2007年1月18日
東京女子大学
理事長 原田明夫様
学 長 湊 晶子様

社団法人 日本建築家協会(JIA)
      関東甲信越支部 支部長  伊 平 則 夫
同 保存問題委員会 委員長  川 上 恵 一
同 杉並地域会   代 表 中田久雄

「東京女子大学旧東寮及び旧体育館」の保存活用に関する要望書

拝啓 時下ますますご清祥の事とお喜び申し上げます。
 
  貴大学におかれましては、日頃から当協会の活動に格別のご理解とご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。
  さて、昨年の学報(2006年7月・8月合併号)に掲載されたキャンパス整備計画には、旧東寮及び旧体育館を解体し、新教室・研究室棟、及び新体育館棟が建設されるという計画が示されております。
  ご高承の通り貴キャンパスは、キリスト教の精神に基づくリベラル・アーツ・カレッジという建学の理想を実現する女子教育の場として、チェコ出身のアメリカ人建築家アントニン・レーモンドによって設計されました。
  アントニン・レーモンドは、日本だけでなく、世界において高く評価されている建築家です。レーモンド設計による旧東寮(1924年竣工)及び旧体育館(1924年竣工)をはじめとする9棟の建築群は、鉄筋コンクリート技術の可能性を追求した貴重な近代主義建築の遺産であると同時に、武蔵野の面影を残す自然環境の中で一体となって美しい風景を形成し、ここで学んだ卒業生の記憶に深く刻み込まれております。
  レーモンドの生まれた国、チェコ・キュービズムの建築様式を取り入れ、リズムある開口部と陰影に富んだ外観を持った旧東寮は、初代学長であった新渡戸稲造の「一日に一度は一人になって瞑想し、内省すること、祈ること」という理念を実現するために、寮生の部屋を個室の集合として構成することで、女性としての個の確立や自立、自治を学習する場となりました。一方、旧体育館は、寮のシンボルであった煙突に配慮し、高さを抑えるなどキャンパス内の建築に配慮した注意深いデザインがなされ、暖炉をもつ部屋が併設されており、女子学生の社交の場として活用されてきた大変希少な体育館と言えます。
  レーモンドによって設計された建築群は、女子学生の知性を磨く場としての旧図書館(現本館)とチャペル、講堂、東西教室棟の一群と、人格を形成する場としての旧東西寮、旧体育館、旧外人教師館の一群という二つの領域から構成されております。この二つの領域は、貴大学にとって不可分であり、貴大学として誇るべき建築的、精神的遺産であり、貴大学の伝統を培っております。すでに7棟を有形文化財として登録され、貴大学を象徴する空間として整備を進めておられることに深く敬意を表しておりますが、キャンパスが建設された歴史的経緯を考えますと、7棟と共に、旧東寮及び旧体育館を保存活用していかれることが、創立時の理念を持続させることにつながると思われます。旧東寮及び旧体育館の解体理由として安全性の問題が指摘されておりますが、優れた構造設計者と建築技術者との協働により、解決する可能性が充分にあると思われます。
  以上のような理由から、旧東寮及び旧体育館を解体することなく保存活用し、9棟の建築群すべてを貴大学、及び地域の建築遺産として維持することを心より願っております。
 
  なお、社団法人日本建築家協会関東甲信越支部、同保存問題委員会、及び同杉並地域会は、建築の専門家という立場からできる限りの協力をさせていただくことを申し添えます。

敬  具