作られたジャーナリスト像

 わが家ではテレビのデフォルトはオフです。テレビをずっと見ているといいようのない虚無感におそわれてしまうので、これはと思った番組だけに絞っています。30日のビートたけしさん主演の3億円事件をテーマにしたドラマは見ました。一橋文哉氏の原作を読んでいて興味があったのです。

 番組は事件の経過を忠実に再現するのだと思っていました。ところが、主人公は一橋氏がモデルと思われる、3億円事件を追いかけてきたジャーナリストでした。ノンフィクションを対象としているという点では私も似たようなことをしているので、そんな視点にたったドラマが成り立つことは新鮮だったんですが、そのジャーナリストの仕事ぶりにすごく違和感があって、ずっとひきっぱなしでした。あれはちょっとポイント低いなあ。

 このジャーナリスト氏、基本的に取材メモというものをとらないんです。また、取材対象者を追いかけて渡米するのはいいけど、泊まるのはスイート。しかも、編集者つき。ビートたけしさん演じる主犯とおぼしき人物にインタビュー料を要求されて200万円を自費で出すんですが、今の出版景気を考えるとこんな取材してたら完全に赤字って気がするなあ。しかも、その主犯とおぼしき人物に取材に行くとき、かばんすら持っていかないんですよ、胸の内ポケットにテレコ1台のみ。もしかしたら写真が撮れるかも、とか、このテレコが壊れたらどうしよう、とか、考えないのかなあ。

 ジャーナリストを渡辺篤郎さんが演じてるんですけど、なんかすごくキザな人になっちゃっててねえ。「この男、おもしろい。計り知れない何かがある」とか「3億円事件は20世紀最大の犯罪だ」とかいうセリフがあるんですが、何か大義名分がありすぎて、聞いててこそばゆい気持ちでした。あっちゃん、「ビューティフルライフ」のキャラはすごくよかったのに。ジャーナリストって、みんなこんなふうに大きな使命感に燃えて取材しているのかなあ。単に「これはとんでもないスクープかも」「事件が起きた理由をどうしても知りたいんだ」とか、自分の事情で取材しているんじゃないのかなあ。ぶつぶつ。

 まあ、演出といわれてしまえばそれまでなんですけどね。それにしても、ドキュメンタリーをベースにしているならもう少し細部に気を使ってもよさそうなものなのに。一橋氏はあの番組を見てどう思ったんだろう。

 でも、この番組を作ったこと自体はすごく理解できるんですよ。3億円事件は魅力的な映像素材。あの有名な犯行当日を再現するというのは、映画やテレビ番組制作者の願望の一つだと思う。30年前の事件をどう現代にひきつけて見せられるかという解決策としてジャーナリストを主人公におく脚本になったと思うんですけど、ナレーションのみにとどめるとか、ジャーナリストをカメラの後ろにいる設定にするとか黒子にしたほうがよかったと思うなあ。その方が断然ビートたけしさんが生きるもの。あの番組を見て、ノンフィクションを追いかけている人がみんな、こんなふうに仕事をしていると思ってもらいたくないなあ、というのが一番の感想です。

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