ハンセン病を正しく理解する講演会 
2017 
関東の部
6月24日(土) 国立ハンセン病資料館


講演 : “引き裂かれる”被害、“語れない”被害
〜ハンセン病家族たちの語りから〜


東北学院大学経済学部 准教授 


黒坂 愛衣(くろさか  あい)




 
 ハンセン病元患者の家族が国に謝罪と賠償を求めて集団訴訟を起こしたのは、 2016年2月のこと。強制隔離をされた入所者への人権侵害が語られることはあっても、家族の受けた差別については、公に語られることはありませんでした。講師の黒坂さんは、指導教官を手伝うという形で、2004年より入所者、退所者、その家族からの聞き取りを始め、2015年に『ハンセン病家族たちの物語』(世織書房発行)にまとめておられます。
 今回の講演では、親が強制収容されたために、就職差別、結婚差別にあったり、肉親を知らずに育ち「家族」という感覚を持てなかったり、親の病気を隠して生きる辛さ、親を嫌う自分に苦しむなど、5人の例を紹介されました。入所者の体験を聞くこと以上に困難な「家族からの聞き取り」。現在は集団訴訟の原告が568人となり、弁護士による陳述書の作成や、市民学会 での発表といった形で、家族の受けた被害が漸く明らかになりつつあると言えるの かもしれません。
 黒坂さんは、通学の時に利用していた秋津駅から近いところに、全生園があることを院生のときに初めて知ったそうです。「知らないこと」を問われることのない社会の あり方に疑問を呈し、病者ではない家族に対する差別の問題は、地域社会が負うべき責任であると語られたことが、強く印象に残りました。
 (報告/好善社社員・岡本緒里)










 



ハンセン病を正しく理解する講演会 
2017 
関西の部
7月1(土) 日本キリスト教会 西宮中央教会


講演 : 「ハンセン病療養所の今」
〜入所者に寄りそうべき立場から〜



国立療養所 邑久光明園園長


講師:木 美憲(あおき  よしのり)



 
 今年は講師として邑久光明園の青木美徳園長をお招きして、「ハンセン病療養所の今」〜入所者に寄り添うべき立場から〜という題でお話しいただきました。
「1996年『らい予防法』が廃止され、2001年の『ハンセン病国家賠償訴訟熊本地裁判決』によって、国に過失があったことが明らかにされた。今、国立療養所という行政の側に立って働く自分も含めて職員は、入所者の皆様に謝らなければならない」と冒頭にご自分の立ち位置を表明されました。以下光明園を中心に(1)入所者の現状、(2)入所者の人権、(3)療養所の将来の3つのポイントを、日本のハンセン病の歴史を背景にした、先生独自の視点からの統計グラフを示しながらの講演内容を要約しました。

 光明園の歴史は、1907年大阪市に作られた外島保養院から始まるが、1934年室戸台風直撃により保養院は壊滅、すべての記録も失われたため、統計の数字は1938年長島に光明園が開園して以降のものである。
 入所者数の推移を見ると、開園当初は無宿の人を収容していたものが、無らい県運動が起こり警察力で収容するようになり、1943年にはピークの1,182人になった。戦中戦後の環境悪化により、結核、栄養失調などで4年間に入所者の54%が死亡した。戦後の第2次無らい県運動により再び増えるが、その後はなだらかに減少、新患の入所はなく、1960年より激減していった。現在の入所者数は110人、平均年齢は86.2歳で、在園期間は約60年である。死亡時の年齢の推移を見ると、1951年には40歳で在園期間は8年であった。即ち、療養所に入ると10年以内に、一般の人より遥かに若く亡くなるのが普通であった。今日では、死亡時の年齢は80歳の後半、在園期間も60年の長さとなった。現在の死亡原因の1位は肺炎で、後遺症の喉の神経麻痺のための誤嚥性肺炎が多く、一般の2倍にもなっている
 療養所の人たちが現在長生きしているのは、よいケアを受けているからではあるが、これは過去の厳しい長い時代の代償であって、多くの人は既に亡くなってしまっている。彼らの命と引き替えだとすると、「恵まれている」などとは言えない。

 入所者の人権を守るための仕組みについて。入所者の意志決定が施設の一方的なものにならないように、従来からあった互助の「世話人制度」、「自治会制度」は成り立たなくなってきている。それに代わる仕組みとして入所者が最期までその人らしく生きられるように様々な要望をかなえ、支援を提供する「エンド・オブ・ライフ・ケア・チーム(人生サポート・チーム)」が動き出している。また、「人権擁護委員会」という外部の有識者を入れた委員会が発足、入所者の尊厳を損なう事案への対応を行っている。

 最後に、療養所の将来構想について。各療養所の置かれた条件で療養所ごとの社会復帰を目指している。光明園では、敷地内に民間の特別養護老人ホーム「せとの夢」が昨年開園、お互いの交流が行われている。神戸大学の学生との交流も2007年より続いていて、ようやくお互いに信頼できるようになり、毎年盛んになって来ている。また、愛生園、瀬戸内市と共に、療養所を永久保存し、世界遺産登録することを目指している。
 感想として、日頃から入所者と真剣に接しておられる先生ならではの心の籠ったご講演で、細部に誠実なお人柄が溢れていて、大変感銘深く拝聴しました。
(報告/好善社社員 橘俟子)














「講演会後の講師を囲む懇親会」
「講演会後の講師を囲む懇親会」