〔医療にやさしいコンピュータ〕番外編
使ってみましたインターネット
モダンメディア,44/8,pp263(23)-270(30),1998

藤谷 誠 /清水国際特許事務所
e-mail makotof@kt.rim.or.jp


はじめに
 2月号からスタートしたこの連載も、7月号をもって当初の予定の6回を終えた。連載を通じて、インターネット上の各種の情報を利用することや、あるいは電子メールを使ったコミュニケーションについては、簡単にではあるが紹介できたものと思っている。
 今回は、今までに紹介してきたことの総集編として、インターネットを利用した情報収集の様子をレポートしてみようと思う。テーマにはダイエットを考えてみた。カロリーの計算や、インタラクティブなメニュー作り、更には単なる情報探しだけでなくデータやソフトウエアを手に入れて活用する場面まで触れる予定である。

I.今回のテーマはダイエットだ
 ダイエットをテーマにインターネットを使う、と言っても漠然としすぎていて先に進めない。そこで、連載を通じて何度か登場した検索エンジンを利用し、どのようなリソースが有るのかを見ながら紹介を進めていくことにする。検索されたリソースの中から、インターネットのさまざまな可能性を説明するのに向いている情報源に触れる形で進めたい。
 なお、今回の目的はあくまでもインターネットを実際に利用している様子のレポートである。ダイエットはそのサンプルにすぎないので、現実にダイエットを心がけておられる方にとって有用な内容になるとは限らないことを念のためお断りしておく。自分に必要な情報は、必要としている人が自分で探すのが最も確実なやり方である。この連載をきっかけに、インターネットの世界に足を踏み入れる方が一人でも多く誕生することになれば幸いである。

1.まずは検索エンジン
 とりあえず、インターネット上のダイエットに関する話題にどのようなものが有るのか、検索エンジンを使ってざっと眺めてみることにした。検索エンジンには、連載2回1)で紹介したgooとinfoseek Japanを使う。また比較のためにディレクトリサービスであるYahoo Japanでも調査を試みた。そこで見つかった情報源やリンク集をたどり、各種のリソースを渡り歩いてみる。
 gooとinfoseek Japanを別々に検索するのも良いが、複数の検索エンジンを使うにはEasySEARCHのようなメタサーチが便利なことも連載2回で紹介したとおりだ。しかし「ダイエット」のように商業的な目的で使われることの多い言葉で検索を行うと、検索エンジンでは膨大な数の情報がリストアップされる。goo、infoseek Japan、いずれの結果を眺めても、ダイエット食品やダイエットをうたい文句にした各種の健康器具の通信販売らしき情報が多い。また、個人のダイエット挑戦記録のように見せかけて商品のPRをしているものもある。どうも「ダイエット」というキーワードを使うことには問題がありそうだ。
 そこで今度は「肥満」をキーワードにしてみた。自分の必要なリソースに検索エンジンで直接たどり着ければ言うことはないが、現実にはいつもスムーズに行くとは限らない。こうして試行錯誤を繰り返して目的の情報への手がかりを集める。あるいは更に他のキーワードを加えてリストを絞り込むといったアプローチを試みる。そうして、何らかの手がかりを見つけ、そこから発展させていく形となる。「肥満」というキーワードでリストアップされたリソースを眺めてみると、「ダイエット」による結果に比べればはるかに学術的な情報が多そうである。
 ところで検索エンジンを使って、ダイエットや肥満といったような一般的な用語を検索すると、どうしても該当件数が多くなってしまう。こんな漠然としたテーマを目的としているときには、Yahooに代表されるディレクトリサービスを利用すると効率的なことが多い。ディレクトリサービスについては、連載2回でも検索エンジンの紹介と合わせて簡単に説明している。つまり、一定の分類に沿っていろいろなリソースをカテゴリーにまとめて提供するのがディレクトリサービスである。ためしにYahooのホームページ(http://www.yahoo.co.jp/)にジャンプしてみよう。「健康と医学」というディレクトリの下に「ダイエット」というサブカテゴリが見える。ここをクリックすれば、ダイエットに関するリソースの一覧が簡単な説明付きで表示される。検索エンジンでは1万件のオーダーだったものがYahooでは40件に絞られており、たいへん探し易いことは確かである。今回のように、テーマに合ったカテゴリがYahooに見つかれば、検索エンジンの膨大な検索結果を相手にするよりは簡単に目的の情報にたどり着けるかもしれない。
 またYahoo Japanには「USAの同一カテゴリへ」といったユニークな機能が用意されている。この機能は、Yahoo USAの対応するページ、つまりアメリカのダイエットに関する情報をまとめたページにジャンプするためのものである。ダイエットに限らず他のカテゴリーでもこの機能は提供されている。日本語でYahooのカテゴリを探して、最終的に必要なカテゴリにたどり着いたところでアメリカの同一カテゴリへジャンプという使い方をすると、適切なカテゴリを日本語で探すことも可能である。この他、予め情報を絞り込んだ上で調べるという点では、テレコムサーチにも便利なサービスがある。ダイエット関連情報を対象にした検索ができるのである(http://www.odn.ne.jp/search/category/1006.04.html)。ここでは、単に「パン」だけで検索しても、ダイエットに関連する情報しかリストアップされない。

