アキハバラ電脳組
第22話「いまひとたびの幻」


第2稿

【登場人物】
花小金井ひばり
桜上水 すずめ
東十条 つぐみ
泉岳寺 かもめ
大鳥居 つばめ

デンスケ(アフロディーテ)
プティアンジュ(エリヌース)

竜我崎鷲羽(クリス・ロウゼンバウム:クリスチャン・ローゼンクロイツ)
シゴーニュ・ラスパイユ(サンジェルマン伯爵)

泉岳寺シマ福郎
泉岳寺シマ福郎(青年期)

パラケルスス
ルイ十五世
ニール・アームストロング
研究所員

お願い:過去の場面は、ウッディ・アレンの『カメレオンマン』とか、ロバート・ゼメキスの『フォレスト・ガンプ』みたいに、実景に架空の人物たちが紛れ込んでる感じでよろしく。それと、やはりつばめの過去話はこぼれちゃいました。できれば、山口さん、23話でフォローしてください。


○アキハバラ第3中学:校長室
  窓のカーテンを閉め、真っ暗な室内。カーテンに映し出されたTV映像が唯一の明かりである。
  振り返ってそのTV映像を見ようともせず、じっと校長の椅子に座って前を見ている鷲羽。机の上に変装用のマスクを置き、美青年の素顔に戻っている。
アナウンサー(TV内)「先日、突如衛星軌道上に現れた謎の飛行物体が、その軌道を外れ、地球に向かって降下を始めたという報告が、世界各地の天文台から寄せられており……」
鷲羽「シゴーニュ」
  と呼ぶと、鷲羽の前の闇の中から、シゴーニュが歩み出る。
シゴーニュ「なんだね」
鷲羽「5つの聖なる魂の共鳴はなった。ついに我らが大天使メタトロンの目覚めの時だ」
シゴーニュ「そう。プリムム・モビーレが地上に降り立つ頃には彼の覚醒も済んでいるだろうね」
鷲羽「……とうとう『約束の日』が訪れる」
  そう言って目を閉じ、椅子に深くもたれかかる鷲羽。疲労の色が濃い。

<OP>

○かもめの(つまりシマ福郎の)家:茶の間
  畳敷きの八畳間に丸いちゃぶ台、隅には木目模様のTVセットと、絵に描いたような(って当然描くんですが)七〇年代風のお茶の間。
  ちゃぶ台を囲んでひばりたち5人の少女とシマ福郎が座っている。すずめとつぐみはまだ泣いている。ひばりとかもめは泣きやんではいるものの、目は真っ赤。平静そうに見えるのはつばめだけ。
  ちゃぶ台の上には、デンスケとプティアンジュがいるが、どちらも心配そうに少女たちを見ている。
  TVでは、前のシーンと同じニュースが流れている。
ひばり「校長先生がー?」
シマ福郎「そう。すべてはおまえさんたちの学校の校長、竜ヶ崎鷲羽ことクリスチャン・ローゼンクロイツの仕業なのぢゃ」
ひばり「でもでも、どうして校長先生が?」
シマ福郎「それだけではない。パタPiを作ったのも、大量生産してお嬢ちゃんのような子供たちに売りさばいたのも、あやつなのぢゃよ」
ひばり「えーー??(何がなんだかわけがわからなくなってます)」

<タイトル>

○校長室
  暗い室内に座っている鷲羽。このあと、ずっと椅子に座ったまま、セリフはモノローグ風で(口パク、いりません)。
鷲羽「私は明日、ちょうど500才の誕生日を迎える。これはただの偶然なのか、それとも天意とでもいうものなのかね」
シゴーニュ「ものの本では君の生年は西暦一三七八年となっていたはずだが」
  鷲羽、口元を歪めて笑みを浮かべる。
鷲羽「それは薔薇十字団を結成したときに作らせたデタラメな伝記の記述さ。箔をつけたかったんで少しサバを読んだんだ」
シゴーニュ「すると、君の本当の生年は西暦一五一〇年ということになるね」
鷲羽「いや。私が本当に生まれたのは、エリキシルを初めて口にふくんだあの時かもしれん」

