機動戦艦ナデシコ blank of 3 years
シナリオ2「虚空の『遺産』」


【ナデシコのゲーム第2弾用のシナリオ。今回は「ゲームノベルっぽく」ということで、それぞれのライターがかなりの分量のストーリーを書くことになった。まあ、パラレルワールドの番外編的位置づけか。私は、TVシリーズ最終回のシナリオで會川さんが書いたものの、尺の関係などから「SF的決着よりも登場人物の決着を」と佐藤監督が切って持ち越しになっていた古代火星人ネタを大きく引き延ばして、この話を書くことにした。お二人にはそれぞれあとで誉めていただいたのを覚えている。タイトルはエドモンド・ハミルトンが書いた壮大な宇宙SF『虚空の遺産』から。主人公が名無しのオリジナル・キャラなのは、ゲームでプレイヤーが自分で名前をつけるようになっているため。傑作だったのは、冗談で「完全変形トレーラーバリス」こと「トレーラーから変形するエステバリス」を登場させたら、メカデザインの明貴美加さんがきちんとデザインしてくれて、さらにゲームのオープニングアニメにも登場したこと。すいません。いつもバカなことばっかり言って】

[登場人物]
主人公(プレイヤー)

アキト・テンカワ(コック兼パイロット)
ユリカ・ミスマル(艦長)
セイヤ・ウリバタケ(管制官兼メカニック)
ミナト・ハルカ(操柁士)
ルリ・ホシノ(オペレーター)
メグミ・レイナード(通信士)
エリナ・キンジョウ・ウォン(操柁士)
ジュン・アオイ(提督補佐)
ゴート・ホーリー(戦闘リーダー)
プロスペクター(ネルガル重工派遣員)
リョーコ・スバル(パイロット)
ヒカル・アマノ(パイロット)
イズミ・マキ(パイロット)
アカツキ・ナガレ(パイロット)
イネス・フレサンジュ(艦医)
ユキナ
サブロウタ・タカスギ
ゲンパチロウ・アキヤマ
ミスマル提督
その他


○火星 再建中の都市
 降下してくる地球軍の戦艦。地上にはすでに木連の戦艦が着陸している。
 大勢の報道陣に囲まれながら握手する地球の政治家と木連の代表(ゲンパチロウ)。
主人公(オフ)「なんだかわからないけど、戦争は終わりをつげ、地球の人たちと木星の人たちは休戦協定を結ぶことになったらしい。木連の制服を着ていたぼくは、木星の人たちに会って身元確認するために、その調停会議場につれてこられた……」

○会議場の中
 立っている主人公とルリ。ルリは主人公の裾をひっぱっている。
ルリ「ナレーション、あたしの役目なんですけど……」
主人公「え? なれ?? 何???」
ルリ「いえ、いいです。さ、出番、終わり終わり」
 すたすた去っていくルリ。呆然と見送る主人公。
サブロウタ(オフ)「○○(主人公の名前 どこかで決めておく?)くん。○○くん」
 我に返った主人公が周りを見回すと、そこは会議場の中。地球側代表団(3話で出てきた幕僚とか)と、木星側代表団(ゲンパチロウ、サブロウタとその他)が左右にずらーっと机を囲んでこちらを見ている。(ちなみに主人公の後ろにはナデシコのクルー達がいる。)
主人公(オフ)「は、はいっ」
サブロウタ「ナデシコ艦内で発見されたとき、君は木連優人部隊の制服を着ていたと報告されているが……残念ながら君のDNAパターンは、優人部隊はおろか木連内のどの都市の出生記録にも存在していないんだよ」
主人公(オフ)「そ、そんな……」

○町中
 夜道を歩く主人公とナデシコのクルーたち(アキト、イズミ、及びホウメイとホウメイガールズ以外、だいたい全員います)。主人公は暗い顔でトボトボと歩いている。
ジュン「気を落とさない、落とさない。記憶をなくしていても立派な科学者になった人だっていますから」
イネス「なんか言った?」
ジュン「いえ、なんでもありませんっ」
ミナト「まあまあ。とりあえず身元探しはまた明日にして、おいしいものでも食べましょうよ。おなかがすいてるから、つい悪い方へ考えちゃうのよ」
 後ろでひそひそ話している、ゴート、プロスペクター、エリナ。なんか、聞き耳立てながらも分かってないユリカ。
プロスペクター「記録がないということは、極秘任務についてたんでしょうかねえ」
ユリカ「ふんふん」
ゴート「いや、実は木連側に潜入していた地球側のスパイなのかも」
ユリカ「なるほどー」
エリナ「でも、地球側の出生記録にもDNAパターンがないんでしょ」
ユリカ「それでそれで」
プロスペクター「やはり、それは極秘任務ということで……」
ユリカ「なんとー」
エリナ「あんた……黙っててくれる?」
ユリカ「はにゃ?」
 振り返って怒るミナト。
ミナト「あーんたーたちー」
イネス「ま、データが決定的に足りていない状況で推論を重ねても時間の無駄ね」
リョーコ「それにしても、なんでオレたちまで、また火星に来なきゃいけないんだか」
ヒカル「ほんと、ほんと。あたしなんか、今年のコスミケ、せっかくブースが取れてたのに〜」
 さすがにちょっとヒくリョーコ。
アカツキ「地球・木星共に、我々の持つ『遺跡』の知識が欲しくてたまらないのさ」
セイヤ「本体はナデシコごと太陽系の外に飛ばしちまったからな。あとはあんとき俺たちが手に入れたデータだけってことか」
イネス「そう。特にあのボードね」

○会議場内(回想)
 中央に立ち、説明を続けているイネス。
イネス「……以上の観測結果からしても、『都市』と木連側では仮に呼称されているこの遺跡こそ、すべてのボソンジャンプを制御する中枢であることは間違いありません」
ゲンパチロウ「すると『都市』の機能を解明できれば……」
イネス「誰もが自由に生体ボソンジャンプをできるようになる可能性は否定しません。いえ、それどころか、時空制御の全貌を解明できれば、現在の宇宙論そのものを書き換える真の統一場理論すら構築できるかも……」
地球側代表「だが、その大事な遺跡のコアを、君たちは太陽系外へ放り出してしまったんだぞ!」 イネス「そのおかげで、こうして皆さんがここに集まり、理性的に話し合う姿勢を示しているのでは? それとも、あのまま互いが全滅するまで戦った方がよかったとでも。科学の進歩も、使う者がいなくなってはどうにもならないでしょう」
地球側代表「な、なにを無礼な!」
ミスマル提督「まあまあ。ともあれ、今となってはコアの回収には時間がかかる。慣性飛行しているナデシコは、そのステルス性能がフルに発揮されていて、どこを飛んでいるのかさえ不明ですからな」
ゲンパチロウ「(うなずいて)砂浜に落ちた小粒を探すようなものです」
ミスマル提督「つまり、現時点においては、遺跡の謎を解き明かす手がかりとなるのは、フレサンジュ博士、あなたが過去の自分から受け取ったというプレートだけなのですよ」
 イネスの頭上に、TV最終話で受け取ったプレートの立体映像が浮かび上がる。
イネス「これが何らかの記録媒体であることはまず間違いないのですが、その再生方法となると……」

○町中
 突っ立ったまましゃべっているイネス。隣に主人公がいるだけ。
イネス「まだ調査中というわけ……あら?」
主人公「みんな、先に行っちゃいました」
イネス「もう、大事な説明をしてるってのに。失礼しちゃうわねー」
ユリカ(オフ)「イネスさーーん、こっちこっちー。早く来ないと先に食べちゃいますよー」
イネス「まったく。艦長と来たら脳に行くはずの栄養まで全部胸にいってんじゃないの」
主人公「は、はは……(苦笑)」
 ぶつくさいいつつ路地に入ったイネスと主人公の前に数人の黒い人影が現れる。全員、顔の見えないようフルフェイスのヘルメットをかぶり、黒い戦闘服を着て、肩からマシンガンをひもで吊っている。はっとした主人公が逃げ場を探して後ろを振り返ると、そこにも同じ黒服の男達がいて、前後をはさまれてしまっている。
男1「イネス……フレサンジュ博士ですな」
イネス「だとしたら?」
男1「おとなしく同行いただこう」
イネス「地球連合の方かしら。それとも木連? どちらにしても、私一人を捕らえたからといって、遺跡の秘密はわからないわよ」
男1「くっ。うるさい。逆らうというのなら……」
 主人公、イネスをかばいつつ、
主人公「イネスさん。逃げて!」
 イネス、動じず、
イネス「大丈夫よ。私に死なれでもしたら、困るのは向こうなんだから」
男1「賢しらなっ!」
 襲いかかってくる男たち。
 と、間を割るように、いずこからともなく銃撃の火線が走り、男たちは立ち止まってしまう。
 物陰から光学迷彩を解除して現れる、アキト、イズミ、サブロウタ。それぞれ銃をかまえている。
アキト「やっぱり出たな!」
サブロウタ「どこかの強行派がはねっかえるのは予測済みだぜ」
イズミ「説明おばさんはわたさないよっ」
イネス「だーれが説明おばさんかっ」
主人公「い、イネスさん、前出ちゃだめですってば」
 さらに銃弾を男たちの足下に浴びせるアキトたち。
男1「くそ。撤退っ」
 男1の命令で音もなく下がっていく男たち。
主人公「このおっ」
 あとを追おうとする主人公を止めるサブロウタ。
サブロウタ「やめときな。多勢に無勢だ」
主人公「でも、せめて敵の正体だけでも」
サブロウタ「明らかにしない方がいいのさ。今は和平交渉の真っ最中なんだぜ。それが、どっちかの陣営が抜け駆けしようとしてるなんてことが明るみに出てみろ。また戦争になっちまわあ」
イズミ「それに……どちらの陣営かはもう見えたしね」
アキト「あの身のこなし。火星の低重力に慣れてない。地球側ですね」
主人公「さ、さすがですね」
 主人公、アキトたちの冷静な判断に関心して目を見張る。
サブロウタ「ま、今日のところはもう襲っちゃこねえだろう。メシにしようぜ、メシメシ」
主人公「(ひそひそとアキトに)それにしても……なじんでますね、あの人」
アキト「(苦笑しつつ)確かに」

