JCO東海事業所(茨城県東海村)の臨界事故と日本の原子力開発


 1999.9/30に茨城県東海村にある核燃料加工会社「JCO東海事業所」で臨界事故が発生しました。事故の報道を見ながら、あるいは友達と世間話をしながら、どうなってるんだろうね....と思ったことがいくつかあります。調べればわかることなのかもしれませんが、情報が豊富なうちにとりあえず、ホームページに載せておくことにしました。このページをご覧になった方の中から、「それはこうなってるんだよ」とか、「それは違う!」といった情報をご提供下さる方が出てくればめっけものです。

  1. 疑問その1「どうして"安全"なのか」
  2. 疑問その2「誰が片づけるのか」
  3. 疑問その3「原子力エネルギーは経済的か?」
  4. 疑問その4「中畑さんと河合さんのCM」
  5. 疑問その5「誰が原子力発電所を欲しいのか」
  6. 疑問その5「電気は足らないのか?」
金太郎こと、藤谷 誠へのメールはこちら....
makotof@kt.rim.or.jp

last update 1999.10/3

  1. 疑問その1「どうして"安全"なのか」
     放射能漏れを伴う事故が起きるたびに思うのですが、なぜ「原子力は安全」と言う人がいるのでしょうか?。自動車が走れば交通事故は起きますし、原子力発電を続けていれば、大なり小なり放射能は漏れるでしょう。それを"安全"と言いくるめていては、原子力発電を推進したい側にとっても、不安に思っている人たちにとっても、利益にならないと思うのです。事故は「ありえない」というスタンスは、その事故の対策は不要という考え方につながる危険極まりない考え方なのではないでしょうか。間違いは起きる、しかし大きな損害は出さないようにする、そういうスタンスが私の好みです。間違いはありえない、というのはどうも胡散臭い、信用ならない発言に思えてしまうのです。もともと私がそそっかしい人間だからかもしれませんが。
     ここに、JCOと同じ核燃料加工施設のコメントを紹介します。事故直後の10/2の毎日新聞で見つけました。三菱原子燃料(東海村)は「人間がやるのではなく定量を越えたら機械が自動制御するので同様の事故はありえない」とコメントしてます。また、日本ニュクレア・フュエル(神奈川県横須賀市)は、二酸化ウランを臨界にならないように缶に小分けし、その缶を間隔を空けて置くようにしているので「臨界にはなり得ない」とコメントしたそうです。ここにも「ありえない」さんがいます。私は、臨界に達してしまったときに、どうするのかを聞いてみたいのです。事故は、思いがけなく起きるから事故なのに、その事故をありえないと言われてしまっては、議論が成立しません。
     私は、個人的には商用の原子力発電所は危険すぎると思っています。しかしその危険を侵してまで電力が必要だというのであれば、そして、他に代替えエネルギーが無いのであれば、国民の総意として原子力発電所の建設を進めることも一つの選択でしょう。ところが、今の日本には、どのくらい原子力発電が危険なのかを考える材料が少なすぎます。その理由の一つが、「ありえない」さんだと思っています。

  2. 疑問その2「誰が片づけるのか」
     今回の臨界事故で驚いたのは、臨界状態にある沈殿槽の水抜きをJCOの社員が被曝覚悟で敢行したことです。2人一組で、2−3分間づつ現場に入って水抜きの作業に従事したと報道されています(10/1毎日新聞夕刊)。新聞の見出しは「未明、決死の"水抜き"」。最終的に水抜きは成功し、そのおかげかどうか、とにかく中性子の測定値は下がりはじめました。作業に当たった方々の献身的な働きには、頭が下がる思いです。
     さて、今回の臨界事故は確かにJCOの構内で発生したものですが、だからといってJCOの社員が被曝覚悟の作業に従事しなければならないものでしょうか。原子力の利用に、誰かが決死の作業に当たらなければならないような事故が伴うものだとすれば、それが果たして安全な技術と言えるのか、もう一度見直す態度が必要なのではないかと思うのです。
     とりあえず、「ありえない」さんに、事故の処理にあたってもらうのが一番いいのかなと思いますが、いかがでしょう?。

