1章 待合ラウンジの計画    .

■待合と受付 〜待合からラウンジへ〜

ラウンジ:原意は人々がリラックスして来集する場所。 (建築大辞典 彰国社)


「病院のデザインは病院らしくないデザインにして欲しいのですが・・・。具体的なイメージは倉庫、船、潜水艦、宇宙船です。」
ある動物病院の改修の初回の打ち合わせで、先生からこのように切り出されました。それらのイメージの写真に混じって、「ディズニー・シーのみやげ物売り場」の写真もありました。打ち合わせの最中も、その後も「果たしてこのようなものを動物病院としてデザインしていいものだろうか・・・?」心の中で自問自答を繰り返し先生のイメージを具体的にデザインしてゆく中で、デザインはさらに膨らみ走り始めました。
「ボルト・・・ガラスブロック・・・機械のモチーフ・・・ローテク・・・」 


出来上がった計画案のプレゼンテーションを終え、先生の顔を見ると満足そうにニコニコされていました。そして、先生との打ち合わせの会話の中で、メールのやり取りの中で、その後も、さらにそのデザインは展開してゆきました。 その設計中に考えさせられたものは、「動物病院のデザインとは何か」ということに他なりませんでした。先生方の考え方を映し出す鏡として、病院のデザインはどのように計画しデザインしてゆくべきなのかと・・・。

病院のイメージをデザインで表現するためには、統一感のあるコンセプトが重要と考えています。「病院らしい病院」にするのか、「病院らしくない病院」にするのか。そして、その場合は何をイメージにするのか?
デザインコンセプトとして利用できる具体例としては、「ホテル・美術館・喫茶店・カフェ・美容室・宝石店・エステサロン・・・」など様々なイメージがあります。いずれも「不特定多数の人の集まる場所」で空間的な特徴や独特のデザインを持っています。「地中海風・洋風・アーリーアメリカン・メルヘン・和風・トスカーナ風・・・」等は様式や作風をイメージする言葉として古くから共通言語として使用されてきています。「病院らしい白」を始め「緑・茶色・オレンジ・シルバー」などの色から連想されるイメージや「清潔感・親しみのある・落ち着いた・クール・若々しい・派手・渋味・・・」等はファッションや人間性のもつ特徴を空間に求めています。また、「メタリック=金属・木調・レンガ・石・塗壁」等などの好みの素材を断片的に組み合わせて空間を創り出すことも可能です。

デザインは解釈に個人差があり、その表現方法も感じ方も異なりますが、話し合いながら、イメージを参照しながら新しいコンセプトでデザインしてゆけばオリジナリティのあるデザインを生み出すことができます。 時には「先生のネクタイの色」「先生のお持ちの車種やその色」「今まで行った場所で一番好きな場所や落ち着く場所」などもコンセプトのヒントとしてデザインしてゆくことも一つの方法と考えています。

ペットブーム全盛をむかえ街中には以前より頻繁に動物病院を見かけるようになってきました。新規開業のテナントや一戸建てのこれらの動物病院は目を引くデザインとして街中に彩を添えています。家族の一員としてペットが飼われ、人々の日常生活に溶け込むようになってから、病気や怪我や予防接種だけではなく日常のペットの健康管理に動物病院を訪れるクライアントが多くなり、現在では日常生活に利用する建築的用途として社会的には認知されるようになってきています。そこで、本章では、これからの動物病院を考え、外部から受付を含めた待合の計画と待合・受付を含めた動物病院のデザインのコンセプトの組み立て方を考えてみたいと思います。




■入ってみたい待合ラウンジ

・必要機能と付加機能
病院の待合の機能は、一般に診察の順番待ちや会計待ちのスペースとして考えられています。この空間は、順番待ちの際、自分のペットや、他人のペット、これらをめぐる世間話や、情報交換の場、コミュニケーションの場としても役に立つでしょうし、サロン的なゆったりとした雰囲気にすることも一つの考え方です。前述のように、あえてホテルや美術館のラウンジのようなくつろげる空間としたり、美容室のような清潔感を表現したり、ブティックのようなクールな空間にすることなどで、入りやすい、あるいは入ってみたい特徴のある待合になると考えています。もちろん怪我や病気の診察、カウンセリングを待つクライアントに安心感を与える空間を主眼において計画する場合もあります。

待合の平面形状は診察室やトリミングルーム等諸室を効率良く直線的に配置すると間口に対して細長い空間が出来上がります。細長いままでは廊下のような空間になりかねませんので、待合と診察ゾーンの壁をデザインすることによって、広さや距離感に変化を生み出すことができます。待合を囲むように諸室を配置し出来るだけ奥行きのある広いスペースを取ればしつけ教室などにも利用可能です。外部空間に余裕がある場合は外待合を設け、クライアントやペットの機嫌や天気など、その時々によって利用できる待合に連続した外待合なども待合空間に豊かさを加えます。外待合は近隣の状況にもよりますが、ガラス張りなどの透明性の高い待合同様、外で「待つ」ことによる宣伝効果も期待できます。また、病院の方針としてトリミングや健康診断などを併用したトータルケアのサービスを待つためのサロンなど、これらの機能を併せ持った待合を目指すのであれば、訪れた人が快適に感じるラウンジとしての空間を用意することがこれからの病院の計画に欠かせないものになってくると考えています。




■緩衝帯と空間の仕切り 外部と待合と診察の空間の繋ぎ

・透明性とプライバシー
動物病院のイメージを表現するためには、「外観のイメージ」や「待合のイメージ」のどこに重きを置いて計画しデザインするかという点が重要です。外観の色や形で人目を引くようにデザインにすると建物やファサード(テナントの正面)そのものが病院のイメージとなり、広告がわりになります。また外観がガラスなどの透明性の高い素材で仕上げ待合ラウンジが道路から良く見える場合、受付を含めた待合のデザインがガラスを通して病院のイメージを映し込むことになります。そのため待合の中が見える場合は待合のデザインそのものが病院のイメージになります。この場合、「待合空間」は地域社会と「診療空間」とを結ぶ緩衝帯として機能します。内部でどのような様子なのかが判りやすくなるため、初めて訪れる人にも安心感が生まれます。  

