祝 2周年記念

 日本刺繍を始めて2年経ちました。新しく始めたことの2/3が挫折に終わる私なので(笑)、上達の度合いはともかく、とりあえず2年続いたことに打ち震えるような喜びを覚えております。

 とにかく刺繍は楽しいのです。いや、楽しいという表現は正確ではありません。ミュージシャンが音楽をやることに似ているかもしれない。とにかくもう縫わずにはいられないのです。

 何もないまったいらな布地の上に、確かな存在感で文様が立ち上がっていき、布の上下を糸と針が行ったりきたりするだけなのに、線と点の組み合わせで驚くほど多様な表現が可能なんです。そして、色。さまざまな色がなんともいえないハーモニーを奏でてくれるんですよねえ。特に私は色に惹かれているような気がします。前に進むということは、それだけ色が加わっていくということ。そこにつきないときめきがあって、1ミリ以下の精度を問われる細かい作業も気にならないのです。思えば裁縫嫌いな私がこんなに針を持つなんて、人間は変われば変わるものだと自分のことながら感慨深いです。

 しかし、得たものがあれば失うものもあって。以前より映画を見なくなりましたし、本も読まなくなりました。まあ、本は“趣味で読むものは当分英書だけ”と決めたから、ペースが落ちているのもあるんですけどね。ホームページの更新が滞りがちなのも、一因は刺繍にあります。とにかくこの趣味は、時間があればあるだけそのすべてを消費してしまうのです。もう目的もなく出かけるなんてとんでもない。天気のよい日など、“今日はお出かけ日和だなあ”と一瞬思いはするんですが、すぐに“いやいや今日中にここまでやってしまわないとあとがタイヘン”と考えなおして刺繍台の前に座ります。晴耕雨読ならぬ晴繍雨繍の日々なのです。

 料理も時間がかかるものは作らなくなってしまいました。以前はことことと煮込み料理を作るそばで本など読んでいるのは好きな時間の過ごし方だったのですが、今はそんな時間があったら刺繍をしていたい。そのため、今はお腹がすいてから台所に立って、作業を始めて30分以内に完成する料理ばかり。それでも出来合いものは使わないってがんばっているんですけどね。

 先輩たちによると、この趣味をつきつめると友達がいなくなるらしいです。極端につきあいが悪くなってしまうから。そのかわり、同じ状況に直面している刺繍の友達との絆は深まっていきます。といっても、会ったり、長電話したりといった刺繍の時間を削るようなコミュニケーションは、私たちはしないんです(笑)。
  
 今のところは、あまたのものと引き換えにしても、と思う気持ちがあります。バランスが悪いことは重々承知なんですが、夢中になれる何かがあるのは幸せってもんかなと、この先も深みに足をとられることを喜びながら、溺れていってみようかなと思っています。 

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