数学脳

 今年は一年の計を何にも立てませんでした。実は、去年の心身のへとへとをまだ少しひきずっていて、“大きなこと考えると自分の首をしめちゃうから”と思考が縮み志向になっています(これ、だじゃれなんですけど、わかりました(笑)?)。誰もいない海にそっと船を出して走り出した、今年はそんな幕開けです。
 
 でも、一つだけ、これは達成したいなあと思うことがあります。それは微分・積分を理解すること! なんでまた? と思われるかもしれませんね。私は数UBと物理で落ちこぼれたクチでありまして、しょっちゅう赤点を取っていました。このころから私は文系へひた走り、数学なんて見るも恐ろしいという人生を送ってきました。それで何の不都合もなかったのですが(もしかして貯金がたまっていないのは数学が苦手なせいかもしれませんが)、ここにきて微分・積分を理解しないまま死ぬのはくやしい、という気がしてきたのです。

 きっかけは『なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか」(ブライアン・バターワース著、藤井留美訳、主婦の友社刊、原題はThe Mathematical Brain)という本を読んだことでした。私はタイトルに「なぜ」が入った本に弱くて、「ピーコ伝」(杉浦克昭著、日経BP社刊)を買いにいっただけなのに、つい手に取ってしまいました。
 
 この本はまず古今東西の文明に取材して、ほとんどすべての民族が数字を使って計算する概念を持っていたことを報告します。一方、大脳生理学の分野にも踏み込み、人間の脳の左頭頂葉の中には基本的な数を扱う機能があって、ここに障害がない限り誰でも計算ができるようにできている、と断言します。数学が苦手になる人は、たいてい教育でつまづいていて、問題を解く→できる→ほめられる→うれしい→もっと問題を解く、という良循環に入れず、鍛錬が足りなかったからだというのです。ここでも出てきましたね、鍛錬。生まれつき数学が得意な人がいるのではなく、数学が好きになっていくつもいくつも問題を解く鍛錬した人が、数学脳を獲得するとバターワース氏はいっています。
 
 確かに私は現役時代、数学に身を入れませんでした。良循環に入れなかったのは、教師の教え方のせいなのか、私の怠惰のせいなのかは定かではありませんが。でも、問題がスパッと解けたときの達成感は、どの教科よりも高かったのは確かです。今でも覚えているのは、クラスで1,2を争う秀才がてこずっていたある三角関数の問題を、私が遊び半分に手を出したら解けちゃったこと。あれは掛け値なしにうれしかった。なぜあの喜びが持続しなかったのか(笑)。
  
 この本に出てきた数学脳テストがおもしろかったんですよ。たとえば、“1から100までの自然数を全部足すといくらになりますか”とかね。すぐ電卓叩き始めたくなるでしょ? でも、そうやって出した答えは0点しかもらえません。ここは数学脳を使わなくちゃ。1と100を足すと101、2と99を足しても101、3と98を足しても101。つまり1から100までの自然数は、足して101になる数字のコンビが50組並んでるんです。で、5050。あっちゅう間。こういう問題をいくつかやっているうちに、なんだか数学をやりなおしたくなってきちゃいました。そうなるとまっさきに攻略したいのは、学生時代まったく手も足も出なかった記憶のある微分・積分ってわけなんです。
 
 さっそく御茶ノ水の丸善へ出かけました。ついぞ足を向けたことのない数学の棚へ。いやー驚きましたねー。「微分・積分が17時間でマスターできる本」(間地秀三著、アスカ刊)とか「ゼロから学ぶ微分積分」(小島寛之著、講談社刊)とか、やりなおし学習者向けの微積本がダーッと並んでるんです。こんなにいっぱいあっても市場が成り立つほど、微分・積分で落ちこぼれた人って多いんだー。なんだかほっとします(笑)。
 
 全部買いたい気持ちを抑えて、上記2冊を買いました。今一冊めの半分まで読んだところ。すみません、ちょっと叫んでいいですか? “簡単やん! めっちゃ単純な話やん! こんなことを私はわからへんってゆーてたわけ!?” 昔の自分のことながら、あいた口がふさがらないねって感じ(笑)。高校時代の友人が“微積なんか簡単やん”と言い放つのを聞いて、思わずむっとした私でしたが、今ならその友人の気持ちがわかりますね。“なんで微積なんかにつまづくかなあ?”

 一つ屁理屈をこねさせていただきますと、数学は用語がよくないですね。幾何とか微分とか演繹とか虚数とか、画数の多い漢字を使いすぎ。これでまず引いちゃうんですよ、学生は、古色蒼然とした物言いに。微分なんか「接線の傾き」でいい気がするけどなあ。そんなことすると、数学の権威が失われちゃうんでしょうか。
 
 やりなおそ、やりなおそ。こんなことなら、やりなおそ。数列も、行列も、やりなおそ。うまくいったら、物理もやりなおそ。過去のあやまちに、いつまでも顔をそむけて生きていくことはない! これが2002年唯一のにぎりこぶしです。

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