病院の「顔」であるデザインをどのように創り上げてゆくかは、病院の立地によっても異なります。車や人の交通量の多い立地では内部の落ち着きを考慮して、ルーバーやブラインドやスクリーンなどの干渉物を設け少し視線をさえぎる工夫も必要です。ルーバーの間から部分的に「なんとなく見える、うっすら見える」ように視線の角度や面積を調整するための干渉物を配置することで待合に落ち着きを与えます。複数の道路に面する一戸建ての場合、交通量の多い道路に面する病院のファサードとエントランスを持った入りやすいファサードを分けるのも一つの考え方です。このように透明性とプライバシーのバランスを図り病院のイメージである「病院の顔」をどこで創り出すかということを全体構成や立地条件に合わせて計画してゆきましょう。




■クライアントゾーンとワークゾーンのバランス

動物病院の計画に際して予算に限りがある場合は工事費用のバランスをどのように分配してゆくかも重要なポイントになります。ペットと飼い主であるクライアントが訪れる際に頻繁に利用する「待合ラウンジ、受付、客用手洗い」等をクライアントゾーンとし、機能が求められるその他の部屋をワークゾーンとして、またその中間領域を診察室、トリミング室等と設定して考えてゆきたいと思います。まず、給排水設備や電気設備、防音設備や防護設備等の設備は予算のベースとして必要なものですが、建築工事費用は部屋の多さによる間仕切り工事や建具工事の多さに影響されます。工事の最終段階である仕上工事は使う材料によって大きく変わり、1平方メートルあたりの単価が倍以上のものも珍しくありません。まさしくピンからキリまでです。そこで、クライアントゾーンは仕上げやデザインにこだわり、病院のイメージを表現し、機能が求められるワークゾーンをローコストながら機能的に計画してゆきます。このクライアントゾーンとワークゾーンの中間領域は機能とデザインの両面から検討をします。待合から診察室へのデザインの連続性を、また処置室等からの機能的な面での繋がりを考慮することで、使いやすくデザインコンセプトが明快な病院となります。



■クライアントゾーンとワークゾーンの面積比率と待合ラウンジスペース

 病院はワークゾーンに様々な機能を抱えています。一般に入院室には概規格寸法のケージが納まり、手術室には手術の機器が入り、X線室と暗室は近くに配置し、検査・処置室には動物用シンクをはじめ多くの検査機器が納まります。これらの部屋のヴォリュームに対し診察、受付、待合は診察→処方→会計などの機能的に繋がった動線で配置する必要があります。このようにワークゾーンの機能を中心に平面計画を進めてゆくと余った部分に待合のスペースを確保することになってしまいます。時には細長い廊下のようになり、時には待合回りに建具が多く落ち着きの無い待合ラウンジになってしまいます。もちろん病院である限り、ワークゾーンの機能は欠かせないものですが、待合ラウンジのイメージをある程度想定しつつ全体面積とワークゾーンとクライアントゾーンの比率を決定することが重要です。

単純な四角い待合でも、曲面の壁や視線の抜けを作り空間に広がりや距離感を確保したり、様々な形や素材を組み合わせたデザインや効果的な照明計画で空間を演出することで待合ラウンジの空間的な魅力が増してゆきます。具体的な面積は病院の規模により異なりますが、何組位の待合としてラウンジの広さを想定するのか、犬と猫の待合を別にするのか、予約制にするのかなど、どのような利用状況に合わせたスペースを確保しましょう。




■受付と待合の関係

待合ラウンジに設ける「受付」はその空間の中心でもあります。受付の位置を病院の入り口の正面に計画するのか、あるいは待合の中心に配置するのか、診察室を並べ受付を隅に寄せるのかなど、病院の間口や入り口の位置、診察室の数により様々なパターンが考えられます。受付の内側では会計業務、電話の応対、カルテの管理などの事務的な作業が行われる一方で、カウンターを挟んだクライアントとのコミュニケーションや待合のコントロールが必要となります。そのため作業性が高く、視界の広い計画が必要となります。また金銭を扱う場所でもあるため、防犯にも気を使う必要があります。防犯を優先する場合はカウンターを高めにし、カウンターの上に同じ形で垂壁を造れば、カウンターは視覚的に囲われているような安心感がありますし。コミュニケーションを優先する場合にはカウンターを低めにしたり、カウンターを待合空間に張り出したり、カウンター上部の天井の仕上げを連続させることで受付と待合に空間的な一体感が生まれます。

また細かなところではカルテ棚を計画する際に、これらを待合から見せるように配置する場合、カルテ数が多いとはじめてのお客様には安心感を与え、見栄えもしますが、受付の人が後ろを向いてカルテを探すことになります。カウンター手前の作業台やその下にカルテ棚を設置する場合は、多くの事務機器や書類がありスペースの確保は難しいのですが、お客様であるクライアントに正面を向いたままでカルテを探すことが出来ます。また、横に配置すれば正面を向いたまま探すことも出来ます。これは開院当初のカルテ数少ない場合でも見栄えはあまり気になりません。
このように受付の位置やカウンターの高さ、その回りの壁やカルテ棚の配置一つにも、先生方の持つ様々な病院に対するイメージや価値観が空間的に表現されることになります。