○ナデシコ・クルーの宿舎
 昼間。宿舎の前には巨大なトレーラーが何台も停まっている。

○宿舎内
 てんでに荷造りをしているナデシコ・クルー。
主人公「遺跡のある極冠まで、なんで車で行かなきゃいけないんです。宇宙船ならひとっ飛びでしょう」
エリナ「とりあえず、まだ和平交渉の最中ですからね。お互い、火星の大気圏内で相手の戦艦を稼働させたくないのよ」
主人公「だったら、遺跡の調査なんて後回しにすりゃ……」
 どこからともなく降って湧くイネス。
イネス「何言ってるの。そこには宇宙の謎を解く鍵が埋まってるのよ。そんな大事なことが最優先でなくてどーするの」
エリナ「はいはい……。火星古代文明の超技術をいかに平等に分配するかが、今回の和平交渉のキーポイントですからね。ま、相手に抜け駆けされたくないし、ほっとくこともできないしってとこよ」
主人公「で、共同で遺跡の調査ですか。でも、肝心のコアはナデシコごと宇宙の彼方だって……」
セイヤ「残されたあのプレートから、情報を引き出すための手がかりが欲しいのさ」
イネス「というより、あれが古代火星文明の記録媒体だとすれば、遺跡にその再生装置があったっておかしくないでしょ。前回はとてもじゃないけどゆっくり調査してる暇なんかなかったけどね」
ユキナ「要は、ゴミあさりってことよね。ゴソゴソゴソ」
 あいかわらず擬音を口で言いながらユキナ登場。リュックサックにぱんぱんに荷物を詰め込んでいる。
ユリカ「ユキナちゃん。きびしー」
アキト「ミナトさんに似てきたよね」
ミナト「ごめんね、手厳しい女で」
 買い物籠を手にミナトがやってくる。思わず、びくっとするユリカとアキト。主人公たちは苦笑。
ユキナ「あー、おねえちゃん」
ミナト「食べ物、買い出しに行こうと思うんだけど、ユキナちゃんも来る?」
ユキナ「行く行く。すささささっ」
 ミナト、振り返って
ミナト「ま、難しいことはイネスさんにまかせるとして、毎日食べるものは大事だからね」
 さっそうと出ていくミナトと、ちょこまかついていくユキナ。
主人公「かっこいいなあ……」
ゴート「きみ、ああいうのが好みなの。苦労するよー。悪いことはいわん。やめときたまえ」
主人公「わっ。どーして、あなたたちはそろいもそろって、どこからともなく湧いて出るんですっ!」
 ジュン、同情した様子で主人公の肩を叩きながら、
ジュン「きみもそのうち慣れるよ、うん」
主人公「(疲れた顔で)だから、そう言いながら、あなたも突然出てこないでください……」
ゴート「念のためだ。アオイくん。ミナトくんたちの護衛を」
ジュン「あ、はい」
主人公「じゃ、ぼくも」
 出ていく主人公とジュン。
イネス「さー、うだうだ言ってないでさっさと荷造りする」
アキト「って、ぼくらはイネスさんの護衛であってですね……」
イネス「口動かす暇があったら体動かす。はい、それとあれとこれは向こう。そこのそれは割れ物だから気をつけて……」
セイヤ「どっから持ってきたんだ、こんなもん。そんなにいっぱい詰めねーぞ……」
とか、てんやわんや。

○町中
 人混みの中を歩くミナトとユキナ。後からは、追いつこうとしている主人公とジュン。
主人公「さすがに昼間は人が多いなあ」
ジュン「木連が全員移住してきたもんで、地球側も負けじとむりやり植民者を送り込んできちゃったからね。数少ない都市部にその人口が集中しちゃってるのさ」
主人公「なるほど。……あれ、なんだ?」
 ミナトが隣の見知らぬ人物に抱きかかえられている。ユキナの悲鳴。
ジュン「しまった!」
主人公「ミナトさん!」
 駆け寄ろうとする二人だが、人混みのせいで、なかなか近寄れない。ところが、ミナトを抱きかかえた男は、すいすいと人の波の中をかき分けるように遠ざかっていく。おかげで、追いすがろうとしたユキナも、あっというまに引き離されてしまう。
ユキナ「なによ、あんた。ミナトおねえちゃんをはなしなさいよっ」
 ジュン、通信ウインドウを開いて、
ジュン「イズミさん、狙撃して誘拐犯の足を止めてください」
イズミ「この人混みじゃ、はずすとしゃれになんないよ」
ジュン「イズミさんの腕を信じてます。早く!」
イズミ「了解」
 正面のビルの屋上。光学迷彩を解いてイズミが登場。ライフルを構える姿が見える。

○イズミのライフルスコープに映る映像
 スコープの真ん中に、気を失っているらしいミナトと、彼女を抱きかかえた男の姿が映る。赤外線の照準が男の肩を捉えたとき、男がライフルで狙われているのに気づいたかのようにイズミの方を向き、にやりと笑う。
イズミ「なにっ?!」

○町中
 男の周りに突然砂埃がまきおこり、男は真っ黒な忍者装束に早変わりするなり、ミナトを抱えたまま姿を消してしまう。
主人公「消えた……」
ジュン「に、忍者?」
ユキナ「ミナトおねーちゃーーーん!」
 砂埃に驚いてざわめく人混みの中、立ちすくむ主人公たち。

