罪作りなミスター・ドーナツ

 ファーストフードのミスター・ドーナツでは、200円分何かを購入するごとにカードをくれます。これで当たりが出たり、一定の枚数を貯めたりすると、そのときどきによってキャラクターもののお弁当箱だとかお茶碗などと交換できます。これを楽しみにしているのは子供や若者だと思っていたら、町屋では案外とおばあちゃんに人気があったりするのです。

私の右隣に座ったマツさん(仮名)と、その向こうに座ったウメさん(仮名)の会話

ウメ 「あら、お久しぶり。もうだいぶ貯まった?」
マツ 「それがねえ、私、当たったのよ」
ウメ 「まあ、当たったの?」
マツ 「カードいらないという男の人にもらってね。それが当たりだったのよ」
ウメ  (うらやましそうに)「まあ、よかったわねえ。 念願かなって」
マツ 「お店の人に聞いたらね、当たりは100枚に1枚だって」
ウメ 「まあ、100枚に1枚。よかったわねえ。それでどれと交換したの?」
マツ 「横長のビニールバッグにしたわ」
ウメ 「ほんとよかったわねえ。念願かなって」(急に向こう隣のお客さんの方を向き)「あなた、そのカード集めてらっしゃる? そう、集めてらっしゃるの」(すばやくマツさんの方に向きなおって)「よかったわねえ。念願かなって」
マツ (うれしげにニヤリと笑う。さりげなく私の方を向いて)「カード、貯めてる?」
私 「貯めてます」
マツ 「そうよね、貯めてるわよね」
ウメ (目の前を通りすぎるお客さんに向かって)「あなた、カード集めてらっしゃる?」(またマツさんの方を向いて)「よかったわねえ、念願かなって」

 ほんとはカード貯めてないんですけどね。ウメさんとマツさんの友情にこれ以上ヒビが入ってもいけないかなと思って(笑)。たかがビニールバッグじゃないですか、と思うんだけど、手に入れたい人々にとっては“念願”までいっちゃうんですねえ。罪なことするぜ、ミスター・ドーナツ。

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