■動物病院の計画の流れ

計画を具体的に進めるにあたっては、計画予定地の用途地域を調べ動物病院の開業が可能か否かを確認する必要があります。用途地域に問題がなければ、一戸建ての動物病院の場合は敷地や周辺環境、上下水道、電気の引き込み位置などを確認し、テナントの動物病院の場合は既存のテントスペースを実測し給排水設備・電気設備関係を調査した後、「基本構想案」を計画します。その際、先生方からのヒアリングで必要諸室や御要望事項をうかがい計画案を決定してゆきます。

計画提案後、打ち合わせを重ね計画やデザインを検討してゆき、計画案が固まった段階で、実際に造るための設計であり、詳細な見積の出来る「実施設計」に移行してゆきます。実施設計では実際に使用する素材なども決まってゆきますので待合ラウンジのイメージも大分固まってきます。また、概の方向性が決まっていれば、現場に入り、空間のヴォリュームや立体感が理解できてから、色や素材の組み合わせを検討することも可能です。そのような流れの中から新しい動物病院が生まれてゆきます。






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   2章 動線計画   .

■診察室とワークゾーン

・ 診察室の特性 クライアントゾーンとワークゾーンの中間領域
動物病院で診療時間中に一般的に先生方が大部分の時間を費やす空間は診察室になります。領域的にも動物病院の施主の空間であるクライアントゾーンの待合ラウンジや受付と処置検査手術入院室等のワークゾーンとの中間領域になります。診療行為の中心となる診察室を様々な観点から検証していきましょう。

・ 診察の広さと兼用 検査室、X線室、(手術室)
最近、ACplanが手がけている診察室の単独の広さは一般的に4〜6u程度になります。その診察室内にエコーや検査機器を扱う広めの検査スペースを設ける場合、さらに4〜6u程度を必要とします。また、スペースの関係でX線室が単独で設けられなかったり、X線室を手術室と兼用しない場合、診察室の兼用も考えられます。診察室とX線室を兼用する場合は診察室に入る建具(扉)が鉛戸になり重くなるため事故防止も考慮し金物の使用には注意をする必要があります。また、現像方式も暗室を隣接するかCRとし設置場所も考慮するのか計画時点で検討する必要があります。診察室が複数ある場合、一方を暗くできるようにする部屋としたり、猫や鳥などが診療中に逃げ出さないような個室とし、もう一方をオープンな明るい部屋に計画し診察室に特徴を持たせることも使い勝手を良くする秘訣と考えています。また診察室が複数ある場合、間の壁に建具を入れたり、ガラスを入れてお互いの様子を見られるようなスタッフ同士間のコミュニケーションを考慮する計画もあります。

・診察の流れ1 診察室と薬局と会計(受付)
次に動線から診察室を検証してゆきます。一般的な診療の流れでは、病院の待合ラウンジから受付しカルテが診察室に移動します。診察が終了し、調剤し会計をする流れが逆の流れになります。診察室の裏動線から会計を行う受付への流れになります。そのため、受付と診察室の間に薬局スペースを設けることでスムーズな動線ができます。その場合、薬棚や調剤スペースや分包器の床置き机上のタイプ別など、またフード棚があれば倉庫まで取りに行く必要がなく、スタッフ数が少ない場合も効率良く診察ができます。

・ 診察の流れ2 診察と検査 
検査スペースを診察室に兼用しない場合処置室の一角に検査台を設け検査コーナーとすることがあります。検査結果を書面で説明する場合は問題になりませんが、検査機器の画像などを説明する場合、その場所まで施主を案内する動線や画像を診察室などに伝えるための配線やシステムなどへの配慮が必要です。今ではCR画像をタブレットで持ち運び説明することが可能になっていますので、検体の移動を除いては診察と検査コーナーとの距離が大きな問題にはならないようになるかもしれません。

・診察の流れ3 診察室と処置室
今まで挙げた機能に比べ漠然とした部屋の機能が処置室になるかもしれません。現在の多くの計画案は待合ラウンジから見て診察の裏に処置室を設けています。その一部が薬局や検査コーナーであったり、動物用シンクやドッグバスを置くスペースやカンファレンスを行うスペースであったり、また、ユーティリティスペースを兼用する場合もあります。次の項では診察中の様々な機能を繋ぐための処置室について検証してゆきます。




■ワークゾーンを繋ぐ処置室 

・処置室の特徴 「機能を持った広い廊下」
動物病院をクライアントゾーンとワークゾーンに分類したときにワークゾーンの中心となるのが処置室になります。
動物病院には診察室、手術室、X線室、暗室、入院室、スタッフルームなど目的に特化した諸室がありますが、それらの部屋を繋ぐ単なる廊下ではなく、広いスペースで繋ぐ役割を持っています。これは処置や検査や調剤、それぞれの機能の準備、スタッフの目に触れやすくするためのICUの設置などの様々な機能もつことから「機能を持った広い廊下」とも考えられます。形状は病院の平面形状や階層の計画によって異なり広く部屋形状のものから細長いものまで諸室のレイアウトで変わってきます。医療機器のレイアウトも含めた日常の診療の動線を考慮し処置室を計画すると病院の特徴にあった使いやすい平面計画になります。


・ 処置室と手術室と手術準備室
手術室は専門医療を含めた病院の方向性や経験により使い勝ってはだいぶ変わります。手術室の機能と処置室が密接に関わる場合は、手術の用意や手術機器の洗浄や滅菌作業をどこでするかを想定し、手術へのアプローチの準備作業どのように行うかを想定し計画してゆきます。
大きな違いとしては、手術室に流しや滅菌器などの準備用の設備を備える場合と、手術室には手術に必要な最低限の医療機器しか置かず手術室前や前室に手術準備のスペースを確保する場合があります。
準備室の機器もガス滅菌器やオートクレーブはそれなりのスペースと換気や排気が必要になりますので計画段階からの想定が必要です。

