逃避行

 最近見た夢で強烈に印象に残っている話を一つ。

 私は追われていました。重大な犯罪をおかしたのか、体制に盾ついたのか、大きな組織が束になって私をつかまえようとやっきになっていました。私は逃げています。ただ、一人ではありませんでした。豊川悦司さん(笑、ファンなんです)という道づれがいました。彼と二人、休むことなく走り続け、道なき道を行きます。その途中、自分たちの安全を確保するため、追っ手の通る道に爆弾をしかけたり、発砲したり、できることは何でもしました。人を殺しているという自覚はありました。自責の念にかられ、精神的にはボロボロでしたが、ここまできたからには捕まるわけにはいかない、となぜか強く思いこんでいました。

 何時間、何十時間か走り続けた果てに小さな遂道に到着しました。暗く、水滴がポタポタ落ちてくる洞窟のようなところでしたが、静かではありました。疲れ果てた私たちは遂道の壁を背に座りこみ、息を整えます。二人の吐く荒い息だけが闇にこだましていました。

 しばらくして豊川さんは立ち上がり、私に何かいいました。私にはよく聞こえませんでした。「まわりの様子を見てくる」といったのかもしれないし、「食料を調達してくる」といったのかもしれません。でも、この人はいなくなり、私は一人にされるということだけは直感でわかりました。豊川さんの行動は二人とも生き延びることを考えての判断だったのですが、私はとてつもない恐怖に襲われて、思わずいったのです。

「ここが安全でなくてもいい。食料なんてどうでもいい。お願いだからここにいて。私のそばを離れないで。」
 私は極限まで疲れていて、すでに死の恐怖がマヒしていました。もう殺されてもいいと思っていました。それより一人になるほうが恐かった。暗闇で自分しか脈を打つもののない静寂。それを想うと髪が真っ白になるのではないかと思うほど、おそろしかったのです。

 夢はここで終わりです。私は目覚めてすぐ苦笑いしました。“あのセリフが現実の世界でいえていれば、今ごろ二児の母ぐらいにはなっていただろうに” そして両手でそろりと顔をなであげました。

 この夢の意味はわかりません。でも、何かから逃げ続けている感覚と一人になることへの恐怖感は妙にリアルで、夢を見てからもう何日も経っているのに、いまだに私の体のすぐそばを漂っています。

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