遺伝子組み換え食品ってなんだろう


 「遺伝子組み換え食品」が、しばしばマスコミに取り上げられています。そんなわけのわからないもんは、食べたくない....というスタンスのように見受けられます。私も、実際、わけのわからんもんには違いないと思います。でも、「わけがわからんから、とりあえず反対!」では、単なる分からず屋にすぎません。このページをご覧の皆さんには、「インターネット?、そんなわけのわからんものは、無くても良い、無くてもワシは何の不自由も無い」という意見が無茶な論理であることは、おわかりですよね。遺伝子組み換え食品が、どんなものなのか、その実体に迫ってみたいと思います。その上で、果たして遺伝子組み換え食品は危険なのか?、危険だとしたら何が危険なのか....といった冷静な議論ができたら良いなと思います。
 最初にお断りしておきますが、少なくとも現在のところ、ワタシ自身は、遺伝子組み換え食品に対して、どのようなスタンスを取るべきか、十分な判断材料を持っていません。このページの作成を通じて、自分なりの見方ができるようになるんじゃないかな....と考えています。
 なお、このページは、現在、少しづつつくりこんでいるところです。お気づきの点がありましたら、どんどんご指摘下さい。

  1. 遺伝子とタンパク質の関係
  2. まず、「遺伝子組み換え食品」という言葉について
  3. 一番身近な「遺伝子組み換え植物」
  4. 「遺伝子組み換え植物」のしくみ
  5. 「遺伝子組み換え植物」の役割
  6. 「遺伝子組み換え植物」の危険性
  7. 「遺伝子組み換え植物」の問題点
  8. 引用文献

金太郎こと、藤谷 誠へのメールはこちら....

makotof@kt.rim.or.jp


last update 2001.1/8


  1. 遺伝子とタンパク質の関係
     遺伝子組み換え食品を考えるときに、遺伝子とタンパク質の関係を避けて通ることはできません。ここで、ごく簡単に、遺伝子とタンパク質の関係をおさらいしておきましょう。
     タンパク質は、私たち生物の体を作り、生命活動を支えている重要な物質です。私たちの皮膚や血液はタンパク質でできています。また、食べたものの消化を支えている酵素もタンパク質でできています。酵素には、消化だけでなく、生物の生存に必要なたくさんの仕組みを支える数多くの働きがあります。そして、その働きの数に応じた、多くの酵素が存在します。我々の体を形作っているのもタンパク質なら、病原性大腸菌O157が作り出す毒素もタンパク質です。タンパク質は、20種類のアミノ酸がたくさんつながった構造をしていて、その並びかたと、できあがったアミノ酸の鎖が作り出す塊の形(立体構造)等によって、その機能が決まります。
     生物のタンパク質は、全て遺伝子にしたがって合成されています。遺伝子は生命の設計図....などと言われる物質の総称です。いったい何を設計しているのかというと、アミノ酸の並びを決めているのです。つまり、タンパク質の機能は、遺伝子によって決められていると言えます。遺伝子の本体は、DNAです。DNAそのものは、細菌からヒトにいたるまで、まったく同じ物質でできあがっています。違っているのは、そこに記録されている遺伝暗号の中身です。
     けっこう単純ですよね。この単純さのために、ウシのタンパク質を大腸菌に作らせたり、細菌のタンパク質を植物に作らせたりすることが可能になるのです。
    もう少し科学的な表現を使えば、ウシのタンパク質を設計している遺伝子を取り出して大腸菌に入れれば、大腸菌でウシのタンパク質が作られます。同様に、細菌のタンパク質を設計している遺伝子を取り出して植物に入れて、植物に細菌のタンパク質を作らせることができます。
  2. まず、「遺伝子組み換え食品」という言葉について
     「遺伝子組み換え食品」という言葉が、何を意味しているのかハッキリさせておきましょう。簡単に言ってしまえば、遺伝子組み換え技術によって作り出された食品素材そのものや、それを原材料の一つに使っている加工食品ということになるでしょう。 そうすると、次に、遺伝子組み換えってなんだ?、という疑問が当然のように生まれてきます。遺伝子組み換え技術というのは、人為的に遺伝子を導入したり、あるいは生き物がもともと持っている遺伝子を人間の手で無くしてしまったり、改変してしまったりすることによって、新しい特徴を持った生き物を生み出す操作を指す言葉、と定義しましょう。
    また、他の生物に由来する遺伝子を導入された生物は、遺伝子組み換え生物などと言います。生物が植物なら遺伝子組み換え植物、動物なら遺伝子組み換え動物ということになります。
     だんだん、マッドサイエンティストがフランケンシュタインを作り出すイメージに近づいてきましたか?。フランケンシュタインは確かに人工的な生命体ですが、現実に行われている遺伝子組み換えは、それほどおおそれたものではありません。単一の遺伝子を入れたり出したりしているレベルにあるのが、現代の遺伝子組み換えの実体と考えて差し支えないでしょう。
     ヒトに限らず、植物や細菌に至るまで、一つの生命体を支えている遺伝子の全体像は、現在のところ、人間には計り知れないほど複雑なもので、天才的な科学者が一生をかけて怪物を作り出してしまえるほど、単純なものではないようです。実際には、私は天才でもないし、科学者でもないので、ホントにそうなのかどうかはわからないけど、たぶん、そうだと思います。怪物を作ってしまえる研究者の方がおられましたら、ごめんなさい。
    では、どのような遺伝子組み換え技術が、実際に私たちの食卓にのぼっているのか、見てみましょう。
  3. 一番身近な「遺伝子組み換え食品」
     世界的に見ると、現在のところ、次のような遺伝子組み換え食品が流通しているようです。