○謎めいた研究室(過去)
  テロップに「一五四一年 ザルツブルグ」と出る。
  ガラス製の器具や銅器など、様々な種類の実験器具が所狭しと置かれている机に向かい、なにやら実験中の老人(パラケルスス)と鷲羽(痩せて弱々しげ)。
鷲羽(オフ)「私は、当時ヨーロッパ最高とうたわれた医師にして錬金術師、パラケルススの助手として不老長寿の研究をつづけていた。そしてあの夜、ついに……」
  銅器に入ったどろりとした赤い液体を、二つのグラスに注ぐパラケルスス。パラケルススと鷲羽、それぞれグラスを持ち上げ、一気に飲み干す。
  すると、パラケルススの体は若返りだし、鷲羽の体もたちまち筋肉がついて健康そうになっていく。
パラケルスス「ふ、ふはは。やった。ついにやったぞ。……」
  ところが、パラケルススの体は急にふたたび老化を始め、苦しんでもがきだす。
鷲羽「せ、先生!」
  鷲羽は、もがくパラケルススを抱きとめようとするが、その手を振り払ったパラケルススは、そのままもがくうちに机の角に頭をぶつけ、倒れてしまう。
  死んだパラケルススの横に立ちすくむ鷲羽。

○校長室
シゴーニュ「パラケルススは残念だったな」
鷲羽「老化が進んでしまっている肉体にとって、エリキシルは霊薬どころか毒だったとは、当時の我々には知る由もなかったのさ」

○薄暗い室内(過去)
  鷲羽を中心に十数人の男達が集まり、手に手にグラスを持って乾杯する。
  壁には、薔薇十字の紋章が描かれている。
鷲羽(オフ)「ともあれ、不死となった私には、組織を作り上げる時間がたっぷりとあった。世界を改革し、ユートピアを作り上げるための組織、薔薇十字団を作る時間が」

○中世ドイツの街角(過去)
  テロップに「一六一四年ドイツ」と出る。
  街のあちこちで、同じ本を手に持って読んでいたり、議論していたりする。
鷲羽(オフ)「一六一四年、組織が充分に大きくなったところを見計らい、我々は『友愛の記録』という書物を出版、世間に薔薇十字団の存在をアピールした」

○三十年戦争の図(過去)
  ジャック・カロの銅版画「戦争の悲惨」の陰惨な戦争画のような白黒のイメージ。
鷲羽(オフ)「時を同じくして我々はドイツの宗教改革を支持、三十年戦争の期間を通じて新教徒たちを裏から支援した」

○アメリカ独立宣言署名の図(過去)
  トランベルの上記図と同じ構図だが、背後の人々の中に鷲羽がいる。
鷲羽(オフ)「そして、一七七六年のアメリカ独立を支援し……」

○「テニス・コートの誓い」の図(過去)
  ダヴィッドの上記図の中に、鷲羽とシゴーニュがいる。
鷲羽(オフ)「一七八九年には、フランス革命の影の原動力ともなった」

○校長室
鷲羽「あの少し前、君はサンジェルマン伯爵などという道化に扮して、フランス貴族たちを煙に巻いていたんだっけ」
  かすかに笑う鷲羽。
シゴーニュ「君と初めて会った頃だな。驚いたよ。まさか本当に不老不死の人物に出会えるとは思ってなかったんでね」