  3. 疑問その3「原子力エネルギーは経済的か?」
     ひとたび事故が起きると、こんなに大騒ぎになる原子力発電が、はたしてほんとうに経済的なエネルギーなのでしょうか?。つつがなく運転を継続した場合のコストだけでなく、運転中に発生する廃棄物や、施設そのものをつぶしてしまったときに出る放射性廃棄物の管理コスト、必ず起きる事故にともなう補償に必要な経費、などなどを全て考慮したうえで、他のエネルギーとどちらが安上がりなのかを比較したいと思っています。
     ときどき試験的に行われている風力発電や太陽光エネルギーの利用は、現在の家庭用電力に比べると、いつも割高になってしまいます。しかし、試験的な施設の経費を、既に実用化されている技術と比較するのはナンセンスです。また、風力、波力、地熱といった、いわゆる天然資源の利用では、原子力エネルギーにおける放射能のような甚大な被害の原因を考え難いことも考慮されていません。また、今や原子力発電所や関連施設(たとえばJCOのような)の立地が困難なのに対して、風力発電施設であれば、おそらく容易に候補地を探せるのではないか、といった違いも反映できません。いや、考慮はされているのかもしれませんが、それをお金に換算していませんから、経済的な面での比較ができないのです。どなたか、あれこれ考えた上で、それでも原子力の方が安い、というデータをお持ちでしょうか?。
     そんなことを考えながら、検索してみましたら、資源エネルギー庁のホームページに
    「総合エネルギー調査会原子力部会メッセージ−原子力を選択することに関する基本的考え方−」(1998.6/11)というのを見つけました。ここでコストの比較をしたときの原子力発電のコストには、核燃料サイクル、廃炉関係、それに廃棄物処理コスト等もオンしてあるということでした。それでも、原子力発電は一番安いという結果です。
     しかし、町内に原子力発電所や核燃料関連施設はいらない....という住民感情は、計算されていません。一方、風力発電には、騒音の問題があって立地が制限されるとあります。風力や太陽光が天候の影響を受けるというのは理解できますが、原子力発電所の立地が問題にならなくて、風力発電の立地を問題視するのも納得できないものがあります。
     また、各発電エネルギーの比較にCO2の発生を伴うかどうかという観点で評価が加えられています。地球温暖化対策として、必須の検討事項であることは理解できます。しかし、もっと深刻な汚染物質である放射能の発生については、評価が抜けています。この報告書では、原子力発電施設の放射能漏れをともなう重大な事故の発生確率を非常に低く見積もっています。火山災害や地震災害よりもリスクが小さいのだそうです。しかし、JCOの臨界事故のみならず、日本の原子力関連施設ではしばしば放射能漏れをともなう事故が実際に起きています。高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム火災(1995.12/8)や再処理工場のアスファルト固化処施設の爆発事故(1997.3/11)は、考慮に値する重大な事故だったはずです。もっとも、事故を境に「もんじゅ」は運転停止状態となってしまいましたが(10/1毎日新聞)。原子力開発を考えるときには、「事故は起きる」という共通認識に立って議論して欲しいものです。

  4. 疑問その4「中畑さんと河合さんのCM」
     電力会社のテレビCMを見ていると、日本だけでなく諸外国でも原子力発電が積極的に利用されているといった印象を受けます。これは事実なのでしょうか?。1999.5/8の毎日新聞に、おもしろい数字が出ていました。電力の80%を原子力発電に頼っているフランスは、省エネや自然エネルギー開発予算を20億円から100億円に増額し「原発の比率を減らし、エネルギーの多様化を目指す」のだそうです。ドイツは電力の30%を原子力で賄っていますが、既に原子力発電所3基分に相当する風力発電施設を持っています。電力にして287万kw。これは日本の風力発電実績の90倍だそうです。
     更に電気事業連合会のホームページに、
    各国の原子力発電所の運転状況がまとめられていました。このグラフを見ると、アメリカ、ドイツ、イギリス、カナダ、スウェーデンでは原子力発電所の新規建設計画が無いことになっています。積極的に建設を進めているのは、ロシア11、韓国8、日本6、ウクライナ5、そしてフランス4となっています。このグラフに登場する原子力発電所保有国の中で、原子力発電所の建設を進めているのは半分にすぎないということになります。先ごろ日本にプルサーマル燃料(MOX)が搬入されましたが、あのプルサーマル燃料を作ったベルギーも、自国のプルサーマル燃料の使用は停止しているのだそうです(1999.10/2毎日新聞)。原子力開発の積極的な展開は、限られた国でのことなのではないかと心配しています。

  5. 疑問その5「電気は足らないのか?」
     電気需要がある限り、経済的に電力を供給しなければならない、電力会社の使命は理解できます。しかし、ときたま放射能漏れをおこす危険な原子力発電所を国中に作ってまで供給しなければならないものなのでしょうか?。先に紹介した「−原子力を選択することに関する基本的考え方−」の中では、「21世紀においても引き続き豊かな国民生活を維持していくこと」が目標の一つに掲げています。しかし、炎天下に放置された数多くの自動販売機で冷たく冷えたビールを買えることや、店内のみならずアーケードの中まで冷房されたショッピングモールを歩くために、原子力発電所の建設を選択するのか?、という、ほんとうに足元の議論をしないまま電力開発に走っているように思えて仕方が無いのです。
     補足:私自身はビールが好きで、ちょくちょく自動販売機を使います。

  6. 疑問その5「誰が原子力発電所を欲しいのか」
     私の印象では、「原子力発電所が必要なのなら、どこかにつくらなくてはいけないんじゃないの?、でも私の町には持ってこないでね」。というのが、多くの日本人の素直なスタンスなのではないかと思っています。それでも、原子力発電所を作りたい人がいる、私は、そこに金もうけの臭いを感じてしまいます。
     ヨーロッパでも北米でも、原子力発電所の開発は頭打ち状態のようです。原子力開発で利益を得ていた人たちが、次のターゲットに日本市場を狙うのは考えられそうなことです。日本国内でも、原子力開発を動かしているのは大手の電気メーカーであり、鉱業メーカーです。10/2の毎日新聞に、原子力産業をめぐる企業関係がまとめられていました。日本の原子力開発では、三菱系が加圧水型軽水炉向けの業務を、沸騰水型は日立・東芝系が握っているのだそうです。今回、臨界事故を起こしてしまったJCOは住友系でした。住友系は、原子炉が採用されなかったため、燃料系の仕事が中心になってしまっているといったことが書いてあります。それはさておき、このような大手資本が出資した実に400社に上る企業が日本の原子力開発に関与しているのです。原子力発電を推進しなければならない理由は、逼迫する電力需要を満たすためや、CO2排出量を抑制するためだけではないような気がします。どなたか、ホントのところを教えて下さい。