南アルプス 転付峠
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「やっ、どうも」
早朝の富士駅身延線の始発電車で待ち合わせをしていたkondo氏はすぐ見つか
った。今日から5日間にわたる南アルプスの遠征の始まりである。ほぼ2ヶ月
ぶりに見るkondo氏は相変わらず『あやしい』人だった。氏とこれから転付を
越え、明日からは南アルプス南部を単独縦走(歩き)の計画である。今夜は仲
間のM山氏,F田氏と椹島で合流する。電車は定刻(531)に身延に向けて出発した。身延6時41分到着。南アルプス
へ向かうと思われる登山者数名と共に身延の改札を出た。心配していた天気も
よく、暑くなってきそうである。しばらく待って、奈良田行きのバスにのる。
電車を一緒に降りた登山者7,8名も一緒。バスは7:20に定刻どおり発車
した。最初は登山客用のバス路線だと思っていたが、路線の人たちが結構利用
している。お年寄りと中学生がほとんどだが、途中でついに空席はなくなり、
立つ人まで出てしまった。中学生は学年に関係なくみんな顔見知りのようで、
仲が良い。お年寄りに席を譲って上げる光景も見ていてすがすがしさを感じる。
都会ではなかなか見られない光景。病院の前でお年寄りが降り、中学校の前で中学生が降りてしまえば、また乗客
は登山者だけとなり、聞こえるのはバスのエンジン音ばかりになってしまった。
バスは渓谷沿いに走り、やがて田代入口へ到着した。田代入口では、意外にも乗っていた登山者がほぼみんな降りてしまった。転付
峠経由で南アルプスに入山する人がこんなにいるとは思いもしなかった。ここ
で輪行袋から自転車を取り出し、組み立てる。時刻はまだ8時30分ぐらいで
あるが、日差しが強い。用意が終了し、お互いに写真を撮り合ってからスタート。時刻は8:52。今
回は縦走用の5日分の食料,水,テントなどを合わせて、20Kg近い荷物を
60lのザックに入れて持ってきた。このザックを背負って自転車に乗るとふ
らふらする。(まぁ、最初はこんなもんだろう)とゆっくり自転車を漕ぎ出し
た。バス停から広河原の発電所までは舗装道路が続いている。kondo氏は調子
が良いみたいで、どんどん先に行ってしまった。私の方は途中ですでに押しが
入ってしまった。先行した登山者がちらちら先に見える。登山者と同じペース
でゆっくりと押してゆく。結構歩いたかな?と思った頃、kondo氏が待つ広河
原の発電所前に着いた。ここで休憩。地図上では、もう1/3ほど消化した事
になっているが、ここからが本番である。休憩後、いよいよ転付峠への登山道に入ってゆく。道は渓谷沿いに作られてお
り、結構アップダウンがある。岩とか段差とかが多いのだ。歩調が乱れてなか
なかペースが上がらない。自転車を担ごうとしても、背中のザックが邪魔で思
うように担げない。自転車を押すことが多くなり、これで又体力を消耗する。
段差のごとに自転車を「えいや!」と持ち上る。暑さもあって、汗びっしょり
である。道自体は普通の登山道である。特に大変な所がある訳ではない。両岸
が岩壁になっているような所では、岩をくりぬいた道になっている。自転車が
無ければ、もっと楽だなと思うことしばし。途中、河原でキャンプしている一
行を見かける。こちらは息も絶えだえで汗びっしょりなのに、あちらは河原で
ひなたぼっこ。うらやましい。
渓流沿いの道 |
当面の目標地点は保利沢小屋である。が、これがまたなかなか現れない。kondo
氏はもうすぐだと言っているが、最初に聞いてからずいぶん時間が経つように
思われる。いいかげん、いやになった頃に保利沢小屋に着いた。保利沢小屋は電力会社の監視小屋であり、戸には鍵が掛かっている。暑いので
日差しが避けられる所で休憩したいのだが、あいにくそんな所は無い。仕方が
無いので、適当に座って休憩である。ここで当初食事をとる予定であったが、
なぜかそんなに腹が減っていない。来る前に飲んだバームの効果であろうか。
とりあえず、携帯食を食べる。ここまで4時間。そんなに時間が掛かっている
訳ではないが、決して早くはない。他の登山者はほとんど先行して行ってしま
った。後ろにいるのは1人だけである。休憩しながら足をマッサージ。じつは
先ほどから、自転車と背中の荷物の為、足がつり気味なのである。地図を確認後、出発。まだまだ沢沿いの道は続きそうである。しばらく行くと
河原に出た。ここで、kondo氏が濡れた岩に足を滑らし転倒。kondo氏もやっぱ
り疲れているようである。しばし休憩。ここからは休憩が多くなる。しばらく
進んでは、サドルに顔を伏せ、休憩。またちょっと進んでは休憩の繰り返し。
保利沢小屋から尾根のつづら折れに出るまでの2時間が一番辛かった。途中登
山者を一人追い抜く。かなり辛そうな様子。我々以上である。テントを持って
いるから適当なところでビバークすると言っていた。やがで道は沢を離れ、つづら折れに。ここからは歩きにリズムが戻り、先ほど
までが嘘のようにペースが上がった。どんどん標高を稼いでゆくのが判る。自
分の足で標高を稼いでいることが実感できる。沢沿いの道はこれが無いから嫌
いである。調子よく歩いてゆけば、ごく一部には有名な峠直下の水場に出た。
早速、飲んでみると。。。「。。。。。。」
言葉にならないくらい、うまい。甘露である。これまでの体力消耗の影響も3
0%(いや50%かな)ぐらいあるが、それでもうまい水である。ここには小
屋の跡がありテントを張れるスペースもある。(kondo氏はここで前回キャン
プした。)ここ泊まるのもいいかもしれない。「この水場から峠はすぐです。」
とkondo氏は言っていたが、本当にあっと言う間だった。峠には石碑と標識が有り、すぐ脇を二軒小屋方面から上がってきている林道が
通っている。林道の所為で、雰囲気はいまいちだが、やっとここまで来たとい
う感慨が強い。ほんとに長かった。あいにく雲に隠れて南アルプスは見えない。
残念。しばらく写真を撮ったりしながら休憩。この時すでに5時すぎ。kondo
氏との協議の結果、椹島で待つM山氏やF田氏には悪いが、今日は二軒小屋泊
りとするに決定。それではと二軒小屋目指して、峠を後にした。二軒小屋までの登山道は多分荷物が無ければ快適な道。20kもの荷物を背負
っての下りは怖かった。自転車を想うように操れない。結局1時間ほど下り道
と格闘して、二軒小屋に着いたのは暗くなる寸前の18時30分であった。二軒小屋は大きなロッジで、ロッジ前には広い芝生のテントサイトがある。キ
ャンプ受け付けの為ロッジに入ってみれば、中は夕食の真っ盛りであった。ど
うやら団体の客みたいで、みんな楽しそうにワインなどを傾けている。一方の
我々はぼろぼろ,へとへとな状態。何か場違いな場所に来てしまった様な違和
感。早々に受け付けを済ませ、テントを張る。素敵なホテルの完成である。ロ
ッジで仕入れたビールで乾杯しながら静かな夕暮れをしばし楽しむ。さて、この後、夕闇迫るキャンプ場で夕食を取りながら、明日は椹島で休養日
にすることがいとも簡単に決定した。夕食後「ばたん・きゅう〜〜」と寝てし
まった2人のテントを、南アルプスの帳が静かに包んでゆくのであった。反省:20Kgの荷物は重かった。
もう二度とこんな荷物背負って山サイはやらん!!