○パリ:ヴェルサイユ宮殿内(過去)
  テロップに「一七六三年 フランス パリ ヴェルサイユ宮殿」と出る。
  玉座に座るフランス国王(ルイ十五世)のそばに立つシゴーニュ。
シゴーニュ「一五九七年でしたか。アンリ四世陛下がナントの勅令を出されたときはお姿はまことにりりしく見事なものでした」
ルイ十五世「(ため息をつき)サンジェルマン伯爵。貴公のように長生きする秘訣はやはり錬金術にあるのか」
シゴーニュ「国王陛下。おそれながら、これ以上のことはわたくしにはお話しすることができません。薔薇十字団に入るとおっしゃっていただければ別ですが」
ルイ十五世「一国の王に怪しげな秘密結社に入れともうすか」
シゴーニュ「無理にとはもうしません」

○王宮の廊下(過去)
  にやにやしながら廊下を歩くシゴーニュ。
  背後から鷲羽が声をかける。
鷲羽「アンリ四世がナントの勅令を発したのは一五九八年だ。その安っぽいペテンを続けたいなら、年号くらいは正確に覚えておくことだ」
シゴーニュ「誰だ、貴様」
鷲羽「おや。薔薇十字団員なら私の顔を知らないはずはないんだがね」
  そういって懐から薔薇十字の紋章の入った布を取り出してみせる鷲羽。
  シゴーニュは顔面蒼白。
シゴーニュ「まさか。本物の薔薇十字……。わ、私をどうするつもりだ」
鷲羽「とって食おうとは言わん。君の類い希なる話術を、我々のために生かすつもりはないかと思ってね」
  にやりとする鷲羽。

○校長室
シゴーニュ「あのときは、心底震え上がってしまったよ。ふふふ」
鷲羽「フランス革命にロシア革命。きみが入団してくれたおかげで、いろいろと助けられたものだよ」
シゴーニュ「生まれも育ちも関係なく、真に能力のある者に指導される世界。誰もが等しく幸福な新世界。我ら薔薇十字団の願いは、二〇世紀の初めにはかなうはずだったのにな」
鷲羽「メタトロン、いやクレインがあんなことをしなければ……」

○エジソン研究所前(過去:十四話バンク)
  鷲羽と語り合うクレイン
鷲羽(オフ)「初めて会ったときの彼は、夢と希望に溢れていた。産業革命と技術革新が人類の未来を明るいものにかえると信じていたからだ。いや、それは私も同じだった。薔薇十字団結成から三五〇年。ついに我々の理想はかなう。そう信じた」(セリフ、次の2シーンにこぼしてください)

○パリ万博会場(過去:十四話バンク)
  花火に見入る鷲羽とクレイン

○フランスの研究所(過去)
  研究にいそしむクレインと、にこにこ見守っている鷲羽。

○第一次大戦の戦場(過去:十四話バンク)
  最前線の惨状に立ちすくむ鷲羽、クレイン、シゴーニュ。鷲羽と口げんかをしたあげく走り去るクレイン。
鷲羽(オフ)「だが、欧州各国を覆う帝国主義の波は、我々のコントロールを遙かに離れ、第一次世界大戦を引き起こした。その惨状に、クレインは絶望した」

○草原のロケット発射台(過去:十四話バンク)
  クレインを乗せたロケットが空に向かって離床していく。
鷲羽(オフ)「彼は地球を巡る小さな人工衛星の中で、冷たい眠りについた」

○地球の衛星軌道(過去)
  小さな球形の人工衛星が、地球の周りを回っている。
  と、その人工衛星が光ったかと思うと、周囲から隕石や塵などが集まり、衛星に張り付いていく。

