バス待ち時間
ある日の午後、郊外で駅に向かうバスを待っていました。私の他には若いカップル
がひと組だけ。若いといっても10代ではなさそうで、そんな時間にそんな場所にいる
のだから、勤め人でもなさそうでした。二人の間にはちょっと後朝(きぬぎぬ)っぽい雰囲気が漂
っていました。
彼女は美人でしたがヤンキー座りでタバコをふかし、彼とはくわえタバコのまま話 します。彼は立ったまま、しゃがんだままの彼女を見下ろしながら会話していまし た。彼もなかなかのハンサムボーイでした。
そこへ突然、一匹のハチがやってきました。ブーン、ブーンとうなりを上げてひと
しきりひらひら飛んだあと、向かったのは立っている彼のいるところ。そのとたん、
彼は過剰な反応で、ハチから逃げ回り始めました。どうやらハチが苦手のようです。
さすがに走り出しはしませんでしたが、ハチが飛ぶにつれて、その反対方向に上半身
が折れるかと思うほど曲がるんですよね。その様子を、彼女は悠然とタバコをふかし
ながら、おかしさとあきれた気持ちの入り混じった表情でながめていました。胆のす
わった彼女とハチ恐怖症の彼。この二人は長くないなと、興味なさそうなふ りをして、横目でしっかりチェックしていた私でした。