絶対禁煙

 私はたばこが嫌いです。レストランで席の希望を尋ねられたら、必ず禁煙席を指定します。しかし、店内が混雑していると、しばしばフロアマネジャーから「喫煙席なら今すぐご案内できるんですが」という“オファー”を受けます。この対応は、ファミリーレストランからシティホテルの館内レストラン、三ツ星クラスのフレンチレストランまでたいてい同じです。

 そういわれると私は、“人の話を聞いていなかったの?”という顔をして、「禁煙席でないといやです」と答えます。いやな女(笑)? 向こうは“せっかくすぐ座れるよう提案してあげたのに”という一言をポーカーフェイス仮面の下に飲み込んで、「では、申し訳ございませんが、今しばらくお待ちくださいませ」といい、私の後ろの人に同じ言葉を繰り返します。
 ここでさらに食い下がるマネジャーもいました。「禁煙席にいちばん近い喫煙席でしたらご用意できるんですが、それでいかがでしょうか?」といわれたことがあります。そんなの意味ないじゃん(笑)。

 後ろの人が“オファー”を受けて「喫煙席でもいいわよね」といって案内されていってしまうと、私はそこに取り残されます。その瞬間から、全身で“融通のきかない、意固地なヤツ”という主張をしている気がして、少し嫌な気分になります。

 不幸にして禁煙席のないレストランに迷いこむことがあります。さらに不幸なことに、隣にヘビースモーカーが来てしまうことがあります。そんなとき、私は椅子の背に体を押しつけ、目の前を流れる煙を、持っているノートで仰ぎます。これをすると、隣の人はむっとしたり、傷ついたりします。あからさまには見ないから、私が横顔でそう感じているだけなんですけどね。でも、そっちにたばこを吸う権利があるなら、私にも煙をよける権利があるというもんです。

 近ごろだんだんパーティーが嫌いになってきたのも、たばこが原因の一つなんですよねえ。会場がブッフェ形式だったりすると、もう最悪。あっちでもこっちでも、のべつまくなしに立ちのぼる狼煙。しかもこの狼煙、たちの悪いことに動くんですよね。逃げれば逃げた方向に追いかけてくる。パーティー会場も、禁煙コーナーと喫煙コーナーを分けてほしいと思いますよ。できれば銭湯みたいに会場の真中に背の高い壁を立てていただいてですね、何か両者の間で会話する必要があれば、壁の上の方に向かって大声で話しかけるんです。「その声、もしかして○○さーん? 久しぶりー。元気ー?」(笑)。

 日本の外食産業は、たばこという嗜好習慣への対応方針が曖昧だと思います。禁煙席と喫煙席を設けていても、その希望を絶対視していません。それは顧客は席の種類より待たないことを重視すると思っているからでしょうか。それとも、とにかくとっとと顧客を座らせて回転率を上げたいからでしょうか。いずれにせよそこには、顧客の要望に対するセンシビリティはないようです。基本的には、お客さんが禁煙といったらもう絶対禁煙なんですよ。

 本音の本音をいえば、料飲施設は全面禁煙が望ましいです。たばこの煙は体によくないし、食べるものや飲むものの味や香りをほんとうに変えてしまうから。ですが、今日の日本では私もそこまで要求しません。そのかわりといってはなんですが、解決策を提案しますよ。要するにね、もっと選択肢を増やせばいいんです。たとえば。

たばこについて

a、絶対禁煙
b、どちらかといえば禁煙
c、どちらでもいい
d、どちらかといえば喫煙
e、絶対喫煙

待ち時間について

1、待ってる
2、待ってあげてもいい
3、1分だって待ちたくない

 これに窓際だとか、個室だとか、店固有の要素をプラスしていって、禁煙席>待ち時間>窓際席(禁・喫煙要望 大なり 待ち時間要望 大なり 席の場所)とかいう具合に希望を聞いていくわけです。そうすれば何度も顧客に意思を確認しなくても、対応はおのずから決まってくるじゃないですか。席に案内するまでに時間がかかる? PCでやればいいんですよ。航空券買うときに座席を選ぶみたいに、店頭にタッチパネルPCを置いて顧客に選択してもらうんです。投資はかかるかもしれないけれども、ほんとうに満足してもらってリピート来店を促進したいなら、とても重要なことだと思うけどなあ。

 うん、われながらいい案を思いついた、とにんまりしつつ、ファミレスで原稿を書いている私のそばを、新しく来たお客さんが立て続けに3組、通りすぎていきました。「座れれば何でもいいわよ」といいながら喫煙席へ。自分では吸わないのに、周りでモクモクたばこを吸われて大丈夫な人って結構いるんですねえ。副流煙の恐さを知らないのかなあ。日本の場合、お客さんが禁・喫煙に対する考え方が曖昧だから、レストランもそれに合わせてしまうんですかねえ。

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