○かもめの家:茶の間
  ひばり、脳みそパンク状態で目が点。
  すずめとつぐみ、さすがに泣きやみ、シマ福郎に食ってかかっている。
すずめ「なんか、おとぎ話みたいで信じられませんですますわ」
つぐみ「あの校長が悪の秘密結社の首領で、五〇〇才のジジイだって言われてもなあ。どっからどう見たって、あんたより若いじゃねえかよ」
シマ福郎「エリキシルの力じゃ」
つぐみ「えりきしる?」
シマ福郎「中世ヨーロッパの錬金術師のあいだで伝えられる不老不死の霊薬を、エリキシルというんじゃ」
すずめ「魔法? この科学万能の二十一世紀に、何をメルヘンなことをぬかしまくっておられるんですの」
  シマ福郎のセリフのバックに、中世の錬金術や魔法のおどろおどろしいイメージの絵が流れていく。
シマ福郎「錬金術は魔法ではない。魔法から近代科学への橋わたしとなったものじゃ。とはいえ、中世においては錬金術師の極意などといっても、まともな科学といい加減なまじないがごちゃまぜじゃがな。しかし、薔薇十字団だけは違った。ローゼンクロイツたちだけは、すでに当時から、余人に先駆けて近代的な科学技術を磨き上げてきたのじゃ」
すずめ「じゃあ、そのエリなんとかっていうのは?」
シマ福郎「テロメアに作用して細胞の活性化を促進する化学物質らしいわい。それだけやない。おまえさんたちもさんざん見たじゃろう。ホムンクルス、アルヴァタール、アポストルス、そしてディーヴァ。おどろおどろしい呼び方をしてはおるが、すべては超科学の産物なんじゃ」
つぐみ「科学の産物って、あの化け物やディーヴァが?」
  シマ福郎、つばめの方を向き、
シマ福郎「つばめちゃん、じゃったか。あんたは知っておるんじゃろう」
  つばめ、うなずく。
  我に返ったひばり、つばめに向かって、
ひばり「えー! じゃあ、あのいつも出てくる変な人たちは?」
つばめ「ホムンクルスは、土中に浸透したナノマシンが、土を分解・増殖して人型を形成した、文字通りの土人形」
  (以降、つばめのセリフに合わせて、各メカの姿をバンクで見せる)
ひばり「な、なのま?」
すずめ「(ひばりに)ものすごーく小さなロボットのことですわ。(つばめに向かって)それでは、アルヴァタールとかっていう怪獣たちは何ですの?」
つばめ「アルヴァタールは、動物の遺伝子を改造して作った素体に、メカニックを仕込んだサイボーグ兵器」
ひばり「さささ、サイボーグ?」
つぐみ「んじゃ、連中がホムンクルスとおんなじように地面からパーって出てくんのは?」
つばめ「あれは時空歪曲機を使って格納庫から転送されてるだけだ。ファルコンたちの持っている杖が、転送の座標を知らせる発信器になっている」
かもめ「スタトレかいっ! ほな、あのおばはんたちがはまってたデカイのんはなんやねん?」
つばめ「アポストルスは、操縦者の動きをトレースして稼働するパワードスーツ」
ひばり・すずめ・つぐみ・かもめ「じゃ、ディーヴァは?」
つばめ「それは……わたしにもよくわからない」
  こけるひばりたち。
つばめ「知っていたと思っていたけど、合体できるようになって、わからなくなった」
  うなずくシマ福郎。
シマ福郎「そうか。なるほどのお。そこまではあんたにも教えとらんのか」
かもめ「それや! なんで、ひばりとつばめはディーヴァと合体できるねん。じいちゃんの話やと、あれはロボットやったんちゃうんか」
シマ福郎「そう。ロボットじゃとも。ただし、内部の六割をナノマシンと人工生体部品で占めておる半生体マシンなんじゃ」
つばめ「それならわたしも知ってる。アニマ・ムンディの巫女の脳波とシンクロし、時空歪曲機の力で衛星軌道上のプリムム・モビーレから転送されてくる人造の女神。無尽蔵に降り注ぐニュートリノをエネルギー源として永久に動き続ける不死身の戦士」
つぐみ「ちょ、ちょ、ちょっとたんま。何がなんだかさっぱり……」
すずめ「わかりませんですわ」
つばめ「それより……」
シマ福郎「なんじゃ?」
つばめ「なぜ、そんなに薔薇十字団のことに詳しい」
シマ福郎「それは、ワシも薔薇十字団の一員じゃったからじゃよ」

