マンガ日本国債入門

 「日本国債 上・下」(幸田真音著、講談社刊、上下刊とも本体1,800円)。経済小説です。国債に関心があったわけではなかったんですが、筆者のあとがきに惹かれて買いました。

 “…私の知りたいという思いは無限に広がり、思わぬところでさらなる新しい人との出会いに繋がっていった”とか、“二年あまりの歳月をかけて、この作品のために私が出会った数えきれない人びとの中にも、そういう人たちのなんと多かったことか。米国流に言うならば、Someone has to do this job.「どうしても誰かがしなければならない仕事」なのである。”といったくだりにぐっときたんですね。私もちょうど同じような取り組みをしているところだったので、あなたがそうまでして知りたいことって何だったの? と思っちゃったのです。それと、久々に「白昼の死角」のようなものを読みたいと思ったこともあるかもしれない。

 日本政府の事実上の“借金”である日本国債。金融商品としての魅力はまったく乏しいのに、ただ国債であるという理由で大蔵省の意のままにそれらを引き受けてきた大手証券会社の豪腕トレーダーたちが、ある事件をきっかけに立ち上がるというストーリーなんですが、正直いって、“経済小説なら、こんなレベルでも許されてしまうのか”という落胆の方が大きかったのでした。

 けなげで純情なヒロイン。悪のかたまりのような敵役。正義が服着て歩いているような刑事。ヒロインを窮地におとしいれる、いかにもな事件。読者が国債市場に疎いことを想定してか、これでもかというぐらい会話の中にわざとらしい解説が入ります。読みながらイライラして、何度も放り出しそうになったんですが、途中であることに気がついて救われました。

 これはマンガと思えばいいんだ、と。コマ割の絵がついていないマンガ。そう思うと、ヒロインのオーバーなリアクションも、ただただ邪悪な敵役も、みんな許せるようになりました。中盤以降は私の頭の中で石ノ森章太郎先生の絵をつけてましたよ(笑)。その作業自体はとても楽しかった。

 国債の実情を知らせたいという著者の思いはよくわかったけど、こんなマンガのような小説で書く必要があったかどうか。ノンフィクションの方がよほど迫力のある話になったような気がしますが。…講談社さん、ちょっと誇大広告よ。

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