2006年3月24 日

中銀マンション株式会社 取締役社長 平岡繁行殿
中銀カプセルタワー管理組合 理事長 山下清兵衛殿


DOCOMOMO Japan代表
鈴木博之

中銀カプセルタワー保存要望書

拝啓、時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
本会は、20世紀の建築遺産の価値を認めその保存を訴えることを目的のひとつとする、世界45カ国が加盟している近代建築保存の非政府国際組織DOCOMOMO(Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhood of Modern Movement=モダン・ムーブメントに関わる建物と環境形成の記録調査および保存のための組織)の日本支部です。
ご承知のように、中銀カプセルタワーは、現代日本を代表し、国際的な活動を行っている建築家黒川紀章が設計した建物の中で、1970年代を代表する現代建築として、また、西欧の近代建築思想を学んだ日本人建築家による作品が始めて世界に影響を与えた建築として、建築史上国内のみならず国際的に高く評価されております。
貴下におかれましては、中銀カプセルタワー(1972年竣工)の建て替えを検討されおる旨うかがっておりますが、本会は、この貴中銀カプセルタワーが、以下の点で保存すべき建物と考えております。

1) メタボリズム(新陳代謝)理論に依拠した建築工法、設備を実現し、当時の建築・都市のありかたにおける革新性をもった建築である。
メタボリズムは、1960年代日本で誕生した建築理論です。その主意は、有機体としての生物が新陳代謝しながら成長していくように建築・都市も建設されるべきであるというもので、現在においてはサステナビリティという持続可能なシステムにつながるものだと考えられます。理論の実現化には10年後に開かれた大阪万博のパビリオンでの実用を経て、量産可能なユニットを一つの個室カプセルとして工場で製作し、エレベーターや階段などを含むコア(中心)となる二本の搭に、ボルトで取り付けるという取り外しの可能性を探る工法が取られました。また、個室カプセルの配管は、二本のコア外部に露出設置された設備配管と接続されるようになっており、設計者黒川によると、もし、同様のコアが他の都市に作られた場合、カプセルごと移動し、付替えられることが想定してあったようです。ここには建築=不動産という概念が取り払われており、現代のネットワーク社会に通じるシステムが提案されております。このように中銀カプセルタワーは、戦後日本社会における革新的な試みの代表的な存在であることが歴史的にも認められております。

2) 現代日本を代表する建築家・黒川紀章の初期の代表作であり、国際的な評価を受けている。
東京大学大学院で、丹下健三教授の指導を仰いだ黒川紀章は、早くからその才能を開花させ、特に国際的な会合や建築家の集まりに積極的に参加し、自らの建築に対する考え方を明らかにしてきました。近年、回顧展としてヨーロッパ、アメリカにおいて展覧会が開催され、その活動に対して国際的な評価を受けている数少ない日本の建築家の一人です。中銀カプセルタワーは、その黒川による初期の代表作であり、同じように60年代に活動したイギリスやイタリアの建築家グループに、メタボリズムの理論を使った黒川の活動は影響を与えていることは知られております。その証左として中銀カプセルタワーに関して保存を要望する声は、その革新的価値を認めているアメリカの建築評論家であるチャールズ・ジェンクス(Charles Jencks)をはじめ、諸外国からいち早く行われております。

3) 銀座および新橋の景観を構成する重要な建物であり、近代建築を持続させるよき事例となりうると考えられる。
変貌が激しい汐留、新橋、銀座地区において、首都高速越しに見える中銀カプセルタワーは、33年にわたって、東京のダイナミックな景観の形成に大きく寄与してきました。それは、東京をはじめ日本が最も発展し、未来を築こうとする希望に満ちていた時代の建築でもあります。ぜひこの時代の証人として将来に残したいと考えます。現実的には、アスベスト問題という建築界全体で取り組むべき重要な課題があり、生命に関わる問題であるだけに、慎重な対応が必要であることは言うまでもありません。しかし、近代建築を持続させる動きが世界的な流れとなる中で、安全に留意した改修検討を踏まえ、メタボリズム理論に基づいたカプセル部分の取替え、機能更新とアスベスト問題の包括的な解決を行えば、記憶を継承しながら、近代建築を持続的に活用させる良い事例となると考えられます。
以上のことから、貴下におかれましては、中銀カプセルタワーの文化的意義と歴史的価値についてのご理解をいただき、是非存続に向けたご検討をくださるようお願い申し上げる次第です。
なおDOCOMOMO Japanの活動に関しましては補足資料として同封しますので、ご参考にしていただければ幸いです。
敬具