<中CM>

○校長室
シゴーニュ「クレインが去ったあと、君は半狂乱だったな」
鷲羽「物理や工学技術の分野は彼にまかせっきりだったんだ。そのデータを根こそぎ持っていかれたては慌てもするさ」
シゴーニュ「それだけ、かい」
鷲羽「……」

○ドイツ:ペーネミュンデV2号発射試験場(過去)
  テロップ「一九四二年 ドイツ ペーネミュンデ」
  発射台に立つV2号ミサイルのそばに立つフォン・ブラウンたち研究者と、その背後に立つ鷲羽とシゴーニュ。
鷲羽(オフ)「我々は彼を探すために、ロケット開発を裏から支援することにした」

○ソ連:チュラタム発射場(過去)
  テロップ「一九五七年一〇月四日 ソ連 チュラタム」
  離床するA型ロケットを見る人々の中にシゴーニュがいる。
シゴーニュ(オフ)「第二次大戦も冷戦も、すべてを利用したんだったな」

○宇宙空間(過去)
  地球をバックに飛ぶスプートニク一号。

○アメリカ:ケープ・カナベラル発射場(過去)
  テロップ「一九五八年一月三一日 アメリカ フロリダ州ケープ・カナベラル」
  離床するジュピターC型ロケットを見る人々の中に鷲羽がいる。
鷲羽(オフ)「とにかく彼と彼の持っているデータを回収するのが最優先だったのでね」

○宇宙空間(過去)
  スプートニクとは違う軌道で、地球をバックに飛ぶエクスプローラー一号。
  だんだん、地球をまわる人工衛星(とその軌道)が増えていく。
シゴーニュ(オフ)「しかし、彼の姿を発見することはできなかった」
鷲羽(オフ)「先走った我々は次に月を目指したんだったな」

○カリフォルニア工科大学(過去)
  テロップに「一九六〇年 アメリカ カリフォルニア工科大学」と出る。
  いかにも大学のキャンパス然とした緑あふれる小道に立つ、若き日のシマ福郎。今からは想像もつかない美青年である。
シマ福郎(オフ)「若い頃のワシは、アメリカの大学で航空工学を学ぶ学生じゃった。ちょうど、米ソが相次いで人工衛星を打ち上げ、宇宙開発競争にしのぎを削っておった頃じゃ。ワシの興味も、飛行機からロケットへと移っておった」
  シマ福郎のそばに歩いてくる鷲羽(黒い背広に黒いサングラス、ついでに黒いシルクハットのMIBスタイル)。
鷲羽「泉岳寺くん、だね」
  鷲羽、笑顔でシマ福郎に向かって手を差し出す。

○研究室(過去)
  くるくる磁気テープが回る大型コンピュータが並んでたり、ランプがチカチカしてたりして、いかにも六〇年代風な研究室。
  バリバリ打ち出されてくるプリントアウト用紙(左右に穴が開いてて、ずっとつながってるヤツ)とにらめっこしているシマ福郎と研究員たち。
  また、黒板にロケットの絵と数式をチョークで書いてうなっているシマ福郎と研究員たち。
  それらを眺めて笑っている鷲羽。
シマ福郎(オフ)「卒業間際のワシに、その男が紹介してくれた仕事は、政府による極秘の宇宙開発プロジェクトというふれこみじゃった。最新の設備とやりがいのある研究。ワシは夢中で働いたんじゃ」

