべきだ。しかしそれは、もし可能性としてありえるとしても、この記事で扱う範囲を超える。

取引失敗

スタートアップを経験した人なら誰でも、ここまでの描写を読んで何かが欠けていることに気づくだろう:そう、災厄だ。もしすべてのスタートアップに共通していることがあるとすれば、それはいつも何かしらうまくいかないことがあるということだ。そして資金調達以上にそれがよく起きるところはない。

例えば我々の架空のスタートアップは、次のラウンドの資金を確保する前にあるラウンドの半分以上を消費したりしなかった。それは典型的なケースよりも理想寄りだ。多くのスタートアップは――成功したものですら――どこかの時点で資金が底を尽きかける。資金がなくなるとスタートアップにはひどいことが起きる。スタートアップは成長を前提に設計されていて、逆境に耐えるようにはできていないからだ。

しかし私が書いた一連の取引のなかで最も非現実的なところは、すべてが取引成立に終わったことだ。スタートアップの世界では、クロージング(closing: 最終精算)は取引の自然な帰結ではない。取引の自然な帰結とは、失敗して立ち消えになることだ。スタートアップを始めるつもりなら、そのことを覚えておくのが賢明だ。鳥は飛び、魚は泳ぎ、取引は不成立に終わる。

なぜだろう? 取引があまりによく失敗するように思える理由は、部分的にはあなたが自分自身に嘘をついているからだ。あなたは取引が成立してほしいので、そうなることを信じ始める。しかしこの影響を補正したとしても、スタートアップの取引は驚くほどによく失敗する――例えば不動産を購入する取引よりもはるかに頻繁に失敗に終わる。その理由は、それほどまでにリスクが高い環境にある。スタートアップに対して投資しようとしている、あるいは買収しようとしている人々は、買い手の後悔の邪悪なケースに陥りがちだ。取引がまさに完了しようというその時まで、自分が取ろうとしているリスクを真に理解しないのだ。そして彼らはパニックに陥る。経験の浅いエンジェル投資家だけではなく、大企業もそうなる。

だから、あなたがスタートアップの創業者で、なぜエンジェル投資家のなかにはあなたが電話をしても折り返してこない者がいるのか不思議に思っているとしたら、百倍も規模が大きな他の取引でも同じことが起きていると考えて、少なくとも気を休めることはできる。

私が示したスタートアップの生涯の例は、骨格のようなものだ――そこそこ正確だが、完全な見取図とするためには肉付けする必要がある。完全な見取図を得るためには、起きる可能性がある惨事をすべて追加すればよい。

恐ろしい見通しに思えるって? ある意味ではそうだ。しかしそれでいてある意味では勇気づけられもする。スタートアップの不確実性こそがほとんどの人を怖じ気づかせて追い払っている。人々は安定を重視しすぎる――特に若い人々がそうだ。皮肉なことに、安定を最も必要としない人たちが。だから非常に大胆な計画でよくあるように、スタートアップを始める際には、単にそうすると決断しただけで半分の地点まで到達しているのだ。レースの当日には、他の走者のほとんどは姿を見せないだろう。

注釈

[1]そのような規制の目的は、未亡人や孤児を不正な投資計画から守ることだ。流動資産で何百万ドルも所有している人たちは自分自身を守ることができて当然だとされている。このことは意図しなかった結果につながった。ヘッジファンドのように最も高い収益を生み出す投資は、裕福な人しか手に入れられないのだ。

[2]コンサルティングはものを作る会社にとっての死に場所だ。一番有名な例はIBMだ。だからコンサルティング会社を始めるのは、墓所を開始地点にして生者の世界へ戻ろうとするようなものだ。

[3]もし「近所」といえる範囲にベイエリアかボストンかシアトルがないなら、引っ越しを検討することだ。フィラデルフィア出身のスタートアップがたくさんいるという話を聞いたことがないのは、偶然ではない。

[4]投資家はよく羊にたとえられる。実際彼らは羊に似ているが、それは彼らが置かれた状況に対する理性的な反応だ。羊が羊のように振る舞うのには理由がある。もし他の羊がみな、ある場所へ行こうとしているなら、多分そこはいい牧草地なのだろう。もし狼が現れたら、襲われるのは群の真ん中の羊だろうか、それとも端に近い羊だろうか?

