ナンパの天才

  うちの甥は6歳にしてすでにナンパの天才であります。決してハンサムボーイではなくて、目は切れ長だし、坊主頭だし、チビだし、これで10円ハゲでもあれば昔ながらの日本のガキンチョという感じなのですが、もう女の子を誘惑させたら百発百中(笑)。あいつを見ているとつくづく“男は愛嬌”だということを実感します。

 手口はざっとこんな具合。遊園地のジェットコースターに乗るために行列に並んだとき、たまたま前にいたのが同じ年ごろの女の子でした。甥はこんなチャンスを絶対逃しません(笑)。まずひとさし指一本で、女の子の背中を軽くツンツンとつつきます。女の子は振り返りますよね。すると、甥は思いっきりふくみ笑いをしながらあさっての方を向くんです。女の子が前を向くと、またツンツン。女の子が振り返ると、「だるまさんがころんだ」をやっているみたいに、笑いたいのを必死にこらえて、また静止ポーズ。それを繰り返すうちに最初は「何、こいつ」と思っていた女の子もだんだんおかしくなってきて、とうとう笑い出してしまいます。そうしたらもう、完全に甥のペース。「名前なんていうの?」「うちどこ?」なあんて、個人情報をスルスル引き出して、ジェットコースターの順番がまわってきたころには、しっかり手をつないじゃったりなんかして、いそいそと二人並んで乗り込んでいるんです(笑)。

 市営バスに女の子と乗り合わせたときは、振り向き作戦でした。バスの後ろの方に乗っている女の子を、チラチラチラチラ振り向くのです。そして目が合うと恥ずかしそうにしながらも満面の笑みを見せます。女の子もそんな風に注目されると悪い気はしなくて、甥にだんだん親近感に抱き始めます。そして、ついに笑顔を交し合う関係に。その子とは偶然降りる停留所が同じだったのですが、歩き出すや、生まれたときから友だちだったかのように話し始めてました。ほんと、お見事(笑)。「ねえ、彼女、ちょっとお茶つきあわない?」のワンパターン攻撃を繰り返す渋谷のナンパくんより、よっぽど気がきいてると思うのは、単なる伯母バカか?

 甥と近所の商店街を歩くと、しばしば「○○くーん」と黄色い声がかかります。同じ保育所に通う女の子たちです。甥はそのたび「あっ、○香ちゃんや」、「あれは○○沙ちゃん」とうれしそうに手を振り返します。毎朝、保育所に着くたびに、女の子からキッス攻めにもなっているらしい。でも、私が「いったいどの子と結婚するの?」と聞くと、ちゃんと「○香ちゃん」と、一人に絞って答えるんですよね。本命意識はあるんです。「だったら他の女の子とお友達にならなくてもいいやん?」って意地悪くいうと、「お友達は多い方がええやんか」ですと。まったく男ってヤツは(笑)。

 それにしても、この子は生まれながらにしてどうしたら人に愛してもらえるかを知っている。愛される人間っているものなのねって、私はなかばまぶしいような気持ちで、甥の所業をながめています。ここからスタートできる人生って、やっぱり違いますよね。 成長のしようによっては、とんでもない女たらしになるのかもしれないけど(笑)、それでも人を魅きつけるオーラを持っているというのは一種の“徳”だよなあと思います。不思議なのは、甥の親が両方ともそういうキャラじゃないこと。もちろん、私や私の親のものでもないし。あのパーソナリティはいったいどっから沸いて出たもんなんだろう。わが甥ながら、まったく観察のしがいがあります。

 今、私の関心事は、甥がいつステディな女の子を作るのかということ。このままいけば小学校2年生ごろには確実にいそうだなあと、道行く女の子に流し目を送るヤツを見ながら予想をたてております。

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