ほっとしてシクシク

 始まりは先週の火曜日でした。右の下腹がなんだか痛むなあと思っていたら、水曜日には左の下腹も痛くなってきて、その夜には背中まで鈍痛がやってきました。あっちこっちズキンズキンして夜も眠れません。あまつさえ吐き気と下痢にも襲われて、“一体、この痛みは何!?”と、インターネットと家庭の医学を調べまくりました。下腹なのでどうも婦人科に思われて、卵巣のう種? 子宮がん? と恐れおののいたのですが、この痛みはひょっとして最も古典的な腹痛の病「盲腸」なのではないかと思い至りました。右下腹から始まって、お腹のあちこちに痛みが転移するというのは盲腸の典型的な症状。まちがいない、まちがないと私は確信のもとに、朝になるのを待ちかね救急病院へ駆け込みました。といってもうちから1分のところにあるので、テクテク歩いていっただけなんですけどね(笑)。

 すでに大勢患者さんが待っていたので、診察までには時間がかかりました。その間も痛くてしょうがありません。椅子をすべりおりて、クルッと椅子の方に向き直り、つっぷしたい衝動にかられながら、私は平気なふりをして文庫本を読んでいました。やっとのことで順番が来ると、先生に断固とした口調でいいました。「盲腸じゃないかと思うんです」。私より若いであろうと思われる先生は、“えー、なんでそう断定的なわけ?”という顔で診察し、「うーん、あまり心配することはないと思いますが、まっ、念のために検査しておきましょうか」と看護婦さんに尿検査と血液検査とレントゲン撮影の指示を出しました。

 最近、そんな検査らしい検査はひさしぶり。襲いくる腹痛と闘いながら、その病人っぽい扱いにちょっとワクワクしました。しかし、尿検査に向かったら、膀胱がすっからかんでコップに小匙いっぱい取るのに20分もかかってしまい、血を抜こうと待ち構えていた看護婦さんがトイレまで私を探しに来てしまいました(笑)。

 私があまりに痛そうにしていたからか、検査の結果が出るのを待つためか、先生は「点滴をしますから、2〜3時間休んでいってください」といいました。わーい、ますます病人みたい。診察室の隅の簡易ベッドに横になり、右手を差し出します。最初の看護婦さんは私の血管を探し出すことができず、注射針で無駄に腕を刺したあと、先輩にタッチ交代しました。「おトイレは大丈夫ですか?」といわれたんですが、さっきの艱難辛苦を考えれば「大丈夫です」の答えしかありません。ところが、いざ行けないとなると行きたくなるんですね、これが(笑)。しかし、点滴ツリーをガラガラ押してトイレに行く気にもなれず、なんとか2時間戦い抜くことにしました。

 点滴の間に午前中の診察時間が終わってしまい、診察室は持参のお弁当を食べる看護婦さんたちだけになりました。カーテンの向こうからおしゃべりする声が聞こえてきます。お腹は痛かったけど、耳はヒマだからつい聞いてしまいます。先生の誰かが夏休みでハワイに行ってきたらしい。「うわー、お土産ですか。すみませーん。みなさーん、〇〇先生からいただきましたあ」「ありがとうございまーす」 なんなんだろ、なんなんだろ、やっぱりマカデミアナッツチョコなのかな。「〇〇さん、お産っていくらかかった?」「日曜の深夜だったからいろいろエキストラ料金とられて、40万くらいかかっちゃいました」「私は病院に着くなりスポーンだったから4万ですんじゃった(笑)」「あれって保険が戻ってくるの遅いのよねえ」そうなのかあ。勉強になるなあ。「ねえねえ、〇〇さん、今なん時?」「オヤジ」「もう、〇〇さんったら(笑)」お腹は痛かったけど、思わず笑ってしまいました。

 検査の結果、先生は「ちょっと血尿だったけど、たいしたことはないから今日のところはお薬を出しておきます。様子を見て、まだ痛いようだったら来てください」といいました。ちょっと血尿だったって、それってたいしたことじゃないんでしょうか(笑)。

 薬のおかげで腹痛は少しやわらいだものの、完治でもないという状況です。もう一度病院に行ったんですが、「憩室かなあ。でも、まあ、もう少し様子を見てみましょう」ということで、また薬をもらって帰ってきました。憩室とは腸の途中に小さい袋ができる症状で、そこに消化物が入って痛みを生じます。かなりポピュラーな現象なのだそうですが、本当に治そうとすると小袋を切除するしかないらしい。確かに、治したいけど、こんなものでお腹切るのは大仰だなあ。そのあと、同じ症状の人と偶然会って同病相憐れんだところ、その人も同じような“様子を見ましょう”診察だったそうです。現代医療では脂汗かくぐらい痛くならないと、お医者さんは本気になってくれないんだなあと思いました。

 腹痛は仕事がひと段落してほっとしたから出てきたのかもしれません。お腹が痛いからかこのごろ夢見が悪いんです。5夜連続で悪夢を見てる。第一夜は両親と激しい口論をした夢です。お互い人格を否定するような罵詈雑言を吐くところまでいってしまって、起きたら心臓がバクバクいってました。第二夜は、うちのパソコンがハッキングされて、データが全部盗まれた夢です。デーが盗まれたってことよりハッキングされたって事実に夢の中の私は動揺してて、IPアドレスが頭の中を錯綜していました。 第三夜は、…忘れちゃった(笑)。次の日に友人には話したので、友人は覚えていると思います。でも、私の三番目の悪夢って何だった? って聞くのは間抜けだ。第四夜は泥棒に入られた夢です。気がつくとベランダのガラスサッシが空いていて知らない人がそこにいた。恐かったですねえ。これも心臓バクバクもの。第五夜は出産です。このトシで出産できるなら、それはいい夢なんじゃないかという話もありますが(笑)、生んだ子どもが恐かった。私が子守唄に桜田淳子の「幸せの青い鳥」を歌ってやると、生まれて一時間しか経ってないのに、「クッククッククー」って一緒に歌うんです(笑)。鳥肌たちました。でも、この子は天才に違いないと思うとかわいくて、腕の中から片時も離さなかったのでした。チャンチャン。漱石先生ではないけれど、「悪夢五夜」でも書けそうな。

 …一体なんの話をしていたんでしたっけ(笑)? そうそう腹痛の話。今もなんか痛いようなひきつるような違和感がお腹にあるのですが、まあ、とりあえず救急病院は家から一分だし。忙しくて、人間関係複雑で、人工的なものにまみれている街中に生きていると、“痛みの一つや二つは当たり前!”なのかもしれないなと思い始めています。 

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