南海奇皇(ネオランガ)
第33話「大阪城大攻防戦(前編)」


【『南海奇皇(ネオランガ)』は、企画当初から會川さんに話を聞き、上がってくる脚本を見せてもらって、「1本書かせて!」と頼み込んだ作品。『ナデシコ』から『ヒオウ』へと続く、會川昇脚本3部作の中核をなす作品でもある。「正義とは何か」を真剣に考察しつつ、『ジャングル黒べえ』と『男たちの勲章』と『神々の埋葬』をごった煮して、主役に美女三姉妹を据えてみせるという一筋縄ではいかない作りに、會川さんの本領が発揮されている。作品全体、およびこの話数については、LDのライナー用に書いた原稿があるので、そちらも参照していただきたい。なお、本作は1話10分強で、2話で通常の30分番組1話分という変則的な作りのため、33,34話の2話で一つの話となっている】

第5稿

【登場人物】

島原海潮
島原魅波
島原夕姫

中里みづき
清家絢

ジョエル

鉄隼人
天城エリナ:鉄の副操縦士
原翔子:一川の副操縦士
一川穂波:正操縦士

竹末芳幸
本谷佳織:整備班
伊地知沙希:整備班

大淀定子(大阪府知事)
坂井健人(大阪府職員)

高畑涼子(陸上自衛隊一佐)

ナレーション


○山の中(昼間)
  テロップ「奈良県生駒山中」
  太い木々が立ち並ぶ森の中。立っているエース。その前では背広姿の男たち(虚神会)が数人、地面に掘られた穴の中に入り、手に手に怪しげな実験器具やメスなどを持って、穴の中に置かれた人型のミイラのようなものをいじっている。それを穴の脇に立って見つめている竹末。その背後に、倒された古い石碑がちらりと見えている。ニヤリと笑う竹末。
竹末「フ……」

○エースのコクピット
  佳織と沙希が搭乗している(佳織が正操縦士)。
佳織「あーあ、あたしたち、整備班なのに」
沙希「さっさとパイロット入れて欲しいよね」
佳織「ほんとほんと……、あれ?」

○奈良県生駒山中
  突然、ビクビクと人型が震えたかと思うと、内側から緑色のアメーバのようなものが流れだしてくる。それは、またたくまに穴を満たし、男たちを呑み込み、木々をなぎ倒しつつ、画面一杯にひろがってくる。エースも、この虚神に呑み込まれていく。ハッチ(って、あるの?)を開け、とっとと逃げる佳織と沙希。
  悲鳴をあげながら必死に逃げていく竹末。
竹末「うわああああああ!」

○島原家(昼)
  居間でだらだらしている海潮、みづき、絢。TVを観ている夕姫(退屈そう)。そこへ入ってくる魅波。
魅波「なーに、あんたたち。いい若いもんが日曜だってのにこんなとこでゴロゴロと」
海潮「だーって、吉祥寺に出るのにもパスポートいるし、面倒なんだもーん」
絢「そこで吉祥寺と言うか、しかし」
海潮「国分寺ならいいわけ?」
絢「あんたね」
  突然、泣きが入るみづき。
みづき「あー、ほんとなら今頃、北大の並木道で愛の告白をしていたはずなのに……」
海潮、絢「誰に?!」
魅波「話が見えないんだけど……」
  夕姫、振り返りもせず、
夕姫「修学旅行よ」
魅波「……そうか。(絢とみづきに)ごめんね」
みづき「い、いえ、そんな」
絢「そうそう。一応、日本相手に冷戦中なわけだし」
  一気に暗い雰囲気になったところに、電話が鳴る。
魅波「はい、島原ですが……はあ? 大阪府庁?」

○大阪府庁 府知事執務室
  窓際の大きな机の前で、受話器を持ってうろうろ歩きながら笑顔で電話をしている小柄な女性(定子)。そのまわりでは健人ら背広姿の男性職員が数人、おろおろしながら見守っている。
定子「(すごい早口)府知事の大淀でございます。突然の電話ですんませんが、どないしてもお願いしたいことがありまして。」

○島原家
  当惑して生返事をしてしまう魅波。
魅波「はあ……親……善大使……ですか。しかし、うちは日本とは一応対立関係にありますので」
  定子、大声で話しだし、魅波は思わず受話器から耳を離す。定子の声はまわりにいる海潮たちにもまる聞こえ。
定子(オフ)「かましません、かましません。そんなもん、お上が勝手に決めよっただけですがな」

○大阪府庁 府知事執務室
  定子、興奮して顔が真っ赤。
健人「(ぼそっと)あんたも、その与党の政治家でんがな」
  きっと定子ににらみつけられ、首をすくめる健人。再び笑顔で電話に向かう定子。
定子「一般庶民は誰も戦争なんかしたありませんて。ここはひとつ、地方自治体レベルで国際交流ちゅうことで……」
  延々としゃべり続ける定子。