○研究室(過去)
  テロップ「一九六九年七月二一日」
  部屋の隅にある大きなTV画面にアポロ一一号の月面着陸の中継が映っている。固唾を呑んで見守っている研究員たち。
アームストロング(オフ)「(ノイズ混じり)これは私にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩である」
  歓声をあげる研究員たち。
  しかし、その背後では沈痛な表情の鷲羽と、彼に食ってかかるシマ福郎の姿が。
シマ福郎(青年)「なぜこの大事なときに、我々のプロジェクトが中止なんです。アポロが成功した今、次のステップである恒久的な宇宙ステーションの建造のためには……」
鷲羽「もういい。もういいんだよ、泉岳寺くん。私の探しているものは月にもなかった。これ以上は徒労でしかない」
シマ福郎(青年)「何を探してるっていうんです?!」
鷲羽「大天使……メタトロンだよ」
  そう言うと首を振って部屋を出ていく鷲羽。怒りのあまり立ちつくすシマ福郎。

○研究室:シマ福郎のデスク(過去)
  深夜。真っ暗な室内にシマ福郎の机の上の旧式の端末(一応ちゃんとキーボードとCRTつきだけど、CRTは緑色の文字しか出ないヤツ。なんせ六〇年代末です)の明かりだけが見える。一心にキーボードを叩いているシマ福郎。
  画面には「access code:」という表示が点滅しており、パスワードの入力待ちになっている。シマ福郎、オカルト本を片手に綴りをひきつつ、Metatronとパスワードを入れる。だが「access denied」と表示が出てアクセスを拒否されてしまう。
シマ福郎(青年)「ちっ。これがパスワードじゃないのか」
  シマ福郎はオカルト本を必死で読む。
シマ福郎(青年)「『メタトロンとは天使の王、解放の天使、天国の律法家。すべての宇宙の外側を取り巻き、それらに動きを与える第十天、プリムム・モビーレを支配する精霊である』……か。プリムム・モビーレ?」
  シマ福郎、今度は「Primum Mobile」と入力する。とたんにアクセスが許され、画面一杯に表示されていくデータ。
シマ福郎(青年)「こ、これはっ」
シマ福郎(オフ)「そこには、彼らが探しているモノ、半世紀も前にすでに打ち上げられていたという有人人工衛星のデータが載っていた。プリムム・モビーレとはその衛星の、そしてメタトロンとはその搭乗者のコードネームだったんじゃ」

○研究所の所長室(過去)
  大量のプリントアウトを手に、鷲羽につめより、何事か叫んでいるシマ福郎
シマ福郎(オフ)「プリムム・モビーレのことを知った翌日、ワシは勢い込んで所長のところに怒鳴り込んだ。じゃが……」
鷲羽「少し落ち着きたまえ、東十条くん」
シマ福郎(青年)「な!」
  怒りのあまり肩をふるわせるシマ福郎。
  そこへ、ドアを開けて所員が駆け込んでくる。
所員「所長。主任。すぐ来てください」
鷲羽「何事かね」
所員「地球を周回する巨大な天体が急に現れて、うちの緊急回線の周波数で呼びかけを」
鷲羽・シマ福郎(青年)「なに?!」

○宇宙空間(過去:バンク?)
  暗闇から姿を表し、燦然と光り輝くプリムム・モビーレ。

○研究室(過去)
  プリントアウトを読んでいる鷲羽と、それをのぞき込むシマ福郎。
鷲羽「この地に清浄なる魂が舞い下り、五体の女神が目覚めし時まで、我が主の眠り妨げるべからず。時満つる時、我は降臨す」
シマ福郎(青年)「女神って何なんです?」
鷲羽「女神。そうか、彼はディーヴァを完成していたのか……」

○校長室
鷲羽「あの日、ようやく我々はすべてを知った」
シゴーニュ「まさか、あの小さな人工衛星が、あんな巨大なものに化けていたとはな」

○宇宙空間(過去)
  すこしずつ大きくなり、そして今の形へと変わっていくプリムム・モビーレ。
鷲羽(オフ)「クレインは眠りにつくにあたって、すべてを自分の作った人工知能に託していた。そしてそれは、クレインの残したテクノロジーを使って、衛星を核に巨大な宇宙ステーションを築いた」
  表面をよく見ると、作業ロボットがたくさんとりついて、改装作業をしている。
シゴーニュ(オフ)「資材は時空歪曲機で転送しほうだい。基本設計図はクレインがすでに書いてあったし、地上での技術革新で使えるものはどれもいただき。とんだ産業スパイもいたもんだ」
  完成したプリムム・モビーレの全景。
鷲羽(オフ)「あらゆる電磁波をかく乱する究極のステルス技術で、肉眼はおろかレーダーにも捉えられない不可視の宇宙ステーション。それがクレインの作り上げた孤独の城だった」