○ナデシコ・クルーの宿舎
 夜。まだトレーラーは停まったまま。地球軍と木連軍の兵士たちが、互いに相手を威嚇するように二手に分かれ、武装したまま歩哨に立っている。

○宿舎内
 荷物が運び出されてしまい、がらんとしている。ナデシコのクルーたちのうち以下のメンバー(主人公、イネス、ユキナ、エリナ、プロス、セイヤ、アカツキ。ここで残りのメンバーは一旦退場)とサブロウタが沈痛な面もちをして、室内のそこここに立ったり座ったりしている。
サブロウタ「黒づくめの忍び装束で怪しげな術を使うとくれば……、木連秘密諜報部の特殊部隊の連中だな」
プロスペクター「タカスギさん、そちらの方で調べがつきますかな?」
サブロウタ「いえ。特殊部隊の存在は最重要機密になっていて、指揮系統どころか、その存在すら書面化されておらんのです。いったい誰が背後で糸を引いていることやら……」
主人公「しかし、どうしてミナトさんを。イネスさんと間違えたんでしょうか?」
アカツキ「相手はプロだよ、○○クン。イネスさんには護衛が十重二十重とくっついていて手が出せない。そこでミナトくんを狙ったんだろう」
エリナ「ナデシコ・クルーはお人好しぞろいだから、脅迫に屈してミナトさんと交換にイネスさんとデータを差し出すと踏んでるんでしょうね」
プロスペクター「まあ、そんなところでしょうなあ。ということは、そろそろ犯人から連絡が入ってもいいころですが」
アカツキ「とはいえ、そんな取引を地球側も木連側も認めるわけにはいかんだろう。なにせ遺跡の共同調査は、和平交渉の鍵となる条項だからな」
サブロウタ「そう。たとえどこの誰が独断専行しようともね」
主人公「そ、そんな……」
ユキナ「冗談じゃないわよっ。ミナトお姉ちゃんを見殺しになんかさせないんだからっ」
エリナ「落ち着きなさい、ユキナちゃん。すでにゴートさんたちが独自に捜査に出かけてるんだから」
アカツキ「そうそう。今さら地球や木連に逆らうのが恐くて、ナデシコ・クルーがつとまりますかっての」
サブロウタ「言うねえ」
プロスペクター「わたしたちゃ、それでいいんですが、タカスギさんはどうなさいます? なにせ、木連代表団から直々に派遣されたという立場もおありでしょうに」
サブロウタ「ここで逆らったら、簀巻きにでもして放り出そうってんだろ。心配はいらねえよ。休戦からこっち、オレは誰の味方でもねえ、『正義』の味方だ」
 にやりと笑うサブロウタ。
プロスペクター「そりゃまたけっこう。(イネスの方を向き)というわけで、こちらは意見の調整がついたんですが、先生のほうも協力していただけますかな」
 さっきから会話に参加せず、手に持ったポケコンを叩きながら話し込んでいるイネスとセイヤ。
主人公「イネスさん。イネスさん!」
 無視するイネスとセイヤ。
サブロウタ「聞いちゃいねえ」
アカツキ「君たち。あのモードに入ってるときのイネスさんのじゃまはしない方がいいと思うよ」 主人公「じゃあ、どうしたらいいんです?」
プロスペクター「つまりですな。(わざとらしく)うーーむ、問題が山積みですなあ。誰か、今の状況をわかりやすく『説明』してくれれば助かるのですが……」
 振り向きもせず声をあげるイネス。
イネス「人をなんだと思ってるの。今、すごく大事なとこなんだから、邪魔しないで」
ユキナ「おばさんはミナトおねえちゃんがどーなってもいいの?!」
イネス「今の私にはどーすることもできないでしょ。だから、自分にできることをしているの。わかれ、とは言わないから、邪魔をしないで」
ユキナ「そんなの!」
主人公「ユキナちゃん。気持ちは分かるけど、みんなを信じよう」
アカツキ「とはいえ、だ。イネスさん、相手が人質交換を申し込んできたとき、どうするつもりなんです?」
イネス「(やはり向こうをむいたまま)条件しだいね。そのへんの駆け引きはあなたたちに任せるわ」
アカツキ「へいへい。化かしあいはまかせてください。うちにゃ、古狸も女狐もそろってますから」
プロスペクター、エリナ「誰が?!」

○火星極冠を目指して移動中のキャラバン
 朝日を浴びて移動する大型トレーラー群。周囲には護衛の陸戦用エステバリス数機、月面エステバリス1機(陸戦エステにエネルギーを供給)、ジンタイプ数機。

○ナデシコ・クルーの乗るトレーラー
 運転しているアカツキ。隣には主人公とプロスペクター。
主人公「結局、犯人から連絡はありませんでしたね」
アカツキ「こうも派手に警備されちゃな」
プロスペクター「とはいえ、こうなることがわからないほど犯人もバカではないと思いたいですな」
主人公「とりあえずは、犯人の出方待ち、ですか」
プロスペクター「走り回ってるゴートさんたちには気の毒ですが、結局そーゆーことになるでしょうな」
アカツキ「しかし、知り合ってまもないってのに、ずいぶんミナトくんのことを気にしてくれるじゃないか。ほんとに惚れたか?」
主人公「そ、そんなじゃなくてですね。なんてゆーか、ナデシコの皆さんは、記憶を失ったぼくみたいな怪しい人間に、とても優しくしてくれて、他に家族も頼る人もいないぼくにとって、その……」
プロスペクター「皆まで言わない、皆まで言わない」
 いきなり主人公のコミュニケーターのウインドウが開き、セイヤの顔が映る。
セイヤ「そうそう。袖すりあうも他生の縁、ってね」
アカツキ「なんか用なの、ウリバタケくん」
セイヤ「つれないねえ、落ち目の会長さんよ」
アカツキ「落ち目は余計だ」
セイヤ「(意に介さず)○○さんよ、ちょいと後ろまで来てくれねえか。イネスさんが要があるんだと」
主人公「はい。いいですけど……」

○トレーラー後部の貨物室内
 所狭しと研究機材が並べられ、ほとんとイネスの移動研究室と化している。中にいるのはイネス、セイヤ、ユキナ、エリナの4人。
イネス「さっそくだけど○○くん。あなたの時計、今何時を指してる?」
主人公「え? 太陽系標準時だと、0847時ですけど」
イネス「そちらも3秒遅れか。……最後に時計の時刻を合わせたの、いつだか覚えてる?」
主人公「ナデシコで皆さんとお会いして、イネスさんの診察を受けたあとだったと思います」
イネス「なるほど。とすると、狂ってるのはやはりナデシコの時計だったわけね」
主人公「どういうことです?」
ユキナ「ナデシコが最後にボソンジャンプしたとき、時間がずれちゃったんですって」
エリナ「でも、ナデシコってひどいときはボソンジャンプに8ヶ月もかけたことだってあったじゃない。3秒くらいなら大したことじゃないでしょ」
イネス「あま〜〜い! 今回のずれには、大変な問題が含まれているのよ」
 言った瞬間、イネスの背後にどこからともなく白板が現れる。
セイヤ「あー、はいはい、また説明がはじまっちまうのねーー」
イネス「ボソンジャンプが、物体を素粒子レベルまで分解し、各種フェルミオンから、時間を遡行するボソンに変換することで時間移動を行って、空間移動にかかった時間を相殺する、というのは、もう知ってるわよね」
主人公「初耳です」
イネス「だーーっ。と、とにかく、そうなの。この時間遡行ボソンに、私は発見者の特権としてレトロスペクトと命名したの。ボソンジャンプをする場合、消失地点ではこのレトロスペクトが、そして出現地点では通常の様々なボソン、つまり光子、π(パイ)中間子、Wボソン、重力子なんかね、が、それぞれ検出されるの。正確なたとえじゃないけど、まあ、海に潜るときと海から出てきたときの水しぶきみたいなもんね」
セイヤ「話がなげーよ、イネスさん」
イネス「うるさい。もうちょっとだから辛抱する!」
 イネスの背後の白板に、グラフが2枚浮かび上がる。どちらも、2次元のグラフで、釣り鐘状の正規分布曲線を描いている。横軸は時間。縦軸はボソンの検出量。
イネス「普通は、消失点のレトロスペクトも出現点の通常ボソンも、こんなふうにボソンジャンプの瞬間に最大値となり、その前後では正規分布を記録するの。ところが……」
 右側のグラフだけ、山が右にずれ、もともと最大値を指していた時刻のところに、鋭いピークが違う色の線で示される。
イネス「前回のナデシコのボソンジャンプ時の記録がこれ。消失時は通常通りなんだけど……」
エリナ「この山の部分が右にずれてるのは、出現が3秒遅れたってことでしょ。でも、この色違いの急な線はなんなの?」
イネス「それは、通常では出現点では観測されないはずのレトロスペクトなのよ」
主人公「出現が遅れたから検出されたというのではないんですね」
イネス「ええ。通常は時間にずれが生じても、出現点にはレトロスペクトは観測されないのよ」
ユキナ「もー、で、それが観測されたからなんだってのよー。早く結論を言ってよ、ぷんぷん」
イネス「これはまだ仮説にすぎないんだけど、このレトロスペクトは、ナデシコが最初に出現した時刻を示しているんだと思うの?」
エリナ「最初に出現? それ、どーゆー意味?」
イネス「つまり、本当はあのとき、ナデシコはきちんと時間のずれなくジャンプに成功したんだけど……」
主人公「けど?」
イネス「この*ヶ月で3秒、出現時刻がずれたっていうこと。だから、そのときのパラドックスがレトロスペクトの形で検出されてるのよ」
セイヤ「って、ちょいまち。じゃなにかい、おれたちの知らない間に、ボソンジャンプのずれがどんどん拡大していってるってのかい」
イネス「そうなのよ。戦争中の木連部隊のジャンプ記録もつき合わせて検証中なんだけど、まず間違いないわ」
セイヤ「間違いないわ、って、そりゃ大変じゃねえかよ!」
ユキナ「だから、何がどーしたってゆーのよ?!」
イネス「今はまだ秒単位だから、派手なタイムパラドックスは起こっていないはずだけど、これが分単位で狂ってごらんなさい」
エリナ「今までの戦闘結果が、大きく変わることだってあるわね」
イネス「そう。ましてや時間単位で狂いだしたら、ほんとに歴史の流れが変わっちゃうわ。もっとも、変わったとたんにそちらの時間線にみんなそろって乗り換えちゃうから、誰も気づかないでしょうけどね」
ユキナ「それって……、もしかしてすごくヤバクない?」
セイヤ「めちゃくちゃヤバイ」

