2006年6月14日
青山学院理事長   松澤 建 様
青山学院院長    深町正信 様
青山学院大学学長  武藤元昭 様

社団法人 日本建築家協会(JIA)
     関東甲信越支部 支部長 伊平則夫
同 保存問題委員会 委員長 川上恵一

「間島記念館」の保存・活用に関する要望書

拝啓 時下ますますご清祥の事とお喜び申し上げます。
貴学院におかれましては、日頃から当協会の活動に格別のご理解とご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。

 さて、貴学院は青山キャンパスの総合的マスタープランの中で、間島記念館をシンボル的建築として保存することを公表されました。本年度事業計画においては、その具体的な方法として「一度当該建築を解体した上で構造体を新築し、外観を当時の設計・材料・工法で復元する」旨記されております。
 ご高承の通り、間島記念館は、J.M.ガーディナーの設計により1907年に完成した弘道館が関東大震災により破壊されたのち、校友である間島弟彦氏とその夫人の寄付により、1929年に再建された建築です。清水組(現清水建設)により完成した記念館は、当初の弘道館のデザインを踏襲しながらも、パラディアン・スタイルがより洗練されたかたちで現れており、明るく軽やかで、ピクチャレスクな印象を持つ知的で品格の有る建築であることは、学院の建学の精神との関連からも注目すべき特色と思われます。建てられてからすでに77年を経て、今では青山学院の象徴というだけでなく、青山という地域を代表する建築のひとつとして、多くの市民に愛される存在となりました。
 貴学院におかれましては、斯様な間島記念館の価値を十分に認識されながらも、建築を一度解体した上で外観の復元を図る工法を選択されますのは、既存の記念館には構造や持続的利用の面に関し問題が有るとの報告を受けてのものと聞き及んでおります。ご懸念の構造や持続的利用に関する問題は、すべての歴史的建築物共通の課題でありますが、耐震性を向上させる技術は年々発達し、耐震補強、免震構造等様々な手法が選択可能となっております。工事や維持管理に必要とされる費用や手間に関し、新築後に復元を行う手法に有利な面があることは否定できませんが、かけがえの無い記念館をひとたび解体してしまいますと、たとえオリジナルな材料を再利用する場合でも、それは本物とは異なったものになってしまいます。建築の価値を継承するためにはオリジナルな建造物と空間を存続させることがなにより望ましく、また、このことこそが建学の精神・教育理念の継承を明確な形で表明するものと理解されます。
 また、貴青山キャンパスは一歩内部に足を踏み入れますと、緑の並木のパースペクティブのかなたにわずかに見える間島記念館とベリー館の屋根、そしてその向こうにみえる青空が、都会にあっても豊かな空間を私たちの心にイメージさせ、記憶に残る風景となっております。歴史的建造物はその周辺の景観とともに保全されてこそその真価が発揮されると存じます。
 貴学院が、間島記念館を解体することなく保存し、市民に愛され、いつまでも校友の記憶に残る青山キャンパスの景観を守り、また、そのことにより教育理念を末永く継承してゆく姿勢を広く社会に示されることを心より願っております。

 なお、社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、及び同保存問題委員会は間島記念館の保存・活用に関しできる限りの協力をさせて頂く所存であることを申し添えます。

敬  具