○プリムム・モビーレ内部(過去)
  中央に人工冬眠中のクレイン(白い王子)。周囲には作りかけの5体のディーヴァ(顔はのっぺりとしていて、今のようにひばりたちと同じではない)。その周囲を動き回る作業用ロボットたち。
鷲羽(オフ)「そして、その中には、我らの理想を具現化するための、鋼の女神が……」

○研究所(過去)
  スーツケースを抱えたシマ福郎が、部屋を出ていこうとしている。その後ろには、腕組みして立っている鷲羽。
鷲羽「どうしても、行くというのかね」
シマ福郎(青年)「当然でしょう。薔薇十字団だの人類の進化だの、まともじゃない!」
鷲羽「私は君を信頼してすべてをうち明けたんだがね」
シマ福郎(青年)「誰かに秘密を漏らす前に、いっそ殺しますか?」
  鷲羽、ふっと笑って、
鷲羽「私はそんな野蛮人ではないよ」
シマ福郎(青年)「あなたの、そのすべてを計算しつくしたような態度がイヤで、大天使様も天に昇ったんじゃないんですかね」
  鷲羽、表情を一変させる。
鷲羽「なんだとっ!」
シマ福郎(青年)「ボクは彼の代用品じゃない!」(唐突ですが、まあそういうことで)
  スーツケースを押しながら勢いよく部屋を出ていくシマ福郎。取り残され、茫然の鷲羽。

○かもめの家:茶の間
シマ福郎「すべてを知ったワシは、奴らの誘いを蹴り、逃げるように日本へ帰ってきたんじゃ。じゃが、やつらもまた日本へとやってきた。アニマ・ムンディの巫女を求めてな」
すずめ「その、アニマ・ムンディっていうのも、なにがなんだかわけわかめですわ」
シマ福郎「アニマ・ムンディとは、女性的な世界の霊魂を意味するオカルト用語じゃ。つまりは純粋な精神のことじゃな」
ひばり「純粋な……精神?」
シマ福郎「そう。真に純粋な精神の持ち主だけが、ディーヴァと同調して、動かしてやることができるんじゃよ。ちょうどお嬢ちゃんのようにな」
  つぐみ、ひばりを見ながら首をかしげる。
つぐみ「じゅんすい、ねえ」
ひばり「なーによー、もお」
シマ福郎「結局、クレイン・バーンシュタイクは、完全に人間に絶望しきっとったわけじゃなかったんじゃ。彼は、いつの日か人類が本当に成長して、アホな殺し合いなんぞせんようになったら、もう一度目覚めるつもりだったんじゃよ。そのための目覚まし代わりに作ったのが、5体のディーヴァというわけじゃ。5体のディーヴァはそれぞれ少しずつ違う感情に同調するように設計されておる。そのすべてのディーヴァが目覚めたとき、人類は精神的な進化を果たしているに違いない。そう、クレインは考えたんじゃな」
  シマ福郎のセリフに合わせて、ディーヴァの姿が映る。

○どこかの実験室(過去)
  1列に並んだ試験管。中にはそれぞれ胎児が入っている。
鷲羽(オフ)「だが、私にはそんなものを待つつもりはなかった。一刻も早くクレインと彼の作り上げたディーヴァを我が手にするため、ディーヴァと同調できる優秀で純粋な素材の養育を試み……」(次の2シーンまでセリフをこぼしてください)

○子供時代の鷹士(過去:バンク?)