○大きなクレーターの手前で停車しているキャラバン
 夕方。停止して食事や宿泊のための設営を開始している人々。

○ナデシコクルーたちのトレーラー
 鉄板焼きだかバーベキューだかで、なにか料理を作っているセイヤ。ビーカーで計りながら米をといでいるイネス。慣れた手つきで材料を刻み、鍋に放り込んでいくプロスペクター。テーブルやいすを用意しているアカツキと主人公。なぜか、うんうんうなづきながら作業を見ているエリナとユキナ。
アカツキ「なーんにもない砂原を延々走って、遺跡まで片道10日。まるでラリーにでも出てる気分だね」
主人公「結局、宇宙船で移動するよりコストも時間もかかっちゃってますしね」
セイヤ「(焼きそばを炒めながら)そうそう。食料に車の部品、燃料その他諸々、往復と調査期間を会わせて1ヶ月分。運んでるだけでも大騒ぎだぜ。だいたい水素エンジンのトレーラーなんて時代もの、よくこれだけ調達できたもんだ」
アカツキ「政治というのは、常に大いなる無駄の上に成り立ってるのさ。それで両軍の指揮官が枕を高くして眠れるってのなら安いもんだ」
セイヤ「よ、さすが大物政商。言うことが大人だね」
エリナ「ずいぶん落ち目ですけどね。なにせネルガルの株は休戦このかたスキャンダルが発覚したりなんだりで急降下。責任とって引退しろって重役や株主連中に迫られてるんですもんね、か・い・ちょ・う」
主人公「え? そんな大変なのに、僕たちと一緒にこんなことしてていいんですか、アカツキさん」
アカツキ「みんなナデシコの仲間じゃないか。何を水くさい」
エリナ「とかいって、どうせ追求のがれの時間稼ぎのついでに、地球と木連の両政府に恩を売っとこうって腹でしょ」
アカツキ「あはは……。相変わらず鋭いねえ、エリナくん」
エリナ「どうせ女狐ですから」
プロスペクター「まあまあ。さて、そろそろ食事にいたしましょう」
ユキナ「食器、出してきたよー。よいしょっ。……あれ?」
主人公「どうしたんだい?」
ユキナ「なんか、お皿の間に封筒がはさまってる。こんなの詰めた覚えないんだけどなー」
プロスペクター「(ひょいと手を伸ばし)どれどれ、ちょいと拝見」
 みんな、封筒の中の手紙を読むプロスペクターの周りに集まってくる。
プロスペクター「『我々が預かっている女の命を助けたければ、フレサンジュ博士と彼女の持つ遺跡のデータを引き渡せ。交換場所は追って指示する』……どうやら誘拐犯からのようですな」
ユキナ「えーーー!」
 あわてて、ユキナの口を押さえるセイヤ。
セイヤ「騒いじゃダメだってば。おれたち以外は犯人との交渉なんか許す気ないんだから」
主人公「いったい、いつのまに?」
イネス「チャンスは、みんなが設営をしていたこの1時間程度のあいだしかなかったはずね」
アカツキ「しかも、怪しまれずにぼくらのトレーラーのそばに近づいて、この封筒を仕込めたとなると……」
エリナ「護衛や随行のスタッフの中に、犯人の一味がまぎれこんでるってことね」
 向こうからサブロウタがやってくる。
サブロウタ「あれ? 食事、まだなんですか。けっこう期待しちゃったりしてるんですけど」
 すっと封筒を懐にしまうプロスペクター。
プロスペクター「ちょうど、味見をしていたところでして。誰かにタカスギさんを呼んできてもらおうかと思っていたんですよ」
サブロウタ「そりゃ、うれしいなあ」
セイヤ「(小声で)とりあえず、次の指示待ちだな」
主人公、アカツキ「(やはり小声で)了解」

○大きな峡谷のあいだを行くキャラバン。
主人公(オフ)「結局、犯人からの指示があったのは、その三日後、長い峡谷のあいだにさしかかったところでだった」

○トレーラーの中
 乾燥機の中から洗濯物と一緒に封筒を取りだす主人公。ユキナ、エリナ、プロスペクターが、それを見て近づいてくる。
主人公(オフ)「今度は、いつのまにか乾燥機の中に犯人からの手紙が投げ込まれていたのだった」
セイヤ(オフ)「こりゃ、やっぱり、誰か内部の者の犯行だな」
アカツキ(オフ)「いや。考えてみたら、自由にボソンジャンプができるヤツってこともあるんじゃないの」
セイヤ(オフ)「木連の……優人部隊か?」

○峡谷の中で停まっているキャラバン
 夜。各トレーラーの明かりも消え、警備のジンとエステバリスのサーチライトだけが灯っている。

○ナデシコクルーのトレーラー
 あたりを見回しながら、中から抜け出てくるクルー一同。
セイヤ「こんなとこで人質交換かよ」
エリナ「まあ、逃げも隠れもできないから、不意打ちにはもってこいの地形よね」
主人公「手紙に『指示通りにすれば警備の目をくぐり抜けられる』ってあったのは、やっぱり内通者がいるってことなんでしょうね」
イネス「しっ。無駄話をしない」
セイヤ「へいへい。ほい、スターライトスコープ。じゃ、よろしくね」
 セイヤ、イネスと主人公にゴーグル状のスコープを渡す。

○峡谷内
 キャラバンの野営地からかなり離れた場所。スコープをつけたイネスと主人公が明かりもつけずにやってくる。と、暗闇の中から3,4人の人影が現れ、懐中電灯で二人を照らす。明るさにたじろぐ二人。
イネス「警備に見つかって困るのはそちらじゃないの?」
 敵はそれぞれ忍び装束に身を包み、覆面で顔を隠している。
女1「貴様ら以外の連中の食事には睡眠薬をしこんだ。今頃、どいつもこいつも高いびきだ」
主人公「用意周到というわけか。ミナトさんはどこだ?」
女1「その前にゴーグルを取れ。本当にフレサンジュ博士本人なんだろうな」
 ゴーグルをはずすイネスと主人公。
女1「遺跡で発見したというプレートは持ってきただろうな」
イネス「物事は順番に。今度はこちらが人質を確認する番よ」
女1「……よかろう」
 女1が左手をふって合図をすると、暗がりの中から、ミナトを連れた男が現れた。ミナトは両腕を後ろ手に縛られ、口をマスクでふさがれている。
主人公「ミナトさん!」
女1「さあ、プレートを出してもらおう」
 うなづいて、イネスがプレートを出そうとした瞬間、いきなり、数台の空戦エステバリスが上空に現れ、巨大なサーチライトでその場の全員を照らしだした。
 そのうちの1機から、最初にイネスを誘拐しようとした男1の声が、マイクを通して聞こえてくる。
男1「きさまら木星トカゲにフレサンジュ博士をわたすわけにはいかん。遺跡の秘密を独占させてたまるか!」
主人公「その声は……最初に襲ってきた連中か!」
 銃を乱射するエステバリス。
主人公「イネスさん!」
 イネスをかばいつつ、地面に伏せる主人公。
女1「くそっ、撤退する!」
 ミナトを連れて逃げようとする忍者たち。
主人公「ミナトさーんっ!」
 と、そのとき、崖の上から数台の陸戦エステ3機が登場、敵の空戦エステを攻撃しつつ、谷へと崖をすべりおりてくる。

○陸戦エステ1のコクピット
 操縦しているのはリョーコ。
リョーコ「くっそー。人質交換の最中に割ってはいるはずが、飛び入りのせいで台無しだぜ。ヒカル、イズミ、説明おばさんを空戦エステの連中から守るのが最優先だかんな」
 コミュニケのウインドウが開き、他の2機にそれぞれ乗っているイズミとヒカルの顔が映る。
イズミ「了解」
ヒカル「えー、でもミナトさんはー?」
リョーコ「しかたねーだろ、この状況じゃ。そっちはアキトたちにまかせるしかねえ!」

○峡谷内
 リョーコたちの陸戦エステにばたばたと撃墜されていく空戦エステ隊。
 その下を逃げていこうとする忍者たち。(そのうちの一人がミナトをだき抱えている)
 と、やはり崖の上から飛び降りてきて、忍者たちの前に立ちふさがる月面エステ。コクピットにはアキトの姿が。
アキト「おっと。ここから先は行かせない」女1「貴様! 人質がどうなってもいいのか」
ジュン「そのことならご心配なく」
女1「なっ?!」
 ジュンとゴートが光学迷彩を解いて突然忍者たちのそばに出現。ジュンが、ミナトを抱えていた男を後ろから殴りつけて昏倒させ、ゴートがミナトを抱きとめ、後退しつつコミュニケに怒鳴る。
ゴート「人質奪取に成功、援護を求む。繰り返す。人質奪取に成功、援護を求む!」
女1「おのれえっ」
 ジュンとゴートの後を追おうとする忍者たちだが、アキトの月面エステの放つ弾幕に行く手を遮られてしまう。
女1「かくなる上は!」
 女1がポケットに手を入れ、何かのスイッチを押すと、地面を割ってその下からダイマジンが姿を現す。ダイマジンに乗り込む女1。
女1「致し方ない。『都市』の秘密もろとも、そろって消えてもらうぞ」
 弾幕を張りつつ後退する月面エステ。
アキト「ゴートさん。早く安全な場所に」
 リョーコたちの陸戦エステのところへ逃げていくゴートたち。すでに空戦エステは全滅している。ヒカルの陸戦エステの手のひらの上から呼びかける、主人公とイネス。
主人公「早く! こっちです!」
イネス「急いで!」
女1「させるかああっ!」
 女1の乗ったダイマジンが光を放ち始める。
主人公「ボソンジャンプするつもりか! ヒカルさん、ゴートさんたちのそばへ!」
ヒカル(オフ)「おっけー!」
 と、そのとき、主人公の目の前の空間が光り輝き、その中にイツキの姿がぼんやりと浮かび上がる。
イツキ「近づいてはダメ」
主人公「なに?!」

