はじめに

 料理が好きで、一汁一菜一飯ですが三食自分で作っています。なかでもよく使うのが乾物です。私の食生活の半分は乾物で成立しているといっても過言ではありません。一人暮らしだというのに相当な量をストックしていて、もし玄関ドアを外から板と釘で打ち付けられて篭城を余儀なくされたとしても、2週間はゆうゆう持ちこたえられる自信があります(笑)。

 なぜ乾物なのかというと、仕事をしながら利用するのに恰好の料理素材だからです。取材などで終日外に出る日が続くと、なかなか買い物に行けなくなります。しかし、乾物を常備しておけば何か作れます。朝、出かけるときに鍋に水を張って何か一品漬けて出ていけば、もうそれで半分はできたようなもの。原稿書きに追われて、買い物がつらい日も同じ。時間を味方につけられる食材、それが乾物なのです。

 保存に生鮮食料品ほど気を使わなくてもいいというのも助かります。生鮮食料品は買った瞬間から、冷蔵庫があっても“早く使わなければ”という強迫観念にとりつかれてしまいますが、しかし、たいていの乾物は常温保存でゆうに半年や一年は持ちます。“いったん忘れても構わない”というのは、一つのものに対する注意が長続きしない私にとって非常にありがたいのです。

 価格も安定しています。生の魚や野菜はときに“えーっ”と目を剥くぐらい高値の花になることもありますが、市場に普通に出回っている乾物は、べらぼうに安くなることもないけれどべらぼうに高くなることもありません(除く 年末)。費用をやりくりしながら料理を作る庶民の味方というわけなのです。

 そして、これが何よりの溺愛理由なのですが、乾物には人の英知を強く感じます。人類の歴史は大半が飢えとの闘いです。確実に訪れる食料難の季節に備えて今ある食材をできるだけ長く持たせようと、あるいは食料のない地域へ運搬できるようにと、人は干す、乾燥させるという技法を編み出しました。そして、その結果、生で味わうのとはまた別物の、そして生より上手をいく“滋味”を発見しました。単純な私はそのようなことにとても感激するのです。

 こうしたわけで乾物に魅せられています。元来コレクター的なところがあって、知らない乾物や珍しい乾物を見つけるとつい買ってしまいます。半分、趣味になっています。コレクターというのは集めたものを見せたがるもので、ゆえにこのコーナーが誕生することになりました。一回一品、もともとの姿と料理後の姿を素人写真を添えながらご紹介していこうと思います。料理好きの方にとっては、“こんなの珍しくもなんともない”と思われるものもたくさんありますが、ひごろ何かと脇役にまわりがちな愛すべき食材にスポットライトをあてたいゆえの出来心。どうぞご寛容のほどを。

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