○子供時代のつばめ(過去:バンク?)

○アキハバラの全景
  実は祭壇都市としてデザインされていることを示す図(魔法陣?)。
鷲羽(オフ)「プリムム・モビーレの軌道を推定して、それと交差するこのアキハバラに祭壇を構え……」

○パタPi工場(過去)
  ベルトコンベアに乗って、大量生産された基本形のパタPi(要デザイン)が流れていく。それを脇で見ている鷲羽(校長変装顔)。
鷲羽(オフ)「持ち主の脳波を増幅してプリムム・モビーレに送る機能を持たせた電脳ペットを開発した」

○かもめの家:茶の間
  ひばりたち(つばめ除く)、驚いてデンスケとプティアンジェを見る。
ひばり・すずめ・つぐみ・かもめ「えーー?!」
シマ福郎「心配はいらん。この子たち自体にはなんの悪意も害もない。単に嬢ちゃんたちの脳波を空に送っとるだけじゃ」
  ひばり、ほっとしてデンスケを抱きかかえる。
ひばり「よかった」
シマ福郎「早い話、校長たちはパタPiを使って、ウソでもいいからとにかくディーヴァを誰かと同調させたかったんじゃ。あのねーちゃんたちにわざとパタPiを持っている女の子たちを襲わせたりしとったのも、脅かして刺激を与えるつもりだったんじゃな」
かもめ「(不満げに)ほな、わてらはウソのアニマ・ムンディなんか?」
  シマ福郎、ひばりとつばめを見ながら、
シマ福郎「さて、それはどうかのう。ワシにもそのへんははっきりとはわからん。じゃが、たとえパタPiの力を借りたにせよ、少なくともそこの二人はディーヴァとの霊機融合を果たしたんじゃ。偽者ということにはならんじゃろう」
つぐみ「やっと話が戻ってきたぜ。なんで、ひばりとつばめはディーヴァと合体できるんだ?」
シマ福郎「ディーヴァはただのロボットではない。元々は薔薇十字団が、新たな人類の容れ物として作り上げたものなんじゃ」
つぐみ「新たな人類?」
シマ福郎「エリキシルのような薬に頼らない、真の不老不死じゃ。あれと合体した人間は、もはや食事もいらんし、呼吸もせんでええ。未来永劫、あの姿で生き続けることができる。校長たちも自分のディーヴァを手に入れて、そこの嬢ちゃんのように霊機融合したいんじゃよ」
つぐみ「うげ、きもちわりい」
シマ福郎「じゃが、校長どもも、嬢ちゃんたちの中に、霊機融合が出来るほどディーヴァと同調する者が出てくるとは考えておらんかったじゃろう。霊機融合とは完璧な同調の証。もはや二人にとってディーヴァは一心同体の存在なんじゃ。じゃから二人のディーヴァだけは、降りてくるプリムム・モビーレに取り込まれずに済んだのじゃて」
  じっと自分のパタPiを見るひばりとつばめ。それを羨ましそうに見る他の3人。
シマ福郎「さて、ワシの知っていることはすべて話した。目覚めたメタトロン、いやクレイン・バーンシュタイクが何をしようとするかはワシにもわからん。おぬしたちは、自分の信じるとおりに行動すればええ。自分の信じるとおりにな」
  立ち上がって部屋から出ていくシマ福郎。
  残されたひばりたち、互いの顔を見つめ合う。

<ED>

○アキハバラ第三中学校長室
  鷲羽、立ち上がり、窓のカーテンを両手でばっと左右に開く。
  と、朝日の中、中学の上空に降りてきているプリムム・モビーレの姿が大きく見える。哄笑しはじめる鷲羽。その横には、シゴーニュが静かに笑みを浮かべて立っている。
鷲羽「ふ、ふはははははは」

(200字詰め原稿用紙73枚)


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