・手術室とX線室
ワークゾーンを計画する際に重要な要素の中にレントゲンをどこで使用するかにより広さのバランスが変わります。手術室の無影灯と同じアームに固定し使用するコンビネーション型のレントゲンは手術室と兼用になります。無影灯のアームと同じアームでは使いにくい場合は手術室に天井走行形のレントゲンを使用する場合があります。これに比べ手術室とX線室を分ける場合はX線室は小さくとも2.5帖〜3帖程度の広さが必要で、暗室は1帖程度必要になります。近年、CRで低価格に販売されるようになり暗室の計画が少なくっていきてはいますがCRとPCの置き場をやはり1〜2帖程度は確保する必要があります。

また手術室とX線室を分割する場合のメリットの一つに診察室に近い場所にX線室を計画し、場合によっては上下階等の違う階に手術室を計画することもひとつの方法になります。専門的な手術をどこまで行うかも計画において重要なポイントになります。

・処置室と入院室入院準備室
入院室はワークゾーンの計画の面積に配分に大きく影響がある機能です。
一般的にはステンレスケージは巾が63cmで奥行きが約70cmものが主流ですが、広さに限りがあるときはこれを基準に入院室の寸法を決め、収納や流しなど同室の設備がある場合はこれらを含めた寸法を想定し部屋の大きさを決めてゆく必要があります。またケージの搬入経路は計画当初から考慮します。中仕切りのある一般的なケージは搬入時点で有効開口が最低750mm以上できれば850mm以上を確保し開きドアであれば簡便に脱着できる抜き差し丁番(蝶番)で搬入を簡便にすることができます。ところが木造で動物病院造った場合、今までの木造の910を基準にしたモヂュールで廊下を作ると廊下巾が78cmで扉の枠周りでは73cmになってしまうため一部分の開口部は広めに計画し竣工後に搬入の問題が起こらないようにします。。木造の動物病院を計画する場合には工事費的に余裕があれば、1メートルを基準にしたメーターモヂュールの計画とすることで、CTやMRIなどの特殊な医療機器は除き、ほとんどの医療機器の搬入に関する問題は解決されるものと考えています。最近ではステンレスケージも薄型のものが出回り始めていますし、動物も小型が多くなってきていますのでケージの選択肢と共に入院室のひろさもそれに応じて変わってゆくものと考えています。
また、給餌のための作業は入院室に準備室や準備コーナーを設けるのか、処置室内で準備をするかで水場を含めたレイアウトが変わってきます。同様に他の機能で考えますと入院患者の処置や洗濯なども入院室で行うことか処置室の一部で行うことか整理して考えてみる必要があります。

・入院室の視認性と漏れる音
防音を考え防音仕様の扉で密閉する場合もありますがガラス張りにし入院室内が見えるようにする場合もあります。ガラス張りにする場合は必要に応じて動物たちの視線がカットできるようカーテンやスクリーンを閉められるようにすることも一つの考え方です。さらに吸音性のある生地などを使えば防音性能は上がります。
詳しくは次章で検証してみましょう。





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   3章 ワークゾーンのディテール   .

■ ワークゾーンの動線計画

動物病院の快適なワークゾーンを計画することで一番大きく変わるのはその場所で働く人たちのモチベーションであると考えています。それは実際に働いて、その空間の使いやすさや環境の居心地の良さが効率に繋がってくるためではないかと思います。
それでは具体的に働きやすいワークゾーンの動線について考えてみましょう。まず、日常の業務のなかで作業中の移動距離を最小限にすることがポイントと考えています。これは給餌の流れを考えてみるとわかりますが、フードの搬入に始まり保管場所やその支度をする準備のスペース、そして実際の給餌まで、幾度も倉庫と水まわり、入院室、廊下を往復するよりもそれぞれの場所が至近距離にあり、作業の流れに沿って配置されているとスムーズに作業が進みます。また、一般的な診療業務をスムーズにするためには診察室と受付との裏動線の間に薬局を計画し、診察室から薬局そして会計へ至る動線を短くすることではないか考えています。
 このように動線の効率化はもちろんのこと、処置室を中心とした各室への繋がり、X線室と手術室の関係、手術室と手術準備の関係、入院室と洗濯室の関係、スタッフルームと各室の関係まで、どのような繋がり方が効率良くまた気持ちよく作業できるかを念頭において計画しましょう。

●待合ラウンジ (たぐち動物病院) ●入院室給餌用小窓(ペアガラス入)



■ ワークゾーンの作業と寸法(高さと幅)

ワークゾーンの計画で各部屋へ繋がる処置室等の空間の広さは、年数を重ねるごとに充実する医療機器のレイアウトや保管場所などを考慮し、スペース的に余裕があれば将来の拡張性も考慮して計画します。廊下のような細長いスペースは単に通路としての空間にするよりも、多少広めに確保しておき、大きな医療機器の搬入通路として不足のない幅を確保しつつ、細長いカウンターや収納棚などが並べられるようにすることで大きな収納空間になります。また、立体的な利用を心掛けることで収納量も増大します。
一般的な寸法や高さの関係も作業性に関係してきます。大きく分けると、立って行う作業と座って行う作業、場合によっては、中腰で行うも作業もあります。
●受付裏の薬局スペース ●造付け薬棚 ●造付け検査台
(タンポポ動物病院) (たまむら町中野動物病院)

立って行う作業の場合は、日常生活でのキッチンの高さに近い80cmから90cmが作業しやすいため検査台や薬棚の高さに多く、椅子に座って作業する場合、学習机の高さである70cm程度、パソコンを利用する場合65cm程度まで作業台の高さを下げるとコンピューターのキーボードがストレス無く扱えます。ワークゾーンでの具体的な作業の姿勢をイメージし、立って行う場合と高さの調整の利く腰掛椅子に座って行う場合などに高さを分けて決めてゆくと疲れにくい快適な作業環境になると考えています。
●造付検査台と既製品の吊戸棚2段重ね
(あんどう動物病院)
●家庭用キッチンセットを利用した検査台
(結城チロロ動物病院)
 
