バカヤロー 私怒ってます

 この話は、人に話せば気が軽くなってそのまま忘れるだろうと思っていました。しかし、人に話せば話すほど怒りが増幅してきたので書くことにします。願わくば、書くことで気が済みますように。

 「クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち」を観た日のことです。新宿・歌舞伎町の映画館で封切り前の前夜祭オールナイトがあったので、その最初の回(21時すぎスタート)で観ることにしました。金曜日の夜でした。

 長らく夜の歌舞伎町なんて足を踏み入れていませんでしたが、いやまあ、ますますすごいことになっていましたよ。休日のディズニーランドみたいに人がわさわさ歩いていて、動線もむちゃくちゃ。そこに種々雑多な客引きもたむろしていて、誰ともぶつからず、あたかも空気みたいに歩くのにはちょっと大変でした。私、外人だったら、あの光景にはびっくりすると思いますわ。ある意味、ラスベガスの電飾よりもすごいもの。
 
 いや、そんなことはどうでもいいのです。事件は映画を観終わったあとに起こったのです。時間は23時半ごろ。終電までにはあと30分ぐらい余裕がありましたが、さすがに少し気がせきます。行きと同じように、歌舞伎町の人波を縫って新宿駅東口に到着しました。そんな終電の迫った時間なので、20台ほどあるきっぷの自動販売機のすべてに行列ができていました。行きに買っておけばよかったなあと後悔しつつ、列の一つに並びました。

 さあ、ようやく私の番がまわってきましたよ、というところで、列の後ろから肩出しキャミソールに細身の7分丈ジーンズを履いた今どきの若い女の子――20代前半ぐらいかな――が走ってきました。そしていうのです。
「私の終電が迫っているので、先に買わせてください」
 私は心底、はあ? と思いました。そのあきれた気持ちがそのまま言葉になりました。
「はあ? 何いってんの?」
 論理的に抗議しようと頭の中でなんとか言葉を組み立てようとするのですが、感情が先に立ってしまってうまく口から出てきません。

 そのとき私の脳裏にフラッシュバックしたのは、ある海外出張での入国審査のときのことでした。到着便が集中したのか、その空港の入国審査場は大混雑状態で、どのラインにも長い長い列ができていました。そういうときはあきらめるしかありません。相当な時間並んで、ようやく次は私の番、さあ前へ、と思ったときに、横のラインに並んでいたアジア系の女性が、すっと私の前に入って入国審査官のところへ行ってしまいました。単純な話、横入りです。そのとたん私の後ろから、英語で怒号の嵐がふりかぶってきました。「列を守れ!」「恥を知れ!」 その強い言葉の調子にどうしていいかわからずおろおろしながら後ろを振り向くと、怒りは私にも向けられていました。「列に入られるお前も悪いんだ!」 そのとき、しみじみ実感したのです。国際ルール的に、社会には秩序が必要で、それは死守しなきゃならないものなんだ、と。

 そういう経験があったので、そのときもこのラインの秩序を守るのは私の役目と思い、彼女の侵入を断固阻止するつもりでした。しかし、彼女も自分のいっていることのむちゃくちゃさがわかっているようで、私の最初の一言のあと、ぴゅーっとラインの一番後ろにあとじさりで戻っていきました。

 それで一件落着と思ったのに。ここで第三の人物が現れるのです。隣のラインの先頭に並んでいた20代後半から30代前半ぐらいのサラリーマンでした。私と彼女のやりとりを聞いていたらしく、彼は彼女に向かってこういったのです。「こっちへおいで、こっちの販売機で買わせてやるよ」 女の子はそそくさと先頭に戻ってきて、殊勝な表情を浮かべつつも目的のきっぷを手に入れ、人波に消えていきました。私、この国は滅びると思いましたね、この瞬間。

 後日談。このエピソードを2つのグループで披露しました。1つは20〜30代の女性が10数人集まっていたところ。もう1つは20〜30代の男性が7〜8人に30代ぐらいの女性が1人集まっていたパーティー。まるっきり違う反応が返ってきましたよ。前者の意見は、若い女の子も悪いけど一番許せないのはその男性、というもの。後者の意見は、その男性の気持ちがわからなくはない、自分もそうしたかもしれない、後で後悔するかもしれないけど、というもの。男というヤツはまったく…。

 どの女性と話したときも意見として共通していたのは、この若い女の子は並ばずにきっぷを買う常習犯だということ。きっと、今度からはこわいおばさんではなく若めの成人男性が先頭に並んでいる列を選ぼうということを“学んだ”に違いないという結論に達したのでした。

 だめだ。書いたらますます腹が立ってきた(笑)。

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