○交番
  パイプ椅子に腰掛けたまま、ぼーっと外を見ている制服姿の鉄。
N「人一倍正義を信じているからこそ、彼は自らの正義を法の下に規定したはずだった。その自分が、結局私的な正義のために日本の法からはみ出してしまったことに、このときの彼はまだ迷いを拭えないでいた」
  電話が鳴る。受話器を取る鉄。
鉄「はい……」
竹末(声、ボイスチェンジャーで変えてます)「もしもし、エース部隊の方ですか。助けてください。虚神会とかいう連中が奈良の山奥で古い神さまを起こしてしまって……」
鉄「(あきれて)あんた。竹末だろ」

○島原家
  ぐっと身を乗り出している海潮。
海潮「行くっ。大阪、行きたいっっ」
  受話器の通話口を手で押さえている魅波。
魅波「あんた、めずらしく積極的ね」
夕姫「この目は、なんかバカなこと考えてる目ね」
海潮「修学旅行は大阪にけってーーーい!」
みづき「え、あたしたちも行けるの?」
海潮「みんな、バロウ国民なんだから、親善使節ご一行っつうことで、費用は全部あっち持ちってのはどーだ!」
絢「その手があったか!」
魅波「うーーん。でもそうなると経費がかかるから報酬の方はあんまり期待できなくなりそうよねえ……」
  浮かれまくる海潮、絢、みずき。ちょっと目がいってる。受話器を手で押さえたまま考え込んでいる魅波。
夕姫「おいおい。マジで考え込まないでよ」

○高速道路(夕方)
  エースを載せ、西に向かって突っ走る大型トレーラー。
エリナ「ほんっと、バカね……」

○トレーラーの運転席
  ノリノリで運転している鉄。隣にエリナ、後ろに翔子と穂波。
エリナ「竹末に頼まれてノコノコ出ていくなんて。罠だったらどーすんのよ」
鉄「罠だろーが誰の依頼だろーが、そこに悪がある限り、正義を為すのは当然だろう」
  あきれてモノも言えないエリナ。

○高速道路(夕方)
  エースを載せ、西に向かって突っ走る大型トレーラー。
N「東京大阪間は高速道路を使って約8時間。奈良に行くにはそこからさらに数時間を要した」

○山の中(深夜)
  虚神をいじっていた森から少し離れた丘に、自衛隊の対策本部(といってもテントがいくつかとジープやトラックが数台あるだけ)がある。それらの脇にエース部隊のトレーラーも停まっている。

○エース部隊トレーラー脇
  エリナと翔子が立っているところへ、佳織と沙希がやってくる。
沙希「(明るく)おっひさーー」
エリナ「(冷ややかに)なんか用?」
沙希「あー、冷たいじゃなーい」
翔子「あんたたち、いつまで竹末なんかにくっついてんのよ」
佳織「だって今さらそっちに行くとなると、亡命だなんだって大ごとじゃない」
沙希「大体、あんたたちが大胆すぎんのよ」
エリナ「ほっとけ。で、何なんだよ。まさか、旧交を温めに来たとかって言うなよな」
佳織「隊長くんが竹末さんに交換条件出したのよ。エースの完全整備と備品補充」
翔子「おお、鉄くん、偉いじゃん」
エリナ「正義バカにしちゃ上出来か」

○対策本部テント
  中には一応ランプがついているが、隅の方は薄暗い。鉄、穂波、竹末、自衛隊の士官(涼子)がいる。涼子は険しい表情をした三〇半ばのきつめの美人。
  竹末、鉄の方を向いて、
竹末「新しい虚神の復活に、少しばかり計算違いをしてしまってな」
鉄「どうせ余計なものくっつけようとしたとか、そんなのだろ。このマッド・サイエンティスト」
竹末「(生真面目に)ランガに勝つためには、虚神とランガの違いをなくすところからだと思ったんだが」
穂波「ランガと虚神の違い?」

○ランガ、再生中の図(四話?)
竹末(オフ)「そう。ランガと虚神の基本的かつ最大の違いは、その自己修復能力だ。ランガは腕がもげようが腹が裂けようが、平気で復元してしまうだろう」
鉄(オフ)「おお」
竹末(オフ)「あれはランガの体を構成している一種のサンゴのようなものが、猛烈な勢いで光合成を行って新陳代謝をおこなえるからだ」
穂波(オフ)「虚神にそれを応用したのね」
鉄(オフ)「何がいけなかったんだよ?」