●椅子に座って作業する机の高さの検査台
(タンポポ動物病院)
●黒い造付け検査台
(けやき動物病院富士見)

また、造り付けの家具は使用目的を決めて引き出しや戸棚などを効率良く計画することができますが、工事予算によっては既製品のキッチンの吊戸棚や厨房収納用家具などを転用することでも過不足ない家具として利用できます。



■ 建具
●インナーサッシの入院室 手前
(北総動物病院)
●防音ドアによる入院室 奥

A)開き戸と引き戸(開けて使う建具と閉めて使う建具)
扉のことを建築の専門用語では総称として「建具」と呼びますが、動物病院を設計する際に先生方にお伺いするヒアリングの中に建具の開閉方法についての項目があります。御希望の割合としては引き戸として計画することが多くなりますが、光が漏れてはいけない空間の建具や入院室などの遮音性が要求される建具、引き戸にすると重くなりすぎる建具などは別として、一般的に開いたままにしても使用しやすいことから引き戸が好まれるようです。引き戸の場合、動物の毛が絡まりにくい吊戸にし、締り際に静かにしっかり閉まるソフトクローズの吊り金物にすると、衝撃が少なく安全で使い勝手がよくなります。また開け閉めの頻度の高い引き戸や重めの引き戸は、力が入りやすいように握り棒を付けておくと便利です。開けておくことが多い引き戸の場合、扉枠に納まる様にすると扉周りがすっきりしますが、手を挟まないよう注意が必要で、このためゴム付きの手を挟みにくい引手もあります。

●デザインと使いやすさを考えた透明なアクリルの握り棒

B)中が見える扉と見えない扉
ワークゾーンの開放性を高めるためにはガラスを多用すると、空間的なつながりや明るさからくる開放感など気持ちの良い作業空間になります。当然、暗室や明るすぎると困る部屋もありますが、入院室の一室をガラスの開口部を持った他の部屋から中が窺えるような建具として計画し、もう1室を防音性能を高めた部屋にするなど特徴をもたせると状況に応じた使い分けができます。また、各室の建具もガラスを多用することで開放性は上がりますが、もちろん全てが丸見えでは落ち着きも出ませんので、必要に応じて病院全体のどこか視線を遮る工夫をしておくと、より作業しやすい快適な空間になります。しかし、開放性と防音の問題は常に付き纏う「諸刃の剣」ですので、後程詳しくお話しします。


●開放的な入院室―1 ●扉の閉めた入院室―1 ●閉鎖的な入院室―2
(けやき動物病院富士見)



■ 機能と仕上材料

ワークゾーンの働きやすさの要因として建築素材の特性が挙げられます。例えば、メンテナンスが楽な素材、汚れにくい素材、水分に強い素材、音を吸収する素材、音を遮音する素材、消臭する素材、一般のものより強い素材などです。

A)床材とメンテナンス
一般的な動物病院の床には目地溶接のできる床シートがお勧めです。目地溶接とは床シートにできる繋ぎ目を床材と同じ材料で溶かして一体の床シートにしてしまうことで、完全な防水とまではいきませんが、床からの立ち上がりをつくれば、液体の染み込みにくい床になります。一般的な床シートからワックス不要のメンテンナスフリーの床材までありますので、用途に応じて選定してください。

●ノンワックスの床材 ●ビニール床シートとカウンター材の検討

 また、室内で床の防水が必要な場合は動物の爪に耐えられるようFRP防水などの硬い防水材とするか、コンクリートやモルタルの床を作りそこに外部用(駐車場用)の塗膜防水を施工するなどの工夫が必要です。

●パドックのFRP防水と立上り
(大相模動物クリニック)
●ドッグランのバルコニーのFRP防水
(タンポポ動物病院)

B)クロスの使い分け 多機能クロスと普及品 (スーパー強化クロスとマンションクロス)
一般的にビニールクロスというと現在の住宅建築の内装等にも多く利用されていますが、大量生産品の中でもさらにマンションや建売建築などに使用される普及品といわれるクロスもあります。これらのクロスに比べ、ビニールクロスに様々な性能を与えているものを多機能クロスと呼んでいます。この中に高耐久クロスという多機能クロスがあり、フィルムでラミネートして一般のビニールクロスに比べ引っかき傷などに対し破れにくく作られています。もちろん本格的な引っかき傷にはかなわないこともありますが、中には実験上で一般のクロスに比べ50倍以上の引っ掻き強度を持つ強化クロスもあります。また、臭気の発生しやすい入院室の壁や天井には消臭クロスを、部屋の機能に応じて調湿クロスなどを選定しましょう。

●メラミン化粧板 カタログからの選定 ●メラミン化粧版 サンプルの比較

C)その他の壁材 無機系不燃化粧板 (ステンドシリーズやグラサル)
また、一般的な多機能クロスは防汚性を有するものが多くありますが、本格的に汚れや埃を気にする場所の場合、クリーンルーム等に使用されている無機系不燃化粧板などの素材がお勧めです。

●強化クロス ●無機系不燃化粧板

表面の硬度が高く耐水性があり汚れが落ちやすく耐薬品性にも優れています。パドックや大型犬用シャワー室などの本格的に水を使用したい場所の場合は家庭用のキッチンパネルや、住宅の浴室などに使用するバスリブを使用することも有効です。また、水はね程度の処理には建具や家具に使う仕上げ材を壁材に使用すれば、同色のメラミン化粧板でデザイン的に色を揃えることも可能です。