[5]これは一部は確信により、一部は単に無知による。私たち自身はどのVCファームが評判がいいのか知らなかった。私たちはソフトウェアこそがすべてを決めると考えていた。しかしこの世間知らずの愚直さは正しい方向だと分かった:優れた製品を作ることの大事さは、過小評価するよりも過大評価したほうがずっといい。

[6]私は資金調達元を1種類省略した:政府の助成金だ。平均的なスタートアップにとっては、これは検討にすら値しないと私は考えている。スタートアップを促進する助成金制度を作るときは善意でやっているのかもしれないが、しかし彼らは片方の手で与えたものをもう片方の手で奪う:応募方法が必ずといっていいほどあまりに面倒なので、そして資金の使途があまりに制限されているので、資金を稼ぐには仕事をしたほうが楽ということになってしまう。

何らかの社会工学的な目的を持った助成金に対しては、特に懐疑的になるべきだ――例えばもっと多くのスタートアップがミシシッピで起業することを促進するとか。成功する者がほとんどいない場所でスタートアップを始めさせる無償の資金は、無償とはいえない。

省庁によってはベンチャーファンディンググループを経営していて、そこでは助成金を与えるのではなく投資を行っている。例えばCIAはIn-Q-Telというベンチャーファンドを経営しており、そこは民間のファンドを手本に作られていて明らかに良い収益を上げている。多分彼らはアプローチする価値があるだろう――もしCIAから資金を受け取ることが気にならないなら。

[7]オプションは大部分が制限付き株式で置き換えられた。これは結局は同じものだ。従業員は、株を買う権利ではなく、すぐに株を手に入れられる。そしてそれを返さなくてもよいという権利を稼いで得る。このために留保しておく株はいまだに「オプションプール」と呼ばれている。

[8]第一級の技術者は一般的に言って、VCが行うデューディリジェンスのために自分を貸し出すことはしない。だからスタートアップ創業者にとっては、彼らが調査のために派遣してくる「専門家」の馬鹿げた質問に礼儀正しく応じることが一番の難題だったりすることがよくある。

[9]VCは定期的に、任意の分量の新規株式を発行することでエンジェルを一掃する。彼らはこの状況に対して標準化された詭弁を用意しているようだ:エンジェルはもはや会社のために寄与していない、だから株を保持するに値しないのだと。もちろんこれは、投資の本質の意図的な誤解に基づいている。どんな投資家とも同様、エンジェルは彼がより早期に取ったリスクに対する埋め合わせを得ているのだ。同様の論理によれば、企業が株式を公開したらVCは株を手放すべきだという主張もできてしまう。

[10]会社が直面する可能性がある新しいことのひとつに、ダウンラウンド(down round)がある。これは前のラウンドよりも低い評価価値で行われるラウンドのことだ。ダウンラウンドは悪い知らせだ。一般的に被害を被るのは普通株の持ち主だ。VCの取引条件のうち最も恐ろしい規定のいくつかは、ダウンラウンドに関係している――例えば"full ratchet anti-dilution"(「単純方式の希薄化防止条項」)は、その名のとおりの恐ろしいものだ。

創業者たちは、自分の会社は大きな成功を収めるか完全な失敗に終わるかのどちらかだと考えているので、これらの条項を無視しようという誘惑に駆られる。VCはそうではないと知っている:スタートアップが最終的に成功する前にしばらく逆境に置かれることは珍しくない。だから、もしもそれは必要ないとあなたが考えていても、希薄化防止条項についての交渉は行う価値があるし、VCはあなたが必要以上に煩わしいことを言っていると感じるように仕向けるだろう。

謝辞:この文章の草稿を読んでくれたSam Altman, Hutch Fishman, Steve Huffman, Jessica Livingston, Sesha Pratap, Stan Reiss, Andy Singleton, Zak Stone, Aaron Swartzに感謝する。

[訳注1] Julian Weber (-2006). http://www.paulgraham.com/julian.htmlおよびhttp://www.paulgraham.com/vwplan.htmlを参照。