2.何が見つかる? 検索エンジンgoo、infoseek Japan、あるいはディレクトリサービスであるYahoo Japanによる「ダイエット」と「肥満」というキーワードで得られたリソースの数は、表1に示したとおりである。この数には、ドキュメント(文書)、データ、ソフトウエア、あるいはリンク等、あらゆる種類の情報が含まれている。ただ、数そのものにはそれほど大きな意味は無い。重複も多いし、既に無くなっている情報にも遭遇する。インターネット上のリソースが情報発信者側の都合で内容が変わったり、あるいは存在そのものさえ保証されていないことは先に述べた。そんなリソースを相手にするのだから、数の大小で比較することに意味の無いことはご理解いただけるだろう。星の数ほどあるリソースの中から、自分にとって必要な情報を見つけ出すのが目的なのだから、1万件2万件という該当件数は、その全てを見ることができないという点で、既にあまり意味の無い数字なのである。ただ今回は、どのようなものがあるのかをざっと眺めてみることが目的なので、これらの該当リストの中から適当なものをピックアップすることにした。 なおYahoo Japanでは、ダイエットというカテゴリーに40件のリソースがまとめられていた。この他、がんや病原性大腸菌OL157等、各種疾患に関連する情報をトピックスごとにまとめたページ等にも当たってみたが、特に肥満を中心にまとめたページが見当たらなかったのでそれ以上の調査はしていない。
 さて、それではインターネットやコンピュータの利用に関して、その可能性を紹介する題材として適当なサイトをいくつか選んでみよう。

3.体重の変化を公開!
 このサイトでは、登録したメンバーの体重をグラフで表示するサービスを提供している。もちろんメンバーの実名は公開されないし、グラフを見ているだけでは実在する人物かどうかも定かではない。とはいえ、もしも自分がダイエットを志しているときに、こうした形で自己申告した体重がグラフとなりインターネットを通じて世界に発信されると、確かに励みにはなるような気はする。いや、誰に見られているかわからないかと思うと、それだけで身が細るという意見も出てきそうである。体重の公開がダイエットに役立つかどうかは別として、リアルタイムな情報公開を実現するツールとしてインターネットが有用であることを示す良い例だろう。このような特徴を利用して、荷物がどこにあるのかをインターネット上でリアルタイムに利用者がチェックできるサービスを提供する運送業者が実在する。