●バスリブのパドック
(大相模動物クリニック)
●キッチンパネルのパドック
(フェアリーペットクリニック)
●コンクリート打ち放しに防水床仕上のパドック
(たまむら町中野動物病院)

D)天井材 
天井材は一般部分にはビニールクロスか化粧石膏ボードを使用しますが、入院室などの天井には吸音効果を持った岩綿吸音板を使用するとペットの鳴き声を少しでも低減できるようになります。また、有孔吸音板は学校の音楽室に利用しているような穴のあいた天井材で天井内に吸音する空間をつくることで吸音効果があり一戸建ての動物病院にむいていますが、天井内が隣家の天井裏やビルのパイプシャフトなどに続くような場合はおすすめできません。次にこれらの特性を利用して入院室の音の問題を検討してみましょう。

●リスニングルーム用天井仕上材 入院室天井
(西馬込動物病院)
●有孔吸音板 待合ラウンジ天井
(グリーンヒルペットクリニック)



■ 入院室の防音の問題 (吸音と遮音)

動物病院で避けて通れない問題の一つに音の問題があります。ある音をうるさいと感じる否かは感覚の個人差もありますし、周辺環境の問題もあります。交通量の激しい場所では外に鳴き声等が漏れ出しても「音のマスキング効果」という、大きな音が小さな音を消してしまう現象によって問題にならないことが多いのですが、人によっては気になるかもれません。また、院内に漏れ出す音が診療の環境やワークゾーンの作業環境の効率に影響を及ぼすこともあります。ここでは一般的に音を発する部屋である入院室の防音について解説していきます。

●入院室と入院準備室
(たまむら町中野動物病院)
●隔離室のエアタイトサッシ
(たまむら町中野動物病院)
●入院室とインナーサッシ
(結城チロロ動物病院)

A)建材による防音 (遮音と吸音)
防音は音を吸収する吸音と外部に漏れないための遮音を組み合わせて検討すると効果的です。理想的にはコンクリートのような重い壁で低音を遮音し多孔質の材料や繊維質の材料で吸音すれば外部への音漏れは低減されます。そのため、鉄筋コンクリート構造の新築の入院室の場合はコンクリートで響かないように吸音の処理をすることで概ね問題ありませんが、テナントや木造や鉄骨造などのその他の構造の場合は素材を組み合わせて遮音壁を作ります。
遮音壁はゴムで裏打ちされた遮音パネル等と石膏ボードなどを組み合わせた壁下地材にグラスウールを充填した吸音材で複合的に遮音します。天井仕上げには同様の遮音材の上に吸音材である岩綿吸音板と組み合わせて使用すると、鳴き声などの吸音効果があり残響音も短く抑えられます。さらにリスニングルーム用の天井仕上材を使用すると効果的です。また、壁と天井の交差部分からの音漏れに注意することや、場合によっては上階の床下までその部屋の壁(界壁)を伸ばし、その後に天井の遮音と吸音を行うという方法も有効です。

●遮音ボード (壁天井に使用する遮音材料) ●防音マット(木造の床の下地(根太)の間に施工)

 また、木造などの場合、入院室の上階下階への音の漏れ対策として、上階の根太の間に吸音材を入れたり、下地材に制振合板や防振吊木などの音や振動を防止する材料を用いたりすることで立体的な防音対策を施すことも考えましょう。

●制振合板 (床下地) ●防振吊木 (天井下地を吊る材料)

B)建具の遮音と吸音 (パッキンと気密性)
一般的に入院室の建具は遮音性を考えると開き戸がお勧めです。木製の引き戸は構造上、上枠と吊金物の隙間、下枠の隙間や逃げ寸法という隙間が必要なため音が漏れ安い構造になっています。どうしても引き戸にしたい場合はペアガラスの入ったアルミサッシや一般住戸の防音対策として利用されている樹脂サッシを利用することが効果的です。工事予算に余裕がある場合は入院室の建具はスタジオ用の開き戸を利用するとかなりの効果が期待できますが、経済性を考えた場合あまり現実的ではありません。吸音材の入った建具、特殊パッキンを使った枠回り、建具をしっかり締め込むローラー締りハンドルなどで日常的にストレスにならない程度の遮音効果が期待できるものと考えています。

●遮音用パッキン(日東紡音響エンジニアリング提供) ●ローラー締りハンドル

C)ガラスの特性と防音対策
音が漏れない入院室は、それはそれで心配かもしれません。適度に中の音が聞こえる程度と内部が窺えるように建具の他にFIXガラスを入れるなど工夫が可能です。予算が許せば厚さの違うガラスで作られたペアガラスを使用すると、ガラス厚さの違いにより遮音する周波数帯が異なるため(日東紡音響エンジニアリング談)、より効果的と考えられています。また入院室から処置室が見える構造の場合、人の気配で鳴かれることがあります。このような状況を想定しガラスの開口部に遮光タイプのカーテンやロールスクリーンを使用し、それが吸音しやすい素材であればより効果的といえます。入院室を少しだけ覗くことができれば良いのであれば必要最小限の覗き窓を設置するという考え方もあります。

●入院室用の窓ペアガラス ●入院室の覗き窓 ●入院室の建具

 また、現実問題として吸音効果を考えた場合、入院室に置かれることのあるタオルはそのものに吸音効果がありますので、埃等の問題はあるかもしれませんが具体的な保管の仕方についても、吸音材としてタオル棚を入院室に設置するなど、一考の余地があるかもしれません。



