すまじきものは大人買い

 基本的にコレクターっぽいところがあって、いったん何かが欲しくなると一気に全部手に入れたくなるんです。それでときどきバカなことをしてきました。M・A・Cという化粧品メーカーのチークを全色揃えたり、あるメーカーの日本刺繍糸を120色全部まとめ買いしたり。いわゆるひとつの大人買いというヤツですね。独身者は可処分所得が多いもので、自分さえOKならばかなり大胆な購買が可能なのです。

 しかし、これは楽しみの芽を自ら摘むことだと最近気がつきました。あっという間に手にいれたものは、あっという間に気持ちも冷める。喜び指数計は一瞬だけ針をふりきって元に戻り、後に残るのは空虚感。夢中になれるものが次から次へと見つからなければ、情熱的には生きられない体になってしまいます。

 それは精神衛生上よろしくない、と。喜びをひきのばす技術を学ぼう、プロセスを楽しむ技術を身につけようということで、大人買いはしないとちかごろ自分に言い聞かせています。

 テレビドラマ化されて再読したくなった「エースをねらえ!」は一冊ずつしか買いませんでした。「冬のソナタ」も、もうDVD化されているから、見ようと思えば今すぐにも20話まで追いかけることができます。しかし、あえてそれをせず、毎週土曜の再放送を心待ちにしています。三河島に、10何種類のおいしい手づくりキムチを売る店があるんですが、それも一気に全種類買ってしまうのではなく、「今日はこれとこれ、あとはまた今度」という具合に楽しみを先に取っておくことができるようになりました。私としては大成長。そのおかげでワクワクする気持ちが長持ちしています。まあ、そのとき買わないと買えなくなるものというのもあるんですけどね。それは縁がなかったということで。がまんも人生修業。大人買いは人を幸せにしないような気がします。それは色恋沙汰も同じかも。皆さま、ゆめゆめコトを急いではなりませぬぞ(笑)。

 でも、もし死ぬまで尽きないお金が手元にあるなら、欲望のままに衝動を満たしてみたいという気持ちが心のどこかにあるのも事実です。そのテンションが一生続くならそれはそれで生き方としてドラマだし、そこまでして初めてわかることというのもあるような気がするし。道半ばで倒れたら意味はないので、あくまで無尽蔵な軍資金を持っていることが大前提ですが。

 そう考えたら、宝くじで3億円当たっても大したことはできそうにないなあ。なあんて、だんだん邯鄲の夢めいてきたので、この辺でお開きにいたしましょう。

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