2006年11月27日
財団法人 大学セミナ−・ハウス
理事長 佐藤 東洋士 様
館長  荻上 紘一  様

社団法人 日本建築家協会(JIA)
      関東甲信越支部 支部長  伊 平 則 夫
同 保存問題委員会 委員長  川 上 恵 一
同 三多摩地域会  代表  嶋津 民男

「大学セミナ−・ハウス」の保存活用に関する要望書

拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
貴財団におかれましては、日頃より大学教育の補完と交流の場を提供されている事に深く敬意を表します。
又、当協会の活動に格別のご理解とご支援を賜り、厚く感謝申し上げます。

 さて、先般貴財団は経営計画の一環として、建物の老朽化を理由に「大学セミナ−・ハウス」の建築群において主要な位置を占めるユニット・ハウス群の大部分を解体撤去し、新たな建物を建設されました。
 「大学セミナ−・ハウス」は、1960年代の大学の大衆化に伴う教員と学生との対話など、人と人との交流の希薄化に対して危惧を抱いた飯田宗一郎氏(初代館長)の志を現実のものとするために、有志によって設立された財団であると伺っております。1960年代は、あらゆる分野へ工業化の波が押し寄せ、建築界に於いても近代主義建築がその波に巻き込まれ建築のあり方の見直しが迫られる時代でした。「大学セミナー・ハウス」の諸施設の設計を担った吉阪隆正(1917〜1980年)は、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジェに学んだ後、早稲田大学で建築教育に携わり、人が集い、交流するための建築を独自の思想で築き上げ、建築の新たな可能性を切り開こうと活動を続けた建築家です。その吉阪が貴財団の「大学の枠組を越え、都心から離れ、八王子という豊かな自然の中で寝食を共にし、思索し、討論し、人格的な接触をはかり、大学教育の補完と交流を目的とする」設立理念を汲み取り、自身の建築観と融合して創りだしたのが本「大学セミナー・ハウス」の建築群です。森に囲まれた丘陵に楔型の本館、ピラミット型の中央セミナ−館、扇形に配置されたユニット・ハウス群等を一つの集落の様に点在させてスタ−トし、その後自然の地形を生かすなかで第二期と呼ばれる講堂・図書館、第三期の教師館、第四期の長期セミナ−館、第五期の野外ステ−ジ、第六期の大学院セミナ−館、第七期の国際セミナ−館、ガラス張りの交友館などの建築群が、40年という歴史の中で育まれてきました。これらの建築群には吉阪の追及した建築思想「不連続統一体」「有形学」が実態として表現されており、吉阪の集大成となる代表的作品です。また、以後各地につくられることとなる「セミナーハウス」の先鞭となった貴財団の活動理念を今日まで引き継ぎつつ、変貌していく時代を受け止めながら成長を続けた、まさしく日本の建築文化を考察する上で欠かせない建築群でもあります。
 IT技術の急激な発展に伴い、人と人との交流の希薄化がより危機感を持って語られる現在において、貴「大学セミナー・ハウス」の、建築が、スペ−スや箱だけであってはいけない、とする建築群のあり方は、教員と学生、もしくは学生同士の交流の場として、これまで以上に時代の要請に叶っているものと思われます。
 建築は状況に応じて適切なメンテナンス無しにはその機能を維持できず、現状は憂慮すべき状況とも思われます。貴財団におかれましては、財団創設の理念と結合した建築群の意義をご理解頂き、将来へ向けての保全処置を施し、後世へとその価値を継承されるようお願い申し上げます。
 なお、社団法人日本建築家協会(JIA)関東甲信越支部、同 保存問題委員会、及び同 三多摩地域会はできる限りの協力をさせていただくことを申し添えます。

敬  具