■ 臭いと換気設備

A)臭いと換気扇
音の同様に動物病院が抱える問題に臭いの問題があります。建築面の詳細な作り方(納まり)や素材の利用の仕方で臭いを染み込みにくくすることはある程度は出来ますがやはり限界があります。
特に動物病院の場合はどこで突然臭いが発生するか予測できませんから、それぞれの部屋に換気扇があると間違いなく安心です。理想を言えば各室に室温を変えずに換気する「全熱交換扇」の設置をお勧めしますが、一般的には費用面から全熱交換扇の設備は完備できないため、換気扇を中心にした換気計画をすることになります。

●入院室のエアコンと全熱交換扇 ●小型の全熱交換扇

動物病院の臭気の源を考えてみますと多くの動物が常時いる入院室か現像液を扱う暗室と考えています。これからはCRも普及してきますし、動物病院の計画の中で暗室はなくなる方向になると思いますが、入院室は入院動物が多くなれほど臭気が発生し、それに伴って多忙を極めるわけですから労働環境は悪化する方向に向かいます。常に運転し続ける換気扇を入院室の換気扇と想定し、そこへ向かって有効に空気が流れるような位置に給気口を設置することで病院内部の換気を緩やかにしていくことが重要です。とはいえあまり強力に換気をすると病院内の空気圧の負圧が高まり、エントランスの開き方に問題が出ることもありますし、冷暖房の効きが悪くなることもあります。近年、化学物質過敏症の対策の一環としてシックハウス法で建築内の空気は2時間に一回以上入れ替わるように定められました。この換気方式を基準として必要に応じた局所排気を行うことが理想といえます。もちろん入院室の防音性能を考えて消音材を付けた給気口を設置する必要もありますが、さらに防音性能を向上するためには、入院室は全熱交換扇とし、スタッフ用トイレの換気や熱負荷の高いトリミングルームからの排気などは個々の状況に応じて換気計画を検討しましょう。
また、換気扇から排気されるダクトには消音ダクトを使用し外部に対しての音漏れを極力少なくすることが重要です。壁付きの換気扇は直に外部に吹き出しますので、近隣からのクレームにならないためにも避けるようにしましょう。

●換気扇による空気の流れ

一方、動物病院の換気扇に特有の機械的なトラブルは、動物の毛がファンやモーターに絡むことで起こりますので、住宅に比べてより多くの日常的なメンテナンスが必要になります。レンジ用のフィルターなどを利用して動物の毛の対策をしておきましょう。

●消音ダクトの施工例 - 1 ●消音ダクトの施工例 ? 2



■ エアコンのシステム 

ある動物病院のリニューアルの御相談でのこと、竣工当初からビルマルチという室外機1機に対して数台の室内機が設置できるマルチタイプのエアコンを、室外機1台に付き室内機1台のタイプの一般的な家庭用エアコンに変えたいとのご要望がありました。理由は、マルチタイプのエアコンは年式が古くなると1台の室内機の交換が高くつき、場合によってはシステム全部の交換が必要になる場合があるとのことで、リニューアルを機に全て家庭用エアコンに変更したいとのことでした。
空間のボリュームで考えると一般の動物病院の場合は間仕切りも多く小部屋と大部屋の組み合わせで成り立っていますので、個室の診察室や入院室や手術室などは住宅用の小部屋用、待合ラウンジや処置室などはリビング用の家庭用エアコンが利用できます。交換は1台壊れた場合でも、その一組みを交換すれば済むため経済的に修理や入替えができます。もちろん欠点もあり、一対一タイプのエアコンの場は室外機の台数が多くなるため、部屋数が多くなると建物外部に広い室外機置き場が必要となり、テナントの場合だと、屋内から屋外への配管ルートが確保できるか確認してから計画しなければなりません。

●隣地境界設置の1対1タイプ ●屋上設置のマルチタイプ

いずれにしも動物の毛の付着による室内機の運転能力の低下等も考えられますのでフィルターのこまめな手入れなどの対策が必要です。
逆に大規模な動物病院では、これらの換気計画とエアコン設備計画を組み合わせた空調設備計画が必要になります。家庭用エアコンや換気扇でまかなえない規模の動物病院の場合は、マルチタイプのエアコンと全熱交換扇を組み合わせ、必要に応じてフィルターを備えたシステムで手術室などの埃を嫌う部分を陽圧で設計し、隔離室などは空気の漏れ出しを防ぐために陰圧にするなど、条件に合わせた空調換気計画が重要といえます。




■ 熱源と給湯 (ガス利用、オール電化、局所給湯、シャワー、パドック)

 動物病院の熱源は一般的にガスか電気が考えられます。ガス湯沸かし器を使う場合は、全体の給湯箇所数とトリミングなどで温水のシャワーを使用するか否かでその能力が決まります。
テナント条件により電気を温水の熱源とする場合、深夜電力利用型の大型の電気温水器を利用すると経済的です。トリミングなどで大量にお湯を使用する場合、貯湯タイプの温水器では温水が不足することがありますので、足りなくなったときに昼間でも沸かすことが出来るタイプ(沸き増しタイプ)を導入しておくと安心です。
 ガスにしても電気しても熱源から給湯箇所までの距離が遠い場合、直ぐに温水を使用したい場所には瞬間型の電気温水器の使用をお勧めします。使用頻度が少ないとお湯が熱源から届くまで時間が掛かり、しばらくの間お湯が出ず、結局お湯が出る前に止めてしまうといったことも起こります。それに比べカウンター下などに瞬間型の電気温水器を設置すれば、必要な時に素早くお湯を出すことが可能です。
 このように動物病院の運営に電力は欠かせません。少しずつ病院全体の消費電力も大きくなりますので、工事予算とスペースに余裕があれば、太陽光発電を備えることも省エネルギーへ向かう時代の流れを考えた、これからの動物病院の姿なのかもしれません。

●太陽光発電設備 ●照度計 Lx表示



■ ワークゾーンの照明設備 (照明の照度と系統)
JIS照度基準 病院 (http://illuminance.science-jp.net/2009/02/jis_17.html)