○ヒカル機のコクピット
ヒカル「新入り?!」

○峡谷内
 思わず停止してしまうヒカル機。その正面、ゴートたちとヒカル機のあいだを割ってはいるようにボソンアウトしてくる女1のダイマジン。だが、その向こうには、まだボソンジャンプに入っていない、女1のダイマジンの姿が見えたままだ。
女1「えっ?!」
主人公「新手?……じゃない、のか?」
イネス「ボソンアウトが過去にずれたな」
 2機の(同じ)ダイマジンは、チカチカと消えたり現れたりを何回か交互に繰り返したあと、両方とも姿を消してしまう。
 呆然と立ちつくす、ゴート、ジュン、ミナト。そしてヒカル機の手の上の主人公とイネス。
ゴート「今のはいったい……?」
 いきなり、照明弾がいくつも撃ち出され、空を照らす。ナデシコ・クルーのトレーラーが走ってきたのだ。運転席にはアカツキ。隣にプロスペクターとユキナ。トレーラーのコンテナの屋根の上にはセイヤとサブロウタが座り込み、せっせと照明弾を打ち上げ続けている。
セイヤ、サブロウタ「やっほーーー!」
ユキナ「ミナトおねーちゃーーん」
アカツキ「(コミュニケに向かって)なんか派手にやってるねえ。ずいぶん計画とちがうけど、ちゃんと人質は救出したんだろうね」
主人公「そっちはうまくいったんですけど」
プロスペクター「なにか、問題でも?」
主人公「いろいろと。それより、結局タカスギさん、ついてきちゃったんですね?」
アカツキ「結局、バレバレでさ」
サブロウタ「ここまできて仲間外れはないだろう。オレは正義の味方だって言ってるのにさ」
アカツキ「って、ああなのよ」
主人公「(苦笑)なはは」

○雪原を走るキャラバン
 昼間。何事もなかったかのように隊列を組んで走り続けるキャラバン。ただし、今回はアキトの月面エステとリョーコたちの陸戦エステ隊も合流している。

○ナデシコ・クルーのトレーラー内部
 主人公、イネス、ミナト、エリナ、セイヤ、アカツキ、ユキナがいる(ゴートとプロスペクター、ジュンは運転席)。
主人公「ミナトさん。寝てなくていいんですか」
ミナト「平気平気。女には優しかったから」
アカツキ「そのへんがいかにも木連らしいよな(苦笑)」
エリナ「それにしても、人質を無事取り戻したのはともかく、敵を一人も捕まえられなかったってのは失敗よね」
セイヤ「仕方ねえだろ、人命優先だったし、とんだ伏兵まで出てきちまったんだから」
主人公「みんな、逃げ足だけは早かったですしね」
アカツキ「ま、敵は最低でも二派いることがわかっただけでも収穫かな」
主人公「それより、犯人のジン・ロボットは、いったいどうなったんでしょう?」
イネス「時間の環に囚われてしまったのよ」
主人公「時間の環、ですか?」
イネス「そう。正確なところはわからないから、推論でしかないけど、まず間違いないでしょう」
 セイヤ、めんどくさそうに
セイヤ「ユキナちゃん、それ、持ってきてあげて」
ユキナ「はいはい、これね。ガラガラガラ」
 ユキナ、イネスの後ろに白板を押してくる。
イネス「(ちょっと憮然としつつ)ありがとう」
 イネス、白板にペンで左右に線を引き、その上に三つの点を描き、それぞれにA,B, Cと名前をつける。
イネス「この横軸は時間の変化で、左から右に時間が流れていると思って。そして、左側から順に時刻A、時刻B、時刻Cの3つの時点をとります。そもそもの問題は、時刻Cにボソンジャンプを果たした誘拐犯のロボットが、時間をさかのぼってそれより前の時刻Aに出現してしまったことにあります」
主人公「それで、一瞬だけロボットが2機現れたんですね」
イネス「そう」
セイヤ「原因は例のアレかい、ボソンジャンプの時間のずれってやつ」
イネス「ええ。ナデシコの場合は時間が遅れる方向にずれたけど、あのロボットは時間をさかのぼる形でずれたんだわ。さて、ここからは推測が入るのですが、我々以上にもう1機のロボットの出現に驚いた犯人は、途中、つまり時刻Bでボソンジャンプを中止してしまったのだと思われます」
セイヤ「それなら、なんで元々の位置にいた機体まで消えちまったんだ。ジャンプを中止したんなら、最初の機体はそのままのはずじゃないの?」
イネス「ここでタイムパラドックスが発生したのよ。つまり、時刻Bでボソンジャンプを中止したために、過去にさかのぼって時刻Aに第2の機体が出現することもなくなったわけでしょう」
セイヤ「そりゃそうだ」
イネス「ということは、時刻Bにボソンジャンプを中止する理由もなくなるでしょうが」
主人公「え? それじゃ、結局ボソンジャンプを行って??」
イネス「そう。再び時刻Cにボソンジャンプを実行し、時をさかのぼって時刻Aに第2の機体が出現して……」
主人公「それに驚いて時刻Bにジャンプを中止……」
イネス「そして、またまた時刻Aには第二の機体が出現しなくなるから、時刻Cにジャンプを実行してしまう。とまあ、時刻AからCのあいだで無限にループを繰り返しているのよ」
セイヤ「わけわからん……」
主人公「じゃあ、機体が2機とも消えてしまったのはどういうわけです?」
イネス「あのロボットは、時刻AからCのあいだで無限ループに陥っているんだから、時刻C以降の時間線上には存在していない。したがって、時刻Cを通り越した我々の目の前から消えてしまった。そういうこと」
アカツキ「悲惨な末路だな」
イネス「本人は何が起こってるのか、気づいていないでしょうけどね」
主人公「もし、あのとき、あのロボットに接触してしまったら、どうなってたんです?」
イネス「あなたが、っていうこと? たぶん巻き込まれて、一緒に無限ループに落ち込んでたでしょうね」
主人公「それじゃ、彼女、イツキさんは……」
イネス「私たちに、というより、あなたに警告してくれたんじゃないかしら」
アカツキ「一番わからんのはその話だよ。なんで地球での戦闘中に行方不明になったイツキくんが、火星に現れて○○くんを助けてくれたんだ?」
イネス「その答は、○○くんが何者か、っていう問題と関係あるんじゃないかしら」
 全員に見つめられ、困惑する主人公。
主人公「そう。ぼくは……誰なんだろう」

○遺跡(外側)
 夕日を浴びながら、遺跡に向かって走っていくキャラバン。
主人公(オフ)「それからは何事もなく時が過ぎ、ついにぼくたちは遺跡に到着した。いくつもの謎を抱え、それが解けるのを期待しながら……」

○遺跡(内部)
 イネスの指示のもと、様々な研究機材を配置していく主人公たち。
主人公(オフ)「遺跡に到着するなり、イネスさんは間髪を入れずに不眠不休で調査を始めた。ぼくたちは、わけもわからず、とにかくその手伝いで右往左往するばかりだった」

