今年は0→1の仕事をしよう

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 ロバート・E・コール氏というカリフォルニア大学バークレー校教授の講演を聴く機会がありました。コール教授は、日本の産業のあり方を長らく調査してきた研究者のようです。その日も日本で発表された比較的新しい統計資料を示しながら、なぜ日本の成長に歯止めがかかってしまったかを綿密に分析されておられました。
 
 同氏によると、日本はハードウエアに対するメンタリティが非常に深いようです。それも高品質低コストモデルで押し通してきたために、韓国、台湾、中国など、物価や人件費の点で優位な国々が同じモデルで対抗してくると、太刀打ちできなかったと同教授は語りました。
   
 この解決策を日本人が考えると、アジアの国々には作りえない付加価値の高いハードウエアを作ろうということになります。しかし、同教授は日本復活のためのアドバイスの一つとして“ソフトウエア・ソリューション”に力を入れるべきだと説きました。ハードウエアは作るのに時間がかかり、大きな資本も必要なのに、すぐにコモディティ化してしまうけれども、ソフトウエアなら柔軟に対応できるし、コスト的にも有利だというのです。主役はソフトウエアだと同教授は強調していました。
 
 日本人にはなかなか持てない視点をいただいたと思います。教授の主張を私なりに解釈してみました。ソフトウエアから考えるということは、新しい仕組みを考えるということではないかと思うんですね。つまり、1を10にするのではなくて、0を1にする運動。電子メールとか、オンライン・オークションとか、まあ、たとえばそんな仕組みを思いつくことです。別にITの世界に限ったことではないんですが。ハードウエアから考えるほうがどうしてもわかりやすくて楽なんですけど、日本は少し0→1の頭の使い方を訓練していかないといけない気がしました。
  
 私もやってみます。しかし、いきなりビジネスモデル特許を取れるような高度なことは考えられそうにないので、姪っ子、甥っ子とこのお正月、今までになかったまったく新しい遊びでも作ってみることにします。少しは彼らをテレビゲームの前から引き離しませんとね(笑)。

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 これは、雑誌「日経ソフトウエア」で配信されているメールニュースの12月7日号で私が書いた原稿です。書いて以来、0→1が頭から離れないんですよ。私は本来、書き上げて手を放したとたん、内容をきれいさっぱり忘れる健忘症体質だというのに(笑)。

 自分の日常を、0→1か1→10に分類するくせがついてしまいました。姪に教えてもらった折り紙の薬玉をちょっと改良して、“これは1→10の仕事だな”と思ったり、冷蔵庫にあった豆乳とゆでビーフンで豆乳麺を創作して、“おお、これは0→1の仕事だ”と悦に入ったり(笑)。

 そして、当然のように本業に思いが及ぶのです。今私が書いている原稿は、0→1か1→10かと。これがまあ、判断が悩ましいんですよね。私の原稿ではある。私でない人が私のように書くことはできないでしょう。しかし、私でなくてはいけないかというとそんなことはなくて、いくらでも代わりの人はいる。replaceableなんですな。それは0→1か1→10か。

 ずーっと書いていくのなら、0→1の仕事を増やしていかなければ。それが何かはまだはっきり見えていないんですけど、このところ私が抱いてる“今ここにある危機感”だったりします。

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