ごぶさたしました

 しばらくごぶさたしてしまいました。ちょっと恋をしておりまして。なあんていうのはウソです(笑)。原稿の追いこみで2ヵ月ほどタフな日々を過ごしておりました。好きな映画も読書も断ち、ひたすらアウトプット、アウトプット、アウトプット。どっちかというとこのサイトの原稿を書くほうが仕事の原稿より好きなようで、PCに向かうとつい紅千代日記になってしまいます。原稿を進めるためには、いったんここの更新をあきらめなければなりませんでした。どこまでもシングルタスクな人間であります(笑)。この間にアクセスしていただいた方には大変申し訳なく思っております。「吉田さん、最近ぜんぜんサイトを更新してないでしょう?」とさまざまな方からご指摘をいただいて、身の置き場のない思いはしていたものの、一度さぼりぐせをつけてしまうと、どう復帰していいかわからなくなったりして(笑)。ほんとうにごめんなさい。

 たった2ヵ月ではありましたが、いろいろなことがありました。ノートPCの通信機能が壊滅状態に陥りました。新しい趣味を始めました。お芝居を観ました。一年ぶりに姪と甥に会いました。その一方で、ようやく一冊、本がまとまることになりました。いずれもおいおいお話ししていこうと思いますが、まずはリハビリがわりにこんなトピックから。

 その朝、私は新幹線に乗ろうとしていました。しかしチケットは事前に買ってはおらず、西日暮里で指定を取って東京駅に向かうつもりでした。西日暮里だからみどりの窓口に着いたらすぐに買えると思っていたのに、そこには長い行列ができていて私は焦りました。40分後には乗車しないと約束の時間に間に合わないのです。待たずにチケットを買えたとして5分。西日暮里から東京まで約15分。乗り換えに3分。新幹線の時刻表を知らずにここへ来ているので、不安はいやがおうにも高まります。そんなときに限って、前に並んだ人は駅員さんと相談しながら買うんですよねえ。

 集団で遠くへお葬式に行く人たちがやっと買い終えて、私の前にはあと一人。「お願いだから早く買って」と心の中でいらいらしながら祈っていると、男性はくせのある日本語で「渋谷からセンダキタ」といいました。駅員さんは聞こえなかったようで「えっ、どこですか」と尋ね返します。男性はやはり「渋谷からセンダキタ」と繰り返しました。駅員さんは男性の行く先が全然理解できなくて頭が真っ白になっていました。JRの駅名に精通しているはずの駅員さんも、センダキタという駅に心当たりはなさそうです。いかん、このまま放っておくとこの人の購入が長引いてしまう。焦る私は口を出すことに決めました。

 アクセントから判断するに、男性はアジア系の外国人です。きっとこの人は日本の鉄道システムがわかっていないんだと思いました。すると彼が何をいっているかひらめいたのです。センダキタは横浜市営地下鉄の「センター北」駅で、彼は東急田園都市線で渋谷からあざみ野までいって、そこから地下鉄に乗り換えてセンター北まで行きたかったのです。駅名はよく調べたものの、いかんせんその切符がどこでも買えると思っていたんですね。私は往生している駅員さんとその男性に宣言しました。「それは東急田園都市線です。切符はここでは買えません。」思いもしなかった方向からの介入に駅員さんは我に帰り、男性は私を振り返りました。「ここで買えないですか?」と心細そうに聞き返す彼に、「ええ、買えません」と断固とした調子で答える私。それを聞いて彼はしょんぼりと列を離れました。かける言葉もなく進行を見守る駅員さん。きっと私は男性が路線表を見直しにいったのだろうと思いました。あとでもう少し詳しく説明してあげるつもりだったのですが、私がチケットを買い終わったら、その男性はいなくなってしまっていました。
 
 なんか自分の番を繰り上げるために彼を追い払ったみたいで、悪いことをした気になりました。でも、半分は複雑怪奇な首都圏の鉄道路線状況にも責任があります。もうちょっとサインシステムなり、英語のパンフレットなりがちゃんと用意されていれば、あの男性だってムダに行列に並んで結局はキップを買えなかったなんてことにならなかったでしょうに。 

 なんとか約束の時間に間に合う新幹線に乗れました。早起きしたので眠たくて大阪までの道すがら、ほとんど夢うつつでした。しかし、降りてからの道中がタイトなので、お手洗いに行くことだけは忘れませんでした(笑)。

 割と派手な揺れに耐えながら(笑)つつがなくコトを終えて個室を出ると、隣の個室から「おいでおいで」する手が見えました。すわっ、トイレの花子さん!? と一瞬おののいたのですが、昼日中からこんな往来の激しいお手洗いに花子さんが居座れるはずもなく、しかし、「おいでおいで」は確かに本物です。しかたないので近づいてみると、その手の持ち主は若いアジア系の外国人女性でした。そして私にこういったのです。「流す? どれ? 」

 そうです。彼女は最近台頭してきたセンサーに手をかざす方式のフラッシュのやり方がわからなかったのでした。だって日本語で「ここに手をかざしてください」って申し訳程度に書いてあるだけですもんね。日本人だって慣れてなければとまどいますよ。彼女のかわりにやってあげました、センサーフラッシュ。便器の中身も見ざるを得ず。しかし、彼女も考えたのでしょう。器いっぱいトイレットペーパーで埋め尽くされていて、下がどうなっているかはわかりませんでした(笑)。どうやったら流れるかわからない。しかし、このまま知らん顔して出ていくわけにもいかない。恥ずかしいけど聞くしかない。私を呼んだのは、彼女としては苦渋の決断だったと思いますよ。こういうこと、JRの人は全然わかってないと思うなあ。

 このように、鉄道ひとつとってみても、日本は外国人に不親切な国。観光先として今ひとつ人気がないのは、物価が高いこともさることながら、こういうアンチウェルカムな体制も原因しているような気がしますね。

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