     ワタとカーネーションは食品ではありませんが、とりあえず、いっしょにまとめておきました。
     キモシンというのは、チーズの製造に欠かせない酵素の一種です。もともと、仔ウシの胃袋から製造されていましたが、チーズの生産量を支えきれなくなってしまいました。そこで、遺伝子組み換え技術が利用されました。ウシの酵素を作り出す遺伝子を取り出して、大腸菌や酵母に導入し、同じ酵素を作り出させることに成功しました。外国では、こうして作り出された遺伝子組み換えキモシンが、広く利用されているようです。(1)
     このように、ある酵素を大量に製造するときに、遺伝子組換技術は威力を発揮します。食品として実用化された例はキモシンしか見つけられませんでしたが、医薬品としては、血栓溶解剤TPA等が、同じように遺伝子組み換えによって製造されています。
     実は、酵素は、遺伝子組み換え技術を応用しやすい分野の一つのようです。酵素がタンパク質からできていて、単一の遺伝子の導入によって、比較的、かんたんに作り出すことができるためです。
     キモシン以外の遺伝子組み換え食品は、全て植物です。ウシやニワトリでは、遺伝子組み換え技術は実用化されていないようです。植物では、遺伝子を導入する手法がおよそ確立されています。そのため、続々と遺伝子組み換え植物が作り出されている状況と言ってよいでしょう。そこで、遺伝子組み換え植物を集中的にとりあげてみます。

  4. 「遺伝子組み換え植物」のしくみ
     現在実用化されている遺伝子組み換え植物は、およそ次のように分類することができます。これらの植物は、いずれも、単一の遺伝子を導入したり、あるいはもともと植物が持っている遺伝子の働きを抑制することで実現しています。遺伝子の導入によって植物が獲得する特徴のことを、「形質」と言います。以下に、形質と、関連する遺伝子をまとめました。