 日常使用する、その位置の明るさの基準は照度Lx(ルクス)で表されます。JISの照度基準によると一般の病院の照度は洗面所やトイレなどで75?150Lx(ルクス)、待合ラウンジは150?300Lx程度が求められており、診察室は300Lx?750Lx程度、細かな作業をする手術室などは750?1500Lxが必要と考えられています。明るさの感じ方も音や臭いの問題と同じように個人差がありますので現状を照度計などで測定して、どの程度の明るさが必要か計画の段階から確認しながら進めましょう。

今までのワークゾーンの照明は蛍光灯の照明を基本に計画されてきました。白熱灯に比べ同じ明るさでも消費電力が低く経済的なためです。まず、蛍光灯を配列してべースとなる系統を作り、作業の内容により、さらに明るくする必要のあるゾーンと不要なゾーンを明確にし、照度をコントロールできるようにすると節電効果があり経済的です。
 LED照明は蛍光灯よりさらに効率が良く省エネルギーの観点からも効果的ですが、明るさの基準が不明瞭なため最近になって輝度で統一した基準で表示をしようという動きが出てきました。製品の価格も徐々に下がり、将来はその他の照明に取って変わるものと思われますが、しばらくの間は必要な箇所にだけ使用したほうがいいでしょう。例えば、高いところに付いている照明に使うと、長期間の電球の交換が不要となるのでお勧めです。
 また、照明の特殊な使い方として、X線装置やエコーを扱うような部屋でベースライトの他に調光できる照明器具を設置することがありますが、医療機器操作の際に手元で好みの明るさに調整できるので便利です。このように使用方法を想定しながら、照明器具の設置箇所と機種を計画してください。




■ ワークゾーンのコンセント設備 (専用電源とコンセントの高さ)

 ワークゾーンのコンセント設備のポイントは、専用線の必要な医療機器、コンセントを多く使う場所の想定、フレキシブルなコンセントの配置にあります。動物病院で使用する機器には、レントゲンをはじめオートクレーブやガス滅菌器、分包機などの医療機器から大型ドライヤー、冷蔵庫や電子レンジなど電気容量が大きく専用線を必要とする様々な機器があります。計画段階から、電気容量の大きな機器と使用場所を想定し、専用線とブレーカーを備えることで病院全体の停電を回避することができます。専用回路数から考えると、20?40坪の動物病院では約30?50程度の回路(ブレーカー)を持つ分電盤が必要になります。また、X線装置やエアコンの機種によっては動力電源を必要とする場合があります。新規に動力を引き込む場合は、電力会社への申し込みと待機時間がかかりますので、事前に電力会社と協議しておく必要があります。

●一戸建て動物病院の40回路以上のブレーカー ●入院室のコンセント ●配線ダクトと
      リーラーコンセント

動物病院のコンセントは、医療機器を考えて通常アース端子付きの2口のコンセントにします。3口コンセントの場合、上下のコンセント使うと真ん中のコンセントが使いにくくなるため、コンセントの数が必要になる場合にはには4口のコンセントをお勧めします。また、入院室などは1段目と2段目のケージがそれぞれ利用できるように、ケージ脇の壁に床から40cm程度と1m10cm程度の位置にそれぞれ2口のコンセントを配置すると便利です。また、用途が確定しないときは、天井面を利用して配線ダクトやリーラーコンセントを設置し、自由度の高い計画としておく場合もあります。 
          
東日本震災以降、計画停電や突然の停電、またゲリラ豪雨などの落雷による停電が頻発するようになりました。予算に余裕があれば、手術やICUの管理が安心してできるよう無停電設備を備えることも考えておきたいものです。



■ LANネットワーク インターネットとCR

デジタル化の進む環境の中で、最近では広告としてホームページを作成し相談や予約サービスまで含んだ通信手段としてインターネットを利用する場合や、レントゲンをCRにしてデジタルデータ化することが多くなってきました。また、CRメーカーによってはインターネットを利用したリモートメンテナンスサービスを提供したり、ネット上のサーバーを利用したレントゲンのデジタルデータの保管サービスなど新しいサービスも増えつつあります。さらに電子カルテや顧客管理ソフトまで含めると、コンピューターなしでは業務が成立しない時代になったといえます。

●配線中のLAN配線 ●HUBボックス HUB設置前

このような状況を踏まえ、1系統でLANネットワークを構築する場合、データの重いCRのためのLANネットワークを優先するのかあるいはインターネッ用のLANネットワークを優先するのか、2系統や3系統にネットワークを系統分けしてそれぞれ同じ箇所にポートを設定するのかなど、様々なケースを計画段階で検討しておかなければなりません。また、全てを同系統のネットワークにする場合、電子カルテや顧客管理ソフトの個人情報保護のためには、ファイアーウォールや十分なセキュリティチェックが必要不可欠となります。




■ 構想から実現まで

今まで私たちが手がけてきた動物病院の設計を元に、駆け足でワークゾーンの計画・設計・詳細について解説してきました。ただ、「十人十色」で先生方一人一人が理想とされる病院は違うと思います。それは、今まで設計した病院に一つとして同じプラン・デザイン・設備計画がないことが証明しています。これからも先生方のこだわりを大切にしながら、「気持ちがよく、働きやすく、快適な」動物病院を創っていきたいと考えています。





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●動物病院の基本構想から現場監理までを日本全国で手がけています。
●動物病院の計画地の選定や利用計画段階からの御相談もいたしております。
●新規開業のテナントから大規模動物病院、住居兼用動物病院の設計監理の実績があります。
●全面リニューアルから部分改修や増築、ファサード改修まで必要な段階に応じてご利用ください。  
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