2006年12月11日

都城市長 長峯 誠 殿
都城市議会議長 下山 隆史 殿
都城市教育長 玉利 譲 殿
DOCOMOMO Japan 代表
鈴木博之
                    都城市民会館保存要望書

拝啓
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。本会は、20世紀の建築遺産の価値を認め、その保存を訴えることを目的のひとつとする、世界43カ国が加盟している近代建築保存の非政府国際組織 DOCOMOMO ( Documentation and Conservation of buildings、sites and neighborhoods of Modern Movement =モダン・ム−ブメントに関わる建物と環境形成の記録調査及び保存のための組織) の日本支部です。
都城市では、新たに建設された「総合文化ホ−ルMJ」の完成に伴い、1966年に建てられた旧都城市民会館の今後の使用に関して検討を加えられている旨を聞き及びました。ここに、その建築的価値を明記した保存活用の要望書を提出させていただきます。

都城市民会館は日本のモダニズム建築を代表する建築であり、その建築的価値は下記の2点に集約されると考えられます。ひとつは、戦後日本の建築界において展開されたモダン・ム−ブメントの重要な一面を担った“メタボリズム”の建築理論が具現化された作品であること。第2点は、“メタボリズム”を標榜するグル−プの中心的役割を担ってきた建築家・菊竹清訓の思想が端的に表現された建築であり、その造形は極めて独創的なものであるという点です。

1960年代は“もはや戦後ではない”という合言葉で始まりました。50年代からの急速な技術革新に支えられた高度経済成長によって、60年代前半には社会全体に高揚状態が訪れ、64年の東京オリンピックにおいて絶頂期を迎えました。建築分野においては『国立屋内総合競技場』(1964年、丹下健三) は戦後の日本建築が世界のレベルに追いつき、追い越したことを象徴する建築となりました。戦後建築のリ−ダ−ともいえる丹下健三に続く世代として登場したのが、1960年に日本で開催された世界デザイン会議を機に設立された“メタボリズム・グル−プ”です。“メタボリズム”とは、生物が新陳代謝を繰り返しながら成長する仕組みを、都市や建築の構想に取り入れようとするユニ−クな建築理論であり、当時は世界中から注目を集めました。欧米の影響下に近代化を進めてきた日本の建築界から、世界の建築界に向けて新しい建築理論を発信した初めての運動であったといえます。

都城市民会館を特徴付ける特異な建築形態は、メタボリズム・グル−プの中心的立場にあった建築家・菊竹清訓の新しい建築理論から生まれたものです。菊竹は、建築や都市の計画において“変わるもの”と “変わらないもの”とを明確化することを意図し、都城市民会館においては、事務室等を含む鉄筋コンクリ−ト造の基壇(不変)の上に、取替え可能な鉄骨造の屋根を載せるという形状を採用しています。この屋根形状は、敷地地盤の悪さから、柱を減らし、扇の要のところに全ての力を集中させることから発案されましたが、さらに徹底して、空調や照明等の設備面においても、全ての力を一点に集中させることを意図しています。加えて、建築を構成する全ての要素を露出し、視覚化するという斬新な発想から、“三半規管”の渦巻き型を髣髴させる、独創的な建築形態が生み出されました。その力強い姿は“ヤマアラシ”の愛称として親しまれています。

都城市民会館は1960年代の高度成長期の日本だからこそ可能となった前衛的で実験的な意味合いの強い作品といえます。メタボリズムは、一般には未来主義的な志向と捉えられていますが、近年は、可変的なシステムを導入することで、使い続けてゆく日本的なライフスタイルを追求する運動であったとの再評価も生まれています。それゆえ、竣工時より屋根の雨漏りのトラブルが生じるといった不幸な経緯にもかかわらず、その後40年の長きにわたり、市民の方々に愛され続けてきたことの意義は極めて重要であるといえます。
この前衛的建築を使用され、今日まで維持されてきた都城市民の方々の努力に敬意を表するとともに、今後もメタボリズム(新陳代謝)理論の良き実践例として、是非存続に向けご検討くださいますようお願い申し上げます。

なおDOCOMOMO Japanの活動に関しましては、補足資料を同封いたしましたので、ご参考にしていただければ幸いです。
敬  具