変容する知覚

 この2日半、風邪でダウンしてました。私としては久々の不覚。少し寒い日が続いたからでしょうね。暖房温度を上げるなり、厚着をするなり、即座に対応すればよかったのでしょうが、元来あまりそういう機転がきく人ではありません(笑)。

 最初の症状はノドでした。なんだかノドが痛いなあ、やばいなあ、と思っていたら、だんだん関節が痛くなってきました。そういえば、体も少し熱っぽい。ふだんはこの程度で医者に行くことはないのですが、腰の治療のついでに内科によって、薬をもらいました。

 しかし、症状はここから悪化の方向へ。頭痛がして、熱が上がり、ノドはツバを飲み込むのも痛くなってきました。読んだり、書いたり、集中力を必要とする仕事が難しくなってしまったので、覚悟を決めて寝込むことにしました。まあ、眠る、眠る。ふだんから睡眠はあんまり削っていないのに、こんなに眠れてしまうとは。

 それでもしかるべき時間になるとおなかがすきます。倒れて一番困るのは食事です。食い意地のはった私も、このときばかりは台所に立ちたくない。こんなときこそお粥に乾物料理が役に立つというものですが、台所に立つこと自体が大儀です。だいたい病気になると、食欲も変容しちゃって、いつも食べないものが食べたくなっちゃうんですよね。今回はカスタードでした。シュークリームとか、プリンとかがむしょうに食べたくなって、ふらふらのくせにコージーコーナーに駆け込みました(笑)。ノドが痛くて、「シュークリームください」の声をやっとのことで絞りだします。しかし、そうまでして手に入れたシュークリームとプリンなのに、味覚も変容してしまっているので、どっちも全然おいしくない。かえって胃にもたれてしまって、食べたことを後悔するありさま(笑)。

 夢もかなり変容してしまっていました。なぜか周囲に年下の従弟との結婚を決められてしまうというのがストーリーの発端(笑)。気心の知れた従兄弟だから、まっ、いいか、と受け入れるのですが、この従弟がさるお屋敷に勤めていて、私もそこに住むことになります。そのお屋敷が面倒を見てくれるのか、内掛けなどを始めとした結婚のお支度品がすごく豪華で、綺麗ねえ、と感激していたら、とんでもないことを耳にして凍りつきます。

 なんと、そのお屋敷は“出る”というのです。なんでも、その霊はそのお屋敷の幹部従業員の年若い奥さんだとか。彼女が外出したある時、その身分をうらやむ年配の女性から非常にアルコール度数の高いお酒を全身に浴びせられ、火を放たれます。若奥さんは火だるまになって亡くなってしまうのですが、その無念の魂がお屋敷にとり憑いてしまったというのです。

 そして、それ以後、職員が結婚して夫婦でお屋敷に住むようになると、そこへ出没するようになります。その霊のために神経を病み、郷里に帰った新婦が後をたちません。そういえば、従弟は一度結婚していたなあ、と私は今さらのように思い出しました。あの奥さんはどうしたの、と問い正すと、やはり、霊が原因で、ここにはいられない、別れたい、といって出ていったといいます。なんでそれをはやくいわないのよ、と詰め寄ったのですがもう遅い。テキは早くも、私たちの住処となる部屋を標的としてしまいました。もうバンバン怪奇現象が現れるんです。

 部屋に家財道具を運びこんで母と私で整理をしていると、部屋の中央に仮置きした和式の鏡台の鏡の部分が、風もないのに大車輪みたいにグルンとまわります。また別のときには、その鏡に映るはずのない風景が映ります。見ると、浴衣姿の中年男性が、いっしょうけんめい書斎机を移動させているんですが、その部屋には私と母しかいないのです。その部屋には火の気がなく、私も母もたばこを吸わないのに、真っ白い煙のかたまりが部屋の中を漂ったりしていて、なんだか奇妙なことばかり。でも、そうした現象は従兄弟がいないときに限られるようで、従弟は体験したことがないといいます。どうやら恨みは“幸せな新婦”だけに向けられるようです。私は従弟が好きで結婚するわけではないので、そんな理由でターゲットにされてもなあ、と複雑な心境です。

 なぜか逃げ出したくなくて、従弟の帰宅する時間まで何とか一人でがんばればいいのね、と私は決意します。いつものこと、と気にしないようにするために、ほかにどんな現象があったか従弟に確かめようとするんですが、仕事が忙しいのかなかなかつかまりません。きっと一緒になっても、この人は私の助けにはならないんだろうな、と私は変な諦念を抱きます。この先、お屋敷で一人サバイバルしていかなくてはならないと覚悟を決めました。

 苦しい夢でしょう? それなのに、私は目を覚ますたび、この夢を反芻し、続きが見たくて、また目を閉じるということを繰り返していました。ふだんなら、こんな夢見たら冷や汗たらりなのに。風邪薬で半分ラリってて、恐いという感覚がマヒしてしまっていたのかもしれません。とにかく次に起こることが知りたかった。今はノドの痛みもひいて、関節も痛みませんが、なぜか微熱がひきません。知覚もまだなんとなくしびれている感じ。今夜もこの夢の続きが見られるかな。そうしたらもう、若奥さんとの一騎打ちだなあ(笑)。

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