○遺跡内、ベースキャンプ
 バテた顔でテントの前に座り込む主人公、セイヤ、アカツキ、プロスペクター。
主人公「うー、腰が痛い……」
アカツキ「あー、こんなんだったら警備の方にまわっときゃよかった」
プロスペクター「イネス先生はタフですなあ」
セイヤ「もう3日も寝てないんだぜ。ばけもんだよ、ばけもん」
主人公「ずっと気になってたんですけど、プレートに記録されているものの再生方法がわかったとしても、今度はそれを解読しなきゃいけないでしょう。とても10日やそこらじゃどうにもならないような」
セイヤ「イネスさんの言うには、たぶんメッセージはテレパシーみたいなもんだから、その心配はないとさ」
主人公「テレパシー、ですか」
プロスペクター「パイロットの皆さんが使用しているIFS(イメージ・フィードバック・システム)とは違うのですかな」
アカツキ「IFSは体内に注入したナノマシンを仲介して、脳とコンピュータをダイレクトにつなぐインタフェースだから、似ていないわけじゃないが、どうも、古代火星文明はもっと洗練された手法を使ってるらしい」
主人公「というと?」
セイヤ「何の物理的接触もなしに、直接イメージをやりとりできるらしい。どういう仕組みかさっぱりわからんので、テレパシーみたいなとしか言えねえんだ」
アカツキ「もっとも、それをきちんとやりとりできるのは、木連の優人部隊の連中か、イネスさんやアキトくんのような火星生まれの人間だけらしいがね」
プロスペクター「なるほど。有人ボソンジャンプの件ですな」
主人公「なんです、それ」
アカツキ「もともと、木連が無人兵器ばかりを送りつけてきたのは、有人ボソンジャンプが不可能だったからなんだ」
セイヤ「その理由は、ボソンジャンプの制御方法にあったんだな、これが」
主人公「それが……テレパシーだったんですね」
アカツキ「そう。ジャンプの当事者の思考が優先的に反映される仕組みになってるらしいんだが、人間の思考と古代火星人の思考は、全然違うものらしくてね」
セイヤ「遺跡は人間の思考をうまく翻訳できなくて、有人ボソンジャンプをしようとしたとたん……」
アカツキ「どっかーん、てわけ」
プロスペクター「そこで、なんとか人間の思考パターンを遺跡に理解できるようにというんで、遺伝子改造によって脳に新たな機能を後天的に与えられたのが、木連優人部隊の皆さん、というわけですな」
アカツキ「そして、それとは別個に、火星に散布された惑星改造用ナノマシンを遺跡が改造し、それが妊婦の体内に入り込んで、胎児の脳に遺跡とのインタフェース機能を与えたため、火星生まれの人間は先天的にその能力を持ち合わせているのさ」
主人公「それがイネスさんやアキトさんというわけですか」
セイヤ「そういうこと。だから、あのプレートのメモリにアクセスさえできりゃ、内容はイネスさんにわかる形で伝わるはずなんだよな」
主人公「いったい、どういうメッセージが入ってるんでしょうね」
アカツキ「ボクはそんなことより、さっさとボソンジャンプのずれの原因を解明して欲しいね」
セイヤ「あれさー、やっぱ、オレたちが遺跡のコアを放り出しちゃったからなんじゃないの」
アカツキ「そーゆーことは思ってても口にださない!」
プロスペクター「一応、イネスさんの説明では、遺跡のコア内部は時間と空間が反転していて、遺跡と離しても問題はないということでしたが」
セイヤ「でも、変な時間のずれって、あれ以来大きくなってんだろ。となると、どう考えても……」
アカツキ「言うな。そんなのまでボクらの責任ってことになってみろ。それこそ旧ナデシコ・クルーは太陽系内に居場所がなくなっちゃうよ」
主人公「イネスさんの調査で別の原因が判明することに期待するしかないですね」
セイヤ「つるかめつるかめ……」
 そうセイヤが言いかけたとき、遺跡内の壁のいたるところが輝きだし、遺跡の奥の方から、女性の悲鳴が。
主人公「イネスさん?」
セイヤ「の声だな、ありゃ」
 あわてて駆け出す主人公たち。

○遺跡中央部
 遺跡の壁面はやはり輝いている。
 前はコアのあった部分も含めて、なにやらメカメカしい(笑)機械類がそこらじゅうに設置されており、いろんな太さのケーブルで互いに接続されている。
 その機械の一つのそばにイネスが立っているが、光に包まれ、静電気でも起きたかのように髪の毛が逆立っている。イネスの目はなにも見えていないかのように焦点が合っていない。
 イネスを取り囲み、心配そうに見ているサブロウタ、エリナ、ミナト、ユキナ。そこへ駆け込んでくる主人公たち4人。
主人公「どうしたんです?!」
ミナト「イネスさんがプレートを差し込む口を見つけたとか言って……」
サブロウタ「差し込んだとたん、この始末だ」
アカツキ「エリナくん!」
エリナ「わかってます! いま、プレートを引き抜いてるとこ」
 エリナ、イネスのそばに床から突きだしている柱のようなものをいじっている。
イネス「待って!」
エリナ「えっ?!」
主人公「イネスさん、大丈夫なんですか」
 だんだん、イネスを取り巻く光が消えていき、逆立っていたイネスの髪の毛も元通りになっていく。
イネス「驚かせてごめんなさい。急にメッセージの再生が始まってしまったものだから」
プロスペクター「なんか、キョーレツな機械みたいですな」
イネス「臨場感抜群。ヴァーチャルルームが大昔のTVゲームに見えちゃうくらいだわ」
アカツキ「ローコストで大量生産できりゃ、ボロ儲けできそう……」
 遺跡内の発光も収まり、イネスのそばの柱からプレートがせり出してきて、エリナの手の中に。
エリナ「あら」
 イネスの目の焦点が合いはじめる。
イネス「○○くん、今何時?」
主人公「えっ?」
 あわててコミュニケを見る主人公。
主人公「えーっと、太陽系標準時ですか、火星標準時ですか」
イネス「どっちでもいいから」
主人公「は、はい。じゃ、太陽系標準時で、×月×日の午後3時26分です」
イネス「しまった。もう始まっちゃうわね。もう少し早くわかればよかったんだけど」
主人公「なんのことです」
イネス「あのプレートのメッセージはこれから起こることを予告してくれていたのよ。本当なら1年以上も余裕があったのに、ことの起こる直前になるまで、それを知ることが出来なかったなんて」
セイヤ「これからなにが起こるって?」
 イネス、静かに微笑みながら、
イネス「とてもすばらしいことよ」
 イネスが言い終わると同時に、再び遺跡の壁面が輝きだし、少しずつ床が振動していく。
ユキナ「揺れてるーーー!」
ミナト「な、なんか段々せりあがっていってない?」
 プロスペクターのコミュニケ、ウインドウが開いて、ゴートの顔が大写しになる。
ゴート「どうしたっ! 何が起こってるんだ!!」
プロスペクター「いや、私たちにもまだわからないのですが、どうやら床ごと上昇していっているようでして」
ゴート「最下層部の床が上昇してるだと?」
アカツキ「そっちは何か変わったことはないの」
ゴート「遺跡上層部を幾重にも防護しているディストーションフィールドが次々に解除されていってる。とりあえず、我々警備班は遺跡の外に避難中だ」
イネス「賢明な処置ね。もうすぐ、この最下層部が地上に出ます。それまで、遺跡の外で待っていてください」
ゴート「なんだって?!」

○遺跡の外側
 警護班の人々を腕や肩に乗せた各エステバリスやジン・タイプなどが、遺跡の外にキャンプを張っているキャラバンに避難を続けている。
 遺跡の口の部分からは、内部のディストーション・フィールドが次々に解除されていき、その下から最下層部の天井がせり上がってくるのが見える。

○キャラバン
 1台のトレーラーの脇まで避難したゴートとジュン、遺跡を振り返って、
ゴート「これはいったい……」

○遺跡
 とうとうすべてのフィールドが解除され、最下層部が地表に姿を表す。最下層部の天井がドーム球場の屋根のように四方に割れ、中が見えてくる。

○遺跡内
 天井が開いていくのを見上げる主人公たち。
ユキナ「お外だ……」
セイヤ「あの深さを、一気に上ってきちまったのかよ」
 天井が開ききったところで、再び遺跡壁面の発光がおさまる。
アカツキ「イネスさん。まさか、これでおしまいってわけじゃないよね」
イネス「ええ。メインディッシュはこれからよ」
主人公「これがまだ前菜ですか。ちょっと恐いですね」
 と、そのとき、遺跡の外から銃撃戦の音が聞こえてくる。
 はっとして外を見る一同。
サブロウタ「(うんざりして)こんなときにまたかよ」
セイヤ「今度はどっちだー。地球側か、木連側か。せいが出るねえ」

○遺跡周辺
 キャラバンを包囲、砲撃を繰り返す月面エステ10数機。
男1(オフ)「どうやら、遺跡の謎の解明が進んでいるようですな、フレサンジュ博士。無駄な抵抗は止めて、すべてを我々に渡していただこう。我々は地球のため、ひいては正義のために行動している。そこのところを理解していただきたい」
 避けきれず、被弾して倒れていく警備班のエステバリスやジンを後目に、左右に散開して包囲網に切り込んでいくアキトの月面エステとリョーコたちの陸戦エステ3機。
リョーコ「なに勝手なことほざいてやがる」
アキト「遺跡の力を手に入れたら、また木連と戦争を始めようって腹だろう。そんな連中にイネスさんを渡せるか!」
ヒカル「そーだ、そーだーー!」