    導入された形質

    関連する遺伝子

    実用化されている主な植物

    害虫に強い

    殺虫タンパク質の遺伝子

    ジャガイモ、トウモロコシ、ワタ

    除草剤に強い

    除草剤耐性遺伝子

    ダイズ、イネ、ナタネ、ワタ

    病気に強い

    植物ウイルス関連遺伝子

    カボチャ、パパイヤ

    日持ちや栄養素等の改善

    酵素の遺伝子

    トマト、ナタネ

     この表を見て思うことは、遺伝子組み換えだから危険とか、逆に安全だとか、そういう単純な話ではないな....ということです。導入された遺伝子は、作物によってまちまちですし、その目的も違っているわけです。
     たとえば害虫に強い植物は、Bt菌(Bacillus thuringiensis)という細菌が作り出す、殺虫活性を持つタンパク質の遺伝子が利用されています。このタンパク質は、環境にやさしい殺虫剤として、世界で始めて実用化された生物農薬の成分と同じ物です。これを農薬として撒くのではなく、作物自体に作らせてしまおう....というコンセプトで作り出されたのが、害虫に強い遺伝子組み換え植物です。
     除草剤に強い作物には、除草剤耐性遺伝子が利用されました。除草剤耐性遺伝子....といっても、どんな除草剤にも耐えられるというしろものではなく、グリフォセート(商品名「ラウンドアップ」)という特定の除草剤成分に対して耐性を持つ土壌微生物の遺伝子です。現在、除草剤耐性....と言われている作物は、いずれも、この遺伝子を導入して作り出されたものです。作物が除草剤耐性なので、作物が植えられている畑に除草剤を撒けば、雑草だけを枯らせることができます。
     病気に強い作物では、害虫や除草剤に強い作物とは少し異なったアプローチがられました。これらの作物は、病原ウイルス(植物にもヒトと同じように、ウイルスによってもたらされる病気があります)の遺伝子の一部を植物に組み込んでしまうことで、病気に対する抵抗性を高めています。共抑制(cosupression)という現象に基づいているそうですが、ここでは詳しい説明は省きましょう。ヒトで言うところの、ワクチンのようなものでしょうか。
     作物の日持ちや栄養素の改善を目的とする、遺伝子組み換えも実用化されています。トマトの完熟には、果肉に存在するポリガラクツロナーゼという酵素が働いています。この酵素の遺伝子を阻害する働きを持った遺伝子の導入によって「フレーバーセーバートマト」(Calgene社)が作り出されました。国土の広いアメリカでは、流通過程でトマトの完熟を遅らせる必要があったため、このような作物の需要がありました。
     更に、栄養素の改善を目的として、チオエステラーゼを導入したナタネが実用化されています。ラウリン酸をたくさん含むナタネができるのだそうです。同様の試みは、ダイズでもオレイン酸をたくさん含むダイズとして、実現しています。

  5. 「遺伝子組み換え植物」の役割
     遺伝子組み換え植物の最大の特徴は、短期間に新しい特徴を持った植物を作り出せるということにあります。これまでも、品種改良という技術はありました。これは、交配(掛け合わせ)を中心とした技術です。たとえば、病気にはめっぽう強いが美味しくないイネに、美味しいイネを掛け合わせることで、病気に強くて美味しいイネを作り出す方法です。この方法で、現在までに多くの品種が作り出されてきたことは事実です。しかし交配は、非常に長い期間を必要とするうえに、交配が可能な品種の間でしか行うことができません。たとえばイネなら、イネや遺伝的にイネに近い植物の間でだけ、交配という技術を利用できます。一方、細菌の性質をイネに導入することは、不可能です。細菌とイネでは、掛け合わせはできないからです。
     遺伝子組換植物は、増大する食物需要を賄うために必要であるという説明を良く耳にします。確かに、病虫害に強い作物は、農薬の散布に頼らずに、病虫害の被害を小さくできる点で、食糧の効率的な生産に貢献すると思います。また除草剤耐性作物は、除草に必要な手間を省けるとしたら、作物の価格を下げることになるでしょう。しかし現在のところ実用化されている作物は、いずれも飛躍的に生産量を向上させるといったインパクトには欠けているような気がします。
     1ヶ月で収穫できるおコメとか、砂漠でも平気で成長するダイズ....くらいできあがれば、作物の大増産が期待できそうです。しかし現在までに、このような衝撃的な作物が実用化された例は無いようです。だからといって、遺伝子組み換え植物では、作物の増産を期待できないというつもりはまったくありません。むしろ、作物の生産量を飛躍的に向上させることができるとしたら、それは遺伝子組み換え技術をおいて他には考え難いだろうと思っています。世界の耕地面積は、砂漠化と都市化で減る一方で、増えることはなさそうです。だとすれば、当面は、単位面積当たりの生産量を増やすか、あるいは今までの技術では耕作できなかった土地を活用するくらいしか対策はありません。そのために、遺伝子組み換え植物の研究は、必要だと思います。
  6. 「遺伝子組み換え植物」の危険性
     遺伝子組み換え植物には、主に次のような危険性が指摘されています。

    これらの一つ一つ説明してみましょう。

  7. 「遺伝子組み換え植物」の問題点
     表示義務の問題など
     味噌や豆腐の原料がダイズであることは皆さんご存知のとおりです。日本は、このダイズの98%を輸入に依存しているという数字があります。そしてアメリカで生産されるダイズの半分は、既に遺伝子組換ダイズに置き換わっています。このように書くと、遺伝子組み換えダイズの輸入は不可避です。しかし、わずか2%の国産ダイズは、主に豆腐や納豆のように、ダイズそのものを食べてしまう食品に優先的に使われているようです。ダイズの消費全体に占める、食用ダイズの割合は、__%(調査中です。ごめんなさい)ですので、これを遺伝子組み換えダイズ以外で賄うことは、あながち非現実的とも言えないかもしれません。しかし、ダイズ消費の大半を占める、食用油や飼料等の原料用ダイズでは、もはや遺伝子組み換えは嫌!....というのは、難しいかもしれません。

  • 引用文献