繊細なもの、汝の名は男


 「悩み多きペニスの生涯と仕事」(ボー・コールサート著、江間那智雄訳、草思社刊)読了。エッチって(笑)? そうかもしれません。でも、女にとってはまったく謎で不可思議な器官なので、ちょっと勉強してみたかったんです。とても自然な探究心でしょう(笑)?

 この本は医学書です。生殖器関係には素人であるジャーナリストが、自身の体験や常々思っていることをベルギー人のボー・コールサート先生にぶつけ、それをコールサート先生が一つずつていねいに答えていくというスタイルで進みます(たぶん、このジャーナリストはコールサート先生の一人二役)。取り上げられているテーマは、「早漏」「陰嚢」「前立腺炎」「ペニスの大きさ」「コンドーム」「マスターベーション」「断種」など。男性が(女性も)生涯向き合っていかなければならないのに場所が場所だけに曖昧にしておきがちな問題を、医学的、哲学的見地に基づいてコールサート先生が真摯に解説しています。

 いや、勉強になりました。たとえば、ペニスが骨折するってご存知でした? 陰茎折症といって、激しい興奮のときに高度な緊張状態に置かれた海綿体は、誤った操作を行うと(笑)、棒のように曲がったり折れたりします。これは海綿体組織の壁が切れるために起こるそうで、血液が高圧で組織の中に流れこみ、変色するほど腫れ上がります。こうなると縫合手術しか手段はありませんが、時間はかかるものの元通りになるのだそうです。

 通読して思ったのは、男の人ってなんてデリケートにできているんでしょう、ということ。女よりずっとずっとガラス細工だったのね。生殖器とハートがわかちがたく結びついていて、生殖器の問題はハートの問題、ハートの問題は生殖器の問題になってしまうことが理詰めで理解できました。男の人は大事に扱ってあげなくちゃいけない、って心底思いましたよ、ほんと。

 グサッっとくる言葉もありました。パイプカットに触れてコールサート先生がこういうシーンがあるんです。「以前にもパイプカット手術は可能だったが、当時はまだ、宗教的な問題を考えなければならないことが多かったんだ。それに、一般の知識も不足していた。ただ、こういう情報が十分に行き渡っていないという事情は現在だって問題だよ。マスコミは、人目をひくことしか報道しない。基本的な情報はほとんど伝えてくれないんだよ。」マスコミは、人目をひくことしか報道しない。私はマスコミではないけれど、何かをレポートするということでは同じですから、この言葉はよくよく肝に銘じなければいけないと思いました。

 不思議だったのはバイアグラという言葉がまったく出てこなかったこと。一度だけ経口薬という表現が登場してこれがそうかなと思うんですが、コールサート先生は「結果はめざましいとはいえない」といっています。

 老若男女、すべての方に推薦したいな。男の人だってきっと「へーっ」と思う医学的発見がたくさんあると思いますよ。まじめな人間理解の書です。知識は悲劇の予防薬なり。この本の翻訳出版を決めた草思社に拍手(本体1500円)。

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