4.BMI指数の計算
 BMI指数(体格指数とも言われるらしい)とは、肥満の度合いを定量的に示す指数である。身長と体重の数字を元に算出される。自分のBMI指数を知りたければ、自分で式にしたがって計算すればよいのだが、計算式だけを見せられて雑誌の余白に鉛筆で計算してみるには少々複雑である(BMI=体重(kg)/身長(m)2)。このページでは、必要な値を入れるとBMI値がすぐに表示される。「肥満度チェック」という女性がヘルスメーターに乗っているアイコンをクリックすると計算のためのページが現れる。類似のサービスを提供しているページに、標準体重と肥満度の計算をしてくれるものもあった。さて、自分の標準体重がわかったところで、計算といえば次に気になるのはカロリーである。
 肥満度や標準体重だけでなく、これらの数字を元に基礎代謝の計算までやってくれるページがある。基礎代謝とは、生きていくために最低限必要なエネルギー、簡単に言うとじっとしているだけでも消費するエネルギーのことで、身長、体重、年齢、体表面面積等の数値から算出される。筆者がこのような知識を持っていたわけではなく、このページで仕入れた知識である。計算の過程をわかりやすく示してくれるので、どのような要素が基礎代謝に関連するのかが良くわかる。このように、単に予め用意された内容を見せるだけでなく、利用者側が何かを入力し、それに応じた動きを提供できることもWebの可能性のひとつである。
 インターネットでは計算だけでなく、データ検索も実現できる。「最高のレシピ」では、いろいろな料理のレシピを提供しているのだが、料理の名前、口当たり、対象年齢、時間の別などと並んでダイエットメニューという検索項目も見られる。こういった使い方を発展させると、たとえば家の新築を考えるときに希望の間取りと予算を入れれば標準的な設計図が得られたり、旅行行程の相談や、髪型のシミュレーション等も可能だろう。
 自分の消費カロリーがわかったら次は食べる方である。食品のカロリーをわざわざインターネットで調べる必要も無いかもしれないが、おもしろいものを見つけたので紹介しておこう。コンビニエンスストアやファミリーレストランのいろいろな食品のカロリーを、ことこまかに記録したページがある。「○○乳業の○○ヨーグルトが126kcal」といったぐあいである。ローカロリーをうたう食品が多いので、こういった比較ができるのは確かに意義のあることかもしれない。総評として、実際に食べた感想も書かれているのでなかなか楽しめるページである。

5.インターネットでソフトウエアを手に入れる
 インターネットを利用すれば、情報のみならずソフトウエアも入手できる。この連載向けにダイエットに関連するソフトウエアのダウンロード(『いろはの"い"』参照)はできないかと探してみたところ、「超簡単ダイエット手帳」というWindows95用のシェアウエア(後述)が見つかった。このソフトウエアをダウンロードして、使ってみるところまでを簡単にまとめる。

 「超簡単ダイエット手帳」はhttp://hp.vector.co.jp/authors/VA011036/nsf_dl.htmlに記録されている。ダウンロードを始める前に、このページを印刷しておくことをお勧めする。ダウンロードした後の操作がこのページに説明されているので、不慣れな方は印刷しておくと安心である。そのコンピュータで利用できるプリンタが接続されていれば、ブラウザのファイル(F)メニューから印刷(P)を選べばページ表示されている画面が印刷される。画面がカラフルだからといって、カラープリンタである必要はない。黒しか印字できないものでも文章部分を読むことは可能である。ダウンロードはクリックするだけで始まってしまうので、おそらくあっけなく終わってしまうものと思われるが、具体的な操作を『いろはの"い"』にまとめてみたので心配な方は参照されたい。
 さて、こうして自分のコンピュータに転送した「超簡単ダイエット手帳」はnwver160.exeというファイル名で保存されている。nwver160.exeは、自己解凍型書庫と呼ばれる冷たそうなファイル形式になっている。これは、nwver160.exeを動かす(通常は"実行する"と表現する)ことにより、複数のファイルが生成することを意味している。このように複数のファイルを1つのファイルに押し込んだものをアーカイブ(archive;書庫、『いろはの"い"』参照)と呼んでいる。適当なフォルダを作ってnwver160.exeをコピーし、ダブルクリックすればそれだけで11個のファイルが現れる。図1に復元前後のフォルダの内容を示した。この例では、C:\program files\体重というフォルダで復元したときのようすを示している。「超簡単ダイエット手帳」は、このまま使うことができる。"DAIET"と表示されている体重計のアイコンをダブルクリックすると、体重と今日の体調とともに、日記もつけられるようになっている。毎日のことなので、ソフトウエアを使うたびにフォルダを開いていくのがめんどうな場合には、以前『ちょっと教えて』2)でも紹介したショートカットを作ってディスクトップに置けば良い。