○遺跡内
アカツキ「ちょいと戦力差があるみたいだな。ボクもアキトくんたちを助けにいくか」
サブロウタ「そうですね」
エリナ「って、機体はどうすんのよ」
セイヤ「心配ご無用。こんなこともあろうかと、ちゃんとパイロットの人数分、機体は用意してあるのよ。ちょちょいとな」
 セイヤがコミュニケを操作すると、キャラバン内のトレーラーのうちの3台が自動的に走り出し、(なんと!)変形して空戦エステバリスになり(変形はめちゃくちゃでかまいません。ウソだし)、ジャンプ一閃、遺跡の中に飛び込んで、一同のそばに着地。
セイヤ「見たか。完全変形トレーラーバリス」
ミナト「(呆れて)ウリピー。いくらなんでも、こりゃないんじゃない」
エリナ「乗っても大丈夫なの、アレ?」
セイヤ「バカいえ。オレ様の作ったものに何の問題があろうや。ただし、IFS対応じゃないんで、手動で操縦しないといけないけどな」
ユキナ「でも、なんで3台あるの」
アカツキ「パイロットの人数分」
サブロウタ「だよな」
 アカツキとサブロウタ、じっと主人公を見る。
主人公「えー、ボクもアレに乗るんですかーー?」
セイヤ「なんか文句があんのか」
主人公「いえ。……行ってきます」
 それぞれエステに乗り込む主人公たち。

○エステバリスのコクピット
 両手で左右の操縦桿を握る主人公。
主人公「こんな操縦桿で動かせるのかなあ」
 ウインドウ開いて、セイヤの顔。
セイヤ「どうせIFS対応じゃおめえにゃ操縦できねえだろうが。細かい動きは機械が勝手にやる。おめえは大まかな方向と速度のコントロールをすりゃあいい」
主人公「りょーかい。よいしょ、っと」

○遺跡内
 次々に離陸する空戦エステ3機。

○遺跡周辺
 戦闘に参加する空戦エステ3機。
アカツキ「おまちどう」
サブロウタ「おいしいとこ、残しといてくれた?」
リョーコ「空戦部隊か。助かるぜ!」
 味方が増えて、一気に押し返していくナデシコ組。
男1「おのれえ」
 と、そこへ、今度は反対方向から現れるジン・タイプの大部隊。
男2「待て待て待てーーい! 人類の至宝ともいうべき『都市』の遺産を、貴様らのような矮小な輩に渡すわけには断じていかん。あれは、我々選ばれた優秀な人間が管理するのが、人類全体のためなのだ」
アカツキ「今度は木連の過激派かよ」
主人公「実にありきたりな悪役らしい台詞ですね」
サブロウタ「いや同朋としておはずかしい」
アキト「しかし、さらにあの連中まで相手をするのは、さすがにつらいですね」
ユリカ(オフ)「おーまかせーー!」
主人公「えっ?」
 上空から、グラヴィティブラストが降り注ぎ、木連過激派のジン・タイプ部隊の手前の大地を直撃、雪原を一瞬にして溶かしさる。

○ナデシコA
 空に広がる雲のあいだをぬって姿をあらわす新型機動戦艦ナデシコA!

○ナデシコAのブリッジ
 艦長席にユリカ。操舵席にルリ。通信にメグミ。
ユリカ「じゃんじゃじゃーーん。へっへっへー。真打ち登場なのだー。みなさーーん、すぐにケンカを止めないと、きつーいお仕置きですよーー」
ルリ「艦長。はしゃぎすぎです」
ユリカ「だってだってー。ほんと、やっと出番がまわってきたんですもの。がんばんなきゃー」
ルリ「私はあのまま出番がなくても、楽でよかったんですけど……」
メグミ「艦長、敵の皆さんから通信が入ってますけど……って、あたしなんかここまで出番なしよ、出番なし」
ユリカ「ほいほい。まわしてまわしてー」
 ウインドウが開いて、木連の忍者が映る。
男2「……どーゆーつもりだ!! 火星大気圏内では地球・木連両陣営とも宇宙戦艦の使用は禁じられておるんだぞっ!!!」
 もう一つウインドウがあいて、こちらには地球側の過激派が映る。
男1「卑劣なっ! 貴様らはそうまでして遺跡の秘密を独占したいのかっ!!」
ルリ「皆さん、自分のことは棚に上げて、論旨がめちゃくちゃですね」
メグミ「言えてる。宇宙船、使わなきゃ、何してもいいと思ってるのかしら」
ユリカ「まあまあ、メグちゃん。それより、こっちの回線も開けて」
メグミ「はい、どうぞ」
ユリカ「どもどもー。艦長のミスマル・ユリカ只今婚約中でーす。お二人の言い分はわかんなくもないんですけどー、うちって民間の船なのでー、地球軍と木連軍の停戦条約とは無関係なんですー。そんなわけだから、バンバン攻撃しちゃうつもりなんで、さっさと降伏してくださいね」

○遺跡周辺
 ナデシコAを見上げるジュンとゴート。
ゴート「(呆れて)おいおい」
ジュン「(泣きながら)ユリカ……」
 と、そのとき、全員のコミュニケにイネスの映像が割って入る。
イネス「はいはい。茶番はそこまで」

○イネスの映像を見る人々
 驚くゴートとジュン。ぼーっと見ているユリカたち。各コクピットの主人公やアキトたち、そして敵の男たちなど、点描。その間、イネスは喋りづめ。
イネス「いいですか。これから、太陽系規模の歴史的事件が起こります。それこそ、地球だ、火星だ、木連だ、なんて言っているのがはずかしくなるくらいの大事件がね。私が、子供の頃の自分からもらったプレートには、今日これからこの大事件が起こることを人類に伝えるメッセージが込められていたの。だから、くだらない忍者ごっこや戦争ごっこはやめて、こちらに注目!」

○遺跡内
 セイヤ、ミナト、ユキナ、エリナの見つめる中、イネスが話し続けている。
イネス「それでははじめましょう。『なぜなにナデシコ・スペシャル 超古代遺跡の謎と古代火星文明の秘密』 特に、○○くん。君はちゃんと話を聞くように!」

○主人公機コクピット
主人公「ぼ、ぼくですか?」

○遺跡内
 例によって例のごとく、急に「なぜなにナデシコ」のタイトルバックが流れる。
セイヤ「あー、ゲームだからもうないと思ってたら、まただよ」
イネス「古代火星文明。今まで私たちはそう呼んできたけど、それでは古代火星人とはいかなる生命体だったのか。エリナさん、あなたはどの程度、知ってるの」
 突然指名されてあわてるエリナ。
エリナ「えっ、私?」
イネス「今回は、バカうさぎもガキおねーさんもいないから、あなたたちにがんばってもらいます。よろしく」
エリナ「よ、よろしくって。……えーっと、どういう形態をしていたかを示すデータはなんにもないのよね。だって、家具とか生活を思わせるものが何にも出土してないんだもの。ただ、遺跡内の通路の大きさや、イネスさんがもらったプレートのサイズから考えて、体の大きさは我々人類とあまりかわらないんじゃないかという推測だけはできるわ。でも、何を食べてたかとかは皆目不明。それどころか、酸素呼吸していたかどうかも怪しいところね」
ユキナ「えー? じゃ、古代火星人は息しなくてもよかったってこと?」
イネス「そうは言わないけど、木星のガス雲の中やテラフォーミング前の火星でしか彼らの遺跡が発見されていないことを考えると、酸素呼吸生命だとは思えないわね。ただし、それは彼らがこの太陽系内で進化したと仮定した場合の話だけど」
ミナト「なに、それじゃ古代火星人って、他の太陽系から来たっていうの?」
イネス「そうよ」
 イネス、いつの間にか背後に置かれている白板に描かれた太陽系の図を見ながら、
イネス「今回、木連の資料を見せてもらって初めてわかったんだけど、木星にある遺跡のほうが、火星のものよりも古いのよ。つまり、古代火星人たちは、まず太陽系外から木星に飛来し、そのあと、火星に移住したと考えた方が自然でしょう」
セイヤ「じゃあ、古代火星人てのは、どっかよその太陽系から、ボソンジャンプでぼーんと飛んできたってことかい」
イネス「というわけにはいかないのよ」

○チューリップから出てくる無人艦隊(TV1話のOP?)
イネス(オフ)「ボソンジャンプは、チューリップからチューリップに向かって行うか……」

○ボソンジャンプするアキト(TV13話)
イネス(オフ)「コントロールしている者のイメージした場所に行くかしかできない。イメージングが曖昧だと、ナデシコみたいに地球に帰り着くまで8ヶ月もかかったり、アキトくんみたいに2週間前の月に飛び出したりしちゃうわけ」