○生駒山中(深夜)
  真っ暗な中、ぶよぶよしたゼリー状のもの(虚神)が、木々の間に平べったく広がっている。半分埋もれてしまっているエースや虚神会の男たち(みんな生きてますが、とりもちみたいにくっついちゃってて、抜け出れずにいます)も見える。
竹末(オフ)「太陽光を浴びて、どんどん光合成を始めてしまってな。不定形のまま増殖してとまらんのだ」
鉄(オフ)「げげ。『人食いアメーバの恐怖』かよ」
竹末(オフ)「食わん食わん。ただ、このままじゃ無限に増殖していって、日本を覆い尽くしてしまうかもしれん」

○対策本部テント
鉄「燃やしちまえ、そんなの」
涼子「(ぴしりと)山火事をおこすつもりか。自分は、君のような民間人の作戦参加を認めているわけではないのだということを、肝に銘じておいてもらいたい」
鉄「竹末、いや虚神会に振り回されて、ご苦労さんだな」
涼子「(こわばった口調で)自分は職務を忠実に遂行するだけだ」
鉄「(にやりと)あんた、ちょっと前までのオレに似てるね」
涼子「な……!」
  そこへ兵士が入ってくる。
兵士「タンク車隊が到着しました」
鉄「タンク?」
涼子「液体窒素車だ」
竹末「零下100度まで冷やせば細胞が壊死する。日が昇って光合成が再開する前が勝負だ」
鉄「よおし、いっちょ行くか。名付けて<虚神冷凍作戦>!」
穂波「まんまやがな」

○テント前
  作戦準備を始めるエース部隊と自衛隊。
  タンク車から直接ホースをエースにつないでいる自衛隊の兵士たち。エースを起動する鉄と穂波など点描。ここからは戦争映画っぽく勇壮に。
  全員、準備が終了して整列する。
  テントから出てきた涼子、全員に向かって大声で、
涼子「作戦開始。全隊、二列縦隊で前進!」

○テロップ
  でっかく一面に「虚神冷凍作戦開始」

○森の中
  横一列で虚神に迫っていく自衛隊とエース。兵士たちはエースの背後について、ホースが絡まないように数メートルおきにホースを持っている。隊列の真ん中にいる士官、トランシーバーに向かって命令。
士官「窒素放散開始」

○テント前
  タンク車脇の兵士、バルブを開く。
兵士B「放散開始」

○エース1号機のコクピット
鉄「放散開始」

○エース2号機のコクピット
穂波「放散開始」

○森の中
  一斉に液体窒素を虚神に放射するエース二機。窒素のかかった虚神の表面、白煙を上げながら、色を変え、ボロボロ崩れていく。
  奥の方から、つかまったままの虚神会の男たちの声。
男「おーーい、早く助けてくれー」

○テント内
  モニターで作戦の状況を見ている涼子、竹末。
竹末「よおし。成功だ。組織の崩壊が始まった。……やれやれ。東京に戻ったら、今回の始末をどうつけるか」
涼子「安心するのは状況が終了してからにしていただきたい」
穂波(オフ)「目標、移動を始めました」
竹末・涼子「なに?!」

○森の中
  虚神、アメーバ状の体を震わせながら少しずつ森の奥の方へ逃げていこうとする。
  虚神が動いたせいで助け出される、つかまっていた自衛官たち。
  あとを追うエース。
  木々の間を縫うように虚神を追いつめる二体のエース(背後には、ホースが絡まないように数メートルおきに兵士がついている)。
  虚神、ついに逃げるのを止め、一カ所にかたまってしまう。

○エース1号機のコクピット
鉄「よおし、観念しな」

○森の中
  一気に放散するエース2機。
  真っ白になって固まっている虚神。近づいていくエース。マニピュレーターを伸ばして虚神に触れる。
  すると、皮がばらばらとくずれていき、内側が空洞になっており、地面に穴が開いているのが見える。

○エース1号機のコクピット
鉄「なにい!」

○テント内
  竹末につめよる涼子。
涼子「どういうことです?!」
竹末「地面を掘って逃げるとはな」
涼子「どこへ向かったんです?!」
竹末「もっと光合成に適した場所。広くて水が豊富にあるところだろう」
涼子「というと」
  竹末、作戦室の壁の地図を、生駒から西に(左に)すっと指でなぞり、
竹末「大阪、だな」

○校庭(朝)
  海潮ら生徒たちを乗せたバスが出ていく。それと同時に、校庭から空に飛んでいくランガ。魅波とジョエルが見送っている。
ジョエル「大阪というところまで、あのバスで行くんですか」
魅波「車じゃ遠すぎるわよ。東京駅から新幹線なの。向こうに着いたら専用バスを用意してくれてるんだって」
ジョエル「それって、お金かかりませんか。このあいだ、TVで大阪府は赤字で大変だとか言ってましたけど。なのに、バロウとの親善にそこまでしてくれるなんて……」
  一人で感動してるジョエル。
  ぎくりと不安になる魅波。

○走っているバス
  窓から顔を出している笑顔の海潮。
海潮「おおさか! たこやき! くいだおれー!!」

(200字詰め原稿用紙36枚)


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