 「超簡単ダイエット手帳」は、生活態度が体重にどのように影響しているのか、日記を付けて管理しましょう、というコンセプトである。しかしクリックさえすればいつでも動き出してしまうので、職場のコンピュータで実際にデータを入力してしまうのは少々危険かもしれない。ディスクトップにショートカットアイコンを置くのは、自分専用のコンピュータにした方が良さそうである。見られた方が緊張感があるという場合を除けば、の話だが。
 さて、「超簡単ダイエット手帳」はシェアウエアである。試しに使ってみて、もしも本格的に使おうと考えたときには代金を作者に送るのがルールである。なお支払金額はわずか1200円である(12000円ではない)。代金の支払方法には、銀行振込のほか、コンピュータネットワークを利用した仕組みも用意されている。たとえば、このアーカイブをダウンロードしてきたページを提供しているベクターバンクという企業は、インターネットを利用した「シェアレジ」という送金システムを実現している。手数料100円也が徴収されるが、クレジットカードを使っていながらにして作者への送金を行える。このサイトでは、通信内容を暗号化するしくみを使っているので、通常の電子メールでのコミュニケーションに比べればセキュリティもbしっかりしていると言えよう。同様のサービスはNIFTY-serveというパソコン通信サービスでも提供されている。シェアウエアというソフトウエアの流通形態が一般化してきたのに合わせて、こうした送金システムも整備されてきている。
 ここでフリーウエアやシェアウエアについて簡単に説明しておく。コンピュータのディスクに記録されている情報は、それが文書であれソフトウエアであれ、全てファイルとして記録されている。インターネットの上では、このファイルのやり取りが可能である。ファイルの中身は、文書でもソフトウエアでもなんでもかまわない。というわけで、インターネットを通じてソフトウエアの供給が可能なのである。インターネットを利用して入手できるソフトウエアには、主にフリーウエアとシェアウエアがある。前者は無料で利用できるが、後者のシェアウエアにはなんらかの対価が必要である。通常は現金の振り込みやクレジットカードによる決済だが、中にはUNESCOに寄付をして欲しいとか、地方の絵葉書を送って欲しいなどというものもある。金額はソフトウエアによっていろいろだが多くの場合は市販のソフトウエアに比べると安価である。ただ一口にシェアウエアと言っても、企業が営利目的で提供しているものもあれば、個人的な趣味の延長にすぎないものも多い。個人が本業から離れて作成したソフトウエア等では、当然トラブルへの対応が難しいこともありえる。低価格と引き換えにトラブルのリスクに対しては自分で対応するのがこの種のソフトウエアを使う上での約束事のようになっている。トラブルに責任を持たないで売りつけるのは無責任ではないか?という指摘もあるかもしれない。しかし、シェアウエアのメリットは、使ってみて気に入れば代金を支払うという特徴的な購入方法にある。店頭で市販されているソフトウエアでは、購入前に自分のコンピュータで試しに動かしてみる、という買い方はなかなか難しいので、シェアウエアの方が売る方にとっても買う方にとっても合理的な販売形態だと筆者は思っている。料金を支払わないで使ってしまえばただ、という不心得者に対して、入金の確認後に作者側から連絡する数字をソフトウエアに登録しないと一部の機能が使えない、といった対策が施されているものもある。しかしそうでなくても、2―3千円のことであれば、きちんと対価を支払って使った方が気持ちが良いというものだろうし、利用者の良心を支えに成立している販売形態を利用する上での礼儀と言うこともできるだろう。なおここではソフトウエアに限定して紹介しているが、実際にはデータそのものもフリーウエアやシェアウエアの対象となる。したがって、自作の小説をインターネットを通じシェアウエアとして販売することも可能だし、実際こうした使い方は既に行われている。


