ニューヨーク、ニューヨーク

 20年ぶりのニューヨークでした。といっても今回マンハッタンにいられたのはトータルすると24時間ぐらいで、昔と何が違っていて、何がそのままなのか、比較する余裕があまりなかったんですが、やはり久しぶりに来たなあという感慨はありました。
 
 いちばん変わったのは治安でしょうか。以前なら、どこから東、どこから西の通りは危ない、行くな、といろいろな人に釘をさされたものでしたが、今回は誰もそんなことをいいません。この20年で銃が使われるような凶悪事件はめっきり減ったのだそうです。そのせいなのかどうなのか、町が明るくなったように感じました。日本を含め、世情は荒れていく一方なのに、これは一つの奇跡ですよね。
 
 五番街の上半分がブランドショップだらけになっていることにも驚きました。前はこれほどでもなかったような。銀座の1丁目から4丁目の中央通りが延々続いている感じです。私自身はブランドものといえばチョコレートぐらいしか買えないので、すごいなあ、アメリカ人もブランド好きなんだなあ、でも、寄ってみたいと思うお店がなくてつまんないなあ、と思いながら歩いていました。
 
 私にとっておもしろかったのは、なんてったってニューヨーカーです。これほど信号を守らない人種が世の中に存在したとは。赤だろうが、青だろうが、関係なく彼らはガンガン歩いていきます。車の方が人に遠慮して止まっています。ニューヨーク大学に留学している日本人の学生さんが言ってました。「信号というのはただの“目安”にすぎなくて、こっちの人は気にしないんです。信号で止まるかどうかで、ニューヨーカーか、ツーリストか判別できます」 信号が青になるのを待てない民族としては大阪人が有名ですが、それを上回る「いらち」がニューヨークにいたというのは、新鮮な発見でした。でも事故が起きて訴訟にでもなったら、赤で渡っていたというのは不利じゃないのか。訴訟社会アメリカ、そこんとこどうなのよ。
 
 道の両側にずらーっと路上駐車の車が並び、実質一車線しかない道で、果敢に縦列駐車に挑む女性ドライバーも目撃しました。後ろに十数台車が続くぐらい道が混んでいるんですよ。でも、ぜんぜん、お構いなし。クラクションが五重和音、十重和音で鳴ろうと、まったく気にしないで、車をおしりから空いたスペースにつっこむことに専念していました。それがまた下手なんですよ(笑)。あれぐらい自己中心主義で行かないと、あの街では生けていけないのかもしれません。

 その一方で、グランドゼロには泣けました。周りの人は、あれだけの惨劇だった割には被害を受けた範囲が意外に狭かったんだねというのですが、私は逆に、ピンポイントで攻撃されたのにも関わらず、あんなにも大きなクレーターができてしまったんだと思ってショックでした。現場に掲示されている約3,000名のヒーローたちの名前が、なんだか胸に迫ってしまって。あそこにはまだ天国に行けない魂がたくさんさまよっている気がします。自分でも不思議なくらい、涙がぽろぽろ出てきちゃう。どうも気持ちが普通じゃいられなくなる感じです。

 唯一の訪問希望だった高級食材店ディーン&デルーカには、行けたことは行けたんですが、時間がなくて滞在時間はなんと15分。その短い時間に珍しい乾物をいくつかせしめてきました。あいかわらず料理の仕方がよくわかりませんが、また乾物和洋中でもおいおいご紹介していきますね。ああ、それにしても、チーズも、パンも、おいしそうなのが山ほどあったのに。今度は絶対あの店に半日取ります!
 
 タイムズスクエアで並んでミュージカルのチケットも取りたかったし、メトロポリタン美術館ももっと見たかったし、アル・パチーノが映画を撮った高級ホテルにも足を踏み入れたかったし、し足りなかったことをあげればきりがありません。サンフランシスコは都会だし、大好きな街なんだけど、それにまさる魅力がやはりニューヨークにはありますね。なんだろう、一言でいえば“躍動感”みたいなものかなあ。今度はまた20年後なんて悠長なことはいわないで、近いうちにまた行きたいと思います。

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