○アキト機コクピット
 顔を赤らめるアキト。
アキト「あちゃー。それでかぁ」

○宇宙を行く無人艦隊
イネス(オフ)「だから彼らは、まず目的地に向けて、亜光速で進む無人艦隊を送り込み……」

○木星のガス雲の中にある巨大な工場
イネス(オフ)「資源のある惑星に到着したところで工場を建設……」

○テラフォーミング前の真っ赤な火星に建つ都市(=遺跡)
イネス(オフ)「居住可能な惑星に都市と大規模なボソンジャンプの制御装置を作り上げてから移住を行う。そうやって星から星へと版図を広げていたのよ」

○遺跡内
セイヤ「そりゃずいぶん悠長な話だねえ。一番近い恒星からだって、太陽系から光速で何年もかかる距離なんだぜ。無人艦隊がこの太陽系に到着するのを待ってるあいだに、何百年たっちまうか、わかったもんじゃねえ」
ユキナ「古代火星人は、ものすごーい長生きだとかとか?」
イネス「非常にいーい質問だわね、ウリバタクくん」
セイヤ「は、はは」
イネス「でも、あなたもユキナちゃんも、ボソンジャンプのもう一つの特性を忘れているわ」
セイヤ、ユキナ「もう一つの特性?」
エリナ「あ、わかった。時間移動だ」
イネス「そう。目的地の用意が整うまでの時間を予測して、その時間分未来に向けてボソンジャンプすれば、本人たちはいっさい年をとらずに目的地に到着できるでしょ」

○ナデシコAのブリッジ
 退屈そうなユリカ
ユリカ「イネスさーん。本題はまだですかー。大事件っていつ起こるのー?」

○遺跡内
 怒りにひきつるイネス
イネス「あいかわらず鈍い子ねー。じゃ、あなたに聞くけど、どうしてこんな高度な文明を築いていた古代火星人が、今じゃいくつかの遺跡を残しただけで影も形もなくなっちゃったの?」

○ナデシコAのブリッジ
ユリカ「えーと、えーと。……どっかにいなくなっちゃったから!」

○遺跡内
エリナ「そりゃ、そのまんまやがな!」
イネス「はい、正解。あいかわらず、おバカなわりには妙に冴えてるわね、艦長」
エリナ「え?!」
ミナト「あ、わかった。また、別の星系におんなじようにして行っちゃったんだ」
イネス「そう。プレートのメッセージによると、私たちの太陽系は単に本当の目的地に向かうための停留所にすぎなかったらしいの。そして彼らは、次の停留所に向けてまた無人艦隊を送り出し、準備が出来た頃合いを見計らって、未来に向かってボソンジャンプしたの」

○遺跡上空
 いきなり大気中に放電が起こり、雲がちぎれて、風が巻き起こる。そして、遺跡の真上に丸く真っ黒な時空の孔がぽっかりと口を開く。

○主人公機コクピット
主人公「あ、あれは? なんだか、とても懐かしいような……」
 主人公の目の前に突然、半透明のイツキの姿が現れる。
イツキ「そう。思い出して。あれが何か。あなたが何者か」
主人公「き、きみは……?」

○遺跡内
エリナ「なるほど。つまり、その大ボソンジャンプで過去から古代火星人たちがやってくるわけね。今、ここに」
ミナト、ユキナ、セイヤ「えーー?!」
 イネス、静かに微笑み、
イネス「そうよ。そして、ここから別の太陽系へとジャンプするためにね」

○遺跡上空
 時空の孔の向こう側に、赤い火星の姿が見え、中から、一隻、また一隻と古代火星人の宇宙船が姿を現してくる。
 そして、その下には巨大なイツキの立体映像がどこからともなく映し出される。
イツキ「皆さん、落ち着いてください。彼らは皆さんに何の危害を与えるつもりもありません」

○木連過激派
男2「き、きさまは何者だ!」

○遺跡上空
イツキ「私は、地球連邦軍第103独立部隊所属艦ナデシコの戦闘パイロット、イツキ・カザマです」

○木連ロボットにしがみつくイツキ機(TV13話)
イツキ(オフ)「私は戦闘中に木連ロボット兵器の時空跳躍に巻き込まれ、時空の狭間をさまよっていたところを、彼ら異星人に助けられました」

○遺跡上空
イツキ「この時代に向けて時空跳躍を計画していた彼らは、私たち人類が彼らの装置を使って不完全な時空跳躍を繰り返し、小規模なタイムパラドックスを起こしては時空連続体にダメージを与えていることを知り、我々への注意と、自分達の接近を告げるため、いくつかの方法を選びました」

○イネスにプレートを渡そうとするアイちゃん(TV26話)
イツキ(オフ)「メッセージを記録したプレートを、やはり跳躍に巻き込まれた少女に渡したり……」

○ナデシコ艦内に現れる主人公
イツキ(オフ)「自分達の使者を直接人類の元に送り込んだりしたのですが……」

○主人公機コクピット
主人公「(呆然と)ぼ、ぼくは……そうだ、ぼくは!」

○水槽のようなもの
 内部をスキャンするように上下左右にレーザー光線が走り、水槽内に少しずつ人型が形作られていく。
主人公(オフ)「ぼくは、人類を元にして作り出されたシミュラクラだったんだ」

○遺跡上空
イツキ「今の様子を見ると、どれもうまくいかなかったようですね。ともあれ、彼らはこれから別の星系へと去っていきます。残していく装置を我々人類が使うのは自由ですが、今回の大跳躍の前後数年は、その影響で跳躍に誤差が生じるので、注意するようにとのことです」

○遺跡内
イネス「このあいだからのジャンプのずれは、それが原因だったのね」
エリナ「前後数年って、今頃言わないでほしいわ」
セイヤ「よかった。オレたちのせいじゃなくて、ほんとによかった」
プロスペクター「賠償金、ゼロ。やれやれ」
イネス、エリナ「はあ?」

○遺跡上空
 すべての宇宙船がこちらの世界にやってくると、時空の孔は一旦また真っ暗に なってから、今度はどこか遠い惑星の平野を映し出す。風になびく蒼い草のようなものに覆われた見渡す限りの平原である。そして、ふたたび宇宙船が一隻、また一隻と孔を通って向こうの世界へとジャンプしていく。
イツキ「彼らの最後の忠告です。跳躍装置は未来に向かってならいいですが、過去にさかのぼる方向に使用しないこと。それから、今回開けた跳躍門は、銀河系内にある他のすべての門に向けて跳躍可能ですが、数百を越える銀河系内の知的生命体の中には、粗暴なものも多いので、接触には細心の注意を計ること、だそうです」

○呆然とする人々。
 敵の男1、男2、そして、ゴートやジュン、ナデシコのユリカたちなど、呆然としているみんなの顔のアップをマルチで。
男1「ぜ、全銀河に」
男2「数百、だと」
ユリカ「ひょえー」

○サブロウタ機コクピット
サブロウタ「計ること、って、君なあ」

○アキト機コクピット
アキト「向こうから来ちゃったときはどーすんだよ?」

○アカツキ機コクピット
アカツキ「いきなり銀河市民の仲間入り、か。こりゃ確かに内輪で戦争なんかしてる場合じゃないね。エリナくん、至急重役会議招集して。人類の夜明けだ、夜明け!」
エリナ(オフ)「はいはい」

○主人公機コクピット
イツキ「あなたはどうします? 彼らと一緒に行きますか?」
主人公「ぼくは確かに本物の人間じゃないかもしれない。でも、彼らの仲間でもないんだ」
イツキ「(微笑んで)いいえ。あなたは人間ですわ。彼らは遺伝子の一欠片にいたるまで正確に複製したんですもの。それに、なによりあなたがお友達のことを思う気持ちは、人間の心以外の何ものでもありませんもの」
主人公「ありがとう。……ぼくは、……ここに、いるよ」

○遺跡上空
 最後の宇宙船が跳躍し、時空の孔が消えていく。イツキの映像も消えていく。

○遺跡内
 イネスたちのよこに、光が現れ、中からイツキが歩み出てくる。
イネス「お帰りなさい」
 にっこり微笑むイツキ。と、そのコミュニケのウインドウが次々に開いていく。
リョーコ「ばっきゃろー、新入り。生きてるんならもっと早くに連絡しねえか!」
ヒカル「おめでとー、よかったねー」
イズミ「めでたいめでたい」
ユリカ「ねえねえ、火星人さんってどんな顔なの。やっぱりタコさんみたいなの」
ルリ「バカ……」
 とかとか……
イネス「やれやれ」

○主人公機
 着地し、コクピットのハッチを開いて主人公が出てくる。さわやかな笑顔。
主人公「ぼくは、人間、か」
 コミュニケのウインドウが開き、アキトの顔が映る。
アキト「○○くん。みんなをナデシコに乗せるの、手伝ってよ。せっかくみんなそろったんだし、今夜は派手にやろう」
主人公「はい!」
 再び、ハッチを閉じ、飛び上がる主人公機。その頭上には、ナデシコAが悠然と浮かんでいる。

<完>


シナリオに戻る
福袋に戻る
トップに戻る