III. マニュアルコーナー『いろはの“い”』
7.ダウンロード(Down load)とコンピュータウイルス

 ダウンロードとは、ネットワークを通じてファイルをコピーしてくる操作のことを意味する用語である。本文ではWindows95用のものを例に取り上げた。今回は残念ながらMacintosh用には適当な題材を見つけられなかった。ただ、基本的な流れは同じなので、Windows95に関する説明を参考にしてトライされてもだいじょうぶだと思う。
 Netscape Communicator等のブラウザを使ってファイルをダウンロードをするのは簡単である。まず目的とする、ファイルがあるページを開く。たとえば本文で紹介した「超簡単ダイエット手帳」では、http://hp.vector.co.jp/authors/VA011036/nsf_dl.htmlを開き、「ダウンロードはここをクリック」を押すだけである。そうすると「名前を付けて保存」の画面が出る。名前はnwver160.exeとなっているはずである。窓の上の方に見える「保存する場所」を確認して保存(S)を押せば、「場所を保存中」というダイアログが開いてダウンロードが始まる。ゲージが右端まで届いたらファイルの転送は終わりである。実は「超簡単ダイエット手帳」を提供している株式会社ベクターは、シェアウエアの提供を目的としてこのサイトを運営している。したがってダウンロードの操作も比較的親切である。通信状態によって所用時間は異なるが、おそらく1―2分で完了するだろう。なんのことはない、ふだんハードディスクのファイルをフロッピーディスクにコピーしているのと同じ操作を、インターネットを介して行っただけのことである。
 ここで「保存する場所」の確認が大切である。どこに保存したのかを記憶しておかなければ、せっかくダウンロードしたファイルを見失ってしまう。もしも見失ったときには、ファイルの検索機能を思い出していただきたい。Windows95のファイル検索機能は、7月号の『いろはの"い"』で紹介した。MacOSでも、ほぼ同様のサービスが提供されている。画面左上に見えるリンゴのアイコンをクリックしたときに出てくるアップルメニューに、Windows95と同じように虫眼鏡をデザインした「ファイル検索」というタイトルが見える。これを選択すれば、Windows95のファイル検索機能で紹介したのと同じように、ファイル名、作成日付、あるいはファイルに含まれる内容など、多くの情報が検索の対象となる。
 さて、ソフトウエアのダウンロードにあたり最も注意しなければならないことはコンピュータウイルスである。コンピュータウイルスは、利用者が知らない間にコンピュータのディスクやメモリに紛れ込み、さまざまな傷害をもたらすソフトウエアの総称である。ウイルスには、ソフトウエアに感染しているもの、Wordの文書ファイルに感染しているものなどがある。いったん感染したファイルを開いてしまうと、場合によっては深刻な被害につながることもある。自分のコンピュータにワクチンソフトと呼ばれるウイルスの監視と除去を行うためのソフトウエアを最新の状態で装備しておくことは、今や常識と言えよう。ただ、出所のはっきりしないソフトウエアはインストールしない、WordやExelのデータファイルを開くときにマクロの警告が出たときには、開く前にマクロの有無をファイルの持ち主に確認するようにする、といったことを心がければ、かなりリスクは小さくなる。この他、フロッピーディスクやMOディスク等の書き換えが可能な媒体を使って市販のソフトウエアを不正コピーしていくのも危険である。違法であることもさることながら、ウイルス感染の機会を増やすという意味でも避けるべき行為であろう。逆に、たとえワクチンソフトを使っていても、この種の危険な行為を繰り返すのは、未知のウイルスに接触する機会を増やすことになるので避けるべきである。このような説明を書いていると、まるで病原ウイルスのようである。実際コンピュータウイルスは、ヒトにこそ感染しないものの、その挙動は実にウイルスに似ているように筆者は思うがいかがだろう。ところで、先にソフトウエアをダウンロードしてきたページは、ウイルスの感染源として比較的危険な場所のように見える。しかしこうしたサイトでは、危険なだけにウイルスチェックにも気を配っている。
 ウイルスにはダウンロードといったこちら側の積極的な働きかけ以外にも感染経路を持っているものがある。たとえば電子メールで送り付けられる、あるいはWebのページを見ただけで被害をもたらす、インターネットウイルスといった新しいタイプも作り出されている。送り主の定かでない電子メールには注意する、特に添付してあるファイルは速やかに削除するようにしたい。


