ういきょう

 茴香。ういきょう。フェンネル。この名前で呼ばれる素材には、茎と葉と種と、種を粉にしたものがありますが、これは種です。本格的なインド料理店のレジに、“お口直しにどうぞ”というコメントとともに置いてある香辛料を見たことありませんか? あれです。あれはから炒りしてあるので、写真のものより茶色っぽかったと思いますけど。

 お薬のような香りと薄荷じゃないんですけど、ちょっと舌をスーッとさせる味わい。インド料理店にあるくらいですから、カレーによく使われるのかと思ったら、必ず入れる調味料ではないみたいですね。インドカレーの味の決め手である混合スパイス ガラムマサラを構成する必須調味料の中にも入っていません。好みで入れる調味料。むしろ、フランス料理やイタリア料理のほうが使うかもしれません。魚の風味づけスパイスとしてよく知られています。

 これが中国に来ると、そら豆の味つけスパイスとなります。写真のお鍋の中身は茴香豆。鍋に水とういきょうと塩を入れて煮出し、そのなかで皮に切れ目をいれたそら豆を10分ほどゆでます。火を止めてちょこっと紹興酒を入れてさませばできあがり。本場だったらそら豆も乾物を使うのですが。ういきょうの風味とほのかな塩気が合っていて、食べ始めたらやめられません。写真ぐらいの量だったら5分持たないですね(笑)。

 茴香豆は中国では非常にポピュラーなおつまみで、私は読んでないんですが、魯迅の小説の中にも主人公が飲む紹興酒のおともとして登場するようです。簡単にできて、おいしくて、ちょっと珍しいので、私が小料理屋の女将なら、つきだしにこれを出すな。「茴香豆。魯迅の“孔乙己(コンイチ)”にも出てくるのよ。」なあーんて、いいながら。

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