インベッドムービー

 ここ2ヶ月と半というもの、仕事が雪崩のようにやってきて(ありがたいことなのですが)、そこへ祖母の死で大阪往復が重なったりして、ほんとにきつい生活を送っていました。ようやく一息つける状態になり、パーソナルな時間を取り戻そうとやっきになっています。スーパーでいったい何人分食べるのというぐらい買い物をしたり、片手で持てないほどの量のDVDをレンタルしたり。

 ノートPCをVAIOのType Uにしたことはお伝えしたでしょうか。このノートPCは私の原稿執筆のメインマシンなのですが、最近新しい使い方を思いつきました。それがインベッドムービー。うちのリビングルームはテレビを寝ころがってみれるようなレイアウトになっていなくて、疲れたときに難儀だったのですが、あるときひらめいたのです。そうだ、VAIOがあるじゃないの、と。ポータブルタイプのCD-ROM/DVDドライブとともにこれをふとんの中に持ち込めば、完璧に横になったまま映画が観られる。これなら途中で寝てしまっても、もうおふとんかぶっているから風邪ひく心配はないし。出張の夜や病気のときももう退屈しないぞ!
 
 何よりいいのは、体勢に合わせて画面を動かせること。最初は敷きふとんの外に置いて腹ばいで、疲れてきたら敷きふとんの上に置いて頭をひじで支えて横向きで、それも疲れてきたらひじをはずして横になり、顔のそばに画面ごと横に倒して置きます。小さい画面も目の前にあれば、意外と気にならないものですな。小さい軽いってすばらしい。まあ、目にはあまりよくないと思いますけど。
 
 見ました映画は「ジョゼと虎と魚たち」「きょうのできごと」「ドッグヴィル」「ラストサムライ」「ミスティックリバー」「レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード」「マルティナは海」「ホテルビーナス」。この中では「きょうのできごと」と「ドッグヴィル」がおもしろかったです。
 
 「きょうのできごと」は行定勲監督作品。関西の大学4年生ぐらいの男女が集まって開く小さなホームパーティーを中心に、その日に起こったいくつかのできごとが、ドキュメンタリーみたいにだらだらと綴られるんですが、そのだらだら感が妙にリアルでいいんですよ。
 
 パーティーにきたイケメンの男の子に酔ったふりしてしどけなくなる女の子、そのイケメンの男の子への嫉妬から酔って暴れる男の子、パーティーに来たくせにあんまり人と話そうとせず、マイペースで飲んでる男の子。パーティーの会場を提供した、ひたすら世話好きの男の子。
 
 そうそう、人が集まったときの互いの距離感って、こんな感じ、こんな感じ、私の学生時代もそうだった、と微笑ましくなる映画でした。主演の二人(妻夫木聡&田中麗奈)の関西弁が今いちで、そのため演技も今いちに見えたけど、酔って暴れる男の子を演じた三浦誠己がよかったです。彼はどうやら吉本興業所属らしいのですが、演技の道を行くのかな。この先の活躍に期待大。
 
 「ドッグヴィル」は、テレビ作品「キングダム」から私が大好きなラース・フォン・トリアー監督作品。アイデアが秀逸なんですよ。舞台は一見してスタジオの中とわかるセット。ドッグヴィルという村の設定なんですが、そこにあるのは地面に書かれた家の中の間取り図と通りの名前、そして最小限の家具だけ。壁も屋根も存在しないのです。その意味では演劇みたいです。

 大人が15人、子供が7人という小さな小さなこの村に、ある日美しい女性が一人逃げ込んできます。どうやらギャングに追われているようです。村を思想的にリードしようとしている青年の説得に応じて、村人は彼女をかくまうことにします。その代償として彼女に村の仕事を手伝ってもらうのですが、彼女の弱い立場につけこんで村人の要求はどんどんエスカレートしていきます。それは陵辱、いじめに発展し、最後は彼女を首輪をつけた奴隷にまで貶めます。それでもおさまらず、彼女の首に賞金がかかっていることを知らされた村人は、彼女の存在をギャングに知らせてしまいます。そしてついにギャングがやってきて…。
 
 救いのない映画だなと、見ている途中は思うんですよ。かくまわれる女性をニコール・キッドマンが演じているんですが、何もあなたがこんな役を引き受けなくても、と思うぐらいみじめな役まわりなんです。このままいじめ抜かれて死んでしまうというエンディングもありかもとこちらは暗い想像をするんです。なにせ「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を作った人の作品ですから。が、ストーリーは終盤で意外な方向にころがっていきました。そう来るか、と。だからニコール・キッドマンだったのね、と。ちょっと長いんですが、起承転結が見事で胃の腑にストンと落ちた映画でした。と同時に深く考えさせられもしました。人って本質的に身内に甘くよそ者に冷たく残酷な生き物なのかもしれないなあって。
 
 いやー、映画はやっぱりおもしろいですね。でも、仕事が忙しくなると映画館にはなかなかいけなくて。だからビデオとDVD。DVDの中には監督や主演俳優の解説がストーリーに沿ってまるまる1本分入っているものがあるんですが、あれは必ず見てしまいますな。映画を作る人の隠れたこだわりやネタバレが見えて、本編よりおもしろかったりします。小雪の本名が加藤小雪だということも、「ラストサムライ」の解説で知りました。
 
 来る日も来る日も映画だけ見て暮らせたら、と思うこともありますが、まあ、人生はなかなかそのようには行かず。そろそろ日本刺繍も本腰入れないと展示会に間に合わない時期に来ております(すでに間に合わなくなっているという声もあり)。仕事アンド刺繍、ときどき映画、ときどき読書(ああ、読書がこんな位置でいいのか)、の歳末モードに入ることにいたしましょう。

戻る このサブジェクトについてメールを書く