IV.解説コーナー『ちょっと教えて』
7.アーカイブ

 本文でも触れたとおり、例として取り上げた「超簡単ダイエット手帳」は、プログラムや説明書などを記録した複数のファイルを1つにまとめたアーカイブというファイル形式で流通している。
 なぜこのような見慣れないことが行われるのかというと、主に2つの理由がある。まず、ダウンロードに当たって複数のファイルを操作する手間を省くという目的がある。プログラムと一口に言っても、実際にはプログラム本体の他にマニュアルに相当する文書データ等もセットになっている。これらのファイルを1つずつ個別にダウンロードするのはめんどうである。ならば、ひとつにまとめてしまえばダウンロードは1度で済むというわけである。
 次に圧縮の必要性がある。ネットワークを通じたファイルのやり取りには、通常は利用時間に応じた料金が求められる。使用時間は通信速度とファイルの大きさに大きく依存するから、同じ通信速度であればファイルは小さい方が良いのである。また料金の問題を考えないとしても、インターネットという相互協力の上に成り立っているネットワークでは、できるだけ無駄な情報は流さない、すなわちコンパクトにできる情報はコンパクトにした状態でやり取りするのがエチケットともいえる。
 コンピュータで扱うファイルの多くは、不思議なことにサイズを小さくすることができる。しかし小さなままでは本来の機能は果たせない。そこで、送受信のときには圧縮し、使用時に復元すればよいという考え方である。この2つの理由により、ファイルの圧縮という一見めんどうな操作が施されている。圧縮されたファイルはアーカイブ(archive;書庫)等と呼ばれ、このアーカイブを作ったり、あるいは元のファイルを復元したりするのに必要なソフトウエアをアーカイバ(archiver)と呼んでいる。lha(エルエッチエー)、zip(ジップ)、sit(スタッフイット)等が一般に利用されることの多い圧縮方式である。これらのアーカイブを復元するためのアーカイバは、雑誌の付録やインターネットを通じて入手できるので、機会があれば自分のコンピュータにインストールしておくと便利である。ところで今回例に取り上げたnwver160.exeは、たまたま自己解凍型といって、アーカイバが無くても勝手にもとのファイルの復元が行われる便利な方式を採用している。このような形式の場合にはアーカイバを利用する必要はない。図2にアーカイブのアイコンを例示した。そのコンピュータにインストールされているアーカイバによって異なったデザインになることもあるので、あくまでも参考例として見ていただきたい。なおアイコンのデザインについての話題で触れたこともあるように3)、同じファイルでも対応するアーカイバがインストールされていなければこのようなアイコンとしては表示されない。
 最後に、アーカイバと暗号化がまったく異なったものであることを付け加えておく。「復元」と聞いて暗号化をイメージされた読者はおられないだろうか。残念ながら、アーカイバには暗号化の機能はない。先に述べたようにアーカイブとして圧縮されたファイルには本来のファイルの機能は無い。したがって文書を記録したファイルを圧縮してしまうと、そのままでは内容を見ることはできない。しかし、アーカイバさえあれば誰でももとのファイルに復元できるので、これでは暗号化したことにはならないのである。混同しないように注意したい。

謝辞
 当面の連載予定を完了することができ、正直なところほっとしている。普段は何気なく使っているコンピュータだが、いざ連載の題材とするとなると改めていろいろなことを調査する必要が出てくる。連載執筆中は、原稿を書いている時間はわずかで、大半を調査と取材に費やしていたような気がする。そういう意味では、この連載は、筆者自身にとっても普段調べてみたいと思いつつできないでいたことの再確認につながる内容であり、たいへん有意義であった。短い期間ではあったが、締め切りに追われる売れっ子作家の気分を少しだけ味わうこともできた。このような貴重な機会を提供していただいたモダンメディア編集室の皆さんに、この場を借りて心からお礼を申し上げたい。
 一方、読者の方々にとっては、内容に偏りがあったり、あるいは筆者の個人的な好みなどにも左右され、必ずしも読みやすい内容とは言えない面が有ったかもしれない。連載の中の一部でも実際に役立つことがあれば、筆者としても幸いである。また、少ないながらも連載に応援のメッセージをいただいた。頼りないことだが、連載を担当することなど初めてのことなので、読者の応援が何よりも心強かった。更に、この連載のためにいろいろな情報をご提供していただいた関係各位へも改めてお礼申し上げる。
 最後に、個人的なことながら今後の予定を書いておく。実は、今回の連載を筆者のホームページで公開してみたいと思っている。インターネットに関する情報はたいへん流動的なので、こうして紙に固定された情報は古くなるとすぐに使いづらくなってしまう。そこでインターネットを使い、できるだけ新しい情報も盛り込んで、いわば連載のバージョンアップを続けられればと思っている。

文献
1) 藤谷 誠:インターネットを通じて得られる日本語の医療情報.モダンメディア44(4):119-126,1998
2) 藤谷 誠:インターネットを通じて得られる英語の医療情報.モダンメディア44(6):196-201,1998
3) 藤谷 誠:ホームページをのぞいてみよう/国立がんセンターホームページ.モダンメディア44(5):164-170,1998